あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは読者の皆様への盛大な感謝を。
おかげさまでUAも158332、お気に入り件数も837件、しおりも387件、感想数も555件(2023/3/7 22:37現在)となりました。誠にありがとうございます。我ながら大分遠いところまで来たものだと思います。それもこれも皆様が拙作をひいきにしてくださるおかげです。ありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当に感謝いたします。今回もまた筆を進めるための力をいただきました。いつもありがとうございます。

今回は『本文は』ほんの少し長め(約11000字程度)となっております。それでは本編をどうぞ。


六十四話 ハイリヒ狂騒曲

「よし、それじゃあ空間魔法と変成魔法……変成魔法の方はさっきハジメが言った推測がそれっぽいな。えっと、空間魔法についてまずは皆で推測なり疑問に思ったことを言ってみるなりしてみようか」

 

 先程ハジメが語った変成魔法に関する推測がそれっぽかったためそちらは後回しにしようと考えつつ、光輝は空間魔法の真髄がどういったものかについて皆で考えようと声をかけた。すると早速ハジメが手を上げてきたため、すぐに話を振る。

 

「じゃあハジメ、頼む」

 

「うん――さっき説明しなかったんだけど、この空間魔法があれば容量はどこまでになるかわからないけど宝物庫の再現が出来ると思うんだ。ほら『空間』だしね」

 

 いきなり軽く脇道にそれかかったものの、ハジメの言葉を聞いて場は大いに沸いた。

 

「マジか!! そ、それなら俺達も好きに道具を持ち込んだり、回復薬の入った容器が壊れることに悩まなくって済むんだな!」

 

「あ、あのガントレットも修復出来るわよねハジメ君! だったら暗器……コホン、道具の持ち運びも楽になるわ!!」

 

 何せハジメが常に使っているあの何でも入る上にすぐに取り出せる四次元ポケ〇トみたいなアーティファクトだ。これがあるだけでやれることの幅がかなり広がる。これには光輝達だけでなく鷲三と霧乃、フリード、リリアーナにヘリーナまでもがひどい興奮を覚えてしまう。

 

「なるほど。確かにそれなら道具の携帯も容易になるな」

 

「そうですね。とはいえ一度操られた私達が持つには少々危険ではありますが」

 

 自分達がかつてエヒトに操られていたことを思い出し、少し顔をうつむかせながらも鷲三と霧乃は宝物庫を評価する。今ここで暗い顔をしても意味は無いと利便性の方に意識を持っていきながら。

 

「本当にとんでもないことを言ってのけるな、お前たちは……いかん、恨みがぶり返してきた」

 

 フリードもとてつもなく便利な道具を自分も手に出来るやもしれないと口元が緩むのを抑えきれなかったものの、ふと自分がヒィヒィ言いながらグリューエン大火山を攻略してた時のことを思い出し、思わず額を手で押さえた。時効になるにはまだ早いようである。

 

「確かに、あの場で言わなくて正解だったと思います。これ一つで色々と変わってしまいますもの……」

 

 リリアーナは今も恵里と一緒にゴーレムと戯れている少年を見ながらつぶやく。謁見の間でお披露目されたあのゴーレムもそうだが、彼が持っているあの指輪も量産できるということに戦慄せざるを得ない。

 

 これに物資を入れてしまえばその分身軽になって行軍時のスピードを増やせるし、諜報が出来る人間に持たせればいくらでも敵方の資料を盗み取ることにも使えるだろう。もちろんこれらの方面以外にもあのアーティファクトは役に立つ。仕事道具などを入れる便利な道具として、買い物袋として――或いは、窃盗したものをしまい込む便利な隠し場所として。

 

 何もかもを変えてしまう、全てが根底からひっくり返されてしまう危険なものであると認識できたからこそ冷や汗を流すしかなかった。

 

(これ一つあれば様々なものを用意出来ますね。日常生活においても腐らないアーティファクトですし)

 

 その一方、ヘリーナはもし手に入った際の活用方法を考えていた。無論彼女とてこの道具の危険性はわかってはいたものの、自分の立場がただ王族に仕えるだけのメイドでしかないということを自覚している。これの扱いに関しては国の重臣や陛下の代わりにかじ取りをしている王妃に任せるべきだと考えていたからだった。

 

「ど、どうなんだハジメ。やってみてくれるか?」

 

「うん。じゃあ実際やってみるよ。雫さん、それを貸して」

 

