あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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では拙作に目を通して下さる皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも184154、お気に入り件数も883件、感想数も666件(2023/10/15 10:53現在)となりました。本当にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、シュヴァルベさん、拙作を評価及び再評価してくださり本当にありがとうございます。新章を書き進めていく力をいただきました。

では新たな章の始まりとなります。いい塩梅にスタートが切れたかなーって。では本編をどうぞ。


第四章
七十八話 望まぬ来訪者の扱い方


「なるほど、ヘルシャー帝国が……」

 

 執務室にてイルワは深くため息を吐いていた。それもこれも急な来訪者の存在のせいである。

 

 浩介からヘルシャー帝国の一団が大挙してこちらへと向かっているとの連絡を受け、恵里達は急ぎ保安署の署長とイルワに取り次いだ。そのことについての話し合いのためのスペースが欲しいと述べたところ、イルワが自身の使う執務室を開放すると打診してくれたのだ。

 

 執務室を解放してくれたイルワに感謝しつつ恵里達は保安署の署長や商業ギルドのギルドマスターにも声をかけ、早速作戦会議を開いていたのである。

 

「……相手の出方次第ですね。尤も、こちらが採れる手段もそう多くはありませんが」

 

「だろうね。中々に頭の痛い事態だよ」

 

 ふとした瞬間に出る弱々しさ全開な感じや大介相手に甘えているような空気ではなく、真剣に今の事態を思案している様子でアレーティアはイルワに意見する。それを聞いたイルワもどこか思案している様子であった。

 

「面倒だよねぇ、ったく……こっちはやっと大仕事を終えたんだけどさ」

 

 かつて王であった片鱗を彼女から感じ取りながらも、恵里も嫌気を隠すことなくぶっちゃけていた。執務室の空きスペースに置かれたソファーやイスなどに座っているハジメ達も浮かない様子でそれにうなずいている。

 

「だよなー。中村の言う通り面倒くさいったらありゃしねぇ」

 

 大介の言う通り、ようやくフューレンに潜む世界三大裏組織の摘発を終え、今その構成員やそれに関わっていた冒険者などの取り調べを行っている最中であったのだ。そこに急にヘルシャー帝国の人間が訪れたのである。あまりにタイミングが悪すぎてイルワと恵里がため息を吐いていたことに誰も文句をつけることはなかった。

 

「どうすればいいんだろうな……出来ることなら何事も無く帰ってほしいけれどそうもいかないだろうし、下手に招いたらここの事が筒抜けになるかもしれない」

 

「ただ筒抜けになるだけならばいいがな……偶然であれ狙ったのであれ、良い方向に転ぶとは思わんな」

 

 五百という数からしてまず普通ではないし、その上彼らをこのフューレンから遠ざける理由がまず浮かばない。光輝と鷲三が述べた通り、下手を打てば事態が更に悪い方向に転ぶであろうことは恵里も察しており、この場を見渡せば誰もがそう考えている様子であった。

 

(本当に厄介なんだけどさー。帝国の奴らを追い返すための理由は弱いのしか出てこないし)

 

 恵里もどうにか帝国の人間に何も情報を与えずに追い返す手段を考えるも、正直“縛魂”を使って情報漏洩を防ぐぐらいしかいい案は思いつかない。

 

(下手な理由を与えたらそこをつけこまれる。だからって『入れられない』の一点張りじゃそこから察する。いやむしろここが『中立』でなくなったって難癖をつけてくる可能性だってある)

 

 馬鹿正直に裏組織の摘発をしていたと述べれば残党狩りを理由に入ってくるだろう。かといって嘘を並べ立てるにしてもこれ程大きく、どこにも属さないまま商売によって発展した都市が麻痺する理由もそうそう思い付きはしない。だからといって理由も述べずに追い返せばフューレンが緊急事態であることは嫌でもわかってしまうし、下手したら『中立の商業都市』である点を突かれて兵士を連れてくるだろう。

 

(これで来たのがほんの数人だったらどうとでもなったんだけどさぁ。たとえ五百でもボク達の存在を度外視すれば今のフューレンを落とすぐらい簡単だし……あぁクソッ! これもそれも全部エヒトの奴が悪い!!)

