あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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祝復活……いやー、あの後再度病院行ったらコロナの陽性と出たもので、症状は軽かったのですがしばらく横になってないと無理でした。では前置きはここまでにして皆様への感謝の言葉を。

おかげさまでUAも173460、しおりも410件、お気に入り件数も861件、感想数も620件(2023/7/17 14:52現在)となりました。本当に感謝いたします。前回の投稿から結構間が空きましたが、これだけ伸びたというのは本当にありがたい。皆様に愛されて感無量です。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当にありがとうございました。あなたがこうして面白いと再評価してくれることでまた筆を進める力をいただきました。いつもいつもありがとうございます。

では今回の話を見るにあたっての注意点ですが、ちょっと長め(約12000字程度)となっております。それに注意して本編をどうぞ。


七十一話 状況は違えど縁は巡る

 かくしてモットー・ユンケルと名乗った男と彼の護衛を務めているであろう冒険者の一団にエスコートされ、恵里達はフューレンの街へと入場を果たす。

 

“今のところは何もしてこねーな”

 

“相手もそこまで馬鹿じゃないってコトでしょ。ま、余裕で返り討ちに出来るし別に問題ないよ”

 

 “気配探知”で周囲を探っても路地裏へと続く道に潜む奴らの動きはほとんど見られない。やはりユンケルが連れている冒険者に対して警戒心を露わにしているのだろうと推測しつつも、自分達ならそんじょそこらの相手なんかに負けるはずがないという自負もあってか心配はしてなかった。

 

“恵里、今は一応商人として来てるんだからあんまり自信満々にしないでね”

 

“うん。わかってる”

 

 とはいえ今はいち商人として姿を偽りながらここへとやって来たのだ。鈴の指摘に軽く恵里は返し、他の皆と一緒におっかなびっくりな感じを装いつつもメインストリートからちょっと離れた道を歩いていく。道幅の大きさからして、外からやって来た商隊などの人間が商業ギルドに商品を卸しに行くためのもののようだ。

 

“あの、なんだかジロジロ見られてちょっと落ち着かないです……きっと普段はこういう感じじゃないですよね?”

 

“そのはずだ。ま、それも俺らがアンカジの商人として見られてるからだろ”

 

 そんな自分達に向けられる視線にどこか居心地が悪くになって“念話”を全員に飛ばしてきたシアに、良樹は推測を語る。今現在シアも含めて自分達は『アンカジ公国の商人の一団』という見た目で動いているが、自分達と積荷に向けられる視線はどこか救いを求めている様子なのが見てとれた。

 

“……どこも人がまばらだな”

 

“あぁ。商人の街なんだからもっとにぎわっててもおかしくないはずだろ?……やっぱり、ウルの街の騒ぎが大きかったんだな”

 

 重吾と野村のつぶやきに恵里達は思わずうなずきそうになった。この街はあらゆる業種がこの都市で日々しのぎを削り合っていると事前にメルド、リリアーナから説明を受けている。ならばここがメインストリートではないとはいえ、今自分達が歩いているこの道もいくらか活気にあふれててもおかしくないのが普通だ。少なくとも自分達以外に商隊以外がいないなんてはずがない。

 

“うん……本当に活気のある街だったのかな”

 

“そうだよねぇ~。閉店の看板が出てたり、あんまり人気がないもんね……”

 

 だが先の二人に加えて辻と吉野が述べた通り、この通りに面している酒場と思しき店は閉店の看板を出していた。本来ならばこの通りを行く商人をターゲットに食事や酒を提供するのが目的の場所だったのだろうそこの店先には砂ボコリが溜まってそのままになっている。

 

“屋台もきっとあったのかもね。多分そことかあそこのスペース、結構広いから”

 

 それに不自然に空いたスペースなどもチラホラとあり、恐らく買い食いしてくれるのを狙って露店なども並んでいたのだろうとハジメは推測を述べる。事実の程はわからないにせよ、神の使徒が世界各地に降り立ったことがきっと後を引いている。約一週間前に起きたあの事件がこれほどの爪痕を残したのではないかと考えて、ハジメはため息を吐きそうになる。

 

“……こんな世界なんかのためにね”

