あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは拙作を読んでくださる皆様への感謝を。
おかげさまでUAも167255、お気に入り件数も846件、感想数も600件(2023/5/3 7:56現在)となりました。誠にありがとうございます。遂に感想数も600にまで……中々に遠いところまで来た感覚があります。これもひとえにひいきにしてくださる皆様のおかげです。

そしてAitoyukiさん、拙作を再評価してくださり本当にありがとうございます。また話を書き進める力をいただきました。今回もありがとうございます。

今回の話はちょっと長め(約11000字)となっております。これに注意して本編をどうぞ。


六十七話 迷える兎はどこを行く?(前編)

『未来視? あー……』

 

 シアの決意に満ちた宣言を聞いた瞬間、恵里を含む多くのメンバーからため息が漏れる。理由はシアが語ったここに来るまでの経緯だ。出歯亀目的で使ったせいで出るということになったという情報が彼女らを何とも言えない感じにさせたのが原因である。

 

「ちょ、ちょっとぉ! なんでため息を吐くんですかぁー!」

 

「だってそっちが樹海を出ていく原因になったやつじゃん。それを思い出せばため息のひとつも出るって」

 

「あぅぅ……」

 

 その様子にすぐにおかんむりになったシアであったものの、恵里の容赦のない返しでアッサリと撃沈してしまい、そのまま涙目になってうなだれてしまった。これは流石に可哀想だと感じた光輝は恵里をたしなめつつ、シアに言葉をかける。

 

「恵里、流石に言い方がちょっと……えっと、シアさん。もう一度改めて“未来視”の技能について俺達に教えてくれないだろうか。どういった条件でどこまでやれるかをちゃんと把握しておきたいんだ」

 

「ぐすっ……はぃぃ……」

 

「えー」

 

「えー、じゃないよ恵里。流石に今のはシアさんがかわいそうだってば……」

 

「……はーい」

 

 光輝に注意されたことにちょっと不満を抱いたものの、ハジメにまでこう言われては恵里もすごすごと引き下がらざるを得ず。まだちょっと涙目だったシアも目頭をぬぐって自身の固有魔法について再度語っていく。

 

「改めて聞くと本当にとんでもない技能ね」

 

「魔力に関しては魔晶石を使うとか“廻聖”で渡すなりすれば使えるか。けどな……」

 

「確かに強力ではあるな。だがそうなると彼女を守るためにいくらか護衛をつける必要が出てくるが……」

 

 シアの説明を聞いた後の反応は様々であった。優花や奈々、香織に大介らのようにとてつもない効果に圧倒される者、幸利や鷲三のように固有魔法のすごさを認めた上で彼女をどう扱うか迷う者。そして

 

「なぁハジメ。本来の未来のお前だったらどうしてると思う?」

 

「あんまり想像はしたくないけど、多分アレーティアと二人旅してたんじゃないかな。ハジメくんがオルクス大迷宮攻略にかかった時間を考えれば出くわしてたかもしれないけど、正直断言は出来ないね」

 

「シアさんと出会えているかが不明だからね……ブルックの街にある程度滞在してからハルツィナ樹海を経由してライセン大峡谷に降りていれば可能性はあったかもしれないけれど」

 

 ハジメが本来たどったであろう道筋を計算し、その上でどうするかを思案している恵里達と反応が別れた。しかし恵里達のやりとりを聞いたシアとカムは、彼女達が今まで歩んだ道のりを知らなかったために首をかしげるばかりであった。

 

「あのー……皆さん。さっきから皆さんが何を話しているかわからないんですけど」

 

「えぇ。どうも別の話をされているかのようで……アビスゲート様、一体どういうことですか?」

 

「だからアビスゲートじゃねぇ……って、そういや説明忘れてたな」

 

「あー、そうだったね……シアさん、カムさん。鈴達はね――」

 

 浩介への呼び方はともかくとして、二人に自分達の事を説明するのをここにいた誰もが忘れていた。そこで鈴が恵里の前世? を含めて話していく。その結果……。

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~。どうして、どうしてみなざんがぞんな……。そ、それと比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

