おかげさまでUAも152918、お気に入り件数も822件、しおりも377件、感想数も532件(2023/1/25 11:53現在)となりました。重ね重ね感謝いたします。こうして皆様に目を通していただけることが何よりの幸せです。
それとAitoyukiさん、サッカーミアさん、sigure4539さん、さてさん、拙作を評価及び再評価していただき本当にありがとうございます。毎度毎度似たような文体となってしまって恐縮ですが、こうして評価をいただけたことでまた筆を執る力をいただきました。本当にありがとうございます。
では今回の話を読むにあたっての注意点ですが、今回の話は長め(約14000字)となります。上記に注意して皆様本編をどうぞ。
「産業……」
「革命……? どういうことだ。説明しろ、ハジメ」
聞きなれない単語の組み合わせに王国側の全ての人間に光輝達やら愛子ら、そして同席していた重吾達に鷲三と霧乃もそろって首をかしげ、それを見たハジメの笑みが一層深まるのを恵里は見逃さなかった。
流石ハジメくん、と後ろ側で腕を組んでうんうんと首を細かく縦に振ると、すぐに鈴と香織が“念話”を飛ばしてきたのに恵里はちょっとだけイラッとしながらも相手をする。
“恵里、知ってるでしょ。いつハジメくんから聞いたの?”
“恵里ちゃんどういうこと? その話、私聞いてないよ”
“あーはいはい。今朝ハジメくんと色々話をしてた時に出たの。詳細はハジメくんの話を聞いてね”
香織だけでなく光輝達にも伝えると同時に即座に“念話”を打ち切り、すぐにハジメの方に意識を移す。朝の支度をしながら話をしていた時に『ちょっと驚かせてみない?』とイタズラを思いついたようにハジメは言ってきたのだ。
聞いた時は恵里も目を丸くし、一秒そこら口をパクパクとさせるしか出来なかったぐらい驚いていたのだ。そんなイタズラを思いついた張本人に声をかけてもらうのを今か今かと待ち望めば、すぐにそれは果たされる事となった。
「じゃあ恵里、鈴。ちょっとお手伝い頼めるかな?」
「うん。いいよ」
「え?……う、うん」
ハジメに手伝いを頼まれて心底嬉しくなった恵里はにへら~とだらしない顔をしながらスキップをしていく。鈴もハジメと恵里がこのことを黙っていたことに関してむくれてはいたものの、それでも大好きな彼に頼られたことが嬉しくてちょっとうつむきながら彼の元へと向かう。
「ではその説明に移る前にちょっとした実験を披露させてもらいます。ちょっと床から拝借しますね。“錬成”、っと……じゃあ恵里は事前に説明した通り“心導”を、鈴は“魔力操作”を付与してほしいんだ。お願い」
「うん。いくよ――“心導”」
「わかったよ、ハジメくん――んっ」
床に使われていた石材を二つ掴んで抜くと、その二つを“錬成”で握り拳程度の大きさの球体、それも二層構造のものへと圧縮して加工していく。
突拍子もないことをしたのとハジメの“錬成”のすごさに謁見の間にいる王族や重臣がざわつくのを見て、恵里は心の中で彼の凄さを誇り、鈴もいきなりとんでもないことをやった彼に呆れてはしまうもののこうして彼が一目置かれたことにまんざらでもない顔をする。そしてハジメに頼まれた通りに二人は魔法と技能を発動。彼の生成魔法を使ってそれを一層に一つずつ付与していく。
「あ、あの南雲様。今のは……」
「すいません王妃様。その質問に関しては後で答えさせてもらいます」
付与そのものはほんの一瞬で終わり、一体何をしたのかと問いかけるルルアリアからの質問をいなすとハジメはその石の塊に魔力を送り込み、今朝から計画していたあるイタズラを実行する。
“聞こえますか? 今、僕は貴方達の魂へと直接語り掛けています”
「えっ!?」
「なぁっ!? げ、幻聴か!?」
「ど、どど、どういうことですか!? せ、説明してください!!」
