あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

135 / 208
ちょっと色々あって遅くなりました。主に掛け持ちしていたソシャゲの一つがサ終を迎えるまで遊び倒してたせいですが。

……コホン。では改めまして拙作を見て下さる読者の皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも178342、しおりも415件、お気に入り件数も866件、感想も641件(2023/9/1 23:27現在)となりました。本当にありがとうございます。これもひとえに皆様が見てくださるおかげです。

そしてウエストモールさん、Aitoyukiさん、拙作を再評価してくださり本当にありがとうございました。おかげでまた話を書き綴っていく力をいただきました。本当にありがとうございます。

今回の話はちょっとだけ長め(約11000字程度)となっております。それでは本編をどうぞ。


七十六話 商業都市の夜更け

 裏組織の摘発に参加するかについての話し合いを終えた翌日、早速恵里達は朝一で冒険者ギルドを統括するバルス・ラプタにかけあってイルワに連絡をとる。ハウリア百数十人全員と彼らを監督しているメルドの参加も伝えれば、歓迎する旨も含めて承諾してくれた。

 

 向こうとしても人員が相当不足していたのだろう。是非とも参加してほしいとの返事とこれからすぐに話し合いをしたいというイルワの要望を受けた一行は、代表として恵里、ハジメ、鈴そしてハウリアの長であるカムとメルドの五人で向かうことに。そして先日フューレンに向かう際に使った街道へゲートキーで転移し、カムがついてこれる程度の速さで合流地点へと向かった。

 

「あ、見えました。あそこにいるのが案内していただける人でしょうか」

 

「だろうな。さて、カム。ついてこれるか?」

 

「無論です。皆さんが私に合わせて下さってるのですし、この程度ならば問題ありません」

 

 今回この人選になったのはハウリアの参加の意志と監督するメルドの顔合わせ、それと恵里が作る例の洗脳効果のある首輪を売り込みが目的であったためである。ハジメと鈴が来てくれることに恵里は喜んだものの、その理由はよりによって自分のブレーキ役だ。それを聞いた当初はやや渋い表情を浮かべたものの、結局ハジメと鈴と一緒にいられるからいいやと考え直していた。

 

「おはようございます。皆さん」

 

「いつの間に!?……いや、だからこそイルワ支部長がそちらを評価したということか」

 

「信じられん……ここ近辺は開けているというのに、フッと現れたぞ……これがハイリヒ王国を打ち破った者達の力か」

 

 すぐに平原の合流地点へと向かえば、そこにいた冒険者もいきなり現れた恵里達に驚きを隠せなかったものの、割と早く持ち直した。おそらくイルワが事前に説明をしてくれていたであろうことをありがたがりつつ、案内しようと声をかけてきた彼らにハジメが対応していく。

 

「早速で悪いのですがこちらへ。変装用の衣類も用意していますが――」

 

「あ、それは別に大丈夫。はい」

 

 その一言ですぐにドッグタグ型のアーティファクトを起動し、五人は姿を適当な町人のものを思い浮かべる。そうすることで他人からはそういう風に見られるようになるこれの便利さを改めて噛みしめつつ、驚愕する冒険者達を見やる。

 

「……話には聞いていたが、実際にやられると白昼夢を見てるかのような心地だな」

 

「驚かせてしまったのは謝罪する。では案内を頼めるだろうか」

 

「あ、あぁ。もちろんだ。ではついてきてくれ」

 

 メルドからの謝罪を受けた冒険者達はすぐに恵里達をフューレンへと案内してくれた。事前に話が通してあったのか今回の検問はおそろしくスムーズに終わり、一行は何の苦も無く街の中へと入ることが出来た。その間も裏組織の構成員が襲ってくるということもなく、五人は無事に冒険者ギルドへとたどり着く。

 

「来て下さりありがとうございます。当ギルド秘書長のドットです」

 

「まずは来てくれたことに感謝するよ。それと申し訳ないね。昨日の今日で呼び出してしまって」

 

 そして応接室まで案内され、イルワとメガネを掛けた理知的な雰囲気の男性に出迎えられる。イルワの気遣いに軽く恵里達は苦笑しつつも特に問題はないとばかりに手を振った。ゲートキーのおかげでゲートホールのある場所ならどこでも自在に行き来が出来るし、すぐに話し合いを進めてくれるのであれば願ったりかなったりだったからだ。

