あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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では改めまして拙作を読んでくださる皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも182024、感想数も657件(2023/10/2 06:56現在)となりました。本当にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠に感謝いたします。またしても筆を進めていく力を分けていただきました。


今回の話は少し短い(約8000字程度)です。うん。このままだと15000字また超えそうなんで分割しました。いつものです。またいつもの!(しろめ)

……それでは上記に注意して本編をどうぞ。


幕間四十六 この夢に別れのあいさつを・急

「――ここはひとまず完了しましたね」

 

「うむ」

 

 フューレン北西にある潰れた劇場にて捕縛した賊を見下ろしていたのは光輝達の一団であった。彼ら一行は冒険者も保安署の人間も加えず、ただ二人のハウリアを連れて予定されていたポイントを回っている。そしてその都度()()()()()が本部に報告をしに行っている。

 

「お母さん、お爺ちゃん。もう襲ってくる人はいないわ」

 

「そう……ありがとう、雫」

 

 他のハウリアと共にここら一帯を見てきた雫からの報告に、やや目を伏しがちになりながら霧乃がそれに答える。それを聞いた雫はどこか言葉を詰まらせていた様子だったが、不意にその表情が和らいだ。

 

「……大丈夫だよ、雫」

 

「光輝……」

 

 光輝が後ろから抱きしめたからだ。たとえ操られていたとはいえ、分身であったとはいえまだ雫を殺めたことへの後悔が二人から完全に消えた訳じゃない。鷲三と霧乃の胸中を思いつつ、光輝は後ろから雫の顔を覗く。

 

「いいんだ。少しずつ進んでいこう。時間はいくらでもあるんだから」

 

「……うん」

 

 自分の声を聴いて苦しげな表情が少し和らいだのを見て光輝も少しだけ安心する。それと同時にもう絶対に雫を傷つけさせない、鷲三も霧乃も自分がどうにかしなければと使命感に軽く駆られた。

 

 ――ウルの街で雫の分身が家族に殺されて以降、彼女は変わってしまった。一つは常に鷲三と霧乃と一緒に行動するようになった、もしくは一緒に行動しようと誘うようになった点だ。

 

(昔だったら……昔だったらここまで鷲三さんと霧乃さんと一緒にいようとなんてしなかった)

 

 食事の時も、今回のような作戦や日々の作業をこなす時も、風呂に入る時も寝る時でさえも自分も家族も一緒でないと雫は不安がったり嫌がるようになったのである。おそらく自分がいないところで家族が取り返しのつかない状態になることを恐れているからだと光輝は考えている。

 

(皆といる時はあまり出ない。けれど俺達だけの時に甘えたりはしゃいだりするようになって……)

 

 そしてもう一つ。雫の言動が時折幼い感じになってしまうことだ。特に一緒に寝る時にそれが顕著になっている。

 

 鷲三と霧乃が正気に戻った後、二人が自分達に遠慮して別の部屋で寝ようとした際に雫がぐずり、何度も何度も『行かないで』とまるで子供のように言い出したのだ。それからはずっと四人揃って一緒のベッドに寝るようになり、あまり見ることの無かった満面の笑みをいつもするようになったのである。まるで幼い子供がするようなものを。

 

(昔もあまりしなかった。今じゃ滅多にしなくなったはずのあんな笑顔を……)

 

 そうなった理由を雫に尋ねたことは無い。だが長いこと彼女を見ていたからこそ光輝は少なくともわかったつもりでいた。あの時のことが雫に大きな影を落としているということを。だからか彼女を抱きしめる腕に少し力が入ってしまった。

 

「痛っ……痛いわ、光輝」

 

「……ごめん、雫」

 

 腕を緩めて謝りながら光輝は思う。守りたい。愛している人がもうこれ以上傷つかないように。彼女の家族がもう苦しまないように。己の非力を何度となく痛感しながらもなお彼は願った。

 

「俺に……俺に守らせてくれ、雫」

 

「? 私、いつも光輝に助けてもらってばかりよ? 変な光輝」

 

 そんな自分の様子に気付くことなく、不思議そうに声をかける雫に一層光輝は胸を締め付けられる思いに駆られる。その痛ましい様を雫の家族と二人のハウリアはただ胸が締め付けられる思いで見ていたのであった。

 

 

 

 

 

 恵里や重吾達がそれぞれ活躍している中、相川達は現在フューレンの街南東を進んでおり、中央区から幾らか離れたところにある倉庫の一つへと向かっていた。タレコミによるとそこは薬物売買を生業としているフェーゲフォイアーが利用しており、表の顔である薬品類の運搬業の名義で建てた場所だ。

