あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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遅刻しました。あと終わりませんでした(しろめ)

……それではエイプリルフールネタ、第二段です。どうぞ。


四月馬鹿なもしもの話 その2

「えーととりあえず、ユエさんとディンリードさんが異世界の人だってのは間違いないな」

 

 部屋中を見渡す形で声をかけてきた愁に香織もうなずいて返す。菫と彼女のアシスタントがご近所さんに何があったかの嘘の説明をしてから数十分後、小休止をはさんでから話し合いは再開された。

 

「確かにお二人がそうだというのはわかった……しかし、どうすればいいのやら」

 

「そうね。このことを警察に話しても追い返されるのが見えるわ。オタクとしては盛り上がるんだけどね」

 

 近くに座っていた智一が両手を前に組みながら苦しげにつぶやけば、菫も右手をほほに当ててため息を吐きながら事実と個人的な意見を述べる。香織も父の言い分と菫の述べた事実にだけうなずいていた。

 

(……どうすれば、いいのかな)

 

 先程ユエとディンリードが手のひらに大きな火の玉を生み出したこともあり、智一と薫子も理解を示してくれたようではある。けれども問題そのものが解決した訳ではないからだ。どうすればいいのだろうと悩んだ香織はふとユエ達が気になり、二人の方を見やる。

 

「……この世界でも、そう」

 

「彼女()のおかげでエヒトからは逃れられても、か」

 

 ユエは悲しげな表情を浮かべ、うつむきながらぽつりと漏らす。ディンリードもユエの方を見たり、また思案する素振りをしながら重々しい声で言葉を口にしていた。

 

 きっと元いた世界でのことなんだろうと香織も察しはついたものの、かといってどう言葉をかければいいのかわからない。胸がしめつけられるような思いに駆られ、香織は南雲達は何か思いついてないかと視線を向ける。

 

(……私、何やってるのかな。ユエさん達だって悩んでるのに)

 

「……ユエさん達をどうにかウチに置いておけないかな」

 

 やはり南雲や愁、菫に彼女のアシスタントも辛そうだったり悲しげな顔をしている。また時折ユエ達の方を見やってうなっていた。自分が考えなしであったことを恥じ、香織は思わず自分を責めてしまう。そんな時、南雲が独り言を言うかのようにとんでもないことを口にしていた。

 

「南雲くんっ」

 

「どういう理由で二人がこの世界に来たかはわからない。けどこのまま警察に行って終わりじゃいけないと思う」

 

 香織も思わず彼の名前を口にしながら南雲を見やる。すると南雲はどこか意を決したような顔つきで、この場にいた皆を見ながら意見を口にする。その声は震えていたが、けれどそこから彼の優しさと勇気を香織は確かに感じ取っていた。

 

「私も、このままだとダメだと思う。お父さん、お母さん。どうにか出来ないかな」

 

 キッと軽く目つきを鋭くした香織は両親の方へと顔を向け、南雲のやり方に乗っかった。この問題を解決する方法はまだ香織の頭には浮かんではいない。けれども南雲だけにこの問題を背負わせたくないと香織は強く思ったのだ。だから説得する気概で両親を見据える。

 

「香織、さん……」

 

「か、香織。人助けの心は立派だとパパだって思うよ。けどね、犬や猫を拾うのとは訳が……」

 

「わかってる。それでも、だよ」

 

 きょとんとした様子のユエ達から見つめられていることに香織は気づいていない。しかし香織は当たり前のことを苦しげに言ってくる父から、悩んでいる様子の母からも目をそらさなかった。どうにか二人を助けたいと香織はただ目で訴えていく。

 

「昔仕事をしていた時にさ、記憶喪失になった人は戸籍を作れるとかどうってのを部下から聞いたことがあってね。その線ならやれるかもな」

 

 たじたじになった様子の両親から目を離さず、ただじっと見つめていた香織の耳に愁の声が届く。少し苦しげな絞り出すような声で出された意見に香織は大きく目を見開き、グルン! とそちらに顔を向ける。それに愁はちょっと驚いた様子を見せるも、すぐにニヤリと笑って見つめ返してきた。

 

「流石ねあなた! ちゃんと調べるのが先だけれど、その線なら二人を保護できるかも!」

 

「だろう菫!……で、智一君と薫子さんもいいかな?」

 

