あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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ソシャゲとかリアルの事情が立て込んでおり、投稿が遅くなりました。まぁ色々ありましたので、うん(遠い目)

……では、拙作を読んでくださる皆様への感謝の言葉を。
おかげさまでUAも1148936、お気に入り件数も806件、感想数も516件に上り、しおりの数も372件()を維持出来ました。誠にありがとうございます。こうして目を通して下さる皆様がいてくれるおかげで自分もまた投稿を続けて良かったと思えます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。何度も何度も話を評価していただけるというのは作者冥利に尽きます。とても嬉しいです。

それで今回の話を読むにあたっての注意ですが、まず少し長め(約12000字程度)となっていること、そして本作は法律の違反を推奨する作品ではないということです。まぁBANされたらその時はその時です(ォィ) ではそれらに注意して本編をどうぞ。


幕間四十 がれきのくにのおとなとこども(後編)

「……そうか。あちらも話はついたんだな」

 

「えぇ……やっぱり俺も一緒に行くべきだったと思います」

 

 浩介と共に恵里達と合流したメルドは、自分達の前方にいる今にも死んでしまいそうな鬱屈した雰囲気を漂わせる重吾達の事を伺った。

 

 メルドは戦闘が終わった直後に信じがたい真実を前にして皆の前から姿を消してしまい、そのままあちこちをふらふらとして酒蔵から酒を盗み、その後誰もいなくなった軍議の間で一人ヤケ酒を呑んでいたため重吾達がどうなったか知らなかったのだ。

 

「気に病む必要はないぞ、光輝。それは向こうも承知の上だったんだろう」

 

 そこで雫に支えられながら歩いていた光輝にメルドは声をかける。気落ちしている彼にこれ以上心を痛める必要などない、と。

 

「そう、ですけど……でも」

 

「俺も目を背けていた。信じていたものが本当はおぞましいものだと思いたく無くてな。きっと、アイツらだってそうだったんだろう」

 

 そう言いながらメルドは目の前の子供達と彼等と共に歩く愛子の後ろ姿に視線を向ける。迷いを吹っ切ったデビッドらが傍らにはいるものの、彼らが声掛けをしてもロクに反応を返さない。その痛ましい姿に先程までの自分を重ね、どうしたものかと一人思案する。そんな時、黙り込んだ光輝に代わって恵里が彼に言葉をかけて来た。

 

「そういうメルドさんは大丈夫なの? こうして浩介君が連れて来たんだから問題ないとは思うけど」

 

「大丈夫だよ恵里。俺もメルドさんもフリードさんのおかげで目が覚めたから」

 

「あれは中々効いたぞ……フリードの奴には感謝しなければならん」

 

 そこでメルドがフリードの名前を出したことに恵里だけでなく他の皆も一瞬足を止めてしまう。不要な混乱を招くからと人払いを済ませた大聖堂の方へウラノスと共に件の人物は待機しているのだが、その彼の名前を口にしたのを見たのは浩介以外今回が初めてだったからだ。

 

 ようやくフリードとメルドとの間のわだかまりがほんのわずかであってもなくなったのだろうと誰もが確信し、それをめでたく思いながらも大介が重吾達を見て一言漏らす。

 

「メルドさんが前を向けたのは嬉しいけどよ、その……アイツらどうする?」

 

 そう。メルドはフリードのおかげで目を覚ますことが出来たのだが、夢から覚めてしまった彼等はまだ絶望の中をさまよっているのだ。もう生きる気力すら失っているやもしれない彼等をどうすべきか。そこでメルドはある思い付きを実行に移そうと考え、そこで()()()()()()()()()()――叶うことなら鷲三と霧乃にも協力を申し出たくはあったが、雫のことを考えて止めておいた――に“念話”でそれを話し、協力してくれるよう打診する。

 

“急な話ですまん。やって、くれるか?”

 

“ま、仕方ないね。確かにボク達でもないとやれないだろうしね”

 

“何とかやってはみるけどよ、バレても文句言わないでくれよ?”

 

“わかりました。説得は私と……その、中村さん。いいでしょうか?”