 

「では突入前に最後の確認だ」

 

 今日そこで大きな取引が行われるらしく、保安署の職員であるハーランドが気を引き締めた様子で同行しているメンバー全員に声をかけてきた。

 

「天職が“戦士”のアイリーン、それと私が倉庫に突入。貴公らとそこの亜人は二人の後に続け。ガルドン、後詰を頼む」

 

「わかったわ」

 

「あいよっ。任せな」

 

 同行しているアイリーンは力強くうなずき、ガルドンも軽い感じでハーランドに返事をする。

 

「あーうん。わかったよ」

 

「はいはい」

 

「へーい」

 

 だが当の相川昇、仁村明人、玉井淳史の三人は不承不承といった感じで返事をしている。理由はもちろん同行している三人の冒険者と保安署の職員からの視線であった。

 

「ふん……せいぜい役に立てよ」

 

 エヒトの駒である本物の神の使徒が流したデマにより昇達も稀代の悪党のように扱われており、それ故にモチベーションも低く、どうしてこんなことをやらなきゃいけないんだろうかとやるせない気分になっていた。それ故彼らの士気は低く、また痛ましい様子でこちらを見つめてくるアル・ハウリアとルー・ハウリアの視線もまたそれを手伝っていた。

 

「ま、役目さえ果たしてくれればそれでいいから」

 

「そうだな。俺達の役に立ってくれればそれ以上は何も言わんよ」

 

 声をかけて来たアイリーンとガルドンからも蔑みのこもった目で見られている。この作戦に参加した当初はあったやる気も今や地の底にまで落ちきってしまっていた。

 

「……行こう」

 

 明人のつぶやきに昇も淳史も無言でうなずきつつ、職員達の後を追っていく。今すぐ投げ出してしまいたいけれど、そんなことをしてしまったらリーダーとして今も慕う重吾の、愛子の顔に泥を塗ってしまう。舌打ちをこらえながらも彼らは進んでいく。

 

「――着いたな。では突入まで三、二、一、ゴー!」

 

 道中何事もなく目的の倉庫までたどり着くと、号令と共にハーランドとアイリーンは倉庫の扉を蹴破って中へと侵入していく。昇達も二人に続いて倉庫内へと向かうが、入ると同時に感じた悪寒に従って三人とも体をよじった。

 

「……おい、どうなってるんだよ」

 

 淳史のつぶやきに答える者は誰もいない――何故なら倉庫にいたのは無数の武装した人間がいたからである。

 

「バカな……くっ、今すぐ撤退を――」

 

「させると思ったぁ?」

 

 少しうろたえた様子を見せたハーランドだったが、すぐに撤退を命じようと声を出す。だがその瞬間、彼の()()から凶刃が迫り、それをどうにか紙一重でかわしたハーランドはすぐに下手人へと視線を送った。

 

「あらあら。残念ねぇ。ここでやられてたら楽になれたのに」

 

「……どういうつもりだアイリーン。事と次第によっては――」

 

「……なぁ、あれって」

 

 仲間割れ同然のことをやったのはアイリーンである。困惑しながらも彼女を問い詰めるハーランドだったが、特にうろたえた様子も無くクスクスと笑っている――そんな彼ら二人のやりとりを見た明人らの脳裏に複数の光景がよみがえる。

 

「あぁ、どう考えても……な」

 

「俺達、また裏切られたって訳か」

 

 それは自分達を『裏切った』様々な人間の記憶だった。恵里達を迎え撃つために共同戦線を張った奴らが負けた途端に自分達を罵倒した、愛し合った人に役立たずだ裏切り者だなんだと罵られた記憶がよみがえったのだ。

 

「その通りだ。察しが良くて助かる」

 

 またしても自分達は裏切られる羽目に遭うのかと自分達の不運を嘆こうとした時、後ろにいたガルドンがニヤついた声でそれを認めた。向けば彼の隣にもフェーゲフォイアーの構成員と思しき輩が立っている。完全に包囲された形であった。

 

「どうして……どうしてこんなことを」

 

「お二人は、仲間だったのではないのですか……」

 

 そしてアルとルーもショックを受けた様子で声を上げていた。そんなハウリアを見て、淳史はふと初めて顔を合わせた際の彼ら一族の話を思い出す。確か彼らはシアという少女を守るためにわざわざ一族総出で彼女をかばい、また彼女と一緒に住処である森を出た、と。

 