 

“あぁ、そうだな……真央”

 

“なんでこの世界を救おうだなんて思っちゃったんだろうね、私達”

 

 が、重吾達がいる手前、そんなことは出来などしなかった。自分達に役割を押し付けてきたくせに、それが出来ないと知るや怒り狂って自分達に敵意を向けて来たトータスの人間に幻滅しているのだから。恵里達とてわかっているからこそ、彼らの神経を逆なでするようなことは言えなかったのだ。

 

(ま、そうそう簡単に割り切れるような頭を持ってたなら一緒にオルクス大迷宮を潜っててもおかしくなかったしね。上っ面だけでも協力してくれるだけマシか)

 

 吉野、野村、辻のつぶやきに誰も何も言わないまま、寂れてしまった商人の街に車輪の音がこだました。

 

 

 

 

 

「着きました。ここが商談の場となります商業ギルド、フューレン本部です」

 

 これといった話もなくただ無事に一行は商業ギルドにたどり着いた。運んできた積荷の納入を護衛をしていた冒険者達数名に任せ、モットーが開けたギルドの扉をくぐって中へと入っていく。汚れがあまり目立たない板張りの床に、ニスでツヤ出しがされているであろう木の柱。壁となっているモルタルも軽く色あせてはいたが、その白さはまだ美しい。

 

 商売に関するあれこれを行う場所である故か、冒険者ギルドと比べてひどく洗練された見た目ではあった。()()であれば落ち着いた雰囲気の漂う場所であったのだろう。

 

「チオービタ様お願いします! どうか考え直していただけませんか!」

 

「無理を言うな……この商会は私の代で店じまいだ。最後まで残ってくれた奴らに払うささやかなものしか残っておらん」

 

「ミリアナン家はどうだった!?」

 

「既にもぬけの殻でした! 置手紙しか残ってません!」

 

「まだか! わ、私の取り寄せた食料は、ま、まだなのか!!」

 

 そんな商業ギルドの空気は今、嫌な喧噪と陰鬱な空気でよどんでしまっている。受付で書類を書いている人間を担当している職員が止めようとしているのがチラホラと見かけられ、奥からはやれ誰々が姿をくらませたという悲鳴が響く。

 

「なぁ、思ってた以上にヤバくねぇか?」

 

 良樹のボヤきに恵里達も思わずうなずきそうになる。今回の取引のために事前に冒険者ギルドを噛ませて行われた話し合いの際、『私達のギルドは()()厳しい状態です』とは聞いていた。それが自分達の窮状をごまかすための言葉だということは誰もがわかったが、これ程までとは流石に思ってなかったのだ。

 

「あの時はまだどうにかなる状態だったのかもね」

 

「それで想定以上に火が燃え広がってる、ってところかな」

 

 続く鈴とハジメの言葉に誰かがため息を吐いた。思っていた以上にこの都市は混迷の状況の只中にあり、今後も産地偽装した食品を卸さなければこの街が儚く崩れてしまいそうだと思ってしまうのも無理は無かった。

 

「仰る通りです。『豊穣の女神』が反逆者だと認定され、ウルの街産の食料品が焼き払われた後、今度は彼女が巡った他の地域の食料も同様に焼かれました」

 

 目の前の光景に頭痛を感じていると、二人の護衛と共にやってきたモットーがこうなった経緯をかいつまんで説明してくれた。まさか広がる疑心暗鬼によって更にダメージを受けていたとはつゆも思わず、『何とかしてここの人達を助けないと』と奮起するハジメと鈴を横に恵里は深くため息を吐きそうになっていた。

 

「……商談、済ませましょう。ここに長居するより、そっちの方がよろしいのでは?」

 

「む? 申し訳ない……ではギルドの職員を呼びに――」

 

「ふざ、ふざけるなぁ!」

 

 そこで重吾がすぐにでも商談に移ろうと話を切り出してくれたのはありがたかった。別に言い出さなくてもハジメがすぐに声掛けをしただろうし、向こうの方もこんな場所に長く居たくない思いから来たのだろうがあえてそのことは恵里は口にしなかった。が、そこである受付の一角で一際大きな声が響いた。

 

