おかげさまでUAも165691、感想数も594件(2023/4/16 23:34現在)となりました。誠にありがとうございます。テンポよく投下するとホント伸びますねUA。当たり前ではあるんですが改めてそう思いました。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価して下さりどうもありがとうございました。おかげでまた話を書き進める力をいただきました。本当にありがとうございます。
では今回の話を読むにあたっての諸注意を。まずけっこう長い(約14000字)です。それと予め謝っておきます。シアスキーの皆さんすいませんでした(土下座)
とりあえず上記を察してから本編に目を通して下されば幸いです……。
追伸(2023/4/17 22:31)
シアのセリフを修正しました。
「う~ん、大丈夫ですよね……?」
ハルツィナ樹海。大陸の東側に南北に渡って広がるうっそうとした森であり、足を踏み入れた途端に立ち込める霧によって
「ここ最近は出てませんし、多分、多分大丈夫……よし、やっちゃいましょう!」
ここの深部には獣や魔物だけでなく亜人と呼ばれる存在もまた住んでいる。その亜人が築いた集落のひとつにある少女がいた。
「ハァ、ハァ……見えました。見えました、けど……」
息を切らしているこの少女の名はシア・ハウリア。
「これマズいかもしれませんね……二人とも変な人に感謝したり祈ってましたし」
彼女は兎人族のひとつであるハウリア族、その族長の娘である。そんな彼女は少し息が整うと、友人であるエルのことについて思案する。遠くで恋人といい雰囲気であった友人を一瞥した際、何かよくないものを見たかのようにシアの顔には焦りが浮かんでいた。
「……人間、ですもんね。今のうちにお二人に伝えておかないと」
樹海の外にいる人間族。奴らによって亜人族が連れ去られるという話をシアは父や親戚などから聞いている。そのため二人がそんな恐ろしい目に遭わないようにと助言をしようと向かっていく。
「エルさーん! ちょっといいですかぁ~?」
――シア・ハウリアは普通の亜人とは
普通、亜人族は魔法を使えない。単に使わないのでなく魔法を使う器官がないと言った方が近いだろう。それ故に彼女の存在は特異であり、また忌避されている。それも『魔物』と同等の脅威としてだ。本来ならば彼女はこの世に存在することなどありはしなかった。
「どうしたの、シア?」
「何があったのさシア? 僕達に何か用?」
「えっとですね、ちょっとお話したいことが……」
しかしハウリア族は違った。
生まれながらに魔物と同様の力を持っているなど普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は彼女を見捨てるという選択肢を持たなかった。
「もしかしてシアの
「はいですぅ! 実はその――」
彼女の持つ力、それは“未来視”という固有魔法だ。
文字通り未来を見る能力であり、任意で発動する場合は、仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。これには莫大な魔力を消費する。一回で枯渇寸前になるほどである。シアは早速自分が見た未来のことを話そうとした。その時であった。
「――貴様、何者だ?」
いきなりかけられた剣呑な声。三人が振り向けばそこにいたのは熊人族の亜人の青年であった。
「ひっ!?」
「あ、あの、彼女は、その、僕達の友達で……」
「そ、そうです! け、決して怪しい子じゃありません!!」
「怪しくないだと? 馬鹿を言うな! ならばどうしてそやつの髪はお前達と違うのだ!」
友人達は怯えるシアをかばおうとするが、それも熊人族の青年の一喝によってアッサリと一蹴されてしまう。
髪の色が他の兎人族とは違うからだ。普通の兎人族の髪色は濃紺であるがシアは違う。見た目からして普通の兎人族ではないが故に青年はわかってしまった――彼女は忌み子である、と。魔物と同等の存在であり、国の規律で見つけ次第殲滅する対象に含まれる存在だとわかったからだ。
「貴様の存在はすぐに報告に上げさせてもらう! 覚悟しろ忌み子め! 薄汚い
