それでも拙作を読んでくださる皆様に盛大な感謝を送ります。
おかげさまでUAも180030、しおりも418件、お気に入り件数も872件、感想数も648件(2023/9/15 17:47現在)となりました。本当にありがとうございます。いやもう本当にモチベが上がります。
そしてAitoyukiさん、西野ひまわりさん、拙作を評価及び再評価してくださり本当に感謝いたします。本当にありがたいです。また結末に向けて書き進める力をいただきました。
久々の適量(10000字程度 ※あくまでも個人の感想です)となりました。では本編をどうぞ。
「“光絶・光散華”」
使われなくなって久しくなったと思しき酒場の中でガラスのような無数の破片がきらめく。その光景を見ていた多くの人間がそれに思わず見とれてしまうと同時にそれは爆発する。それを起こした下手人である鈴は軽くため息を吐き、死なない程度に黒焦げになって裏組織の人間を見下ろしていた。
「じゃあイオさん、鈴がこっち半分やるからそっちの方お願いします」
「あ、は、はいっ!」
待ち構えていた十人の男を事もなげに倒し、治癒魔法を使わずに済んだことにホッとしながらも鈴は同行してくれたイオに指示を出す。メルドの話だとオルクス大迷宮の浅い階層で頑張っているという話ではあったが、やはり対人戦はまだまだ厳しいのかもと思案する。
(でも仕方ないよね。鈴達だって浩介君の分身相手に訓練してなかったら躊躇してただろうし)
最大深度まで到達した浩介ことアビスゲートが出す無数の分身相手でも当初は殺す気で攻撃できなかったことを思い出し、これから慣れればいいかなと思いながら鈴は“縛岩”で伸びている輩を次々と拘束していった。
「はい。終わりました」
「……本当に錬成師なのか、君は」
その一方、とある空き家にあった地下の物置として使われていたスペースを掘って広げた場所で、八人の男が首から上だけ出て生き埋めの状態になっていた。なんてことはない。襲い掛かってきた裏組織の人間をハジメがまず“錬成”で人数分の落とし穴を作り、一瞬で首から下を埋めたのである。
「えーと、じゃあこの人達を引き摺り出して拘束しましょうか」
「いや、まぁうん……そうだな」
無論、首から上だけが出ている輩どもの聞くに堪えない悪口雑言が飛び交ったが、ハジメはそれを無視して彼らの頭にタッチ。“纏雷”で次々と気絶させていったのだ。その後、パーマが軽くかかった奴らを見て特に何も無かったかのように相手を縛ろうと進言したハジメにエイブナーは心底ドン引きしていた。
「あ、大丈夫ですよ。ちょっと気絶してるだけです――“錬成”……もう大根とかゴボウ引っこ抜く感じで引っ張ってもらえば」
「あ、あぁ、そうか……」
短い悲鳴を上げた後に気絶し、今は根菜類のように地面から引っこ抜かれていく悪党共にむしろ同情したくなったぐらいである。明確に敵対の意思を示さなくて良かったことに心の底からホッとしていた。
「“錬成”……よし。これで全員ですね」
「……すまない。一つ質問してもいいだろうか」
宝物庫から取り出した金属で枷を作って手足を拘束し終えたハジメに、自身も持ち込んだ縄での拘束を終えたエイブナーは先程からずっと考えていたことを尋ねることにした。
「どうしました? 何か気になることでも?」
「正直聞きたいことはいくらでもあるんだが、一つ一つ口にしていたら日をまたぎかねん。だから幾つかに絞らせてもらう――君
エイブナーからの問いかけにハジメは軽く苦笑いを浮かべながらもそれに答える。
「オルクス大迷宮ですよ。それは確かです。それと他の皆は僕より強いですよ」
ベヒモスを倒した階層から下に降りて行って、魔物の肉食べて死にそうになって伝説のアイテムガブ飲みしながら突破しました。こんな荒唐無稽もいいところな説明は流石に無理だったからものすごくぼかしてハジメは説明した。
(特に魔物の肉を食べながら進んでたところとか絶対言えないよなぁ……多分納得はしてくれると思うけど絶対引くだろうし)
特に魔物肉の件は口が裂けても言えない。かつてアレーティアが言い放った『魔物は食べ物じゃない』発言が再来するのが目に見えているからである。けれども話さなければきっと目の前の人物は納得してくれないだろうという確信はあった。故にハジメはこう答えるしかなかったのである。
