あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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色々あって前回の投稿から二週間経っちゃいました(白目) どうにか仕上げたんで許して(震え声)

おかげさまでUAも175025、しおりも412件、お気に入り件数も867件、感想数も624件(2023/7/31 17:02現在)となりました。皆様、こうして拙作をひいきにして下さり、本当にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、月琉さん、拙作を評価及び再評価してくださり誠にありがとうございます。またおかげで話を書き続けるモチベーションが上がりました。

久々に一万字そこらに抑えることができました。それでは本編をどうぞ。


七十二話 『商売』の時間(前編)

「ハイリヒ王国の軍を一日足らずで退けた、というのもあながち嘘ではなさそうだね。その上理性的かつ、無用なトラブルを起こそうとはしない姿勢はこちらとしても十分に評価しているよ」

 

「あ、はい。ありがとう、ございます……」

 

 微笑みを崩すことなくそう伝えたイルワにハジメは軽く照れながら頭を軽く下げた。しかし恵里は前々から感じていた向こうの様子に更に引っかかりを覚え、軽く挙手をしてからイルワにそのことを尋ねようとする。

 

「ちょっと話聞きたいんだけどいい?」

 

「何かな、中村恵里さん?」

 

 世間話をするような具合に問いかけてくるイルワを見て恵里の中で一層疑問が膨らんでいく。自分達に対する距離感、それも()()()()()相手に向けるような接し方をする彼の立ち振る舞いに関してだ。

 

「前に『お願い』をした時もそうだったけどさ……どうしてそんなにボク達に肩入れしてくれてるの?」

 

 ――今回の商談を取り付ける際、実はハイリヒ王国の冒険者ギルドのギルドマスターであるバルス・ラプタを仲介し、フューレン支部のギルドの方に一枚かませてもらったのだ。理由はハイリヒ王国の商業ギルド支部を経由しての商談が破談に終わったからである。

 

 もちろん自分達が直接出向くことは隠した上でやってもらったのだが、()()()()()()()は神の使徒に『ハイリヒ王国は上層部が反逆者の集まりである』と印象操作されてしまったせいか全然取り合ってくれなかったのだ。

 

「ふむ、肩入れか。君達側から見れば確かにそうかな」

 

「そうそう。今もこうして襲ってきた奴らを返り討ちにしてやったけど、そっちは全然怯えてないしね。なんで?」

 

 そうして商業ギルドからでは相手にされなかったことから恵里達は別のプランを考えた。それが冒険者ギルド本部のギルドマスターから要請し、フューレンの冒険者ギルドの方から自分達は信用できるとを説得させて商談を取り付けるという案だ。実際バルスの方からコンタクトをとってもらったらアッサリとフューレン支部長はOKを出したのだ。しかもこうして商業ギルドとの商談も一日程度でどうにか取り付けるというオマケ付きで。

 

「そうそう。俺ら一応お尋ね者のハズだぜ? 一応ギルドの人間だったらとっ捕まえたりしねーのかよ」

 

「さっきの職員の奴らみたいにビビって腰抜かしたりしてもおかしくねぇってのにな」

 

 先程姿をさらしたことで自分達が反逆者であることは既に向こうもわかっているだろう。そして世間一般での反応は先のギルド職員や先程連れていかれたブタ男みたいなものしかないと恵里は考えている。だからこそ礼一と良樹が言うように余裕を崩さない目の前のオールバックの男性の様子に余計疑いが増した。

 

「まぁ君達が怪しむのも無理はないだろうね。名目上、必要な護衛も一人手放しているのだから尚更か」

 

 更に言えばあのブタ男を連行するためとはいえ貴重な護衛を一人手放しているのだ。それでもこの男が見せる余裕は崩れるどころか、むしろ自分達に更に信頼を寄せている節まであった。そのことに恵里達が訝しむのも無理はない。

 

「こちらの事情がわからなければ警戒するのも仕方ないとは思うよ。けれど、あまり長く立ち話をしているのも先方を待たせるだろうし、その理由は向かいながら話そうか」

 

 主導権が握られっぱなしな上に理由もわからないまま高い好感度を示している。そんな相手に怪訝(けげん)な表情を浮かべる恵里達だったが、確かに今回ここを訪れたのは商業ギルドと商売の話をするためだと思い返す。

 

「わかりました。イルワさん、お願いします」

 

「……わかった。じゃあ行きながら色々話聞こっか」

 

