おかげさまでUAも154436、お気に入り件数も830件、しおりも381件、感想数も537件(2023/2/4 18:38現在)となりました。誠にありがとうございます。いやもうここまで伸びるの久々で感無量です……。
そしてAitoyukiさん、殺戮演技さん、拙作を評価及び再評価していただき、本当にありがとうございます。そのおかげでまたしても話を書き進めていく意欲が湧いてきました。感謝いたします。
今回の話を読むにあたっての注意点ですが、いつものごとく少し長め(13000字足らず)となります。それに注意していただければ幸いです。それでは本編をどうぞ。
「ひとまず私達がするべきことは皆様が経営するサウスクラウド商会の支援、それと来るべきエヒトとの戦いにおいて戦力を用意する。他には何かご要望はあるでしょうか」
「ええ。後はこの子達に着せられた汚名の撤回です。やれないとは言いませんよね?」
話し合いもひと段落着き、ルルアリアがハイリヒ王国が恵里達に向けてすべきことの確認をすれば愛子が恵里達の汚名を晴らせと迫る。しかしそれを突きつけられたルルアリア含む王国サイドは渋い表情を浮かべるばかりだった。
「それもしたいところですが……何分この世界における聖教教会の存在とエヒト様への信仰は絶大です。教会の立て直しにも着手しようとは考えていますが、すぐに人を集めてお触れを出すにしてもというのも厳しいでしょう」
「いやそもそも無理でしょ」
苦虫を嚙み潰したような顔でそう伝えるとすぐさま恵里が反論をかぶせてくる。一体どういうことかと何人かが彼女に視線を向けてくるが、ハジメや光輝達、またルルアリアやリリアーナらはどうして恵里がそんなことを述べたのか心当たりがあった。
「浩介君達の話を聞いた感じだと王宮の方にも神の使徒、銀髪の甲冑の女が出たみたいだしね。城下町の方でも確認してるんだよソイツ……そうなるとさぁ、ソイツが王国各地に現れてあの混乱を引き起こしたと考えるのが自然じゃない?」
その指摘にハジメや鈴達はうんうんとうなずき、重吾達は目を見開いた。また愛子やルルアリアも顔を伏せるしかなく、誰もそれに反論などしない。事実、こうでもしなければ一度にトータス全土の混乱を引き起こすことは不可能だろう。またその暴動で教会が襲撃されたらしいことも踏まえれば聖教教会そのものの力も下がってしまっているだろう。このままでは八方ふさがりもいいところであった。
「そこでちょっとお願いがあるんだけどさ……ステータスプレートの偽造って出来る? それかギルドの人間を抱き込むとかさ」
そこで恵里は一計を案じる。おそらく効果は無いにしてもやらないよりはマシな策を。それを聞いて場がざわめくもその意図を察したハジメが恵里に尋ね返す。
「偽造ですか……ギルドマスターに聞くなり、実際にやってみないことにはわかりませんね」
「そう」
偽造、という単語に軽く顔をしかめつつもそうしなければ恵里達がマトモに行動できないということはルルアリアも理解は示す。しかしそれが出来るかどうかは話が別だ。ならばせめてギルドの人間を抱き込むにはどうすればいいかと思案しつつもルルアリアはそこで恵里の言葉の真意に触れた。
「……皆様が他の街でも動けるよう便宜を図るとしても、今の王国の影響力はとても低いです。お望みの通りになるかはわかりません」
「……ハァー。そっか。まぁ職員抱き込んでボク達を素通ししてくれるようになれば一番だったんだけどさぁ。それが無理ならせめてステータスプレートの名前のところだけでもごまかせないかなー、って思ってたのに」
ルルアリアのつぶやきに恵里がそう返せばざわめきの一部が止まる。そう。恵里が考えたのは他の街でも自由に動けるよう手を回せ、ということだった。