一瞬でこの場にいたほとんどの人間が慌てふためく様子を見れば大成功以外の何物でもない。したり顔を浮かべながら彼等を一瞥すると恵里はハジメの方を向いて右手を挙げる。
「ハジメくん、いぇーい!」
「いぇーい!!」
「二人とも……」
恵里はハジメと一緒にハイタッチして喜び合っていると鈴がじっとりとした目でこちらを見つめてきたため、ハジメはそれに気圧されてしまい、ノリの悪い鈴に半目で恵里は迫っていく。
「鈴、ノリが悪いよ。イタズラ上手くいったんだからハイタッチしようよ」
「そういうのじゃ流石にやる気にはなれないから……ハジメくん、ちゃんと恵里止めてよ」
「いやー、これぐらいだったらいいかなー、って……」
そうして恵里と鈴がうーっと軽くうなり声を上げ、ハジメがタジタジになっていると今度は光輝が深く、ふかーくため息を吐きながらこちらに声をかけて来た。
「あのな二人とも……こういうのは事前に言っておくものだろう!! 魂魄魔法を知らない人達が思いっきりパニック起こしてるじゃないか!!」
驚いていないのは昨日魂魄魔法を取得したいつものメンバーだけ。大介達は彼等の鼻を明かせたことが嬉しいのか『やるじゃん先生』だの『なんだよなんだよ。そんな面白そうなの俺も混ぜろよー』と冗談めかして言ってきてるが、大体は呆れた様子でこちらを見ている。メルドは恨めし気な視線を送ってきているし、アレーティアなんかどうすればいいのかとうろたえにうろたえてる始末だ。
「えー、ダメー?」
「ダメだったかなぁ?」
「ダメに決まってるよ!!」
「こういうところでそんなイタズラをするな!! 恵里もハジメも!! あぁもう、“鎮魂”!!」
叱り飛ばしてきた光輝がすぐに魂魄魔法の“鎮魂”を発動したことで場は静まり返るが、場を鎮めた当人は心底疲れた様子でまたため息を吐いていた。彼の様子を見てそんなにダメだっただろうかと二人で“念話”で話し合っていると、今度は幸利が光輝の肩に手を置いて自分の意見を述べてくれた。
「光輝、お疲れ。でも俺はさっき二人がやったのはアリだと思ったぜ」
「……幸利ぃ~」
「悪い悪い。物事にはツカみ、ってもんが必要だろ? これで嫌でも三人に意識を向けざるを得なくなったんだ。それだけは恵里とハジメの手柄だぜ」
「……今度はちゃんと話し合おうね」
いきなり裏切った幸利に恨めしい視線を送るも、彼の言い分も納得できるものであり事実そうなっていることに光輝も言い返せない。諦めてまた一つため息を吐けばもう何も言わなくなり、鈴もジト目を向けながらも追求するのはやめにした。
「はい、反省してます……」
「ちぇー……ま、いいや。とっとと種明かししよっかハジメくん、鈴」
あまり反省してない様子の恵里はともかくとして、軽くうなだれた様子のハジメを見て反省したと考えた鈴も今起きた事の説明に移ろうと考える。すると今度はひどく驚いた様子の玉井と重吾が声をかけてきた。
「な、南雲、い、今のは何なんだよ!? いきなりお前の声が頭? に響いたし、あんなの俺も知らなかったぞ!!」
「今のは流石に驚いたぞ!……説明はしてくれるんだろうな?」
「うん。それを今から説明するね。玉井君、永山君」
「はいはい。野次馬は大人しくしててね」
そうハジメが声をかけてなだめ、恵里がシッシッと手で払ったことで、ハジメへ向ける視線を一段と強めながらも二人は黙って引き下がった。ようやく場が整ったと三人は早速説明に入る。
「えー、こほん……今ハジメくんがしたのは床の石材をひとまとめにしてアーティファクト化。その後ここにいる全員の魂に声を届けただけだよ」
「鈴……こほん。私が“魔力操作”の技能を付与したので魔力を持つ方なら誰でも扱えるようになっています」
その言葉に再度場は騒然とする。無理もない。引っこ抜いた床材がいきなりアーティファクトに化けたのだ。これで驚くなと言う方が無茶と言うものだ。
