おかげさまでUAも164981、お気に入り件数も844件、しおりも397件、感想数も590件(2023/4/15 0:06現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして伸び具合を見た限りではエイプリルフールのお話も好評だったようで、とてもありがたく存じます。
そしてAitoyukiさん、竜羽さん、拙作を再評価してくださり本当にありがとうございます。おかげで筆を執る力が湧いてきました。感謝いたします。
今回の話を読むにあたっての注意点ですが、少し長め(約12000字足らず)なことと独自設定、あとちょっとしたサプライズがあることです。独自設定なところに関してはこういうものだと思って流して下されば幸いです。
では上記に注意して本編をどうぞ。
昼食を終え、ゲートキーを使って解放者の住処に訪れていた恵里達。今回同席している他のメンバーはハジメ、鈴、信治、リリアーナとヘリーナの計六名だ。
ちなみに昼食の後、ハジメが頑張ってゴーレムを造ってみたものの、表情の変化があまりいいものでなかったのと、恵里ぐらいしか魂を造れないため数をそろえるのに時間がいるということでめでたくゴーレムを使う案は却下となった。
そして仲良く産地を偽った食糧の販売に加担することになったことを思い出して軽く遠い目をしたものの、すぐに気持ちを切り替えた恵里はハジメに声をかけることにした。
「ねぇハジメくん、調子の方はどう?」
「うん。一号の方は順調、二号の方はやっぱり幾らか遅れてるかな」
二つのアーティファクトを手に取って調べていたハジメも、振り向いて試作品二つがどんな感じかについて簡単に述べてくれた。成果次第とはいえ
「貴重な魔晶石を一つ潰したけど、その分一号の方はいい成果が見込めそうだね」
「まぁね。複数魔法を付与出来るのは神結晶しかなかったから。後は一つ一つパーツごとに効果を付与したものと比較してどんな結果になるかを確認しないとね」
「うん。早く出来るといいね」
実験用のアーティファクトを用意するためにわざわざ貴重な魔力タンクこと魔晶石を原料にした成果はもうすぐ出る。それを待ち遠しく思いながら恵里達三人は二つのアーティファクトに期待のこもった眼差しを向けた。
「さっすがウチの先生だよ。これぐらい余裕でやってくれ――姫さん? なぁ姫さん、大丈夫か」
「え、えぇ……ちょっとめまいがしただけです。
そしてそんな三人を後ろで見て色々とだべっていた信治とリリアーナ。しかし彼らの話を聞いて軽くフラッとしたため、すかさず側に仕えていたヘリーナ共々信治は彼女を支えて気遣った。
「確かに、今こうして聞いてても信じられません……熱にうなされて悪い夢を見ているかのようで」
「今更だ今更。新しい神代魔法手に入れたらもっとすごいことしてくれそうだしな」
リリアーナと同様にため息を吐きながら思ったままを述べるヘリーナに、信治はケラケラと笑いながらそう答える。それを聞いて一層立ちくらみを強く感じたリリアーナとヘリーナであったが、もうこれ以上驚いてたまるかと意地も張っていた。
「……これ以上すごいことは起きそうにないと思いますが」
「えぇ……神結晶の制作、ひいては量産なんていくらなんでもおかしいですもの」
頭痛を堪えながらも二人はつぶやく……恵里達が今やろうとしている『神結晶量産化計画』の始まりとなるやもしれない光景を見ながら。数日前に主従揃って仲良く卒倒したことを思い出しながら見つめていた。
――それはハジメが産業革命モドキを提唱したあの日の翌々日のことであった。
恵里達は朝から魂魄魔法の研究を続け、昼食の時にはもうある程度目途をつけていたことを仲間に伝えていた。
『魂魄魔法の真髄も大体わかったよ。多分人間の体にある魂とかエネルギーに干渉するものだと思う』
『龍太郎君が昨日の夕食の席で話してくれたおかげで色々柔軟にやれたよ。本当にありがとう』
『俺は適当にアタリつけただけだ。その、感謝される程じゃねぇ……』