 まぁ向こうは話したくて仕方がないようだし、話の節々からその言葉が嘘か本当かを見抜けばいい。そう考えながら返事をしたハジメと恵里は皆とアイコンタクトをし、ゆっくりと歩き出した食わせ者の青年の後ろをついていく。

 

「それで、私が君達を信頼する理由のひとつだけれど、まずキャサリン先生が助言したというのがあるかな」

 

 ふと一瞬遠くを見るような素振りをしながら語ったイルワに、先程挙がった名前の人物が誰かを恵里達は思い返そうとする。

 

「えーっと……龍太郎君達がお世話になったギルドの職員の方、でしたっけ」

 

「あ、そうだね。ちょっともめたけど、最後は香織達に色々してあげた人だったよね」

 

 恵里や礼一らはすぐに思い浮かばなかったものの、ハジメは親友がお世話になった人であることから、鈴はブルックの街を訪れた香織らの話が印象深かったことから思い出し、二人が口にしたことでまた聞き程度であったシアも含めてその人物の名前を全員が思い出した。

 

「その通りだ。それと、彼女のことは君達の友人から聞いてないかな?」

 

 ほんのわずかではあったが一層笑みを深めながら肯定するイルワを見て、先のハジメ達の答えが合っていたことに恵里達は少しホッとする。が、その直後に返された質問に誰もが首をかしげてしまう。

 

「うーんと……恵里、覚えてる?」

 

「ハジメくんと鈴が覚えてないんじゃボクだってさっぱりだよ。近藤君達は覚えてる?」

 

「いや全っ然」

 

 記憶の限りでは『最初はもめたけれど、色々と親切にしてくれたオバチャン』といった程度のことしか恵里は記憶してないし、他の面々もそういった程度のものでしかない。龍太郎達が厄介になったあのオバチャンは一体何者なのやらと考えを巡らせると、クスリと笑ったイルワがその正体について答えてくれた。

 

「なるほど。その様子だと明かしてないみたいだね。彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね」

 

 その正体を聞いて恵里達は思わずおぉ、と驚きを露わにする。大介らの話を聞いた感じでは例のオバチャンがいた街はそこまで規模が大きくは無い様子であったし、そんな場所にいたのだからてっきり人間が出来てる普通の職員だと恵里達は勘違いしていた。だが、目の前で懐かし気に語るイルワを見る限りでは想定をはるかに上回る大物であったようだ。

 

「その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」

 

「ふーん……じゃあ今回商談するのに使った連絡に使えるアーティファクトで話でもしたの?」

 

 続くイルワの話でどうしてあそこで職員をやっていたのかという疑問も氷解する。彼以外にもギルドの支部を任せられるような人間が彼女を慕うというのも理解したものの、肝心の疑問にはまだちゃんと答えてくれていない。そこでギルドマスターが使っていた長距離連絡用のアーティファクトでも使ったのかと尋ねれば、意味深な笑みを浮かべて彼はただこう述べた。

 

「さぁね。それに関しては秘密ということで――さ、着いたよ」

 

 結局どんな手段を使ったかはわからないまま恵里達は商業ギルドの応接室前までたどり着いた。多分後で聞いたところではぐらかされて終わりだろうと思っていると、イルワが扉をノックして中にいた人物へと声をかける。

 

「失礼。今回の商談の立ち合いをすることになった冒険者ギルドフューレン支部長、イルワ・チャングだ。お客様が来られたので入らせてもらう」

 

 そう言って応接室のドアを開けると、セミロングの髪を後ろでまとめたモノクルの男性と七三分けの男性が恵里達を出迎える。

 

「どうも初めまして()()()()()商人の皆さん。私は商業ギルド、フューレン本部ギルドマスターのグウィン・ブレッドルです」

 

「当ギルド秘書長のザックと申します……どうぞ、よろしくお願いします」

 

 やや緊張気味でそう答える二人を見て、既に先の騒動が伝わっていたことに恵里は内心軽くため息を吐く。やはりどこぞのブタ男のせいで正体を隠して商談に臨むつもりがご破算になったようだ。そのことにハジメと鈴、シアは心の中で安堵しているのではないかと適当にアタリをつけつつ、こうなったらなるようになれと恵里は偽名も含めて商業ギルドの二人に名乗っていく。

 

「どうも初めまして。アンカジより参りました商人のリンこと中村恵里です。どうぞよろしく」

 