 

“それぐらいならね。でも確約は出来ないから”

 

“それで十分だ……ありがとう、お前達”

 

 そして打ち合わせを終え、三人の協力を取り付けることが出来たことに安堵しつつメルドは彼女達に感謝を伝える。

 

「永山達の事は俺に任せて欲しい。完全解決、とはいかんが悪いようにはしない。やらせてくれ」

 

『えっ』

 

 そうしてすぐに頭を下げ、ハジメ達に頼み込んだ。よりにもよってメルドが頭を下げるなんて事は滅多にないし、自分達ではどうすればいいかわからない重吾達への対処も思いついているのだ。思わずざわついた様子のハジメ達を見て、早速恵里達三人が動いた。

 

「メルドさんもこう言ってる事だしさ、任せてみようよ」

 

「でも……」

 

 地球にいた頃から重吾達とは険悪な関係であり、面倒だからメルドに丸投げしたいという意図が透けて見えるからハジメは待ったをかけようとしたものの、結局自分達でもどうすれば彼らを元気づけられるかわからないまま。

 

「あの、メルドさんなら多分大丈夫だと思いますから、その……」

 

「どうせ何も浮かんでねぇんだろ? だったら任せてみようぜ。メルドさんなら何とかするさ」

 

 そこで追撃とばかりにアレーティアと大介も声をかけてくる。事前に抱き込んだな、と皆が疑惑の目をメルドに向けるが、三人はまぁまぁと宥めにきた事で確信する。そのことで大いにハジメ達は脱力するものの、光輝が少し呆れが残ったままの顔でメルドに質問を投げかける。

 

「……本当に大丈夫なんですよね、メルドさん」

 

「信じてくれ、としか今は言えん。だがどうにかする。してみせる」

 

 強い決意を感じられる瞳を見て、光輝もしばし思案する。成功するかはわからない。けれども失敗してもメルドならリカバリーをしてくれる。そんな気にさせてくれる目をしていたのだから信じてもいいんじゃないかと考えを変えた。

 

「……わかりました。じゃあ皆、一緒に食堂に――」

 

「待った!!……お前達は部屋に戻ってくれ。その、ここからは俺一人でやる」

 

 ……が、冷や汗を流して焦りながら弁解するメルドを見て、光輝の中で信用が一瞬にして瓦解した。

 

 この後食堂でご飯を食べながら色々話をする流れだったはずなのにそれを拒否し、しかも理由も言わずに任せてくれ発言である。どう考えたって怪し過ぎる。

 

「…………本当に大丈夫なんですよね?」

 

「信じろ。俺を、信じろ」

 

「悪い、メルドさん。信用するためにも理由を言ってくれ。そうしたらきっと俺達も――」

 

「言えん。だが、信じてくれ」

 

 光輝の、龍太郎の問いかけにもとにかく信じろの一点張り。半信半疑だったハジメ達の懐疑の目が一層強まり、メルドは更に冷や汗をダラダラ流した。

 

「恵里、知ってるよね? こういう時真っ先に疑ってかかるよね? ね?」

 

「あーうん。大丈夫だよ多分。まぁ多分大丈夫」

 

「思いっきり生返事だね。絶対ロクでもないことでしょ」

 

 こんな物言いをするなら普通は探ってくるであろう恵里が全然反応を返さないことから、事情を知ってるであろうと推測したハジメが問いただすも、恵里はそれに明確には答えない。目をそらしながら返事をしたことで絶対何かあると確信したハジメはジトっとした目を向けるが、恵里の方は言いたそうなのをじっと堪えていた。

 

「……アレーティアさん」

 

「あ、あの、その……ご、ごめんなさい! た、頼まれたんで言えません!!」

 

「語るに落ちてやがる。んで、どうなんだよ大介」

 

「あー、悪い。今回ばっかはマジで無理だわ……」

 

 大介の後ろに隠れつつ奈々からの問いかけを必死になって誤魔化そうとするアレーティアだったが、即座に幸利に看破されてしまい完全に大介の後ろに隠れてしまう。アッサリバレてしまった事への申し訳なさと恥ずかしさで縮こまっており、軽くべそをかいていた。

 

『まぁ……気になるんならよ、後で一緒に見に行こうぜ』

 

『え、マジ? じゃ行く行くー』

 

『あ、じゃあ行くわ』

 

『俺もー。どんななのか気になるしよ』

 

『大介……礼一達も……』

 

 そして幸利から尋ねられた大介も親友相手でも口頭では言わなかった……代わりに内容は伏せた上で“念話”を使って全員に伝えてきたため、野次馬根性が刺激された三馬鹿はノリノリでそれに同意した。とんだクソ野郎どもである。

 

「メルドさん、いい加減正直に言ってください。何企んでんですか?」

 

「言わん。絶対に言わんからな。こればっかりは言う訳には――おいやめろ、お前ら近寄るんじゃなぁーい!!」

 

