あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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いやー大分遅く成りましてすいません(白目) 色々ありまして申し訳ない……。
ともあれこうして拙作を見に来てくれる皆様には感謝しかありません。

おかげさまでUAも159700、お気に入り件数も840件、しおりも393件、感想数も559件(2023/3/19 23:13現在)となりました。誠にありがとうございます。しばらく更新が途絶えましたが、それでもこうして気にかけて下さる皆様のおかげで筆を進める気力が湧いてきます。ありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、キクスイさん、拙作を評価及び再評価してくださり本当にありがとうございます。こうしてまた執筆するためのエネルギーが湧いてきました。感謝いたします。

今回は幕間、メルドに焦点を当てたお話となります。それでは本編をどうぞ。


幕間四十二 夢から醒めた者達の話

「すまなかった……申し訳なかった……」

 

 果てしない後悔に満ちた言葉が男の口からこぼれ落ちる。百戦錬磨の戦士であったはずの男は目の前の遺骸を直視することが出来ず、うつむいたままただ懺悔を続けるばかりであった。

 

「すべて、すべて俺が愚かだったせいだ……エヒトなんかの教えをただ盲信していたせいで、そのせいで取り返しのつかないことをしてしまうところだった……」

 

 顔を青ざめさせ、ただただ両のまなじりからとめどなく涙があふれる。それを周りにいた少年達や男どもは声をかけることもしない。それが彼にとって必要だったからだとわかっていたからだ。そうしなければ前を向けない。未来へと進めないから、と。

 

「すまない、すまない……許して、くれ……オスカー、オルクス」

 

 ――オルクス大迷宮の最深部、解放者の住処にて。メルド・ロギンスはただオスカー・オルクスの遺骨に何度も何度も過去の過ちの懺悔を、そして得られることのない許しを請い続けていた。

 

 

 

 

 

「全く、お前達は……」

 

 メルドがただオスカーに詫びを続けることになった理由は遡ること数十分ほど前のこと。空間魔法の真髄を理解したことで有頂天になっていた恵里達をどうにか諫め、我に返って赤面している彼女達と話し合いを続けた後のことであった。

 

「ごめんなさい……」

 

「す、すいませんメルドさん……う、嬉しくってつい……」

 

 全員が消え入りそうな声で反省を示したため、仕方ないとばかりにメルドはすぐに指示を出した。もちろん報告の続きである。

 

「ハァ……とりあえず、当初の予定通り光輝とフリード達の方でやっていた変成魔法の真髄の調査の報告、それと浩介達の神代魔法の訓練の結果を伝えろ。いいな?」

 

『了解!』

 

 メルドの言葉を受け、先の失態をリカバーしようとすぐに恵里達はいい返事を返し、各々が所定の位置に戻るとすぐに光輝が報告を上げていく。

 

「フリードさんの変成魔法に関してですが、予想通り有機物――生物由来の物体に干渉する魔法でした」

 

「正直まだ私は混乱している……確かに動物を魔物にする、という点からアプローチすれば元が生物由来のものであるということも納得できないわけではない。が、何故紙や毛髪はいいとして、骨は駄目だったのだ……訳が分からないぞ」

 

 想定通り変成魔法は有機物に干渉する魔法だったらしく、力説している光輝の横で雫と鷲三、霧乃がうんうんとうなずいている。が、その魔法を行使した当人はその時のことを思い出した様子でうんうんとうなっており、四人もそれを見て苦笑いを浮かべていた。

 

「その……骨は生物しか作らないんですから、その神代魔法で効果が出るのではないのですか?」

 

「姫様が仰る通りだ。その……どうなってるんだ?」

 

 そう質問してくるリリアーナとメルドを見て、地球で知識を得た自分達とトータスの人間と差が出てしまっていることに恵里達は思わず苦笑する。そこでハジメが疑問符を浮かべ続けているヘリーナも含め、三人の質問に答えることに。

 

「あー、わかんないですよね。その、骨も無機物……じゃあわかんないですよね。えっと鉱物、金属の仲間だと思ってください。だから変成魔法じゃなくて生成魔法が効く範囲なんです」

 

「……その、南雲さんが仰るのならその通りなんでしょうね」

 

「わ、わからん……その理屈だと俺達は体内に金属を入れているということになるぞ? そ、それでいいのか?」

 

「あーもうそういうもんだって思って。後で証明するから」

 