使われていたものは上質な石ではあったものの、金を積めば調達自体は可能な代物だ。それが国宝になり得る代物に今この場で化けたというのは最早異常としか言えない。とんでもないことを成した三人の子供達に王族や重臣、重吾達はもちろんのこと、合流した際に簡潔とはいえ説明を受けた愛子、デビッドらも驚きを隠せなかったのである。鷲三と霧乃だけはまた妙なイタズラを、と呆れの色が少し強かったが。
「大まかな仕組みは恵里が説明した通りです。神代魔法の一つである魂魄魔法を同じく生成魔法によってこの球に付与しました」
「し、神代魔法だと!?」
「馬鹿な!? そ、そそ、そのようなペテンに騙されるとでも思ったか!!」
しかし少なくない人間が目の前で起きたことを信じられず、大声を上げる。流石にまだちょっと厳しいかー、とハジメは思ってただけなものの、恵里は一気に機嫌が悪くなっていく。『よくもまぁハジメくんのことを詐欺師呼ばわりしてくれたな』とがなりたてる奴らに“縛魂”をかけようかと考えた時、メルドの一喝が場に轟いた。
「皆様静粛に!!……ハジメ、続けてくれ」
“威圧”の乗っていたその大声によってすぐに場は静まり返り、更に騒いでいた相手に“威圧”を向けて黙らせる。乱暴ではあったもの見事なフォローによってハジメは話を再開した。
「あ、ありがとうございますメルドさん!!――いきなりこんなことをやられても信じられないというのは理解しています。ですので、どうぞ。実際に手に取って使ってみてください」
「……わかりました。であれば私が。メルド、その玉を置くために机か何かを――」
「あ、ちょっと待ってください。“錬成”」
自分達をじっと見つめている王族らに例の石の球をそっと差し出せば、ルルアリアがまず自分が使ってみると話し、メルドに机か何かを持ってくるよう頼もうとする。しかしそこでハジメが“錬成”で石の机を作り出せば、またしても多くの人間が常人離れしたその技に驚くばかりであった。
「ではいきます」
“聞こえますか。私の声は届いてますでしょうか”
そうして常人離れした力をなんてことないように見せる彼らにどこか畏れを抱きつつもルルアリアは例のアーティファクトに触れ、魔力を流し込んで起動させればさっきと同じ現象が起きて再度場を騒然とさせる。
その後大臣らや重吾達も試してみてその凄さを理解すると、今度はまじまじと石球を見つめ出した。見た目が神々しさもデザインとしての美しさもないただの球なのだから当然といえば当然なのだが、本当にこんなものがこれほどの効果を発揮するのかとややいぶかしげに、そしてハジメ達へと畏怖を向ける。
“やっぱり皆見つめてるねぇ~。実際ただの石で出来た球だしねぇ”
“うん。だから信じてくれるはず”
わざわざ床材を使ったのもこれが狙いであった。当初はオルクス大迷宮で採取した金属を使うことをハジメは考えていたのだが、そこで恵里が待ったをかけた。それだと素材に何か効果があるんじゃないかと疑うだろうからもっと身近なものを素材にしようと人差し指を立てて言ったのである。
“で、お前らがやろうとしてたのってこの程度のことじゃねぇだろ?”
“うん。幸利君の言う通りだよ。まだ何か悪だくみしてるんでしょ?”
そこで興味津々とばかりにこちらを見てくる幸利と再度ジト目を向けてきた鈴に恵里とハジメは簡潔に答える。
“もちろん。この程度ただの前座だよ前座。ボクらが神代魔法、とてつもない力を振るえるってことをアピールするだけだからね”
“うん。鈴には悪いけど、今度は恵里の出番になるから。ごめんね”
今度は一体何をやる気やらと余計に関心を煽るようなことを言う二人に幸利と鈴も呆れるしかなく、先程こっそり“念話”した内容を友人らにバラせば彼らもほとんどが呆れ半分、興味半分で恵里とハジメを見つめ、大介達四馬鹿のみめちゃくちゃワクワクした様子で二人を見ていた。
“鈴、ごめんね。後でいっぱいワガママ聞いてあげるから。それで許して?”
