あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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また遅刻しました(白目) グラブルの古戦場からやっと脱走出来たのとカクヨムながめてたせいです(容疑者並の感想)

では改めまして読者の皆様への感謝の言葉を。
おかげさまでUAも170246、しおりも401件、お気に入り件数も852件、感想数も611件(2023/6/6 23:21現在)となりました。本当にありがとうございます。皆様がひいきにしてくださることに感謝の念が尽きません。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当にありがとうございます。また話を書き進める力をいただきました。感謝です。

今回の話を読むにあたっての注意点として少し長め(12000字足らず)となっておりますのでご注意を。では本編をどうぞ。


六十九話 積荷と共に心も揺れて

 ハイリヒ王国郊外に幾台かの幌馬車が並ぶ。これらは国のお触れ、聖女として担がれた鈴や現人神として崇拝されるようになった大介とアレーティアの声掛けなどで集められたものだ。

 

 なお鈴も大介もアレーティアは今の自分の扱いにまだ慣れておらず、苦笑いを浮かべたり、むずがゆさに居心地を悪そうにしてたり、顔を真っ赤にして縮こまっていたりした。

 

「こっちの積み荷は大丈夫だよー」

 

「こっちもOKでーす」

 

 現在それらは恵里達や見送りに来たメルドらによって最後のチェックが行われている。馬車の状態や中に積まれた木箱――中にある()()()()()()()()の野菜類や果物、そして麦などの確認だ。

 

「車軸の方も問題なし。張られた布も損傷なし」

 

「こちらの積み荷も指定された種類の野菜を確認しました!」

 

 訓練の一環としてハウリアも数名参加しており、久々に鬼教官になったメルドのここ数日のシゴきの成果が出たのかキビキビと動いている。預けて正解だったと恵里へ思いながらも、愛子の周りで集合している皆と合流する。

 

「チェック完了。特に異常なしかな」

 

「ゴーレムの方も問題ありません。いつでも動けます」

 

 少し遅れて合流したハジメと共に今回の作戦を担当している愛子に報告を上げる。全員の報告を聞いた愛子は一度うなずくと恵里達を見渡して号令をかけた。

 

「ではこれからゲートホールを通じてトータス各地へと行商を行います」

 

 遂に産地偽装食品をトータス各地の村や街に販売する日が来たのである。とはいえ流石に一気に全ての集落や街などに向かうとまずいため、今回はフューレンと元領地の端っこにある集落に絞って派遣する流れだ。

 

 こうして集められた馬車とそれを引く馬と御者もそのためであり、また改良した馬型のゴーレムも試験運用として参加させている。準備は万端であった。

 

「皆さん、見た目をごまかすアーティファクトの確認は?……わかりました。では各自持ち場についてください」

 

『了解!』

 

 シアやカムに渡した自分の姿を誤認させるドッグタグ型アーティファクトの親戚が全員の手元に渡っているかを再確認し、それが済むと共に愛子は全員に持ち場につくよう伝える。恵里達もそれに答えると共に自分達が乗る馬車へと向かっていく。

 

「信治君、大丈夫かな。ここ数日寝るのが遅かったし」

 

「ま、大丈夫でしょ。ヘリーナがいるんだし、ちゃんとケアしてるんじゃない?」

 

 馬車へと向かう中、ハジメが口にしたのは今回参加を見送った信治のことだった。彼は今回の行商を行う際の商品の数や集めた馬車のチェック、馬車を徴収した際に発生したお金のやり取りを記載した帳簿の記載などをリリアーナと一緒にやっていたのである。

 

「二人にいいところ見せるんだー、って頑張ってたもんね。休ませてあげよう」

 

 鈴の言う通り彼はリリアーナ、ヘリーナと一緒に夜遅くまで仕事をしていたため、それで気力体力が尽きてしまったようだ。そのため今回の参加は見送りとなり、一緒に王宮でお休みということに。今頃二人に甲斐甲斐しく世話でもしてもらってるんだろうなー、と考えつつも恵里は別の話題を二人に振る。

 