そう言い残すと同時に彼はその場をすばやく去った。熊人族の青年の気迫に押され、三人とも足がすくんでしまっており、動こうにも動けない。どうしよう。どうすればいい。みんなが危ない。一族に迫った危機を前にパニックを起こし、彼女達は何も出来ない。
「わ、私のせいだ……私が、私が“未来視”なんて使わなかったら……」
シアは己の短慮な行動を心底後悔する。こんなはずじゃなかった。こんなことになってしまうと思わなかった。自分の愚かな行動のせいでハウリアが滅亡の危機に瀕してしまった。そのことで頭がぐちゃぐちゃになり、その場でへたりこんで涙を流す。
――“未来視”は自発的に使わずとも自動で発動する場合もある。それは直接・間接を問わずシアにとって危険と思える状況が急迫している場合だ。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費する。これのおかげでシアは自分の身がバレそうになっても今まで身を隠すことが出来たのだ。
だがあの時、好奇心のおもむくままにこれを使っていたせいで発動する魔力は残っていなかった。そのために最悪の事態を自ら引き起こしてしまった。
「だ、大丈夫だよシア! と、とりあえず長に話をしないと……」
「そ、そうね! 長にこのことを話さなきゃ――」
「シア! シア、無事か!?」
涙で顔がべちゃべちゃになったシアにハウリアの少年と少女が声をかけていると、そのハウリアの長であるカムがこの場に現れてシアはビクリと体を震わせる。
「と、とうさま……」
こうなってしまったのも自業自得であり、しかも全てのハウリアを巻き込んでしまった。父に見捨てられる、拒絶されるのが怖くて自分の体をシアはかき抱いたが、カムは大粒の涙を流しながら彼女をギュッと抱きしめた。
「無事か? どこもケガは無いな?……良かった、良かった。お前が無事で」
「え……?」
カムがかけたのは自分を心配する言葉。そのことが信じられなくてシアはカムを見るが、そこにあったのはやはり普段と変わらない優しい父の顔。我が娘を思い、無事を喜ぶいつもの様子であった。
「なんで……わ、私は皆を――」
「優しいお前が皆をいたずらに傷つけたり、陥れることなどするはずがない。私はわかってる。これは不幸な事故だったんだ」
それでも信じられなくて言葉を重ねるシアに、カムはただ労りの言葉をかける。お前は悪くないのだと伝える。自分のせいでハウリア族に危険が及んだにもかかわらす、見捨てる気が一切ない父の様子にシアの目から大粒の涙がこぼれていく。
「とうさま、とうさま……うぅ、うぇぇぇ……うぇぇぇぇん……!」
「大丈夫だ。シア。ハウリアは誰も見捨てない。たとえお前が忌み子と呼ばれたとしても、何があってもだ」
泣きじゃくる娘にただカムは無償の愛をぶつけていく。次々と現れた他のハウリアにもそれは伝染し、皆等しく涙を流すのであった……。
「さてお前達。このままではシアだけでなく、全てのハウリアが処罰されるだろう……私はそれを望まない。だから、共にこの里を出ていってくれるか……?」
そうしてシアが泣き止んだところで、集まったすべてのハウリアにカムは問いかける。
ハウリアは争いを嫌うが故に生活のための狩猟ぐらいしか暴力を振るうことがない。それすら何度も懺悔しながら命を奪う程だ。このままここに留まっていては他の亜人族が差し向けてきた軍に包囲され、皆殺しの憂き目に遭う。だからといって外は人間や魔物など様々な脅威が立ち塞がる。進むも地獄、退くも地獄なのだ。
故にこの問いかけは死出の旅に付き合うことを強要させるものでしかない。震えながらもそう問いかけたカムにハウリアの一人が返事を返した。
「当たり前でしょう。だってシアが危険なんですよ? それにシアを匿い続けていた私達だって無事でいられるかわからない……なら一緒に逃げるのが一番じゃないですか!」
それは紛れもなく家族愛の深いハウリアらしい答えだった。百数十人全員を一つの家族と称する種族は一人の少女を見捨てるということを選ばない。ためらうことなく共に逃げることを彼は選んだ。
「そうだ! ここでシアを見捨てられるものか!」