(コイツら、怒ってるのか? ちょっと前に顔を合わせただけの奴らでしか……いや、なんか違うな)

 

 畑仕事が終わった後や行商での仕事の合間などでも自分達を励ましに来たことから仲間意識は飛び抜けて強いのだろう。だからてっきりちょっと顔を合わせただけの相手にでも入れ込んでいたのかと思ったが、どうもそういう類とはちょっと違いそうだと淳史は考える。

 

「共にこの街で生きた仲間のはずでしょう! 仲間だったはずでしょう! どうして!」

 

 アルの言葉にようやく淳史達は納得がいった。彼らにとって『裏切り』とはまずあり得ないことである。だからさっきは“怒り”で震えていたのだ。しかしアイリーンとガルドンはつまらないものを見るかのようにアルをあざける。

 

「亜人って本当に出来損ないなのね。この程度のことすらわかんないなんて」

 

「そこの亜人もそうだが好き好んで泥船に乗り続ける連中ばかりだからな。二つ三つの子供の方がよっぽど賢いだろう」

 

 その言葉がアル達だけでなく自分達、そして同僚であったハーランドにも向けられているであろうことを察し、昇達はもう話し合いの余地などないということを理解する。コイツらはもう明確な“敵”として扱っても構わないと。

 

「でも安心して。アンタ達は殺さない――他の反逆者や保安署の奴らをおびき出すためのエサになってもらうから」

 

「ウワサと違って反逆者の奴らはお人好しばかりみたいだからな。お前らを盾にすれば余裕だろうよ」

 

 続く言葉に明人らは吐き気と滑稽さを同時に感じた。自分達が慕う重吾を、友人である健太郎や綾子、真央にも危害を加えようという腹づもりは苛立って仕方なかったし、()()南雲達を相手にしたところで何も出来ないまま無力化させられるのが関の山だということがあまりに簡単に想像できたからだ。

 

「……昇、淳史、構えろ。こんな奴らなんかに負けてたまるかよ!」

 

「あぁ! やっちまおう!」

 

「南雲や天之河達には負けるけど、俺達だって強いんだってのを示さないとな!」

 

 もちろんただ黙ってやられるつもりは昇にも明人にも淳史だって無かった。自分達を利用しようとする裏切り者に中指を立てるために、ただ重吾達についていってるだけの金魚のフンでないことを示すために。

 

「……私達も」

 

「えぇ。戦いましょう」

 

 そんな淳史達の姿を見て、アルとルーもまた短剣を構える。ハジメから作ってもらったハウリア用の武器の一つを握る手に、普段以上の力が入っていることに気付かないまま。

 

 

 

 

 

「……どういうつもりですか」

 

 裏切りに遭っていたのは昇達だけではなかった。愛子とカム他二名のハウリアを連れた班もまた同行していた冒険者からの裏切りを受けたのである。

 

「どういうつもりも何も最初からこのつもりだったんだよ――そこの保安署の奴らとお前さん方がその身を挺して俺を助けてくれた。俺は情けなく涙を流しながら他の奴らに伝えに行って、ソイツらもまとめて始末する。その筋書きをなぞるだけだ」

 

 愛子達が今いるのはある商会が使用していた小さな屋敷である。夜逃げして主人がいなくなったこの屋敷にて薬物の取引が行われるという情報が保安署にリークされ、その情報を信じて彼女達は向かったのである。

 

「……なるほど。俺達の中でも裏切っていた奴はいたということか」

 

 同行していた保安署の職員が忌々し気にそうつぶやく。提供された情報が嘘であることは間違いなく、情報が提供された時点で街の治安を守る人間の中に獅子身中の虫が混じっていたことの証拠でもあった。

 

「裏切りなんて人聞きが悪いな。俺ほどじゃないがソイツだって利口だったってコトだよ」

 

 そう意味深につぶやき、へらへらと笑う冒険者をただ愛子達は憎悪のこもったまなざしで見つめるばかり。その理由はこの屋敷のエントランスのそこかしこに仕掛けられた物が理由であった。

 

「おっと、動くなよ。下手に動いたらお前達はすぐに死ぬぜ?」

 

 蜘蛛の巣のように縦横無尽に張り巡らされたワイヤーにこちらの方に矢じりを向ける二基のバリスタ。このワイヤーが他のトラップと連動しているのかそも不用意に接触した相手を切るものかは不明だが、至る所から不規則に伸びるこれに触れてはただでは済まされないだろう。何よりあの女性の腕ほどの太さもある矢がいつこちらに向かって放たれるかわからない。まぎれもなくここはあの裏切り者の領域であった。