恵里の語った内容に対し、同席していた多くの仲間がどよめきの声を上げる。恵里の説明が正しければ単に魂関連のものだけはなく、“魔力操作”に関してもこの技能がルーツであるということが判明したからだ。
そのきっかけとなったのは、夕食の席でハジメが恵里の使っている魔法の一つである“堕識”のことについて触れたことだ。それは闇系魔法の一つであり、相手の意識を数瞬の間だけ飛ばしたり、応用技として脳から発せられる命令を明滅する間だけ阻害したりするというものである。
『恵里、これって魂に干渉してるんじゃなくて脳に干渉して動きを止めてるんだよね』
この話ぶりに恵里達幼馴染はデジャヴを感じると共に抑えきれない期待が込み上げ、重吾達もまた何かを確信した様子のハジメに思わず唾を飲み込む。
『うん。そうだよ。魂に直接働きかけるのは多分エヒトの奴がやってたのじゃないかな?……ねぇハジメくん、もしかして』
『うん。恵里が降霊術師じゃなくて闇術師なのに前世の魔法を問題なく使えることを考えると、きっとどちらもルーツは魂魄魔法にあるんじゃないかな。もしそうだとしたら魂魄魔法がやれるのは魂そのものだけじゃなくて脳への干渉、体内電気に関してもやれるかもしれない』
その一言に場は大いにどよめき、恵里も目を輝かせながらハジメを見つめている。またしてもハジメが謎を解き明かした。そのことに幼馴染〜ズは沸き立つものの、ふと何かに気づいた様子の龍太郎があることを口にはさんできた。
『なあハジメ、もしかしたら“魔力操作”もそうなんじゃないか? 同じ体の中なんだし、やれたりしねぇか?』
刹那、全員の脳裏に電流が走った。
関連性があるかは定かではないが、十分に試してみる価値はある。先のハジメの述べた体内電気のことも含めて明日調べようという事になり、血流はどうかとかこの世界にも気とかは存在するのかと様々な話題が飛び交っていく。
そして迎えた翌日。この日も四名ほどでそれぞれ班に分かれ、恵里はハジメと鈴、そして幸利の四名で魂魄魔法の実験を行い、早速ハジメと龍太郎が提言した体内電気と“魔力操作”について研究。
結果、その関連性を明らかにし、魂魄魔法は『魂そのものや意識、そして人間の体内にある電気や魔力などのエネルギーにも干渉するのではないか』という仮定を出した。
『それでさ、皆。ちょっといい? 思いついたことがあるんだ』
龍太郎が褒められてまだ赤面する中、ハジメが遂に切り出す。あの悪魔の計画を。人工的に神結晶を造り、量産してエヒトとの戦いに備えようというとんでもない計画をだ。
――神結晶は千年という長い時間を掛け偶然できた魔力溜りで魔力が結晶化したもの。途方もない程に膨大な自然の魔力が固まったものである。ならば相応の魔力さえあれば、それも一箇所に押し固めてしまえば作れるのではないかと彼は考えたからである。
「いやー、ハジメくんが言い出した時は本当に驚いたよ」
「うん。鈴もびっくりしすぎてあごが外れるかと思った」
「あはは……でも複数の魔法が付与出来るのはこれしかないし、数が限られてるからね。作れたらきっと色々役に立つはずだよ」
そして現在、一行は解放者の住処を流れる川に取り付けたある装置を調べながら経過の観察をしていた。ちなみに例の装置及び中の神結晶はこのようにして作られている。
1.まず空間魔法を使って宝物庫と同様のもの、ただし容量は一メートル四方と大きさを限定したものを作成する。
2.適当な大きさの鉄に“纏雷”で電気を流し続けて永久磁石を二つ作成。次に銅線を巻いて適当な大きさのコイルを用意し、先の永久磁石と組み合わせて簡単な発電機を作る。次にこの発電機に魂魄魔法を付与し、発電して得た電気を魔力に変換する仕組みを作る。そして水車を作り組み合わせて発電出来るようにする。
3.魂魄魔法を付与し、受け取った魔力を別のものに注ぎ込む装置を作成する。
4.空間魔法を付与し、空間の境界線を操作して中心に魔力が密になるようにする装置を作成する。
※なお素材に神結晶を使った場合は1.と3.と4.で作る装置を同じ素材で用意することが可能。
5.上記のすべての装置を組み合わせてどこかの水源に置く。これで完成! 勝手に発電して神結晶を作ってくれる! なお時間はかかる