「中野君のことは二人に任せるとしてさ、フューレンってどんなとこなのかな」

 

「うわ、結構強引に話切り替えた」

 

「まぁまぁ鈴。確かに僕らじゃどうしようもならないし、リリアーナさんとヘリーナさんに後は任せよう……うーん、そうだね」

 

 そこで鈴が思わずツッコミを入れ、ハジメも鈴を軽くなだめながら恵里の話に乗っかって考える。

 

「商業都市っていうし、色んなお店がきっと並んでるはず。龍太郎君達から聞いたブルックのことも考えると相当すごいんじゃないかな」

 

「ハジメくんウキウキしてるね。やっぱり気になる?」

 

「うん。アンカジ公国の時もそうだったけど、やっぱり異世界に来たんだからどういうところかは知りたいなー、って思わない?」

 

 大陸一の商業都市であり、欲しいモノがあればこの都市に行けば手に入ると言われているほどの場所だ。そこではどんなものが店に並んでいるんだろうと期待で胸を膨らませるハジメを見て、恵里もつられてニヤニヤしてしまう。

 

「それはそうだけどね。あくまでお仕事で行くんだからあんまり羽目を外さないでよハジメくん。それと恵里も」

 

「「はーい」」

 

 鈴もそんな上機嫌な二人をたしなめるものの、やはり口元が緩んでいる辺りどんな場所なのか気になってしまっているのだろう。そんな三人をながめる礼一らも苦笑していたものの、それを止める気は誰もなかった。

 

「だったらよ、とっとと売り飛ばして観光しねぇ? どうせ商業ギルドに持ってけば終わりだろ」

 

「まぁ確かに近藤君の言う通りだね。個別に店に持って行って商談するより商人を取りまとめてるギルドに話をつけた方が楽だもん」

 

 礼一の提案にハジメと鈴は少し苦笑いを浮かべ、恵里はそれに同意する。他の場所に向かうメンバーは各村の長と話をつけてから露店を開くという形であったが、恵里達の場合は少し別の形となる。商人達が所属するギルドへと持ち込んだ商品を卸し、それを買い取ってもらう形となっているのだ。だからそれが終わったら各自フリーとなるのである。

 

「後はギルドの方でこれだけの商品を買い取れる余裕があるかだね。無理だったら当初の予定通り教会に寄って炊き出しにしよう」

 

「私達の目的はご飯を食べられない人達に食料を届けることだしね」

 

 今回自分達がやるプランの内容を確認する形でハジメと鈴が補足する。今回の目的はあくまで『トータス全土で発生してしまった食料不足の解消』であり、単に商品を売ってお金をもらうということではない。そのため向こうがお金を用意出来なかった場合に備えてこういったプランも考えられていた。

 

「よ、良樹さん! その……」

 

「あ、あぁ。デート、だろ? わかってるって。ちゃんとつきあってやるよ……うん」

 

 恵里達と同行するメンバーのひとりであるシアと良樹も荷物を捌き終えた後のことで軽く盛り上がっている。

 

 今日はシアの休みも兼ねており、ハウリアの女子~ズに色々言われたせいで浮足立ってしまっている彼女に良樹も顔を赤らめながらそう答えるのが精いっぱいだった。お互い人生初のデートということで先輩である恵里達から話を聞いて色々と想像を膨らませていたようだ。

 

「……健太郎、それに辻と吉野も。斎藤達みたいに羽目を外してもいいんだぞ?」

 

「いや、その……」

 

「うん……そうしたい、けど」

 

「ちょっと気が引けちゃうっていうかね……」

 

 そんな彼らとは別にぎくしゃくとした空気を漂わせていたのは重吾達だ。ギルドを通じてフューレン各地の店舗、そしてトータス各地へと渡り歩く行商人へと商品を行き渡らせるのも計画の内だ。

 

 そこで各地に売り歩く商人もいるであろうフューレンの方へ向かうグループは必然的に持ち込む商品も多くなっている。それもあって彼らも恵里達のグループに組み込まれたのである……これが表向きの理由であった。

 