 もう姿を偽るアーティファクトは起動していないし、人相書きなどで自分達の顔の特徴は把握しているだろう。それを踏まえた上でそう名乗れば目の前のグウィンの頬を一筋、隣のザックの方はダラダラと汗を流しているのが目に入った。

 

 一瞬グウィンの視線がイルワの方に向けられたのを見て、おそらく彼の方も抱き込んでいるのだろうと恵里は予想をつけた。まぁ自分だったらそうすると考えながら続くハジメ達の自己紹介を聞いていた。

 

「……どうも。先程、いえ、こうして正体を偽って話を持ち掛けたことをお詫びします。南雲ハジメです」

 

「そちらではベルという偽名で紹介したと思いますけど、鈴……私の本名は谷口鈴です」

 

 そうして二人に続く形でシアに礼一、良樹に重吾らも自己紹介を済ませ、終わったところで『どうぞ』とグウィンはソファーに座るよう促す。それに恵里達は応じると、弁舌に長けた恵里とハジメがソファーに腰を下ろす。

 

「……その、話し合いは南雲達に任せて、俺達は外に出ていた方がいいでしょうか?」

 

「いえ。永山様、でしたよね? 今回は皆様も同席してください……既に皆様の正体は当ギルドのグウィンが予測しておりました」

 

「それでも今回の話を引き受けたのは、そちらの提示する話に相応の利益を感じたからです。それがモットー氏とチャング冒険者ギルド支部長お二人の判断が正しいのか、こちらで判断してから取引に応じたいと思っております」

 

 軽くすし詰めになっている状態であったため重吾が部屋の外に出た方がいいかと提案するが、商業ギルドの二人は未だ緊張した面持ちながらもそう返してきた。

 

 確かに不測の事態で食料不足となったところに、いきなり現状安全が担保された国の食料を持ち込む商人が現れるという話はあまりに出来過ぎている。ましてや冒険者ギルドを使ってどうにか取り付けようという流れがあったのだから不信感を煽るにはあまりに自然であった。

 

“うっわ恥っず……”

 

“おい中村、これバレないって話じゃなかったのかよ……!”

 

“こっちだって想定外だよ!!……ったく、道理で二度目は簡単に話が進んだ訳だ”

 

“中村、お前……”

 

 そのことを突きつけられ、恵里達は自分達が目的ありきで進めたのを見抜かれたことに今更ながら気まずさと恥ずかしさに襲われるものの、仲間の大半からなじられている恵里はそれをおくびにも出さずに話を切り出していく。

 

「そっか。それじゃあ本題といこう。『アンカジ産』の食料、それを買い取る気はない?」

 

「大方“豊穣の女神”と称されていた畑山愛子の助力の下作られたものでしょう? せめて検査はさせてもらえますか」

 

「あ、わかりますよね……」

 

 そして自分達が持ち込んだ商品もどうやって用意したかも完全にバレていることに相手をナメ過ぎたと反省していると、別の冒険者が木箱を抱えながらこの応接室へと入って来た。

 

「お疲れ様、ユーネス。じゃあ早速“浸透看破”を」

 

「あいよ。んじゃ“浸透看破”っと」

 

 この男性も治癒師だったらしい。鈴と香織も持っている技能の名前を口にして自分達が持ち込んだ木箱の中身に手を当てた。今冒険者が使ったのは魔力を相手に浸透させることで対象の状態を診察し、その結果を自らのステータスプレートに表示する技能だ。これでアンカジ産だと偽った食糧に何か仕掛けられてないかを探るのだろうと推測しながら一同は事の成り行きをただ見守る。

 

「……見当たんねぇな。これといった毒なんてないみたいだ」

 

 時間にして一分足らず。全ての食料を一つ一つ手にとっては調べていた例の治癒師はため息を吐きながら結果を伝えた。当たり前だ。こうしてトータス全土を味方につけるための計画に使うものなのだから。魂魄魔法で食べた相手を洗脳する、なんて芸当も出来ないしハジメから止められたこともあり、促成栽培された以外にこれといった変化も何もない。想定通りの結果に恵里は笑みを深くすると、グウィンとザックに声をかけた。

 

「で? ボク達が持ち込んだ食料品は産地が違う点を除けばちゃんとしたものだけど? これなら、取引に応じてくれるよねぇ~?」

 

「確かにそう、ですが……」

 

「……チャング支部長、ユーネスという冒険者は信用に足る人物ですか?」

 