「こんな……こんなごどがぁ~……アビスゲートざまもぞうでずげれど、えりどのが、えりどのが……あいごどのまでぞんな……ふぐっ……う"ぅ……」

 

 シアもカムも声を詰まらせながら泣いていた。改めて考えてみれば自分達も結構過酷な道をたどって来たなと恵里達全員が思いつつ、自分達のために涙を流してくれることを少なからず嬉しくは感じた。そこで香織や光輝が二人を慮って声をかける。

 

「私は、甘ちゃんですぅ」

 

「そんなことないよ。シアさん、カムさん。まだ許せないことはあるけれど、それでもこうして前を向いていられるから」

 

「し、しかし……」

 

「えぇ。こうして二人が泣いてくれたことで俺も頑張った甲斐があったと思えます」

 

 ――香織は怒りと悲しみを、光輝は胸の内にまだ残っている後悔を押し殺しながら。恵里だけでなくハジメ達もまた自分の中にある陰を吞み下しながらシアとカムを見ていた。自分達は大丈夫だからと香織と光輝が伝えると、ぐすぐすと泣いていた二人は共に目元をこすって涙をぬぐい、恵里達を見据えて己の思いを伝える。

 

「皆さん! 私、決めました! 私も旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向に皆さんを助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。家事でも“未来視”でもなんでもやります! 共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

「私も微力ながら皆様のお力になりましょう! 後でハウリアの皆と合流し、事情を説明すれば必ずや皆も力になってくれるでしょう! 北の山脈地帯に行くまでの間としても、このカム・ハウリアが誓いを果たしてみせます!」

 

 二人は共に恵里達の力にならんと席を立ち上がって誓う。こうして助けてもらった以上その恩義に報いなければならないという使命感、身の上話を聞いてる内に芽生えた仲間意識が二人を突き動かしたのである。

 

「いや“未来視”はともかく炊事担当はもういっぱいなんだけど。アレーティアも条件付きだけどアタシ達全員それぐらいならやれるのよ」

 

「えぇっ!? そ、それはわかりましたけれど、どうして私と父様をそんな目で……」

 

「いや、なぁ……」

 

 ……なお、真っ先にその言葉に反応した優花は少し冷ややかな反応を返し、先述した恵里ら以外は何とも言えない目つきで二人を見ていた。それは良樹も同様である。

 

 料理をしてくれる人間が増えてくれるのは決して悪くはないものの、オルクス大迷宮を攻略の最中で元々自炊経験のない大介ら四人すらもやや大雑把ながらも料理は出来るようになっているからだ。しかもアレンジャー気質なアレーティアであっても大介や他料理の出来る人間が付きっきりなら問題ないため、“未来視”ぐらいしかシア独自の強みがないのだ。

 

「確かに未来を見る力はスゲぇとは思う。けどな、お前を守るのに誰かがつきっきりにならなくちゃならねぇからな」

 

「まぁ戦える人はいっぱいいるけどねぇ~。でもぉ~いつエヒトが何をするかわからないしぃ~」

 

「えっと、うぅ……へっぽこウサギで申し訳ないですぅ……」

 

「やはり厳しいですか……」

 

 それに先程鷲三らが述べてたように彼女を守るために人員を割くか、彼女自身を鍛え上げる必要が依然として存在することもまた悩みの種であった。龍太郎や妙子がボヤいたようにもろ手を挙げて歓迎するという訳にもいかなかったのである。

 

「……先程二人とも何でもすると仰いましたよね? 力になると述べましたよね」

 

「――は、はいっ。もちろん!」

 

「と、当然です。このカム・ハウリアに二言はありません!」

 

「じゃあ二人、いえあなた達ハウリア全員がエヒトとの戦いにおける戦力になってもらうのが一番有効な利用法ですね。お願いします」

 

「「えっ」」

 

 へこんでいた二人に向け、今度は愛子が中々にヤバいことを言い出した。恵里の話では神の使徒は雲霞の如くいるということを考えると、ハジメが作れる銃といった兵器を持たせて数合わせでもいいから立たせればそれなりの役には立つのではないかと考えたからだ。