「い、いつになったら、しょ、商隊が来る! わ、私は安全なアンカジ公国のしょ、食料が欲しいと言ったのだぞ!」

 

「大変申し訳ございません! 本日ギルドの方で大量の商品が卸されるとの話ですので、どうかそれまでお待ちを――」

 

「だ、黙れ黙れぇ! わ、私に、このプーム・ミン男爵に待てと言ったなお前ぇ!」

 

「ひっ!」

 

 話の内容を聞く限り、どうもこちらの産地偽装食品の納入が待ちきれずにわざわざ貴族のお偉いさんが怒鳴り散らしに来たようだ。こちらを向いていないため顔つきはわからないものの、体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体にベットリした金髪がのっている。ただ身なりだけは良いようで、遠目で見てもいい服を着ているというのは恵里達にもわかった。

 

「おうおう。たかがヒラのギルド職員ごときがよぉ~、ミン男爵様に逆らおうってか? あ?」

 

「この者が大変失礼をしました! ですからどうか、どうかご容赦を……」

 

 しかも周囲に輩としか思えないような奴らが数人、筋骨隆々の腰に長剣を差した巨漢が一人、その貴族の横に侍っている。これは関わったら絶対にロクなことにならないと誰もが感じ、全員目配せをすると同時に黙ってそのまま奥へと向かおうとする。

 

「あ? 何お前ら勝手に――ん?」

 

 だが、全員心底運が無かった。そうしようとした直後、輩の一人がこちらに視線を向けて来たのだ。そのせいで自分達がアンカジの商人(厳密にはそういう体ではあったが)だということがバレてしまう。

 

「いましたぜミン様ぁ! アンカジの人間でさぁ!」

 

「な、なんだと! よ、よし! う、動くなお前ら!」

 

「……最っ悪」

 

 とっとと商談を済ませてフューレンでデートするつもりだったというのに、どうしてこうも面倒なイベントがやたらと起きるのか。今世? のトータスってクソだなと半ばあきらめの境地に浸りながら恵里が思っていると、先の脂ぎった顔の貴族が体をゆっさゆっさと揺すりながらこちらへと真っ直ぐやってきた。

 

「お、おい、お前ら。も、持ってきた商品をみ、見せろ。わ、私が全て買い取ってやる」

 

 予想はついていたがやはり買い占める気満々のようだ。今回持ち込んだ食料はせいぜい数十キロ程度しかないし、これは商業ギルドを経由して他の商人に売りさばいてもらうためのものだ。そうすることで先の騒動でダメージを受けた商人は経営の維持を、住人は食料の確保が出来て安心してもらえるようにする計画だったのだ。

 

「申し訳ありません、男爵様。どうか今回ばかりはお引き取り願えませんか」

 

「ふ、ふざけるな! た、ただの商人の分際で! お、お前らは私の、い、言うことを黙って聞けばいいのだ!」

 

 だがこのブタ鼻の男は自分の都合でこちらの計画をご破算にしようとしている。現にモットーが頭を下げてそれは出来ないと述べた途端に怒りを露わにし、キィキィ声でがなり立ててきた。

 

「……レガニド。かの御仁は貴方のクライアントでしょう? いさめるべきでは?」

 

「ハッ、何抜かしてやがんだよ。俺は金払いのいい坊ちゃんに尽くす気はあっても、同業者のためにやる義理や人情なんてのは持ち合わせてねぇぜ?」

 

 護衛の冒険者の一人がレガニドという巨漢の偉丈夫に軽い嫌悪の混じった視線を向けながら言葉をかけるが、馬耳東風と言わんばかりの様子で言い返してくる。やはり冒険者といってもピンキリがあるのだろうと恵里達は頭痛を感じながらそう思った。

 

「ったく、この街でミン様を敵に回して生き延びれると思ってんのかよ」

 

「早まったマネはしないほうがいいぜぇ~? ミン男爵の気が変わったらどうなるんだろうなぁー」

 

「まぁ男爵サマはお優しい方だからよぉ、今ここで商品と女を差し出せば気前よく金払ってくれるかもなぁギャハハハハハハハ!」

 

 今度はごろつきどもがこちらを煽ってきた。ニタニタとした笑いを浮かべ、哀れな馬鹿を見るような目つきでながめてきており、心の底からなめられていると感じながらも、恵里はいつ仕掛けるかを考える。

 

“皆、適当にコイツら煽って手を出させてもいいよね?”