 すぐさま菫も愁をベタ褒めし、また愁も腰に手を当てて笑っている。ひとしきり笑った後、愁が両親の方に視線を向けてきたため、香織もそちらに目を向けた。すると智一と薫子も目を泳がせながらもうなずいており、どうにかなるかもしれないと香織は短く息を吐いた。

 

「……皆さんの厚意には感謝しています。けれど、ひとつお願いがあります」

 

 そんな折、ユエが申し訳なさげにぽつりとつぶやいた。香織がユエの方を向けば、彼女がチラッとディンリードを一瞥したのが見えた。その時の鋭い視線とこれまでのことを香織は思い返し、そうなっちゃうよねと心の中でため息を吐く。

 

「私とは別に過ごしたい。そうだろう?」

 

「いいのかい。ディンリードさん」

 

「私は恨まれても仕方の無いことをしたんだ。そうなるのも無理は無いさ」

 

 どこか皮肉げな笑みを浮かべ、ユエの方だけを向かずにディンリードは言う。すぐさま愁が彼に声をかけるも、ディンリードは上を見ながらただ自嘲するだけだった。その様を見て香織は痛々しさを感じ、思わず目をそらしたくなってしまう。

 

(――メールだ! 南雲くんとメールでやりとりすれば大丈夫だよね!)

 

 しかしその時香織はあることを閃き、口を一瞬半開きにした。この方法ならユエに気取られることなく、ディンリードに彼女のことを伝えるぐらいは出来ると思ったからだ。場にやや重苦しい空気が流れる中、香織はすぐさま手を挙げる。

 

「じゃ、じゃあユエさんは私達が。ディンリードさんは南雲くんのお家にいてくれますか?」

 

「で、でもね香織ぃ……」

 

 ユエを自分達が預かると提案すれば、どんよりとした空気が少し軽くなる。すぐに智一が食い下がってきたものの、香織はすぐに父の方を向いてその手を握った。

 

「お父さん、一生のお願い。私、ユエさんを助けたい」

 

 ディンリードでなくユエを選んだのは、ユエが南雲と一緒にいるのを想像してちょっともやもやしたものを感じたからだ。とはいえユエを助けたいとは本気で思っていたため、香織はなんとしてでもこのわがままを通そうと智一に向かって頭を下げる。

 

「……わかったわ、香織。お父さんは私が説得するから」

 

「い、いいのかい? お母さんだって不安なんじゃ……」

 

 するとすぐに薫子が軽いため息を吐きながらも受け入れ、また智一の説得もしてくれると言ってくれた。香織もガバッと頭を上げて顔をほころばせながら薫子を見やる。すぐさま智一も心配そうに口をはさんできたものの、薫子は微笑みながらそっと香織に近づいた。

 

「確かに不安よ。でもね、ここで断ったら香織は知らない誰かに優しく出来なくなるかもしれないわ。ね?」

 

「それを言われると……仕方ない。わかったよ香織、薫子」

 

 そして香織の肩にそっと手を置き、説得してくれる理由を語る。母がそこまで考えてくれていたことに感激しながらも香織はじっと智一を見つめる。すると智一も大きく息を吐きながらうなずき、香織もつられて安堵のため息を吐いた。

 

「じゃあそうなるとウチは」

 

「厄介になりますが、いいでしょうか。南雲さん」

 

「モチのロンよ!」

 

「任せてくれ!」

 

 ユエを白崎家が預かることが決まってすぐ、アシスタントの一人がやや浮かれた声色で話を切り出す。ディンリードが少しすまなそうに頼み込めば、菫と愁が無駄にハイテンションで承諾する。改めてすごい両親だなぁと香織は苦笑しながら二人を見やった。

 

「じゃあそうなると色々と入り用になってくるわね」

 

「そうだね。二人ともその格好だと目立ちますし」

 

 こうしてユエとディンリードがそれぞれの家に厄介になることは決まった。そこで菫が話を切り出せば、南雲が二人の服装をチラッと見ながら話に乗っかる。

 

「アメニティグッズとかもそうだね、南雲くん」

 

 香織もまたうんうんとうなずきながらユエの方を見やった。着の身着のままでこの世界に来ている以上、ユエ達には服だけでなく下着や歯ブラシなどの生活必需品が必要だと香織は考えた。どういう服装がユエに合うかなぁとちょっとだけウキウキしつつ、香織は今必要なものを指折り数える。

 

「そういったものに関しては皆さんに一任します」

 