……といった具合のものが神結晶量産化装置(仮)だ。試作したものを数日かけて実験し、それで得られたデータを基に改良して昨晩設置したのが今彼らが見つめるものである。なお神結晶を素材に使ったものの方が結晶の育つスピードが早く、別々に作ったものの五割増しぐらいの早さで成長していた。
「今のところはまだ二ミリぐらいだね」
「神結晶が素材でも一晩ぐらいだとこんなもんかぁー」
「一つ一つの場合だとやっぱりロスが多いのかまだちっちゃい砂粒ぐらいだもんね」
ただ、中で育っている神結晶を確認するにはやはり取り出す他なく、どうにかしてのぞき窓を作れないかというのが今の悩みであったりする。“界穿”を応用して空間を繋いで見られないかと考えたこともあったが、それだと魔力が漏れるからもったいないということで却下されていた。
「適当に何度か足運んで確認してよー、それで後はタイマーでも設定すりゃいいんじゃねぇの?」
「うーん。確かに信治君の案が今のところ一番かなぁ。魂魄魔法で魔力の密度は調べられても、結晶化したものまで見れる訳じゃないしね」
「でしたら確認するのは朝昼晩の三回はどうでしょうか。流石にそう簡単に神結晶が出来るということもないでしょうし」
「リリアーナさんの言う通りかなぁ。取り出すのは簡単だし、いざという時はハジメくんの技能でくっつけられるしね」
「神結晶使ってる一号はそれぐらいの頻度で良さそうだけど、使ってない二号の方は朝晩の二回でもいいかもね。とりあえず明日まで放置してどれだけ成長してるか確認でいいんじゃない? その後データを纏めて皆で話し合おうよ」
改めてこの装置に対してどう扱えばいいのかを恵里達は話し合い、とりあえず今はそれぞれの結晶がどれだけ成長してたかと二台の機械の調子について調べ、リリアーナが用意してくれた紙にそれらを記載していく。
「そういえばハジメくん、神水の量産はどうするの? 二センチぐらいの大きさだったらちょっと魔力を注ぐだけで作れそうだけど」
「うーん、それも実験したいところだけど……下手に幾つも並行してやってるとごちゃごちゃになるし、神結晶だって分離は出来るから一旦こっちが落ち着くまででいいんじゃないかな。回復薬は十分あるしさ」
この後も奥にある滝を使って発電すれば神結晶を作るスピードが上がるだの実験の終わった一号を改良すれば良さそうだの水車の形状や軸が耐えられるかだので色々と恵里達は話し合う。
「……驚きませんわ。えぇ驚きませんとも。この程度で驚いていたら皆様についていけませんから」
「リリアーナ様、手が震えております」
「ヘリーナも体震えてんぞ……まぁ俺らにとっちゃ今更だけど、そっちからすりゃ伝説のもんがポンポン目の前に現れてるワケだしな」
なおそれを聞いて一層顔が青くなったのが二名いたが、信治がとりなしたおかげでどうにかなったため何一つ問題はない。未だに震えも収まらないし顔も青いままだが何一つ問題は無い。無いったら無いのだ。
「う、うぅ……」
そうして色々と話し合っていると不意に気配を感じ、恵里達は後ろに視線をやればそこには満身創痍のフリードの姿があった。
「大丈夫ですか、フリードさん!」
「この程度ならば……と、言いたいが少々厳しい。回復を頼む」
その場で四つん這いになっていたフリードに慌てて鈴は“焦天”を発動する。見た目はそこまで傷が深そうには見えなかったため、最上級でなく中級のものでも間に合うと思ったからだ。事実、その判断は間違っておらず、傷はすぐにふさがってフリードも立ち上がった。そして一言礼を述べると共にフリードは場所を変えたいと提案する。
「助かった……とりあえずここではなくリビングで話をしたい。いいだろうか」
「えーと、フリードさん。その前にちょっと……」
「その前に体の汚れ落としてからね。立ちっぱなしならいいけど、そんな格好でソファー座ったら汚れるし」
「衣服はこちらで用意しますので先に湯浴みをなさって下さい。フリード様」
「僕が案内するんでお風呂先入りましょう。ね?」
「……あぁ」