 疑いに満ちた龍太郎の視線にメルドは屈せず、断固として話そうとしない。遂に痺れを切らした皆がメルドにたかり、教えろ教えろと無言の講義を始め出した。

 

 心が砕けた重吾らを他所にしょうもないことをやっていたメルド達。結局メルドも恵里達も口を割らなかった事からハジメ達は追求を諦め、急ぎメルドは食堂……に行く前にちょっと寄り道をしてから向かうのであった。

 

 

 

 

 

「もう……やだ」

 

「……」

 

 食堂の一角はひどく澱んだ空気を放っていた。使用人達から散々罵声を浴びせられ、憎悪のままに暴れる愛子をどうにか止めてただ黄昏ていた重吾達。しかし彼らは別れて部屋に戻る気も起きなかったため、誰かが呟いた『夕ご飯の時間だ』というつぶやきに従うまま、食堂に向かったのである。

 

 しかし誰も食欲なんて湧いてはいない。もう重吾達には何かをしたいという気力すら残ってないし、愛子だって恵里達と重吾達を守るためにただ神経を注いでいるからこそ壊れないでいるだけでしかない。

 

「愛子。いい。いいんだ。もうお前が何もかもを背負う必要なんてない」

 

「愛子さん。それに皆も。きっと信じられないことがあったんでしょう。なら言ってください。怒りや恨みぐらい、耐えてみせますから」

 

「いいんだよ、皆。もう頑張らなくっていい。僕達……というとちょっと語弊があるか。でも君達の仲間がこの国に勝った以上、この国のことで悩む必要なんてないから」

 

「怒りも恨みも抱えるな。そんなものは今ここで捨て去ってしまえ」

 

 そんな彼等にデビッド達が声をかけ続けていたのだが、特にこれといった反応は示さず。ただ席についてぼぅっと過去を見つめ続ける彼らを前に幾度も歯がゆい思いをし続けていた。

 

「やはりこうなっていたか……ま、それでこそ動いた甲斐があったというものだ」

 

 そんな折、ふとメルドがカートを押しながら彼らの許へと現れると、その上に載せていた酒瓶をそのままドン! と半ば叩きつけるようにして愛子達の席の近くに置いたのである。

 

「……ぁ、メルド、さん?」

 

「すまん。驚かせたか」

 

 ただ時間を無為に潰し、意識の外から起きた出来事への反応が薄いことから思っていた以上に重篤であることを察しつつもメルドは動く。カートの上に置いていた他の酒瓶を大人達の方へ、子供達にはぶどうに似た果実を絞って混ぜた果実水の瓶を取り出して各自の手の届く範囲に置いてから話を始める。

 

「メルド、それは……」

 

「あの、メルドさん。それ……」

 

「あぁ。こっちは察しの通り酒だ……おっと、お前達は確か向こうの方では酒は駄目なんだってな。こっちは十五で問題なくなるんだが、培った常識というものを捨てるというのは難しいよな。だから果汁を混ぜた水の方を探して用意させてもらった。結構いい奴だぞ? さぁ飲め」

 

 その言葉に彼らの心はほんのわずかにだけ揺れ動き、全員がどこか酒臭い様子のメルドを見る。こんなものを呑んでる気分じゃないというのにどうして、とリアクションが薄いながらも彼を睨んだ。

 

「お前達の言いたいことはわかる。こんな時に飲んでなんていられるか、ってな。だがこう言う時こそ飲め。飲むんだ」

 

 だがそれでもメルドは目の前にあるものを飲むことを勧める。目の前にある酒を、果実水をだ。真剣な眼差しでそう訴えるメルドに、ふと愛子が小声で問いかけた。

 

「いいん、ですか?」

 

 何かを確かめるように。まるで失敗に怯える幼子のように彼女は顔を上げてメルドに尋ねる。

 

「何がだ」

 

「辛いことがあったから、苦しいことがあったから。もう、何も考えたくありません。だから、その……」

 

 言いよどむ愛子に特に何も言うことなく、メルドは瓶の口を手刀で切り落とすと、同じくカートに載せていたコップに酒を注ぎ、黙って彼女の前に出す。

 

「そうだ。そういう時こその酒だ」

 

 そう語るメルドの顔にどこか浮かんだ寂しさをデビッドらは理解した。これは失った人間の顔なのだ、と。こうして愛子にハニートラップを仕掛ける前は戦場に出ていたからこそ彼の表情に浮かんだものの正体に気付いたのである。