 

 特にシアならば“未来視”というアドバンテージがあるから狙撃の真似事ぐらいはやれるのではと思いついたからである。中々に容赦がなかった。

 

「あ、あのー……わ、私は頑張りますけど、兎人族は争いが嫌いでけんかとか荒事は苦手でして……」

 

「た、戦いでなく手伝いという形なら私達もお役に立てますからどうか、どうか……」

 

「問題ありませんよ。簡単に戦いに意欲を燃やせる心にすることが出来ますから。ですよね中村さん」

 

「うん、余裕だよ。流石にハジメくんの許可なしじゃやれないけどね……やっていい?」

 

「「ヒッ」」

 

 震える二人に笑顔で愛子は語り掛け、恵里も愛子からの質問に条件付きで可能だと答える。その瞬間シアとカムは短く悲鳴を上げ、親子そろって体を寄せ合って涙目になって愛子を見つめた。本当にヤバい奴を前にして怯え切ってしまい、二人はすぐに良樹、礼一、浩介に視線を向ける。

 

「いいわけないでしょ!!」

 

「やっぱりそうだよね……聞いてみただけだよ、一応」

 

 当然即座にハジメが恵里にノーを出した。スレてしまった愛子と違い、ハジメや光輝達はまだちゃんと地球にいた頃の倫理観を持ち続けている。もちろん恵里もそこら辺はわかっていたし、多分GOサインは出さないだろうなぁと思いつつ念のため聞いたぐらいだ。

 

「はは……もう、そんなに落ち込まないで――って、えーと、鈴さん?」

 

「……鈴もなでてよハジメくん」

 

 ただまぁここまで食い気味に言われたら流石に恵里としても傷ついてしまう。そうしてちょっとしょげてうつむいた彼女の頭を苦笑いしながらハジメがなでた。その様を見て軽くうらやましく思った鈴も自分でハジメの手を掴み、頭の上に添えてなでるように動かす。もちろんその様が視界に入った地球出身の面々は一様にため息を吐いていた。

 

「お、お願いします! そ、それだけは! それだけはやめてください! 私ががんばりまずがら゛ぁ~! どうか、どうかぁ~!」

 

「し、シアに辛い目には遭わせないぞ! で、ですからどうかシアも含めて他の皆は巻き込まないでください! お、お願いします!」

 

 そんな彼らをよそにシアとカムは必死になって愛子に訴える。もしかすると自分達のせいでハウリアがとんでもない目に遭うかもしれないからだ。せめて自分を犠牲に、と涙ながらに訴えかける二人を見て思いっきり良心が痛んだハジメらはすぐに愛子に非難の視線を向けた。

 

「あぁもう……シアさんもカムさんも怯えてるじゃないですか、畑山先生。別の方法を考えましょうよ」

 

「中村やめてくれて助かった! それとクソ教師ぃ!! ちったぁ二人に配慮しやがれ!!」

 

「……マジで手段選ばなくなったな、ホント。いや俺もそれ反対だわ。もしやるんだったら俺だけでもコイツら北の山脈に逃がすかんな」

 

「頼む先生、それだけは……あ、それと礼一。畑山先生が無茶苦茶言うなら俺もやるぞ。いくらなんでも皆がかわいそうだからさ」

 

 ハジメが呆れ、良樹はキレ、礼一と浩介も愛子に冷ややかな視線を送る。他の皆もナチュラルに外道染みたことを言う愛子にドン引きしており、どうにかならないだろうかと無言の訴えを彼女にする。それを受けた愛子もやや苦い表情を浮かべてこう答えた

 

「……反対するのは結構ですが、何もタダでこき使うと言った訳ではありませんよ。相応の見返りも用意するつもりでした」

 

「……想像はつくけど一体なんだ?」

 