 

 来たのがほんの数十人程度だったらまだ打てる手も多かっただろうが、流石に数が多い。撃退自体は自分達がいれば容易であっても、それ程の数の人間が戻ってこなければいずれ本国の方にバレる。となれば前世? で雫達を騙した“縛魂”の力に頼るか外にいる奴らもまとめてぶっ飛ばすぐらいしか恵里の頭には有効な方法が浮かばなかったのである。

 

「正直我とて受け入れ難いがな……だがあの出で立ち、かつて我と槍嵐の覇者、風王が見たそれと同一だった。間違いあるまい」

 

「あ、こっちにいる礼一と良樹が彼と一緒に見たことがあったんです。実は――」

 

 ハウリアを保護する際に一度ヘルシャー帝国の兵士達を見ているのだ。その浩介の言葉を恵里達は疑いはしなかった。が、一体誰のことかと首をかしげている面々に対しては光輝が説明をする。

 

「……そこの遠藤君は面白い子だね」

 

「正直ふざけている場ではないのですが……」

 

「……すいません」

 

「その、彼が発動している技能の副作用みたいなものでして……大目に見て下さると助かります」

 

 商業ギルドのギルドマスターであるグウィンが言った通り、説明が面倒くさいから“深淵卿”をとっとと解除してくれと恵里達も思いはした。思ってはいたものの、それを解除していきなりヘルシャー帝国の奴らが襲い掛かって来たらどうなるかも予測がついていたため言えずにいた。そのため一瞬素に戻った浩介と共に光輝も頭を下げている二人を見て、またしても恵里の口からため息が漏れそうになる。

 

「……コホン。幸い今はその全てがこちらへと押し寄せてきている訳ではない。先程七つほどこちらに馬に乗って向かっているのを確認したがな」

 

「それは私と祖父、母が見たのを確認しています。ここから一キロほど先に天幕を張っているのですぐに動くことはないと思います」

 

 こういう時は本当に面倒だなぁと思いつつも恵里は浩介の言葉に耳を傾ける。せき払いをしてから現状のヘルシャーの動きを報告した浩介を雫がフォローすると、恵里含めその場にいた誰もが一体どういうことかと考えこむ素振りをした。今すぐ仕掛ける様子はない。ならば一体どうしてここに来たのかと思ったからだ。

 

「浩介と雫の話からしていきなりこのフューレンを狙いに来たわけではないだろう。あの国が本気ならもっと多くの数を連れてきてもおかしくはないだろうしな」

 

 この場で唯一の軍人であるメルドの推測にイルワ、保安署署長、グウィンもそれにうなずく。直接フューレンを包囲して陥落させようとしたにしてはあまりに数が少ないし、メルドの言う通りもっと多くの軍勢を率いてこちらにプレッシャーを与えてくるだろうと誰もが思ったからである。

 

「浩介、その七騎以外に向こうの動きは?」

 

「そちらは皆無だな……ただ、相乗りしているのが三人、それも東の門にたどり着く前に降りていると。それと馬に乗っていた一人が王女と思しき出で立ちをしていたとな。我の牙として参列したハウリアも同じ報告をしてきた」

 

 ちなみにシアとカム以外の戦えるハウリアはメルドからの命令で浩介と一緒に見張りをしていた。流石に執務室に大挙して押し寄せる訳にはいかず、自分が命令を与えたとメルド当人の口から聞いたからである。気になる点が幾つかあったものの、まだ本格的に動くわけではないということはこの場にいた全員が理解した。

 

「愛子殿、大丈夫ですか?」

 

「もし辛いことがあったら私でも父様でもいいですから話して下さいね」

 

「……いえ、何でもありません」

 