「そんなこと言ったら重吾だって……別に、もういいじゃんか。今はもう勇者じゃないんだから」

 

「そうよ。もう永山君は責任を負わなくっていいんだから」

 

「うん。永山君がそんな顔じゃぁ……ね? 笑おう?」

 

 もう気負う必要は無いと伝える野村であったがその表情はどこか固い。辻と吉野も彼に言葉をかけるものの、重吾からはただうつむくばかり。お互い心の傷はまだ深く残っているせいだ。

 

 また野村、辻、吉野は()()あったことでまだ幾らか心の傷が癒えていたこともあり、相川らと同様に寄る辺を失った重吾とどう接すればいいのかわからなかったこともあった。そのためお互いがお互いを思い合っているというのに接し方がぎこちなくなっていたのである。

 

“重症だね”

 

“うん……もうケンカする理由もないんだし、永山君達には立ち直ってほしいところだけど”

 

 恵里は少し面倒くさそうに、ハジメはため息を吐きたくなるのを我慢しながら“念話”で重吾らのことを話し合っていた。

 

 今回の行商は重吾ら四人が自分達のグループに組み込まれているだけでなく、相川、仁村、玉井も他のグループに参加している。これも愛子が恵里達に頼み込んだのが理由であり、『愛子にとっては』という但し書きがつくが彼らのケアをしてほしいというのが本当の目的だったのだ。

 

“女遊びは逆効果……あ、すいませんごめんなさい”

 

“近藤君……まぁでも、すぐにお仕事を終わらせて何か気晴らしした方がいいよね”

 

 礼一がデリカシーもクソもない考えをうっかり出したものだから恵里、鈴ににらまれて即謝罪。その彼をにらんでいた鈴も礼一の『遊び』という言葉だけを拾い、一緒に何かやれば少しは気が紛れるんじゃないだろうかと“念話”を使える皆に相談する。

 

“確かにちょっと不安ですよね……重吾さん達も()()理由があって良樹さん達を襲った訳ですし、それに仲間から裏切られてますから”

 

 シアも念話石を使って参加しつつ、重吾らを一応気遣う。今でも良樹達を裏切ったことは信じられないし、それがここに転移してくる前からの個人的な恨みから来ているのに関しても呆れていない訳ではない。けれども仲間だと思っていた相手から手ひどい裏切りを受けたことや、良樹達が特に気にしてないことを考慮してあまり強く言うことはなかった。

 

“まぁ畑山先生が土下座する勢いで頼み込んできたんだ。なんかやりゃいいだろ……あ、そうだ”

 

 シアの発言を受けて良樹も一応何か出来ないかと考える。と、そこである妙案が浮かんだ。

 

“なぁ先生、野村の奴らとダブルデートやれよ”

 

「は?」

 

「えっ」

 

「えぇっ!?」

 

 そう。恵里、ハジメ、鈴と野村、辻、吉野の二組でダブルデートをしてしまえと提案したのである。それに思わず恵里らも素で声が出てしまい、軽く肩を落としながら馬車へと向かう四人に視線を向けられてしまう。

 

“な、何言ってるの良樹君!? い、意味がわかんないよ!”

 

“簡単だよ簡単。アイツらデキてるだろ? かといって地球にいた頃からそういう感じって訳でもなかったじゃねぇか。ならここ最近そうなったってことだろうし、先生が中村と谷口と一緒にどうやって普段過ごしてるか見せてやりゃちったぁ気がほぐれるって思ったんだよ”

 

“どういう理由!? いやわかりはしたけどそれをやれって!?”