 重吾らからも恐怖の混じった抗議の視線を向けられて少しショックではあったようだ。少し気落ちした様子ながらも愛子はハウリアの皆をただ道具のように使うと述べた訳ではないと返す。その反応からして一応筋は通ったものではあるだろうとハウリアの親子以外の面々は感づいたものの、念のためうかがっておいた方がいいと考えた幸利から質問が飛ぶ。

 

「まずは衣食住の提供。私達に協力するのであれば、私から国に頭を下げて彼らの生活を保障するよう働きかけるつもりでした」

 

「……兵士として使うためだよな?」

 

「そうですが何か? 畑仕事は永山君達で足りてますし、今後エヒトと戦うことを視野に入れれば人手は足りなくても余るということはありません。それに――」

 

 慈悲もクソもない返答である。念のため尋ね返した幸利も思わず額に手を当ててしまう。幸利にちゃんと答えを返したとばかりに自称魔王はシアとカムに視線を向け、ある事実を突きつけた。

 

「あなた達が目指す北の山脈地帯、そこに脅威になる動物や魔物がいないとでも思ってましたか?」

 

「えっと、その……」

 

「う、うわさ話でしかないが、あまり魔物はいないとうかがっております。ですから――」

 

「つまりいないという訳ではない。わかりますよね?」

 

 その言葉に思わずシアもカムも言葉に詰まってしまう。愛子はハルツィナ樹海において亜人がどのように暮らしているかを知らない。だがこれまで自分が訪れた場所は基本的に魔物がはびこっていることだけは知っていた。ハウリアが目指していた例の山脈に関しても情報は聞いていた。山を越えなければ比較的安全な場所である……つまり、そこをねぐらにしている魔物や動物は少なからずいるということの裏返しでもあることも理解していた。

 

「まともに戦えないあなた達が行ったところでどう対処するつもりで? 仲良く共倒れになる気ですか?」

 

「そ、それは……」

 

「と、父様をいじめないでください!」

 

「いじめではありません。ただ聞いているだけです」

 

 カミソリもかくやの鋭い視線を向ける愛子にカムも二の句が継げず、シアも必死になって言い返すも愛子は黙らない。これはもう口をはさむべきかとハジメも恵里も考えた時、ポツリと漏らすように出てきた言葉に誰もが沈黙せざるを得なくなった。

 

「自分達ならきっとどうにかなる、と思っているのでしたらこう言わせてもらいます。それはただの楽観論です――国を敵に回す覚悟を持って臨んでも、どうにもならないことだってあるんですよ」

 

 それは愛子自身が感じている己への怨嗟が混じった忠告である。状況に流され、生徒達のために頑張っていたつもりでやっていた行動全てが彼らを追い詰める理由に、引き金になってしまったからだ。そんな大人の悔恨の情そのものを愛子が吐露したことで誰も何も言えなくなる。

 

「……一体何があったのだ?」

 

 そんな時、ふとこちらに向かってくる足音の方に恵里やシア達は視線を向けた。デビッドら愛子の護衛を()()()()騎士達である。今彼らはまるっといなくなった教会の上層部の業務を請け負っており、執務を終えて軽く訓練をしてから食堂へと来たのである。

 

「愛子ちゃん、この二人は?」

 

「……彼らが保護した人達です」

 

 どういった経緯でシアとカムがここにいるのかを尋ねたクリスに対し、保護した人間の情報すら伏せながら愛子は返す。

 

「愛子さん、君達。この二人をどういった経緯で保護したか教えてくれないだろうか」

 

 だが言葉少なに返した愛子と恵里達が()()保護したのか、どういったいきさつから保護することになったのか。それを補足しないことに引っかかりを覚えたチェイスは全員に保護した経緯を尋ねる。だが下手に答えてぼろを出すと不味いと思い、恵里も含めて誰もが口をつぐむしかなかった。

 

「……なるほど。つまりアーティファクトか何かでごまかしてはいるが、そこの二人は亜人だな」

 

 確信しながら言ったジェイドに恵里らの視線が向く。こうもアッサリと当てるとはと驚き、シアとカムも身を寄せ合っているとジェイドがその結論に至った理由を述べる。

 