彼の提案に誰も反対はしなかったものの、先に体に付着した血や汚れをとっとと落とせと言われ、フリードは少しバツの悪い表情を浮かべる。そしてそのままハジメに手を引かれて先に風呂へと向かうのであった。
「恵里、みっともないよ」
「だってさぁ……むぅ」
「相変わらず先生のことになるとヤバさが何倍にもなるよな中村の奴」
なお恵里はハジメに手を引かれるフリードを見て軽く嫉妬していたため鈴達から呆れられていた。相変わらずである。
「そういえば南雲様、中村様。先日はどうもありがとうございました」
そうしてフリードが風呂から出てくるまでの間、全員リビングで色々と話をしながら彼が来るのを待っていた。先程までしていた例の神結晶製造機関連の話を、結晶の成長度合いからどのタイミングで神水を生成するための器具の作成に移るかなどを話し合ったのだ。それがひと段落着いたところ、ふとリリアーナはハジメと恵里に礼を述べてきた。
「なんのことですか、王女様?……まさか、
「多分そうだよハジメくん。“首輪”の件だよ」
言われた直後は何のことかわからなかったものの、すぐに浮かんだ過去一ヤバい所業にハジメの顔が引きつる。しかも恵里がそれだと補足すると共にリリアーナはより微笑みを深くしたため、思い浮かんだことで間違いないことが確定した。ハジメは頭を抱えた。
「……やっぱりアレかぁ~」
「いいじゃんハジメくん。別に人が死んだわけじゃないんだし」
「えぇ。むしろ彼らを処罰することなく
「いや死んでないから余計辛いと思うんだけど……よしよし」
「いや、ハジメは悪くねぇって……まぁ、自業自得ってヤツだろ。俺だって王女さんやヘリーナを殺そうとした奴らを許したくねぇし」
恵里とリリアーナにフォローされるもハジメは頭痛に苛まれている。鈴も信治もそのことに心当たり、というか間違いなくあの事だというものが思い浮かんでいる。そのため鈴はハジメの頭をなで、信治もハジメのフォローをしつつも彼ら――真の神の使徒によって乱心したメイドや兵士の生き残りに同情しつつも無罪放免になることを許しはしなかった。
ハジメと恵里が感謝をされた理由は、王侯貴族に刃を向けたメイドと兵士どもに罰として着けることになった首輪を作成したことに由来する。例の産業革命モドキ発言をハジメがした際、鷲三が提案した『誓約を破った相手を洗脳する首輪もしくは腕輪』を形にしたものだ。
当然ハジメは乗り気ではなかったものの、国の上層部全員の懇願及びメルドからも何度となく頭を下げられた。そしてこの王宮の維持管理や魔人族が攻めて来た時の備え、今後エヒトとの戦いに頭数がいるからと説得され、渋々彼は作ったのである。
アーティファクトのガワと生成魔法による付与をハジメが担当し、付与する魂魄魔法を発動するのは一番のエキスパートである恵里がやった。
『こんなもので私のエヒト様への忠誠が――ひぎっ!?……エヒトさまエヒトさまエヒトさまエヒトエヒエエエエエエエくたばれエヒトぉおぉおぉ!!』
『この国なんかに私は忠誠を誓わな――あぎぃ!?……エヒトはクソエヒトはクソエヒトはクソエヒトはクソエヒトはクソエヒトはクソエヒトはクソエヒトはクソエヒトはクソエヒトはクソクソフリーダぁぁあぁあムっ!!!』
……なお、以上が首輪をつけた奴らの感想の一部である。誓約を破った奴らが誰一人例外なく具合がおかしくなったため、未だに反旗を翻す気があった奴らは一瞬で血の気が引いて即座に元の鞘に収まった。
しかも誓約を破った奴らも言動がややおかしくなったものの、むしろこれまで以上に業務に精を出すようになったため国のトップからは大いに喜ばれるという結果に終わっている。倫理観がぐちゃぐちゃになりそうな光景であった。
「……もうやりたくないなぁ」
ちなみにその時のハジメのリアクションは口いっぱいにほおばった苦虫を嚙み潰した感じである。やはり持ち前の倫理観のせいで苦しんだのも、後で恵里と鈴を筆頭に皆がなぐさめにかかったのも言うまでもない。
「もぅ、ハジメくんは……でもその優しいところがボクは大好きだよ」
「……ありがと、恵里」
そうして恵里もハジメの頭をよしよしとなでていると、ドアノブを回す音が聞こえた。どうやらフリードの方も支度が終わったらしい。