「シアだけをこの里から追放すると言ったのなら怒りましたよ! でも長は共に行こうと言ってくれたじゃないですか!」
「そうだ! 一緒に新たな安住の地を見つけに行こう! 皆がいるなら怖くなんてない!」
「ここで友達を見捨てるなんてハウリア失格です! 一緒に行きましょう!」
それは他の皆も同じ。たとえこの里の外が危険に満ちあふれていたとしても共に逃げることを誰もが選んだ。たとえその目に怯えが宿っていたとしても、誰もがシアだけを危険な目に遭わせようとは思わなかった。心の底から彼女を案じていた。
「そ、そんな……で、でも! この森の外は危険なんですよ! 魔物だっていっぱいいますし、怖い人間だっているんです! だ、だから、だから……!」
故にシアは怯えた。このままでは自分のせいで皆がいつ死ぬかわからない旅路へとつき合わせてしまう。いつまで続くかわからない逃避行につき合わせてしまう。だから必死になって考え直すよう伝えるが、それでハウリアは揺らぐことなど無かった。
「よいか、シア。ここでお前を放り出すなら生まれた時に長老に報告するなり何なりやっている ハウリアは家族を見捨てない。何があってもだ。だから私達はこうして肩を寄せ合って生きてこられたのだ」
「とうさま、みんな……」
そう断言する父とそれに反論せずに自分を見つめてくるハウリア一同。もうシアは胸がいっぱいになって何も言えなくなってしまう。
自分が皆のことを案じて心配するならば、皆も自分を案じて共に行こうと願っている。揺るぎないハウリアの絆を見てシアはかぶりを振って涙をぬぐう。ならばもう迷わない。もう怖いものなんてない。覚悟を決めたシアは目の前のハウリア全員を見据えた。
「――行きましょう、皆。皆で新しい楽園を見つけに行きましょう!」
『おー!!』
「よく言った、シア――さぁ皆、これからどこに向かうかを決めようではないか!」
『おー!!』
こうしてハウリアはハルツィナ樹海を脱出し、自分達が脅かされることのない場所への大移動をすることとなった。人間や魔物の脅威のない『どこか』を目指して。
「おーい浩介……って今はアレか。アビスゲート、見つかったかー?」
「否……夢幻にて無限なる我を以てしても霧幻の森の突破は
意訳:“深淵卿”使って分身してローラー作戦やってるけど全然効果が無い。むしろ作ったそばからすぐに分身が迷って森の中をうろつくか外に出ちまう。流石解放者だよ。
こんな感じのことを述べたため、同行していた良樹と礼一は大いにため息を吐くしかなかった。
現在浩介は彼等二人と班を組み、ハルツィナ樹海の奥にある大迷宮を探そうとしていた。昨日まではライセン大迷宮の方を幸利、優花、奈々、妙子の四人と一緒になってバスで探していたものの見つからず。かれこれ三日かけてもなしのつぶてだったのだ。そこでハジメや光輝が提案したのはハルツィナ樹海の探索だ。前述した三人にライセン大迷宮の捜索は任せ、自分達にこちらの方はどうなるかを探ってほしいと頼まれたのである。
無論彼等三人はそれを二つ返事で了承したものの、現状こちらも成果は皆無といった具合だ。“深淵卿”の深度合Ⅴによる無数の分身作成によるローラー作戦でもすぐに方向感覚を失ってしまい、気づいた時には森の外に何十何百もの分身が出るようになるのもしばしば。自分達でもいけないかどうかと良樹と礼一も試したものの、何の成果も得られないまま。三人は揃ってため息を吐いた。
「アビスゲートでも無理かー……どんだけ面倒なとこなんだよ」
「フッ、仕方あるまい……神を屠らんとした無垢なる刃が選んだ場所だ。疎まれし者達の力無くして繋がる道ではなかったということだ」
「地面の下だったら迷いはしなかったけど、一度地面から出たらもう方向感覚ダメになっちまったしな……やっぱ帝国に行って奴隷買った方が良かったんじゃねぇの?」
認識を阻害するアーティファクトは既に手元にあったし、昨日光輝らがゲートホールを設置する際に帝国に一番近い領地のところにも置いていったため、最悪そこから向かうということも出来なくは無かったのだ……帝国は中立商業都市であるフューレンをはさんでこのトータスの東に存在しているため、日帰りでどうこう出来る距離ではなかったが。
「どうにも上手くいかねぇよな……フリードさんに無理言ってウラノス貸してもらえばよかったか?」