「……すまない。色々と信じていいか迷うんだが。かの伝説のベヒモスでも打ち倒せばエヒト様の加護でも授かるのか? それに君が一番弱いというのも本当かどうかも正直怪しい。本当にただの錬成師なんだよな?」
「はい――ちょっと死線を潜り抜けただけの、ただの錬成師ですよ」
「台車を瞬時に作って手から電気を流す人間が『ただの』錬成師な訳が無いだろう。冗談を言うならもっとマシなものにしてくれ」
自分の答えを聞いても結局どこか信じてない様子のエイブナーにハジメは頭をかくばかり。こうなったら情報をある程度隠蔽したステータスプレートでも見せるべきかとハジメは頭を悩ませながらエイブナーと共に合流地点へと戻っていくのであった……。
そうして恵里達が方々に散って裏組織の拠点をハイペースで潰している中、他の仲間達もそれぞれやるべきことをやっていた。
「くたばりやがれ! イケメン風情がよぉー!!」
「ふっ! はぁっ!!」
大介達と同行していたランク“金”の“閃刃”のアベルが家屋の中でその異名に違わぬ活躍ぶりを発揮する。
「ぐあぁっ!?」
「ひぃっ!? こ、これが“閃刃”の……!」
狭い室内でも取りまわしやすいナイフで襲いかかってきた賊であったが、次の瞬間にはナイフを持っていた手と脇腹に強烈な痛みが走り、武器を構えることも出来ずにただその場にうずくまってしまう。二つ名のある最高ランクの冒険者の実力は伊達ではなかった。
「どうしたんだい? 威勢がいいのは彼だけかな? だとしたら笑わせてくれるね。結局はコバエの類と変わらないじゃないか」
「ちょ、調子に乗ってんじゃねぇぞスカシ野郎が!」
今彼らがいるここは裏組織に関わりのある人間が買い取った家であった。実際に突入してみれば、何かの取引をしようとしていた身なりの良い人物と多数の裏組織の人間と見事エンカウント。恵里達に負けて早々フューレンへと逃げるようにやって来たアベルは憂さを晴らすかのようにその力を遺憾なく発揮していたのであった。
「我々もアベル殿に続けー!」
「うぉー!!」
その勢いに乗じて保安署の職員二人も突入していく。アベルが殺さず無力化に留めた相手を素早く抑え込んで拘束していく様は紛れもなくプロそのものであり、治安を守るために活躍する人間の意地を見せていた。
「こんなところにいられるか! 俺は逃げる――」
「んっ。 “風球”」
そうして屋内でアベルと保安署の人間が活躍する中、あまり人が多くても動き辛いという言われて待機を命じられた大介達は二階から逃げようとしていた奴らに対処している。下の騒ぎを聞きつけてこのままでは不味いと悟ったのだろう。なりふり構わず逃げようとして窓から思いっきりジャンプした輩は下で待っていたアレーティアの魔法の餌食となった。
「――ほぐぉ!?」
「ま、運が無かったな。諦めてとっとと捕まってくれよ――“風球”」
みぞおちに風のボールが叩き込まれ、逃げようとした男は苦悶の表情を浮かべながらそのまま地面に墜落する。その様を見た大介もやれやれと思いながらも自分も同じ魔法で窓やら壁を壊して出て来た奴らを叩き落としていく。
「お二人とも容赦がないですね……」
「……誰かを食い物にしている可能性のある人物ですし、これぐらいは」
「まぁ死なせないだけマシだろ。俺らがやれって言われてんの捕まえることだけだしな」
ためらうことなく逃げ出した奴らをしばく二人を見て、同行していたハウリアの一人であるカイはぽつりと漏らす。その言葉に残りの二人も首を縦に振っていたが、アレーティアも大介も特に意に介する様子も無い。
オルクス大迷宮で何度となく実戦訓練をこなしているとはいえ、人相手にはまだ武器を振るうことに抵抗のある彼らにとってはややショックを受けていたようであった。
「おや。そちらの
そうして残ってた五人で逃げるのに失敗した輩を拘束していると、家の中からアベルが顔を出してきた。向こうもやることは終わったようだ。
「ん? まぁ
「……だいすけぇ」
その言葉にトゲを感じはしたものの、惚れた相手を評価してもらうこと自体は嬉しかったため大介は彼女の肩に手を置いてそっと自分に寄せながらアベルにそう返す。アレーティアも恥ずかしがりながらも大切に思ってくれている彼の名前をつぶやきながらされるがままとなる。