 

“……出来ればやりたくないけどね。商業ギルドの人達に迷惑がかかるし”

 

“うん……流石に、ね”

 

“言ってる場合かよ先生、谷口。コイツらその内手ぇ出してくるぞ絶対”

 

 ならいっそ今すぐ暴発させて襲わせようかと全員に提案するものの、ハジメはそれを渋り、鈴と野村、辻、吉野も迷いを見せた。が、礼一は甘ったるいことを言ってる場合かと忠告をすると、次の瞬間にはもう状況が変わってしまった。

 

「レガニド! それにお前ら! こ、この馬鹿どもを痛めつけろ! 運んできたものを、わ、私の下へと持ってこい!」

 

「了解ですぜ、坊ちゃん」

 

「そこの女どもはどうしますか?」

 

「す、好きにしろ! わ、私はアンカジ産のものがいただければいい!」

 

 ミン男爵と呼ばれた男の言葉に場が騒然となった。ごろつきどもは女を好きにしていいと言われてテンションが上がり、ギルドの職員は悲鳴を上げる。モットーも護衛の冒険者達も正気を疑うような言動に顔を青ざめさせ、特に冒険者達はモットーとこちらの顔をせわしなく交互に見ていた。おそらくどちらを守るべきか迷っているのだろう。

 

「もういいよねハジメくん。コイツらブッ飛ばすよ」

 

「……死なない程度にね? それと偽装は解除しようか」

 

「ナイス先生。それじゃちょーっと痛い目見てもらうか」

 

 レガニドと呼ばれた大男は腰の剣を抜き、ごろつきどもも短剣を構えてこちらを見ている。あっちが勝手に馬鹿をやってくれて助かると心の中で冷笑を浮かべながら恵里が問いかければ、ハジメも注意をする程度に留めて戦う覚悟を決めた。その様子に礼一も良樹も笑みを深め、お互い持っていた得物を宝物庫から取り出して構える。

 

「……俺達もいいか、南雲」

 

「えっと、大丈夫なの永山君? あと野村君達も」

 

「あぁ……流石に綾子と真央に手を出すなら話は別だ」

 

「うん……流石にちょっとね」

 

「正直イライラしてたから……直接はやれないけど、手伝うよ」

 

 そうして鈴も自分の杖を取り出した直後、重吾らも戦うと述べたのに対して尋ね返す。が、彼らもかなり苛立ちを露わにした様子で向こうを見ており、殺しまではいかないように見ておくかと何人かは重吾達にも意識を割くことを決めた。

 

「皆さん、逃げて下さい! ここは私達が――」

 

「いえ、不要です。だって――」

 

 こちらの身を案じて逃げるよう冒険者の一人が声をかけてきたが、ハジメがそれにノーを返す。それと同時に恵里達は見た目を偽装するアーティファクトのスイッチを切った。ほんの刹那の静寂の後、新たな叫びがギルドのエントランスにこだまする。

 

『は、反逆者だぁーー!!!』

 

「なっ!?……反逆者、だと?」

 

 当然ギルドの職員はパニックに陥り、先程自分達を気遣ってくれた冒険者も信じられないものを見たとばかりにこちらを凝視している。想定通りのリアクションだ。こうして正体を明かしたのも、悪名を使って自分達の強さをアピールすることで無用な被害を防ぐためなのが一つ。

 

(あの栄養ドリンクの人、こっちを静かに見てるってことは知ってたってことか。ま、だったら)

 

 もう一つは……どうせ暴れたらまず正体が割れるだろうし、なら先にインパクトを与えておけといった程度のものだ。しかし自分達の正体を知っていた様子のモットーはただ静かにこちらを見つめており、見定めるつもりだということが恵里達は何となくわかった。

 

「ビビったぁ~? 逃げ出すんなら今の内だけどぉ~?」

 

 ならしっかり自分達の強さを見せつけようかと恵里もまた杖を構えて嗜虐的な笑みをならず者どもに向ける。

 