「私達はこの世界のことをまだよく知らない……お願いします」

 

 ユエもディンリードも頭を下げて頼み込んできたものの、香織はふとあることが引っかかってしまう。二人とも王族であることを考えると、やっぱり高級品を使わないと嫌では無いかと思ったのだ。

 

「……やっぱりブランド物を渡したほうがいいかな?」

 

「そ、そこは考えてなかったよ……でも、僕はそこまで詳しくないよ白崎さん」

 

 表に出さずとも内心顔をしかめるのではと少し不安になった香織は、ひそひそ声で南雲に相談する。南雲は軽くギョッとした様子で返事をし、薫子や菫、アシスタントの女性をチラッと見た。

 

「……南雲くんとも相談したかったんだけど。だめなの?」

 

「いや、その……うぅ、勘弁してくださいぃ~」

 

 しかし香織は相談するついでに南雲とも話したくなったのだ。彼に話しかける貴重な機会だと思って声をかけたものの、肝心の南雲は何度も目を泳がせた後で顔を真っ赤にして縮こまるばかり。彼の様子に少しかわいさを覚えたものの、話を続けてくれないことに香織はちょっとむくれてしまう。

 

(私、もっとお話したいのにな。せっかくチャンスが来たのに)

 

「それじゃあ一旦解散で。急がないと服屋も閉まっちゃうしな」

 

 心の中で恨み言を吐いていると、愁がここで解散しようと持ちかけてきた。軽く驚きつつ香織が部屋の壁掛け時計に目をやれば、もう夜にさしかかっていることに気づいてびっくりしてしまう。

 

(……そっか。色々あったもんね)

 

「あ、そうか。それじゃあ香織、ユエさん。行こうか」

 

 菫の仕事場への移動やこれまでの話し合い、それにご近所さんの説得などで時間を使ったことを香織は思い出してひとり納得する。智一に促され、香織はユエと一緒に席を立って玄関へと向かう。

 

「あ、南雲くん……じゃあ、またね」

 

「え、えっと……また」

 

 まだ彼と満足に話せてない。そのことに後ろ髪引かれつつも香織は南雲に別れのあいさつをかける。彼のぎこちない返事を聞き、もっとお話したいという思いを堪えながら香織はマンションを後にするのであった……。

 

 

 

 

 

「ユエさ~ん、着替え終わった~?」

 

 そうして南雲家とディンリードと別れた香織達は、ひいきにしているショッピングモールに訪れていた。他のアメニティグッズを買う担当の両親と別れ、香織はユエをよく立ち寄るアパレルショップへと手を引いて連れて来る。そして色々な服をホイホイと試着室の彼女へと手渡していた。

 

「……ん」

 

「うわー、やっぱりこれも似合うなぁ。あ、でも上はこっちの方がいいかも。それか……」

 

 新たに渡したレース付きの白のブラウス、黒のミニスカートに着替えたユエもまた様になっていると香織は思う。むしろしっくりくるなぁと思いつつ、三着目のトップスの方がもっといいかともと買い物かごを見ながら思案する。

 

「……さっきからいい質のものばかり。さっきも言ったように私は居候の身。そこまでしてくれなくても構わない」

 

 そんな時、ふとユエの困惑に満ちた声が香織の耳に届いた。確かに移動中にさん付け以外の敬語は使わなくてもいいとユエが言ってきたことも思い出し、香織は思わず首をかしげてしまう。いくら居候になるからって服ぐらい自分で選びたいと香織は思っていたからだ。

 

「そう? 別にユエさんがおしゃれしてもいいかなって思ったんだけど」

 

「こんな上質な生地を使ってるなら相当値が張るはず。私が王族だったからって無理して買わなくてもいい」

 

「大丈夫だよ。私みたいな普通の人でも買えるお店だから」

 

 香織は思ったことを口にしたものの、ユエは首を横に振った。そして今着ているものを見下ろし、手を添えながらユエが申し訳なさそうにつぶやく。大げさだなぁと思った香織は笑みを浮かべながらここが高級店でないことを述べる。途端にユエは動かなくなってしまった。

 

「……ふつ、う?」

 

「うん、普通。高級店ならもっと高いはずだし」

 

 かすかに震えながらユエが尋ねてきたことに香織はまた首をかしげてしまう。そこまで変なことを言ったつもりはないのに。そう思いながら改めて説明をすれば、ユエは目を見開いて口を半開きにしたまま固まってしまった。