「中村様が後で実演して下さりますし、それで納得するのが一番かと思われます。リリアーナ様、メルド様」

 

 流石に骨までは保管してなかったため口頭だけの説明となったが、リリアーナは半分あきらめた様子で返し、ヘリーナは口ぶりからしてもう理解をあきらめきっている。メルドも頭を抱えてしまっており、やはりすぐにはそういうものだと理解はしかねるらしい。

 

「……フフッ」

 

 混乱を深めた三人に恵里が少し面倒くさそうになだめれば、同時にフリードの同類を見る視線が彼等に向けられた。共感できる相手がいて少し嬉しかったらしい。

 

「あー、混乱してるとこ悪ぃんだけどさ……俺達の方もやっていいすか?」

 

「ん?……あ、あぁ! 頼む。ぜひともやってくれ!」

 

 ふとそこでどこか居心地悪そうに声をかけて来た礼一にメルドはちょっとオーバー気味にリアクションを返す。やはり理解の外にあるものよりも範疇に収まっていた話を考えたいらしい。『お、おぅ……』とやや引き気味に礼一が漏らすと、軽い困惑を浮かべながらも浩介が報告に移った。

 

「あー、その、俺達の方も一応ひと通りは確認した。流石に“震天”は使えなかったけど、他の空間魔法と全部の魂魄魔法はやってみた。使い方もアレーティアさんと相談したし、試しもしたよ」

 

「はい。お二人はその……そこまで適性が高くなかったので、攻撃や回避などの手札の一つとして採用したという感じ、です」

 

「だな。そんな感じだ……お前らがもうちょい適性があったらなー。アレーティアに気ぃ遣わせないで済んだんだけどよー」

 

「おいコラロリ介殺すぞ」

 

 少し申し訳なさげに浩介の補足をするアレーティアであったが、そこで大介がいらんことを言ったせいで即座に礼一がキレた。二人して取っ組み合いを始めて周囲を大いに呆れさせ、アレーティアがひたすら『ごめんなさい! ごめんなさい!』と何度も何度も礼一と浩介に頭を下げていた。

 

「いいってアレーティアさん……その、アレーティアさんからのアドバイスのおかげでとりあえず手札の一つとして使えるようにはなったよ。それは間違いないから」

 

「確かにそうね。短距離の転移とか背後からの攻撃、後は緊急時の防御とかそんな感じだったわ」

 

「流石に震天っていうのは使ったら被害がどうなるかわからなかったよ。だから保留にしちゃった」

 

 アレーティアの謝罪を受けながらも浩介は彼女がフォローしてくれたことを改めて説明する。一緒に見ていた優花と奈々の方も説明をしてくれたことで空間魔法を取得していた恵里達はもちろん、他の皆の理解も深まり、軽くどよめきが起こる。

 

「じゃあ相手の裏をかいて攻撃する手段の一つとしては使えるな」

 

「なぁ浩介、そっちは“界穿”で人間一人分ぐらいの穴をあけられるか?」

 

「んー、多分やれるとは思うけど、その分魔力は食うだろうな。本当にどうにもならない時ぐらいしか使いたくない。結構持ってかれるから」

 

 適性がなくとも使い方次第では色々とやれる。また扱いに慣れれば鷲三や霧乃のように分解の魔力を武器にまとわせることだって出来るんじゃ、と色々と盛り上がったところでふとある人物が口をはさんできた。

 

「……盛り上がっているところ、すまん。話を、聞いてくれないか」

 

 メルドである。一体何の用だと誰もが雑談を止め、礼一と大介も取っ組み合いを止めてそちらに視線を向ける。すぐに全員の視線が向けられたことに少し嬉しく思いながらも、メルドはあることを彼らに頼み込んだ。

 

「これで報告は終わったし、食事までまだ少し時間がある……その前に行きたい場所があるんだ。いいか?」

 

「もしや陛下のお見舞いでしょうか? でしたらすぐに――」

 

「いえ。身分違いということを除けばそれもしたいのは山々ですが、そこではありませんリリアーナ様」

 

「じゃあ一体何? 国に何もかも捧げてるメルドさんがさ、他に行くとこなんてあるの?」

 

 リリアーナの推測にメルドはノーを返す。事実、自分が王国の筆頭騎士でもあったならば頼むのも考えはしただろうが、それが目的ではない。一体何をしたいのかと誰もが疑問に思い、恵里が疑問を口にしたのだがそれもすぐに氷解することとなる。

 