 

「そちらの男性と亜人も仲間かな? よろしく頼むよ」

 

「王国の騎士団長を勤めているメルドだ。そして隣にいるのは私の部下にあたる」

 

「カム・ハウリアです……よ、よろしくお願いします」

 

 冒険者ギルドに入った時点で恵里達はアーティファクトをオフにし、元の姿でイルワら二人と顔を合わせた。そのイルワも彼の横にいたドットという男も初対面であるメルドとカムを見ても特に驚いた様子も見せていない。そのことにあれ? と思った鈴はメルドに目配せをしながらその疑問をぶつけてみる。

 

「あの、イルワさんはメルドさんとカムさんとは初対面ですよね? それなのにあまり驚いてないみたいですけど……」

 

「それに関してはまず腰を下ろしてからにしようか鈴君。このまま立ち話というのもなんだからね」

 

「今二人分のイスも用意します。少々お待ちを」

 

 やや引きつった笑みをほんの一瞬だけ浮かべたイルワはそう返し、対面のソファへと視線を一度移す。しかしそのソファーは三人そこらしか座れないため、とりあえずオルクス大迷宮で引率をしてくれたメルドに先に座るよう恵里達は視線を向けた。

 

「いや、ここはハジメ、お前達が座れ。後々イスの配置とかで面倒になるからな」

 

「「「あ、はい……すいません」」」

 

 ……なお、その後起きるであろう面倒ごとを見越したメルドに止められ、ちょっと申し訳なさそうにハジメを恵里と鈴がはさむ形で三人は座る。そしてドットが用意したイスをもらってメルドとカムも腰を下ろした。

 

「それでさっきの鈴君の疑問だけれど、君達神の使徒がこのトータスに現れて二週間ぐらいの時期にある情報がこの冒険者ギルドでも流れたんだ。反逆者に与した王国の騎士団長を討ちとった、っていうものがね」

 

 そうしてお互い向かい合って座るとイルワはあるウワサがここにも流れたというのを口にした。彼の言う通り、メルドが自分達のためにエリヒド王に意見したことを恵里達は覚えていた。もちろんその顛末もだ。オルクス大迷宮攻略時に語ってくれたそれが一体どう繋がったのやらと恵里達は耳を傾ける。

 

「あの時の話か……」

 

「そちらからすれば苦々しい話であることは承知しているよ。まぁ聞いてくれないかな……そのウワサが流れてからしばらくして教会から手配書も配られてきてね。そこにメルド騎士団長のものもあった。そう考えるとハジメ君達と生きて行動を共にしているのも不自然ではないなと思ってね」

 

 あの時を振り返り、思わずメルドはため息を吐きそうになった。結果的には良かったものの、あれで進退窮まった時はどうしたものかと思ったのは事実であったからだ。まぁ今はそれにかまけている場合ではないと恵里達同様耳を傾ければ、それなりに納得のいく答えをイルワは返してくれた。

 

「ダッサ。倒したって言ってるのにメルドさんの手配書書いたとか。でもまぁそれでいつかは来るって思ってたってことでしょ?」

 

「その通りだよ恵里君。それと前にシア君が来たからね。他に亜人を誰か抱えていてもおかしくはないと思っただけさ」

 

 見事な推察におぉと一行からため息が漏れる。情報の仕入れもさることながら、支部とはいえ組織の長を勤めているだけあると感心したからである。なお恵里の教会への罵倒は全員思うところがあったのか特に誰も触れなかった。

 

「見事な慧眼だな。流石はギルドの支部長というだけはある」

 

「一応このフューレンの冒険者をまとめ上げてきた実績はあるからね。これぐらいならやれて当然、といったところかな」

 

「ならば頼りになるというものだ――こちらは今回の作戦に参加する俺達の名前を記載した名簿だ」

 

 微笑みを崩さないイルワにメルドは頼れるところを感じつつ、宝物庫から取り出した名簿をドットへと渡した。代筆によって書かれたハウリア一同の名前も載っているのはもちろんのこと、参加する全員の名前の横に天職と使える魔法や技能の一部もそれには記載されている。ドットに一度検分してもらった後、イルワもそれに目を通して思わずうなり声を上げた。

 

「……中々に見事な資料だ。これならどこに誰を配置するかもあまり悩まなくて済みそうだね」

 

