あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずはこうして拙作に目を通してくださる皆様への惜しみない感謝を、
おかげさまでUAも160691、お気に入り件数も842件、感想も564件(2023/3/26 19:38現在)となりました。皆様本当にありがとうございます。UAも200000が見えてまいりました。これもひとえにひいきにしてくださる皆様のおかげです。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠にありがとうございます。こうしてまた書き進める力をいただきました。毎度毎度ありがとうございます。

タイトルにもある通り、量が多くなりそうなので分割しました。いつものことですね(遠い目)
なので今回はちょっと短め(約9000字)となります。そのことに注意して本編をどうぞ。


六十五話 久しく訪れた穏やかな日々(前編)

「んっ……んぅ……」

 

(もう、朝かぁ……)

 

 夜が明けて部屋に光が差し込むようになっていくらか経ち、何度かの身じろぎの後で恵里は目を覚ます。まだ眠気で少しぼぅっとしているが、それに構うことなくまだベッドに横たわっている二人に目を向ける。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「んっ……えり、すず……」

 

「……ふふっ」

 

 ハジメと鈴の寝顔を見つめ、今日も恵里は微笑んだ。オルクス大迷宮を攻略する頃からやるようになった日課のようなものであり、たまたま二人より早く目を覚ましては毎回やっている。

 

(良かった。今日もハジメくんと鈴といっしょだ)

 

 トータスに来てエヒトに改造され、しばし監視付で離れ離れにされ、一度は神の使徒によって操られてしまった。だがもう何の気兼ねも心配もなしに二人と一緒にいられる。自分がハジメと鈴に危害を加えることなく朝を迎えられる。

 

「えへへ……」

 

  そんな何気ない時間がとても愛おしく、ただただ幸せに感じる。だから恵里は二人を起こすことなくただじっと見つめるだけであった。

 

「……ぁ。おはよう、えり」

 

「おはよう。えり、すず……」

 

「うん、おはよう。ハジメくん、鈴」

 

 目を覚ました二人にあいさつを返す。何でもないようなささいなこと。けれども異世界に来てからこれがどれだけ貴重で大切かを理解した三人は今日もまた大切に時間を過ごす。何者にも奪われる事なくただ平和なひと時を過ごせる今を。お互いの温もりを感じながら。

 

「じゃあハジメくん、よろしくね」

 

「ハジメくん、それじゃあ今日は私の番だね」

 

「うん。今やるね、恵里。じゃあ鈴、よろしく」

 

 そうして互いに頭がスッキリしたところで恵里達は鏡台の前にイスを三つ並べ、ハジメは恵里の、鈴はハジメの髪をとかしてく。オルクス大迷宮の攻略を始めた時からの習慣は今もなお続いている。

 

「んー。ハジメくんの作ってくれたクシも悪くは無いけど、やっぱりこっちの方には負けるなぁ」

 

 ちょっと悔しさをにじませつつ、恵里は髪をすくクシの感触に目を細める。ハジメと鈴が使っているのはなんとべっ甲のものである。王家御用達のものを取り寄せてもらい、こうして使ってみればハジメが作った金属製のものを超える心地よさに唇をとがらせるしかなかった。

 

「気持ちいいもんね。あと、ちょっと髪の手入れも楽になったような……」

 

「間違いなく早くなってるよ、ハジメくん。寝ぐせを整える時間が減ったし」

 

 自分の作ったものが負けたことに少し残念そうにしながらも、ふと浮かんだ疑問を口にしたハジメにすぐさま鈴が答える。

 

 ルルアリアやリリアーナからの話を聞いた感じだと、エリセンの海に生息するレイディングタートルという魔物から採れるものを使っているらしい。狩りの際に群れを成して襲ってくることから名付けられた名前で、かなりの速度で泳いでくることから相当強いのだとか。

 

「やっぱり。気のせいじゃなかったんだ」

 

「ちょっと罪悪感感じるけど、本当に便利だよね」

 

 時折王国経由で冒険者に依頼して討伐してもらうことで卸していた代物であったが、例の如くエリセンも離反したために一層手に入りづらくなっている。これを取り扱っていた王国御用達の商人も悲鳴を上げているであろうことは想像に難くなかった。

 