「やれると思うか? 絶対手放さないだろ。てか浩介、いつまでアビスゲート続けてんだよ」
もう面倒になったしとっとと帰るかと良樹が宝物庫からゲートキーを取り出そうとした時、まだ浩介が“深淵卿”を発動し続けていることに気付いて声をかける。何やってるんだかと思って声をかけようとした時、思いがけないことを彼は口にした。
「待て、爆嵐の奏者と古今無双の槍使いよ。この森の外に何者かが出ようとしている」
「何者か、って……魔物か? 最悪放っておいてもいいだろ。なわばり争いに負けたとかそんなんじゃねぇの?」
「いや、違う……数は百余り。何かに追い立てられているように森を駆けているのには違いないが、我の深淵が捉えたもののほとんどは魔力が無い。おそらく亜人族だ」
自分達を止めようとした浩介に礼一は面倒くさがって適当な推測を述べるも、続けて語った言葉に良樹共々目を細めた。『亜人族は魔力を持たない』ということをかつてオルクス大迷宮で話題になった時に彼等も知り、そのことを思い出したのである。一体どういうことだと考えようとした時、今度は東から幾つもの足音、それも馬のものと思しきものが迫っているのが三人の耳に届いた。
「森からは亜人っぽいの、東は……確か帝国だったか? どうする?」
「様子見っていうのも悪くなさそうだけどな。浩介、確か魔力がないのがほとんどって言ったよな。じゃあ魔力が
「……それも恐らく否だ。亜人と思しき者達とつかず離れずの距離でこちらに来ている。何か、事情があるのだろう」
良樹達の脳裏に浮かぶのは、何らかのトラブルのせいで森の外へその亜人族らしき気配は逃げているのではないかという予測だった。ならば事情次第ではこちらに取り込むことも可能ではないかと彼らは考えたのである。
「もし追い出されたってんなら俺らで保護するか? 幸い王国の方はまだまだ貸しがたんまりあるし、適当な空き家を幾つか用意してもらえばなんとかなるだろ」
「話が通じる奴らだったらな。それでも百人は流石に無理そうだけど……ま、どうにか融通利かせるしかねぇだろ。ここの樹海を案内してくれる奴が手に入るかもしれねぇんだからな」
「神に見捨てられし者達の助力を得られるのならばこの上ない助けとなる。我らを試練へと誘う魔窟の前に繋ぎの門を埋め込めるだけでももう迷わずに済むのだからな」
かくして三人の意見が一致する。意思疎通が出来る相手ならば彼らを保護し、通じないのならば後で考える。そうして森からやってくる気配と東から迫ってくる者達両方に意識を向け、いつでも戦えるように身構える。二方向から向かってくる気配が良樹達と出くわすのはほぼ同時であった。
「森の外に出た――人間!?」
「隊長! 森の外にガキと亜人どもが!」
「ほぉ。コイツは運がいいな。よし、お前ら。今すぐ部隊を包囲しろ。一匹たりとも逃がすなよ」
『了解!』
現れた亜人達は森の入り口でまごつき、カーキ色の軍服らしきものを身にまとった者達は浩介らを取り囲んでいく。この時点で片方とはマトモな話し合いが出来なさそうだと礼一達は考えていると、帝国兵らしき男の一人が自分達に指をさしたのに気づいた。
「隊長! アイツら反逆者ですぜ! ここでコイツらを殺せば報奨金もたんまりと……」
「なんてこった! 兎人族に反逆者か……これもエヒト様のおぼしめし、って奴か。よし、神にたてつく馬鹿は二人殺せ。一人は手足そぎ落として残りの馬鹿を釣るための人質だ。あと兎人族はジジイだけ
『うぉぉーー!!』
兵士と思しき者達のときの声が上がる――それを聞いた三人の目がスッと細まった。コイツら相手に話し合いはいらない。ただし殺さず
「……あれ、あの人って――」
「なぁお前ら」
そんな時、ウサミミを生やした男達に守られていた青みがかった白髪のウサミミ少女が浩介を見て何か意味深なことをつぶやいたものの、後で話を聞けばいいかと判断した良樹が彼等に声をかけた。
「何か訳アリだろ? ここは一旦俺らに任せてくれ。守ってやらぁ」
「安心しろよ。こんな奴らに負けるほど俺らヤワじゃねぇし」
「貴公らは既に深淵の