 

「……も、もしかして、ユエさんのいた世界って、こういうのないの?」

 

「……間違っても庶民には着れない。一着一着が王侯貴族向けのものにしか見えない」

 

 香織はずいっとユエに顔を近づけ、彼女に耳打ちする。するとユエもやや緊張した様子で小声で返し、どうしてユエがひどく驚いていたかを理解してしまう。香織は仲良くユエと口を半開きにし、新しく持ってきた服と今ユエが試着している服を無言で見比べる。そしてユエがこの世界に現れた時に着ていた格好を思い出す。

 

「そ、そっかぁ……そう、なんだ」

 

「……今やっと智一さんが仰ってたことが飲み込めた」

 

 もしや魔法のある『ベル○ら』みたいな中世ヨーロッパのような感じの世界ではないのか。だとしたらユエがここまで驚くのも無理はないと香織も驚きながらも納得する。口の端を引きつらせながらどうにか香織が返事をすれば、ユエもどこかビクビクした様子で智一のことに触れる。

 

「お父さん……あ、もしかして建物のこと?」

 

 一体どういうことかと香織は軽く考え込むも、すぐにユエが何について触れたかを理解する――この商業施設に来る際のあることがきっかけで、ユエは智一と建築関連の熱いトークを繰り広げていたことだ。

 

「……ん。あの時まで香織達は貴族だと思ってた。ここに来るまでの道のりも貴族向けの歓楽街だとずっと思い込んでた」

 

 ここに来る道中で車の窓越しに景色を見てユエがつぶやいたのがきっかけだった。『……すごい。石造りみたいな方法で、こんな高い建物が並び立ってる』と。

 

 それを聞いた智一がやたらと高い熱量でユエに話しかけ、またユエも自分がいた世界の建築様式に関して色々と語ったのである。そばで聞いてた香織は割とちんぷんかんぷんであったが。

 

「でもこういう服が安価で買えると聞いて、やっと自分が間違ってたことに気づいた……私達の世界の魔法なんかより、この世界の技術や状況の方がすごい」

 

 そのユエもようやくどういう場所なのかを飲み込めたらしい。恐怖と敬意の入り交じった視線を向けられ、香織はどう反応すればいいのかわからずただ苦笑いを浮かべるばかり。

 

「え、えーと、ほめてもらえて何より、かな」

 

「ん。だからこそ香織や南雲に保護してもらえたことに感謝してる。私達だけじゃきっと右往左往するだけだった」

 

 とってつけたような言葉で香織が返せば、ユエはどこかホッとした様子で感謝を述べてきた。それを聞いて勇気を出して良かったと思うと、香織は笑みを浮かべながら買い物かごに視線を落とした。

 

「そっか。じゃ、ユエさんがこの世界を気に入ってもらえるように私も張り切っちゃおうかな。何かリクエストがあったら聞くよ」

 

「ん……買うものは数点で。香織と家族の家計の負担になりたくないから」

 

「あ、はい……」

 

 そうしてユエのために張り切ろうとした香織であったが、笑みを浮かべたユエにぴしゃりとたしなめられてすぐさま撃沈する。肩透かしまがいの気遣いを食らって軽くがっかりしつつも、香織はユエの頼みを聞いたり聞き流したりしながら服を選んでいく。

 

「お風呂、気に入ってくれてよかった」

 

 そして無事に買い物を終えた香織達は家へと戻った。薫子謹製の夕食の感想をユエから聞いたりした後、沸かしてあったお風呂にレクチャーついでに一緒に入ったのである。

 

「……ん。私のは広さぐらいしか取り柄が無い。本当にすごかった」

 

 どうも向こうでは髪の毛を洗うのも石けんを使っていたらしく、また毎日石けんを使ったりお風呂に入るのも身分の高い人ばかりらしい。そのためシャンプーやリンスの存在を知り、また誰もが毎日お風呂に入ってるのを聞いてユエは何度も目を白黒させていた。それを見てクスクス笑いながらも香織はユエと一緒のお風呂を楽しんだのである。

 

「そっか。じゃあ明日はもっと色々と驚くかもね」

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

 ドライヤーで乾かしてサラサラになった金髪の美しさにちょっとだけ嫉妬しつつも、香織は意地悪な笑みを浮かべながらユエに話しかける。ややタジタジな様子で返事をしてきた彼女を見てまたクスッと笑いつつ、香織はユエととりとめのない話をしながら廊下を歩いて行く。