 今こうしてハジメと鈴が使っているのもリリアーナのおかげだ。ハイリヒ王国を傘下に収めた日の翌々日、信治らとお茶会をしていたリリアーナが髪の手入れについて尋ねた後にすぐさま手配をかけたからである。ルルアリアもその件に関しては咎めるどころか褒めていた辺り、どうしても恵里達を手元に置いておきたいという王国側の意志が見て取れた……まぁ半分ほどリリアーナ個人の私欲が混じってはいたと誰もが感じていたが。

 

「もらえるものはもらっとこうよ。あっちから差し出してきたんだしさ」

 

「もう恵里、言い方」

 

 あっけらかんと言ってのける恵里にハジメも鈴も苦笑を浮かべるも、確かに使わない方がもったいないし不義理だと考えた二人は目の前の愛する人の髪を整えるのに専念する。実際問題使い勝手は良いのだ。昨日は二人がおっかなびっくり使っていたクシを今、普段使ってた金属のそれと同様に使って丁寧に髪を手入れしていく。

 

「はい。これでいいかな、恵里?」

 

「うん。バッチリ。ありがとうハジメくん」

 

「ハジメくんの方も終わったよ。じゃあ鈴の方もお願い」

 

「うん。じゃあ恵里、悪いけれど先に支度しててくれないかな」

 

「はーい」

 

 毎朝ハジメに先に髪をとかしてもらうのは日替わりであり、今日もちょっとだけ鈴をうらやみながらも恵里はハジメが作ってくれた宝物庫から服を取り出した。鈴が協力して空間魔法を付与したそれは家庭用倉庫の倍程度の容量があり、()()()()ネグリジェを脱ぎ捨て、そこから出したシャツとスカートを身に着けていく。

 

 シャツは王国から支給されたものではあったものの、今それはノースリーブとなっている。オルクス大迷宮を攻略する際に日々傷つき、ヒュドラ戦で大きく破れてしまったのをきっかけに恵里がそうしたのである。

 

 当時のメルドはそうすると述べた恵里に呆れたものの、解放者の住処にある服にも補修用の材料にも限りがあると訴えたことで可決。今はもう袖なしとなったそれのボタンを一つ一つ留めていき、ベッドの上に置いていたスカートも履いていく。

 

(だいぶ馴染んだなぁ、コレも)

 

 前に履いていたズボンに関してはヒュドラとの戦いを機に補修用の材料にすることに決め、新たに何か用意したいということで魔物の革を使ってこれを作ったのだ。なおスカートの方はあくまで拠点などで使う用であり、大迷宮攻略など戦闘があることが予測される場合はレザーパンツを身に着けている。今日はあくまで王宮の中での作業であり、別にいいだろうと判断したが故だ。

 

「お待たせ、恵里」

 

「待たせてごめんね」

 

「ううん、大丈夫だよ二人とも。じゃ、行こっか」

 

 着替え終わって髪型をどうするかと少し悩みながら二人の朝支度をながめていればすぐに時間は潰れてしまう。解放者の住処でもやっていた軽装に着替えた二人を見て恵里は髪をいじる手を止めた。今日は鈴は髪を下ろしており、それを見た恵里は自分こそがハジメの一番だということを見せつけようと髪の毛を手櫛で整えるだけで終わらせた。そうして三人で部屋を出て、食堂へと向かっていく。

 

「今日のごはんなんだろうね」

 

「畑山先生ならもうお米収穫しててもおかしくないんだけどねー」

 

「恵里がそんなこと言うからご飯が恋しくなってきたよ。いつになったら食べられるかなぁ」

 

 何気ない話に花を咲かせ、笑みを浮かべながら歩いていた恵里達。しかしすぐにハジメが苦笑いを浮かべ、恵里と鈴の表情が凍り付く羽目に遭う。それは目の前の馬鹿()()のせいであった。

 

「なぁレニーちゃんどうだったよ?」

 

「んー、そこそこだな。愛想とトークはうまいんだけどさ、他はまぁそれなりってか」

 

「そうなのか。あー、どうしよう。次もレイナさん指名しようかな」

 

「あー、わかる。レイナさんいいよな……」

 

「大人の包容力、ってかー。わかるぜーおっぱいおっきいし」

 

 ……何せ朝っぱらから猥談をしていたからだ。

 