良樹、礼一、浩介は自分達の後ろで怯える亜人達に声をかける。心配はいらない。俺達に任せろと。自分達を包囲し、下卑た視線を送る兵士達を見て余裕を崩すことなく機を待つ。
「ハッ、王国の奴らが負けたとか抜かしてたが、どうせ油断したところを奇襲されたぐらいだ――このガキどもに現実ってもんを教えてやれ!」
隊長格と思しき男の号令と共に一斉に兵士達は武器を構え、詠唱を始める。けれども少年達の余裕は崩れることはない。
「――“嵐空” お空の散歩でも楽しみな。“嵐帝”!!」
亜人族に流れ弾が向かわないよう圧縮された風の壁を張り、良樹はすぐに魔法で竜巻を作る。狙いは向かってきた兵士達の足元だ。
「――っ!? うわぁあああぁぁああ!!!」
「ぎゃぁああぁあああぁあ!?」
「お、お空飛んでりゅーーーー!?」
襲い掛かろうとしていた百に及ぶ兵士を一瞬で竜巻は吞み込む。それを手にしたスティレットを用いて自在に操り、次々と宙へと浮かせる。馬だろうが馬車だろうが関係なしに次々と空へと放り投げると、それに続いて礼一と浩介が空中へと躍り出た。
「“縛岩”! そらそらそらぁ!!」
「
「か、体がっ!――え、ちょ、待っイヤぁあああぁぁああぁ!!!」
「おがあぢゃぁああぁぁぁああぁん"!!」
大空へと巻き上げられた兵士や馬、馬車などに向けて礼一と浩介は岩の鎖を展開。礼一は兵士のみ、浩介は分身込みで浮かんでいる全てに鎖を巻き付け、兵士のみを拘束している彼等だけがそのまま四方八方へと飛び回る。命綱ありの遊覧飛行のプレゼントだ。
「風神ヨシキ・
「その名前やめろぉ!! 俺も巻き込むな! コイツらが誤解すんだろうが!!」
馬と馬車だけに岩の鎖を巻き付けた浩介の分身はそれらを一か所にぶつからないようにまとめ、良樹の操った風を利用しながら徐々に高度を下げていく。なおその際深淵卿の口から出て来た厨二ネームに関しては良樹はキレながら返した。
「ハッ、口ほどにもねぇ。なーにが現実を教えてやる、だ。テメェらが現実見ろっての」
「致し方あるまい。我らを知らぬ者達からすれば奇天烈な話。我らの力を信じずに己の実力を過信したが故に起きただけのことでしかない」
馬はどれも目を回していたが全部無事であり、馬車に関しても傷一つ負ってない。空を見上げれば襲おうとしていた兵士達は全員目を回すか情けない悲鳴を上げ続けるばかり。だが徐々に声が聞こえなくなっている様子を考えるともう全員が気絶するのも時間の問題だろう。すぐに良樹は飛び回っている礼一と浩介の分身全部に向けて“念話”を繋いだ。
“お前らー、そろそろ終わりにしようぜー。流石にこれだけやればもう逆らう気力もクソもねぇだろ”
“オッケー、了解りょーかーい”
“承知! では我が
そうしてあっという間に襲い掛かろうとしてきた帝国兵
「……すごい」
――最初は恐かった。森の外にいた人間族の三人の少年は自分達をさらうかもしれない人間だと思ったから。
「お父様、私は今夢を見ているんでしょうか……」
「だとしたらとんでもない夢だな。私も皆もすごい夢を見たぞ」
自分の不運を、自分の行いを呪った。自分がくだらない理由で力を使わなければハウリアの皆をいきなり危険な目に遭わせることはないと思ったから。少なくとも捕まってしまうような目には遭わせることはないと思ったからだ。
「――よし。コイツら全員気絶してるっぽいしいいだろ」
「待て。我が奴らを戒めよう。さすれば二度とか弱き者達に被害は及ぶまい」
この男の子達と会ってすぐにもっと怖い人達と出会った。自分達を人としてすら見てない、ただの道具や欲望のはけ口に使おうと考えているようなおぞましい視線をする集団に。自分は生まれてきてはいけなかったんだと心の底から思った。
「心配性だな、ったく……ま、やっといて損はねぇか。俺も手伝うわ」
「感謝するぞ。豪槍乱破のレイ・アインス・コンドゥ」
「ブチ殺すぞアビスゲート」
けれども違った。彼等は自分達を襲うことなく、自分達に下卑た視線を向けて来た相手をいとも簡単に無力化した。しかも何かをする前に自分達の前に何かをしていた。今はそれが無いから証明は出来ないが、きっと自分達を守ろうとしてくれたんだ。そうシアは直感していた。
「大丈夫か?……って、流石に怖いか。あんな力披露しちまったしな」