「あぁそうだね。そこの反逆者なんかと一緒にいるのがもったいないほどだよ。そうは思わないかい?」
そのアベルは一度大介に敵意のこもった眼差しを向けながらアレーティアへとそう語る。途端、場の空気の温度が二度ぐらい下がった。
「……どういう意味ですか?」
大介を侮辱したことでぽわわ~んとした空気が一転し、冷たい空気を纏ったアレーティアはアベルに言葉の意味を聞き返す。もし本心から自分の大切な人を貶したのならば容赦はしない。その腹積もりで問いたのだ。
「ハッ、何も出来ないで俺達に負けたヤローがなに言ってやがる。アレーティアは俺のもんだよ。口出ししてくんじゃねぇ」
「それを決めるのは君じゃない。彼女だ――可哀想に。そこの頭の悪そうな男に弱みを握られているんだろう? 冒険者最高峰の“金”である僕が助けてあげるよ。心配しなくても構わないさ」
大介も明確に敵意を露わにしてきたアベルに軽くメンチを切るも、当の相手は気にした様子もない。むしろアレーティアを囚われのお姫様のように扱い、自分が白馬の王子様かのように振る舞う始末だ。その様を見て一周回って滑稽に思えた大介とアレーティアは揃って可哀想なものを見る目つきでアベルを見つめる。
「あ、あの! お、お二人はすごく仲睦まじいんで、そちらの考えているようなことは――」
「亜人風情が口を挟むなよ」
ここでこの険悪な空気に耐えかねたケン・ハウリアが三者の間に割って入って仲裁しようとしたものの、それを不愉快に思ったアベルが今度は彼に敵意を向けた。
「全く……反逆者は奴隷の扱いというのもなっていないようだね。エヒト様より魔法をたまわった僕達と、エヒト様から見放されたお前達亜人なんぞが同等な訳がないだろう。口を慎みなよ」
「……っ」
冷めた目でアベルに言葉をぶつけられ、ハウリア達の身がすくむ。そうだった。外ではこれが普通なのだということを彼らは思い出す。
たまに話をする恵里達からは同じ『人』として扱われ、メルドからも容赦なくシゴかれるが『同士』或いは『部下』としてちゃんと接してくれている。それにメルドの容赦ない訓練を受けてこなしているのを見てくれたからか、最近は騎士団の人間もこちらを『仲間』として認めてくれる気配を出してくれている――だから勘違いしてしまいそうになっていた。自分達は『人間』に差別される種族であることを忘れてしまいそうになっていたのだ。
「も、申し訳、ありません……」
「なにこんな口だけの奴に謝ってんだバカ――おい。俺らにケンカ売ってるってことだよな? そうなんだよな? あ?」
謝罪して縮こまるハウリア達にそんなことをしなくてもいいとやや荒っぽい言葉をかけた後、大介は本気で敵意を露わにする。軽く下から見上げるように鋭い目つきでアベルを見上げる。そうやってガンをつけていたが“威圧”はまだ使っていない。向こうが襲い掛かってこられたから撃退した、という大義名分を得るのを待っているためだ。
「っ……全く、これだから自分の行いを反省出来ない人間は醜いね。やはり僕が裁きを下すべきだ」
ほぼ目論見通り、一瞬だけ目を見開いて顔をこわばらせたもののアベルは柄の端に手を置いていた剣を抜いてくれた。そしてその切っ先をこちらに向けてきたため、見事に挑発に乗ったと確信した大介も剣とダガーを鞘から抜いて構える。
「何をやっているかー!」
「アベル殿、何がありました!?」
一触即発。空気が張り詰め、どちらから攻撃を仕掛けるかもわからなくなった状況で今度は同行していた保安署の職員の男供もこちらへと駆け寄ってくる。状況の説明のためにアベルも大介も一旦警戒を解く。
「あの、実は――」
「あぁ、すまないね。僕が彼とそこの亜人どもをたしなめていたらどちらも反発したものだからさ。やはり危険だよ。反逆者は」
「は?」
先程から事態を静観し続けていたアレーティアがこの場を収めようと声をかけるも、それをさえぎるようにアベルが自分に都合のいいことをのたまう。すると職員の二人もそれに呼応するように各々武器を構えて大介達の方へと向き直った。
「ご、誤解です! た、ただあちらの方を大介さん達は止めようと――」