 が、やはりここでグウィンはイルワに連れて来た冒険者の腕について問う。一瞬恵里を含めた何人かはイラッとはきたものの、判別した相手の腕が悪かったせいで大きな損害を被るかもしれないのだ。

 

「おい、アンタ……いい加減に――」

 

「良樹君、ストップ」

 

“はいタンマ……向こうからすればボクらは不審者だからね。そこの冒険者がヘマしたせいで損害を受けたくない、って思うのも仕方ないでしょ。まぁ腹立つけど”

 

「ハジメも中村も……ったく」

 

 それを考えれば口を挟みたくなるのも仕方は無い。そう考えて良樹らの苛立ちを抑えつつ恵里達はイルワの出方をうかがう。すると彼はユーネスと呼ばれた冒険者と共にグウィンから向けられた疑いのまなざしにしっかりと反論をしていく。

 

「もちろんだ。ウチの中でも選りすぐりの治癒師、ランク“黒”の冒険者を愚弄しないでくれ」

 

「あぁ。少なくともこのフューレンに残った治癒師の人間の中じゃ一番だって自負はある。この技能も身に着けたのもつい数年前だ……それでもアンタらはこっちの奴らの飼い犬だって言いたいのか?」

 

「お待ちください」

 

 気性が荒い冒険者の中でもまれた人間、そんな彼らを相手にしている上の立場の者であったが故かその言葉にはむき出しの刃のような鋭さが伴っていた。だがそれでもグウィンの方は怯む様子は無い。そうしてお互い譲らなかったことでピリピリとした空気が出来そうになった時、ふとモットーの声が差し込まれる。

 

「ギルドマスター、チャング冒険者ギルド支部長。彼らが持ち込んだ商品、ぜひ私の方でも目利きをさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」

 

 ちょっとした提案をするように提案をしてきたモットーであったが、その声色とは似つかわしくない真剣な表情が彼の顔に浮かんでいる。グウィンとイルワと同様、恵里らもいきなり聞こえてきたモットーの声に反応してそちらを振り向いたのだが、あれは本気の目だということは誰の目にも理解できた。

 

「……本気ですか?」

 

「もちろん。冒険者ギルドでは安全面、私はこの商品の良し悪しを見定めるためにギルドマスターが依頼したはずでしょう? 私はただ、本分を成すだけです」

 

 道理でこの商人が自分達を出迎えた後もここにいて、そして商業ギルドが冒険者ギルドの話を聞いてくれたのだと恵里は考えた。確かにそれぐらいやらなければ出どころが怪しいものなんて受け入れはしないだろう。まぁそれはそれとして目利きをしている商人含め、勝手に密約を交わして最悪明かす気が無かったこの場の大人どもに恵里は心の中で何度も舌打ちをしていたりするが。

 

「いいよ。むしろやってくれれば助かるね」

 

「恵里、めっ。目上の人にそういう口の利き方しない……ではどうぞ」

 

「えぇ」

 

 とはいえこうして自分達が持ち込んだ物を認めてもらえるならば構わないと促せば、口の利き方でハジメに叱られて恵里はしょんぼりしてしまう。

 

「……なるほど。確かにこれは見事なものです。流石は“豊穣の女神”ですな」

 

「……信じてもらえたか?」

 

 そうして恵里がしょげてしまっている中、目利きを終えたモットーが満足そうにうなずいた。ふとそんなモットーに重吾がそう問いかければ、愛子と一緒に作物を育てていた彼らのグループ一同が疑いと敵意が軽くこもった視線を向けてきた。やはりトータスの人間に手ひどく裏切られたのが後を引いているのだろうと思いながら恵里は重吾らを一瞥すると、すぐにモットーの方へと視線を向ける。

 

「もちろん……だからこそ惜しい。貴方がたとはもっと早く知り合いたかった」

 

 そしてモットーは自分達が持ち込んだ作物の出来を認めた直後、力なく言葉をこぼす。出来が良かっただけにこういった形で扱うことになったのを惜しく感じたんだろうと思っていると、すぐにモットーは表情を改めて恵里達の方を見やった。

 

「これ程の出来、産地を偽装しているという点を除けば文句のつけようもありません……だからこそ、皆さんの悪評が広がる前に、私の伝手を使って貴方がたをアンカジへと送ることが出来れば。そのことが悔しくてなりません」

 

 心底悔しがる様子で語るモットーを見てどれだけこの作物が高く評価されているかがよくわかった。とはいえ初手でエヒトにハメられた以上どうしようもならない話でしかないと恵里はすぐに見切りをつけると、モットーへと迫る。