“……デート。二人っきりになれる日にどこでもいいからデートして。そうしたら考えてあげる”
“うん、約束するね。思いっきり楽しもう”
……なお、こっそり自分にだけハジメが繋いできた“念話”のメッセージを聞き、鈴はちょっとだけ機嫌を直していたりする。
「では皆様、僕達の力を理解していただいたでしょうか」
「まぁこの程度序の口なんだけどねぇ~。ハジメくん、やろっか」
『序の口』という恵里の発言にこれ以上まだ何かあるのかと王族らは若干興味を惹かれながらも戦々恐々としていた。そんな彼らを前に今度は宝物庫から適当な金属塊と事前に準備していたあるものをハジメは取り出すと、すぐに“錬成”で大型犬を模したゴーレムを作成していく。
操作するための方法も無く、
「今この世に生まれ出ずるものよ 汝が身に纏うは肉か否か 如何なるものであれ祝福を受けよ」
これは朝にハジメから提案されたイタズラのためにわざわざ支度しながらもずっと考えていた秘儀。魂魄魔法という力を得て、更なるステージへと進むことが出来た恵里が作った魔法。与えられた知識の外にある魔法を今、彼女は命なき存在へと施す。
「これより生を知りて死を恐れよ その命に意味あらんことを “入魂”!」
ハジメと一緒に過ごしたことでオタクとして染まった恵里が、魔法の成功率を上げるために捻り出した補助のための呪文を唱え切るとゴーレムに淡い光が灯る。それはほんの数秒程度でしかなかったものの、大きく息を吐いて額の汗をぬぐった恵里を見れば何らかの魔法が既にかかったということはわかる。
一体何が、と多くが思ったその時、直立不動であったはずのゴーレムが
「えっ」
「――よしっ! 上手くいった、かな?」
「ぶっつけ本番だったけど上手くいったよハジメくん……ふぅ。おいで」
軽くガッツポーズをキメつつもやっぱりちょっと不安げにゴーレムを見るハジメとゴーレムを手招きする恵里。恵里の声と手招きを受けてヨタヨタとした足取りで恵里の許へと歩いてくるゴーレム――何かが起きたことは明白であった。
「さ、先程の転倒は……」
「め、命令を受けて動いた、ということだろう? いや、しかし、本当に……」
「……いや、まさか。しかし、大介様とアレーティア様のご友人なのだから……だがしかし」
にわかに騒がしくなっていく謁見の間。少しずつ足取りが確かになっていく犬型のゴーレムを見て各々推測を述べていく様を見てハジメも恵里も笑みを深くしていく。中には真相にたどり着いているらしい人間もいるのだからなおのことであった。
「え、恵里……も、もしかして、魂吹き込んだの……?」
「もっちろぉ~ん! だって前世の頃から魂に関してはエキスパートだからねぇ~。ふっふ~ん」
鈴の問いかけにそう答えれば、段々と足取りがしっかりしてきたこのゴーレムの制作者以外、この場にいた全員が目を見開いた。何せ二人がやったのは『魂の創造』などというとんでもない所業であったのだから。
「は……?…………はぁ!?」
王国側の人間はもう混乱と言って差し支えないほどに困惑していた。
大介とアレーティアの疑似的な死者蘇生でさえ崇め奉るに足る奇跡であるのに、この二人はそれに匹敵或いは神すら恐れぬ恐ろしい真似である。ベクトルはどうであれ、この二人が起こしたことを理解してしまったがために呆然とする他ない。何せメルドでさえもアゴが外れそうなまでに口を開いているのだから。
「ここ、まで……これが、神代魔法の力……」
「無理よ。こんなの、勝てるわけないわ……」
愛子と辻のつぶやきに重吾達もデビッドらも何度も深くうなずくばかり。
「流砂作るだけじゃなくてこんなことまで出来るのかよ……」
「確かそれは生成魔法だと言ってたな、健太郎……それで今度はおそらく魂魄魔法とやらなんだろう? だから、か」
重吾達はあの決戦の際に発生した流砂が愛子の技能、そして神代魔法というあらゆる魔法のルーツとなる存在の力によるものと今朝の朝食の席で聞いている。実際に味わい、改めて説明を聞いて凄さの一端を理解したつもりであったが、別のものだとこんな芸当まで出来るのかと思わず脱力しそうになっていた。
「……改めて、君達が味方で本当に良かったよ」
「あの戦いの流砂を作る魔法で十分驚いたつもりだったが、それを上回るとはな……」
クリスとジェイドのボヤきにデビッドとチェイスも無言で首を縦に振るばかりであった。愛子と合流した際に使える二つの神代魔法についても軽く教えてもらい、また重吾達のグループもそれによって無力化するのも見た。今度は魂を造って偽りとはいえ生命も創造した。どういった意図かはわかりかねたとはいえ純粋にすごいと彼らは感じていた。
「……まさか、これを――」
“あ、先生ちょっと黙っててください!”
“こっちが話すからちょっと黙ってて!”
そんな中、愛子だけは目の前の光景に驚きつつもある
すぐさま自分以外にも運用方法を思いついた人間を黙らせるべく振り向けば、デビッドもまた何かを思いついた様子であった。そこですぐに人差し指を唇に当てるジェスチャーをし、彼等にも口をつぐむよう目で訴えておく。
「え?……えぇっ!? う、嘘だろ恵里!? き、昨日の今日でそこまで行くか普通!?」
「いくらなんでもメチャクチャよ、エリ!! 前世ってものがあるからってここまでやれるものなの!?」
そんな中、光輝達は別方向で驚愕していた。何せこの魔法を恵里が手に入れたのは昨日の午後なのだ。それをたった半日そこらで自分達の知識に無いことをしれっとやってのけたことに驚きを隠せなかったのである。
「いや、まさかこんなに早くゴーレム作成とかやれると――おい、まさか」
「あ、これどう考えてもへ――」
“しーっ!! 幸利君も鈴もしーっ!!!”