「な、ななっ……は、はは、反逆者だと……っ!? こ、殺せっ! 殺せころせ殺せぇ!」

 

「いやーツイてるな。まさか反逆者が来てくれるなんてよ――じゃ、俺のボーナスになってくれや」

 

「世界の敵を血祭りにあげるんなら問題ねぇなぁ!」

 

「エヒト様も粋な計らいってのをしてくれるぜ!」

 

「じゃ、女どもは楽しませてもらうとして、男どもは目の前で首カッ切ってやろうやぁ!!」

 

「そこのヒトモドキもしっかり楽しんでやるから喜べよカーッカッカッカ!」

 

 そしてテンションが上がっているのはミン男爵の取り巻きどももであった。唯一雇い主である豚みたいな男だけは恐れから金切り声を上げているが、護衛どもは臨時収入を得たとばかりにはしゃいで身構えていた。そんな奴らを恵里達はただ冷ややかに見つめ、欲望のたぎった眼差しを向けられたシアも軽く身震いしながらも()()()()()構える。

 

「じゃあ一人一殺ぐらいでいいか?」

 

「殺すのはダメ。礼一君達もあの人達みたいにならないでほしいから」

 

「たとえだよたとえ。ったく、先生ちと頭固過ぎだって……大丈夫か、シア」

 

「は、はいっ!……大丈夫、私だってやれます」

 

「最悪死んでもボクがどうにかするから安心して――じゃ、行くよ」

 

 そうして軽く雑談を交えながらどう動くかを簡単に決め、恵里の掛け声と共に全員がその場を一気に駆ける。

 

「――ごっ!?」

 

「ほいっと」

 

 真っ先に仕留めたのは礼一であった。槍を逆手に構えるとそのまま石突でスイングし、輩を思いっきり打ち上げた。

 

「げべっ!?」

 

「よっし、いっちょあがりー……やっぱやりすぎたか?」

 

 そしてその直後、軽く跳躍して右肩の辺りに再度槍の柄を叩き込んでそのまま床に衝突させる。ヒットしたアゴと右肩の骨は間違いなく折れただろうし、地面に全身を打ち付けて骨にヒビは入っただろう。後で叱られるかなーと思いつつもまぁいいかとこの悪ガキは流した。

 

「どっせい!」

 

「ぐぇーっ!?」

 

 次に相手を無力化したのはシアであった。龍太郎を師として武器が無いときの戦闘方法も彼女は色々と学んでいる。“身体強化”を使って軽く肉体を強化し、振りかざしてきた短剣を避ける。その直後、腰をしっかりと落として放ったカウンターの右ブローは吸い込まれるようにごろつきの左頬にクリーンヒットした。

 

「あ、終わった……すっごい、楽でしたね」

 

 横にきりもみ回転しながら地面にダイブした男はそのまま気絶。余裕で目で追えて、しかも拍子抜けするほど楽に勝負が決まる。改めてシアは自分をシゴいている人間達がとんだ化け物ぞろいであることを実感していた。

 

「人の女に色目使ってんじゃねぇぞヤリチ〇がよぉ!!」

 

「ごぇっ!? ごっ!?」

 

 そのシアの横で良樹も輩の一人を容赦なく叩き潰していた。腹パンを叩き込み、流れるように頭に両手を当ててそのまま膝蹴り。無論力をセーブしていたから内臓や頭そのものが爆砕することは無かったものの、鼻の骨は折れてそこから血はダラダラと垂れ流しになっている。

 

「ぁぐっ……ご、ごめんなしゃぃ……」

 

「ハッ、謝れてエラいな。おう……次は無いと思えよ?」

 

「良樹さぁん……」

 

 地面に転がって悶える輩に嫌味をぶつけた後、ヤンキー座りをして見下ろしながら再度警告をする。途端、怯えた様子でこちらを見てくる男に興味を失った良樹は、亜人の女の子が自分に熱視線を向けていたことに気付いたのであった。

 

「まずは弱そうなお前らから、っと!」

 

「飛び交う刃と矢を防がん ここは光差す場所なりて 守護の光をここに――“光絶”!」

 

