あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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では予告通り次のお話です。本編をどうぞ。


七十五話 光を求めて彼らは歩く

「じゃあ愛子姉ちゃんは、愛子姉ちゃんは誰が守ってくれるの?」

 

 パル少年のその言葉を聞いてハジメ達はハッとして愛子を見る。確かに今の愛子は誰かを守ろうとしているだけで、守られることも支えられることも拒絶している様子だった。そしてそれを投げかけられた愛子もまた何も言わず、一度うつむいてからパルの方に視線を向ける。

 

「デビッドさん達なの? 光輝兄ちゃん達なの? それとも他の人なの?」

 

「……デビッドさん達は共に戦ってくれる人達です。それと天之河君達はあくまで私が守るべき子供ですから。鷲三さんも霧乃さんもそうです。だから、守ってもらう必要なんてない。私が盾になるんです」

 

「そうじゃない! そうじゃないよ愛ちゃん!」

 

 誰が守ってくれるのと問いかけるパルに愛子はただ淡々とそう答える。しかしそれを香織や他の皆は黙って見過ごせずに声を上げる。

 

「私達だって愛ちゃんを守りたいんだよ! ずっとずっと私達のためにいっぱい働いて、まだ戦おうとしてる愛ちゃんを私達だって守りたい!」

 

「あぁ! 一方的に守られたいだなんて俺らは思ってねぇ! 支え合いたいって思ってる!」

 

「ですが、ですが私は!」

 

 香織と龍太郎の言葉に一瞬瞳が揺れたものの、それでもかぶりを振って二人を半ばにらむようにキッとした目つきで見てきた。

 

「私、大人なんですよ? 子供だった皆さんを……守るのが、助けるのが教師の……大人の、役目じゃないですか」

 

 言葉を続けていく毎に愛子の瞳が潤んでいく。その様をデビッド達は静かに見守ろうとし、愛子に好きに言わせてほしいと恵里達を手で制止する。

 

「いきなりこんな世界に連れてこられて、望んでない戦争に参加させられそうになって。それを止めるなり貴方達をそこから遠ざけるなりするのが私の役目だった。でも、でも……」

 

 愛子の口から洩れる悔恨を聞いて恵里達は思う。この人はやっぱり教師なのだと。手段や方針が過激にはなったとしても、自分達生徒のことを優先して考えてくれる立派な教師だったのは変わらなかったのだということを理解したのである。

 

「……果たしてんだろうがよ」

 

 だからこそ言わなければ、伝えなければと皆が動いた。

 

「あんたは立派な教師だよ! 俺達のことをこんなにも思ってくれてるじゃねぇか!」

 

「そうよ愛ちゃん先生! あんな辛い目に遭ったのに、それでもまだ私達のために立ち上がってくれたじゃない!」

 

 幸利が、優花が声を上げる。心が折れて砕け散ってもなお立ち上がってくれた彼女に敬意を、感謝をぶつけていく。

 

「愛ちゃんはちゃんと頑張ってたんだよね! だったら私達文句なんて言わないよ!」

 

「そうだよぉ~! どうにもならなかったのは私達もだから~! 自分だけを責めないでぇ~!」

 

 自責の念に駆られる愛子に奈々と妙子が違うと真っ向から否定していく。

 

「人を殺した俺達を見捨てないでくれたのは愛ちゃんだろ!」

 

「大人たちにいいようにやられた俺達にずっと向き合ってくれた愛ちゃんに感謝してるんだ! だからそんな、自分を悪く言わないでくれよ!」

 

「俺達を家に帰すって約束を天之河達にさせてくれたじゃんか! 俺達の命は助けてくれたのは違いないって!」

 

 相川が、仁村が、玉井が、叫ぶ。既に血まみれになってしまった自分達の手を愛子が引っ張ってくれたことを伝えようと必死になる。

 

「私達をどうにか戦いから遠ざけようとしてたのも聞いたよ!」

 

「愛ちゃんは頑張りすぎだよ! そんなにボロボロになるぐらいなら私達を……私達を頼ってよ!」

 

「そうだ! むしろ俺達が先生に甘えっぱなしで……まだ恩を返せてない!」

 

「あぁ!……頼りない俺達でも、先生の支えぐらいにはなれる……いや、なってみせる! だから!」

 