 雫は身に着けていたガントレットを外し、すぐにハジメへと渡す。ハジメもそれを受け取り、かつて修復できなかった魔法陣に触れ、頭に刻まれた知識を元にそれを直そうと試みる。奈落の魔物の深い階層にいた魔物の魔石を取り出して砕き、魔法陣を描き直す。そして空間魔法を生成魔法で再度付与したところでハジメは全員の顔を見回した。

 

「これで修復は完了したはず。じゃあ中のものを取り出してみるね」

 

 誰もが唾をのみ、備わっていたはずの機能がよみがえったかを今か今かとガントレットに視線を注ぐ。瞬間、ガントレットは一瞬だけ輝き、中に入っていた服――かつて恵里をさらったであろう神の使徒が着ていたとされるシスターの服がそこに現れた。

 

「よしっ!」

 

「やった……」

 

「すごい……」

 

 成功した。出て来た中身はこれだけであったものの、間違いなく直せたのだと全員が理解した。

 

「やったよハジメくーん!!」

 

「さっすがハジメだ!!」

 

「よくやった。見事だ」

 

 一瞬で場は歓喜に包まれる。ハジメに抱き着いた恵里と鈴ごと親友達はもみくちゃにすると、三人まとめて一気に胴上げ。全員でその喜びを分かち合った。

 

「全くアイツらは……すいません王女様。もう少しだけ待っていただけますか」

 

「いえ、構いませんよメルド」

 

 王女ほったらかしにして身内で盛り上がる彼らに少し呆れてしまうメルドであったが、リリアーナはあまり気にした様子もない……という訳でもなかった。

 

「リリアーナ様。先程から視線が中野様に注がれてますが、うらやましいのですか」

 

「っ!? そ、その……」

 

 さっきからずっと視線は信治に注ぎっぱなしであり、ほんのわずかに唇がとがっている。長い付き合いであったヘリーナは少し口元を緩めながら尋ねるも、リリアーナはしどろもどろになって肯定も否定もしない。きっと彼ともこういうことをしたいのだろうと考えていると、ようやくメルド達が動き出した。

 

「だ、大介ぇ~。け、研究は~?」

 

「お前達ー、そこらで胴上げも切り上げろー。やるなら夕食と風呂を済ませてからにしろー」

 

「嬉しいのは嫌と言う程わかったが、ここで時間を浪費するな。そろそろ作業に移ったらどうだ」

 

 アレーティア、メルド、フリードに声を掛けられ、『あぁそうだった』と全員が思い直すとすぐに持ち場へと戻っていく。そしてちょっと顔を赤くした光輝がうつむきながら軽くせき払いをすると、全員に向き直った。

 

「コホン……えーと、じゃあ他に誰かいないか? ちょっとしたことでもいいんだ。何でもいいから言ってほしい」

 

「あ、じゃあちょっと確かめたいことがあるんだけど」

 

「俺もだ」

 

 そうして再度話を振ると、今度は恵里と幸利が手を挙げてきた。気恥ずかしさをごまかすためにも、光輝は二人の方を向いてすぐに確かめたいことの確認に移った。

 

「じゃあ恵里と幸利。それぞれ意見を言ってほしい」

 

「ボクのは簡単だよ。単にどこまで“界穿”が届くかどうかってだけ」

 

「こっちもちょっとした疑問だ。“界穿”はどうやって別の空間と繋いでるのかが知りたいってだけだな」

 

 奇しくも二人の話題に挙がったのは“界穿”のことである。既にどういった魔法であるかはグリューエン大火山を攻略した面々は知っていたものの、まだその時はそこまで気にかかっていなかった。フリードのことや魔人族の事情に鷲三、霧乃の襲撃やハイリヒ王国を急襲したことなどで考える時間が無かったからである。

 

 しかしこうして余裕が出来、先程の説明会で披露した際に二人は気になったのだ。恵里は移動できる範囲を、幸利はその原理について知りたいと思ったのである。そこで鈴がうなずくと、すぐに意を決した様子で魔法を発動しようとする。

 

「じゃあやってみるね。“界穿”……駄目。少なくとも地球には繋がらない」

 

「異世界転移だもんね。座標とかがわかる道具があればともかく、流石に厳しいかもね」

 

「そうだね。まぁでもエヒトの奴がボク達をトータスに引きずりだせたんだからきっと方法はあるさ」

 

 そこで鈴は自分達の目的の一つである『地球への帰還』が出来るかを確かめるため、早速“界穿”を発動するが失敗。かなりの魔力を込めたものの、繋がるどころか光の膜すら現れず不発となってしまった。落ち込む鈴をハジメと恵里が慰める。

 