「光よ纏え 汝の力となりて あまねく困難を払いたまえ!――“纏光”!」

 

 自分達に迫って来た二人の輩も辻と吉野は連携することで対処していた。対人戦の()()があったが故に戦う際の心構えも出来てしまっていた。それ()あって心を乱すことなく、魔法を展開。辻がとっさに張った光の障壁の強度を吉野が補助したことで、ならず者どもが数度攻撃した程度ではビクともしない堅牢な壁が完成した。

 

「んなっ! クソッ、固ぇぞクソがっ!」

 

「チッ! じゃああのジジイを襲って――」

 

「ありがとう。綾子、真央――“礫球”!」

 

 攻撃をはじかれてうろたえているろくでなしども目掛けて四つの礫が撃ちこまれる。それぞれ額とアゴを狙って撃ちこまれた小石は正確に男どもにヒットし、そのショックに加えて地面に思いっきり頭を叩きつけたことで昏倒してしまう。

 

「ふぅ……綾子、真央。大丈夫か?」

 

「うん。私も真央も大丈夫。その……健太郎くんがいてくれたから、ね。頑張れたの」

 

「さっすがだよ健太郎くん~……ありがとう。かっこよかったよ」

 

 男どもが目を回したのを確認すると、すぐに両隣にいた辻と吉野に野村は声をかけた。二人からかけられる言葉に野村はただ無言で抱きしめる形で返す。好きな人を守れた、という実感をただ少年は嚙みしめていた。

 

「死にさらせ――がぁっ!?」

 

 暴漢をひと際鮮やかに無力化していたのは重吾であった。元々修めていた柔道の技を如何なく発揮したからだ。短剣を胸に突き立てようとした相手の腕を思いっきり掴み、その痛みと腕を大きく振らせたことでナイフを落とさせる。

 

「ふっ」

 

「ごはっ!」

 

 そのまま相手の服の襟を掴むと、右にステップをかけて左足で足払いをかける――送足払と呼ばれる技で相手を思いっきりこかして、そのまま腕を捻り上げて拘束した。

 

「不安だったが……何とかなるものだな」

 

「がっ、あぁぁあぁあぁぁ……!」

 

 “勇者”に祭り上げられ、ハードスケジュールな生活を送るようになるまで怠らなかったこともあってか腕がさび付いた様子は無い。それほど長い期間やらなかった訳ではないにせよ、やはり実戦で出来るか心配ではあったのだ。

 

 こういう形で披露することを目的としてやっていた訳ではないにしても、自分がやっていたことが無駄ではなかったと改めて感じることが出来たのか、重吾の口元はほんのわずかに緩んでいた。

 

「へぇ、嬢ちゃん達が相手か? ま、手足の一つ、駄目になっても文句言うな――」

 

「“堕識”」

 

「“縛印” “封縛”」

 

 そしてどこまでも一方的に終わったのが恵里と鈴のコンビだった。レガニドが剣を構えてこちらへと迫らんとした瞬間、恵里の発動した“堕識”によってほんの数秒ではあるが意識を刈り取ってそのまま地面に倒す。その隙に地面から生えた光のロープで体を縛り付けられ、鈴の手からも伸びていたものが武器を絡めとってそのまま彼女の手元へと収まる。そしてその巨体が何も出来ぬまま光の檻の中に閉じ込められたことで完全に勝負が決まった。

 

「さっすが鈴」

 

「恵里もフォローありがと。じゃあ――」

 

 お互い横を向いてそのままハイタッチを決めると、護衛が一瞬で壊滅した貴族の坊やの下へとゆっくり赴くハジメに視線を向ける。

 

「な……なぁっ!? な、何が、何が起きた!? 何が起きたというのだ!?」

 

「ただの正当防衛ですよ。そちらがけしかけてきた人達にはちょっと休憩してもらってるだけです。ところで――」

 

 語調も穏やかに、笑みも浮かべながら一歩ずつ近寄ってくるハジメにプーム・ミン男爵は腰を抜かして後ずさった。顔は脂汗に涙と鼻水でぐちゃぐちゃとなっており、恐怖で引きつった表情を浮かべている。何とかして逃げ回ろうとしているブタ男に対し、ハジメは静かに問いかけた。

