おかげさまでUAも146079、お気に入り件数も805件、感想数も504件(2022/12/4 15:30現在)となりました。本当に感謝です。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき、誠にありがとうございます。こうして何度となく評価してくださるおかげで筆を執る力をいただいております。そのことに感謝しかありません。
では今回の話を見るにあたっての注意事項として少し長め(13000字足らず)なのでそれに気を付けて読んでください。では本編をどうぞ。
「ったく、ヤベぇことになってんなホントよぉ!!」
悪態を吐きながらも信治は襲い掛かってくる兵士に触ると同時に“纏雷”を使い、感電させては気絶させていく。それは一緒に王宮へと来ていた礼一も同様であった。
「マジ面倒臭ぇな! こっちの身にもなりやがれ!」
「ひ弱な俺らのことも考えろってんだよ、この――“風灘”ぁ!!」
良樹だけは威力を調整した風属性の魔法で壁に叩きつけることで昏倒させ、それでも駄目なら“纏雷”による電気ショックで気絶させると器用に戦っている。先程百倍以上の数を相手にやった経験もあってか、三人とも流れるような動きでやれている辺り流石としか言いようがなかった。
「ここで別れ道か……んじゃ俺らも別れて動こうぜ! 俺は向こう、良樹はそっち、礼一は真ん中ヨロシクぅ!」
「ったく、勝手に仕切ってんじゃねぇよ!」
「今回は許すけど次は俺の番だからな!」
そして奥へと向かう際の別れ道でお互い軽口を叩き合いながらそれぞれ別のルートを走っていく。
「反逆者!? なら今はこちらを――」
「遅ぇよバーカ」
信治は左手の通路を進みながら襲い掛かってくる、もしくはしようとしていた兵士達とメイドをも手馴れた様子で撃退していく。
「一体何の騒ぎだ!?」
「わかりません!……もしかして、反逆者が来たんじゃ!?」
(ったく、マジで俺ら嫌われてんなー。メイドにまで襲われるなんてよー)
後で大介らが来ることも考え、彼らは憂さ晴らしも兼ねて様子のおかしい兵士やメイドを鎮圧していた。が、別れてから二度目の接触をしてからは流石に面倒だと思い、信治は“気配遮断”を使いながらなるべく物音を立てずに進んでいく。
そうしてブツブツと何かを話している様子の兵士やメイドを横に進むもふとあることが気にかかった。
(そういやどうして兵士だけじゃなくてメイドまで襲ってくるんだよ? しかも他に反逆者がどうの、って言ってたし……礼一達がヘマしたとは思えねぇしなんなんだ一体)
それは兵士だけでなく普通のメイドまでもが『何かを差し置いて』自分達を襲おうとしていた様子のことだ。王宮に侵入して最初に接敵した時からその何かに対して殺気をたぎらせていたのを感じていたし、どこかへと走って向かっていく様子から不自然に思えたのだ。
(城の兵士なんだし見回りの一つかもしれねぇけど、別にメイドまでやる必要ねぇだろ? しかも全員どっか同じ方に向かってるみたいだったし……あれ、マジでなんかヤバくね?)