「仮に罪人の類をここに連れて来たというのならば例の首輪を身に着けているか、それかお前達のいずれかがどういった罪状の人間かを語っていたはずだ。“縛魂”をかけているから問題ないと補足してな」

 

 そう。恵里も“縛魂”をかけた奴だと言わなかったのはシアとカムのどちらか、もしくは両方がうっかり口を滑らせる可能性を恐れたからだ。特にシアがやらかすのを警戒していたため、黙らざるを得なかったのである。

 

「おそらく俺達、いやそこにいる亜人を気遣ったからだろう?……すまん。ひとつ頼みがあるんだが」

 

 そしてデビッドからこんなことをした理由を言い当てられて答えに窮していると、その彼からあることを頼まれた。

 

「……一体何をお願いするんですか」

 

「大したことではない、愛子。まぁその……アーティファクトを外してくれないかと思ってな」

 

「……二人を迫害するというのなら、絶対にやりませんから」

 

 愛子からの問いかけに、決意とどうにか隠そうとしている嫌悪が入り混じった表情をしながらデビッドは答える。一体どうする気なのかとハジメは警戒しながら問いかければデビッドは意外な答えを返してきた。

 

「多分愛子は彼らを配下に置くつもりじゃないか? ならば俺達と、その……同士だ。仲よく出来るかと思ってな」

 

 神殿騎士であるデビッドの口から出た言葉に恵里やハジメ、シアとカムだけでなく愛子もまた目を大きく見開いた。しかもデビッドだけでなくチェイスやクリス、ジェイドまでもそのつもりの様子でハウリアの親子を見ているのである。

 

「私達はもうエヒトの教えには帰依しません。そのせいで愛子さんを傷つけ、この国は大きく傾いてしまったのですから。そんな相手の言いなりになる気はない。そのことを示そうと思ったのですよ」

 

「とはいえ長年こうして信仰していたせいで、感情を抑えきれなくってね……もちろんそこの二人が嫌だっていうなら、僕達もあきらめないと」

 

「新たな一歩を踏み出したい。そのためにも握手か何か、それかあいさつの一つでも構わない……どうか、してくれないだろうか」

 

 長い年月をかけて熟成された嫌悪や敵対心はそう簡単にぬぐい去れない。その証拠に彼らの表情も軽く引きつっていた。けれどもそれを乗り越えて手を取り合おうと四人はこうして言葉にしたのだ。どうしたものかと恵里らは迷っていると、シアとカムは自分達の首にかけてあった見た目をごまかすドッグタグ型のアーティファクトのスイッチを切った。周囲のどよめきと共に二人は本当の姿をさらしていく。

 

「……えっと、私は」

 

「私は……私は、神殿騎士専属護衛隊の隊長をしていたデビッドだ。今は雑務を、亡くなった教皇に代わって執務をされているルルアリア王妃様の手伝いを主にやっている」

 

 怯えて言いよどむシアに対し、デビッドが先んじて自分の名前と今の立場について答える。ほんの少しシアとカムの表情が和らいだ瞬間、残りの三人も意を決した様子で自己紹介に移っていく。

 

「神殿騎士専属護衛隊、元副隊長のチェイスです。今は元隊長であるデビッドと共にルルアリア様のお手伝いをさせていただいてますよ」

 

「あ、えっと……クリス。僕はクリスさ。近衛騎士をやっていたよ。その、よろしく」

 

「……ジェイドだ。今は一介の騎士、そして文官まがいのことをやっている」

 

 やはりチェイスらの表情はまだ固く、どこか迷いが見える様子ではある。最早常識として醸成されてしまった亜人種への差別的な見方や感情がシアとカムを見る度に湧き上がってきているからだ。

 

 けれどもそれを四人は抑え、守るべき国民や助けを求めて来た民衆と相対した時のように笑顔を浮かべようとしている。だから彼らは単に何とも言えない顔をしているだけでない。その笑顔が少し歪んでしまっているのだ。

 

「……カム・ハウリアです。その、お願いします。デビッド殿、チェイス殿、クリス殿、ジェイド殿」

 