 そのシアとカムは愛子につきっきりとなっている。合流してからどうも心ここにあらずといった様子であり、ヘルシャー帝国の人間との話し合いには参加させられないと恵里は断ずる。彼女を起点としてこちらのペースを崩される可能性があるからだ。

 

“畑山先生は今回お休みしてもらおう。今の先生は見ててちょっと不安だし”

 

“やっぱりハジメくんもそう思う? 今の先生はちょっと任せてられないしね”

 

“そうだな……後で説得しないと。とりあえず俺がやってみるよ”

 

 このことはハジメも懸念していた様子であり、“念話”でも自分達に伝えてきたため恵里もそれに応じた。光輝や他の面々もそれに同意し、シアとカムにも“念話”を繋いで何人かが彼女の説得にかかっていった。

 

「こちらとしてはまず帝国の方々を迎え入れようと思っています」

 

「正直追い返す理由も今のところはないからね。それにここは商業『中立』都市だ。相手を選んで追い返すことをしたらそれこそつけ込まれてしまうよ」

 

 そうして親友達が愛子説得に動く中、グウィンとイルワは苦々しい様子ながらも自身の考えを明らかにする。この街はどの国にも属さず、あらゆる国の商人に門戸を開いている。つまり侵略の意志を持たない限りは相手を追い返すことはできないスタンスの場所なのだ。それ故にこう答えるしかないということを理解し、わかっていたとはいえ選択肢がせばまったと恵里は頭を悩ませる。

 

「なぁアレーティア、やっぱどうにか追い返せねぇ? 最悪、犯罪者大量に捕まえたせいでどうにもならねぇって言えばよ」

 

「……ごめんなさい。それだと向こう側にこの街に入る、むしろこの街に残った構成員を捕縛する名目で潰すための大義名分を与えることになる。どうやっても私達が窮地に陥るのは避けられない」

 

「うっわぁ……マジかよ。アレーティアでも無理かぁ」

 

 大介からの疑問に先程自分が思いついた理由を口にするアレーティアを見て、やっぱりそうだろうなぁと改めて恵里は考える。

 

(“縛魂”で『ボク達の情報を伏せたまま違和感が無いように振る舞え』って命令すればとりあえず追い返せる。けど、嘘をつくのが下手な奴にやらせたら即座に何かあったって見抜かれるな……もう、手詰まりじゃんか!)

 

 使える手札はほぼ無い。その貴重な手札の一つである“縛魂”による洗脳にしてもあれは自分の本性を上手く隠した上で、光輝達クラスメイトと四六時中接していないメイドや兵士などの死体に向けて使ったものだ。灯台下暗しを上手く突いたからこそバレなかったということを恵里とて把握しており、この方法が今回も通用するとは流石に思えず心の中でヒステリーを起こした。

 

「……だから、手を打ちます」

 

 故に、アレーティアが意を決した様子でそう述べた時に恵里は思わず目をむいた。恵里だけではない。ハジメも鈴達もどうやってと明らかにうろたえている様子であった。

 

「中野さん、ゲートキーを使ってリリアーナ姫に……いいえ、今すぐハイリヒ王国へと戻って下さい」

 

「お、おう。で、何やりゃあいいんだ?」

 

「王国を巻き込みます。それとそちらの二人」

 

 アレーティアの指示を聞いて恵里はハッとし、思わずハジメと鈴と顔を合わせるべく振り向く。すると光輝に鷲三、霧乃、幸利も彼女の意図に気付いたらしく、唾をのむ素振りを見せていた。

 

「私達かい?」

 

「はい……今一度お尋ねします」

 

 そしてイルワとグウィンにもアレーティアが声をかけた。二人が緊張した様子でアレーティアに視線を送っており、彼女の次の言葉を震えながら待っていた様子だった。

 

「あの時の約束、私達に可能な限り協力することを誓えますか」

 

 ヘルシャー帝国との接触を避けられないのであればその先を見て動く。かつて彼女が王として動いていた姿を恵里達は幻視し、その姿に頼もしさを感じていた。

 