「……オルクス大迷宮だ。そこの最奥部、()()()の住処に、連れていってくれ」

 

 ……悔恨にまみれたメルドの表情と言葉で。

 

 それを口にしたことで顔を青ざめさせたメルドを見て、同行していた恵里達は全てを察した。

 

 

 

 

「愚かだった……おれが、おろかだったんだ……!!」

 

 這いつくばり、嗚咽を漏らし、途方もない後悔を何度も何度も口にし続ける。周りがかなりのショックを受ける中、その弱々しさはあの時酒に溺れようと必死になっていた時と同じだと浩介とフリードは思った。胸に巣食った罪悪感が己を押しつぶそうとしているのだ、と理解できたからだ。

 

「メルド……」

 

 かつて優秀な騎士団長であった彼がこうも苦しむ様を、ついてきていたリリアーナもヘリーナと共に目にしていた。言葉、行動から何があったかを察して彼女は二の句が継げなくなっている。

 

 例のオスカーの映像を見たという訳ではなかったが、己の過去に苛まれているメルドを見てあの遺骸を破壊しようとしたのだろうとリリアーナはわかってしまった。それ故に何も言えない。自分とて目が覚めていなければ何をやったかわからないとメルドの気持ちが痛い程理解できてしまうからだ。

 

(……私とて奴とそう変わらんな)

 

 メルドの慟哭をながめながらフリードも心の中でひとりつぶやく。自分の場合は恵里の“縛魂”があったおかげで彼女達のために動こうと考えることが出来たものの、そうでなければ今も彼のように苦しんでいたやもしれないと思ったからだ。

 

 忠義を捧げ、信仰していたはずの魔王アルヴヘイトの裏切り。それに気づいた時のショックを今もフリードは鮮明に思い出せる。ウラノスがいなければ、共に戦ってくれるとハジメ達が約束をしてくれなければこの世の全てに絶望していただろうとただ己の幸運に感謝していた。

 

「うぅ、うっ……うぁぁぁ……」

 

「……お墓、作りませんか」

 

 メルドが終わらぬ嘆きを繰り返していた時、誰からともなくその言葉が出た。オスカー・オルクスを弔おう。それを何秒か遅れて理解したメルドが振り返れば、ハジメ達は悲痛な表情で彼を見つめ返していた。

 

「きっと、それで許してくれると思います。もう自分はエヒトの言葉に迷わない、って証明できるじゃないですか」

 

「その後でいいんで生成魔法も取得しましょう。他ならない()()()()()()()が想いを継いだ、って示せますし、手向けになると思うんです」

 

 光輝とハジメがかけてくれた優しい言葉。それを受けたメルドはまたうつむくと、己の中にあった思いを彼らにぶつけた。

 

「ゆるされるのか……それで、それですべてが許されるというのか!」

 

 何をどうしようと自分がやろうとしたのは遺骨の破壊だ。未遂とはいえそれが許されるなど到底思えない。その過去が、思いがメルドを苦しめ続ける。だがそのやりきれない思いを恵里だけはあっさりと受け止め、あることを口にした。

 

「じゃあ試してみる?――“回録”」

 

 降霊術のルーツとなったであろう魂魄魔法の一つをオスカー・オルクスの遺骨へと施す。すると映像にも出てきたあの黒衣の青年がおぼろげな姿となって自分達の前に現れたのである。

 

『どうか僕達が守れなかった人の自由な意思を、平和な世界を築いてくれ。この力を、名も知らない君に託す』

 

「――ぁっ」

 

 永い年月と共に少しずつかき消えていった残留思念のほんのひとかけらが、最後まで残っていた彼の思いが姿となって優しく微笑む。微笑みと共に思いを伝えると、オスカーの姿は世界に溶けて消えていく。

 

「ぅ、ぁ……あぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁあああぁあ!!!」

 

 託された願いを聞き、メルドは再度号泣する。とめどない己への憎しみも、振り切れない後悔も、何もかもを流すように。ただ、子供のように。ハジメ達もまた涙ぐみながら一人の大人を見つめているのであった……。

 

 

 

 

 

「じゃあメルドさん。遺骨を」

 

「あぁ」

 

 ハジメが作った金属製の棺の中にオスカーの骨を丁寧に入れていき、そして同じくハジメが作った棺のふたを数人がかりでかぶせていく。“錬成”によって継ぎ目なくぴったりと閉じた棺桶はメルド、リリアーナ、ヘリーナ、そしてハジメの四人がかりで表へと運ばれていった。