 辻が、吉野が、野村が、重吾が大声で想いを示す。ただ助けられてばかりだった自分達が今度は愛子の助けになりたいと真剣になって伝えていく。

 

「愛ちゃん!」

 

「愛子先生!」

 

 彼らに続くように光輝達も愛子に言葉をかける。自分達がいる、一人じゃない、一緒に戦おう、という旨の言葉をひたすら愛子に向けて訴えていた。

 

「み、皆……でも、私は……」

 

「いや、ここは愛子の負けだ」

 

 だがそれでもと愛子は自分が子供達を守ろうと訴えようとするも、デビッドが彼女の肩にポンと手を置きながらそう諭す。

 

「愛子さんは私達を『仲間』として認めてくれたでしょう? でしたら彼らのことも同じに扱うべきです」

 

「少なくとも僕達と愛子ちゃんに戦う力をくれたあの子達は『対等』な関係じゃないとね」

 

「大切に思っているのは向こうとてわかっているだろう。だが、今の愛子のそれは鳥を籠の中に押し込めるようなものだ」

 

「デビッドさん、チェイスさん、クリスさん、ジェイドさん……」

 

 元護衛隊隊長のデビッドに続き、チェイス達も愛子の説得にかかる。過去に愛子を傷つけてしまったが故に自分達で彼女を説き伏せることにためらいを覚えるようになってしまった。だからこそ彼女を慕う彼らの言葉ならばきっと愛子をまた救えるのではないかと考えてあえてそうするよう仕向けたのだ。汚い真似をしたことを恥じつつも、後で彼らにわびようと四人は言葉を交わすことなく共通の思いを抱いた。

 

「愛子さん。わし達が言えた義理ではないかもしれん。だが、この子達の思いを受け取ってはくれぬか? 『元』とはいえ教師だったのだろう?」

 

「もう教師という肩書は捨てたのですよね?……少々卑怯ですが、それならば私達のつながりは『仲間』ということではありませんか?」

 

「鷲三さん、霧乃さん……うぅ」

 

 鷲三と霧乃も静かに愛子に言葉をかける。的確に弱点を、愛子が子供達のために戦える人間であることをわかった上で彼らの言葉を受け止めろと突きつける。そうすれば愛子も一層うろたえてしまう。

 

「そういえば先生さぁ~、前に言ったよねぇ。魔物肉を食べるためにはボク達が提示した条件を守れってさぁ~」

 

「っ……それ、は」

 

「ボク達がやることにケチを今後一切つけないこと、ちゃぁんと守ってね……一応期待してるんだからね? あの時見せた執念をさ」

 

 それに乗じるように恵里もまた声をかける。過去に魔物肉を食べる際に提示した条件を思い出し、それを突きつけた上で軽く本音を漏らす。あの時見せた執念に近いそれを恵里は評価していたのだ。これならば自分達、ハジメの力になると期待していたのである。

 

「良樹さんやアビスゲート様、礼一さんが慕っているならば私達ハウリアにとっても仲間です!」

 

「シアの言う通りです! 私達ハウリアは家族を――いえ! 仲間を見捨てはしません! 私達がついています!」

 

 トドメにシアとカム、そして全てのハウリアが彼女の近くへとやって来てそう伝える。亜人族一、情の深いハウリアに迫られてもう愛子も豹変する前のようにいっぱいいっぱいになってしまう。

 

「私達がいるよー!」

 

「僕達を信じてください!!」

 

「わ、わかりました! わかりましたから! み、認めます! 皆さんのことを仲間として認めますからぁ!」

 

 魔物の肉を食べて赤くなった目をぐるぐると回しながら、ハウリアにたかられた愛子はただそう叫ぶしかなかったのであった……。

 

 

 

 

 

「……それで皆さん。どうするつもりで」

 

 軽く言質を取ったことで恵里を筆頭に魂魄魔法を使える全員で“鎮魂”を発動。一度その場を落ち着かせてから再度話し合いに臨むことに。ハウリアにもみくちゃにされる寸前だった愛子は恨みがましい目を恵里達に向けるも、大半は苦笑いを浮かべたり穏やかな微笑みを浮かべるばかりだった。

 

「どうするも何もフューレンの裏組織の摘発に参加するのを止めるな、ってだけだよ。全員参加しろ、って言ってる訳じゃないしね」

 