 向こうからしても相当の出来栄えらしい。苦労して用意した甲斐があったと恵里達は思いつつ、続くイルワの言葉に耳を傾けていた。

 

「正直君達の中で数名参加してくれるだけでもありがたいと思っていたんだけれど、まさか全員とはね」

 

「えぇ、本当に」

 

 想像をはるかに超える参加者の数にイルワは感嘆を通り越して驚愕まで至っており、ドットも同様ではあった。だがその時漏れたイルワの疑問に恵里達はうなずく他無かった。

 

 実際今回参加するのは恵里達地球出身の人間全員にハウリア、そしてハウリアの監督をしているメルドとかなりの大所帯である。ここ最近大迷宮の探索が行き詰っているというのもあったが、一番の理由はフューレンのバックアップを得ることに誰も異論をはさまなかったからだ。

 

「フューレンの方で『アンカジ産』の食料を販売してくれれば各地の立て直しも容易ですからね。もちろんフューレンの皆さんを助けたいと思っているのは事実です」

 

「こっちとしても後でやってほしいことがあってね。その時空腹でマトモに動けないとキツいからさぁ~」

 

 軽く後ろめたさを感じさせる表情をしながら語るハジメにイルワとドットも思わず釣られそうになり、やや冗談めかして話す恵里に二人は何か底知れないものを感じ取って表情を引き締めていた。

 

(あの時ハジメくんが言ったみたいにね。ご飯を食べられないとしんどいってのはボク達もわかってるし。エヒトとの戦いで数だけ揃えたところで勝てる訳が無いんだからちゃんとご飯ぐらいは食べてもらわないと)

 

 それは恵里も飢えの苦しみをわかっていたからだ。たった三日そこら、それもオルクス大迷宮の奈落の底へとたどり着くまでの間だけとはいえどその時の苦痛は未だ忘れた事はない。

 

 このまま放っておけばおそらくトータス全土で相当な食糧難が起きるやもしれない。そうなってはかき集められる戦力も減る可能性は大いに高い。だから今回のことにも積極的になっているのだ。

 

「……なるほど。しかし騎士団長だけとはいえ、王国の方からも支援を出して下さるのはこちらとしても大変ありがたい話です。ここに記載されている亜人全部、もしやそちらの管……轄となっているということですか?」

 

 自分達の答えに納得を示した様子のドットではあったが、ある疑問を投げかける。亜人への差別感情がわずかに漏れたそれを聞き、多分ハジメくんと鈴の口元が軽くヒクついただろなーと思いながらも恵里はただ黙って聞いていた。

 

「……はい。厳密にはメルドさんが預かってくれているんですけどね」

 

 ハジメが述べたように現在ハウリア一同はメルド、より厳密に言えば王国の預かりとなっており、家屋の手配も率先して国が音頭を取ってくれた。シアを除くハウリアは騎士団の宿舎から少し離れたところに急遽建てたアパートみたいなつくりの家屋に住んでいる。シアはもちろんそこに住んでいるハウリア全員も参加を表明したのである。

 

「もちろんです。私がハウリアの代表として、全員が従うということを伝えに参りました」

 

 カムはそう答えたものの、声のトーンからして軽く気落ちしている様子なのは恵里もまた理解した。自分達はもとより、メルドであってもあまり差別意識を出さないで接しているらしいことを本人の口から聞いている。

 

 だからこそ自分達の機嫌を損ねないように言葉は選んだものの、心の奥底に根付いているであろう差別意識を感じ取ってカムは気落ちしたのだろう。そう恵里は感じていた。

 

「気に障ったのなら謝っておくよ。申し訳ないね。……しかしそうか。もしこれほどの数の人数が参加してくれるのなら本当に心強い。前にも言った通りこのフューレンに残ってくれた冒険者、あと恐らくは保安署の人間もそう多くないからね。人海戦術が使えるようになるだけでもありがたいんだ」

 

 自分達が亜人を大切にしているというのを読み取った様子のイルワが謝罪を述べた後、改めて彼の口からフューレンの現況が語られる。

 

 やはり芳しくないそれを再度耳にしたハジメと鈴は苦笑を浮かべ、直接当人の口から聞いたメルドとカムは深刻な表情でそれを受け止めている。恵里もこの街がいつ崩れるやもわからない状態であることを再確認しつつも、恩を売るにはもってこいな状況であることに内心しめしめと思っていた。

 