 

 今思いついたにしては中々の考えだと内心自画自賛しながら理由を説明する良樹にハジメは何度も“念話”でツッコミを入れ続ける。中々にいいハジメのリアクションにケラケラ笑う良樹に便乗し、今度は礼一とシアも口をはさんできた。

 

“あ、いいな。俺も賛成だわ。ハーレムの先輩として格の違いってモン見せてやれよ”

 

“いいじゃないですか! あ、出来ることなら後でどんな感じだったか教えてほしいかなー、って”

 

“いやいや近藤君もシアさんも何言ってるの!? そ、そういうのって向こうの気持ちも考えないと――”

 

「一体何の話だ」

 

 そこで先程から軽く目を細めていた鈴も二人にツッコむ。えー、とちょっと不満げに口をとがらせる礼一と言い返されてあははと苦笑するシアをちゃんと説得しようとしたところ、重吾らが声をかけてきた。

 

「あ、いや、その……えーっと……」

 

「これから訪れるフューレンのことでの相談だよ。ボク達だって少しは緊張してたからね」

 

 言いよどむハジメをかばうべく、先程まで良樹と礼一をにらんでいた恵里がそれっぽい理由をでっちあげて説明する。一応フューレンで仕事を終えた後のことではあったため、嘘ではないことからハジメ達もごまかしやすいだろうととっさに頭を回転させて考え付いたのである。

 

「そう、か……お前らも、緊張はするんだな」

 

「人のことなんだと思ってるワケぇ~? ボクだって普通の人間だってば」

 

 嘘とはいえ普通の人間っぽさを恵里が述べたことでほんの少しだけ重吾はシンパシーを抱き、暗に人間離れしてると言われてちょっとツンとした態度で恵里は言い返す。

 

「いや絶対違うだろ……」

 

「あの、そう言いたくなるのはわかりますけど……でも」

 

「……意味合いによっては僕も怒るけどね。ていうか鈴までどうしてうなずいてるの?」

 

 そんな恵里について野村はしれっと毒を吐き、ハジメとシアだけが軽く苦笑する中、鈴と礼一、そして良樹だけはうんうんとうなずいていた。

 

「だって恵里でしょ? 下手な人より頭も悪知恵も回るんだし、あながち間違いでもないよねって思ったから」

 

「は? こんな性格のいい献身的な美少女のことをよぉくこき下ろせるねぇ鈴もさぁ~? そっちだって大概いい性格してるじゃ――」

 

「はい二人とも。お仕事いくよ」

 

 先程の野村の言にうなずいた理由を鈴が語れば、それに軽くカチンときた恵里がすぐにけんか腰になってずいっと鈴に迫る。そしていつものように口ゲンカが始まりそうになった時、すぐにハジメは二人の間に割って入り、そのまま二人を脇に抱えて馬車へと向かっていく。

 

「ハジメくん! ボクも鈴ももっとちゃんと扱ってよ!」

 

「そうだよ! ケンカしそうになったのは悪いって思うけど、鈴だってこういう風に運ばれるのイヤだよ!」

 

「だったらいきなりケンカしないの。続きをしたいんならせめてお仕事終わってからね」

 

 荷物みたいに運ばれることに鈴と一緒に抗議するも、ハジメは苦笑しながら二人に簡潔に言い返してそのまま馬車の御者台へと登っていく。そんな三人の様子を見た重吾らは足を止めてポカンとしてしまっていた。

 

「すごいな……南雲は」

 

「手馴れてるよねぇ……」

 

「うろたえもしないで上手くあしらってる……これが年の功なのかしら」

 

「十年近く中村と谷口とつき合ってるんだからな……すごいな」

 

「ほぇ~……なんかこう、熟年の夫婦みたいですよね。すごいなぁ……」

 

 そしてハジメの振る舞いを見ていた重吾、野村、辻、吉野、シアはその様に各々感銘を受けていた。好きな人同士に囲まれてもうろたえもせず、かといって道理に反することも機嫌を必要以上に損ねることもなく対処しているのに軽く感銘を受けていた。

 

「そら先生だしな」

 

「おう。俺らのハーレム王だしな」

 

「みんなー、早く馬車に乗ってー!」

 

「おう、今行くぜー先生ぇー」

 

 なお礼一と良樹だけは腕組みをしながらハジメを軽く持ち上げる程度だったりする。そんな彼らにハジメが声をかけると、良樹がそれに返事すると共に彼らは馬車に向けて再度歩き出す――仕事に出る前にほんの少しだけ、彼らの距離は縮んだようであった。

 

「全員乗ったよなー? んじゃこれからフューレンの街までひとっとびすんぞ」

 