現状恵里達が拠点として問題なく使えるのは今いるハイリヒ王国の王宮か城下町、もしくはオルクス大迷宮にある解放者の住処ぐらいだ。後は上空からもしくは地面を掘って街に侵入する他なく、実際にやるとしてもキャサリンとクリスタベルを抱き込めそうなブルックの街ぐらいしか今のところ候補は無い。
そこで正規のアクセスで堂々と入るために何とかならないかと尋ねたのだ。
「見た目はどうするつもりだったんですか? 既に皆さんの人相書は出回っていますし、下手をしたら髪を染めたり瞳の色を変えたことすら記載されてるかもしれませんよ」
「こういう時のための神代魔法でしょ、畑山先生? たとえば――」
「魂魄魔法で私達を誤認させるような効果を発揮するアーティファクトをハジメくんから作ってもらえば大丈夫だと思います。そうでしょ、恵里?」
もちろん愛子はそれだけでどうにかなるのかと尋ねれば、ちょっともったいぶって答えようとした恵里に代わって鈴が説明をする。
ギルドの職員を介して街の出入りがフリーに出来れば一番楽だが、もしそれが無理な場合は偽造したステータスプレートを提示するしかない。その場合、見た目をどうごまかすかが問題となる。
そこで鈴と恵里の頭に浮かんだのが魂魄魔法による見た目の偽装であった。見た目を変えずとも相手が誤認してくれればいいのだ。自分達をお尋ね者でなく、どこにでもいるような奴だと思って気にも留めないでくれればいい。それで全てが解決するのだ、と。
「いやそうだけどさぁ……人の説明とらないでくれる?」
「別に説明だけなら私でも出来たし。もったいぶる恵里が悪いでしょ」
尤も、美味しいところを持っていかれた恵里は口をツンと尖らせていたが。対する鈴もこんな時までもったいぶる恵里に軽い呆れを見せている。一触即発になりかかった時、ため息を吐きながらハジメが二人の間に入ってどちらも抱きしめることでそれを止めた。
「二人とも……でもそれなら恵里に協力してもらえば大丈夫かな。魂魄魔法は魂に作用する魔法もありますし、おそらく可能だと思います。実際に色々と試行錯誤する必要がありますけれど」
そこで二人を抱きしめつつハジメが詳しい説明に移る。すると先のゴーレム作成を見ていた面々もそれに納得し、ならばやれるかと考えたルルアリアがギルドマスターを介して方々のギルドに声をかけようと考えたその時であった。
「……なあ、先生。だったらステータスプレート提示した時に魂魄魔法使うなりアーティファクト使うなりして騙くらかせば良くね? 門番の魂に勘違いさせたりしてよ」
『あ』
……先程から挙がっていた問題は、一足先に魂魄魔法を習得していた大介が放った一言のせいでアッサリと解決してしまう。神代魔法超便利。恵里と残りの馬鹿三人は改めてそう思った。なお他の人間は神代魔法のヤバさに恐怖することになったが。
「……コホン。えーと、その、とりあえず皆さん。念のため先程恵里が頼み込んだ二つのことをしてほしいんですが、いいでしょうか?」
「か、構いませんわ。その程度でよろしければ……ただ、永山様がたの処遇をどうされるか。それはどうされますか?」
とりあえず光輝はこれ以上変に話し合っていたらもっとヤバいネタが出てきそうな気がして急遽話を切り上げにかかるが、ルルアリアはここで重吾達の処遇についてもどうするかを尋ねてきた。そのことに光輝達は真剣な表情で重吾達を見やれば、彼らも覚悟を決めた表情で見つめ返してきた。
「……俺はどうなってもいい。リーダー、だからな。だから――」
「ま、待ってくれ!」
声を震わせながらも自分を犠牲にすることで野村達だけは許してほしいと訴えかけてきたことには恵里も気づく。なら
「お、俺達も……何でもやる。何だってやる……だ、だから、その……」
両隣にいた辻と吉野に手を握られながらそう述べる。彼らのグループに視線をやれば意を決した様子でこちらを見ていたため、じゃあ問題なさそうだと恵里が思案していると今度は愛子が彼らの前に立つ。