 それもこれもハジメが産業革命モドキを提唱し、空間魔法の真髄が判明した翌日のことが原因だ。女日照りで苦しんでいた礼一らが『外で遊びたい』とゴネたところ、すぐに全員で協力して自分達の見た目をごまかすアーティファクトの作成を行ったからである。

 

「あーのエロ猿ども……せっかく人がハジメくんとあまぁ~い空気味わっていい気分になってたのにさぁ。よくもまぁやってくれたね」

 

「浩介君はわかるよ。変な技能が発露するぐらいだったんだもん。でもさ、近藤君と斎藤君は流石に鈴も許せないかなぁ……」

 

「二人とも落ち着いて。どうどう」

 

 オルクス大迷宮を攻略してから全員ずっとフラストレーションが溜まっていたため、礼一達のボヤきを呼び水に優花に奈々、妙子、そして香織らも外で自由に遊びたいと言い出したのだ。しかも本来ストッパーになるはずの光輝と雫、ハジメでさえもそれに同調したものだから全員まとまって作業することに。しかも面白いくらい急ピッチで進んでいった。

 

 その結果、午前でそのアーティファクトのひな型は完成し、実験と称して光輝と雫のペア、大介とアレーティアのペアの二組がお出かけしている……なおその実験(笑)を行うメンバーを選出する際にハジメが開発者特権を行使しようとして危うく血で血を洗う事態になりかけたり、グループの代表同士でじゃんけんをする際に“限界突破”と“瞬光”を使ってブラフを出し合ったり相手の手の内を読み合うなど全力で馬鹿なことをやっていた。

 

 閑話休題。

 

 こうして相手の認識を阻害するアーティファクトが完成した後、礼一と良樹が浩介を誘って夜の街へ繰り出すようになり、昨晩もまた三人で大っぴらには言えないお店で色々とヤッてたのである。礼一と良樹はもちろんのこと、浩介の精神もわかりやすいくらいに安定するようになったのは言うまでもない。

 

「ミュリアさんも良さげに見えるけどよ。どうす……げっ」

 

「んー、どうせ国が立て替えてくれるしなー。もう昼間っから行か……あっ」

 

「いやいや、流石に国が金出してくれるからって何度も厄介になってちゃ……ぅえっ」

 

 そしてようやく三人は気づいた。恵里達が近くにいることに。恵里と鈴がとてつもなく機嫌が悪いこと、そしてその原因が自分達の話であろうことに。

 

「……その、三人とも。一応ここ他の人も来るからさ、やめよう。ね?」

 

「「「本当にすいませんでしたぁー!!!」」」

 

 恵里と鈴がキレるよりも先にハジメが苦笑しながら彼らをたしなめ、二人が何かやる前に礼一達も腰を直角に曲げながら頭を下げた。

 

「もう……TPO考えてね」

 

「次またやったら魂魄魔法で不能にしてやるから」

 

「今すぐ靴なめるからやめてくれぇー!!」

 

「今日一日奴隷になるから許してぇー!!」

 

「悪かった!! 最近タガ外れまくってた!! 本当に悪かった!!」

 

 鈴だけは冷めた目で見つめながらも礼一達に軽くお説教をするだけで済ませ、恵里も脅しをかける程度で終わらせた。なお恵里の脅しはシャレにならなかったせいで礼一と良樹はすがりつき、浩介はもう土下座してひたすらわび続ける。カオスである。

 

「恵里、そういうのやめよう。ね? 礼一君も良樹君も浩介君もさ、やっとため込んでたストレスをどうにか出来るようになったんだから。前にトレントモドキがいた階層で僕達がヒャッハーしたのと同じだよ」

 

「うーっ、そう言われると……仕方ないなぁ、もう。じゃあ許す。許しといてあげる」

 

「ハジメマジでありがとう!! 本当に助かったよ! 流石に不能なんてまっぴらごめんだからな! それと恵里ごめーん!!」

 

「神様仏様ハジメ様ぁー!! ありがとうございます! ありがとうございます!! それと中村もサンキュー!!」

 

「もうこんな話廊下でやらねぇ!! 俺もう心入れ替えたから大丈夫!!」

 

 ハジメに説得され、ため息を吐きながら恵里は許す。そして三者三様のリアクションをとっていると知った気配がやって来た。大介とアレーティア、信治の三人である。

 