 そうして鈴が少し落ち着いたところで、彼女が身に着けていた魔晶石に先程使った分の魔力を恵里が注ぎ込み、話を進めるよう光輝に進言する。

 

「エヒトの野郎がボク達をトータスに引っ張って来たんだからきっと帰る方法はあるよ。まずはそれ以外の方法を探そう」

 

「そうだな。恵里の言う通りだ。じゃあ早速調査をしてみよう。空間魔法に一番適性があった鈴が恵里と組んで届く範囲を、“界穿”の原理を調べるんだったら浩介か礼一が付き合って調べてほしい」

 

「わかったよ光輝君」

 

「あ、俺の方は浩介の分身で構わねぇぞ。本人は本人で色々とやってくれりゃいい」

 

「悪い、幸利」

 

 そうして話は進んでいく。グループを作って分け、それぞれに光輝が調査を命じればすぐにまとまった。二つのグループが出来上がった後、光輝は改めて仲間に何か意見があるかを尋ねた。

 

「じゃあ他に誰か意見は無いか? 俺はフリードさんと一緒に変成魔法が本当はどんなものかを調べようと思ってるんだけれど、言いたいことがあるなら言ってほしい」

 

「ならハジメと一緒に造るゴーレムについて打ち合わせをしたいんだがいいだろうか?」

 

「そうですね。宝物庫は鈴と一緒に作った方がいいものが出来ると思いますし。じゃあ皆、僕はメルドさんと一緒にゴーレム造りをしたいんだけどいいかな?」

 

 『異議なーし』と光輝とメルドの提案にほとんどの面々が答え、フリードも目をつむったままではあったが反対の声を上げることは無かった。その後、まだ空間魔法を実際に使ったことのない浩介本人と礼一が空間魔法の運用方法を相談したいと述べ、各グループに誰を配置するかを決めてから事前の話し合いは終わりを迎える。

 

「よし。それじゃあ一旦解散! 夕方になったら再度この部屋に戻って各自報告。それでいいか?」

 

 『おー!』と元気のいい声を全員が上げたのを聞くと、すぐに一行は解散する。

 

「じゃあハジメくん、いってらっしゃい」

 

「うん。恵里も鈴もがんばって」

 

 そうして各々あいさつを済ませるとそれぞれが決められた場所へと移動していく。

 

 フリードの変成魔法を調べるグループはフリード当人に光輝、雫と鷲三、霧乃が担当することになった。またメルドが運用するゴーレムに関する打ち合わせの方にはハジメとメルド、そして一応浩介の分身の一人もアドバイザーとして参加している。

 

 幸利の疑問について考えるグループには浩介の分身一人に加えて信治と良樹を引っ張ってきた。無論今度も神代用魔法を解き明かすヒントが見つかるのではないかという願掛け込みのメンバーだ。その中にリリアーナとヘリーナもついていっていたりする。

 

 浩介と礼一の空間魔法の運用に関しては大介、アレーティア、優花、奈々、妙子が加わることになった。そして――。

 

「どこまで届くんだろうね、鈴ちゃんの“界穿”って」

 

「ホントな。手に入れてまだ数日だろ? それで食堂と謁見の間までつないだんだから大したもんじゃねぇか」

 

「当たり前じゃん龍太郎君。だって鈴だよ? やれない訳ないでしょぉ~?」

 

「うん。結界魔法のエキスパートの鈴の腕を舐めないでね」

 

 香織と龍太郎の二人がバッテリー担当として恵里と鈴のグループに加わった。もちろん恵里もバッテリー扱いである。三人で鈴を持ち上げつつ、宝物庫から取り出したパイプイスを全員脇に抱えながら隣の部屋へと移る。念のため鍵を施錠してからパイプイスを適当に配置し、鈴の準備が整うのを恵里達は待った。

 

「じゃあまずどこからいってみる? この王都の外とかは?」

 

「んー、それぐらいならいけるかも。じゃあやってみるよ――“界穿”」

 

 恵里からのお題に鈴はすぐに応じ、早速光の膜を作ってみる。するとその先には平原が広がっており、間違いなくこの王宮の外であることがハッキリと分かった。

 

「すごーい!!」

 

「ホント大したもんだ。んじゃ、早速どこにつながってるか確認してみようぜ!」

 

 目をキラキラさせて手を何度もパチパチ叩いて感激する香織と手でひさしを作りながら膜の先にある光景を見てため息を吐く龍太郎。どこに繋がったかはまだ定かではないものの、遠くの場所へと繋げたという意味では鈴はちゃんと成功を収めている。そこで膜の先は一体どこなのかを調べようと龍太郎が提案してきたため、恵里も鈴も笑顔で応じた。