 

 

 

 

 アレーティアの提案を受け、一応の結論を出した一行はひとまず移動することに。まだ捕まえた輩の取り調べが残っているし、そこに帝国の人間を招いてはわざわざ自分達の内情を大っぴらに明かすのと変わらないからだ。

 

“来たみたい、だね”

 

 そこで恵里達は()()のみ商業ギルドの応接室へ、残りは近くの空き家へと移動。わざわざ分けた理由は少しでも警戒心を持たれないようにすること、そして向こうからのリクエストがあったからだ。

 

“すまない。我が迂闊だった……”

 

“浩介君は打ち合わせ通り動いてくれてたでしょ? これに関しては皆の責任だよ”

 

 何せドレスを着たやんごとなき身分と思しき女性が門番に言ったのである。来訪したヘルシャー帝国の人間を通すよう門番に連絡し、いざ案内させる段階になってその女が『外壁の上に立っていた、もしくはその周りにいた人間を連れてきなさい』と。

 

“中村さんの言う通り、遠藤さんは悪くありません。あの時はあれが最適でした”

 

“カマかけで門番が動揺しちまったのが痛いな……ま、なるようにしかならねぇさ”

 

 もちろん当初は門番も無視していたものの、そこにいたのは反逆者の類かとその女が門番にカマをかけてきたのだ。その際門番が押し黙ってしまったことで向こうが確信したらしく、『反逆者がこの街にいるというのならばこちらも考えを改めないといけませんわ』と言われて踵を返そうとしたことでどうにもならなくなったのだ。

 

“浩介君、後は任せて。大丈夫、こっちにはアレーティアさんがいるから”

 

“……恩に着る”

 

 そこで動向を見守っていた浩介が仕方なく姿を現わし、軽い自己紹介の後にエスコートすることとなったのである。そうせざるを得なかった彼にハジメは声をかけ、浩介も香ばしい言動のままながらもしっかりとハジメに感謝していた。

 

「お招きいただき感謝いたします」

 

 アレーティアの指示で何人かの冒険者にも来てもらい、こちらが出迎える準備を終えたところで恵里達はヘルシャー帝国の一団と顔を合わせることとなる。

 

 見事なカーテシーを披露する目の前の女性のそばには文官らしき姿の人間や近衛兵と思しき鎧を身にまとった男がいる。合わせて()()。その一団の中央に、単に華美なだけでなく激しい動きもやれそうな独特なデザインのドレスを身にまとった例の女。その落ち着きようも見て()()()人間であることはこの場にいた誰もが理解できており、彼女の一挙手一投足を恵里達は見守っていた。

 

「そしてお初にお目にかかります。わたくしはヘルシャー帝国が第一皇女、トレイシー・D・ヘルシャーですわ」

 

「……初めまして。私はこのフューレンの商業ギルドのギルドマスターを務めているグウィン・ブレッドルと申します」

 

「初めましてトレイシー皇女。私はこのフューレンの冒険者ギルドの支部長を務めるイルワ・チャングです」

 

 その言葉にやはりと思いつつ、グウィンとイルワ、そして秘書長二人に続いて恵里達も自己紹介をしていく。

 

「とっくにわかってるとは思うけど紹介しとくよ。ボクは中村恵里だよ」

 

「恵里、ケンカ売らない……コホン。僕は南雲ハジメです。どうぞよろしくお願いいたしますトレイシー皇女様」

 

「な、中村さん、落ち着いて……失礼しました。アレーティアと申します。どうぞよしなに」

 

「あー檜山大介だ。まーよろしく」

 

「清水幸利だ。ま、よろしく頼むよ」

 

 今回参加したのはトレイシーを案内した浩介を除いて五名。今回の交渉をメインに担当するアレーティア、念のためのブレーンとしての恵里、ハジメに幸利、そしてアレーティアの精神安定剤役である大介の五人が参加することになった。

 

 自分達の存在が明らかになった以上参加しない訳にはいかなかったし、かといって交渉するのに向いていない礼一らを利用して相手に主導権を握られないままにならないようにこうして人数を絞ったのである。

 

“ヘマしないでよ檜山君?”