「はい恵里。それ以上ダメだよ」

 

 そんな愛子の視線もどこ吹く風と言わんばかりに恵里はそう返す。恵里からすれば参加者を募ろうとしたところで愛子が話の腰を折ったという風にしか思えなかったのだ。たとえそれが参加者が半ば決まった形のものであってもである。だから軽く嫌味を返したものの、すぐにハジメに叱られてしまってぶーたれてしまう。

 

「いいじゃん別にぃ。話の腰折ったのあっちなんだよ。嫌味の一つぐらい」

 

「畑山先生が僕達のことを大切に思ってたからでしょ。まぁちょっと、行き過ぎてたのは僕も思うけど」

 

 そのハジメも恵里をたしなめたものの、愛子がやり過ぎだったのを認めていることから光輝達はため息を吐き、重吾達とフリードは心の中で二人を同類扱いしていた。

 

「あー、コホン……いいか皆? 俺は裏組織の摘発に参加するつもりだ」

 

 場に漂った変な空気を断ち切るべく光輝はせき払いをすると、自分が参加することを明らかにした。

 

「俺がそう決めたからって雫も永山達も続かなくていい。あくまで自由参加だからな」

 

「つってもどうせ八重樫も龍太郎も白崎も参加するんだろ? 違うか?」

 

「大介……あのなぁ皆」

 

 全員の意思を尊重することを伝えた上で自分の参加を申し出たものの、即座に大介が反論した上に龍太郎達もすぐに顔を合わせてうなずき合うものだから光輝はすぐに額に手を当てて深くふか~くため息を吐いた。予測がつかなかった訳ではなかったが、だからってすぐに反応するかと思ったからである。

 

「今回の奴に参加して成果を挙げれば作物をコソコソ売る必要もなくなるだろ? だったら参加するしかねぇだろ」

 

「そうね。参加の見返りは十分あるもの。大迷宮の探索も少し行き詰っていたし悪くないと思うわ」

 

 龍太郎と雫は参加することのメリットを提示し、幼馴染~ズもそれに同意する形でうなずく。

 

「私も皆様がそれに参加して下さるとありがたいと思っております。ここで皆様が成果を上げれば商業ギルドからの覚えも良いですからね……店をたたんでしまった方を取り込むことも簡単にいきそうですし」

 

「うわ腹黒っ」

 

 それにはリリアーナも同意を示した……彼女の場合はサウスクラウド商会の拡大の方に重きを置いていたが。もちろんフューレンの立て直しをするためという目的があったものの、この摘発で信治達が活躍することで商業ギルドからの助力を得、店じまいをしてしまった商人をピックアップしてもらってスカウトしようと考えていたのである。

 

「……やっぱ俺、惚れる相手間違えたかなぁ」

 

「あの、信治様……リリアーナ様はダメですか? その、無理だというならば……」

 

 またしても惚れた相手の腹黒い面を見た信治は明後日の方向を見つめるも、今にも消え入りそうなヘリーナの声を聴いてふと思う。仕事をしている時に見せる真剣な様子――たまにテンションが変になって奇怪な笑いを浮かべることもあるが――を知っているのは自分とヘリーナだけだと思うと優越感がすごいし、仕事の合間や終えた後にするお茶会の時に見せてくれる年相応の少女の顔を見て心臓が高鳴る時があるのだ。

 

「…………あー、うん。嫌えねぇ。そっちが無理だわ。悪い、ヘリーナ。姫さん」

 

 そしてそんな彼女を手放すことを考えるだけで胸が苦しい。これが惚れた弱みってことかと信治は理解しつつもそう返し、ほっと一息を吐いた後でえへへとはにかむリリアーナとどこか安堵するヘリーナを見てますます手放したくないと思うのであった。

 

「……なぁ天之河、どうしてお前は戦えるんだ」

 

 そうして恵里達全員が参加を決め、残るメルドやハウリア、愛子やデビッド達に重吾らの扱いをどうするかと相談を始めたところで、その重吾がぽつりとつぶやいた。

 

「どうしたんだ永山」

 

「いや……お前達だって世界を敵に回していただろう。どうして、どうしてそこまでこの世界のために戦えるのか。それがわからないんだ」

 