 そうして御者台に恵里、ハジメ、鈴の三人が腰かけ、積載スペースに他の皆が乗り込んだのを確認した礼一は自分の宝物庫からゲートキーを取り出して使う。すぐに空間に突き刺してフューレンから数百メートル離れた場所へのゲートを開くと、すぐ転移先に誰もいないことを確認してからハジメに早く行くよう彼は促す。

 

「んじゃハジメぇー、早くしてくれー。穴がデカい分魔力使うからよー」

 

「はいはい。じゃあハジメくん、行こっか」

 

「うん。安全運転お願い」

 

「わかった。じゃあ“今からあのゲートに向かって前進。僕がいいと言うまで歩き続けて”」

 

 両脇にいる恵里と鈴にも声をかけられ、すぐにハジメはこの幌馬車を引く馬型ゴーレムに指示を出す。ゴーレムはいななくフリをしながらゆっくりと前に足を出し、力強い足取りでそのまま前方のゲートに向かって進んでいく。

 

「これが、南雲の……」

 

「本当にドラえも〇のどこでも〇アみたいね……」

 

 後ろから聞こえる重吾と辻の声に恵里は上機嫌になり、既に絡めていた彼の右腕にもう少し力を入れて抱きしめる。重吾らにはハジメの作ったアーティファクトのことを直接言った訳ではないが多分ウワサぐらいは聞いているんだろうと思いつつ、ボクの自慢の彼氏はすごいんだぞと心の中でアピールする。

 

「お疲れ、礼一君」

 

「おう。んじゃ、俺は後ろで大人しくしてるわー。目的地着いたら声かけてくれー」

 

 ゲートをくぐり抜けた馬車が街道のひとつへと出るのを確認した礼一は、ハジメに声をかけてすぐ積載スペースの中へと乗り込んでいく。どうせ大人しくしてないで適当に騒いでるんだろうなーと思った恵里であったが、それよりもハジメと鈴と一緒にフューレンまでの馬車の旅を楽しむことに意識を持っていった。

 

「いい天気だね」

 

「うん。本当にいい天気」

 

「温かいし、風も穏やかでいいね」

 

「そうだね。こうして馬車に揺られるのも気持ちいいよね」

 

 ゴーレムが道を歩く音、車輪が回る音をBGMにひどく穏やかな時間が流れていく。前世のことを数に数えればこうして馬車で移動した経験はそれなりにある。けれどもこんな風に心が満たされて、目的があるとはいえそこまで急ぐ必要のない状況に身を置いたのは恵里にとってはこれが初めてだった。

 

(……幸せ。こんな素敵な時間、地球にいた時以来かも)

 

 天候。好きな人の腕から感じる体温。何らかの目的に追い立てられることもなくただ過ごすだけでいい時間。そのいずれもが心地よくてついまどろんでしまいそうになってしまう。けれどもこんな貴重な時間を逃したくないと恵里は鈴と一緒に話を続ける。

 

「そういえばハジメくん。この馬車を引いてるのってゴーレムなんだし、そこまで真剣に手綱を握らなくてもいいんじゃない?」

 

「気分だよ気分。こうして馬を引く機会なんてなかったからさ……もし地球に戻ったらさ、お金をためて馬に乗りに行くのもいいかもね」

 

「そうだね。乗馬は確かにやったことなかったし、また皆で一緒に遠出しようよ」

 

「ただ乗馬するのもいいけどさ、どうせだしそういうサービスやってる牧場とか行くのもよさそうだよね」

 

「うん。名案だね恵里。えーと、そういうのってやっぱり北海道とか――」

 

 時にはハジメと、時には鈴と、とりとめのないことを話しては一喜一憂し、なんということもない時間が過ぎる。ただそれが無性に嬉しくてつい続けてしまう。無論オルクス大迷宮を攻略していた時の癖で“気配探知”で自分達の周囲に魔物が来ないかどうか探りつつではあったが、それを含めても特に何も起きる気配がないことからそんな優しい時間に恵里達は身を委ねていた。

 