 

「おのれジェイクスめ……貴様、一体何者だ?」

 

「おー怖い。そんな風に見つめられたらこの“紅蜘蛛”だってブルッちまうよ」

 

「紅蜘蛛……まさか! アップグルンドの幹部の!」

 

「ご名答」

 

 獲物を前に舌なめずりをするジェイクスを見て職員の一人があることに気付く。地上げと金貸しをやって金を巻き上げているアップグルンドの中に一人だけ武闘派の幹部がいるということは前々から保安署は知っており、ソイツは“紅蜘蛛”というコードネームで呼ばれているという情報も得ていた。

 

 まさか目の前の男がそうだったとは職員の誰も思わず、またジェイクスはそれを言い当てられてニィッと口角を上げた。

 

「そういうこったよ……いやーでも人を騙すってのはいいもんだ。何せその『顔』が見れるからなぁ」

 

 そう言いながらニタニタと笑うジェイクスを見てこの場にいた多くが理解する――この男は人を騙すことに何の良心の呵責も起こらないような真性の下種であると。愛子もまたつい先日自分を裏切ったあの女を思い出し、どこにでもこういう人間はいるのかと心底冷めた目で目の前の男を見つめる。

 

「……何故、です。何故そんなひどいことが出来るのですか!」

 

 だがそんな時、ふと横にいたカムが吼えた。見れば他のハウリアも含めて怒りと嘆きの混じった視線を向けており、その顔には悲しみが見えた。

 

「あ? 俺だって普段は『善良な』いち市民だからだよ」

 

「……えっ?」

 

 だがジェイクスは道端の石ころを見るかのような視線を向け、蔑みをたっぷりと含ませながらこう言い放つ。その様を見てカム達は放心した様子であった。

 

「普段から悪事働いてたら生きづらいったらありゃしないからな。それに獲物の吟味も出来る。最高だと思わないか劣等ども」

 

 そうして語られる言葉は聞くに値しないものでしかなかった。どこまでも自分本位でただ己の都合を並べ立てただけでしかない。そうして自分達をコケにするこの男に、職員だけでなくカム達の顔からも表情が抜け落ちた。

 

「……はぁ。もういいです」

 

 ため息を吐きながら愛子はただつぶやく。もうつき合う義理はない。この男がペラペラとしゃべる内に既に仕込みも粗方終えている。もうこちらから仕掛けようかと思った時、ふと眼前の下衆が口を開く。

 

「あぁでももったいねぇか。そこの女のガキと女の亜人は使えるしなぁ……よし、仲間のためにも手足切り落として持ち帰るか。気が強い方が面白いだろ」

 

「――貴様ぁーー!!」

 

 一瞬こちらに下卑た視線を向け、耳が腐り落ちるような事をあの男が吐くとほぼ同時に隣にいたカムが、他のハウリア達が叫んだ。

 

「この街の人間を騙し続けただけでは飽き足らず、血を吐くほどの苦しみに耐えてらっしゃる愛子殿や私達の家族にまで!」

 

「軽々しく『仲間』という言葉を使うな! お前みたいな他人を平気で傷つけられる人間なんかが、その言葉を使うなぁー!」

 

「お前がハウリアを食い物にするというのなら許しておけない! 今ここでお前を倒す!」

 

 振り向いてみれば彼らの表情には、その声には怒りがハッキリと灯っていた。自分が兵士になるように迫った時も、フリードから説教を受けた時もこんな表情を浮かべることは決してなかった。だが一族だけでなく情け容赦ない発言をした自分すらも守らんという気概に満ちた彼らの様子に愛子は一瞬だけポカンとしてしまう。

 

「知るかカス。死んでろゴミがよ」

 

 だがハウリアの叫びを耳障りなものとばかりにうっとうしがったジェイクスは右手をクイッと動かす。その瞬間、二基のバリスタがぐるりとこちらへと向いたのであった――。

 

 

 

 

 

“ラナ、トム隊は前方の敵を鎮圧しろ! ユノ、レオ隊はかく乱! レン、リル隊は構え――放てー!”