 

「オッケー。それじゃあボクが魔力を注ぎ続けるから鈴、展開よろしく」

 

「わかった。じゃあ二人とも、いってらっしゃい」

 

「行こ行こ龍太郎くん!」

 

「おいおい急かすな!……ったく」

 

 はしゃぐ香織に手を引かれながら龍太郎は共に転移ゲートの奥へと消えていく。相変わらずにぎやかな二人を見送ると、恵里は鈴の持ってる腕輪型の魔晶石に手を当てていつでも魔力を充てんできるように準備する。

 

「そういえばさ、さっき食堂で謁見の間を繋いだ時とどっちがキツい?」

 

「やっぱりこっちだね。距離が遠い分、持ってかれる魔力の量も多いよ。まぁ技能のおかげですぐ回復出来るし、恵里が思ってるよりは持ってかれてないかな」

 

 そこでふと魔力の消費は説明会の時に披露したのと今、どちらが多いのかを尋ねてみれば、間を置かずに鈴は今の方が多いと返してきた。とはいえ鈴が語ったように技能の“高速魔力回復”のおかげで、消費した分は地球と繋ごうとした時には既に粗方回収済みであった。

 

 今も転移ゲートを展開し続けて少し辛そうにはしているものの、まだまだ余裕がありそうな表情である。

 

「ただいまー! すごいよ鈴ちゃん! ちゃんと王国の外に出てたよ!」

 

「辺りを見てみたら国を囲ってる門の外、それも真ん前だったな。つい昨日見た場所だったからすぐわかったぜ」

 

 そうして雑談を繰り返していると、香織と龍太郎が帰ってきたためすぐに鈴は膜を消した。一息吐くと共に魔晶石から少し魔力を補充しつつ、鈴は恵里と一緒に二人の話を聞く。聞いた限りでは王国の混成軍が自分達を迎え撃とうとした場所らしく、鈴もそれをイメージしていたのか特に驚いた様子もなかった。

 

「そっか。じゃあイメージ通りだね。そうなるとイメージさえ出来れば色んなところと繋げるかも」

 

「なるほどねぇ。じゃあさ、鈴。グリューエン大火山は? あそこまで繋げられる?」

 

「火山かぁ……うーん、やってみる。多分出来るかもしれないし」

 

「あー、火山の方もそうだけどよ、オルクス大迷宮の方はどうだ? 恵里はまだ生成魔法手に入れてないだろ?」

 

「あ、そうだね。確かに使いたい。ハジメくんまでとはいかなくてもある程度適性があるなら手伝えるし」

 

 そうして話し合いをしながら実験を続行。ちょくちょく留守番兼魔力を補充する役を変えながら色々な所へと四人は出入りを繰り返すのであった。

 

 

 

 

 

「これで全員揃ったな。じゃあまずは恵里達の方から発表してくれないか」

 

「オーケー。こっちの方はね――」

 

 時は過ぎて夕方。日が沈む前にハジメが使っていた部屋へと戻って来た一行はすぐに研究の成果を発表することになった。

 

「はい“崩陸”。それと“縛羅”」

 

 手に持っていた石の一部は砂となって崩れ去り、適当に放った石はコンと見えない何かに弾かれてそのまま落ちる――恵里の披露した二つの魔法に場は盛り上がった。そう、恵里は無事神代魔法を取得することが出来たのである。

 

 恵里達の調べていた“界穿”の範囲は『イメージがしっかりと出来る場所であるならばどこまでもいける』ということが判明した。事実、オルクス大迷宮及びグリューエン大火山の解放者の住処にも直通で行けたし、弾かれるということもなかったのだ。とはいえ正確にイメージが出来ていないと中々つながらない、もしくは不発に終わるということもあって万能という訳でもなさそうであった。

 

「流石に適性に関してはどっちも並以下だったのがねー。ここでやる前に試してみたんだけどさ、“崩陸”も足元をちょっといじれる程度だったし、“縛羅”も自分一人を覆える程度だったから。その癖消費はひどいしさ」

 

「ううん。いいんだよ」

 

 ため息を吐く恵里をそっとハジメと鈴が前後から抱きしめる。周りからの視線も温かなものであり、そのことを責めようという人間はこの場に誰もいない。

 

「恵里にはずっと助けられてるから。僕達の心を落ち着かせてくれたり、奮い立たせてくれたり。それに魂魄魔法のエキスパートだしね。これで他も人並みに使えたら生成魔法以外が微妙な僕の立場が無いってば」

 