「恵里、変なこと考えてないよね?」

 

「気のせいだよきっと」

 

 なおそれを考えた瞬間にハジメの眼光がちょっぴり鋭くなったものの、恵里は彼からの問いかけを普通に流していた。そこまで深く追求はしないだろうなーと長年の付き合いから判断したのだが、今回も特に間違ってなかったようで軽くため息を吐きながらイルワの方に向き直っていた。

 

「あの、イルワさん。実はちょっとお願いがあるんですが」

 

「一体何だろうか」

 

「実はさ、ちょっとやってほしいことがあってね――」

 

 そして今回の摘発に参加するにあたって、事前に一つ決めてきたお願いを恵里が耳打ちする。それを聞いたイルワは不思議そうな表情を浮かべてこちらを見ており、確かにそう思うのも仕方が無いと思いつつその理由を話していく。

 

「大したことじゃないよ。念には念を入れようってね」

 

()の実力なら万が一もないと思います。ですからどうかやっていただけませんか?」

 

 恵里達の口から出る彼への信頼にイルワはやや困惑した様子を見せる。何せ自分達が頼み込んだのは名簿に()()()()()ある人物を預かってほしいということだったからだ。

 

「……それほどまで信頼できる相手なのかな」

 

「あぁ。違いない。アイツは俺達の中で最強だからな」

 

 当人はやや渋い表情を浮かべていたものの、万が一裏組織の人間が逃げること、そしてこのギルドにまだ裏組織と通じている人間がいるかもしれないという懸念を伝えれば最終的には首を縦に振ってくれた。下手に誰かの下について動くよりも彼の真価を発揮するにはこちらの方がいいと皆思ったからである。

 

「わかった。なら彼はこちらで預かっておくとしようか」

 

 そう述べるイルワに恵里達はコクリとうなずく。そしてイルワはドットに紙を一枚持ってくるよう伝えると、その紙にある問いかけを書いてこちらに見せた――『遠藤浩介という少年は好きにさせていいのだろうか』という疑問をだ。それに恵里達はうなずいて返せば、わかったとただ短く返した。

 

「あぁそうそう。他にもお願いがあるんだけどさぁ」

 

「……あまり無理のない範囲でお願いするよ」

 

 ドット共々苦々しい表情を浮かべたイルワにやってくれなきゃ困るんだよと述べつつ、恵里達はあることをお願いしていく。そのお願いに一瞬考える素振りを見せつつも最終的に承諾してくれたイルワに恵里達は感謝する。

 

 その後も打ち合わせは続き、数時間もの話し合いを終えた恵里達はゲートホールをイルワに預けて冒険者ギルドを後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 そして時は流れて早二日。用意が出来次第バルスを経由して連絡すると言ったイルワからの通達が届いた。本日昼過ぎに作戦を決行すると。

 

“よし。皆、俺達もフューレンに行こう!”

 

“先に現地入りした浩介君に続きましょう! 練兵場に集合よ!”

 

 王宮で各々作業や話し合いをしていた恵里達は光輝と雫の“念話”を聞くと共にすぐに支度を整えていく。トータスに来た当初にシゴかれた経験とオルクス大迷宮で過ごした日々のおかげか全員支度はすぐに済ませ、即座に集合場所へと向かっていった。

 

「全員揃ったな! これより俺達はフューレンへと向かう。浩介は既に向こうで独自の任務に就いている。俺達もやるべきことをやるぞ!」

 

『おー!!』

 

 そして全員が集合したところでメルドが号令をかけ、それに恵里達とハウリア全員が返事をすると同時にゲートキーを使用。早速イルワに預けたゲートホールへの扉を開くとそこは冒険者ギルドの倉庫であった。『なるべく人目につかないところに置いて欲しい』というお願いに合致する場所であった。

 

「割と素材が積んであるね」

 

「それだけあっちも暇してるってところだろうな……ま、とっとと行くぞ」

 

「なんとか、しないとね」

 

 どこか寂し気につぶやくハジメに幸利が持論を語る。近隣にいるであろう魔物の皮や薬草類といったものが雑多に積まれ、これらが消費できなくなるほど冒険者の動きが無くなったのだろう。その推測にやる気をたぎらせる彼を見つつ、恵里は仲間と一緒に集合場所である冒険者ギルド一階のロビーへと向かった。

 