得体のしれない違和感。それを感じ取った信治はすぐに“空力”を使い、天井にギリギリ接触しない辺りに足場を作って駆け抜けていく。聞きなれない物音に兵士達が反応してざわめいているが、そんなものを気に留めている余裕はない。ただ兵士達が向かっている方へと走りつつ、一体奴らは何を目的にしていたのかを聞き取っていく。
「何故だ貴様! 何故反逆者をかばうのだ!!」
そんな時、ふとこの声が気にかかった。どうやら仲間割れをしている様子らしいが、今の今までそんなことはなかった。一体どういうことかと首を突っ込もうと信治はその声のした方へと向かっていく。
「何度でも言います。リリアーナ様は反逆者ではありません! 国王陛下と教皇聖下の御心は私にはわかりかねますが、あの方は間違いなく違います! 何も出来ぬまま変わりゆく状況にいつも心を痛めておられました。その上でどうにかしなければともがいていたことも! 国王陛下が襲われた時もあまりに不自然だったと――」
そこには一人のメイドを兵士や他のメイド達が並んで囲っているという状況であった。そして何人もの人間相手に啖呵を切っている様子を見て信治は思わずカッコいいと思ってしまう。
「ごちゃごちゃと御託を並べるんじゃない!!……神の使徒様が仰ったことは絶対だ。我等がしなければならないことは神の意に背いた愚か者の始末なのだ! それに従わないというのなら今この場で処分してくれる!」
耳を傾ければおおよその想像がついた。つまりコイツらは自分達を襲ってきたあの女の同類に洗脳されて操られているのだということだと。すぐに信治の腹は決まった。
「死になさい愚か者め!」
「愚かなのはあなた達です! 私は……私は絶対に退きません!!」
目の前の殺気マンマンな兵士達に囲まれているあのメイドを助けて事情を聴いて、事態の解決に挑む……それとついでにこの騒動が終わったらお礼代わりにデートでもしてもらおうと。
「ならばここで――死ねぇえぇえぇぇ!!」
「へぇー、誰が死ぬんだ?――“城炎”」
割と邪な考えを交えながらも信治はメイドと有象無象の間に炎の壁を作る。
「なっ!? こ、この炎は――」
「あ、あなたは……」
「よぉアンタ、カッコ良かったぜ。力もロクになさそうなのに誰かのために必死になるなんてよ」
そして顔を青ざめさせながらも必死に誰かを守ろうとしていたメイドの前へ、背を向けながら降り立った信治は体を張ったハジメや大介達の姿を思い出しながら彼女にそう伝える。
「だからよ、ちょっと俺も混ぜろよ。アンタの助けたがってる奴、俺がどうにかしてやらぁ」
自信たっぷりに、少しキザったらしく横顔を見せながら。どこか間の抜けた彼女の顔を見て『手ごたえは……アリかこりゃ?』と内心軽く気落ちしながらも少年は気高いメイドの方へと歩いていく。
「本当、ですか……」
「あぁ。俺約束はちゃーんと守るヤツだぜ。だから――よいしょっと」
「きゃっ!?」
「説明その他、イロイロ頼むぜお姫様!」
まだ呆然としている彼女をお姫様抱っこをし、炎を消すと同時に信治は空へと駆ける。
「ひ、姫様はリリアーナ様の方です! わ、私はあくまでリリアーナ様のメイドで……」
「あーもう例えだ例え! それよりも早く、何があったか言ってくれ!」
顔を赤らめながらわたわたするメイドに信治はすぐに抱えるメイドに説明を求める。このままどこかへ向かう兵士達を追えればいいのだが、何分さっきの騒ぎで兵士どもがこちらへと殺到してきているのだ。攻撃をよけながら宙を駆け抜け、狭い通路じゃやりづらいと考えた信治は横に逸れると壁を砕いて中庭へと躍り出る。
「きゃぁあぁあぁ!? ら、乱暴すぎませんか!? こ、これでは落ち着いて話なんて――」
「いいからやってくれ! アンタの姫様……あー、いたいた。先生達の話聞いてきたあの人か! ソイツは今どこだ!!」
「も、もしや神の使徒様!?――わかりました。姫様は今、軍議の間にいます!」
自分に向かって繰り出される幾つもの魔法を避けながら空中でステップを踏み、自在に空中を踊りながらも信治は抱えているメイドに説明を求める。すると彼女の方も自分達のことを知っていたらしく、主人であるリリアーナが今どこにいるかを語ってくれた。
「反逆者と呼ばれるようになった皆様を討伐するために陛下が会議を開き、リリアーナ様もそれに出席されたのですがまだ戻っておられません!」
(あーヤバいヤバい!! 女の人の体めっちゃ柔らかいしいい匂いするぅ!! 俺の中のケダモノが暴れそうだよぉー!!)