「待たせたな、入るぞ」
そう述べながらフリードはリビングへと入って来た。ヘリーナが用意したシャツと布のズボンに着替え、湯上りで赤い髪はほんのりと湿っている。ラフな恰好のせいで胸と腕の厚みがよりわかりやすく、軍人であったが故にその体が鍛えられて引き締まっているのが余計にわかる。
大人の色香を放ちながらこちらに向かってくるフリードを見て、思わずハジメと信治はおぉと憧れとうらやみの混じった視線を送った。
「ハジメくんは今でもカッコいいし素敵だよ」
「うん。フリードさんに負けないもの」
「ありがとう、二人とも」
「信治さん、よろしかったら後で私達王族が使ってる香油をおすそ分けしますけれど……」
恵里と鈴はちょっと呆れた表情を浮かべながらもハジメを評価し、彼も自分を好きでいてくれる二人に礼を述べて少し頬を染めた。またリリアーナも慕っている信治を少し自分色に染められるいい理由を見つけたと内心ほくそ笑みつつ、そんな提案をする。
「あ、いや、その……後でちょっと見させてくれ」
(お見事です、リリアーナ様)
当の信治もちょっと驚いてドギマギはしたものの、ちょっと背伸びをしたくなってそれを受け入れた。ヘリーナは特に何も言及しなかったが、それが何より雄弁に物語っていた。
「……話に移っていいか?」
「あ、すいません。今回の探索、どうなったか話してください」
用意されたソファーに座り、半目になってこちらを見てきたフリードにハジメも思わず頭を下げて話を始めるようお願いする。そして彼は今回のオルクス大迷宮の攻略の話を語り出す。
「……なるほど。結構厳しかったみたいですね」
「“震天”がどこでも使えるならここまでの損傷を負うことはなかったがな……それも言い訳か」
今回フリードがこのオルクス大迷宮の攻略にかかったのはウラノスを休ませる時間を利用し、新たな配下となる魔物を見繕うためであった。
今日までは光輝ら他の仲間と共にライセン大迷宮を空から探してもらっていたのであるが、連日探しても中々見当たらず。そのため今日一日はウラノスに休養をとらせ、単にウラノスの背に乗っていただけであまり疲れてなかったことからここの攻略にあたっていたのである。
「“震天”が使えずとも“斬羅”と“縛羅”を発動出来るアーティファクト、それに魔力をすぐに回復するものまでもらっているのだ。その上ゴーレムまで潰してしまったのだからな。お前達に何かを言える立場ではないか」
まぁ多数でお前達が攻略していた点を除けばだが、とだけ付け加えてヘリーナが出したお茶にフリードは口をつける。口には合っていたらしく、かすかに口元が上がっていたのを見てヘリーナも内心ホッとする。こうして恵里のおかげで気を許してくれているのもあったものの、自分がメイドとして磨いた技術は目の前の魔人族相手でも通用するとわかったからだ。
「……よくもハジメくんのゴーレムを潰してくれたね」
「恵里、ゴーレムは壊れても作り直せるからいいでしょ……でもフリードさん、流石に連日働いた上でここを攻略してますから、そろそろ休んだ方がいいんじゃないですか」
なお恵里はハジメが供与したゴーレムを駄目にしたことを軽く根に持ったものの、ハジメのとりなしでどうにか収まる。そうして恵里をなだめた後、ハジメもフリードに働きすぎだと伝えれば、彼もそれは承知していたようで再度お茶を口に含んでからそれに答えた。
「それは理解している。現に七十階層から八十階層で配下にした魔物達も全滅させてしまったからな……思った以上に体は正直らしい」
そう自嘲しつつフリードは大迷宮を攻略していた時のことを振り返る。燃費の悪い神代魔法は極力抑え、ハジメからもらったアーティファクトを緊急時に使ったり、ゴーレムと連携しながら追い詰める程度に留めながら進んでいた。道中魔物を変成魔法で従えたり、それを使い潰しながら攻略を進めていたのだが、それも八十二階層までの話。
そこで出くわしたアリの魔物、それもモグラのように地面を進むどころか泳いで現れる奴によって蹂躙されたのだ。錬成か土魔法を使いながらタールの中を進む鮫のように地面を自在に泳ぎ回り、十匹単位もの群れで襲いかかってくる。それに襲われたのだ。