 

「あ、メルドさん。こっちです」

 

 光輝に手招きされ、表に出ていた彼等が“錬成”で用意した穴の中に四人は棺をそっと入れていく。その後メルドはハジメから渡されたガントレットを身につけ、付加された“錬成”を使って丁寧に穴を閉じてきれいに埋める。

 

「――どうか安らかに眠ってほしい。解放者、オスカー・オルクスよ」

 

 そして一同は完成させていた墓に向けて静かに祈った。メルドは手を組むのでなく両手を合わせる――恵里達のように手を合わせながらオスカーの冥福を祈る。何秒か、何分か。祈りを終えると彼等は無言のまま向き合い、そしてメルドは恵里達に頭を下げた。

 

「ありがとう。俺のわがままにつきあってくれて」

 

「いえ。俺達もオスカーさんを弔いたいと思ってましたから」

 

「構うものか。いずれ私もこの解放者が残した神代魔法を手にする必要があるのだ。文句など向けられん」

 

 メルドからの感謝の言葉に誰も文句を言うことはない。あまり作業に関わらなかったとはいえフリードもそのことにケチをつけることはしなかった。

 

「ていうかいいの王女様? ドレス汚れたじゃん」

 

「えぇ。やはりお召し物が汚れてしまいましたね。申し訳ありません」

 

「いえ。ドレスの汚れやしわは洗えばどうにかなるものですし、後で着替えさせすれば済む問題です。そんな些細なことよりも私も解放者の方を弔いたかったのです。だから気になどしていませんよ中村様、メルド」

 

 墓作りは基本恵里達オルクス大迷宮攻略組でやっていたため、リリアーナとヘリーナのやったことはオスカーの骨が入った棺桶を運んだことぐらいだ。だがその際土がちょっとついて汚れてしまったり、ドレスに少ししわがついてはいた。だがその程度でしかないかったことからリリアーナは特に構うことも無く、ヘリーナも何も言うことは無かった。

 

「寛大なお心に感謝を……では戻りましょうか。鈴、“界穿”を」

 

「あ、メルドさん。ちょっと待ってください」

 

 ここで相応の時間を消費してしまったため、もう既に食堂の方では誰もが夕食をいただいているかもしれない。早く戻った方がいいだろうと考えたメルドは鈴に転移ゲートの展開を頼み込むが、そこでハジメが待ったをかけてきた。

 

「どうしたんだハジメ? 何かやり残したことがあるのか?」

 

「まぁそんなところですけど……恵里、鈴。ちょっと来て」

 

 一体何があったかとメルドが問いかけると、いきなりハジメは恵里と鈴を手招きする。その後無言のまま表情を変えてる辺り“念話”を使って話をしているのだろう。“念話”を知らないリリアーナとヘリーナだけは何をしているのだろうと考えていると、話がまとまった様子の三人はメルドの方へと向き合ったのである。

 

「鈴の“界穿”を見てちょっと思いついたんです。こういうのがあると便利かなー、って。“錬成”」

 

 するとハジメは宝物庫から取り出した二つの金属の塊を鍵の形状のものと鍵穴を模したものへと変化させると、恵里と鈴が発動した魂魄魔法と“界穿”を自身の生成魔法を使って付与していく。

 

「うん。出来ました」

 

「なぁハジメ、それは一体……」

 

「ちょっと見ててください。今実演してみせるので」

 

 そう言いながらハジメは恵里に作ったばかりの鍵穴型のアーティファクトを渡し、それをちょっと離れた場所に置いていく。そしてハジメは持っていた鍵型のアーティファクトを、鍵穴に差し込んでねじる動きをしてみせた途端にそこに“界穿”を発動した時のような光のカーテンが出現する。

 

「これ、は……」

 

「さっき思いついたアーティファクトです。これを使えば適性があまり高くなくても好きな時に好きな場所に行けるだろうな、って思って」

 

 恵里に渡した対になるアーティファクトが無いと流石に無理なんですけどね、と頭をかきながら大したことのないように言ってくるハジメにメルドは大いに驚くも、すぐにいつものことかと納得して彼の真意を問うことにする。

 

「……ハジメ、どうしてこのアーティファクトを作った?」

 

「えっと、その……いつでもオスカーさんのお参りが出来たらいいな、って思って。これっきりだと寂しいじゃないですか。この拠点も活用できますし」

 