 

「魔人族との戦争で戦友を、上官を、部下を失ったことは何度もある……ザック先輩、ユーリ殿、ゼノ。誰もがいい奴だった」

 

 そう言いながらメルドは次々と酒と果実水をコップに注いでゆき、各人の前へとそれを持っていく。

 

「死んだか怪我で離れざるを得なくなったか。そういった違いはあった。それでも別れが辛いことは俺だって知っている……お前達の受けた苦しみはまた別だろうがな」

 

 そうして全員にドリンクが行き渡り、自分も酔えないながらも半端に瓶に残った酒を予備のコップに全て注いだ。

 

「そういう時は女を買うか、酒を飲んでいた。流石に作戦に支障が出ないようにしてだがな――ハイリヒ王国は負けた。永山、野村、相川、玉井、仁村、辻、吉野。お前達はもうこの国に縛られる必要はない。酒を飲ませる訳じゃないから好きなだけ飲んで、騒いで、それで寝てしまえ。全部が晴れることはないだろうが、楽にはなるはずだ」

 

 中々目の前のものに手を付けようとしない彼等に言葉をかけるも、それでもまだ迷いがあったのか手を伸ばそうとはしない。そこでもう一度発破をかけようと自分が手持ちの酒を飲んで酔っ払ったフリをしようとした時、愛子が目の前のコップをガッと両手でつかみ、そのまま一気に中身を煽ったのである。

 

「「愛子ぉー!?」」

 

「愛子さーん!?」

 

「愛子ちゃーん!?」

 

「ま、待て待て待てぇ!? この酒は結構度数が高いんだが!?」

 

 中身はそこそこアルコール度数の高いもののはずなのだが、それをものともせずに愛子は飲み干す。そして酒臭い息を長く吐くと泡を食っているデビッド達でなく、先生らしからぬ行動をしたことにショックを受けて呆然としている重吾達の方へと視線を向けた。

 

「そこにあるのはジュースなんれすよね?……のみましょ、永山くん。みんな……ひっく」

 

「あ、愛ちゃん……?」

 

 もう酔っ払ったのか軽く目が据わっており、重吾達から目を離さない。傍から見てもヤバい様子の愛子は再度彼らに向けて声をかけた。

 

「飲んじゃいましょう……せっかくメルドしゃんが用意してくれたんれす。飲んで、しまいましょう……全部、じぇーんぶわすれちゃっていいんれす」

 

 最初こそアルハラをしてくる酔っ払いのように話しかけてきたが、段々と声が湿っていく様をデビッド達も重吾らも目にしてしまう。最後は軽くうつむきながらそうつぶやき、無力感を感じさせながら話した彼女を見て重吾達もデビッド達も、そしてメルドでさえも何も言えなくなった。

 

「私に力がないから……皆を救える力なんてなかったから……だから、私とこの国のせいでいいんです……みんななすりつけちゃって、いいんです」

 

 色濃く残るとてつもない後悔、今もなお彼女を苛む無力感と自己嫌悪、憎しみを知り――今度はデビッド達が示し合せたかのように一斉にコップの中の酒を飲み干す。その様にまたしても重吾達は驚いてしまい、酒を飲み終えて顔を赤らめたデビッド達は重吾らに向けて言葉をかけていく。

 

「ふぅ……さて、俺達も飲んだぞ。お前らも飲め。ただの水だ」

 

「えぇ、私達に恥をかかせないで……ヒック、ください」

 

「そうだよぉ……皆は僕達にそそのかされて、ヒック……騒いでしまった。それでいいんだ」

 

「あぁ……お前らは駄目な大人に捕まって、いっしょにバカ騒ぎした。それでいい……ひっく」

 

 出来上がった様子の彼らに声を掛けられてしまい、重吾達は思わず戸惑った。これが彼等なりの不器用な気遣いだとわかっているからだ。自分達は何一つ悪くない。ただ悪い大人に捕まって、そのせいで自分達もそれに付き合う羽目に遭ったのだと言い訳させる余地をくれたのだと。

 

「……俺、は」

 

 だからこそ彼らは迷う。そうして相手に責任をおっ被せて、自分達も酔っ払ってしまってそれでいいのか、と。逃げたい気持ちは強いけれど、この世界の法律や彼らに全て押し付けて自分達は逃げていいのかと思ってしまったのだ。

 

「いいから飲め、お前達」

 

「メルドさん……」

 