「亜人の意見など聞いてはいない……しかし、そうですか。アベル殿がそう仰ったなら仕方がないですね」
「上から敵対は避けろと言われていたが仕方ない。先に貴様らを倒して、他の反逆者どもも投降させるための材料にしてくれる」
こちらの言い分を聞くこともなく、むしろ好都合とばかりにあなどりをにじませた表情で大介達を見ている。元々自分達のことが気に食わなかったのだろう。変に敵意やさげすみを隠すこともなく明け透けにしている様にむしろ大介は好感を抱いた。
「――ふむ。事態は混沌を極めている様子だな」
「ハッ。気に食わねぇってんならこっちとしても都合がいいな。ブチのめすぞアレーティ――」
……が、それはあくまで大介の抱いた感情であり、彼自身も迎撃することを選んでいる。ならば他の仲間はどうなるか――横にいたアレーティアに確認を取ろうと声掛けついでに視線を向けた時、大介は察した。
「今は矛を収めよ。この我、深淵の支配者たるコウスケ・E・アビ――」
「大介、皆さん。ごめんなさい――“凍柩”」
あ、これやばい。アイツら死んだ、と。
何せアレーティアがかつてオルクス大迷宮で自分達と敵対していた頃の空気を纏い、絶対零度の眼差しで彼らを見つめていたことに気付いたからだ。自分達に頭を下げた数瞬後、氷の柩がアベルと保安署の二人をいっぺんに覆った。
「えっ……あ、アレーティア、さん……?」
「か、体が!?」
「み、水系の上級魔法を一瞬で!? そ、そんな馬鹿な……」
「ど、どうしてなんだい!? 僕はただ、君を助けようと――」
「遠藤さんは手を出さないで……それとお前達は口を開くな」
突如現れて素に戻った浩介は横に置いて、アレーティアは憤怒を湛えたままツカツカと氷の柩に包まれている三人のもとへ歩み寄っていく。幾らか近寄ったところで手をかざせば一部だけ氷が溶けた――何故か股間の部分だけが。
「あ、うん……いややっぱりヤな予感するんだけど」
「あ、あの、お気に召さなかったことがあったのなら謝りますので、どうかここだけじゃなくて全部溶いていただけませんか……?」
「ふざけるな反逆者め! 今すぐ私達を解放しろ! さもなくば今回の行動を報告してやるっ!!」
「おいやめろマット! この馬鹿っ!」
「ま、待て、待つんだ! 僕はランク“金”の“閃刃”のアベルだぞ! 今すぐ解放してくれるなら今回のことは水に流して――」
「……黙れ」
股間の辺りだけ溶かしたことにどこか寒気を感じたアベルと職員の一人は必死に命乞いをするものの、マットと呼ばれた職員はただアレーティアに怒りを示すばかり。
「……お前達は私の大切な人を侮辱した」
アレーティアは三人の言葉を意に介する様子も無く、ただ魔力を手のひらにこめていく。
「あっ……まぁ、だよなぁ」
「あーうん……てかいつの間に来たんだよ浩介」
「ついさっき深度が最大にまで達したんだよ。それで皆の援護をしようと――」
「……ましてや私達の話に耳を傾けるでもなく、上からの命令を破って私達を拘束しようとしている」
大介が浩介に話しかけていくのを他所にアレーティアは手から無数の風の礫を生み出していく。百にも上るそれを瞬時に展開すると、アレーティアはかつて王として君臨していた頃のように三人の無礼者に告げた。
「……今すぐ生まれ変わってやり直せ。下郎ども」
その瞬間、無数の風の球が男どもの股間へと降り注いでいった。
「えっ? ちょっ!? やめっ、あ、あ、アッーーーーーーーー!!!」
「あびゃぁー!!」
「お、おがぁぢゃーん!!」
ソーセージを肉叩きで軽く叩くような音が何度も何度もこだまする。一定のリズムで軽快に奏でられるその音と共に野郎どもの悲鳴がフューレンの街に響き渡る。
「「「「ひっ」」」」
「こ、怖ぇー!! 本気で怖ぇーよぉー!!」
執拗に男の股間を、しかし簡単に意識を失わせず楽にならないように攻撃する様を見て大介と浩介、そして三人の男のハウリアは思わず股間を押さえて内股になった。
そんな永遠に続くかと思われた集中砲火はアベルらの意識の喪失と同時に終わりを告げる。アレーティアはふぅと軽く息を吐くと置き土産を残した。
「……“回天”」
一つは中級の回復魔法。複数の離れた場所にいる対象を同時に治癒する魔法だ。淡い白光が三人の股間に降り注ぎ、それと共に傷がふさがっていく……なお完全に治った様子は無い。