 他はともかく最初に語った理由に納得を示す彼らを見て軽く脱力感を覚えるメルドらトータスの人間達であったが、それを非難する気は彼らには無かった。裏表のない彼らなりの気遣いだということはメルドには既にわかっていたし、リリアーナもヘリーナも、フリードであってもそれにすぐ気づいたからだ。

 

「そういう理由でこんな大したものを作るのは貴様だけだぞ、南雲ハジメ」

 

「あはは……」

 

 やや呆れた様子でツッコミを入れるフリードに軽くうなずいて同意を示しながらも、メルドは改めてハジメに感謝を示す。

 

「……ありがとう、ハジメ。大切に使わせてもらうぞ」

 

「はい……あ、でも試しに作ったばかりですからどんな状況でも動くかちゃんと調査しないと――」

 

「いい。よこせ」

 

 メルドはハジメからひょいと鍵型のアーティファクトを取り上げると、すぐに自分の懐にしまい込む。当然恵里が嫉妬してものすごい形相でにらんできたものの、それを気にすることもなくメルドは穏やかな表情でハジメを見た。

 

「これは大切に使わせてもらう。修理や改修はそのアーティファクトの量産の目途が立った辺りで十分だ」

 

「……やっぱり気づいてました?」

 

「当たり前だろうが。それなりのつき合いだぞ? いくら思いついたばかりとはいえお前がこれの価値に気付いてないとは思えんし、それを量産して仲間内に配ることぐらいは簡単に想像がつく。俺をなめるなよ?」

 

 たはは、と赤面して苦笑しながらも恵里をなだめるハジメを見てメルドはそう返す。誰かのために、という理由で動ける人間であることは承知だし、しかも頭が回る人物であることもまた理解している。だからこそ私的な用向きで作ってくれたこれにあーだこーだと言うつもりはない。ただ感謝を示すだけであった。

 

「ありがとう、お前達――お前達に出会えて、共に戦うことが出来て、幸せだった」

 

「ちょっと待ってくれメルドさん、縁起でもねぇって」

 

「ハハッ、簡単にくたばるかよ。お前達と一緒に死線をくぐり抜けてきた人間だぞ。あの絶望的な戦力差そのものだってお前達と一緒に覆したんだ。その上ハジメから作ってもらったゴーレムだってある。無理はしないし、魔人族だろうが神だろうが負けてやる義理だってない――俺を、信じろ」

 

 共に戦い抜いた少年少女達に感謝を伝えれば、その一人の影の少し薄い少年からのツッコミが入る。しかしメルドはそれを一笑に付し、自分が彼らと共に成し遂げたことを、そして問題ない理屈を挙げて伝えれば彼らもまた反論が出来なくなった。

 

「さぁ、戻ろう。飯が待ってるぞ」

 

 そんな彼らと共にメルドは声をかけ、今度こそメルド達は解放者の住処を後にする。その目に憂いも、迷いも映さぬままに。

 

 

 

 

 

「踏み込みが甘い! その程度で俺と()()()()の連携は崩せないぞ!!」

 

「ぐっ――はい!」

 

 メルドが恵里達と共にオスカーを弔って数日後、現在彼は復帰した騎士団の面々と共に実戦形式の訓練をしていた。

 

“ガーディアンツー、スリー、ファイブは遊撃! 他は遅延戦術にかかれ!”

 

 取得していた魂魄魔法の一つ、“心導”を使い、メルドは自身の駆るゴーレムの各個体に指示を出していく。すると大猿型が二機が地上を自在に駆け回り、熊型の一機が体当たりを仕掛けてはすぐに距離を取って団員達の辺りを周回。また他にもいた大狼型や蟷螂型のゴーレムなどがひたすら団員達の攻撃をいなすなどしてメルドが各個撃破する時間を稼いでいく。

 

 ――ハジメ謹製ゴーレム軍団 ガーディアンズ

 

 大狼型、熊型、蟷螂型、大亀型、大猿型とバリエーション豊かなゴーレムの軍団であり、現在は使用していないがどの個体もガトリングレールガンを体内のどこかに内蔵している。いずれも恵里が造った魂が込められており、知能も相応に高く優秀な奴らである。

 

 事実、相対している騎士団の団員達相手に上手に手加減しており、高いスペックにもかかわらずちょっとしたケガ程度に抑えるよう上手く動いていた。

 

「――よし、これまで!」

 