「ですからまだリリアーナ様がそちらにおられる可能性は……あの、使徒様?」
「はいっ信治は大丈夫でしゅぅ!!」
……なお聞いてた当人はさっきから刺激されてた煩悩のせいで割と聞き流していたも同然だったが。攻撃も割と体が反応してくれてどうにかしてる感じであったので台無しどころの騒ぎじゃなかった。
「と、とにかく三階! 三階です! ここからだと多分あちらに!」
「そ、そこだな! オーケー!! 今から突っ込むぞ。舌噛むなよぉ! “緋槍”!」
「つ、突っ込むって――ひゃぁぁあぁぁあ!?」
信治は空を更に駆け上がると共に“緋槍”を発動し、天井スレスレを狙ってそこにぶつける。流石にそこなら誰も死ぬまいと撃ちこんだ灼熱の槍はしっかり侵入経路となる穴を作り、未だ火が残って焼けているそこへと信治はメイドと共に大胆に突っ込んでいくのであった――。
(お願い! お願いします! どうか、どうか私達を助けて! 誰か!)
振り下ろされる刃。迫りくる死。その中でもリリアーナはただ救いを求めていた。神に見捨てられ、両親も血の海に沈み、残るのは弟のランデルと自分を含むわずかな人間のみ。それでもこんな理不尽な結末は嫌だと心の中で泣き叫ぶ。
「あぐぅっ!!」
「姉上ぇ!!」
遂に刃が自分の胸を貫く。燃えるような痛みが走り、口の中に金臭い味が広がっていく。死ぬ。終わる。そのことをただリリアーナも実感してしまう。
「にげ、て……ラン、デル」
ただそれでもリリアーナは気丈にもランデルの身を案じる。王女として積んだ人生が、まだ無事な家族への想いが自然と言葉として漏れる。
「姉上ぇ!! そんな、そんな……」
「ゴホッ……ぐぅっ……だめ、あなただけでも……」
「逃がすか、お前達など逃がしはしない!!」
そしてまた血まみれの刃が掲げられる。むせこんで血を吐きながらも今度は一体どこに落ちるのだろうとリリアーナはぼんやりと思う。
(死ぬ、のでしょうね)
左の胸に振り下ろされた。肺から空気が漏れるような心地がした。
(皆さんに謝ることも出来ず、こんなに、苦しんで)
似たようなところに刺された。一層激しい痛みが体を駆け巡る。
(お父様、お母様、私もいま、そこにいきます)
ぐりぐりと傷口を広げられ、ナイフが引き抜かれると共に自分の中から真っ赤な血がまた飛沫を上げる。
(ごめん、なさい。ヘリーナ、クゼリー)
そしてまた血で染まったナイフが振り下ろされる。
「ヘリー、ナ……にげ、て」
どうしてこれが出たかはわからない。けれどもただ自分の従者を案じる言葉を出してリリアーナは目をつむって最後の一撃を受け入れる――。
「っしゃぁ入れたぁ!!――って、なんかヤベぇなオイ!?」
「――リリアーナ様っ!!!」
――だが、その覚悟は何かが焼け落ちる音、聞き覚えのある声、そして何かを砕く音で邪魔されてしまう。
「……ヘリー、ナ?」
目を開ければ議場の真ん中に設えられた机をへし折り、その上に男の人が自分の従者を横抱きにして立っている。彼女は自分を見るなり顔を真っ青にして男の方を見ていた。
「り、リリアーナ様が……リリアーナ様が!!」
「ま、まま、待ってくれって!! えっと、えっと――持ってけ! コイツ飲ませたら大抵の傷は治るはずだ! それと“城炎”!!」
「! 感謝いたします!――リリアーナ様!!」
いきなり自分の近くに炎が上がり、熱波に煽られてむせ込みそうになる。だが襲おうとしていたメイドはその炎で怯んで自分から離れた。そこに聞き覚えがあれど普段ならしない声色の彼女が飛び込んでくる。
「ヘリーナ……あ、あね、姉上を助けてくれ!! どうか、どうか!!」
「だ、め……よごれ……」
「これを! どうかリリアーナ様!! 生きて下さい!!」
倒れていた自分を抱え上げたせいで彼女の着ていたメイド服が汚れてしまう。そんなことをしてはいけないとたしなめようとするも口は満足に動いてはくれない。けれども自分の最期を彼女が看取ってくれるというのなら最高の死に様だろうと一人で結論付けようとするが、口から注ぎ込まれる液体をむせこみながらも飲み込んだ途端にその思いは一瞬で霧散した。