「そうだよ恵里。鈴だって空間魔法はすごいけど生成魔法はそこまでじゃないんだからね」

 

「……うん。ごめん、二人とも」

 

 そう言ってくれる二人に心が温かくなり、恵里は二人に謝罪する。こうして自分を必要としてくれる人がいる。自分がそんな大切な人達の役に立っている。そのことを改めて理解したからこそ、こうして気を遣わせてしまったことをわびた。

 

「そこは『ありがとう』でしょ」

 

「うん。僕もそっちが欲しかったかな」

 

「そっか。ありがとう。ハジメくん、鈴。みんな」

 

 が、そんな二人は少しワガママだった。恵里も最愛の二人に微笑みながら感謝を述べる。それを見て一層微笑ましいものを見たとばかりに光輝達は温かいまなざしを送り、それに気づいた恵里をゆでだこにするのであった。

 

「……良かったな、恵里」

 

 ただ、メルドだけは何とも言えない様子で恵里を見つめており、何かを言おうとしては迷ってうつむいていた。それに誰も気づけないまま報告会は進む。

 

「んじゃ今度は俺達でいいか?」

 

「わかった。幸利、頼む」

 

「んじゃ俺達の検証について話すぞ。俺達の場合、あまり魔力を消費しないようにするのとすぐに結果が分かるように部屋の中で実験をしたんだ」

 

 そうして今度は幸利達の話が始まる。どういう風に調べたかというと部屋の中に転移のためのゲートを展開するという形でやったようだ。具体的には腕を突っ込んだり触ったり、生成魔法で床材を削って棒を作ってつついたりと割とまぁ地味な作業だったようだ。

 

「とりあえず光の膜に触ったりしてみたんだけどやっぱり手ごたえはなかった。んで中に棒突っ込んだまま“界穿”の発動をやめたら真っ二つになっちまったよ……あれはマジでゾッとした」

 

 なおその中でちょっとしたトラブルもあったらしく、それを信治が話した際には参加していた全員が顔を青ざめさせていた。恵里達もロクなもんじゃないとばかりに軽く背筋が震わせつつも、彼らの話に耳を傾ける。

 

「そんなこんなで色々やってたんだけどよ、幸利が気になること言い出したんだよな」

 

「あぁ。正直アレに気付いた時は背筋がゾワッとした……俺達が休憩してた時に思いついたんだ」

 

 そこで幸利はリリアーナから一旦作業を止めて休憩しないかと提案された時の話を語っていく。

 

 何度も魔法を発動しては実験を繰り返していたことで、浩介本人だけでなくバッテリー係の幸利達も魔力が相当目減りしていたのだ。体感的には一時間で半分近く消えたという。そこで一旦休憩しないかとリリアーナから話を持ち掛けられたのだ。

 

 研究がほぼ初手で行き詰まっていた幸利達からすれば最高のタイミングでの申し出であり、誰も反対することなくお茶会に興じることに。流石に家具が一切ない部屋での作業であったため、用意したパイプイスに腰かけ、他の部屋からかっぱらった机を使うという割と微妙なものであったが。

 

「そこで良樹の奴がやたらと砂糖入れやがってな。しかももったいないからって幾らか飲んでから新しいお茶を注いでもらってたんだ」

 

「いいじゃねぇかそこはよ。甘い方が飲みやすかったんだし。それに、俺のおかげで気づいた訳だろ」

 

 呆れた様子で語る幸利に浩介も首を縦に振る。お茶会をやってたことやその中で砂糖をぜいたくに使っていた良樹にうらやましさと呆れが伴った視線をギャラリーの皆がぶつけるも、それも彼の発言ですぐに収まった。何があったのかと全員が目で訴えれば、幸利も真剣な表情で恵里達を見つめ返した。

 

「あぁ、そうだな。そうやって雑談をしている時に気付いたんだよ――空間魔法は、()()()()()をいじるものじゃねぇのかってな」

 

 途端、一気に場がざわめいた。まさかここまで早くたどり着くとは誰も思わず、しきりに顔を見合わせている。それを見た幸利達もだろうなと言わんばかりの様子で彼等を見つめており、どういった経緯で気づいたのかを語り始めた。

 

「砂糖たっぷりのお茶にストレートのお茶が注がれるのを見て呆れはしたし、混ぜるなんてとんでもねぇって思ったよ。でもな、それも一瞬だった。二つのお茶が『混ざる』のを見てピンと来たんだ。“界穿”も二つの空間を溶け合わせるような効果じゃないか、ってな」

 

「でもよ幸利、それだと繋いだ空間と空間との間がヘンにならねぇか?」

 