「畑山殿や神殿騎士達に恥をかかせないでやってくれ。俺だってそうしろ、と言ったんだ。だからそれでいい。今はもう忘れろ。甘えてしまえ」

 

 そう言いながら自分の持ってたコップを煽り、メルドは胃に酒を収めていく。喉が焼ける感覚、体を回る酒精、しかし来ることのない酔いに心の中で自嘲しつつも、メルドは野村にしなだれかかり、()()()動きをしながら彼らをたぶらかす。

 

「ほれ、呑め呑め~。お前らが飲まないんだったら、俺が……」

 

 そう言いながら野村のコップに手を伸ばそうとした時、いきなり重吾が目の前の果汁水でなく近くにあった酒瓶を手に取り、それを一気に煽ったのである。瞬く間に赤くなっていく顔に野村らは声も出せずに口をあんぐりと開け、重吾をただ見ているだけしか出来なかった。

 

「な……何やってるんだ永山!?」

 

「…………はぁ~。ひっく」

 

「じゅ、じゅじゅ重吾ぉ!? な、何やってんだよお前! お、俺達未成年だぞ!!」

 

 隣に座っていた野村がメルドを軽く突き飛ばして重吾の両肩を掴み、日本にいたころの道理を説きながらぐわんぐわんと揺らす。しかし重吾の口から出た予想外の言葉に何も反論出来なくなった。

 

「もう、いやだ」

 

「……え?」

 

「もういやなんだよ、健太郎……シーナにすてられて、どこにも居場所なんてなくって、いきるのももういやなんだ……じゃあ、どうすればいいんだ? さけのんで、にげたい。もうよっぱらって、ぜんぶわすれたい。それも、だめなのか?」

 

 そう言いながらボロボロと涙を流す様を見て野村はその手を緩めてしまい、玉井、仁村、相川、辻、吉野もまた自分達が頼りにしていたリーダーが弱音を吐くのを見て思ってしまった。もう逃げたっていいんだ、と。もう辛いことを我慢しなくていいんだ、と。

 

「んぐっ!……んぐっ、んぐっ……ぷはぁー!!」

 

「玉井!?……じゃ、じゃあ俺だって!!」

 

 玉井が意を決して重吾が口にした酒瓶に口をつけ、一気に流し込んでいく。そうして酔っ払った様子を見た相川も席を離れて愛子達の席にあった酒瓶を全てかっぱらい、その中身を一気に煽っていく。

 

「お、俺だって、俺だってなぁ!!」

 

「わ、私も!」

 

「もう、もう忘れちゃおう! ぜんぶ、全部飲んじゃって忘れちゃえばいいんだ!!」

 

「仁村も辻も吉野も……じゃ、じゃあ俺も飲む! 仲間外れなんて嫌だ!!」

 

 それを見た他の皆も酒を口にしていく。ちびちびと飲んだり、一気に腹に流し込んだり、むせこんでしまったりもした者だっていた。けれども誰もが酒を口にすることをためらうことなんてしなかった。

 

「全く……だが、いい飲みっぷりだ。それと、このカートにまだ幾らか酒は残っている。オープナーもあるから飲みたきゃ飲め。騒ぎたくなったら騒げ。もう、我慢なんてするな!」

 

「そうれす……もうわすれちゃいましょー!! こんな時ぐらい、すきにしていいんれす!!」

 

『おー!!』

 

 メルドと愛子の言葉に誰もがうなずき、もう何も我慢するものかとそれぞれが好きに酒を飲んでいく。そして――。

 

「バーカバーカ!! エヒトのろくでなしー!! わたしたちをいえにかえせー!! おかあさんがいえでまってるんれすー!!」

 

「いいぞ愛子ぉー!! もっと言えー!!」

 

「私たちの信仰をすてさせたあのクズをもっとけなしてしまおー!!」

 

「滅べバーカ!! 教会なんてクソだクソー!!」

 

「ほろべエヒトぉー!! ほろべおうこくー!! 愛子がきずつくせかいなんて終わってしまえー!!」

 

 地獄が出来た。

 

「シーナ……シーナぁ……おれもうやだぁ……もうやだよぉ……」

 

「なーにあんなのの名前だしてるんらよぉ重吾ぉ!……ヒック。ハイリヒおーこうなんてなぁ、ただのクソ国家じゃんかー!! そんなとこにいるやつみーんなクソしかいねーよ! だからきにすんなー!!」

 

「のむらくぅ~ん、もっとおしゃけついでぇ~?♥」

 