その少年の一人がこちらに来て声をかけてくれた。それも自分達を気遣ってくれたのだ。彼自身、披露した力のせいで怯えてるのではないかと心配していた様子だったが、シアはそんなことなど気になっていなかった。
「あ、あの!……さ、さっき、竜巻を起こす前に何か、し、しましたよね?」
「ん?……あぁ“嵐空”か。ま、そっちに流れ弾がいかないよう念のためにやっただけだ。実際何もなかったしな」
シアの問いかけに風を操っていたと思しき少年はあっけらかんと答える。まるでこの程度何でもなかったかのようにだ――彼の気遣いに少女の心臓はトクンと高鳴った。
「ほ、本当ですか……?」
「あ、本当本当……よく見なくてもカワイイな、うん」
「ふぇっ!?」
向けてきた視線は好奇なものでも敵意でもなく、ましてや下に見るものでも品の無いものでもない。ただ純粋にそう思ったというものが感じ取れるものを少し頬を赤らめながら少年が向けて来た。少女は一層心臓が高鳴るのを感じてしまう。
「か、カワイイだなんてそんな……えへへ」
「……ヤベぇな、タイプかも。先生がハマったのもわかるわ」
「ほ、本当ですかぁ!?」
どこかドギマギした様子で時折視線をチラチラと向ける少年に、シアは頭の中が沸騰していく心地であった。同族でもないのに自分を
「おいコラ良樹。テメェ何抜け駆けしてんだクソッたれ」
「は? 俺が先に声かけたんだが? 後からしゃしゃり出てきた分際で生意気言ってんじゃねぇぞ礼一」
「冗談じゃねぇ。俺だってこんなウサギの美少女に声かける権利ぐらいあるだろうが」
「び、美少女!?」
今度は空中を舞っていた男の子の一人が自分に声をかけようとしてきた。しかもヨシキという名前らしい男の子と同様、レイイチという彼は自分を美少女と言ってくれた。それだけで頭の中が爆発しそうになってしまう。
「ざけんなどけコラナンパ野郎。テメェみてぇな奴より俺の方がいいってのバーカ」
「うるせぇヤリ〇ン。見た目が良けりゃなんにでもツバつけるような奴より俺がいいに決まってるだろうが」
「あ、あの、あのっ! け、ケンカは、ケンカはよくないですぅ!」
自分を助けれてくれた彼らがいさかいを起こして思わずシアは慌てて止めようとする。何人もの人間を止める際の話しぶりからしてきっと彼らは仲がいいのだ。そんな彼らの仲を引き裂くなんてあってはいけない。だから必死に声をかけた――なおその顔がかなりだらしなくなっているのに誰も全然気づいていない。
「気にする必要はない。麗しき少女よ。これしき如きで二人の間に亀裂は入らん。断金の仲である我等の絆は揺らぎなどしない」
「え、あ……は、はいっ!」
そんな折、無数にいたはずの何者か――“未来視”でも見えた存在であり、しかも目の前でいくらでも増えたのだからおそらく人間が言う神様か何かだろう。そんなとてつもない存在に声をかけられ、しかも容姿を褒められてシアは有頂天になる。
「シアが、シアが命の恩人の皆様に愛されて……うぅっ、良かった。生きてて良かった。モナ、もう大丈夫だ。私達の娘はきっと幸せになれるぞ……!」
「よかった……よかったねシア! ヨシキ様とレイ様、それにアビスゲート様にモテてるじゃない!」
「あぁ、僕達が命がけで守ったから……良かった。シアもやっと幸せになれるんだ!」
「も、もうっ、もぉっ! み、皆さんそんな持ち上げすぎですよぉ!……でへへ」
今度はハウリアの皆からも持ち上げられることに。老若男女問わず全てのハウリアが、カムに至っては滝のような涙をその瞳からあふれさせている。皆に祝福されてニヤケが止まらなくなったシアは結構気持ち悪い笑みを浮かべて頭をかいていた。
「礼一テメェそこまで言うならこの子に決めてもらおうじゃねぇか。どっちがタイプかってよぉ」
「は? 上等だコラ。ダントツで俺だから。絶対負けねぇから」
「静寂を取り戻せ二人とも。深淵がここにある限り神の刃とて届きはせぬが、まずは神に虐げられた者達を無事保護して――」
「み、みなさ~ん! わ、私のために争わないでくださぁ~い!」
そしてケンカしていた三人に向けてシアは声をかける。この不毛な争いを止めるために、
「「よし来た。じゃあどっちがタイプで――」」
「そうだな。不毛な争いはここで終焉を迎え――」