「何やってんだよお前ら……どうせ中村の奴の機嫌でも損ねたんだろ?」

 

「……時と場所はわきまえましょう。遠藤さん、近藤さん、斎藤さん」

 

「ばーか。どうせ風俗の話でもして――あ、ごめんなさい。すいません中村さん」

 

 大介が自分だけをずっと見つめてくれることから精神に余裕があるアレーティアは礼一達に軽く注意するだけに済ませ、好きな相手がいることで女遊びが必要なくなった大介と信治はあきれた様子で彼らを見つめていた。なお信治だけ余計なことを言ったため恵里ににらまれ、すぐに頭を下げる羽目になったが。

 

「ハッ、いいよなぁーロリ介君に信治君はよぉー! 彼女いるもんなぁー! かーっ、うらやましいー!!」

 

「つーか信治、テメェまだ童貞のクセにイキってんじゃねぇぞコラぁ!!」

 

「う、うるせぇ!! そ、その気になったらすぐにでも卒業出来るし!! ツレのいねぇ素人童貞のお前らとは違ぇし!」

 

 今度は信治相手に礼一と良樹がヒートアップしそうになった瞬間、“鎮魂”が口ゲンカしていた三人に、しかもそれぞれ別の人間から全員にかけられた。一瞬で勢いが鎮火したことから一体誰がやったと礼一らは周囲を見渡すと、とてもいい笑顔の恵里、鈴、アレーティアが彼らを見ていた。

 

「他所でやって」

 

「さっき言いましたよね皆さん……場所を考えて、って」

 

「何度もそういうことするならお尻に“光壁・桜花”ツッコむよ」

 

「「「ヒッ」」」

 

 一番過激な鈴の物言いに何も悪くないはずのハジメと大介、それと浩介はお尻に手を当て、キュッと力を入れる。無意識にどこぞの穴を守ろうと体が反応したのである。もちろん恵里とアレーティアの発言にも礼一達は顔を青ざめさせ、すぐさま無言で土下座。即許しを乞いにかかった。

 

「こんなところで何やってるんだ皆……」

 

 そんな時、ふと声のする方を見やれば光輝達残りの幼馴染~ズと鷲三、霧乃もこちらへと来ていた。彼等も呆れた様子で礼一達を見ており、彼等がまた何かやったんじゃないかと疑いの目を向けている。これだからこの問題児どもはと優花が大いに嘆息し、鷲三と霧乃も思わず目を伏せた。

 

「……とりあえず行こうぜ。飯の時間、終わっちまうぞ」

 

 そうして龍太郎が切り出したことで冷えていた空気も霧散する。恵里達も軽くうなずき、良樹らも龍太郎に頭を下げてから全員食堂に向かう。今日の食事のことや今後の予定、そんなことを話しながら穏やかな時間を過ごしていく。

 

 

 

 

 

「なぁ永山、最近の()()の方はどうだ? 少しはやれてるだろうか」

 

「……あぁ。どうにかな」

 

「そうか。あー、その、困ってることがあったら言ってくれ。俺達も出来る範囲で手伝うから」

 

 朝の馬鹿なやり取りの後で食堂に着いた恵里達一向は、先に食堂で食事をとっていた重吾達の近くで一緒にご飯を食べていた。その際光輝はどう自分達に声をかけていいのか迷っている彼等に話しかけ、少しでも関係をよくしようと色々と尽力している。

 

「別に、いいよ。天之河達に手伝われると、俺達のやることがなくなるから」

 

「……ごめん」

 

「謝らないでよ……元は、私達が悪いんだから」

 

 この国の人間に裏切られたことで心が傷ついた重吾達は今、愛子と共に畑仕事をやっている。戦うことにも嫌気がさしているが、かとといって何もしないでいることにも耐えられない。しかし恵里達と一緒に行動するのもためらわれる。そんな彼らの心情がわかったからこそ愛子は彼等に畑仕事を手伝ってほしいと頼み込んだのである。

 

「そういや愛ちゃん先生はさ、例の件はどうなったの?」

 

「目上の人や年上の人にはちゃんと敬称をつけるように。もちろん『先生』以外で、です。()()に関してはもう大詰めに入りました。馬車や衣服の用意を待つ間に終わるでしょう」