「ぷっ、アハハハハハハハハ!! にゃがやまくんおもしろぉーい!! ウジウジしててかわいーい♥」

 

 思いっきり地獄絵図と化してしまった。

 

「うっぷ……も、もう無理……吐く」

 

「んだよ仁村ぁ~もうのめましぇ~ん、ってか? アハハハ!!」

 

「……うるせぇ、静かに呑ませろよ。ヒック」

 

 もうどうにもならないおぞましい世界がここに誕生してしまった。

 

「わらしがほんきらしたられすねぇ……ヒック、このせかいぜーんぶほろぼせますよぉー! ぜんぶぜーんぶ、さばくかぬまにでもしてやれるんれしゅー!!」

 

「さすが愛子ー!! それでこそ魔おうだー!!」

 

「そうですそうですー! 私たちにしたがわないやつらなんてみんなくたばってしまえばいいんだぁー!!」

 

「もっともっとー!! エヒトとかいうゴミムシなんかたおしてしまえー!! 愛子ちゃんならできーる!!」

 

「けんきょになるな愛子ー!! 愛子にできないころはなーい!!……ヒック」

 

「いぇーい!! まおうなめんなー!!」

 

 世界ぐらい滅ぼせると酒の勢いも相まってのたまう愛子をデビッド達は止めようとはしない。むしろ煽りに煽り立ててノリノリにさせる始末。放っておいたらその勢いのままにこの王宮どころか城下町や周辺を滅茶苦茶に荒らしてしまいそうな程の勢いがここにあった。

 

「もうわすれようぜぇー。あんな女なんてどこにでもいるじゃんかー。お前のことをちゃんと見てくれるー、やさしいおんなの人だってあらわれるって! な!」

 

「うぅ……でも、でも……シーナのことが、やっぱりわすれられないんだぁ……ヒック。うぅ……」

 

「わすれさせてくれるいいやつがくるってー。俺をしんじろぉ、じゅうごぉ~」

 

 泥酔してバシバシ肩を叩いたりはしているものの、女々しく泣いている重吾を野村は普通に励ましていた。相当失恋のダメージが深く、未だにかなり引きずっている様子であったが、それでも野村は彼をただただ気遣うばかりであった……まぁ当然とはいえ励まし方が割と酔っ払い臭かったが。

 

「やーんもぉ永山くんってばかわいーなぁー。そんなかわいいながやまくんにはーわらしがおしゃけついであげりゅねぇ~」

 

「むぅ~! 野村くんもっとおさけぇ~。まおでもいいからおさけちょおらいよぉ~!」

 

 一方、吉野は泣いている様子の永山のコップに酒をなみなみと注いでいく……というか文字通りあふれてしまっている。そしてその様子を見た辻もとにかくお酒をくれと何度も何度も催促している。

 

「うるせぇぞ酔っ払いども……ヒック」

 

「んだとぉー相川ぁー! お前だって顔真っ赤っかじゃねぇかー! アッハハハハハハ!! おもしれぇー!」

 

 酔うと人が変わるタイプだったらしい相川に笑い上戸の玉井が絡み、嫌気がさした相川は席を立って移動しようとするも、玉井が普通について回り、絶対に逃がさないとばかりに追ってきていた。なお相川は立派な千鳥足を披露していた。

 

「うぇっぷ……ォ゛ェ゛ェ゛ェ゛……」

 

「大丈夫か、仁村……すまん。お前は酒に弱かったんだな……」

 

 そして床に四つん這いになった仁村の口は立派な瀑布となっていた。そんな彼の背中をメルドはさすりながら謝罪の言葉をかけている。さしものメルドもたった一口そこらでこうなるのは予想外だったらしく、本気で反省していた。

 

「メルドしゃーん! おしゃけのちゅいかー!!」

 

「そうだぞー!! さけもってこーい!!」

 

 そんなメルドは今、仁村への気遣いと多数の酔っ払いの相手をさせられていた。どいつもこいつもアホみたいなハイペースで酒を空けてしまうものだから酒蔵から持ってくるよりも無くなる方が早いのだ。というか一人一本、しかもコップなんて使わずにラッパ飲みしかしてないもんだから追いつかない。ごまかすために渡した果汁を混ぜた水の瓶もとっくに空になっている。

 

(どうしてこうなった)

 

 この状況を作り出した当人はただ目の前のどうにもならん現実を嘆く他無かった。

 

「……うわぁ」

 