 

「こっちの商品を高く評価してくれてるのはわかったよ。で、実際に取引に応じてくれるの?」

 

「そうしたいところは山々ですが、商業ギルドを通してでは難しいでしょう……皆様が一刻も早くこれを流通させて、トータス全土の食糧問題を解決したいと考えているのはわかります。しかしあまりにタイミングが良すぎる。そこから誰かが“反逆者”畑山愛子が関わった、とウワサされては今度こそ私達は終わりでしょう。商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりませんからな」

 

「面倒くっせぇな……」

 

 そう返すモットーに恵里に礼一、良樹は思わずため息を吐いた。確かに言いたいことはわかるが、だからってここでウワサがどうの信用信頼がどうのと言われたって困るのだ。いずれ来たるエヒトとの戦いのためにも今ここでトータス全土を立て直さないとおそらく真っ当な戦力は確保できないだろうと恵里は考えていたからである。

 

(ったく、そうなると畑山先生とかが他の集落に向かったのも悪手だったかな。とりあえず持ってきたものは炊き出しに使うとして、また考え直さないとダメかぁ……ん?)

 

 結局売る気はない様子からもう炊き出しでパーッと使おうかと考えていた恵里であったが、モットーがこちらを見定める様子で見つめていたのに彼女は気づいた。そこで何か引っ掛かりを覚えたその時、横にいたハジメがモットーに声をかける。

 

「……そうですか。じゃあモットーさん、ひとつ質問いいですか?」

 

「なんなりと」

 

「ありがとうございます……じゃあ仮に、もしですよ。アンカジ公国と取引を行っている商人のところにこれがあったらどうしますか?――これを徐々に流通させていくとしたら?」

 

 その問いかけに恵里の中で何かが繋がる。そういうことかとハジメとモットーの考えに気づいた時にはその推測が口から洩れてしまった。

 

「じゃ、じゃあ! そっちがアンカジと取引してるってんなら――」

 

「もしかして、買い取ってくれるんですか!? それで少しずつ流していくのは――!」

 

 恵里と鈴の答えにモットーは深く、強欲さがひどくにじみ出た笑みを浮かべた――商業ギルドを通して色んな商人にアンカジの商品を偽ってバラ撒くのではなく、モットーのようなアンカジ公国が取引先にある商人に卸すのならばどうとでもなるということを彼は示したのである。ならばアンカジと取引をしている商人を目の前にいる商業ギルドのギルドマスターにうかがって、分散して売り渡せばどうにかなるのではと恵里は考える。

 

「ギルドマスター、この商品は間違いなく私達の助けになります。エヒト神の思し召しといっても差し支えないでしょう――我がユンケル商会はこれを仕入れます。どうか、今後ともごひいきに――」

 

「待ってくださいユンケル……私どもとしても、()()()()取引を行うのは反対です」

 

 モットーは喜んで取引に応じるとばかりに手を差し出したものの、そこでグウィンが待ったをかけてきた。ここで冷や水を浴びせるような真似をするグウィン、そして彼を止めようとしないザックとイルワに恵里達は苛立ちを覚えた。するとモットーがせき払いをしてやや気まずそうな表情でグウィンらに視線を向ける。

 

「おっと、そうでしたな……逸ってしまいました。失礼」

 

「いえ、確かにこの商品を扱うことが出来れば私どもとしてもありがたい限りです――が、それ以前に皆様は“反逆者”という扱いを受けている。私どもとしてもそういった方々とそのまま取引をすることは出来ません」

 

 改めてそう述べるグウィン、そして信頼のこもったまなざしを向け続けているイルワに一行はどこか違和感を覚える。このままでは取引が出来ない。ならばそうさせるに足る何かをしろと投げかけているということだ。

 

「……ボクらに何をしてほしいワケ? 何かをすれば、取引に応じるってことだよね?」

 

「君達としても損はしない話さ。もちろん依頼達成の暁には少なくともフューレン冒険者ギルドは総力を挙げて君達を支援することを約束するよ」

 

 まだるっこしいと思って直球を投げつけた恵里だったが、イルワはただこちらにも利があると説くばかりだった。向こうが自分達に何かを求めているということは間違いないが、その内容と言うものが恵里達の頭には中々浮かばなかった。損はしない、と言ってはいるが一体何をやらせる気なのかと誰もが考える。