「……流石に死なせはしない。そこまでやるほど私も落ちぶれてない」
「いや男として死んだだろ」
「……漢女になるがいい」
そしてもう一つは怒りと恨みがたっぷり詰まった言葉だった。大介がツッコミを入れても即座に訂正しない辺り怒り心頭であることは明らかである。
見るも無残な有り様となった彼らを見てカイらハウリア一同は思った――絶対にアレーティアさんを怒らせてはならないと。浩介も思った。久しぶりにキレたアレーティアさん怖い。大介も改めて思った。アレーティア怒らせたら絶対死ぬなと。
「……ん。いい仕事した」
「あ、はい」
「お、おう。そうか……」
なおその下手人は(別にかいていないが)額の汗をぬぐうような仕草をしてからどこかスッキリした様子で大介と浩介の方を見やった。大介もそんな彼女に見つめられてちょっと胃がキュッとしたが、怯えている様子を見せまいと意地を張って平静を装う。
「な、なぁアレーティア、どうすんだ? コイツらここまでボコボコにしちまってよ」
そこで大介はアレーティアにこのやらかしをどうするのかを尋ねる。こちらに非が無いよう大介は説明するつもりだったが、一応アレーティアの意見も聞いておくべきかと思ったのだ。
「そ、そうだ……コホン。吸血姫よ。其方が成敗したのは獅子身中の虫だが、されど我らの仲間ではあった」
「……確かに」
「いや確かにじゃねぇって……まぁ俺もここまでやらねぇけど反撃はしてただろうしよ……」
気を取り直した様子の浩介も同様の質問をしてきたが、肝心のアレーティアは特に何も考えてなかった様子である。それだけ自分がコケにされたことに怒ってくれたらしく、大介は軽く視線をそらして頭をかいていた。
「このままでは汝らが謂れのない……いや、これ割と言い逃れ出来ねぇな。ともかく、我ら深淵の刃が敵として扱われるだろう。そこでだ」
だが何を言おうとアレーティアがやったことは冒険者及び保安署の職員への暴行だ。向こうが仕掛けてくることを踏まえれば過剰防衛ではあるがやりすぎたのは確かだ。それにまだ最初のポイントを潰したばかりでまだまだやることが多い。浩介に言われてどうしたものかとハウリア共々頭を悩ませていたが、その当人があることを思いついていた様である。
「……まさか、証言してくれるんですか?」
「然り。分身とはいえ深淵卿たる我が顛末を見たと言えば向こうもそう強くは言い返せまい。一時とはいえ益荒男どもの長が我を預かっているのだからな。
アレーティアの言葉に浩介は力強くうなずいて返す。言い回しからして多分イルワ支部長のことなんだろうなーとこの場にいた全員が思いつつ、良い案ではあったため浩介の考えに皆で乗ることにした。
「「「アビスゲート様、お願いします!」」」
「任せよ。我の爪牙となり得る者達よ」
「お、お願いします遠藤さん!」
「無論だ。二度と曇らぬ月光よ」
「頼むぜ。あ、ついでにコイツらの対処もよろしく」
「勿論だ。我が
アレーティアも彼らを覆っていた氷を完全に消すと同時に現れた岩の鎖でがんじ搦めにすると、すぐに浩介の分身は襲い掛かろうとしてきた奴らと捕縛した悪漢どもを連れてその場を去っていった。そして大介、アレーティア、ハウリア一同は顔を合わせて話し合う。
「んじゃ、余計な奴らもいなくなったことだし俺らは俺らで暴れるか」
「んっ!……ハウリアの皆さん、行きましょう」
「わかりました! 行きましょう大介殿、アレーティア殿!」
「じ、実戦は初めてですが、お役に立ってみせます!」
「まだまだ日は浅いですけどメルド団長からシゴかれましたから! やれます!」
口角を上げてワイルドな笑顔を浮かべた大介の言葉に力強くアレーティアがうなずく。カイ、ケン、ラウ・ハウリアもそれに追従する意志を見せる。すぐに大介は保安署の職員から借りパク、もとい拝借した地図を広げて現在地と近くにある裏組織の拠点を探す。
「……近いのはここから南東のここ」
「よし――じゃあお前ら、気合入れていくぞー!」
「「「おー!」」」
「んっ!」
そして次に襲撃をかける場所を探し終えると大介達は声を張り上げ、そのまま次の目的地である南東の建物を目指す。
「あそこか!……ってオイオイ。冗談だろ」
「……立派なお屋敷」