「待ってください中村さん……改めてお願いします。彼らの身柄、私の方で預からせていただけませんか?」
そうして交渉を持ち掛けてきたため恵里は目を細める。愛子がそれを頼み込もうとしていたことは朝食の席で光輝達から聞いており、一応ハジメと鈴とも“念話”を使って話し合いを済ませていたがまだ彼女には話してはいない。そこで二人に一度視線を向けてから恵里は愛子の方に向き直った。
「ちゃぁーんと面倒見てくれるなら問題ないよ……でも、一つだけ。これだけはやってもらわないと困るのがあるんだけどなぁ~」
「内容によります。言ってください」
「エヒトとの戦いの際にちゃんと役に立ってくれること。それぐらいはやってほしいんだけどねぇ~」
言葉遣いはともかくとして恵里の目は真剣であった。過去にエヒトの陣営につき、またこの世界に来て早々拉致された恵里にとってエヒトの脅威は嫌という程わかっているつもりである。記憶が確かならこの世界を捨てるはずだし、自分をなぶろうとしたことを考えれば何をやってくるかわからない。
これはハジメと鈴との話し合いの時でも出した主張であり、また二人もそれを受け入れてくれた。無数にいる神の使徒との戦いが今後控えている可能性を思えば遊ばせておける戦力など一人もない。むしろ自分達でも苦戦するようなあの神の使徒相手にどれだけ戦える人間を増やせるか。そこが懸念となっていたからこそ恵里は愛子に問いかけたのである。
「……少し、時間をください。それと、彼らが強くなる手段も」
その問いかけに愛子はうつむきながら答える。そう。あのデビッド達を容易に洗脳し、また鷲三と霧乃を羽虫を潰すかのように無力化した。あの存在の恐ろしさを愛子は忘れたことなどない。だからこそ濁す形で答えるしかなかった。今の重吾達では絶対に適わない相手であることを彼女も理解していたからだ。
「い、いや待ってくれよ。そ、そんなにエヒトの奴は強いのか……?」
「弱くなんてないよ。ボクの魂に鷲三さんと霧乃さんの体を改造して、しかも今の二人みたいな強さと力を持ってる奴を山のように従えてるんだ。そもそもボク達をこの世界に引きずり込んだ奴だよ? 何一つ安心できる要素なんてないね」
玉井の疑問に忌々しげに答えれば彼らも相手がとんでもない存在であることを知って顔を青くする。何せ自分達を容易に負かした相手ですら楽観視できない相手であるというのだから。昨日力の差を思い知ったばかりの重吾達にとっては絶望する他なかった。
「……私とこの子達が神代魔法を手に入れればどうですか? それと、中村さん達のように強くなる方法はありますよね?」
しかし愛子はそれに屈することなく淡々と恵里に問いかけてくる。瞳の奥から覗く憎悪が不退転の覚悟を訴えてきている。少なくとも目の前の女なら使えると見た恵里はすぐに“念話”でハジメ達と相談することにする。
“どうするの? バラす? 実際戦力は多いに越したことはないしさ”
“神代魔法の取得には賛成だけど、魔物肉を食べることは僕は反対かな。苦しんでまで手に入れるモノじゃないよ”
“まぁ恵里が補助してくれれば痛みも問題なくなるだろうが……使いこなせるかは別問題かもしれねぇ”
“俺は肉食わせるのだけはイヤだな。だって俺らが苦労して手に入れた力なんだぜ? そうそう簡単に明け渡せるかよ”
恵里の提案にハジメは半分賛成を示し、他の皆もそれに乗っかっていく。誰もが神代魔法の取得に関して異は唱えないものの、やはり魔物の肉を食べさせることは理由こそ違えど抵抗感があるようだ。
“礼一の言い分はわかるぜ。あの激痛に耐えて手に入れたものだからな……あの頭がおかしくなるくらいの痛みにな。恵里、お前は永山達を魔法で気絶させたりする気はないんだろ?”