 

“あー、まぁ、やってみるよ中村……”

 

 恵里としては交渉事が不得手であろう大介もいない状態で交渉に臨みたかったものの、彼がいないとアレーティアがどうなるかわかったものじゃないし、アキレス腱となる可能性の高い彼がいても彼女がいることのメリットが十分あると判断したが故に皆で頼み込んだのだ。こうして交渉に臨む直線、下手を打たないよう大介にくぎを刺し、彼も緊張した様子でそれに返事をした。

 

「ご丁寧にどうもありがとうございますわ、反逆者の皆様がた。手配書の通りでしたわね――それで、本当にこの場にいるのは皆様だけでしょうか?」

 

「さぁ? そう思いたかったらそう思ってたら?」

 

「……判断はそちらに委ねます」

 

 そして目の前の女は早速揺さぶりをかけてきた。それに恵里もアレーティアも表情を崩すことなくそう返す。大方外壁の上や周りに立っていた人間の数から考えてそう言ってきたのだろうし、それにまともに取り合う必要もない。

 

「……それで、門番の方からの報告では皇女様含めて七人の人間がここに向かったと聞いていますが」

 

 そしてアレーティアが目配せをすると恵里は口を閉じた。今回の話でこちら側の舵取りをするのはアレーティアに一任してあるからだ。

 

「表に二人待機させていますわ。何か()()()()()が起きては大変ですもの」

 

「……そうですか。それと信用できる筋からの話では他に三名馬に相乗りしてたそうですが。その人達はどちらに?」

 

「えぇ。確かにいましたわ。ですが彼らは皇帝陛下の命で私と共に来た者達ですわ。すべきことがあると告げて一度下馬しました」

 

「……この街の中で色々と動いているのでは?」

 

「お答えしかねますわ。わたくしはあくまでハイリヒ王国への大使として派遣された身でしかありません。極秘のものだったのでしょう。わたくしは存じ上げていませんわ」

 

 すぐにアレーティアも軽いジャブとばかりにここにいる人間の数が合わないことを尋ねた。が、トレイシーは想定内だと言わんばかりに答えをしれっと返していく。この街に忍び込んだのではと問いかけるもそれらしい理由をつけてかわすばかり。

 

「そうですか」

 

「そうですわ」

 

(うわっ)

 

 ただの世間話をしたかのようにアレーティアとトレイシーは微笑む。が、二人の周囲の空気がどこか重く澱んでいく気配を恵里は感じ取っていた。これが王族同士の腹の探り合いかと感心していると、そうそうと今度はトレイシーが話を切り出してきた。

 

「こちらに来る際にフューレンの現状を拝見させていただきましたわ。何やら騒動か何かがあったご様子ですわね」

 

「そうでしたか。いえ、ギルドや保安署の方からのお話ではもう大丈夫とうかがいましたが」

 

「あら? しっかり拘束してあったとはいえならず者が列をなしておりましたが……そういえばこのフューレンは裏組織が三つあるとうかがっておりますが」

 

 今度は今のフューレンの状況からアプローチを仕掛けて来た。それも想定内であるとばかりにアレーティアは微笑みながら舌戦に応じていく。

 

「えぇ。私も存じております。それが何か?」

 

「尋常でない数のならず者がおりましたもの――まるでその全てを取り締まったかのようでしたわ」

 

「……確かに多かったですね。それで?」

 

「まだ残党が残っている可能性もあります。そのことを懸念していますわ。それに、そちらが与していた可能性も皆無ではないでしょう?」

 

「……推測するのはご勝手ですが、私達はたまたまここにいただけです。それと同席されてる両ギルドのトップも冒険者も私達の監視を目的にこちらにいます。そちらが無理なことを言わなければ彼らが出張ることも無かったのですが」