「わ、私がすっごい魅力的な美少女なのはわかりますよ? でも、でもですね、私は一人しかいませんし、ヨシキさんっていう心に決めた人がいるのにこんなに求められたらもう……うへへ。皆さんをもてあそんじゃうなんてホント私ってば罪な女ですねぇもうもうもう!!」
そこで調子に乗りまくって滅茶苦茶気持ち悪いことをシアはのたまってしまう。その結果――。
「あ、チェンジで」
「いや百年の恋も冷めるわー。ねぇわー」
「あ、ごめんなさい。俺別の人がいいです。理想は包容力のあるお姉さんで」
「え?……えぇーーーーーーー!?」
ものの見事にフラれてしまう。樹海の端で、残念ウサギの叫びがこだました……。
「――こんなことがあったんですよ! ひどいと思いませんか!!」
そして時は戻って現在。亜人族である彼女と父はハジメから作ってもらったアーティファクトを使い、見た目をごまかした状態で良樹達と一緒に食堂に同席していた。
ちなみに渡したアーティファクトは魔力のない亜人族にも使えるよう“高速魔力回復”を付与したことで出来た魔力版バッテリー、“魔力放射”を付与した魔力をバイパスする回路が付属している。また発動用魔法陣を敢えて一部欠けた状態にし、スライド式のスイッチを動かすことで欠けた魔法陣が完全となって正しく魔法が発動するようになっている。
閑話休題。
これを二人に持たせたのも亜人族にあまりいい感情を持たれないだろうと考えたハジメや光輝らの配慮だ。なおそこで調子に乗って『ま、まさかハジメさんや光輝さんも私を狙ってたり……』と頬を染めながら馬鹿なことを抜かした直後、本気でキレた恵里と鈴、そして雫によって人目につかないところへとシアは引きずられていかれそうになっていたりする。
「うるさい泥棒ウサギ。洗脳されたい?」
「うん。シアさんちょっと黙ってて」
「……次変なこと言ったら耳の毛をむしるわよ?」
「ヒィッ!?……す、すいませんでしたぁーーー!!!」
なお、食事の席に遅れるということでハジメと光輝になだめられたため、OHANASHIは未遂に終わった。とはいえ“威圧”まで使って本気で脅しにかかってきた三人を目にしてシアは粗相をしてしまっており、今も全身の毛が逆立ってしまっている。既に替えているため問題は無いが。
「まぁまぁ恵里も鈴も、雫さんも落ち着いて」
「あぁ。俺は雫以外になびかないし、ハジメだって恵里と鈴以外眼中にないだろ。違うか?」
「……そうだけどさぁ~」
「うん……やっぱり悪い虫が目の前に現れたら嫌だもん」
「そうね。私も鈴と同意見よ……光輝は私のものだもの」
シアの不用意な発言で怒った三人はそれぞれの恋人になだめられたことで幾らか勢いが弱まった。そこで助け舟を出してくれた二人に頭を下げ、誰か同意してくれないかと他の方向に視線を向けるが大多数が即座にそらした。浮かれウサギを助ける気は基本誰もないらしい。
「うぅ、私のバカぁ……どうしてあんなこと言っちゃたんですかぁ……」
「いやお前なぁ……浮かれすぎだっつぅんだよ」
「あぅぅ……おっしゃる通りで言い返せません」
そこで目をそらさなかった内の一人である良樹が自嘲するシアにそう返せば余計に彼女はうなだれてしまった。よりによって自分がやらかした相手であり、フラれた相手に言われるのは堪えたのである。
「でも、でもぉ……絶対振り向かせてみせますからね! 真っ先に声をかけてくれた良樹さんは絶対に! 絶対ですからね!」
「頑張れシア。私は応援してるぞ!」
「あーはいはい……ったく」
だがこれで全然へこたれてない辺り流石というか無謀というか。闘志を燃やすシアと彼女を応援するカム、そしてどうも満更でもなさそうな良樹を見て誰もがため息を吐いた。すると今度はこの場にはいないハウリア族の皆のこと、とっ捕まえた帝国兵のことが話題に上った。
「そういえば他のハウリアのみんなってオルクス大迷宮にいるんだっけ? それで帝国の人達は……」
「厳密に言えば各階層の休憩所だな。俺達が昔使ってた奴に十人単位で配置してとりあえず待ってもらってんだ。あと帝国の奴らも回収済み。今はメルドさんに頼み込んで騎士団の人達に監視してもらってる」