「いつの間に!?……これが冒険者ギルドの虎の子というわけか」

 

「まぁそう思ってくれればいいよ」

 

 革の鎧に金属製の籠手を身に着け、背中にカイトシールドのような大型の盾を背負った冒険者らしからぬ雰囲気の男性に一行は出迎えられる。おそらくイルワの話にもあった保安署の人間だろうとアタリをつけつつ、彼の疑問には濁す形で恵里が答える。別にイルワの懐刀になったつもりはないし、かといって否定して何者かを明かしてしまえば面倒なことになるとわかっていたからだ。

 

「他の方はまだ来られてないんでしょうか」

 

「もうそろそろだろう。指定した時刻に近いからな――来たぞ」

 

 まだ自分達以外まばらにしか人の姿はない。おそらく自分達に言葉をかけた保安署の職員だろうと思いつつ、もしやこれぐらいしかいないのだろうかと光輝が質問する。それとほぼ同時にギルドの扉を開けて何人もの冒険者らしき風体の人間がなだれ込んできた。

 

「今回集まってくれて感謝する。私は本作戦の指揮を執る保安署のクレス・ヘーラーだ。では今回の大規模摘発に関する会議を始める」

 

 ステータスプレートを見せて人員の確認をギルドの職員が終えた後、自分達に声をかけてきた男性が声を張り上げた。会議が始まり、恵里達は静かに耳を傾ける。

 

「急遽本作戦に参加した者達もいる。改めて今回の作戦について説明させてもらおう」

 

 有志のみを集めたせいか誰も軽口を叩く人間はおらず、少し張り詰めた空気がギルドの中で醸し出されている。自分達への気遣いをするクレスに頭の中で軽く感謝をしつつも恵里は作戦の概要を頭の中に叩き込んでいく。

 

「まずは判明している拠点を各班で検挙にあたる。これらの拠点は私達の送り込んだ捜査員からの情報だけでなく、()()()()()の協力によってわかったものも含む」

 

 洗脳効果のある首輪を渡した人達であろう有志の人間とやらの働きを内心褒めつつ、恵里は頭の中で情報を整理する。説明の際にクレスは少し場所を動き、地図の貼ってあるボードの近くで説明をしていく。

 

「班は一つごとにつにつき五~八人程度。それぞれの班は振り分けられた捜査ポイントへと侵入。怪しい奴は見つけ次第確保。その後私達保安署の人間で情報を抜き取る。以上だ」

 

 先日の冒険者ギルドでの話し合いでイルワが推測混じりで述べたように、情報を得ながら闇のオークションをやってる会場や本拠地を探すという内容であった。自分達が突っ込む予定のポイントは地図でピン留めされており、それは無数と言っていいほどある。

 

「すごい数……どれだけ裏組織が広がってるんだか」

 

「神の……ハイリヒ王国が陥落してからまだそんなに経ってねぇってのにな。それだけ根深いってのと、本気で潰すつもりなんだろ」

 

 三つの組織があるとはいえ向こうの勢力の広さが尋常ではないことに優花が軽く愚痴をこぼし、幸利もそれに同意しつつどれだけこの場にいる人間が本気かを語る。二人の言葉にいやホントと内心同意しつつ恵里は周囲のざわつきに耳を傾ける。

 

「話じゃ三人四人で組むんじゃなかったか?」

 

「まさかここにいる亜人どもも連れてけってか? コイツらに何が出来んだよ」

 

「おい、確かアイツら反逆者じゃ……」

 

「あぁそうだ。どうしてか参加することになったらしい……んなヤバい奴をどうして支部長は入れたんだ? 世界の敵だろ?」

 

「今回急遽参加する人間がいる。言っておくが彼らはあくまで協力者だ! 頭数が増えた結果組む人数が増えただけだ。彼らに害意はないことをイルワ冒険者ギルド支部長よりうかがっている。彼らを侮辱するならば今すぐここを出て行ってもらっても構わないとも私は聞かされているぞ!」

 

 元々班の人数は違ったようだが自分達とハウリア一同が参加することが決まって変更されたらしい。それはともかくとして、こちらの事情を知らないがために冒険者達の口から次々と出てくる不満に恵里は軽く舌打ちしそうになる。だがすぐに保安署のクリスの強い言葉によって、何よりハジメが心配そうにこちらを見つめてきてギュッと手を握ってくれた事でそれも収まった。

 