“当たり前だよ幸利君。ボクは食べてくれた方がいいとは思ってるけど、あの痛みを耐えずに力を手にするなんて横着は許さないから”
礼一の主張に幸利も同意を示しつつ、恵里に麻酔代わりに“呆散”を使う気が無いことを確認すればやはりといった様子で目をつぶる。恵里は重吾達が神代魔法の取得と魔物肉を食べること両方に肯定的ではあるものの、その際生じるリスクを軽減させようと思える程、彼らに対して好感を持っている訳でもない。
“食べてる時の皆さんを見ていて結構辛そうだったのは私もわかるから、やめたほうがいいと思います”
“うん。アレーティアさんの言う通りだね。ともかく他の方法で永山君達の底上げを図ろう。恵里もそれでいい?”
“そうだね。とりあえず魔物の肉を食べるのはナシ、ってことで”
“ちぇー……まぁいいや。他に方法はあるかもしれないしね”
こうして話し合いを切り上げた恵里達であったが、重吾達のグループや愛子にデビッドら、王族の面々などは心配そうにこちらを見つめており、またメルドだけは冷や冷やとした様子でこちらを見ている。どうやら思っていた以上に話に時間がかかっていたらしい。失敗した、と誰もが思う中、すぐにまたハジメが“念話”を使ってあることを提案してきた。
“ど、どうせだし、僕達がたどった経緯とかどういった力や魔法を使えるかとかを説明しない? 王国の人達も協力してもらうんだし、いいでしょ?”
“確かにやってもいいと思うけど……いいの、ハジメくん? あと皆も。別に、さっきのパフォーマンスでボク達がどれだけすごいかわかったと思うし。手の内を明かす必要なんてないよ?”
それは自分達のこれまでの道のりやその過程で手にした力についてちゃんと説明することであった。その提案に鈴らは軽く考え込むものの、恵里だけはそれをもったいないと感じて別に披露しなくても問題ないと伝える。しかしハジメはそんな恵里の両肩を掴みながら説得をする。
“うん。どうせエヒトとの戦いの時にお世話になるんだし、明かしておこうよ。それに前に信治君がイタズラした時に生成魔法が無機物にも効果があるってわかった時のことも考えれば、何かの拍子にいいアイデアが浮かぶかもしれないよ? だからやろうよ”
“そう、だね……うん。わかったよハジメくん。じゃあ皆、どうする?”
その説明を聞いてストンと腑に落ちた恵里はすぐに皆に尋ね返せば、皆もそれに納得した様子を見せてすぐに返事をしていく。
“そうだな。リリィまで巻き込むことになったんだし、別に明かしても大丈夫だと思う”
“だな。俺もその……姫さんやヘリーナには明かそうかなー、って考えてたし”
“中野君……まぁでも決まりだね。じゃあ伝えようよ”
そうしてすぐに意見をまとめると、困惑した様子を見せる重吾達のグループや静かに自分達を待っていてくれた愛子や鷲三に霧乃、そしてデビッド達と王国の面々に代表して光輝が声をかける。
「お待たせしてすいません。もしよろしかったらここにいる皆さんでもう少し話し合いをしませんか? 俺達がたどって来た道のりやその過程で手に入れた力に関しても説明したいんです」
「いえ。そのような話が聞けるのであれば待った甲斐があるというものです。ここにいる皆でうかがいたいと思うのですが」
ルルアリアを含めた王国側の人間もそれに是を唱え、メルドも助かると言わんばかりの表情でこちらを見ている。そこで恵里から『ここだと立ち話が続くし、食堂で腰据えて話し合わない?』と持ち掛けたことで王国側の人間もちょっと顔を引きつらせながらもそれを承諾。自分達より上の立場である恵里らからの言葉を断るのも不味いと考え、全員で移動を開始するのであった。