 光輝達とて恵里達をかばったことで一度メルドからにらまれたし、自ら死地に飛び込まざるを得なかった。それでも世界の敵として扱われていたのだ。いくら友達のため、目的のためといえど自分達と大差ない、むしろそれ以上に辛い目に遭ったというのにこの世界の人を助けられるのか。その迷いに光輝は困ったようにこう漏らした。

 

「……ごめん永山。この世界のために戦う理由は俺もよくわからないんだ」

 

 一度腕を組んで考える素振りをしたのだが、何度も何度も首をかしげて遂にこんなことを言ったのである。これには重吾達は思わずこけそうになり、リリアーナやフリードも何とも言えない表情でただ困惑するばかりだった。

 

「いや、わからないって……ただ、なんとなく人助けをしているだけなのか?」

 

「そう、かな……そんな感じだ。だって、そこに助けを求めてる人がいるじゃないか。だからだよ」

 

 まさに物語のヒーローさながらの思考をしていることを明かした光輝に、重吾達のグループは嫉妬と困惑の混じった視線を向ける。そういう視線を向けられるだろうなぁと薄々感づいていた光輝が苦笑いを浮かべると同時に雫も苦笑しながらそれを肯定した。

 

「そうね。いつもそう。光輝は誰かを助けずにはいられない人だもの……でもね、だから私も救われたの」

 

「あぁ。そんなお節介な奴のおかげで俺も立ち直れたんだよ。助ける相手ぐらい選べ、って言いたいけど、ま、助ける相手を選ぶ光輝なんて光輝じゃないしそれで構わねぇさ」

 

「そういう奴だよ光輝はな。実際それでお前らだって助かっただろ」

 

 ただし、そのおかげで救われたということを付け加えて。幸利も、礼一もやれやれといった具合に光輝の度の過ぎたお節介ぶりを評価するが、仕方ないなぁといった感じのものであった。そしてそれは恵里達や鷲三、霧乃もそうで、彼に向けて生暖かいまなざしを送っている。

 

「皆、もう……その、さっきはそう言ったけど、今回の摘発に関してはそうしたい理由はちゃんとあるんだ」

 

「一体何がだ」

 

「子供達だよ。裏組織のせいで離ればなれになった子供達を助けたい」

 

 困ったお節介焼きといった風に評価されてる周囲にどこか居心地の悪さを感じつつも、光輝は今回の摘発に参加する理由を語る。それは人身売買のために誘拐された子供を救いたいというあまりにもシンプルなものだった。

 

「確かにかわいそうだとは思うな。でも、だからって……」

 

「そうだな。そうかもしれない。でもさ、これって俺達と変わらないだろ?」

 

「えっ?」

 

「俺達みたいにさ、その子達は家族から引き離されてるじゃないか。だから、他人事に思えなくってさ」

 

 ――そして同時に、ひどくシンパシーを感じるものでもあった。その言葉に誰もが『あっ』と言葉を漏らし、その発言の主へと視線を向ける。

 

「どこかもわからない場所で、助けを求めて、それで放っておいたらきっとひどい目に遭う……だから、助けたい。それじゃ、駄目かな」

 

 その言葉がこの場にいた人間の心に染み渡っていく。考えたことが無かった。けれども光輝の言う通り、その子達は自分達と一体何が違うのかと恵里達は強く思ったのだ。無論それは愛子や鷲三に霧乃、メルドにアレーティアであってもそう思っていた。

 

「……そうだな。今までそう考えたことはなかったが、その通りだ」

 

「なるほど。何を言うかと思ったが、共感したくなるというのもわからんではない」

 

 メルドとフリードが同時に感想を漏らし、リリアーナやヘリーナもうなずいていた。

 

「そ、そうです……! い、言われてみれば確かに!」

 

「子供達にも家族がいる……め、メルド殿! 私達もこれに参加してもよろしいでしょうか!?」

 

「お、落ち着けお前ら! ちょっと待たんか!」

 

 ハウリアはなおのことリアクションが大きかった。しばしの間大きくどよめくと、すぐにメルドに向かって頭を下げ出したのである。家族愛が強い一族だからこそ、たとえ恐れている人間であっても家族が引き離される痛みに共感し、何とかしたいと願い出たのである。無論メルドはいきなりの申し出に軽くパニックになっていた。

 

「私、は……」

 