「それと自身の驕りも嫌というほど理解した。私は自分で思ったよりは弱かったのだ、と考えを改めざるを得なかった」
自身の実力やもらったアーティファクトからヒュドラの待ち構えている最後の階層まで問題なく行けると思っていた。だが土属性の魔法で地面を固めても焼け石に水。ゴーレムや魔物を盾にしながら戦いはしたが、数の暴力を前に次々と倒れていく様を見てフリードは逃げることを選んだ。
「あのアリは仕方ないですよ……本当に数が多い上に一体一体が強いですから」
「ゲートホールで移動する時になんとか引っ込めてゴーレムは回収してほしかったけどね。まぁアレ相手に一人二人でやれ、って言われたら今のボク達でも手を焼くでしょ」
「全然ひるまねぇしな、アイツら。それ考えりゃフリードさんは逃げ切っただけマシだろ」
「そうだね。中野君の言う通りだと思う。鈴達の時でも地面に穴開けてそこに火属性の魔法撃ち込んで軽く地面をあぶったよね」
そうそう、と返す恵里達を見てフリードだけでなく、リリアーナ、ヘリーナもまた冷や汗を流す。いくら多人数で挑んだとはいえよくもまぁ対処できたものだと乾いた笑いが浮かび、彼女達の非凡さを改めて痛感する。
「あ、フリードさん。後でどこでゴーレムが倒れたか教えてください。ゲートホールが設置してあるなら多分回収出来ますから」
そこでふとハジメがゴーレムの回収を請け負うと言い出した。流石に引き連れていた魔物は既に骨だけになっているだろうが、金属製であるゴーレムが食べられてしまうことはまずない。
「そうだね。回収して問題点洗い出そっか」
「うん。もっといいの作って、皆の役に立ってもらおう」
フリードの口ぶりからして、原型をいくらか保っていれば御の字程度ではあるだろう。しかしそれでも回収出来ればそこからどれだけの損傷を受けたか、どこかに脆弱な部分が無かったかがわかる。次回のゴーレム作成に繋がる。
考えを切り替えた恵里がそう述べれば、同じ考えに至った鈴もまたそう告げる。その様を見てあぐらなどかいてられないなとフリードが思っていると、今度は信治から声がかかった。
「じゃフリードさんよ、場所だけ吐いたらもう今日は休もうぜ。俺達と一緒に茶でも飲まねぇ?」
「……そうだな。ただ、休むならばウラノスも共にすることが条件だ。そちらのメイド……確かヘリーナだったか。ウラノスに食べさせる肉を用意してくれ。小腹を満たす程度でいい」
「承知しました……と言いたいところですが、皆様、ウラノスに提供する肉のストックはあとどれくらい余裕がありますか?」
「ちょっと待ってくださいね……あ、もう何日かで底をつくかもしれません」
信治の提案にフリードは条件付きで受けたのだが、ヘリーナからの問いかけにハジメが苦笑しながら返答したせいで軽く渋い顔を浮かべてしまう。確かにウラノスの体は大きいため、その分食料もそれなりに必要になる。今のやり取りの通り宝物庫にストックしてある肉を出して提供しているのだが、実際に出して計算してみた感じだとあと数日そこらが限界のようだった。そんな時、なんてことないとばかりに信治があることを提案する。
「あ、なら俺らで久々に魔物狩ろうぜ。先生と中村、それと谷口も行かねぇ?」
「はいはい勝手に仕切らない。それでハジメくん、どうするの?」
「そうだね。最近は研究ばっかりだったし、腕がなまったら大迷宮の攻略に差し支えるだろうしね。僕もお供するよ信治君」
「……ならボクも」
ないなら獲りに行けばいいじゃない。どこぞのアントワネットさんみたいな発想である。恵里は信治が仕切ることにイラッとしつつも、それにノーを突きつけはせずにハジメに問う。ハジメもハジメで戦闘のカンを取り戻すためにもいいと判断し、一緒に行こうと言えば恵里もちょっとばつが悪い感じながらもついていくと伝える。
「あーハイハイ。先生と中村もだな。谷口はどうすんだ?」
「じゃあ鈴も――あ、フリードさん。よかったら一緒に行きませんか。鈴達の戦い方、もしかすると参考になるかもしれないから」