 

「あらあら。それは監視目的でいらっしゃる()()の方々がしっかり仕事をなさっているだけでしょう? 反逆者の貴女がたがいなければ彼らも職務を全うできたはずです……それとも、貴女達に対してそういう風に振る舞う必要があったのではないですか?」

 

「いいえ。そんなことはありませんよ。ただの誤解ですね」

 

(うわぁ……)

 

 笑みを崩すことなく言葉のナイフでぐさぐさと互いに刺していく様は恵里からしても軽く引くレベルであった。何せ一切敵意も疑惑の念も二人は漏らさず、ちょっと気になったことを尋ねたりそれらしい答えを返してるだけなのに空気がひどくピリピリとしているのだから。

 

 ハジメ、幸利、浩介は軽く体をカタカタ震わせてるし、大介はちょっと涙目になっている。イルワとグウィンは涼しい顔をしていたが、そばにいた冒険者達は顔面蒼白で今にも倒れそうになっていた。そんな彼らがあまりに不憫でハジメ達も巻き込む形でこっそり“鎮魂”をかけていたりするぐらいだ。なお幸利と一度目が合った時に彼の瞳からも冒険者への憐憫を感じ取り、考えることは一緒なんだなぁと思いながら二人で冒険者の精神を鎮めていた。

 

「あら、そうですの……ではイルワ支部長、貴方は反逆者の方々とどういった関係をお持ちになられているので?」

 

 そして“鎮魂”をかけつつも状況を見守っていた恵里は見かけてしまう。トレイシーがイルワに探りを入れた瞬間、この女の目が一瞬だけ細まったのをだ。本気で仕掛けに来たということを恵里は確信し、軽く唾を飲み込んだ。

 

「一体何のことかわかりかねますね。あくまで私は善良なこの街の住人であり、彼らは世界を敵に回した存在です。そこに一体何の関係性を見出したというので?」

 

「あら? 本来なら保安署の人間と一緒にこの街の治安の維持に努めているはずでしょう? それなのに私達が来るまで反逆者を野放しにしていたなんて……あまりに奇妙ではございませんこと?」

 

「彼女達の実力は一応把握しているつもりでしてね。それに彼女達も長く留まる様子ではなかったので、下手に刺激しないよう通達を出していたのですよ」

 

「あらあら。到底そうとは思えませんが? わたくしと会談する席であることを考えれば致し方無いでしょうけれど、あまりに警備が薄過ぎますもの」

 

 イルワの嘘でもなく本当でもない言葉を一切信じていない様子で返していく様を見て、薄々感づいてはいたものの恵里はこの皇女が何か確信を持って動いているであろうことを受け入れるしかなかった。おそらく自分達との関係性、そしてこのフューレンで起きたことも大方把握しているのだろうと思いつつ、ハジメ達と一緒に話を聞くしか出来なかった。

 

「こちらも色々と立て込んでおりましてね。そちらが誤解するのもやむを得ないとはわかっていますが」

 

「本当に誤解でしょうか……まぁいいでしょう。本題に入りますわ」

 

「まだだったのかよぉ……」

 

 大介の小さく、情けない悲鳴を横で聞きながらも恵里はトレイシーの方にだけ意識を向ける。一体何を言うのやらと身構えていると、まず彼女はイルワに向けてあることを口にした。

 

「ではこのフューレンについてですが、もしわたくしの出す条件を呑んでくださるのでしたら()()()()に協力させていただきます」

 

 それが体よく連れて来た戦力を差し向けるための言い分でしかないということはすぐにわかった。その名目でこのフューレンを包囲して自分達を逃がさないようにするつもりだと恵里は判断する。

 

「いやいや。そこまでしていただかなくても私達の手でやれはしますよ。トレイシー皇女殿下?」

 

「いいえ。このフューレンは商業中立都市です。つまり何かあった場合はわたくしの属するヘルシャーにも影響が出ます。それを防ぐためにもわたくしの提案を呑んでいただきたいのですけれど」