 そして愛子も少し迷いを見せた。クラスメイトの子達を守ると決めてからはデビッドら味方のトータスの人間の優先度を下げた。最優先すべきは地球出身の彼等であって他は切り捨てることも視野に入れようと決めていたからだ。だが先の説得と今の光輝の言葉にその決意は少し揺れ動いており、ほんの少しだけ誘拐された子供達に同情を向けてしまっていた。

 

(……変わらない。確かに、その子達は大介達と変わらない)

 

 アレーティアもまた想定しなかった見方に驚いて、未だ大介の後ろに隠れつつも光輝の言葉を噛みしめる。彼女もまたフューレンを味方につけることに賛成していたため、摘発に参加することに乗り気ではあったのだが、その言葉で一層やる気をたぎらせていた。

 

「……なら、行く」

 

 各々が考え、行動に移したりしている中、重吾はおそるおそる手を上げて光輝の方を見た。まさかと思って恵里や大介ら、フリードが視線を向ければ重吾は未だ迷っている様子ながらも行くことを表明したのである。

 

「誘拐された子供達も俺達と変わらない……だったら、助ける。助けたい」

 

「いいのか永山。まだ辛かったり苦しいんだったら――」

 

「俺への同情はいらない……いや、その子達を助けることで俺自身も救われたいと思っているかもしれない。最低なのはわかってる……でも、地球に戻った時に親に誇れることをしたと言いたい。それじゃ駄目か……?」

 

 動機の大半は言い訳のしようもないエゴばかり。だがそれで迷いながらも彼は人を助けることを、もう一度戦うことを選んだのである。そんな傷だらけの勇者の姿に光輝は軽くうなずいて称賛のこもったまなざしを送っていた。

 

「俺がどうこう言える立場じゃないさ――よろしく、永山。俺達と一緒に戦ってくれ」

 

「……あぁ!」

 

 自分達を救ってくれたある少女を一瞥してから光輝が手を差し出せば、重吾もその手を固く握り返す。彼とのわだかまりがまた少し解けたことを思いながら光輝はまぶしい微笑みを浮かべ、重吾も気まずくも気恥ずかしそうな表情で彼を見ていた。

 

「重吾……」

 

「リーダー……」

 

「永山、お前……」

 

「マジかよ永山……」

 

「「永山君……」」

 

 その様は彼のグループに属していた野村らにも影響を及ぼしていた。かつて敵視していた相手に気まずさと後ろめたさを感じていた彼等にとって、勇気を出して一歩踏み出した重吾がとてもまぶしく見えたのだ。

 

「……なぁ天之河、俺もいいか?」

 

 そのことをうらやんだり妬ましく思いはしたが、それを超えたのが自分達もそうしたいという願望だった。彼が乗り越えようとしているのなら自分達も、と思ったのだ。

 

「えっと……野村は、大丈夫なのか?」

 

「いいのか、健太郎?」

 

「正直今でも頭の中がぐちゃぐちゃだよ。けれど、ここで一歩踏み出せなかったら後悔するような気がしてさ」

 

 敵視していた少年達のようにやれたらという羨望、自分達に何が出来るのかという諦観、そして変わることへの恐怖が野村の胸の内にあった。だが今目の前で親友が前に進んでしまった。今この機会を逃してしまえばきっとこの先彼と一緒にいられないだろうという直感があった。だから野村は手を震わせながら光輝に申し出た。

 

「――私も! お願い健太郎くん。私も、真央も連れてって」

 

「健太郎くんと綾子とならきっと私も行けるから。だからお願い」

 

 その瞬間、彼の両隣にいた少女達も前に進むことを選んだ。辻は彼の手をそのまま握って、吉野は指をからめた彼の手を自分の胸の高さまで持っていきながら。三人一緒ならきっとどこまでも行けるという信頼とも願望ともつかない青臭いものを抱きながら。

 

「――あぁ! 俺と綾子、真央も頼む!」

 

 健太郎もまた同様のものを抱きながら光輝に向けて頭を下げた。謝罪や許しを請うものではなく、この二人とこれからを歩くために。健太郎に続いて綾子と真央も頭を下げると、光輝の優し気な声が彼らの耳に届いた。

 

「ありがとう野村。それと辻と吉野も。一緒に戦ってくれるか?」

 