ハウリアの皆が追いつけるようにある程度抑えた速度でさびれた街中を走り抜けていけば、彼らの視界には貴族が住んでいると思しき邸宅が飛び込んできた。柵や門扉はひどく立派で、武装もしっかりとした兵士達が巡回している様子である。
「マジかよ……そういう奴の家にも突っ込む予定だったのか」
「……多分あの冒険者をアテにしていた。だからこの人数でもやれると考えていたんだと思う」
門の前には馬車が停まっており、おそらく家主を待っている様子だ。おそらく逃げる前に突き止めて洗いざらい吐かせる気だったのだろうと大介もアレーティアも考え、どうしてあのイタい冒険者がいたのかを同時に察した。
「ど、どうされますか? 一旦引き返して――」
「その必要はない」
予想外の相手を前にややうろたえている様子の大介とアレーティアにラウ・ハウリアが声をかけるが、彼の言葉をさえぎるようにある人物が彼らの隣を並走してきた。
「浩介か!」
「遠藤さん!」
「否! 今の我の名はコウスケ・E・アビスゲート! これより深淵が汝らの味方となろう!」
おそらく人類最強、自分達の切り札である浩介の分身が現れたのだ。『急急如律令』と特に意味のないことをつぶやけば分身が二人三人と現れ、計六人の分身が共に戦ってくれることを示してくれた。
「ハウリアは我が受け持つ! 満月の化身と太陽の権化は魑魅魍魎の巣に静寂を!」
意訳:ハウリアのことは俺に任せて、大介とアレーティアはあの屋敷で好きに暴れてくれ。
大方こんな感じだろうと解釈した大介とアレーティアはうなずき返すとそのまま走っていき、すぐにアレーティアは大介の背に乗る。愛する少女が負ぶさったのを感じると、大介は“気配遮断”と“空力”を使いながらそのまま空へと駆け上がっていく。
「大介、人が少なそうな場所は?」
「とりあえず建物の左のとこだな。そこの窓ぶっ壊して突っ込むぞ」
「んっ! “風灘”!」
屋敷の上空まで五秒とかからず昇った二人は襲撃をかける場所を話し合い、“気配探知”で人を巻き込まないで済みそうなところを特定して突っ込むことに。アレーティアの手から放たれた弱めのつむじ風は大介が指さした二階の窓とその周辺だけを器用に破壊し、穴の開いた屋敷へと一瞬で突っ込んでいく。
「て、敵襲! 敵襲!」
「ぞ、賊が現れました! だ、旦那様ぁ~!」
蜂の巣をつついたような有り様となったが大介もアレーティアも特に気にする様子もない。何せハウリアの奴らと浩介の分身が表にいるのだ。万が一にも取り逃がすことは無い。
「行くぜ、アレーティア」
「行こう。大介」
大介の背から降りたアレーティアと声を掛け合い、大介は屋敷の中を駆け回っていく。
「甘ぇ!」
「ぐはっ!?」
「弱い。 “風球”」
「ごはっ!」
焦った様子でこちらへと向かってくる衛兵をみね打ちで、威力を弱めた魔法で次々と倒し、部屋を一つ一つ調べていく。
「な、何奴!?」
「“縛岩”……よし、コイツらは後回しだ」
そして逃げ出す用意をしてたと思しき貴族の男を大介は容赦なく岩の鎖で縛りつけ、そのまま地面に転がしておいた。
「んっ……もし本当に悪いことをしてないなら動かないこと。この屋敷にあるものは全て調べさせてもらいます」
そのまま大介は部屋を後にしたが、アレーティアは残って鎖で縛り付けられた男に言葉をかける。もし万が一、目の前の男が後ろめたいことを何もやっていなかったのなら恵里達に頭を下げてでも色々便宜を図ろうとは考えていたからだ。
「そ、それだけは……それだけは何卒! お、お金でもなんでも差し上げます! ですから、ですからどうか!!」
だが命乞いをする様を見て、かつて王であった頃の記憶がささやく。この男は絶対に野放しにしてはならないと。
「……この街を食い物にした罪、しっかりと贖うがいい」
その言葉と共にうなだれる哀れな男に背を向けてアレーティアは大介と共にまた屋敷の中を駆けていく――そこで押収したものを浩介に任せ、大介達はまた街の中を走っていく。街を覆う悪夢が覚めるのはもう秒読みとなっていた。
アベルもやっと漢女フラグが立ったよ。やったね!(よくない)
次は大介達並に派手に活動する面々を書くつもりです。
追伸:今回の例の流れになる前の残滓が残ってたので修正しましたorz