 

 その掛け声と共にハウリアだけで組まれた部隊が突撃し、持ち前の素早さを活かして敵の動きを乱し、その合間を縫ってハジメ謹製のクロスボウを射かけていく。

 

 恵里や重吾、昇に愛子らがそれぞれ割り当てられたポイントで奮闘していた頃、メルドもまた班分けされなかった全てのハウリアを率いて各地を転々としていた。

 

「お願いです! もう降参してください!」

 

「言われて誰がやるか、よっ!」

 

「もう力の差はわかったはずです! もう抵抗するのはやめませんか!」

 

「ハッ、これだから人モドキってのはよぉ! 人間サマの理屈を知らねぇクセに口出ししてくるんじゃねぇ!」

 

 彼一人が暴れればアップグルンドの拠点の一つであるここも容易に鎮圧は可能だ。だが今回はハウリアを実戦で鍛えるために指揮に徹している。十人前後で構成される分隊を離れた場所から指示を出しつつ、迫ってくる敵を片手間に無力化していた。

 

「こんなことをして、何になるんですか! 誰かを苦しめてまで自分が得しようだなんて!」

 

「その程度もわかんねぇたぁおつむにゃ何も入ってないんだな! 流石はまがい物だ!」

 

 必死に叫びながらハウリア達は裏組織の構成員を無力化しようと懸命に動いている。訓練を始めた当初に花や虫などを踏まないようにしていたり、訓練で相手をする魔物をさも親しくしていた相手を殺したり己の罪深さをこれでもかと喧伝するかのように声高にのたまう彼らを鉄拳制裁しながらシゴいていた頃よりは遥かにいい動きをしていた。

 

(駄目だな。これでは勝てん)

 

 だがそれまでだった。オルクス大迷宮の十二階層辺りまでの魔物なら彼らも連携して狩ることが出来るようになった。しかし今のように『抵抗するな』や『もう足掻くな』などとのたまいながらやっているのと何一つ変わらない。むしろ()相手であるが故の躊躇(ちゅうちょ)が見える。パッと見で百名はいるこの拠点を、同じくらい人数がいるハウリアだけで落とすことはおそらく叶わないだろうとメルドは見ていた。

 

「お願いします! もう悪いことはやめましょう! それよりもこの街のみなさんが――」

 

 攻撃を躊躇するハウリアの一人であるコリンが相手を傷つけることなく捕縛しようとしていた時、真横から一本の矢が迫る。

 

「――くっ!」

 

 兎人族の持つ耳の良さ故にその一本を避けることは出来た。だがそうして姿勢を崩した隙を相手は見逃さない。

 

「危なっ――死ねぇぇえぇえ!!」

 

「しまっ――あがっ!」

 

 相対していた男によって守りの薄い首筋に刃を突き立てられ、短い悲鳴と共に鮮血が舞った。

 

「コリン!」

 

「へへっ。隙あ――ぐぇっ!?」

 

「いかん、コリン――ぐほぉ!」

 

 ハウリアの仲間意識の強さは美点であり、立派な欠点でもあった。仲間の危機に意識がそれた瞬間、ウルマーに何本もの矢が刺さる。味方もろとも攻撃してくるとまでは思わなかった様子のウルマーは、背後から攻撃を受けた構成員共々血しぶきを上げながらそのまま倒れこんでしまった。

 

「ウルマーさん!……仲間を、仲間をどうして!」

 

「ハッ。お互い利用してただけだよ! テメェらもそうだろうが!」

 

 普通の人間と比べ、亜人故に身体能力の高いハウリアにしびれを切らした奴らが味方諸共攻撃を仕掛けてくる。自分さえ生きていればいい、という発想を理解しきれない真っ当なハウリアが次々と討たれて散っていく。

 

“落ち着けお前達! 一旦下がれ! 戦線を立て直す――”

 

「“炎槍”ぉ!」

 

「ぐぁあぁあぁあ!!」

 

「ぎゃあぁぁああぁ!!」

 

 戦線を下げようと指示を出そうとするもそれよりも早く相手が味方諸共殺しにかかってくる。後ろに控えていたであろう魔法使いの人間が後先考えずに前に出ている人間ごとハウリアを狙い、それによって戦線が瓦解していくの見たメルドは一度目をつぶる。

 

(これ以上は厳しいか……後でシゴき直しだな)

 

 それとアイツらからの恨み辛みも受けねばな、と独り()言ちながらもメルドは一歩前に出た。戦況を打開するために。そのためにもまず一手を打った。

 

「“鎮魂”!――お前ら、早く下がるんだ! 急げ!!」

 

 恐慌状態に陥ったハウリア全員の心を静める。新たな誓いと共に神山で手にした力をメルドはためらうことなく使ったのであった――。




雫は大丈夫だと思いました? あっはっは。やだなぁ。あんな悲惨な目に遭って心がやられない人はいないでしょう? まぁ今のところはこんな感じですよー。

続きは近日中に投稿出来たらいいなー、って思っております。
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