“言うのはボクらの出番だから!! 頼むから今言わないで!!”
手にした神代魔法のネーミングからしてやれてもおかしくないとは思ったものの、だからってこんなに早くやれる奴がいるかと誰もが驚いたのだ……しかも徐々に何をやるつもりなのか気づいた面々も出てきており、必死になってハジメと恵里は黙らせにかかっていたり。
「ふむ……あれも出来るか」
「ええ。恵里さんならきっとやれるでしょう。お義父さん」
なお鷲三と霧乃は口にこそ出してなかったものの、他にも恵里がやれることを思いついていた。とはいえここは二人に花を持たせるべく、また自分達が水を差すべきではないとやや卑屈になりながら恵里とハジメを見守ることにした。
「こほん……さて。皆様も驚いた様子ですがこれから僕と恵里がこれを作った理由についてお話します」
そうして一度せき払いをしてこの場にいた王族と重臣ら全員に視線を向け、ハジメが声をかける。すると彼らも重大な話があると理解してすぐに意識をそちらに移し、一挙手一投足を見逃すまいと注視する。
「よし。じゃあまずはちょっとした芸から。お座り、お手」
王族らの意識が向いたところですぐに恵里は驚いている最中に“心導”で仕込んだ芸の一つを披露させる。恵里の命令通り、犬のゴーレムは後ろ足を畳んで座り込み、また右手をチョンと彼女の左手に乗せる。おお、と軽く驚いたところで今度はハジメが説明を始めた。
「このようにこの子はとても賢くて、生まれたばかりでも芸の仕方を教えればやってくれます」
「はい。じゃあ立ってぐるーっとボク達の周りを回ってー……はい上手上手~」
今度は口頭でゴーレムに周囲を走らせ、一周して恵里のところへ戻ってきたところで二人でゴーレムの頭をなでて褒める。その時、何かに気付いた様子のメルドが脂汗をダラダラと流し出した。
「お、おい……ハジメ、恵里。まさか――」
そこから先、何かを言いかけたメルドに先んじて恵里とハジメは答えを述べる。
「こんなに賢い子ならどんな場所でも連れてけるよねぇ~……例えば戦場とかさぁ」
「ちなみに僕と行動を共にしていた鈴と香織さんは治癒師なんですけど“聖絶”が使えるんですよ――さっき披露したみたいに、それが付与されたアーティファクトもこの子が使えたら便利だと思いません?」
――悪魔が浮かべるようなおぞましい笑みを浮かべて。二人の言葉に王族だけでなく重吾らもしばし息が止まった。これは紛れもない革命だ。このゴーレムは何もかもを一変させるとんでもない存在であったと理解させられたのである。
「まぁ流石に戦場に出すものは数も用途も絞りたいんですけどね。あくまで
「まぁメルドさんが欲しいんだったら何匹かくれてあげてもいいよねハジメくん?――たとえばガトリングを備え付けた子とかさぁ」
またそれ以外の用途もしれっと説明してくるハジメにルルアリアや重臣達、リリアーナでさえもすぐにこのゴーレムにどれだけの利用価値があるかをわからせられ、恵里の漏らした言葉に重吾らと愛子、メルドはその恐ろしさを瞬時に理解する。
「が、が、がと、ガトリング……」
「お、おい……た、確かお前達が使ってるメツェライは……」
「うん。レールガンだよ。強いよ」
仁村とメルドが口を何度もパクパクとさせながら指さしてきたことにちょっとムッとしながらも、間抜けな様子を面白がった恵里は二人にしれっとそう返す。そして恵里の言葉を正しく理解できたメルドや光輝達は『どこと戦争をおっ始める気だ!?』と心底恐怖した。
「……その、天之河。レールガン、って何だ?」
「……要はものすごい銃だと思ってくれればいい。それをハジメは作れるし、連射して撃てるものだって作ってる。とりあえず三つ手元にある」
とにかくニュアンスと彼らの反応からしてわからずともヤバいものだと理解していた重吾は、未だピンと来てない辻や吉野らに理解してもらうために光輝にどういうものかと問いかける。光輝が簡潔にそれに答えた途端、朝食の席でハジメが銃を使っていたと野村が話していたことを辻らは思い出し、それ以上のものを作れるとわかって顔を青くする。
ホントにヤバい奴らを相手にしてしまっていたのだということに改めて気づき、生きててよかったとこうして自分達が死なずに済んだことを心の中で感謝した。