「もうちょい詰めろー。なるべく近くで見られるようにイス配置してくれー」
「その机はそこで。それとイスももう少し離して。うん、そんな感じ」
「ルルアリア様。私室よりお持ちしました」
「あ、ありがとうございます。メルド……」
「いやなんで普通にイスがどこからともなく出てくるんだよ……」
「えぇ……なんで四次元〇ケットがあるの? 剣と魔法の世界何でもアリすぎない?」
恵里達が食堂に移動した後、すぐに話し合いのために机やらイスやらを動かしにかかる。
既に多くの人間が朝の食事を終えていたことから話し合いのためのスペースの確保は難しくは無かったものの、チョークすら存在しないせいで黒板やホワイトボードに何があったかを書き記すことも出来ず、仕方なく円陣を組むようにイスやら机やらを配置していく。
なおその際王妃であるルルアリアの座るイスに関してだがこれはそのまま持ってきたのではなく、メルドがハジメに頭を下げて宝物庫を借り、一度私室に寄ってから持ち込んだものである。無論それを見た王国の人間も重吾達も大いに驚き、何秒か動きが止まっていた。
「えーと、そこにいるの魔物、だよね……?」
「大丈夫よ! イナバちゃんとユグドラシルは悪いことしないから!!」
また雫は別室で待機させていたイナバとユグドラシルも連れて来ていた。一応オルクス大迷宮で何が起きたかの説明のため……ではあるのだが、こうして抱きかかえてる辺りむしろ単に可愛がりたい様子である。さしもの光輝も鷲三と霧乃に雫の分身が殺された時のショックのことを考えると何も言えず、他もまた同様であった。
そんな彼女の腕の中のイナバも仕方ないといった様子で抱かれているものの、その視線がちょくちょく鈴や優花に行く辺り正直であった。なお雫はそれに気づいてちょっぴりショックを受けている。
「よし。じゃあ皆さん席についてください。これから俺達の経緯について話を始めます」
“ハジメ、恵里、鈴。真ん中に来てくれ。説明をするんだったら三人がいた方がやりやすい”
“うん。わかったよ光輝君”
“はいはい。しょうがないなぁ~”
“うん。今行くね”
イスと机の配置も終わったところで光輝は真ん中に陣取って全員に声をかけ、“念話”で三人を引っ張り出す。するとメルドも席には座らずに中央の方へとやって来た。
「おいおい俺は仲間外れか? こういう時は俺もいた方が都合がいいだろう」
「あ、すいません。助かりますメルドさん――ではこれから俺達の身に起きたことをお話しします」
そうして光輝手動で語られるこれまでの経緯。まずはオルクス大迷宮で起きた様々なイベントを話す。神の使徒との遭遇、操られた冒険者の暴走、そしてトラップによる転移とそこで繰り広げられた死闘を。
「この話に関しては俺達以外にも証人がいる……永山、頼む」
「……はい。確かに、南雲達に向けて神殿騎士の人達が攻撃をしていました」
メルドが目配せをしたことで重吾もそれに答える。この国の兵士や神殿騎士に裏切られてしまった以上、もうかばう必要も義理も無い。それ故に出た返答を聞いてルルアリアらは苦い表情になった。いくら教会の差し金とはいえここまでやってしまっていたのだ。心底恨まれても仕方ないということを改めて理解したからである。
“恵里、とりあえず変な事言わないでね?”
ふと鈴が“念話”で釘を刺してきたため、ちょっとムスッとした様子で恵里は鈴に反論をする。
“変な事? 言う訳ないでしょ。どれだけ信用ないのボクは”
“いやだって、あの時追い詰められたことへの文句をグチグチ言いそうだし”
“うっ”
“これをダシにして協力を迫るぐらいやりそうだからね……もう約束取り付けてるし、向こうも乗り気なんだからいいでしょ?”