 

 そんな彼女は今、恵里と一緒にある悪だくみについて話し合っていた。

 

「……ねぇ愛子、さん。その、今からでも計画を中止したほうがいいんじゃないかしら?」

 

「今更ですよ。既に国の許可も下りてますし、飢えてる人を助けることにもなる。私達も国に大きな貸しを作れる。誰も損をしない素敵なお仕事じゃないですか」

 

 光輝にくっつきながらも頑張って話しかける雫に愛子は微笑みを崩すことはない。今自分達が進めていることは素晴らしいことだと述べ、雫の提案をそっと流す。

 

「……雫。その、畑山さんがやろうとしていることは合理的かつ立派なことだと私は思うぞ」

 

「えぇ。そう、ですね。王国の元領地にいた方々が信じて買い取るのもアンカジのものだけでしょうし。これは畑山さんだからやれることよ、雫」

 

「お爺ちゃん、お母さん……」

 

 ウルの街での一件以来、どこかぎくしゃくしてはいながらも鷲三と霧乃も雫に反論する。雫の方も軽くビクッと反応しながらも自分の家族を何とも言えない目で見ていた。

 

「別にいいじゃん雫。たかだか産地偽装するだけなんだし」

 

「それが大問題なのよっ!!」

 

 やれやれといった様子でなだめてくる恵里に雫は思いっきり反発する。

 

 ……そう。愛子がやろうとしていたのは自分が育てた作物の産地を偽装し、『本物』のアンカジの商人が売るのと同等のレートで販売しようということであった。

 

 復帰したエリヒド王に召集され、例のウル産の食糧の廃棄が行われたことへの対処法について相談を持ち掛けられた際に愛子が提案したのだ。ハイリヒ王国の領地を借り、アンカジが取り扱っている作物を育てて産地を偽って売ってしまえばいい、と。店で取り扱っているアンカジ産のものをまとめて買い上げ、その中に入っている種を育てれば確実に騙せるとまで言ってのけたのである。

 

 それを聞いたエリヒド王はもちろん、恵里以外のそこにいた全員がドン引きしていた。

 

「うん、やっぱりよくないよ……」

 

「あの時も言ったけど船場吉〇と変わらねぇしな……そりゃ、他にどうしろって話だけどよ」

 

 香織と龍太郎も再び顔を引きつらせながら愛子がやろうとしている行いを嘆く。この二人以外にも当時愛子が提唱した詐欺に文句をつけた人間はいた。というか恵里を除いたほとんどの地球組のメンバーだ。犯罪だの詐欺だのやり方をもう少し考えてほしいだのと色々とケチをつけた彼らに対してこの一言で黙らせた――なら他にどんな方法がありますか、と。

 

『魂魄魔法で洗脳ですか? それなら確かにウルの作物も皆さん喜んで食べるでしょうね。ですが広範囲の洗脳となりますから南雲君がアーティファクトを作ったにしてもそれなりの時間と手間がかかるはずです。それと話を聞いた限りでは既にウル産の作物は全滅してるようですし、向こうの畑も田んぼも焼き払われたみたいです。畑と田んぼが受けたダメージを計算しないにしても新たな作物が育ち切るには相応の時間がかかるでしょう――それで、それまでの間彼らに何を食べさせる気ですか? 結局私の力を借りるにしても、私が育てた作物を彼等が食べることには変わりませんよ?』

 

 ……この、微塵も容赦のない言葉で黙らせられ、すごすごと引き下がった苦い記憶がよみがえる。恵里としても実際その通りだと受け止めていたし、産地偽装するのが一番手っ取り早いと感じていた。そのためどうやってハジメと鈴を説得したものかと思案していたのもあってか愛子を評価している。もちろん恵里以外の面々は言わずもがなだが。

 

「大丈夫ですよ。国がGOサインを出したんです。上がこれを犯罪だとみなさないのならこれは単なる善行です」

 

 ニコニコと笑みを浮かべながらのたまう愛子に光輝達は力なくうなだれる。モラルがいかんともしがたい現実に屈した瞬間であった。また大介ら四人もヤベぇマジヤベぇと変わり果てた愛子を見ながらしきりにつぶやいている。

 