 

「まだちょっとお話したいんだけど、いいかな?」

 

「……ん」

 

 そうして香織は自分の部屋にユエと一緒に戻っていく。香織は自分のベッドに腰掛けるとぽんぽん布団を叩き、少しはにかんだ表情でおしゃべりしたいとねだる。ユエもクスッと笑いながらうなずき、香織の隣にちょこんと座り込んだ。

 

「そういえばユエさんがいた世界はどんな感じなの?」

 

 菫の仕事場やお風呂場などでユエ達のいた世界のことは断片的に明かされてはいた。そのせいか余計にユエ達のことが知りたくなってしまい、香織は軽く顔を寄せながらユエに質問を投げかける。

 

「……ん。私のいたトータスだと――」

 

 ユエの方も一瞬間を置いてから語り始めた。建物や生活様式などは香織の知る中世のそれに近く、また二年前に王様になったばかりらしい。

 

「……すごいね。十九歳でそこまで」

 

「……ん。私には信用できる人が()()から」

 

 まだ中学生の自分には想像もつかない苦労をしたんだろうと思いつつ、香織はどうにか笑みを浮かべながらユエのことを持ち上げる。するとユエも渋い表情を浮かべ、一瞬目をそらしながらつぶやく。それを見た香織は触れて欲しくない場所にうっかり触ってしまったと軽く顔を青ざめさせる。

 

「ご、ごめんなさいっ!……私、無神経だった」

 

「……謝らないで。むしろ香織達のおかげでやっと落ち着けた。どうにか整理できたから」

 

 すぐさま香織は頭を下げる。そして目をそらしたくなるのをこらえながらもユエをしっかり見ながら自分に非があったことを伝える。するとユエは苦笑しながら首をゆっくりと横へと振った。しかも自分のおかげだと感謝を伝えられ、香織はどういうことかと目をぱちくりさせる。

 

「……厚かましいけれど香織。あなたにお願いがある」

 

「お、お願いって?」

 

「……あなたと話がしたい。それと南雲と今すぐ連絡するのはやめて」

 

 続けざまにユエが頼み込んできたのを聞き、香織は頭の中がまだぐちゃぐちゃのままそれについて尋ねた。するとユエはちょっとしたものと核心を突くようなお願いをしてきたのだ。そのせいで香織の頭の中は余計にしっちゃかめっちゃかになってしまう。

 

「な、なな、な、なんのことぉ!?」

 

「……香織。あなたに忠告しておく。隠し事は当人の目の前でやらない方がいい。口の動きでわかる」

 

 手をそこかしこに動かし、ひどくうろたえながらも香織はしらを切ろうとする。だが半目になったユエから驚愕の事実を突きつけられ、香織はがっくりと肩を落とした。まさか完全にバレてたとは思わず、またどこか諭すように言われたせいでとてつもないショックを受けたからである。

 

「……ごめんなさい。ディ、じゃなかった。あの人にユエのことをどうにか伝えられないかなって思ってて」

 

「……香織の気遣いには感謝してる。けど、これは私達が解決しなければならないことだから」

 

「そっかぁ……」

 

 香織はうなだれながらも南雲にメールをしようとした理由だけを語った。するとユエもどこか真剣な表情で感謝と決意を伝えてきた。恨みとかそういったものはもう無くなったのだろうかと気になりつつも、香織は短く返事をしながらユエをじっと見つめる。

 

「それでその、私と話したいことって?」

 

「……香織は南雲のことが気になるの?」

 

 ユエが心変わりした理由はまだ触れるべきじゃ無いと考えた香織は、自分と何を話したいのかと彼女に伝える。すると思いがけないことに一瞬目を大きくしつつも、香織はユエから顔を逸らした。

 

「……うん。でも、今は無理かな」

 

「……私とあの人に気遣って?」

 

 香織はその場で体育座りをし、少しうつむくと乾いた笑いを浮かる。そのまま床に視線を落としながらつぶやくと、すぐにユエの申し訳なさげな声が香織の耳に届いた。

 

「そう、だね」

 

 ユエがこちらをのぞき込んできたことも香織はわかった。ユエとディンリードの間に一言では言えないようなことがあるのもだ。香織は彼女と目を合わせないまま、少し小さい声で短く返す。

 