「うぅ~……」
しかし鈴とハジメの推測が当たっていたため何も言い返せず、二人を恨めし気に見るしか出来ず。そんな恵里にハジメは後ろから抱き着きながら『悪いことしないで。ね?』とお願いしてきたため、恵里もまた渋々従うしかなく、軽く頬を膨らませるしか出来なかった。
「恵里……えーと、コホン。その後俺達はオルクス大迷宮を無事に突破して、そこで解放者――おそらく皆様には“反逆者”と言った方がわかりやすいかもしれません。その一人の住処へとたどり着きました。そこで生成魔法という神代魔法を手に入れた後、そこで訓練や色々な準備をしてから地上に出ることになったんです」
「おーい光輝ぃー。俺の活躍どこいったよ? 説明しろよー」
「いや中野、アンタと近藤と斎藤の恥を今ここで広めるけどいいの? 私は構わないけれど」
「あ、すいませんやっぱナシで」
そうして簡潔に光輝が説明をする際、生成魔法の真髄の一端を突き止めるというとんでもない活躍を果たした信治が口を挟んだものの、即座に優花から鋭い返しを食らって撃沈し、また礼一と良樹から無言で肘鉄を受けて軽く情けない悲鳴を上げるしかなかった。自業自得である。
「リリアーナ様。中野様とて普通の人間ということでしょう。あまり高く持ち上げては中野様の負担となります」
「いえ、わかってます……わかってますけどぉ」
なおリリアーナは信治の情けない姿を見てちょっとしょんぼりとした様子であり、ヘリーナになぐさめられていた。言動こそ荒々しかったものの、自分を助けてくれた素敵な人が実はとんだ悪ガキだったというのは彼女としてもちょっとガッカリしてしまったらしい。それでも幻滅した様子そのものは見せてない辺りお察しである。
「信治……礼一と良樹も……えー、オホン! ともかく、二か月の間訓練と様々なものを開発、製造した後で俺達は地上に出ました。そうして俺達は三手に分かれ、グリューエン大火山に行ったハジメ達は空間魔法という神代魔法も取得しました」
「……なぁ、質問いいか?」
そうして恵里達のグループが新たな神代魔法を取得したことを光輝が述べると、おずおずと仁村が手を挙げてきたため、光輝はすぐに彼に発言を促す。
「あぁ、構わない。仁村、気になることでもあったなら言ってくれ」
「……じゃあ聞くけどさ、お前らバイク作ったよな」
「あぁ、『シュタイフ』のことだよね。どうしたの?」
そこで出て来たのはバイクのこと。ちなみにバイクだけでなくハマータイプの車、キャンピングカー、バスにもハジメはそれぞれ名前を付けており、順に『ブリーゼ』、『ライゼ』、『フェアメーゲン』という。なおちゃんと名前で呼ぶのは恵里やハジメといったオタク連中ぐらいであり、大体はわかりやすい車種とかで呼ばれている。
閑話休題。
自分達がバイクを作ったことを尋ねてきたため、そうだとハジメが答えると仁村は据わった目でこちらを見ながらあることを問いかけてきた。
「いやお前らがバイクに乗ってたのは野村から聞いたんだよ……てことはよ。座席、作れるんだよな?」
「いや、そうだけど。何を今、さら……ぁ」
恵里がそれに当然だと答えた途端、どんな意図を持ってこの質問をしてきたのかに気付いてハジメ達はビシリと固まる。その瞬間重吾達の視線は険しく、エラくネバついたものへと変化していた。
「じゃあイスぐらいは作れるよな。なら他にも色々何か作ってたりしないか?」
「作り方を覚えてたとか色々やってみたのかは知らねぇけどよ……俺らが思ってたよりも苦労なんてしてないだろ。なぁ?」
「ていうか車作れて銃作れるんならどんな魔物でも倒せるんじゃないか? どうなんだ南雲?」
「い、いや苦労はしたからね!? 実際魔物は強かったし、銃だってすぐ作れた訳でもないから!! 使えない階層だってあったんだからね!!」
玉井、相川、野村からじっとりとした視線を向けられ、ハジメも目をそらしながらも何とか答えようとする。