 

「ミン男爵様、でしたよね? 聞き間違いがなければそれで合ってると思うのですが」

 

「そ、そうだ! わ、私は、私はプーム・ミンだ! プーム・ミン男爵だぞ! わ、私に盾突いたらどうなるかわかっているのか!」

 

「まぁ面倒なことになるかもしれませんね。けど――」

 

「お待ちください」

 

 ハジメがブタ男を受付のカウンターまで追い詰めようとした時、後ろから声がかかる。モットーだ。一体どういうつもりなのかと恵里達の視線が注がれる中、彼は自分の意見を述べていく。

 

「……正直、この御仁には私どもとしてもあまり良い印象を抱いていないお方です。ましてや取引相手となる貴方がたを殺そうとした人間です。皆様がそうなってしまうのもわかります」

 

「で? 何が言いたいワケ?」

 

 軽くうつむきながら話す辺り、やはりモットーとしてもこのブタ男は気に食わないと感じているのだろう。それは理解できたものの、この男が何かやらかさないとも限らないと考えた恵里が急かせば、モットーはそのまま頭を下げてこちらに頼み込んできた。

 

「されどもこの方はご貴族様です。それも()()このフューレンに出資して下さる貴重な方だ。その方にあまりご無体を働いては、私どもにも被害が及びます。どうか、これで手打ちにしてはいただけないでしょうか」

 

 そう言わざるを得なかったであろうモットーを見て全員が同情する。強く握った手は震え、その顔も口を真一文字に結んで堪えるかのようなものであった。本当はこの場で思いっきり叩きのめしてほしいと思っているのは何となく感じ取れた。

 

 だが、それをやってしまってはこのフューレンが危うくなる。それが理解しているが故に耐えているということをわかる傷ましい姿であった。

 

「そ、そうだ! そうだぞ! お前ら! 覚悟しろ! わ、私をすぐに助けなかったお前達もだ! 絶対に許さないから――」

 

「遅くなって申し訳ありません。少々話をうかがいたいのですが」

 

 モットーの言葉が響いた途端、威勢を取り戻したプーム・ミンはまたキィキィ声で騒ぎ立てる。すると今度はギルドの奥から金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性が、数名の冒険者らしき人間を連れて現れたのだ。

 

「ぎ、ギルド長か! は、早くこの無礼者どものをひっ捕らえろ! こ、こ奴らは私に暴力を振るおうとしたのだぞ!」

 

「なるほど。ミン男爵の言い分はそのようですか。ところで――」

 

 ギルド長、と聞いて恵里達は厄介なことになったと軽く眉をひそめたが、ふと現れた男の特徴を聞いてある人物が思い浮かぶ。確か、()()()()()()の支部長がこんな感じの見た目だと以前の打ち合わせで聞いたような気がしたのだ。

 

「そこに転がっているレガニドは何故、そちらのアンカジから来られた商人を襲ったので?」

 

「ふへ?」

 

 ひどく冷ややかな視線をオールバックの男性が未だ腰を抜かしたままのブタ男に向ける。一度こちらに微笑みを向けたのを見るにどうやら一部始終を見ていたらしい。だがブタ男はみっともなく言い訳を並べ立てていく。

 

「な、な、何を証拠に! こ、この男がそんなことをした証拠はあるのか!」

 

「えぇ。全てではありませんが、先程の騒ぎを見させていただいておりまして……少なくとも、ランク“黒”のレガニドが、貴方の指示通りに彼らに危害を加えようとしているのは見させてもらったんですよ」

 

 しかも止めないで見ていた辺り中々にいい根性をしている。いくら自分達の正体と実力を把握しているからってよくもまぁやってくれたものだと恵里は口元をヒクヒクさせていると、更にオールバックの男性は小男を追い詰めていく。

 

「それと、そちらに倒れているのは冒険者でしょうか? 確か、私どもの管理する冒険者ギルドの中に彼らの姿は無かった気がしたのですが……レックス、確認を」

 

「はっ――失礼、少々確認作業を行いますので身柄の引き渡しを」

 