「……と、とにかく、そのゴーレムの有用性は理解出来ました。その、お二人はどうされるつもりで……?」
緊張しすぎて顔色が青を通り越してもう白くなりかかっているルルアリアがビクビクと怯えながら問いかければ、ハジメと恵里は思案する素振りを見せつつそれに回答していく。
「とりあえず荷物の簡単な運搬に使っていただけたらな、って思ってます。オルクス大迷宮の採掘もこの子につるはしや明かりを持たせたり、土砂を運ぶ役割を担ってもらえば鉱夫の人達もやれる仕事が増えるでしょうし」
「戦場に出すんだったらこの子に武装を載せたりとか、後は荷車や馬車を引かせるのも使えるよねぇ~。別に作れるのは大型犬の形だけじゃないし。馬でも熊でもなんでもいいもん」
ハジメの方は実生活に根差した運用方法を、恵里の場合は戦場で使う際の具体的な案を出す。確かに運用目的に即した形状のものを作れるというのならそれに越したことは無い。いくら目の前の金属の犬が馬力が高くとも馬車を引いてもらうには流石に体が小さいし、やはり馬の形をしたものに引いてもらう方が兵士としても拒否反応が出辛いだろうと王国の上層部の皆は考えた。
「そういえば動力はどうなっているので? まさか魔力もなしに動いたりはしませんよね?」
「それに関しては魔物の魔石を使っています。それを加工して動力源にすることで動いてますよ」
ゴーレムは体内に動力源となる核を持っているのが通常であり、その核は魔物の魔石を加工して作られている。かつて解放者の住処を物色した際、手に入れたオスカーのお掃除ゴーレムの設計書にもそう記されてあった。
実はこの核は事前に作ったものであったりする。今朝の支度を終えた後、宝物庫に入れてあったそれを恵里に読み上げてもらいながら二尾狼の魔石を使って丁寧に作ったのだ。今のところ不具合は出ていないからとりあえずは成功といえるだろう。
「動力源まで調達が容易とは……」
「しかし、加工か。それに関して教えてはいただけないだろうか南雲殿」
「ごめんなさい。動力源に関しても、ゴーレムそのものの組み立てに関しても教えるのはちょっと……」
「ま、世界を一変させる代物だからね。貸し出すのはともかく作らせたくないってハジメくんは言ってたから。だから教えな~い」
重臣からの質問にもハジメはすまなそうに答え、恵里もこの技術そのものはわずかたりとも明け渡せないと明言する。素材に関しては吐いて捨てるほどこちらにあるし、今のところ王国から提供してもらおうとまでは思っていないのだ。
「あ、それともう一つ――メルドさんに預けた奴を解体したりして研究しようとしたら、そいつらの頭があっぱらぱーになるような呪いでもかけとくから」
ならばメルドが運用するこのゴーレムの姉妹機の引き取りを命じて解体すればと上層部が考えた途端、恵里が機先を制してきた。リバースエンジニアリング、ダメ絶対である。
「ええ。流石にそればかりは許せません。最悪魂魄魔法を用いて魂ごといじり倒します」
しかもハジメまで追撃をかけてきて、メルドやルルアリア、リリアーナなど一部を除いた王国サイドの奴らが震え上がった。だったらこんなものを寄越さないでくれ、と言いかけた人間までいる始末である。
「……まぁ確かにこんなものがわらわらといたら戦いの概念が一気に変わるな。それに一層悲惨になる」
「うん。懸念はわかる。でもな、何がしたいんだよハジメぇ……」
「いやだって……ハイリヒ王国も結構厳しい状況でしょ? だからメルドさんのためにもちょっとだけお手伝い出来たらなー、って」
「絶対これちょっとの範疇じゃないよぉ……大事になりかねないよ、絶対ぃ……」
深くため息を吐くメルドに頭を抱えてつぶやく光輝。今回の提案はメルドのことを思ってのものだとゲロるハジメであったが、すぐさま鈴にツッコまれてしまい、流石にやり過ぎたかとしょんぼりしてしまう。
「もう、鈴も光輝君もさっきからグチグチグチグチうるさいなぁ。別にいいじゃん。エヒトの奴との戦いの時に兵士だけでも頭数が欲しいってハジメくん……ぁ」