 そして重吾達がどうなってるか気になって出歯亀をしに来た大介達は目の前の光景を見て思いっきりドン引きしていた。なにをやろうとしていたかをメルドから聞いていた大介でさえ、今眼前で繰り広げられている光景を見て思わず目をそらしたくなってしまったのだ。

 

 どうしてこんなことになってしまったんだろうと思いながらも、とりあえずこの場から逃げようとおそるおそる踵を返そうとしたその時であった。

 

「――大介達か!」

 

「ゲェッ!? 気づいたぁー!?」

 

 なんとメルドがこちらの方を見て反応したのである。

 

「お前ら頼む! 一生のお願いだ! 頼むから助けてくれぇー!!」

 

「よし逃げるぞ!」

 

「おっしゃ了解!!」

 

「三十六計逃げるに如かずぅー!!」

 

「逃げるが勝ちって言うもんなぁー!!」

 

「は、薄情者ぉ~~!!!」

 

 なお馬鹿四人は即座に逃げ出し、あっという間にメルドは取り残される。

 

「おいメルドぉー!! 酒はどうしたぁー!!」

 

「お酒おさけぇ~!!」

 

「もっと飲ませろぉー!!」

 

「イヤぁあああぁあぁあぁああぁああぁ!?」

 

 酒は飲んでも飲まれるな。昔の人はよく言ったものである。

 

 ゾンビのように酔っ払いどもにまとわりつかれ、メルドの情けない叫びが王宮にこだまする。なおすぐに大介らがこの惨状を知らせたため、ハジメと鈴、そして鈴に少しでもリードを許したくないと二人についていった恵里以外はメルドを見捨てていた。自業自得である。

 

 

 

 

 

「そんな! ここでメルドさんが抜けるなんて!!」

 

「すまん……俺がついていけるのはここまでだ」

 

 翌朝。床とテーブルをメルドが事前に綺麗に掃除していた食堂にて。食事を終えた後に大事な話があると言ってメルドの口から伝えられた事実に光輝が信じられないとばかりに声を上げた。メルドがここで抜けることを表明したからである。

 

「嘘でしょ……どうして、どうしてなの!? 私達が嫌いになったの!?」

 

「……まぁ、昨日の晩のことは恨んでるぞ。うん。ハジメと恵里と鈴以外はな。ってそういうことじゃない」

 

 優花の問いかけに軽く虚ろな目をしながら答えるメルドであったが、すぐにそういう理由ではないと明かす。決して彼らの向けたジト目に屈した訳ではない。

 

「俺の目的はお前達の悪評の撤回とエリヒド王の目を覚まさせること、そしてイシュタルを倒すことだった」

 

 このことは後で陛下と一緒に皆で話し合うつもりだったんだがな、と少しうつむきながら付け加えるが、それでも皆のショックは決して軽くはなかった。

 

 そう。元々メルドが目指していたのは恵里達につけられた悪評をどうにかすることであり、そのために国王陛下を正気に戻し、イシュタルに対処することであった。だが恵里達の悪評は撤回するどころの話ではない。ならばどうして、と問おうとした時、メルドがその理由を明かしてくれた。

 

「だがお前達の悪評の撤回は俺の力じゃどうしようもならない……エヒトが敵としてお前達を追い詰めようとしているからな」

 

「それは……」

 

「恨むなら力のない俺も恨んでくれていい。だが理由はそれだけじゃない……いずれ神の使徒の軍勢とも戦うんだろう? だったら頭数だけでも多くしておいた方がいいはずだ。そのためにも、このハイリヒ王国を守るために俺は残る」

 

 このトータスを盤上として策を練れるエヒト相手には自分では力がどうしても足らないということを自覚し、しかしエヒトと将来矛を交えることになった時のために戦力を確保しておきたい。そう伝えたのだ。

 

「……母国だから残りたい、ってのもあるんでしょ?」

 

「……すまん」

 

 しかし説明をしていた時、理由はそれだけじゃないはずだと察した恵里がカマをかければ、短く謝罪をしたことから国に残りたいという思いも少なからずあるということを彼らは理解した。

 

「結局俺はこの国が好きなんだ。昨日の反乱で兵士も使用人も少なくない数が死んだ。そうなれば脆くなったこの国にエヒトが魔人族を差し向けてくるかもしれない。だからこそ残って戦って、守りたいんだ。どうしようもなくても、救いのない奴らばっかりだとしても。だから俺は――」

 

 恵里達の助けになりたいという思いは今も残っている。しかし、それでもこの国への愛が勝った。だからこそここに残りたいと訴えようとすると、フリードも含めた皆が首を横に振り、もう言わなくていいと伝えてくる。