「……え? いたく、ない?」
「これは……こんな……感謝します、使徒様!!」
スーっと痛みが引いたことで軽くパニックになるものの、とりあえずヘリーナが声をかけた方向を向けば一人の少年――記憶が確かなら中野信治という名の彼が何人もの兵士とメイドを相手に戦っている。
「反逆者がぁぁぁあぁ!!!」
「邪魔を、するなぁあああぁあぁぁあ!!!」
「っだぁー!! ったく、いい加減にしやがれ!! “縛岩”!! あと電気ショックぅ!!」
しかも泣き言を言いながらも彼らを床から生えた岩の鎖で雁字搦めにし、それを避けた者には手を当てることで昏倒させている。夢にしてもあまりに滅茶苦茶で、どこまでも都合が良すぎる光景を見てリリアーナは言葉を失い、すぐそばで見とれていた様子のヘリーナに声をかける。
「ヘリーナ……これは夢、でしょうか?」
「いえ、違います……助けに来てくれたんです。彼らが、神の使徒様が来てくださったんです」
自分達を守る壁となった炎に照らされ、少年は果敢に立ち向かっている。自分達が手ひどい裏切りを働いたというのに、それでも駆けつけてくれたことにリリアーナは己を恥じながらも感謝と涙が止まらなかった。
「かかってきやがれ三下がよぉ!! お前ら如きにやられる信治様じゃねぇんだよ!!」
「あ、あり……ありがとう、中野さん」
白馬の王子様というにはあまりに粗野で、救世主というには人格に難がある。けれども自分を救ってくれた少年の名前を呼び、しばしリリアーナは涙を流す。
「姉上……あねうえぇ!!」
「リリアーナ様、リリアーナ様ぁ……」
そばには自分の従者が、弟が寄り添ってくれている。これ以上何を望むのか。涙を流した後、やるべきことを見つけた少女は顔を上げてヘリーナとランデルに指示を飛ばす。
「……ヘリーナ、その薬の予備はありますか? それをお母様とお父様に飲ませなさい。ランデルも、ヘリーナの手伝いを」
「あ、姉上……?」
「何を、なさるのですかリリアーナ様」
「決まっています――助けるんです。中野さんを」
そしてヘリーナを優しくどけて立ち上がると、すぐさまリリアーナは魔法を発動させようと画策する。結局自分は死ぬまで王女なんだなと思いつつも、今はそれでいいと一人納得する。孤軍奮闘する彼の姿を見て少女は前に目を向けた。
「クソッ! やっぱ守りながらの戦いってのは――」
「中野さん!!」
「うぇっ!?――っと危なっ!……って姫さん!?」
どうにか攻撃を回避し続けて無力化を続けている彼にリリアーナは声をかける。一瞬攻撃が首元を掠って危なかったものの、自分達を絶望から救ってくれた少年はそれをどうにか避けきってこちらに意識を向けてくれた。
「守りは私に任せて下さい! しばし時間を稼いでいただければ、私が生き残った方々を命をかけて守り抜きます!!」
その彼にリリアーナはあと少しだけ時間を稼いでほしいと伝える。
幸いにもまだ魔力は残っていた。だから後は持てる力を全て使って彼を支えるだけ。そう判断しながらリリアーナは彼の返事を得る前に魔法の発動に移る。自分達を守りながらではきっと戦い辛いかもしれない。ならば守りはせめて自分が請け負うべきだとそう判断を下しながら。
「――よっしゃぁ!! 頼むぞ!!」
「はいっ!」
どこか浮かれた調子で返してきたことがクスリと笑えてしまうが、それでもいい。この人の役に立ちたい。ただその思いでリリアーナは詠唱に入る。
「あまねく敵意の壁となりて ここに守護の光を求める」
「ならば貴様の目の前でこの男を血祭りにしてやろう、反逆者ぁー!!」
「甘ぇぞテメェらぁ!!」
まず二節を詠唱する。その間も彼は迫ってくる兵士達を拘束したり投げ飛ばしたりなど大立ち回りで捌いていき、その間もリリアーナはただ詠唱に集中する。
「あらゆる悪意を凌げ――」
「くっ……こうなったら!」
更に一節。だが今度は兵士の何人かが自分を直接狙ってきた。詠唱よりも先にたどり着くかもしれないとリリアーナは薄っすらと思った。
「やべっ!――そっちにゃ行かせねぇぞ!!」