そうして反発する鈴と光輝にちょっとイラッとした恵里はうっかり口を滑らせてしまい、場の空気が凍り付く。思った以上にヤバいことをやらせるつもりだったことにこの場にいたほとんど全員が気づき、トータス会議で既に結論を出してた三人と何人かを除いてまたパニックを起こしたのである。
「え、エヒト様に反逆を!?」
「ば、ばば、罰当たりではないか!! い、いくらなんでも無茶苦茶だ!!」
「いやいやいやいや!? 思ったより動機が最悪じゃないか!! なんてこと言い出すんだ!!」
「ま、待て!! お、俺達が生かされたのも、ま、まさかそういうことなのか!?」
「ふざけんなバーカバーカ!! 結局お前らも俺達を利用して――」
「――静粛に!!」
重臣らや光輝、重吾達がわめき出し、恵里達を批判しようと一気にがなり立てようとしたその時、リリアーナの声が謁見の間に響いた。
「……了解しました。ならば来るべき時にはハイリヒ王国が総力を挙げて支援することをこのリリアーナ・S・B・ハイリヒの名において誓います」
そして恵里達の前でひざまずき、頭を垂れてそれに従うことを誓ったのである。これにはさしもの恵里も光輝らも驚き、トータスの人間のほとんどに憎悪を抱く愛子さえも興味深そうに目を細めた。
「お、王女様!? な、何をおっしゃいますか!」
「御身は王族なのですよ! ならばうかつに約束を取り付けることの愚かさをご存じでは――」
「私達は彼らに負けた身です!……それに、昨日の惨劇を忘れたとは言わせませんよ。それを引き起こしたのがエヒト神の使いだと名乗った存在によるものであることも」
彼女を諫めようと重臣らが声をかけるも、リリアーナの鋭い返しに一瞬で黙り込んでしまう。そう。ハイリヒ王国は恵里達に戦いを仕掛けて負けた国なのだ。本来ならば全権を掌握されてこの場で王族全ての血を根絶やしにされても仕方のない立場である。
にもかかわらずこうして国の存続を許され、また国のために色々と考えを出してくれているのだ。はた迷惑に思いこそすれど、それを拒否することなど出来はしない。それ
「……失礼しました、皆様。ですが王国が尽力するということだけは確約いたします」
「……本当にいいのか、リリィ。君達が相手にしようとしているのは――」
「えぇ。私達が信奉する神です。ですが、既に私達は神に見放された身ですよ。勇者様」
リリアーナが改めて自分達に協力を惜しまないことを約束し、そのことを光輝が思い直してほしいと声をかけようとするもルルアリアがエヒトと敵対することを明言する形で止める。そして臣下に向けてルルアリアは述べていく。
「少なくともハイリヒ王国の領土全域に神の使徒と名乗る何者かが跋扈し、このハイリヒ王国は風前の灯火となっています。もしかような存在がいたとするならばその者らを送り込めばおそらく魔人族も撃退出来たでしょう……それをせず、ましてや混乱を呼び込むようなことをしたということは、私達の信じる神というのはおぞましい存在であるということに他なりません」
昨日の惨劇により死に瀕し、またトータス全土で起きた異変を知ったことで目が覚めたルルアリアが静かにそう告げれば、その場にいた多くが一遍に黙り込み、何も言い返さぬまましばし時間が過ぎる。
「南雲様、中村様、そして谷口様。このトータスに来訪されてからの我らの無礼、許してほしいなどとは申しません。しかし私達にまだ利用価値を見出していただけるのであれば、どうかお力添えを。吹けば崩れる藁の家になったこの国をお助けくださいませ」
そうして玉座から立ち上がり、ルルアリアは頭を垂れた。その意味を誰もわからぬ訳がない。
アレーティア以外のトータスの人間もそれに倣って頭を下げ、それを見た光輝達や重吾らはどうすればいいのかと考え込む。アレーティアと愛子、ハジメに鈴もまた思案する中、恵里だけが頭をかきながら本音を漏らした。
「……本当は恩を売って二度と頭を上げらんなくするつもりだったんだけどねぇ。ま、自発的に首輪をつけてくれるんならいっか」
「既に私達は服従以外の選択肢はありませんよ。リリアーナ、よくぞ言ってくれました」
恵里の発言にハジメでさえも眉をひそめ、『そういうつもりだったんだ……』と言えば恵里も罪悪感でしょんぼりしてしまっていた。