 

「ま、だったら使える兵士をちゃんと育ててね」

 

「恵里……」

 

 九割の打算、一割の気遣いが含まれた恵里の言葉にメルドはただうなずいて返す。

 

「メルドさんがいるならここも拠点として使えるようになりますよね?……だったらそれだけでも心強いです。後はお願いします、メルドさん」

 

「私達の帰ってこれる場所、守ってください」

 

「ハジメ、鈴……」

 

 ハジメと鈴の寄せてくれた信頼にメルドは再度うなずき、この国を皆の居場所として守ることを誓う。

 

「メルドさんが決めたんなら俺達がこれ以上とやかく言っちゃいけないな。じゃあ、後は任せます」

 

「エヒトは私達が絶対倒すから。だから後ろはお願いします」

 

「後は俺達がやってみせます。だから、見ててくれよ」

 

「メルドさんがいなくても、ちゃんとやってみせますから。だから、安心して下さい」

 

「光輝、雫、龍太郎、香織……あぁ!」

 

 光輝達の言葉に、メルドも迷わず彼等に後を託すことが出来ると感じた。だからこそちゃんと返事を返す。

 

「ちょっと寂しくなっちまうな……頑張ってくれよ、メルドさん」

 

「絶対会いに行くから、生きててくれ。その、俺達の、頼れる兄貴だからさ」

 

「わかってるさ。浩介、幸利」

 

 家族のように慕ってくれた浩介と幸利にメルドは微笑みで返した。また再会できるよう約束を残して。

 

「生きて、生きてくださいね。そうしないと許さないんだから」

 

「メルドさん、今までお世話になりました!」

 

「ありがとぉ~! ホントにメルドさんありがとぉー!!」

 

「ああ。お前達も死ぬなよ! 優花、奈々、妙子!」

 

 かける言葉もそれぞれ違えど、優花と奈々と妙子も彼を思う気持ちは変わらない。だからメルドも彼女達が生きて戻ってこれるよう願いを伝える。

 

「あーあ。ったく寂しくなっちまうなぁ……じゃあな、メルドさん」

 

「い、今までありがとうございました! 大介を、私を許してくれてありがとうございました!!」

 

「ハァー……ま、仕方ないよな。せめて楽出来るように俺達が派手に暴れてやっか」

 

「そうだなぁー……メルドさんいなくなると流石に寂しいもんな」

 

「そうか? 俺はもう叱られなくって済むと思うと……ダメだ。やっぱ寂しい」

 

「俺がいなくなったせいで更に皆に迷惑かけるようになったら困るからな! 頼んだぞ! 大介、アレーティア、礼一、信治、良樹!!」

 

 未だに手のかかる悪童どもに軽く釘を刺し、そして最後にメルドはある男の方を振り向いた。

 

「フン……私としては清々するがな」

 

「そうか……俺の大切な仲間を頼んだぞ、フリード」

 

「いいだろう。託されてやろう、メルド・ロギンス」

 

 お互いに握りこぶしをぶつけ合えば、彼らは食堂を後にすると共にそれぞれ別の方向へと歩んでいく。

 

 出会いと別れ。それを繰り返しながら彼らの旅は続いていく――ある少女が動いたことで大きく変わった彼等の旅路の終着点は未だ遠く。されどその果てへと向かって彼らは力強く進んでいく。




おまけ とある『三人』のその後

野村「……ん、ぁ。朝か」

辻「おはよ、()()()くん」

野村「あぁ、おはよう辻……ま、待て待て待て! な、辻、お前、は、はだっ!?」

吉野「おはよぉ~()()()くぅ~ん」むにゅっ

野村「よ、吉野!? お前まで!? こ、ここ俺の――ぁっ」

フラッシュバックする昨晩の記憶。ベッドがギシギシ、アンアンアン♥とっても大好き♥になっちゃう運動をひたすらする自分達。

野村「うわぁああぁぁー!!! お、俺はなんてことを、なんてことをー!!」

辻「……ねぇ、健太郎くん。その呼び方やめて」

吉野「そうだよ。苗字呼びなんて他人行儀な言い方じゃなくて」

辻・吉野「「な・ま・え♥」」

野村「うおぉおおぉぉぉぉぁあぁぁあぁぁぁ!?」

野村発狂。その後、名前で呼び合う三人の姿が見られ、とある二股している少年を慕う子から野村らは散々こき下ろされたという。
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