だが信じていた。きっと彼が守ってくれると。自分達を守る炎の壁を厚くし、それによって直接こちらに切りかかってくるのを防いでくれた。
「武器を投げろ! どんなに炎が熱かろうと――」
「――“天絶”!!」
武器を手放してでもこちらを殺そうとしてきたがもう遅い。自分を含めた生き残りを守る壁をしっかりと張り、一人で戦ってくれている少年にもう心配しなくていいと彼に声をかける。
「中野さん! 生き残った人達は私が守ります!」
「サンキュー助かった!――ありがとよ、姫さん」
「――はいっ!!」
炎の壁が消えると同時にかけられた彼の感謝の言葉が、最後にほんの少しだけはにかんだような彼の表情が力を与えてくれる。それだけでもっと頑張れるとリリアーナは気合を入れ直す。
「来なさい……ここから先は、絶対通しません!!」
「そういうこった……諦めてとっとと家にでも帰ってな、三下ぁ!!」
互いに啖呵を切ると共に戦況は変わっていく。
「どうしたどうしたぁ!! そんなんで信治様に勝てると思ってんのかよ!!」
自分達生き残りの安否を気に掛けなくなって済んだ分、信治の動きのキレが増した。炎の壁を一瞬だけ発生させて後続の流れを断ち切ったり、その間に相手を無力化させていくことで数を減らしていく。
「クソっ、このアバズレがぁ!!」
「絶対に、絶対に破らせはしません!!」
自分の張った障壁に攻撃してくる人間はいるものの、いずれも非力なメイドばかりだ。破るよりも前にきっと倒してくれるとリリアーナは信じている。もう恐怖も感じない。そのことで心が揺らぐことも無い。
「駄目です姉上! 父上も、母上も目を覚ましません!」
「陛下、陛下! 王妃様! どうか、どうか気を確かに! こんなところで死んでしまっては!」
だが後ろから聞こえてくるランデルとヘリーナの悲鳴だけが気がかりだった。貰った薬は効いたようだが、それでも両親は未だ目を覚ます様子が無い。けどそれでも、とリリアーナは歯を食いしばって障壁の維持に努めつつ、二人に指示を出す。
「何度も、何度も声をかけて!!
結局出てきたのは指示でも何でもないただの願望。けれどもここで足掻かなければ、神にも見捨てられた自分達が手を伸ばさなければそんな奇跡は絶対に起こらない。それを確信していたリリアーナはただ思いの丈を二人にぶつける。
「わ、わかりました姉上!……父上、母上!」
「……御意に。リリアーナ様! 陛下、王妃様! どうか、どうか!」
ランデルもヘリーナもそれを信じ、再度眠り続けている両親に声をかけてくれる。ヘリーナがどこか微笑ましいものを見たかのように声をかけたことが少し気にかかったものの、リリアーナは己のやるべきことを成す――だからこそ奇跡はまた起きた。
「これは――何をしてるか貴様らぁぁあぁ!!」
「ここも……急いでとっちめるわよ、ナナ!!」
「うん、わかったよ優花っち! 中野君! 足止めは私がやるから!」
「来てくれたんだな!! 助かる!」
新たにこの場に三人の味方――メルドが、園部優花が、宮崎奈々が現れた。メルドが敵を切り捨て、信治がその場を跳躍すると同時に奈々が氷魔法で兵士やメイド達の下半身を氷で覆い、そして優花が氷に直接鎖を当て、流し込んだ電気で全員を身悶えさせていく。三人の獅子奮迅の活躍により戦いは一気に収束を迎え、すぐにこちら側へと彼らは駆け寄って来た。
「陛下、陛下ぁ!! 王妃様、ルルアリア様! どうか、どうか気を確かに!!……何故、何故肝心な時に俺は、俺はぁー!!」
メルドも父と母に声をかけるも反応は無く、彼の慟哭がぐちゃぐちゃになった議場に響く。
「他に薬は無いのか!? 早く、早く大臣に――」
「もうストックは無いわ!」
「ごめんなさい! 自分達の分を持ってきてただけでもう手持ちが無いんです! 本当に、ごめんなさい……」
優花と奈々に比較的軽傷の生き残りが救いを求めるも、二人も悲痛な表情でただそう返すだけであった。その顔にはとてつもない後悔がありありとにじみ出ており、誰もがそのことに絶望していく。
「悪ーい! あのクソ女ぶっ殺してたら遅くなったー!!」