その一方、ルルアリアはそもそもどんな無茶振りにも応じるつもりであったと腹積もりを明かすと共にあの場でリリアーナが誓いを立てたことを褒めた。
「お母様……いえ、王妃様。ありがとうございます」
「エヒト討伐のためにも私達は力を尽くしましょう。それが出来ないというならば今ここで処断します。狼藉者と共に」
感謝を告げるリリアーナには薄く微笑みを返し、従えぬ者はこの場で切り捨てるとメルドに視線を一度向けてからそう断言する。だが今度は誰も反論もすることなく覚悟を決めた様子で前を向いていた。ようやく彼らも目が覚めた様子である。
「ま、裏切らないんだったら何だっていいさ。ハジメくんにおねだりして洗脳用の道具を作ってもらう手間が省けたし」
「いや恵里の場合絶対何かの拍子に殺してたでしょ。降霊術みたいに魂魄魔法使って、いいなりにするとかしてさ」
「……ダメだよ?」
「ちぇー」
なおその直後に恵里と鈴の口からとんでもない言葉が出てきて本気で歯向かう意思が砕け散った。逆らう以前の問題だった。どうなろうとも服従の未来しか見えないのならせめて自分の意志でやりたいと思うのも無理は無かった。
「やはりか。だがハジメ君、恵里さん。ゴーレムの貸出の際に約束を破った相手を洗脳するような道具、それこそ首輪や腕輪でも作って配備すればよかったのではないか?」
「えっ」
「そうですね。これなら誰が監督責任を預かっているか、そして相応の報復措置がすぐ近くに見えるというのは裏切りを防ぐ意味でも有用でしょう」
「お爺ちゃんもお母さんも何言ってるの!?」
続く鷲三と霧乃の発言に心底肝が冷えた。もっとヤバい奴らがこんなすぐ近くにいるとは流石に思わなかったのである。具体案を出してきた二人に大慌てするハジメや雫、光輝らを見て絶対に逆らわないようにしようとハイリヒ王国の上層部の皆は考えた。
「貸し出し……であれば企業を立ち上げてはどうでしょう? 国御用達の企業ということで社会基盤を確立すれば少なくともこの王都の中では皆さんが軽んじられることは無くなりますよ」
「あ、いいね。それ。流石畑山先生。じゃあ“サウスクラウド商会”で」
「いやいやいや!? 何勝手に僕の名前使ってるの恵里!?」
「いいですね。であれば是非とも出資いたしましょう。皆様はそれぞれ行動して結構ですので、サウスクラウド商会の経理や事務などはリリアーナに任せます。よろしいですか?」
「えぇえぇえええぇ!?」
そして愛子が恵里達の立場確立のために企業の立ち上げを申し出てきた。しかもそれに恵里とルルアリアが乗っかる形で名前を使われたハジメを含めた地球組ほぼ全員が大いに困惑し、あれよあれよという間に話が進んでいく。
「な、中野さん。その……私、頑張りますね!!」
「え?……あ、いや、おぅ……頼むわ」
……いつの間にか信治の近くへと来ていたリリアーナがふんすと奮起した様子を見せれば、どういう状況かわからなかったもののとりあえず美少女に頼られるのも悪くないと思ってちょっと視線をそらしながらそう返す。
「――はいっ!!」
「これからよろしくお願いいたします。中野様。どうか末永く姫様とお付き合いくださいませ」
「えぇっ!? い、いいの!?」
満面の笑顔でそう返すリリアーナに思わず見とれ、しかもメイドのヘリーナが追い打ちをかけてきたせいで大いに焦るも、リリアーナも顔を赤らめながらこちらを見てきたためキュンとしてしまった。
「あー、そのー、お、お願いしましゅ……」
女日照りを脱却したことに喜びながらも、どこか照れくさくてむずがゆい感じに襲われた信治はぶっきらぼうかつ嚙みながらそう返す。その様をリリアーナもヘリーナも笑顔で迎え、もちろん浩介は嫉妬をこじらせて無事に死んだ。
「あー、そういやさ。ハジメくんが作ったゴーレムはどうするの? ハジメくんのお願い通り鉱山とかにも――」
「あ、流石にこれを市井に流しては大事になりかねませんのでどうかメルドのところに配備するのと馬車馬代わり程度に抑えていただけませんか」
「あ、ハイ」
なお、産業革命のオチはとてもしまらないものに落ち着いてしまった。竜頭蛇尾もいいところである。
とりあえず産業革命うんぬんに関してはあんまり肩透かしになってないといいなーと思いましたまる