階層を一つ進む毎に魔物も階層そのものの特徴も変わるし、強さも跳ね上がる。銃だって作るのに苦労したし、使えない階層があったのは間違いない。間違いない、のだが……如何せん各階層に造った拠点のことを考えると『思ったより苦労はしてない』と彼らが決めてかかってきたのもあながち嘘ではなかった。
「へぇー……じゃあどうして俺達の方を見ないんだよ。え?」
「いやー、そのー……」
とはいえ流石に目をそらしながら口にした言葉は信用してはもらえないようで。一層不信感に満ちた眼差しを向けられてハジメは思いっきりしどろもどろになっている。
「はぁ? 何言ってんのさ。ボク達はだーいぶ苦労してオルクス大迷宮を突破したんだからねぇ~。言いがかりもいい加減に――」
「その割にはあんまり髪の毛痛んでないんじゃない。手入れ、ちゃんとしてたでしょ?」
「そうだね~。魔法で水は出せるにしても、あんまり臭くないのはどういうことかな? むしろ石鹼のにおいがするけど?」
そこですぐさま噓を吐いて騙くらかそうとした恵里であったが、今度は辻と吉野が追及してきて鈴達が思いっきり脂汗を流し出した。何せ彼女達の言う通りなのだ。何も否定なんて出来やしなかった。
攻略初期の段階で風呂のアイデアもハジメが出したし、石鹸だって途中から作って使用していた。こればっかりはどう言い訳したものかと恵里以外の女子~ズはひたすら頭をフル稼働させるも、冷静な恵里以外はすぐに答えを出せずにいた。
「そんなの地上に出た後に街に寄って、買い物で手に入れた後で使ったんだよ。人を疑うとか恥ずかしいと思わないの?」
「……指名手配されてたお前達が、のんきに買い物なんて出来たとは思わないが?」
「変装してたからね。ま、あくまで髪染めてカラコン着けて、後はちょっとボロく見える装備を身に着けてただけどさ」
完全な嘘ではない理由を話せばすぐさま重吾が質問を返し、それにも事実を混ぜた嘘を返す事で恵里はいなそうとする。だがここでとんだ伏兵が姿を現した。
「あ、あの……あの! わ、私が全部話します!」
なんとアレーティアである。意を決した様子で真ん中へと向かおうとしたのを大介が腕を引っ張り、どうにか彼女の蛮行を阻止することが出来た。
「ちょ、馬鹿っ!! アレーティアお前!!」
「だ、駄目っ! こ、ここで嘘を吐いたりうやむやにしたらきっと大介達の、皆さんのためにきっとならないから! 後まで引きずるよりも今ここで……!」
しかも自分の過去のやらかしが深く関わっているというのだからタチが悪い。そのことを理解できた恵里達はどうやって説得したものかと、不信感を顕にしている重吾達に見つめられながらも必死に考える。
「……メルド。オルクス大迷宮で何があったかを詳しく話してください」
「う、うぐっ………………御意」
だが今度はメルドが裏切った。これにはアレーティア以外の全員が目をひん剥き、何度も何度も口をパクパクさせて間抜け面をさらしてしまう。何度も目を泳がせ、
「こ、この裏切り者ー!!」
「国家の犬ー!! そんなことして恥ずかしくないんですかー!!」
「ふふ……お前達、最後に一つ指導をしてやろう。国に仕えるということはこういうことだ!!」
「イイ顔しながら言いやがったコイツ!? このろくでなしー!!」
こうなったら実力行使で黙らせてやると恵里達が息巻いているととてつもなくイイ笑顔の愛子と心底呆れた様子の鷲三、霧乃がスッと彼らの前に立ちはだかる。
「どういうことですか? 説明をしなさい」
「あ、あの……せ、先生……こ、これには深いワケというものがありまして…………」
「でしたら是非とも弁解の機会を設けたいと思います。どうぞ?」
「アレーティア! アレーティアしっかりしてくれぇー!! 泡吹くなぁー!?」
奈落にいた魔物とは別ベクトルで怖い愛子に見つめられてアレーティアは気絶し、香織と妙子もひどくうろたえる。大介なんかパニックを起こしてしまい、恵里とハジメ以外の皆もどうしようどうしようと言い訳を堂々巡りさせるばかり。
「さて。わしらにも知る権利というものはあると思うのだが?」
「いや、割と悲惨なんで聞く必要はないと思うけど?」
「でしたらどういう理由であのウサギ型の魔物と樹の姿の魔物を連れているのです? 詳しい説明を私達は聞いてませんが?」