 それもカムはなんとなく感じ取っていた。それに何より良樹、礼一、アビスゲートの三人が警戒しない相手であるとわかったからこそ、怖くても言葉を返す。彼ら三人の知人ならば、そして彼らの知己の一人である愛子が信用している様子の相手ならば問題ないと信じたからだ。

 

「っ!……よろしく頼む。カム・ハウリア」

 

 そしてカムの方も笑みを浮かべながら返したことに驚きつつも、恐怖に耐えてあいさつを返してくれた彼にデビッドは少し微笑みを深くしながら返事をする。

 

「あ、あの! その!……し、シア、シア・ハウリアですぅ……」

 

 空気が少し緩んだのを感じ取った様子のシアも続けて自己紹介を行う。父がしたのだから私も、とやればデビッドら四人の表情もわずかばかりだが柔らかいものに変わる。

 

「ありがとう。シア、さん。それとカムさん、貴方も」

 

「うん……勇気を出してくれて、ありがとう」

 

「……感謝する」

 

 チェイス、クリス、ジェイドも礼を述べたことで少し張り詰めていた空気も弛緩していった。無論、ここに亜人がいることに顔をしかめた人間がいない訳ではなかったが、そういった表情をした人間の多くはもうエヒトへの信仰を失っている。残りに関してもそうなりかけていた人間であった。自分達がしがみついていた教えに懐疑的であったからこそ口を出すことをためらっていたのである。

 

「さて、この()()を保護した経緯について改めて聞かせてくれないだろうか」

 

「二人?……あー、そっか。確かに勘違いするよね」

 

「えぇ。実は――」

 

 自己紹介を終えたところで席に座った四人であったが、デビッドがシアとカムがここにきた理由について恵里達に尋ねる。そこで保護することになったのは目の前の二人だけでなく、他にも大勢いると伝えればすぐに彼らの表情がひきつった。流石に百人単位は想定外だったらしい。

 

「い、一族全員か……この二人だけかと思ったらスケールが違うではないか……」

 

「も、申し訳ない! そのことについても話すべきでした!」

 

「す、すみません!」

 

「あー、その、あんまり気にしないで。流石にそれはちょっと想定してなかったってだけだから。はは……ちょっと大変かも」

 

 デビッドが思わず頭を押さえたのを見て慌ててカムとシアが頭を下げるも、クリスが他の三人の意見を代弁するように二人を気遣う。またどこかぎこちない感じとなった二人を見つつ、ため息もしくは苦笑いをしたジェイドとチェイスが持論を述べていく。

 

「……目の前の二人と同様、残りのハウリア族を見て判断すればいい。それだけだろう」

 

「そうですね。まずは対面してから考えた方がいいでしょう。実際にやるんでしたら明日以降でしょうか」

 

 そう冷静に述べたチェイスとジェイドであったが、実は額に手を当てていたりする。ともあれこの後で会って判断するという二人の言葉を受け止めることが出来たらしく、デビッドとクリスも首をゆっくりと縦に振った。

 

「そうだな……後で面会する時間をもらうぞ。急な話にはなるが、愛子、それに王国を救ってくれたお前達が受け入れると言うならば王妃様も無碍にはしないはずだ」

 

「まぁそっちの名前を勝手に使わせてもらうことになるのは悪いと思うけど……いいかい? 愛子ちゃん、皆」

 

「わかりました。確かに一度話を通しておいた方がいいでしょうしお願いします」

 

「そこら辺は丸投げさせてもらうよ。全員をどこに住まわせるかとかはそっちの方でやってもらえば楽だしね」

 

「すいません、お願いできますか?」

 

 デビッドとクリスの問いかけに恵里達も愛子も肯首する。愛子としても一度その話を挙げておいてからの方が話がスムーズに通りやすいと考え、恵里もまたデビッドらが政務に関わっているから話をまとめるのも簡単だろうと踏んで頼み込んだ。ハジメ達も愛子と同様であった。流石にハウリアをいきなり兵士に仕立て上げようという発想自体は無かったが。