「……そうだよな。俺達犯罪やってんだよな」

 

「異世界来て何やってるんだろうな……」

 

「大丈夫ですよ玉井君、仁村君。あなた達は私に従わせられてただけで何一つやましいことを望んでやってるのではありません。悪い大人に騙されてた、と言えばいいんです」

 

「それが嫌なんだよ先生……」

 

 そして愛子を手伝っていた重吾達はもっとひどかった。戦うことも拒んで、恵里達の手伝いも拒否して、その結果犯罪の片棒を担いでいるのだから。愛子は責任を自分に押し付ければいいと言ってくるもそれを許せる程重吾達は面の皮が厚くはない。むしろウルの作物をいきなり廃棄しだしたトータスの人間が悪いと考えてたぐらいであったため、これにはあまり気が乗らなかった。

 

「そうだよ。産地偽装で救われる命があるんだから。毒を盛る訳でもぼったくる訳でもないんだよ。それしきごときでギャーギャー言ってたら体がもたないよ」

 

「えぇ。それと後で皆さんも販売に協力してもらいますからね。ハイリヒ王国の領土は広いですから」

 

 そして告げられる死刑宣告。恵里と大介ら四人を除くの地球出身の全員が一発で灰になりかけた。このままでは全員仲良く犯罪に加担する羽目に遭ったのである。そこである()()に白羽の矢が立つ。

 

「……浩介、頼む。“深淵卿”最大深度でやってくれ」

 

「絶対嫌だ!! てかあのテンションだと販売どころの騒ぎじゃないだろ! はい却下!!」

 

「……シズ、多分似たような技能持ってるわよね? 私達友達よね?」

 

「嫌。絶対に嫌だから!! 今度言ったら絶交よ絶交!!!」

 

「じゃあどうすればいいのー!? イヤだよー! 犯罪者になりたくないよー!!」

 

「………………奈々、それに皆。あれだよ。トータスのねずみ小僧になると思えばいいんだ。うん」

 

「それが詐欺まがいだからイヤだって言ったのぉ~!!」

 

「は、ハジメくん! ゴーレム! ゴーレム作って!! すっごい人間に近いの! お願い!!!」

 

「わかった、頑張る!! 流石にそんなの僕だってやりたくなーい!!!」

 

「えー。そんなのやんなくっていいじゃん。てかハジメくんは後方で色々やってた方がお得だろうししなくて済むんじゃないの?」

 

「いや恵里ちゃんも犯罪に加担するんだよ!? 正則さんと幸さん悲しむよ!?」

 

「お前流石に親悲しませたくねぇよな!? 流石に今の親を泣かせる気はねぇだろ!?」

 

「うぐっ。さ、流石にそれは、その……」

 

 幸利と優花を筆頭に救いを求める視線を向けられた浩介と雫。もちろん即座に拒否。どいつもこいつも犯罪なんてやりたくないと必死にゴネるものだからあっという間にカオスな空気に。恵里と大介らはどうでもいいと思っていたものの、香織の一言で流石に考えを改めた。親に犯罪がバレるのはそれはそれで嫌だったらしい。

 

「ですから私を生贄にすればいいと言ったでしょう? 全く……」

 

「あぁいや、それは俺が愛子をそそのかしたと言えば……」

 

「いえ。私が国のために吹き込んだと伝えて下さい。愛子さんにも皆さんにも罪は背負わせません」

 

「いやいや。僕がそう仕向けたと言ってくれればいいからね? 泥は僕らが被るよ」

 

「俺の名前だけ出しておけ。そうすれば俺の首一つで済む」

 

 そうして犯罪をしたくないと叫んだり、しなくて済む方法を必死になって考えてる子供達を見て愛子は思わずため息を吐く。またそれを見ていたデビッドらも自分に責任をなすりつければいいだろうにとボヤくと、彼等にそう言うよう席を立って伝えようとする。食堂の中の喧噪は中々止まりそうになかった。

 

「団長、その、いいんですか?」

 

「ほっとけ。納得できる結論が出なければアイツらはいつまでもやるぞ」

 

 なお同席していた騎士団の皆は止めようとメルドに進言したものの、恵里達の人となりを近くで見ていたが故の言葉で黙らせている。それでいいのかと騎士団皆が心の中で思うのであった……。

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