「では読み上げられた人物は一旦ここに来て顔合わせをしてから班を組んでくれ。まず――」

 

 さしものギルド支部長であるイルワが証言していたのならば、と冒険者達も彼への不信感を抱いた代わりに引き下がってはくれた。そうして班分けが始まり、五分もしない内に恵里達も名前が読み上げられる。ハジメと鈴、そして二人のハウリアと一緒にクレスの近くまで移動していく。

 

「お宅らが例の……俺はバフマン。ランクは上から五つ目の“緑”の“守護者”だ。ま、そこの亜人ともども邪魔だけはしてくれるなよ」

 

「貴公らが……私は天職“戦士”のエイブナーだ。協力してくれると助かる」

 

「あはは、どうも……僕は南雲ハジメです。横にいる恵里と鈴共々仲良くしてくださるとありがたいです」

 

 そして顔合わせをした冒険者然とした二人の男に自己紹介されるも、片方は敵意丸出し、もう片方は複雑そうな表情で自分達を見ているのがよくわかった。ハジメが率先して名乗ったものの、正直気乗りはしていない。とはいえハジメの顔を潰すのも嫌であったため、すぐに恵里も自己紹介に移る。

 

「谷口鈴です。その、よろしくお願いします」

 

「……中村恵里。これでいい?」

 

「み、ミナ・ハウリアです。お、お願いします……」

 

「イオ・ハウリアです。ど、どうも……」

 

 好きで汚名を着せられた訳ではないし、いつ敵対してもおかしくないような相手にいい顔を見せられる程恵里は優しくは無い。一緒に来ることになったハウリアはともかく、自分より先に名乗った鈴も自分と同じ気分だったようで、普段ならやったであろう説明もせずにただ名前を伝えただけで終わっている。

 

“早く終わらせよう。ハジメくん、恵里”

 

“同感。あんまり長くつき合ってたくないね”

 

“本当は注意するべきなんだろうけれどね……すぐ終わらせてハイリヒ王国でデートしよう、二人とも”

 

 目の前の冒険者に対して悪感情を抱いていたのはハジメも同じだったらしい。“念話”で胸の内を明かしてきてくれた鈴と自分に対して注意することはせず、ただこの仕事をすぐに終わらせてしまおうと述べるだけに留まっている。そのことでちょっと嬉しく思っていると残りの一人がこちらへと近づいてきた。

 

「保安署のダグだ。貴君らの力には期待している。どうか力を貸してほしい」

 

 こちらは悪意を向けてくることは無く、代わりに自分達を見定めようとしている様子だった。まぁこっちの方はまだいいかと思いながらも恵里達は自己紹介を済ませ、ミーティングへと移っていったのであった。

 

 

 

 

 

 ……恵里達が冒険者ギルドで大規模摘発の打ち合わせをしている一方、商業区の中でも外壁に近く、観光区からも職人区からも離れた場所で闇がうごめいていた。

 

「スパイからのタレコミは以上か?」

 

 公的機関の目が届かない完全な裏世界、そこの一角にある七階建ての大きな建物を本拠地として裏組織のひとつである“フリートホーフ”は動いていた。

 

「へぇ。襲撃は今日、それとどうも反逆者どもを引きずり込んだらしくって」

 

「ハッ。ついになりふり構わなくなったか」

 

 フリートホーフの頭であるハンセンは部下からの報告を聞いて嘲りの笑みを浮かべる。“反逆者”の存在は裏組織の間でも十分広まっており、その存在には一目置いてはいた。

 

「ウワサが真実だったら相当な手練れだろうが、ま、俺達フリートホーフに敵うワケがねぇ」

 

 とはいえ『王国に潜入し、神の使徒と偽って行動していた』、『ハイリヒ王国を一日足らずで陥落させた』といった数々のウワサは話半分どころか酒のつまみ程度のものだというのが裏社会における認識であったし、ハンセンがここまで保安署と冒険者ギルド相手に強気でいるのにも訳があった。

 

「だろう? エバーハルト、ファラル」

 

 横にいた二人の男にそう声をかければどちらも静かにうなずいて返す。彼らはギルドの影響力が弱まったと見るや裏組織に鞍替えした元冒険者であり、冒険者のランクとしてはそれぞれ“白”と“黒”とそれなりに腕が立つ。またこの二人以外にも何人もの冒険者崩れを抱え込んでおり、また冒険者及び商業ギルドには二重のものも含めてスパイも何人かいる。裏切り者から情報を集めていることもあり、自分を脅かす者は誰もいないと確信していたからであった。