「盛り上がってんなぁ先生達もよ」

 

「そうですね。ハジメさん達とっても楽しそうです」

 

 そうして恵里達が楽し気に談笑する中、良樹達もまた話に花を咲かせていた。

 

「なんていうか、その、よく大ゲンカしないよな南雲の奴ら。あれだけ気が強いってんならちょくちょくそういうことがあってもおかしくないと思うんだけど」

 

「あ? 何言ってんだ。割としょっちゅうあるぞ。オルクス大迷宮の一番奥で起きたフリージア……ってこれじゃわからねぇか。メイドのゴーレムの扱いで下手したらヤバかったかもしれないケンカだってやってたし、それレベルじゃないにしてもしょっちゅうケンカなんてやってるぜ」

 

 野村のつぶやきに礼一がすぐに反応を返せば、重吾らはそれに驚くだけであった。確かに地球にいた頃からちょっとしたケンカをあの三人がしていたというのはわかっていたが、仲間内でそう評価するぐらいの大事があったことに意外さを感じたからだ。

 

「……私達はどう、なのかな」

 

「うん……そんなけんかしても、元通りになれるのかな」

 

「綾子、真央……」

 

 そんな時ふと辻と吉野が心配そうに声を漏らすと、その間にいた野村が彼女らの両肩を抱いて軽く自分の方へと抱き寄せる。その様を見たシアは『ふぉぉ……』と感嘆し、礼一もやるじゃんとばかりにニタニタ笑っていたが、良樹だけはその様を見てどこか危うさを感じていた。

 

(なんつーか、アレーティアが大介におっかかってる感じっぽいな)

 

 そう思ったのはアレーティアという少女の危うさを何度となくよく見ていたということもあったのだろう。だがシアという気になる相手が出来てからなのか、良樹は他人の一挙手一投足が前より少しだけ気になるようにもなっていた。年頃の子供特有のナイーブさなのだろうが、そのせいか彼らがどこかお互いに依存しあっているように見えたのである。

 

「ま、そこらも含めて先生……じゃそっちはわかりづれぇか。ハジメの奴を参考にしろよ。多分それでどうにかなるだろ」

 

「ですね! ちゃんと思いをぶつけ合えばきっと大丈夫だと思います!」

 

 一応は味方になったのだからと良樹が少し気を利かせて野村らにちょっとした助言をすると、シアもそれに乗っかってきた。

 

「野村さん達だってお互い好きになることがあったんですよね? だったらそれを忘れなければきっと問題ありません!」

 

 野村達に何があったかは恵里達と同様にシアも知らない。けれどもきっと辻と吉野がお互いに嫉妬することもなく、ただ真ん中にいる少年のことを思っているとなれば相応のことがあったのだろうと考えた。だからこそきっかけさえ忘れなければ大丈夫だとシアは励ましたのである。

 

「あー、その……」

 

「そう、ね……」

 

「うん。そうだね……」

 

「えっ、えっ? え、えっと、も、もしかして三人ともそういう関係に……!?」

 

 そこで頬を赤く染めて気まずそうに顔を背ける三人を見てシアは頭の中でいらんことを次々と浮かばせ、()()()()シーンを妄想して同じくらい顔を真っ赤にする。そんな残念ウサギを見た良樹と礼一は『ヤベぇ。珍獣が増えた』と心の中で嘆いた。

 

(……良かったな、健太郎)

 

 そうして馬車の中で盛り上がりを見せる中、重吾はひとり寂しげに野村らを見つめていた。

 

(いっそのこと羽目を外して自棄(やけ)になれば楽になれるのかもしれない。でも……)

 

 彼の頭に浮かぶのは酒を飲んで泥酔した時のことや礼一らが夜遊びをやっているというウワサ。自分もそういういけないことに手を出して、何も考えないまま遊び(ほう)けてしまえば楽になれるのかもと思ってしまった。けれどもそれをしたくても彼は出来なかった。

 

(それを見た健太郎達はどう思うだろうな……それに、一夜の関係であっても信用できるのか)

 

