あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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いやーまた期間が空いちゃいましたね(白目) お待たせしてすいませんでした(土下座)
それでは拙作を読んでくださる皆様に盛大な感謝を。

おかげさまでUAも189004、しおりも432件、お気に入り件数も890件、感想数も683件数(2023/11/18 22:14現在)となりました。本当にありがとうございます。こうして皆様に見てひいきにしてくださってありがたい限りです。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠に感謝いたします。またしても筆を進めていく力を授かりました。ありがとうございます。

では今回の話を読むにあたっての注意としてやや長め(約13000字程度)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


八十二話 フューレン再興へ向けて

「……リリアーナ王女はハイリヒ王国の代表として来ていますし、私達の方も仲間はそろっています。今後のフューレンの動きについて話し合いをしませんか、皆さん」

 

「ではアレーティア君の言う通り、今後のフューレンのことについて話をしていこうか」

 

 アレーティアの提案に一同がうなずいた後、微笑みを浮かべていたイルワも真剣な表情で話を切り出してきた。

 

「まず冒険者ギルドの方だけれど、()()()()だけ犯罪者の取り調べに職員を回すからギルドの運用は厳しい。とはいえほんの数日だ。それまでにある程度捌いて復旧できるように戻すつもりだよ」

 

「……商業ギルドに関してですが、前にも述べた通り抜けた商人の数が多く、また残った商会の多くも相当のダメージを受けました。その商会を支えるために補助金を出してしまったため、正直基金もほぼ底をついているのが現状ですね」

 

 両ギルドのトップからの話は恵里達にとって容易に想像がつくものであった。冒険者ギルドはしばらくは犯罪者の取り調べにかかりきり、商業ギルドは金が無い上に所属する商人も少ないという有り様。協力は取り付けたがあまり余裕も力も残っていないといった具合であった。

 

「そうですか……その、俺達に出来ることは――」

 

「おい待った光輝」

 

 相手がそんな状況だったからか、いつものお人好しが出たのであろう光輝が手を差し伸べようとしたがそれを大介が止める。自分達のリーダーである光輝にこういう時に待ったと言ってくるのは珍しいと思いつつも、恵里は大介がどんな言い分を持ち出すのかに興味が湧いて彼の方へと意識を向けた。

 

「大介、今のフューレンの人達の現状を考えると俺達だって力を貸した方がいいだろ? それはリリィもアレーティアさんもそうだろう?」

 

「あ、あの、そのぉ……」

 

「わかってるよそれぐらい……でもな、アレーティアがまだそのことで何も言ってねぇだろうが」

 

 光輝に手を貸すべきだと言われたアレーティアだったが、自分の意見を述べたいけれどもかつてのやらかしがあるせいで言うに言えないように恵里は見える。そんなオロオロしているアレーティアのために大介が光輝に再度待ったをかけた。

 

「俺達にどうにかしてほしい、って思ったんならちゃんとコイツは口にする。だからよ、待ってやってくれ。光輝」

 

「……すまない、アレーティアさん。それと大介も」

 

「き、気にしないでください。天之河さん……」

 

「そういう意味じゃ姫さんもそうだけどな」

 

「えぇ。申し訳ないですけれど皆さんの助力を受けるつもりではあります。ですが、もう少し話を進めるまでは待っていただけませんか。光輝さん」

 

 大介の指摘は尤もであったし、信治とリリアーナからも言及され、光輝は消え入りそうな声で『はい……』と漏らすばかりであった。まぁ今回ばかりは気がはやったのが悪いと思い、恵里は彼に助け舟を出さない。他の皆も苦笑するばかりで雫がうろたえてるぐらいだ。

 

「光輝君、そちらの善意は受け取っておくよ。さて」

 

「こ、光輝、ねぇ光輝ぃ!」

 

 そしてイルワからの気遣いがトドメとなって顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。そんな光輝を見ていたたまれなくなった様子の雫が介抱しているのを横目に、恵里はイルワらが今度は何を言うのかとそちらに意識を向ける。

 

「現状フューレンの状況はこんな具合だね。トレイシー皇女様の前では何があっても裏切らない、とは言ったけれど()()()()ではそれ以上は厳しい」

 

「えぇ……無論、今のままでも可能な限り支援は行います。ですが」

 

 イルワとグウィン、両者共に申し訳なさそうな顔で己の力不足を伝えてきた。が、彼らの声のトーンと話の切り方からしてどこか恵里は引っ掛かるものを覚える。

 

“なーんかあんまり申し訳なさそうって感じがしないね。どう思う? ハジメくん、鈴”

 