 

「――ごちそうさま。ハジメくん、終わったら首輪作りに行こっか」

 

「あ、うん。もうちょっと待ってて」

 

 そうしてデビッドらを迎え、ハウリアを迎えたこと以外で今日あったことを話しながら食事をする恵里達。一足先に恵里は食事を終えると、ハジメに次の予定について話しかけた。ハジメの方も後少しといったところであり、少し彼を待つ必要が出来たことから食事中に思いついたことを実行に移そうと考える。

 

「はいはいシア、ちょっといい?」

 

「ふぇ? なんですか?」

 

 他の早い皆と同様に食事を終えて談話――主に良樹とである――していたシアの方へと向かい、彼女にあることを問いかける。

 

「改めて聞きたいんだんけどさぁ、そっちは重いものを持ったりとか出来る?」

 

「重いもの、ですか? えーと、他のハウリアの女の子よりはちょっと出来るぐらいですけれど……」

 

 一体どういう意図だろうと首をかしげるシアを見て、やはりと思った恵里はすぐにアレーティアと視線を合わせる。すると彼女も耳打ちをした後に大介の手を引きながらシアの下へとやってきて、恵里がどうしてその質問をしたのかの説明を始める。

 

「……中村さんがシアさんに尋ねたのは貴女が意識して魔力を操作できるかを確認したかったからです」

 

「えっ? そんなこと出来るんですか?」

 

 キョトンとしているシアを見てやはりと“魔力操作”を持っている面々はうなずいた。既に恵里達から教えてもらっていた愛子やデビッドはもちろん、愛子らと同席して話を聞いていた重吾達やローテーションで食事にきた兵士達も同様の反応を返す。そのため一層シアとカムはよくわからないとばかりに首をかしげていた。

 

「やっぱり。まぁ他に魔力を持ってる奴がいなかったんだし当然っちゃ当然か。はい」

 

 未だ疑問符を浮かべているシアの右手を手に取ると、恵里はその手を彼女の目線まで持ち上げた。

 

「? あ、あのー、恵里さん? な、何をするんですかぁ……?」

 

「ったく、本当にさぁ……まぁいいや。今後ボク達についてくる気なんだったら最低でもこれぐらいはやってもらわないと困るからね」

 

「何が、でしょうか?」

 

「こういうことだよ――“操魔”」

 

 そして恵里は思わずため息を吐きたくなりながらもある魔法、魂魄魔法を基にしたオリジナルの魔法を発動していく。

 

「お、おぉ……おわぁぁ……な、なんかこう右手の辺りがすごい変な感覚が……」

 

 効果は『接触した相手の体内の魔力を操作する』というシンプルなものであり、魂魄魔法の研究の際に作った代物の一つだ。それを施して恵里はシアの体の魔力を動かし、操っていく。

 

「今シアが感じ取っているのはそっちの体の中にある魔力。それを今わかりやすく操ってる」

 

「いや私の中にそんな力があるのはわかりましたけれど――うひぃっ!? な、なんか今度は体中がぁ!?」

 

「し、シア!? だ、大丈夫か!? ど、どうしてこのようなことをなさるのですか中村殿!?」

 

 右手とその周辺に収まっていた何とも言えない感覚が全身に広がっていくのを感じてシアが情けない悲鳴を上げる。それを見たカムもオロオロしながらも恵里に尋ねてきたため、やれやれといった様子でその理由を語っていく。

 

「簡単だよ。これからボク達の旅に付き合おうっていうんならこれぐらいやってもらわないと困るからね」

 

「魔力で体を強化するんだよ。だろ?」

 

「え、えっとぉ、どういうことですか?」

 

 良樹が恵里の説明を補足してそれに恵里がうなずくものの、まだシアもカムもそのことを理解していたとは言えない様子。そんな二人の様子を見て恵里達はかつてステータスプレートをもらった際のメルドの説明の一つを思い返す。シアの身の上話を聞いたことで魔力を持っていた亜人は常に排除されていたことも思い出してこうなるのも仕方ないかとただ納得していた。