だが運命は未だ彼らに見放さなかった。檜山大介、謎の金髪の少女、菅原妙子、遠藤浩介の四人がいきなり現れ、こちらへと駆け寄って来たのだ。
「これは……よし、大介、アレーティアさん、妙子! 急いで応急処置するぞ!」
「わ、わかったよぉ~!!」
浩介の言葉に妙子はすぐにうなずき、顔を青ざめさせながらも死屍累々の現場を走っていく。
「……いえ。浩介さん、私達は私達でやることがあります」
「ぶっつけ本番だけどな。いっちょやってみるか」
だが大介と謎の少女だけは首を横に振り、自分達の下へとやってくる。一体何を、と声をかける前に二人はその答えを返す。
「大介はそっちの女の人の魂を固定して。私はこの男の人を蘇らせる」
「オッケー。んじゃ、時間稼ぎぐらいやってみせるか」
「え、マジ――」
「ま、待ってください!」
さも当然のようにあまりに都合のいい言葉を吐いた二人にリリアーナは我を忘れて思わず声をかけると、『蘇らせる』と言った少女がビクン! と思いっきり反応してこちらに視線を向けてきた。
「え、えっと……駄目、ですか? わ、私、また間違えて……」
「い、いえ! ほ、本当に出来るのならやってほしいのですが……やれるの、ですか?」
「……信じて。“固定”」
まさかしてはいけなかったのだろうかと怯えと恐れの混じった表情をこちらに向ける少女にどこかちぐはぐなものを感じたものの、リリアーナが問いかければ彼女は先程見せた凛々しい表情で言葉と共にその御業を見せてくれた。
「“定着”……“焦天”」
「…………ぁ」
聞き覚えの無い名前の魔法を二つ詠唱し、最後に中級の回復魔法を発動し続けると父の口からうめき声が出てくる。そのことに自分を含むこの場にいたほとんどの人間が驚く他無かった。
「おとう、さま……?」
「ちちうえ……?」
「へ、陛下……陛下!!」
「さわぐで、ない……しずかに、せぬか」
うっすらと目を開けてこちらを見てくる父エリヒド王を見て一層驚愕し、そして何が起きたかを理解したことで生き残った者達は皆涙を流した。
「うわー……神代魔法超すげー……」
「うん……私も手に入れたけど、やってるのを見るとすごいねぇ~」
「アレーティア! こっちもどうにか繋ぎ止めるのは出来た! 悪いけど俺じゃ無理だ! すまん!」
「ん……ありがとう、大介。十分大介はすごい、後は私がやるから」
「いやお前ら何ナチュラルにスゲーことやってくれてんの? 俺の活躍霞むんだけど!」
「うるせぇ馬鹿!! 今話しかけんな!」
「あ、ご、ごめんなさい……ってあぁっ! こ、固定がはがれそうに!!」
死者の蘇生という奇跡以外の何物でもないことを大怪我を治すようにしてやってのけ、軽い雑談をするかのような空気で再度それを成し遂げようとしている彼らにリリアーナは再度声をかけた。
「あ、あの! お、お母様も助けてくださるのですか!?」
その言葉に大介と謎の少女は力強くうなずき、またなんてことないように再現して見せてくれた彼らにリリアーナ達はもう涙を流すしか出来なかった。
「ここ、は……?」
「目を覚まされましたか? 安静にしてて下さい。無くなった血は戻ってませんから」
救世主はここにいた。彼等こそ救いの神であった。生き残った重臣にギルドマスター、メルド・ロギンスもまた二人の少年と少女に向けて手を合わせ、祈りを捧げる。
「……なぁ、アレーティア。なんか俺ら、崇められてる気がすんだけど」
「お前達が……いや、
「え?……えぇっ!? あ、あの、そういうの私、嫌なので……や、やめて……メルドさんも……」
無上の感謝と共に。消えることなき畏敬の念と共に。
「……俺は? 俺の活躍は?」
「ハッ!……あ、あの、中野さん。わ、私はちゃんと見てましたから!」
「えぇ。リリアーナ様と私はあなたの勇姿を瞳に刻み込みましたよ、中野様」
「ヘリーナ! もうっ、もうっ!!」
神に見捨てられた国の統治者とその臣下は新たな救いを、信仰を見つける。それは彼らの中で最早揺らぐことが無いほどに。
「……本当に何があったの?」
「う、うぷ、気分が……」