 成り行きとはいえ野村らのリーダーを務めてやってしまえた程度にはあった責任感が、そして誰かを信じて裏切られた経験が彼を縛ってしまった。自分を慕ってくれる相手の期待を裏切るかもしれないという怖さが彼に二の足を踏ませてしまっていたのだ。

 

(俺は、どうすれば……)

 

 ただ一人考えの底なし沼にはまっていた重吾であったが、それも馬車が動きを止めたことでバカ騒ぎ一歩手前だったシア達と共に現実に引き戻される。一体何事かと声をかけようとするとハジメの方から理由を述べてくれた。

 

「ここから先、二百メートルぐらいのところに魔物の群れが見えた。一旦迎撃するからちょっと待っててほしい」

 

「数はどんぐらいだ?」

 

「うーんと……ざっと三十ぐらいかな」

 

 その言葉に重吾らに緊張が走る。いくらオルクス大迷宮の深層にいたような強い魔物でなくとも数が数だ。ここにいるメンバー全員が天之河のように“神威”が使える訳でもないし、南雲が持っているであろう銃だって弾に限りがある。

 

「南雲、お前は魔物達が迫ってきたら流砂を作って足止めしてくれ。そこを俺が叩く」

 

「その後私が重吾君、シアさん、それと近藤君を付与魔法で支援するよ」

 

「私と谷口で回復をしながら彼らを結界魔法で援護しましょう。やってくれる?」

 

「あと斎藤も風魔法で援護を頼む……数は多いが役割分担すれば倒せない数ではないはずだ……力を、貸してくれ」

 

 あの流砂を作る魔法があるとしても苦戦は免れられないだろうと考え、すぐに野村は具体的なプランを口にする。すると吉野、辻も自分達がどういった立ち位置で動くかを話し、重吾も頭を下げて協力を願い出る。数の不利があったとしてもやれるはずだと勝算を持ってハジメ達に頼み込んだ。

 

「え? 必要ないけど? この程度鈴とハジメくんだけでもどうとでもなるし」

 

「「「「え?」」」」

 

 ……が、それも恵里の容赦のない一言でバッサリと切り捨てられた。その一言に重吾らが目を点にし、ハジメと鈴は『なんて事を……』と頭を抱えてしまっていた。

 

「いや恵里……せっかく永山君達が協力をお願いしてきたんだから聞いてあげようよ……」

 

「そうだよ……別に僕達だけでやろうとしなくったっていい話でしょ」

 

「えー。そこまでやんなくったって鈴の“聖壁・桜花”か“聖壁・散”であらかた倒せるし、鈴じゃなくてもボクが“震天”使った後にハジメくんのオルカンかメツェライがあれば余裕で倒せるでしょ。周りに誰もいないみたいだしさ」

 

 どうにか説得しようとする二人に対し、恵里も別に協力しなくても余裕で倒せると具体例を挙げながら反論してくる。それを聞いた重吾らはちんぷんかんぷんだったものの、言ったことの意味がわかるシア、礼一、良樹はそれぞれ反応を返してきた。

 

「いや、あのー、恵里さん……? ここは一緒に戦って、仲を深めるところだと思うんですけど?」

 

「まぁそっちの方が楽だよな。わかる。中村の言った方法じゃ二分そこらあれば確実に終わるだろうしな。まぁうん」

 

「いやお前、自称魔王から頼まれたじゃねーか。永山達のケアしてくれって。言うか普通?」

 

 礼一だけは一応理解を示したもののあくまでそれぐらいで、シアと良樹にはそれはどうなのかと詰め寄られてしまい、恵里も思わず『えー』と返すばかり。

 

「いやそうだけどさぁ……とっとと戦闘も仕事も終わらせて、それで自由時間に色々やった方がいいと思ったんだけど。じゃあ、やる?」

 

「いや言いたいことはわかるんだけどさ……やろうよ恵里。別に今やっちゃダメな訳じゃないんだから」

 

 流石にほぼ全員からツッコミを入れられては恵里としても引っ込むしかなく、野村が提案した通りの戦い方でやるのかと尋ね返せばまたしてもハジメからツッコミを返されてしまう。ならもう仕方ないかと思い直し、一緒に戦うことを選んだのだった。