 そうしてメルドが号令をかけると同時にガーディアンズもご主人であるメルドの下へとすぐに戻っていく。こうしてメルドがガーディアンズを騎士団員にけしかけているのも訓練の一環であり、上手く運用するための訓練も兼ねていた。もちろん騎士団員に格上相手との実戦形式を積むという目的もあったが、それもおおむね良好なようであった。

 

「いやー流石です、メルド団長。こうして複数のゴーレムを従えながらも自分達一人一人を相手どって倒してくなんて」

 

 手を抜く暇すらありませんでしたねー、とのんきなことを言いながらも、まだいささか息が荒いニート・コモルド副団長がメルドの許へとやってきた。率直に感想にメルドは思わずため息を吐く。

 

「手は抜くな馬鹿者。とはいえ、俺は人を超える力を手に入れたからこうして戦えているだけに過ぎん。人の身でここまで奮闘するお前達には勝てんよ」

 

 流石に高くなってしまったメルドのステータスではマトモにやりあったら勝負にすらならないため、王国が所有していた罪人用の魔力封じのアーティファクトを幾つも身に着けた上で手加減した状態で訓練を行っていた。しかしそれでもメルドの技量は衰えることはなかったし、いい塩梅の重石を付けた程度だという感覚でしかない。

 

 “心導”以外の魔法を使うことなく、また技能も使わずにゴーレムに指示を出しながらであっても障害にすらなってないと当人は思っている辺り、とんでもないことになってしまったとメルドは考えていた。

 

「それでもですよ。その、団長。やはり俺達も、魔物の……」

 

「言っておくが俺はオススメはしないぞ。あの痛みはやはり尋常ではなかったし、おそらく恵里辺りが嫌がるだろうな。アイツの機嫌を損ねたとなると説得が面倒だ。武具の方で打診してみるからそっち方面はあきらめてくれ」

 

 そこでコモルドが自分達も魔物の肉を食べて強くなるべきかと口にしようとするも、すぐにメルドに制されて何も言えなくなってしまう。ああは言ったがメルドとしても恵里には恩義を感じていたし、へそを曲げるようなことはしたくないと思っていたのも本心であった。そのため他の団員達がそういったことを口にした場合は止めるよう努めている。

 

「そういえば団長。()団長はどうされてます?」

 

 そんな折、ふとコモルドはクゼリーのことについて口にした。

 

 先の戦争の後、なすすべもなく一方的に恵里達に負けた責任を取ることになり、騎士団の職そのものを解かれた……というのが表向きの理由だ。しかしそれ以上のことを彼を含めた騎士団員は知らなかったため、()()の理由を知っているメルドに思わずコモルドは尋ねてしまった。

 

「クゼリーか。アイツは今、王女様の護衛としてやっているな」

 

 そしてメルドもあっさりとその情報を明かした。

 

 責任を取らされた後、リリアーナや重吾達からの訴えを受け、ハジメ達に頼まれたことで仕方なく力を振るった恵里によって彼女の変調は解決された。やはり神の使徒による魅了を受けており、そのせいでクゼリーは狂信者のようになってしまっていたのである。

 

「どうでした? クゼリー元団長は大丈夫でしょうか?」

 

「リハビリも兼ねてだが……まぁ多分大丈夫だろう」

 

 ……なお正気に戻ったクゼリーは自信を喪失し、『私ごときが、姫様の護衛など務まるのでしょうか』と目に見えるほどわかるぐらい卑屈になっていた。なすすべもなく神の使徒に洗脳された上、国王や王妃を助けてくれた彼らに刃を向けた記憶が残っていたからのようだ。

 

 だがこればかりは自力で乗り越える他なかったため、ひとまず恵里やリリアーナ達に丸投げという形である。どうにか立ち直ってくれることを祈りつつメルドは再度号令をかける。

 

「よし、休憩は終わったな! これから俺の引率でオルクス大迷宮へと向かう! しっかり鍛えてやるからな!」

 

 そう言うとメルドは懐にしまってあったアーティファクト、後に“ゲートキー”と名付けられたプロトタイプを手に取り、オルクス大迷宮の三十階へと続く転移ゲートを開く。

 

 ハジメ達の好意で設置されたゲートをくぐり、彼らは今日も訓練をこなす。夢から覚めた者達は今も生き足掻く。たとえ審判の時がいずれ訪れようとも。




クゼリーがどうなったかについては後ほど触れるつもりです。いやー、ここまで持ってくるのマジで長かった……。
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