 

「……魔法としてではなく、体内の魔力を直接操作しての身体強化なら誰もが無意識レベルでしているものです。ですから私達と同行するんでしたら、これで自分の身を守れるようになってもらわないと困るからです」

 

 アレーティアが述べた通りである。シアは他の亜人と違って魔力を持っている。ならばこれを意識して使うことで身体能力を少しでも上げ、せめて逃げ回れるようにはなってもらいたいと恵里は考えたのだ。

 

「アレーティアの言う通り。その感覚をつかんでもらうためにもこうやってシアの体の魔力を動かしてるの」

 

「実際やれると便利だぜ。重いもの持つのも出来るし、走るのも結構速くなるからな」

 

 事実、“操魔”を使って体内の魔力の動きを自覚させたことで一般兵も身体能力が向上したのだ。流石にそれを施したのは兵の中でも上澄み、それでも魔力の総量が自分達より低いこともあってか『ちょっと強くなったかも?』と思う程度ではあったのだが。

 

「な、なるほど……恵里さんのおかげでなんとなくわかったような気がしますぅ」

 

「そう。じゃあ後は他に魂魄魔法が使える人にでもやってもらって。ハジメくんもご飯食べ終わったみたいだし、ボクとハジメくん、それとアレーティアと幸利君で帝国兵どもにつける首輪作りしないといけないからねぇ~」

 

 一連の説明を聞いてシアが理解を示した様子であるのを確認すると、恵里はそのまま手を放してハジメの下へと向かう。例の首輪の効果の付与は魂魄魔法に高い適性を持つ恵里、アレーティア、幸利でなければ作れないものだからだ。なおアレーティアと幸利が加わることになったのは、忙しさで死にかかっていた恵里とハジメに引きずり込まれたせいだったりする。

 

 まだ外で二個中隊の帝国兵どもを見張っているメルドや王国兵達をあまり待たせる訳にもいかない。だからシアへのレクチャーを早めに切り上げたのである。もちろん恵里が挙げた人物もすぐに自分達のところへとやって来た。

 

「じゃ悪い。後頼むぜー」

 

「本当は私か清水さんが残ればいいんですけど……」

 

「ま、仕方ねぇだろ。首輪に付与する魔法を扱えるのが俺と恵里とアレーティアさんだけだしな」

 

「悪いけど後は頼むわよー」

 

「ごめんねみんなー。優花っちと一緒に幸利っち、に着いていくからー」

 

 なお当たり前のようにアレーティアは大介を連れて来たし、幸利の後ろを優花と奈々はついてきたが。これに今更異を唱える人間は誰もおらず、シアとカムも『あぁ、そういう……』と彼らの間柄を察してほっこりしていた。

 

「ごめんね皆。じゃあ行ってきます」

 

「じゃあねー。後は頼んだよー」

 

 仲間たちに見送られながら恵里達七人は食堂を後にするのであった。




おまけ アレーティア、幸利を引きずり込む前の極限状態のふたり

恵里「う"ぁ"ー……し、仕事が終わらないぃ……」

ハジメ「……うん、一息入れよっか」

城の兵士やメイド達に着けさせる首輪作りを必死にやっててお疲れな二人。そこで差し入れの果実水を飲みながら恵里はあることを思いつく。

恵里「そうだハジメくん! ハンコ! ハンコ作ろうよ! 押しただけで相手洗脳できる優れもの!」

ハジメ「また唐突に倫理観がゼロな発明を……うん、やっぱり駄目だよ」

恵里「どうしてー!? こういう道具あったら絶対便利じゃん! ポンポン押すだけで仕事終わるんだよー!?」

ハジメ「いやその……他の人に使われたらどうするの? 寝てる時に使われたらどうにもならないでしょ」

恵里「あ……うん。やっぱり地道にやろっか」

ハジメ「うん。そうしよう、恵里」

かくして恵里の思い付いた「洗脳スタンプ(仮)」の作成はお流れとなりましたとさ。なおアレーティアと幸利が引きずり込まれて仕込まれた模様
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