 

(商会の立て直し? 確かにハイリヒ王国からお金を引き出してもらえばどうとでもなるけどそうじゃないだろうね。だったらお金を出せって風に匂わせるだろうし、向こうの目つきからしてボクら個人を見てる気がする)

 

 そこで商会の立て直しが目的ではと疑ったものの、イルワの目から読み取った感じではそういうものではないと恵里は考える。それにもし立て直しが目的であったとしても、孤立した国からの資金を馬鹿正直に受け取ることはないだろうと恵里やハジメは考えていた。

 

(ボク達でどうにかなること……んー、もしかして)

 

「一体何やらせる気だよ。腕っぷしでも買おうってか?」

 

「まぁ俺らだったらそんじょそこらの奴らなんて目じゃねぇけど――おい、まさか」

 

 だからこそそれ以外の可能性、そこであることに恵里、良樹、礼一が思い至った時、イルワの口からそれが形となる。

 

「そのまさかだよ、礼一君――私達冒険者ギルドは“神の使徒”の皆様にこのフューレンにはびこる裏組織の摘発の手伝いをお願いしたい」

 

 もちろん動かせる人間だけで構わないけれどね、と付け加えた上で提示された依頼に恵里達は目を見開いた。

 

「摘発、ですか」

 

「……ふーん、そういうこと」

 

 先程イルワがそう述べた時、彼だけでなくグウィンやザック、そしてモットーも真剣な様子でこちらを見ていたのである。そこから察するに裏組織の問題は相当根深く、このフューレンを蝕んでいるというのも恵里達は理解できた。

 

「まぁ確かにブチのめしてもいいんだったら俺ら以上に適任なんていねーだろうけど」

 

「やることはわかりましたけれど、えっと、お手伝いってことでいいんですよね?」

 

「まぁ思ったより楽な作業だってのはわかった。で、何をやればいい?」

 

 ハジメと恵里に遅れて反応した礼一、シア、良樹はそのことに前向きな姿勢を見せた。元々フューレンの裏組織のことはライセン大峡谷に出た際にメルドから話を聞いていたし、あのプーム・ミンとかいう男に従っていた冒険者でない輩どもも真っ当な人間ではないというのもわかっていたからだ。それでどうにかなるなら、とやる気を見せたのである。

 

「前向きな姿勢に感謝するよ。ところで、そちらはどうかな?」

 

「その手伝いをしたんならOK、ってことでしょ? でも流石にボク達の一存でどうにかはならないかな」

 

「……愛子先生も説得しないと、だよね」

 

 礼一達の反応に感謝を示しつつも反応が無かった自分達の方を見てきたイルワに恵里と吉野はそう返し、ハジメと鈴、重吾達も首を縦に振った。シア達も『そういえば』と自分達で安請け合いしたことに気付いてコクコクとうなずいていた。

 

「えっと、鈴……じゃなかった。私達にも、色々とやることはありますから」

 

「すぐに結論は出す予定です――僕の恵里と鈴に手を出そうとした奴らを許す気はありませんから」

 

 鈴とハジメの返答にそうかとイルワは短く返す。その際、ハジメがほんの一瞬だけにじませた怒気にこの場にいたイルワやグウィンらはそれに吞まれかけ、重吾や野村ら、シアもぶるりと体を震わせていた。

 

「ハジメくん……」

 

「ぁっ……ごめん、また」

 

「ボクとしてはすっごく嬉しかったけどね……でも、鈴を怖がらせちゃダメだよ」

 

 礼一と良樹も一瞬体が反応したが、ソファー越しに後ろからハグする鈴と横で彼の手を握る恵里に謝る彼を見てホッとする。前に一度恵里が連れ去られた時のハジメの話を礼一らは思い出し、道理で谷口が怯える訳だと納得していた。

 

「実際どうするかはともかくとして、話ぐらいは聞いておいた方がいいだろうね。こっちとしても説得の材料にはなるしさ」

 

「……助かるよ。ならこちらの現状について色々と話させてもらうよ」

 

 ハジメの頭をポンポンなでなでしながら恵里はイルワにそう伝える。デートの件はお預けかなー、と思いつつも恵里はイルワらの口から語られるフューレンの現状に耳を傾けるのであった……。




どうして冒険者ギルドが一枚嚙んでいたか、どうして商業ギルドが商談に応じたのかはこれが理由です。

※今回の話のサブタイトル書き忘れてたんで追加しました(白目)
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