やはり百人単位でやってきた以上、彼等の居住スペースは問題となっていた。今はその場しのぎとしてかつて使っていた休憩所にいてもらっているのだが、自分達が作ったベッドとソファーが無いためそのまま寝たら体を痛めるだろう。家具を搬入するか新たに家を用意するかしないと彼等も苦しいことには違いない。
また捕まえた兵士達は今、メルド率いる騎士団が王国の郊外にて監視中だ。そのためこの場にはメルドや彼の部下はおらず、食事が終わってハジメが例の首輪を作るまでの間四百名もの帝国兵を見張っている。連れてきた当初はそのことに大いに驚かれたが、帝国の内情を知るいい機会と考えてエリヒドも命を下してくれた。
「とりあえず空き家を融通してもらえないか王様に話し合ってみないとだな。駄目なら駄目で皆さん用にどこかスペースを作る必要がありそうだけれど」
それはそれとしてハウリアの住居スペースに関するお願いはどうせ通るだろうなぁと良樹達全員が考えていたりする。きっと少しでも恩を返そうと必死になるだろうなぁと全員が予測していたからだ。
「まぁそっちは断られてから考えようぜ……てか浩介大丈夫か」
「あー、うん。一応“鎮魂”効いてるからなハハハハハ……ハァ」
礼一からの問いかけに乾いた笑いを浮かべつつ、浩介はそれに答える。
……シアの例の浮かれに浮かれきった言葉でやっと我に返り、その時発生した羞恥心で浩介はその場でゴロゴロ転がり込んで『いっそ死にたい』、『もうやだ“深淵卿”使いたくない』とメソメソ泣き出した。
が、ここからがマズかった。いつの間にやら浩介を信奉し出したハウリアどもが駆け寄ってきたのである。
『どうなさいましたかアビスゲート様!?』
『やめろぉ!! 俺はアビスゲートじゃねぇー!!』
『何をおっしゃるんですか! 私達ハウリアを救ってくださった偉大な方、人ならざる力を持ったアビスゲート様がアビスゲート様でなければなんなんですか!!』
『そうじゃねぇ!! アビスゲートはあくまで俺の技能であって――』
『やはり貴方はアビスゲート様なんですね!!』
『ありがとうございますアビスゲート様!!』
『私達を救ってくださった偉大なアビスゲート様に祈らせてください!! こうでいいですか!?』
……とまぁハウリアどもに囲まれてひたすら持ち上げられ、手を合わせて信仰され、フラれてショックを受けてたはずのシアでさえもいつの間にか真摯に浩介に向けて祈っていたのである。『モテたいけど信仰されたいとは言ってねぇー!!』は本人の弁であった。
結果、思ってたのとは違う方向に事態が転んで恐ろしく気疲れしてしまい、今もどこか虚ろな目で虚空を見つめていたのである。これでも“鎮魂”が効いてるおかげで落ち着いている辺りどれだけ重篤かがよくわかる。
「……本当にいいんですか? 別にそこまでしなくてもいいと思いますが」
「……畑山さんはさ、いいのかよ。アンタ一応教師だろうが。困ってる人見捨ててよ」
「元ですよ。元。それに最優先なのは皆さん地球のクラスメイトです。他の人まで手を伸ばして、それで皆さんが救えなかったら元も子もありません」
「……畑山殿」
その一方、愛子だけは彼らの参入に渋い顔をしていた。それもハイリヒ王国にわずかでも借りを返してほしくないためだ。未だ憎しみは根深く、また良樹達がその頼みに振り回されてしまわないかどうかが不安だったからである……そんな様子を見てあるハウリア族の壮年男性が悲し気に目を伏せていた。
「――よし! そういう訳でお願いします皆さん! 私の“未来視”があればきっとお役に立てますから!」
ちょっと湿った空気を吹き飛ばそうとシアはイスから立ち上がって堂々と宣言する。救ってくれた少年達に報いるために。彼らの支えになるために――かくして兎人族の少女は本来の出会いと別の形で大迷宮攻略の旅に出た。その先がどんな未来になるか。それはまだ未来を見ていない彼女さえ知らない。
Q.前の話で三人に告白されたとか言ってたけどよ、良樹と礼一はまだわからんでもないけどアビィは全然違うじゃん。詐欺やんけ。
A.そうです。元々舞い上がって勘違い、っていう体のオチにするつもりだったんです(精一杯の言い訳)
イナバと接触したらどうなるかとか他のハウリアに関しては次回語れたらいいかなー、って。