 その言葉だけで何もかもが許された気がして。瞳を軽く潤ませた健太郎を綾子と真央がただ無言で抱きしめ合った。

 

「なぁ天之河、その……俺も、いいかな?」

 

「今更虫のいいことを言ってるのはわかるよ……でも」

 

「俺達も、変わりたい……ここでそれを示したいんだ! だから……」

 

 その光景に続いて相川昇が、仁村明人が、玉井淳史が参加を願い出た。慕っていたリーダーが、一緒にいた仲間達が変わろうと足掻くのを見て思いを止められなくなったのだ。

 

「……ならば私も。私も参加します。クラスメイトの皆を守る。そう決めたんですからね」

 

 最後に愛子もまた自分達と共に戦うことを表明した。保護しようとしている重吾達が戦うことを決めたのならば当然の流れではあったのだが、その表情は決して暗いものではなかった。渋々戦うのではなく、自分もまた子供達と共にありたいと決意したような顔つきで。

 

「――えぇ! 頼むよ相川、仁村、玉井それと畑山先生も」

 

「いいえ。やっぱり私に先生なんて荷が重過ぎますよ。今後も“魔王”で通すつもりです」

 

「メルドさーん! 私も参加しますぅ! 良樹さんの力になるためにも! 愛子さんのためにも!!」

 

「もちろん私達も同様です!! 愛子殿のためにも、ハウリアは一丸となって力を尽くす所存です!」

 

「だからやかましいわお前ら!! 話は一人ずつや――黙らんとぶっ飛ばすぞ!!」

 

 そして昇らと愛子の願いは聞き入れられる。その様子にハウリア一同のテンションがダダ上がりし、もみくちゃにする勢いでメルドに再度参加を申し出ていた。なお全然勢いが止まないことから一番近くにいたカムにげんこつが落ち、カムを回収すると同時に蜘蛛の子を散らす勢いでハウリア一同が逃げ回ったのであった。

 

「……こんなことになるなんて思わなかったね」

 

 そんなわちゃわちゃした状況をながめながら一人恵里はつぶやく。かつて自分達を敵視していたクラスメイトが今こうして歩み寄ってくるとは予想してなかったからだ。最後の最後で戦力になってくれればとは思っていたものの、その予想が良い意味で裏切られたことに内心驚きを隠せなかったのである。

 

「そこは光輝君の人徳が大きいかな。僕だとちょっと無理だったと思うし」

 

「ハジメくんもそんなに自分を卑下しないでよ。でも――」

 

 ハジメは自分と親友の懐の広さを比べて彼のすごさを実感し、鈴は愛しい人がそこまで狭量な人間ではないと口を尖らせた。恵里も鈴に続いてハジメに一言文句をつけようとした時、二人から抱きしめられる。

 

「やっぱり恵里がいたからだね」

 

「うん。恵里がいなかったらきっとこんな光景なんて見られなかったよ」

 

「……そ、そっか」

 

 普段ならば青天井に調子に乗るところだが、今の恵里はどこか気恥ずかしさが勝ってそれにうなずくぐらいしか出来なかった。

 

(でも、そっか。前世のボクだったらこの真逆の光景を見せつけてたんだよね)

 

 その理由もすぐに思い至る。クラスメイト達を裏切り、光輝を手に入れようと画策していたあの頃の自分を思い出したからだ。しかし今の状況は全く違って、思い描いていた以上にいい方向に転がったのを見てどこか感慨深げにうなずいた。自分はここまで変わったんだ、変われたんだということを改めて自覚していたのである。

 

「でもさ、それもね」

 

「うん。そうだね」

 

「「ハジメくんのおかげだから」」

 

「う、うん……そう」

 

 けれどそれもここにいる素敵な少年との出会いがあったから。彼が起こしてくれた奇跡だからと見上げながら恵里と鈴はハジメにそう返せば、彼も頬を染めて恥ずかし気に顔を背けるのであった。

 

 かくして裏組織の摘発に地球から来たメンバー全員が参加することになり、またハウリア全員もメルドの指揮の下で従事することが決まる。ありえた未来に魔王と呼ばれた少年が行った裏組織の殲滅は、大きく形を変えて行われようとしていたのであった。




ようやく恵里達の裏組織の摘発への参加が決まりました。
次回は本気になった彼女達が久々に見られるかなー、って思います(見られるとは言ってない)
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