 

「……下手に干渉されてはこの街の中立性を保つことが出来なくなってしまいます。この街の不始末は自分達の手で行いますので――」

 

「あら? 既にその中立性は損なわれているとわたくしは考えておりますが」

 

 無論イルワもグウィンも反論にかかるものの、一も二もなくトレイシーは切って捨てる。その条件とやらはまだ聞いていないが、こちらとイルワらを分断するつもりで攻勢に出たということは明らかであった。

 

「……根拠もなしに言いがかりをつけられるのはこちらとしても不服ではあるのですが」

 

「推測の内ではありますがもちろんですわ――外にいた犯罪者はそこの方々と連携して捕まえたのでしょう?」

 

 トレイシーの言葉にイルワもグウィンも何も言わなくなった。やはりこの女は既に確信を得ている。それが揺らぐことは無いということを理解しつつ、恵里はすぐにアレーティアと“念話”を繋ぐ。

 

“アレーティア、ここから逆転するのは?”

 

“……しばらく相手のペースになります。堪えてください、皆さん”

 

“そっか。ありがと”

 

 しばらくはトレイシーの言うがまま、けれどもまだ何か手はあるということを示してくれたアレーティアに恵里は感謝を伝えるとただ覚悟を決める。おそらくとんだ爆弾を相手は放ってくる。そう確信していたからだ。

 

「沈黙は肯定とお見受けしますわ――ではフューレンの皆様に提示する条件は一度後回しにさせていただいて、今度は反逆者の皆様の番ですわ」

 

 微笑みは崩してはいなかったものの、口角が幾らか上がったのを恵里は見た。本気で仕留めにかかるつもりだと考えていると、トレイシーはそばで控えていた文官のような格好をした人間の一人に声をかける。そしてある書状を受け取ると、それの封を切って目の前のテーブルへと広げる。

 

「本来ならハイリヒ()王国に直接出向いて伝えるつもりでしたが、そこを落とした皆様相手でも問題ないと考えました。それで――」

 

 広げられた書類、それも親書を見て大介の間抜けな声が応接室に響く。

 

「……なぁ、アレーティア。これ、なんて書いてあるんだ? どう考えても王国をめちゃくちゃにする気しかねぇみたいに見えるんだけど」

 

「……大介の考えてる通り。これを、呑めと?」

 

 横を見ればハジメも幸利も『あぁやっぱり』といった諦めの表情で、アレーティアも納得した様子でその書面を見ている。恵里としてもまぁこれぐらい吹っ掛けてくるかと思いながら視線を前に移す。

 

「おいテメェ、マジで調子に乗ってんじゃねぇぞクソアマ」

 

「……正気か? この紙に書いてあることは本気なんだろうな?」

 

 先程アレーティアにこの書面の文字の意味を尋ねた大介だけでなく、浩介も怒りをにじませながらトレイシーにそう問いかける。だがヘルシャーの皇女は一層笑みを深く、それも亀裂のようなものを浮かべるばかり。

 

「えぇもちろん。当然ですわ――だって、ハイリヒ王国がこのトータス全ての敵となった。それはご存じでしょう?」

 

 ――ハイリヒ王国を統治していた王族全員の廃嫡と奴隷としてヘルシャー帝国へ帰属させること、統治権及び領土をヘルシャー帝国への無償譲渡、莫大な賠償金の支払いetc...

 

 簡潔に言えば相手はこう迫っていたのだ。無条件降伏をしろと。その全てを差し出せと。




こういう腹の探り合いとか舌戦って書いてて難しかったけど楽しかったです(こなみ)

あと作者からトレイシーへのちょっとしたフォローを。
今回の話で相当強硬な姿勢に出た彼女ですけれど、この世界的には仕方ないと思ってください。要は何人もの犯罪者が皆さんの住んでる近くに出たようなものですから。戸締りやら警察に相談はなさりますよね? それの延長線上みたいなものです。
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