「そうだぜ。俺も分身の方の浩介みたいに短距離で空間繋いでチョンパする、ってのは思いついたけどよ。じゃあその間のところには何も起きてないだろ? ただ光の膜が出てるだけでよ」

 

 幸利の推測にすかさず大介と礼一が反論し、浩介本人を除く彼等のグループの皆はそうだそうだと二人の言い分を支持する。もちろん幸利もそれは理解しており、静かにうなずくと更に話を続けていった。

 

「あぁそうだ。大介と礼一の言う通りだよ。事実空間の方は変調をきたしてなんていない。だから考え方を変えたんだよ」

 

「……まさか、さっき言ってたみたいに空間と空間の間の境界線を繋ぎ直した、って考えたの?」

 

 ビンゴ、とおそるおそる語ったハジメの推測に幸利が返せば、今一つしっくりきてないトータスの人間を除いて誰もが大いに沸き立った。その際ハジメが『なんかスキ〇妖怪みたいだ』と漏らしたが、その意味を理解できたのはオタク連中ばかりである。

 

「ま、待て幸利! で、では“界穿”は二つの空間の境界線をいじって一つにしたとでも言うのか!?」

 

「おそらくそうだ。そうでなきゃ説明がつかねぇよメルドさん……ま、あくまでこれは仮説だ。証明するための手段ってもんが無いからとりあえず俺がそう思ってるだけでな。けどそれだと納得がいかねぇか? どうして空間魔法を取得した際に“縛羅”なんてもんが手に入ったのか。“震天”を手に入れたのか」

 

 メルドからの質問に幸利はそう問い返す。確かに手に入れたものが全て空間に作用するものであることは間違いない。だがそれらのルーツを考えると一体どういう原理になるのか。それに幸利が提示してくれた仮説は答えてくれたような気がしたのだ。メルドはもう何も言えなくなり、リリアーナも何か考えこむような様子で彼をながめている。

 

「んー、じゃあ幸利君の仮説を基にして考えてみよっか。“界穿”は二つの空間の仕切りを一時的に取っ払う魔法で、“斬羅”は空間に仕切りを一時的に作る魔法かな?」

 

「であれば“縛羅”という魔法は任意の場所に仕切りを作るものではないでしょうか。もしくは迫ってくるものをあいまいにするとか」

 

「少々待ってくれぬか」

 

 そこで各種魔法に関して恵里が推測を披露すれば、リリアーナもそれに呼応するように自身の考えを語る。やるじゃんと言わんばかりの視線を向ければ少し恐縮した様子を彼女も見せる。が、その時いきなり鷲三が口を挟んできた。

 

「……もしや、わしや霧乃、それと神の使徒が使える分解もそうではないか? 空間魔法の親戚ではないだろうか」

 

 その瞬間、世界から音が失われた。

 

 今まとまりかけていた結論をひっくり返してしまうとんでもない疑問。それを差し込まれて誰もが驚きを隠せず、鷲三と霧乃以外の面々はただ静かに老人の言葉を待つ。

 

「もしそうであれば、空間魔法は空間の境界線だけをいじるだけに非ず。あらゆる物の境界線を操作するとてつもないものではないだろうか」

 

「可能性は高いと思います。何せ生成魔法の真髄がとてつもないものだったのです。これぐらいやれてもおかしくはないかと」

 

「し、調べましょう!! 鈴! イメージしてやってみてくれ!!」

 

「う、うん!」

 

 変わり果てた体となった二人の言葉に誰もが冷静ではいられない。それを確かめるべく鈴はあらゆるものをあいまいにする効果となる魔法をイメージし、それを実現しようと必死にイメージトレーニングを繰り返す。その間ハジメも宝物庫にしまっておいた二尾狼の魔石を一つ取り出し、それをテーブルの上へと置く。

 

「鈴、この魔石を分解してみて」

 

「うん。もしかするとテーブルも分解しちゃうけどごめんね――“分解”」

 

 イメージのまま、やや間の抜けた名前の魔法を唱えると紅い光がかかると共に魔石はもやのように消えていく――実験が成功してしまった。この瞬間、空間魔法の正体を彼らは理解してしまったのである。

 

「できた……」

 

「できちゃった……」

 

「いやマジでやりやがった……大手柄だぞ鈴ぅー!!」

 

 水を打ったように静まり返った部屋は一瞬で大歓声に包まれる。まずハジメと恵里が即座に抱きしめ、鷲三、霧乃、アレーティア、フリードとリリアーナ、ヘリーナ以外の皆がこぞって鈴に抱き着こうとする。宝物庫の量産が可能だと伝えた時のようにまた祭りのような雰囲気へと変貌した。