「も、黙秘権を行使します……」
「「却下」」
そうして愛子、鷲三、霧乃が時間稼ぎを成功させたことで奈落の底での生活が完全にバレてしまう。結果――。
「お前ら……ホントお前ら……」
「信じらんない……サイッテー」
重吾達からの視線は嫉妬と憎しみが混じったものになり、自分達が苦労してる時によくもまぁそんな楽し気に生活してたなと恨みがましい目で見つめてくるようになった。流石に自分達の立場が下であることはわかっていたため、あまり言及してくることはなかったが。
「……私の苦労ってなんだったんでしょう」
「……途方もない苦しみを受けることが無かったことを喜べばいい。それでいいんだ、愛子」
「デビッドの言う通りですよ……だから彼らもこうして変わらずにいられたんです」
「無事でいたことを喜んだ方がいいさ、愛子ちゃん。心が壊れてしまってたというよりはよっぽどね」
「そうだ。体の一部を失うことすらなく無事に帰ってこれただけでも奇跡なんだ。それでいい」
愛子は燃え尽きた様子でイスに座ってたそがれ、そんな彼女をデビッド、チェイス、クリス、ジェイドがそれぞれの言葉で慰める。ただ、そんな彼等四人も困った様子でこちらを見ていたが。
「……メルド。あなたが報告を控えたのも理解は出来ます。が、今後二度とこのようなことは無いように」
「……御意」
頭痛が止まらないといった様子で頭を押さえるルルアリアとすごい申し訳なさそうな様子でかしずくメルド。重臣達も反応に困った様子で『えぇ……』と漏らすばかりであった。
「ねぇヘリーナ、こんな時はどんな顔をすればいいんでしょう」
「……とりあえず笑顔は相応しくないかもしれませんね、リリアーナ様」
「え、えーと……せ、誠心誠意、その……なんでもやりますんでどうか許してぇー!!」
ものすごい疲れた様子で信治の方を見ているリリアーナとヘリーナ。自分は無力感で苦しんでたのに彼らはあんまり追い詰められた様子ではないことにひどくショックを受けていた。そして信治の方もそんな二人を見ていたたまれなくなって即土下座。ひどい光景が広がっていた。
「ふむ……まぁ思うところが無い訳ではないが」
「むしろ上手くやったと褒めるべきでしょうね。ありがとうございますハジメ君」
「ここでほめるのやめてくださいしんでしまいます」
しかし鷲三と霧乃は恵里達にどこか釈然としない思いを抱きはしたものの、むしろ上手く切り抜けたことを評価していた。なお今この場でやるべきことではないし、感謝されたハジメの目はひどく濁っていた。火に油もいいところである。
「ハッ、だったらそっちもついて来ればよかっただけなのにねぇ~。負け犬の遠吠えは見苦しいよぉ~」
「お願いだから恵里ちゃん煽らないで!! “鎮魂”!!」
「はい恵里ステイ! ハウス!! “鎮魂”!!」
その一方で恨めし気に見てくる重吾達を思いっきり恵里が煽り、その恵里に組み付いた香織と鈴がどうにか止めようと必死になって精神を落ち着ける魂魄魔法の“鎮魂”を叩き込む。流石に二人がかりだと厳しかったらしくぷしゅ~と敵意が抜けて穏やかな表情に変わる。
「キュゥ~……」
そんな様子の人間達をイナバとユグドラシルは半目で見つめる。流石にイナバもこればかりは馬鹿馬鹿しくて止めようという気にもならないらしい。顔を洗ったり後ろ足で耳をかいたりと気ままに振舞う。ユグドラシルもとりあえず成っている果実を投げれば少しはマシになるだろうかと考えはしたものの、結局ダメだろうと判断してただそれを見ていた。
誰も悪くなどない。
皆が最善を求めて努力をし、目の前の問題に対処し続けてただけだというのにこうしてまたすれ違ってしまう。
世の中はいつだって残酷だ。理不尽だ。それをこの場にいた誰もが感じ、嘆くばかりであった……。
想定ではもっと後で重吾達との関係が悪化(笑)する予定でしたが、「流石にここで重吾達は気づくよな。車とバイク見てるし」と思ってこうなりました。その結果、とてつもない悲劇が起きてしまいました。よよよ。