恵里の態度は毎度のことであったため信治は特に気にせず、今度は鈴に問いかければ彼女もそれに乗っかった。が、ここで後学になるかと思った鈴はフリードに声をかけて一緒に来ないかと誘ってみた。
「なるほど……確かにまたとない機会だ。見せてもらおう」
「あの、皆さんがもしよろしければ私も……エヒトとの戦いの時はもちろんとして、他に対人戦がないとも限りませんし。谷口様の結界魔法の使い方を見て学びたいんです」
「わかりました。じゃあ、ヘリーナさん。良かったらヘリーナさんも来てください。鈴の結界魔法で絶対守りますから」
「いえ、結構です。谷口様。いただいた宝物庫にお茶の葉と皆様がいただくお茶菓子を補充しに向かいたいと思っていましたので。お心遣いには感謝いたします」
そうしてフリードとリリアーナは一緒に来ることになり、ヘリーナだけ調理場に戻ることとなった。まずゲートキーでヘリーナの自室へ繋がるゲートを開いて彼女を見送り、一行はフリードが設置したゲートホールを通じてゴーレムの回収兼ウラノスの食べる肉を確保しに向かうのだった。なお、肝心の四人の戦い方に関してだが――。
「技量の高さと何より私以上の魔力量なせいで全然参考にならん」
「どう頑張ってもついていける気がしません……」
……とまぁ、フリードにとってもリリアーナにとっても微塵も参考にならなかった。後でそのことを
「お、戻ってきたね。お疲れさまー」
「あぁ、ただいま」
お茶会を終え、そろそろ夕食の時間を迎えそうになったため恵里達は食堂へと向かっていた。その際光輝達とも合流し、歩きながらそれぞれの成果を報告する。
「今日で六ケ所ゲートホールの設置が終わった。確かこれで九割ぐらいが終わったはずだ」
「こっちは五ケ所だな。あと二日もあれば多分終わるぞ」
「お疲れ様、皆。それとこっちの方なんだけどね――」
光輝、雫、鷲三、霧乃、イナバの四人+一匹はハイリヒ王国の東の元領地にゲートホールを設置するのを担当し、龍太郎、香織、大介、アレーティアの四人の班は西方面を担っていた。もうすぐ全部が終わる旨を話してくれ、ハジメも彼等に自分達の進捗について話す。そんな折、ふと向こうから聞きなれない声が聞こえ、全員の意識がそちらへと向く。
「うぅ、き、緊張しますぅ……良樹さん達に恥じないようにちゃんとご挨拶しないと」
「大丈夫だシア。良樹殿やアビスゲート
「おうおう。大船に乗ったつもりでいてくれ」
「頼むから俺のこと様づけすんのやめてくれカムさん。あとそのキラキラした視線やめてぇ!」
見ればそこには見慣れない顔が二つあり、しかも少女も壮年の男性も両方ウサ耳を生やしているのだ。そこでふと恵里の脳裏にいつぞやの記憶が浮かんだ。それはオルクス大迷宮を攻略していた時の頃、話のネタとして動物っぽい特徴を持った人間こと亜人の話が出たのである。
(……確か亜人って、ハルツィナ樹海をねぐらにしてたはず。そうなると手引きしてもらうにはちょうど良さそう。よくやったよ斎藤君達)
斎藤らのグループが今日はハルツィナ樹海の探索に出ていたことも思い出し、多分そこであの二人を味方につけたのだと考えて心の中で感謝する。後でちゃんと伝えておこうと思って彼らのいる方へ向かうと、ふと二人の亜人がこちらに気付いて顔を向けてきた。
「貴方がたが良樹殿のご友人がたですか。私はカム・ハウリア。こちらのシアの父にしてハウリアの族長をしております。この度は良樹殿らにシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂きました。そしてハウリアを匿っていただいたことに深く感謝致します」
「あ、あの、シア・ハウリアですぅ! 良樹さんと偉大なるアビスゲート様と礼一さんに告白されましたぁ!!」
『は?』
「「もうフッたわ!!」」
「だからその呼び方で様づけすんなって言ってんだろうが!!」
カムと名乗った壮年の亜人はともかく、シアとかいう少女の愉快な名乗りに恵里達は固まってしまう。良樹と礼一はそれを否定し、浩介は『アビスゲート様』と呼ぶなと叫ぶ。とんでもないのを拾いやがった、と心の中で恵里は前言撤回するのであった。
世界よ、これが残念ウサギだ