 ちょっとした疑問を口にするようにつぶやけばブタ男の体がぶるりと震えあがる。やはり冒険者などではなく、悪党の類であったようだ。護衛をしていた冒険者の一人がこちらに来たため、拘束している輩ども全員を近くへと引きずっていく。するとレックスと呼ばれた男性は襲撃してきた奴らの懐を探り、ステータスプレートを数秒見つめてはすぐに別の奴のものを確認していった。

 

「……全て確認を終えました。クセノス以外に冒険者の表記はありませんでした」

 

「クセノス……なるほど、彼か。ご苦労」

 

 おそらく一目で冒険者だと判別する何かがあるんだろうと思っていると、すぐにその確認作業は終わったようだ。『ご協力感謝します』と短くあいさつをしてから冒険者ギルドの長らしき男性のところまで戻っていき、後ずさろうとしたブタ男の襟の後ろを掴んでオールバックの男性のところへと戻す。

 

「ぐっ!……な、何をする!」

 

「失礼しましたミン男爵。まだ話は終わってませんでしたから、少々質問を」

 

「わ、私はお前らに付き合う義理はない! こ、ここから出せ! 早くしろ!」

 

「彼らは一体どうしてここにいるのかをお伺いしたかったのですが、お答えできますか?」

 

 一刻も早くこの場から逃れようとあがくブタ男に対し、オールバックの男性は淡々と質問を投げかけていく。どうもあちらもこのブタ男に対して思うところがあったようで、向こうの文句に一切応じることはない。ただ真綿で首を締めるように、答えのわかっている質問をひとつひとつ突きつけているように恵里達は見えた。

 

「し、知らん! あんな奴らなど私は知らない!」

 

「なっ、ざけんなクソ豚ぁ!!」

 

「お前っ……俺らを裏切って、タダで済むと思うな!」

 

 ブタ男が即座に切り捨てにかかった途端、やはりろくでもないところと繋がりのあった輩どもが騒ぎ出す。それを見たオールバックの男性は一層にこやかな、見る人からすればひどく冷たい笑みを浮かべながらブタ男に告げる。

 

「そうですか……冒険者ギルドに所属する冒険者を商業ギルドで暴れさせたこと、またギルドに所属していない人間を雇って()()()を襲おうとしたこと……それとフリートホーフ、フェーゲフォイアー、アップグルンドの開催していた闇のオークションや取引に関わった疑いがありますので、一度保安署までご同行願えますか?」

 

 記憶が正しければ、保安署というのは地球で言うところの警察機関のようなものであったと恵里は覚えている。あの男、思った以上に真っ黒だったようだ。冒険者ギルドの支部長と思しき男性の言葉に、あのブタ男は顔を真っ赤にした。

 

「だ、黙れ黙れ黙れぇ! わ、私はプーム・ミンだぞ! こ、このフューレンのギルドの運営費を払っている善良な男爵だ! そ、それをお前はくだらん言いがかりで――」

 

「話は向こうでしていただけますか。私はこれから用がありますので……連れて行ってくれ、レックス」

 

「はっ……オラッ、暴れんな。手足の一つでも()()()()どうすんだ?」

 

「わ、私に暴力を振るう気か! や、やめろ! やめろやめろぉ!」

 

 米袋を担ぐようにブタ男を肩で担いでレックスという男が去っていく。汚らしく見苦しいブタ男の声が遠ざかっていくと、オールバックの男性が一度せき払いをしてからこちらを向いた。

 

「こうして顔を合わせて話をするのは初めてになるかな。改めて自己紹介させてもらおう。私は冒険者ギルド、フューレン支部長のイルワ・チャングだ」

 

 先程の威圧するような雰囲気も無く、ただのにこやかな笑みを浮かべる男に恵里達は『あ、どうも……』と返事を返す。先程からこちらをどこか怯えた様子で見ているモットーや彼の護衛の冒険者も含め、今回の商談は一筋縄じゃいかない気がすると今更ながら恵里達は思ったのであった……。




モットー「なんかよくわからん内にごろつきども負けたんだけど」

冒険者「なにあれガチでつよいヤバいこわい」

恵里達を見た際のモットーらのリアクションはこんな感じです。
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