 

「俺達はただマジメに()()やってるだけだってのにな。新しい()だって待ってるんだからよ」

 

 くつくつと笑うハンセンの頭の中には新たな営業先であるヘルシャー帝国のことが頭に浮かんでいる。まだ商業都市としての機能をどうにかフューレンを保ってはいたのだが、いずれここは腐り落ちるとどの裏組織も見ている。それほどまでにフューレンはダメージを受け過ぎていたのだ。

 

(ヘルシャーにだって俺達が食い込む余地はたんまりとある。亜人なんぞじゃ満足できないような奴らはゴロゴロいるだろうからな)

 

 人身売買の総元締であるフリートホーフは新たな顧客を求めて奴隷を買い漁るヘルシャー帝国をターゲットにしており、貴族相手に人間の奴隷を売ることを考えていた。ヘルシャーでは亜人は奴隷として扱っており、とてもメジャーなものではあったが人間の奴隷はそこまでではない。せいぜい重い犯罪などによって身分をはく奪されたような輩ぐらいしか市場に出回ってないのは調べがついていた。

 

(フェーゲフォイアー、アップグルンドの奴らも新たなシマ探しが終わったようだしな。仲良しゴッコもこれで終わりか)

 

 構成員からの話によれば、薬物売買を生業としているフェーゲフォイアーは治安が悪化しているであろうハイリヒ王国を、金貸しと地上げをやっているアップグルンドはアンカジを新たな拠点とするらしい。以前各組織の幹部同士の会合で話し合ったのだが結局どこまで本気やらと思いつつも、邪魔するならば潰すまでとハンセンは考えた。

 

「報告! 報告!」

 

「奴らが動いたか」

 

「へぇ! これから襲撃に向かうそうで!」

 

 そして息を切らせながらオフィスに入り込んできた部下からの報告にハンセンは笑みを深める。これまでリークさせたものの大半は保安署の奴らを迎撃して皆殺しにするためのものだ。理由は実績づくりのためである。

 

「聞いたかお前ら! このフリートホーフに手を出したヤツらがどうなるかをトータスに広めてやれ! 男どもは血だるま、女どもは徹底的に『しつけ』てやれ!」

 

 これから自分達が出向くのは既に他の悪党もひしめく場所であり、フューレンにいた時ほど自由に動ける訳ではない。だからこそ他の有象無象を黙らせる『成果』が必要であり、そのためにもこのフューレンは犠牲になってもらう必要がある。ハンセンが出した号令は瞬く間に本拠地全てに広がり、雄叫びが上がった。

 

「さぁクソどもをひねり潰せ! 殺し尽くして俺達の名をとどろかせろ!!」

 

 構成員が、引き込んだ元冒険者が、それらをまとめる悪党が迫ってくる奴らを蹂躙せんと立ち上がる――かくしてトータス最大の大捕物が始まろうとしていた。




おまけ

保安署を取りまとめているエラい人「正気か? 反逆者を入れるとは。いくらなんでもこの街の治安を守る立場にある私には看過できんぞ」

イルワ「今の私達の動かせる戦力じゃどこまで健闘出来るかわかりませんよ。それに彼らが本気なら今のこのフューレンをガレキの山にするのも簡単でしょう……それをせず、私達に手を差し伸べてきた彼らの善性を信じたらどうですか?」

エラい人「しかし、それも奴らの演技だとしたら……」

イルワ「……かつて神の使徒と持ち上げられていた少年達もいますよ。彼らの武勇は署長もご存知ですよね? その彼らも向こうにいるのです。敵対どころか下手に機嫌を損ねたらどうなるかぐらいわかっていると思いますが」

エラい人「ぐぬぬ……わかったわかった! 一応刺激しないよう周知はさせる! それ以上はやらんぞ!」

イルワ「それで十分ですよ」(ニコニコ)

こんな感じのやりとりが裏であったり。それと冒険者や保安署の人らがやたらとピリピリしてるのも恵里達についた悪評を払しょくできてないせいですね。いくら上司が大丈夫って言ってもそれを真に受けるられるかって話です。あとヤのつく自営業の方といえば本文にもあったヤツが主ですよね(偏見)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。