「あーはいはい“静心”……なんで檜山の奴とアレーティアが崇められてるの?」
「……さぁ? なんで?」
聖女、聖人と共に乗り込んできた民衆もまたそれを目撃し、彼等もまた知ることになる――神の化身『檜山大介』、『アレーティア』の存在を。なお、惨状を見て吐き気を催している城下町の人達を介抱している三人の少年少女を含め、反逆者と呼ばれた子供達は困惑するばかりだった。
「本当に……本当に大丈夫なの?」
そうして暴れていた兵士とメイドを鎮圧し、いきなり自分達を崇め出した国のお偉いさんや群衆を追いやって大聖堂に来た恵里達ことオルクス大迷宮を突破した一行&フリード。ただ、メルドは今この場にはおらず、またフリードはウラノスから降りてこっそりと来た形だ。
そんな一行は現在、大聖堂の中、恵里達が召喚された際にいた台座に隠されたギミックを解除することで入れた光沢のある黒塗りの部屋にいる。
「だ、大丈夫……ぜ、絶対……多分……だ、大介ぇ~……」
「おい中村、アレーティアをイジメんなよ。こん中で一番適性があって、しかも魂いじった経験があるのコイツだけなんだぞ」
そこであることをするためにここに一行は押しかけたのだが、念のため恵里がアレーティアに確認を取ると徐々に涙目になって大介に抱き着いた。やはりトラウマはまだまだ根深いらしく、グスグスと泣いて彼から離れようとしない。大介から半目でにらまれてしまい、追い詰めるつもりも無かったため恵里もばつが悪くなって視線をさまよわせる。
「うん。恵里、ちゃんと謝ろ? アレーティアさんごめんなさい」
「……ごめん。ただ、ちょっと不安だったから確認したかっただけだから」
ハジメからも言われ、しかも彼が先に頭を下げてしまったものだから余計にいたたまれなくなり、すぐに恵里も頭を下げる。かれこれ十秒、頭を下げ続けたことでようやくアレーティアもこちらに顔を向けてくれた。
「…………あ、あの」
「ハァ……頼む、アレーティア。地球にいた頃から中村には世話になってたからよ、ここでその恩ぐらい返したいんだ。それにこの国の王様とえーと女王? 様も救ったじゃねぇか。やれる。お前ならやれるって」
「んっ。が、頑張る……!」
そこですかさず大介が彼女に説得と発破をかければ、まだちょっと震えてこそいたものの奮起してくれた。そして片手で大介の服の裾をつまみながらもアレーティアはここで手に入れた力――魂魄魔法を行使しようとする。
「お願いします、アレーティアさん」
「お願い、アレーティアさん」
「頼むよ、アレーティア」
「んっ!――“魂癒”」
ハジメ、鈴、恵里が頭を下げたのを見て絶対に成功させてみせると息巻くとすぐに魔法を発動し、恵里の体はアレーティアの黄金の魔力に包まれていく。本来は傷つき、摩耗した魂に魔力を注いで活力を与えるというものだが、これを利用して恵里の魂に干渉し、その不具合を見つけようとしているのである。
(――これ、は)
するとアレーティアは彼女の魂の特異性を見抜いてしまう。普通は溶け込むように調和した状態で体の中心に燦然と魂は輝いているはずなのだが、その輝きが二重に見えるのだ。それもただ活力が足りなくてブレているというのではなく、まるで
(どういうこと? 確か、前に中村さんは未来から来たと言っていたけれど……)
未来から来た魂が過去の彼女の魂と一体化した? それとも別の理由? 憶測は色々と浮かぶものの、すぐにかぶりを振ってアレーティアは本来の目的に戻る。
(南雲さん達が言ってた異常は……あった。ここを、こうして――)
二重の輝き故に見つけ辛くはあったものの、それでも根気よく探せばほんの小さな穴が見つかった。そこをすぐに埋めるよう自身の魔力を送り込むも、抵抗が激しく中々埋まらない。だがそれが彼女の魂に仕掛けられた罠であることの裏返しとなったため、アレーティアは様々なアプローチを繰り返す。
(ただ埋めるのが無理なら中村さんの魂を活性化させて剥がす……これも駄目。私の魔力を浸透させて内側から引き抜く……強固で出来ない。なら二つの魂の輝きを一つに――いけた!)