 

「流石鈴だよ!! うん、僕の大好きな人だ!!」

 

「そうそう! さっすがハジメくんとボクの鈴だよ!! すごいじゃん! こんなことやってのけるなんてさ!!」

 

「むぎゅぅ~、く、くるひぃ~……」

 

「すごいよ鈴ちゃん! こんなに早く空間魔法のことがわかるなんて!!」

 

「さっすがよスズ!! 今ほどアンタをスゴいって思ったことなんてなかったわ!!」

 

 輪の中心でもみくちゃにされて苦し気な声を上げる鈴に構うことなく全員が褒めちぎり、またハジメ達ごと胴上げしようとしている連中を見ていたイナバとユグドラシルがあくびをする。

 

「キュゥウゥ~~……キュッ」

 

「あ、あはは……皆さん仲がよろしいようで」

 

「……はい」

 

 いつものように雫の腕から逃げ出し、今回は自分の膝の上で毛づくろいをしていたイナバが大きく口を開けるのを見たリリアーナも苦笑せざるを得ない。何せメルドも混じって胴上げしてるのだ。脇に立っていたアレーティアも少し気恥ずかしそうにうつむいて『大介ぇ~、はやく戻ってぇ~』とやや情けない悲鳴を上げていた。

 

「嬉しいのはわかるのだが……まったく、まだ子供か」

 

「えぇ。まぁ少し羽目を外すぐらいはいいじゃないですかお義父さん。あの子達はとんでもないことをやってのけたのですから」

 

 鷲三と霧乃も苦笑はしつつも止めはしない。霧乃が言った通り神代魔法を解き明かしたのだからこれぐらいはしゃいでも仕方ないとは思っているのもあったが、何より彼らが年相応に騒ぐ姿を見て安心したからだ。度重なる苦境に直面してもなお、まだ明るさを失わずに済んでいることに安堵したからである。

 

「よっ、結界魔法の女王!」

 

「防げぬものなし!」

 

「今度のデート楽しみにしててね!! おすすめのデートスポット調べとくから!!」

 

「うん!! 楽しみにしてるよ!!」

 

「……順番を間違えたな」

 

「私もそう思います……」

 

「いいではないですかお二人とも。これ程強力な魔法を手にしておられるのですし、これから手に入れるんですから……これを応用すれば大結界も相当頑丈にならないかしら? そういえばごみの処理問題もこれ一つで解決しますね」

 

 向こうは向こうでひたすら鈴をヨイショしまくっている状態で、もう報告会もへったくれもあったものではなくなっている。

 

 自分達の成果がどう考えても地味に思われることをフリードは嘆き、アレーティアもそれに同意しつつ同情する。一方リリアーナはそんな二人をなだめながらも色々と考えを巡らせ、ヘリーナも自分の主のつぶやきに耳を傾けて一言一句違わぬよう記憶に励む。

 

「あ、そうだ! これやっぱ魂魄魔法もただ魂うんぬんなだけの魔法じゃないんじゃねぇの!?」

 

「いや、そんなわけ……十分あり得るね。よし、すぐ調べよう!!」

 

「あ、恵里! その前に造ったゴーレムに魂入れて!! とりあえず二十!!」

 

「ハジメの奴が張り切り過ぎてな! 魂を造れるのはお前だけしかいないから頼む!!」

 

 ……なお、恵里達の方はまたしてもカオスな様相を呈していたが。今度は魂魄魔法の真実を解き明かそうぜー、と変な方向に誰も彼も舵を切りそうになっていたため、蚊帳の外であったリリアーナ達も彼等を止めるために動くのであった。




おまけ:幸利達の研究シーン

「んー、しっかしわかんねぇな。膜に触っても何もないし、突っ込めばその先だ。なーにがどうなってんだろうな」

 先程から浩介が発動し続けている“界穿”に触りながら信治はぼやく。何分この膜、触ったところでこれといった感触を返すこともないし、その先には繋いだ場所がそのまま映っている。剣と魔法の世界で使えるようになったどこでもド〇を不思議がりながらただただどういう原理なのかと他の皆共々頭を悩ませていた。