「……ユエさん達には悪いけど、二人のおかげだと思うし。ほら、私、南雲くんと知り合いでもなかったから」

 

「……香織」

 

「ユエ達が現れてくれなかったらきっと声もかけられなかったよ。だから、ね」

 

 ユエに対する心配や気遣いはあった。それと彼女達を利用しているようで気が引ける部分も香織は感じていたのである。そのことをハッキリ言うことを避けつつ、香織は胸の痛みを覚えながらもつらつらと語っていく。

 

「それもあるからさ、出来ないよ。私が立ち入っていい話じゃないと思うし」

 

 そのまま目をそらし続けるのも辛くなった香織は、ユエを一瞥してから再度うつむく。やたらと不安そうに周りを見ていたユエの様子も思い出しつつ、香織はやらない理由を話す。

 

「……あの時()()()()が言ってたのは間違いじゃ無かった」

 

 これで良かったんだよね。仕方ないよね。そう考えながらじっとしていた香織であったが、不意にユエが妙なことを口走ったことが気になってしまう。おそるおそるユエの方を見れば、どこか納得した様子の彼女が月明かりに照らされてたたずんでいた。

 

「えっと、ユエさん?」

 

「……これから私が口にすることは何一つ信じられないと思う。でも香織、どうか信じてほしい」

 

 その美しさにハッとしつつも香織が声をかける。するとユエは真剣なまなざしを向けながら妙なことを口にしてきた。そもそも空から異世界の人間が降ってきたのを目撃した以上、今更何を言ってるのかなと香織は心の中で少しあきれてしまう。

 

「……うん。いいよ。ちょっとやそっとのことじゃもう驚かない自信があるから」

 

「……ん。ありがとう、香織」

 

 ちょっとだけ皮肉げな笑みを浮かべながら香織が返事をすれば、ユエも微笑みを浮かべながら感謝を伝えてくる。窓から差し込む月の光もあってかユエの姿が幻想的に映ってしまい、思わず香織はユエのことをしばし見つめてしまう。

 

「……私はこことは違う世界、トータスの王様だった。それは覚えてる?」

 

「もちろん。覚えてるよ」

 

 だがユエがキッとした顔つきで見つめ返してきたため、香織はすぐさまハッとして姿勢を正した。ベッドの上で正座をしてから香織が答えれば、ユエは苦笑いを浮かべてくる。

 

「……そこまでしなくてもいい。話、続けていい?」

 

「あ、いや、ちゃんと話を聞いた方がいいかなって思って……うん。お願い」

 

 ユエから話の続きをしてもいいかと尋ねられ、香織も変にかしこまらなくてもいいと理解する。再度ベッドに座り込めば、ユエの身の上話が再び始まる。

 

「……こほん。私は王として国を治めていた。けれどそれも叔父が、あの人が謀反を起こすまでだった」

 

 すると何故ユエがディンリードに憎悪のまなざしを向けていたかを香織は悟る。そんなことがあったのなら強く恨むだろうし、ましてや肉親であればなおさらだと香織は強くショックを受けていた。

 

「……結論だけ話した方がいい?」

 

「う、ううん……聞くよ。途中で投げ出したくないから」

 

 するとユエがひどく心配そうに見つめて提案してくる。けれども香織はここで投げ出したらユエが傷付くと考え、何度か首を横に振ってそれを止めた。

 

「……わかった。いきなりのことで私は動けなくてあの人に負けた。そしてどこかの洞窟のような場所に連れて行かれた」

 

 香織の覚悟を理解したのか、ユエはこくりとうなずいてから話を再開する。さらっと語ったものの、ユエが受けた苦しみはどれほどのものかと香織は胸に痛みを覚えた。

 

「大丈夫、だったの」

 

「……大丈夫」

 

 せめていたわりの言葉だけでも、と香織はベッドに手を突きながらユエに問いかける。するとユエはこくりとうなずいて返事をし、そのことに安心した香織は軽く息を吐いた……ユエの瞳がにごったことに気づかずに。

 

「……あの男が何かしようとした時、そこで違う世界の私を自称する奴らがやって来たから」

 

「ごめん何言ってるの」

 

 ひどく唐突かつ突拍子も無い出来事を聞き、思わず香織はツッコミを入れた。




続きは来週までに……流石に休みが多いからどうにかなるはず(願望)

2026/5/5 うっかり最新話の方で投稿したので位置の修正しました(土下座)
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