「ぁっ」
そして試行錯誤の末にようやく穴は無くなり、重なってた輝きも一つに収まる。途端、何かが起きたのか恵里が自分の体をぺたぺたと触り、確かめようとしている。
(これならきっと……ううん、駄目。本当に全部問題ないか調べないと)
念には念を入れて再度くまなく調べるもそれらしいものは出てこない。一つになったことで輝きを増した魂を見て息を長く吐くと、アレーティアは“魂癒”の発動を止めた。
「……終わった?」
「……ん。終わりました。中村さん」
「どう、恵里?」
「うん……気づかないうちにちょっとズレてたのが元に戻った、っていうかピッタリはまった。そんな感じ」
やはり、と思いつつもこのことは下手に触れるべきではないかもしれないとアレーティアは胸の内に留めておくことにした。真実を暴くことが幸せに繋がる訳ではないということを彼女もわかっていたからだ。
「後は……やってみて」
「うん。わかったよハジメくん――ッ!!」
そして恵里は促されるままにこの場にあった魔法陣に足を踏み入れる――その途端、脳よりも遥か深く、アレーティアから色々やられていた感じからして魂そのものに入り込んでくるかのような感覚に強い不快感を覚えるも、それは瞬時に霧散し、頭の中に何かを刷り込んでくるような感覚に恵里は頭を押さえて耐える。
「大丈夫、恵里……?」
「……うん。覚えた。覚え、られたよ」
すぐに駆け寄るハジメと鈴に恵里はそう答える。同時に彼女の両の目がうるみ出した。
「やっと、やっとだよ……ボク、もう皆を襲わなくっていいんだ……もう勝手に傷つけなくって済むんだ……よかった、よかったよぉ……」
自分を縛り付けていた呪いが消え、もう敵の声に怯えずに済む。恵里にとってとても大事な願いが叶ったことにフリードは安心したような笑みを浮かべ、親友・幼馴染達は互いに顔を合わせて抱き合い、涙を流しながら喜びを分かち合う。
「やった……やったぞー!!」
「ありがとう! ありがとうアレーティアさん!」
「わ、わ、わぁー!! だ、大介助けてぇー!?」
「バカ言うな! お前がやってくれたんだぞ!! 胴上げだ胴上げ!」
「おっしゃいくぞ! せーの――わーっしょい! わーっしょい!!」
「やぁあああぁあぁあぁあ!?」
その中でアレーティアはいきなり自分の幼馴染にもみくちゃにされ、すぐに胴上げに移行したことでパニックを起こして今にも泣きじゃくりそうになっている。というか思いっきり悲鳴を上げていた。
「長かったね、恵里」
「うん……」
「もう、大丈夫だよ。大丈夫だよ恵里」
「うん……うん!」
恵里はハジメと鈴と抱き合いながら涙を流し合い、互いの体温を感じ合い、安堵と喜びに浸っている。
「ねぇふたりとも」
「なぁに、恵里」
「どうしたの恵里」
「ただいま……ハジメくんっ!! 鈴っ!!」
「「おかえり、恵里っ!!」」
そして泣き笑いを浮かべてまた強く抱きしめ合う。
「ずっと――ずっといっしょだよ!!」
心の底からの笑顔を浮かべ、少女は幸せに浸る。愛しい人と最高の
次の幕間で第二章も〆となります。ともあれここまで長かったなぁ(しんみり)