「ホントそうだよなー。繋がってるこたぁ繋がってるんだけどよ」

「全然正体が見えねぇ……空間を折りたたんでるんならその間の部分も何か起きててもおかしくねぇだろー。トンネル作ってるんなら膜触ったら感触の一つもあるだろうしよー」

 それは良樹も幸利も変わらず。特に幸利はオタ知識をフルに活用して色々と考えてはいるものの、それらにかすりもしないことに軽く心が折れそうになっている。

「本当にわかんないよなー。あ、そろそろ良樹魔力補充してくれ」

「あいよー」

 もちろん展開し続けている浩介だって原理はわからない。ただそういうものだと受け止めているぐらいで、一体どういう仕組みなのかと転移ゲートの維持に神経を注ぎながらもなんとか考えてはいたのだ。無論それが功を奏しているという訳でもなかったが。

「不思議ですよね……あの膜の先に違う場所があるなんて。遠藤さんが今開けているのはちょっとした穴ですけれど、その先は別の場所なんですから」

「えぇ。ほんの数歩離れた場所に繋いでも、その間の部分は何も変わりありませんね――皆様、お茶にしませんか」

 リリアーナとヘリーナもわからないながらも考えはするもののやはりよい考えは浮かばず。そこでヘリーナは一度研究を切り上げて休憩しないかと提案する。

 四人も『さんせーい』と軽く力なく返事をし、転移ゲートから指も棒も引っこ抜いて消す。テーブルは他の部屋からかっぱらい、持ち込んだパイプイスに全員腰を下ろしながらも全員が一息つく。

「ヘリーナありがとなー。うん。うめぇわこのお茶」

「お褒めに預かり光栄です、中野様」

 信治には茶葉の違いや良さというのはわからなかったものの、美味いということだけはしっかりとわかっていた。そのため味の感想をストレートに伝えれば、粗雑なものでありながらもヘリーナとしても嬉しく感じて礼を述べる。

「良樹、砂糖溶かしすぎだろ」

「いいじゃんかよー。ほら頭脳労働やってんだし」

「お前がやってるの大体魔力の補充だろうが……」

 そんな折、良樹がヘリーナの用意したシュガーポットから幾つもの角砂糖をポンポンと景気よくお茶の中に入れているのを彼らは見てしまう。二個三個ならともかくとして五個も平気で突っ込む様に浩介と幸利は呆れてしまった。ただリリアーナはそんな彼らを見て心底おかしそうに笑みを浮かべるだけでそれを咎めることはしなかった。

「構いませんよ。遠藤様、清水様。お茶はおいしくいただくことが重要ですから」

 あくまで自分はもてなす側であり、主賓である良樹達の機嫌を損ねるような真似はしない。育ちの良さを見せられた男子~ズは圧倒されるほかなく、ほんのりと頬を染めながら自分の飲んでいるカップに視線を落とすばかりだった。

「まぁ王女さんが言うなら別にいいけどさ」

「そう、だな……やっべ、ちょっと甘い」

「あ、はい。そう、ですね……って、ほれみろ言わんこっちゃねぇ。もったいないことしやがって」

「いいじゃねぇか幸利。ちょっと飲んだら注いでもらえばいいし」

 そこで良樹がここで砂糖を入れ過ぎたことにようやく気付き、甘ったるい味わいに軽く眉をひそめた。何やってるんだかと幸利が言及すれば、良樹も甘くなったお茶を流し込んでいく。単に彼がケチったというのもあるが、せっかく入れてくれたヘリーナの機嫌を悪くしたくないという配慮も伴ったが故の行動である。

「よろしいのですか? 中身を捨てて新しく入れ直しますが」

「いいっていいって。砂糖もったいねぇしこのまま飲ませてくれ……サンキュー、うめぇわ」

 もちろんヘリーナはその程度微塵も気にしてはいないのだが、良樹から頼まれたので仕方なくお茶を注いでいく。マナーうんぬんはこの際横に置いて黙ってお茶を注ぎ終わると、再度口にした彼は満足そうに微笑んだ。それを見て後でマナーについても学んでいただければ、と思いながらもヘリーナはティーポットの中身を確認する。

「まぁでもずーっと穴蔵暮らしだったもんなー。こういうのゼータクに使いてぇって何度思ったことか」

 そんな時、ふと信治がどこか感慨深そうにつぶやいたのをリリアーナもヘリーナも耳にする。そうであった。彼らはあのオルクス大迷宮を命がけで突破したのだということを思い出す……まぁその際色々と彼等なりにぜいたくしてたことも思い出して軽く顔が引きつったが。

「だからってつぎ足すってのもどうかと思うぞ……うん、幸利? どうした?」

「……混ざった? 二つが、あいまいに……まさか!!」

 そうして浩介が呆れながらも良樹のやったことを言及しようとした時、幸利は何かに気付いた――これが真実に迫る大きな一歩になると確信して。事実、これが真実を暴くきっかけとなったのであった。
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