 

「はーい……じゃあ早く持ち場に着いて。こっちも魔法で色々と支援するから」

 

「あ、あぁ……」

 

「あ、うん……」

 

 そうして前方百メートルを切った辺りでようやく恵里達は戦闘の準備に取りかかる。重吾達にも渡した宝物庫から各自武器を取り出し、いつ来てもいいように即座に構えて迎撃することに。

 

「“聖壁” はい。動けないように閉じこめといたよ」

 

「えっ」

 

「ありがとう鈴。んじゃ“呆散” 後は余裕でしょ」

 

「うん。ありがとう鈴、恵里。じゃあ“崩陸”……よし。野村君、土属性の魔法で地面固めてくれるかな」

 

「あ、その、はい……」

 

「よっし。んじゃ良樹と吉野、あと野村もやれるんなら援護頼むぜー」

 

「あ、うん……」

 

「あいよ。ま、シアのためにも残しておけよー」

 

「はい、了解ですぅ!」

 

 ……なお、結果はイジメもかくやのものであった。

 

 鈴が“聖壁”によって魔物達の周囲を覆い、恵里の“呆散”で意識を軽くあやふやにしてマトモに動けなくしてからハジメが“崩陸”によって地面を流砂にして上にいた魔物全てを沈めた。

 

 その後野村が地面を固めてマトモに動けなくなったところを礼一、シアが接近戦でていねいに潰していき、やや気おくれする形で重吾も動く。良樹も遠く離れた場所で埋まっている魔物に向かって魔法で対処し、吉野も多分いらないだろうなーと思いながらも付与魔法を発動して一応のフォローをした結果、カップ麵が出来上がるよりも前に魔物の討伐は終わってしまう。なお辻は一切活躍することが無かった。

 

「お疲れさま、皆」

 

「まー大したことなかったよなぁ。ヌルいヌルい」

 

「やっぱり余裕だったね。ハジメくんがドンナーとシュラークを抜く必要すら無かったし」

 

「あそこまでやれたらこれぐらいいけるよ。お疲れ様、永山……あれ?」

 

 そうして恵里達はお互いの健闘をたたえ合っていたのだが、ふと全然声を上げていない重吾らの方を向けばお通夜みたいな空気になってしまっていた。

 

「……俺達、弱いな」

 

「天之河だけじゃなくて全員か……詠唱しないで、魔法使えるもんな。オルクス大迷宮突破してんだもんな」

 

「私達が強くなった意味ってあったのかな……私、何もしないで終わったんだけど」

 

「なんか、むなしいよね……確かにあそこまで苦しい目には遭わなかったけど、私達の苦労ってなんだったのかなぁ」

 

 既にステータスプレートを見てとんでもない奴らであることは理解していたし、見せたものはほんのひと握り程度でしかなかった。とはいえ自分達と隔絶した力を持っていることを理解させられたせいで、自分達の努力はなんだったのかと思い返す程度には重吾らは気落ちしていた。

 

「やっちゃい、ましたね……」

 

 シアの言葉が重く響く。恵里らと何度となく手合わせをしているが故に、強くなってもあまり自信がついていないシアだからこそ彼らの嘆きが手に取るようにわかった。これは自分が毎回皆さん相手に味わってる気持ちと同じだ、と。

 

 何度となく叩きのめされるのが普通であったがためにほんの片鱗とはいえ実力の差を見せつけられた時の気持ちに気付くのが遅れてしまったと自分のやらかしを噛みしめていた。

 

「……とりあえず、“鎮魂”かけとく?」

 

 そんな彼らを見て提案してきた恵里にハジメ達は重々しくうなずく。やめときゃよかったと後悔するも後の祭りであった……。




恵里・ハジメ・鈴・良樹・礼一「ボク/僕/鈴/俺達、またなんかやっちゃいました?」

シア「やっちゃいましたよ……」

重吾・野村・辻・吉野「やったよ馬鹿(涙目)」
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