 そしてそれはこっそり“念話”で話を振ったハジメと鈴だけでなく、アレーティアにリリアーナ、幸利に立ち直った様子の光輝でさえもその違和感に気付いた様子であった。幸利と光輝は頭を軽くひねったし、元含む王族二人は目を細めたりほんのわずかに口元を動かしたのを二人の方へと振り向いた際に恵里は目撃している。

 

“そうだね……多分、立て直しのために協力を取り付けようとしてるんじゃないかな? 今はこれが限界ですけど、立て直すことが出来たらもっとやれますよーって感じにさ”

 

“鈴もそう思うよ。申し訳なさそうに見えるけど、なにか考えを隠してる感じの顔だもん。恵里とそっくり”

 

「ねぇ鈴どういうコト? 場合によっちゃ怒るよ」

 

 ハジメの意見に納得するも、鈴の最後の言葉に思わず恵里は声を出してしまう。それを見た友人らが『あぁ、また何かやってるな』と軽く呆れた様子にも気づけないまま軽くメンチを切っていた。

 

「……えーと、何やらそっちがもめてる様子だけれど?」

 

「あ、あの……触れないでいただけるとありがたい、です……」

 

 それを心配した様子のイルワと気まずさと恥ずかしさに満ちたアレーティアの声で、ようやく恵里も自分のやらかしに気づく。こほん、とせき払いをすると少し口元をヒクつかせているイルワとグウィンへと顔を向ける。

 

「お、落ち着いて恵里。それと鈴も」

 

「あー、気にしないで。ハジメくんもね。答え次第で鈴をとっちめようって思っただけだから」

 

「今大事な話し合いしてるんだよ? 落ち着いて、ね?」

 

「ヒドくない? 鈴そこまで悪いこと言ったつもりないんだけど? 事実でしょ?」

 

「アッハッハッハ……よーしわかった。潰す」

 

 なお恵里が先程言葉を漏らした理由を述べればすぐに鈴と口論が始まり、取っ組み合いの大ゲンカになりかける――だがその瞬間、二人をなだめようとしていたハジメが即座に間にスッと入り、“威圧”込みの剣呑な空気を垂れ流してきた。

 

「あ、気にしないでください皆さん。アレーティアさん、王女様、話し合いの続きを」

 

「「あっ」」

 

 二人がハジメが本気でキレたことに気付くのにそう時間はかからなかった。今度はお互い抱き着き合い、顔面蒼白になりながら『笑顔』のハジメの方に視線を向ける。

 

「二人とも、正座。正座して。今大事なお話してるんだよ? どうして引っ掻き回すの?」

 

「だ、だって鈴が悪いもん……」

 

「え、恵里が過剰反応したのが悪いし……」

 

「そっか。じゃあ正座ね」

 

 涙目になってガタガタと震えながらも互いをけなす恵里と鈴。だが有無を言わさぬハジメの言葉に従う他なくそのまま正座。周りに迷惑をかけないよう“念話”での説教が始まった。

 

「どうぞ皆さん。話を続けてください」

 

 滅多にしないキレ方をしたハジメに話の再開を促され、幼馴染~ズすら多くが怯えてしまっている。大介と良樹は自分の連れと、礼一は信治と抱き合っている始末だ。オマケにアレーティアとシアはガチギレしたハジメを見てガタガタと体を震わせ、涙目で愛する人に抱き着いていた。

 

「……ハジメの言う通り、本当に気にしないでくれればありがたいです。まぁ、二人の自業自得ですから……はい」

 

「……本当に愉快な集まりだね、君達は」

 

「話し合い、お二人のお説教が終わってからにしましょうか……」

 

「ぜひ、そうさせて下さい」

 

 そんな中、光輝も深くふかぁーくため息を吐きながらイルワにそう伝え、イルワも口元を引きつらせながらそう返すのが精いっぱい。リリアーナも苦笑いを浮かべ、到底話し合いの雰囲気になれないことから話し合いの延期を提案すればグウィンも首を縦に振るだけだった。

 

「ひとまずお茶にでもしましょうか。私が用意しますから給湯室の場所を教えていただけますか」

 

「いや止めましょうよ愛子殿」

 

「中村さんと谷口さんは私よりも南雲君の言葉の方が心に届くでしょうからね。だったら少しでもリラックスしてもらう方が得策でしょう。急いで話を進める必要もありませんし」

 

 そんな中、一度お茶でも飲んで休憩しようと提案した愛子だけが異彩を放っていた。イルワとグウィンの様子からやはり続けるべきではないと彼女も悟り、自分の身内の不始末からこれを提案してきたのである。

 

 なおすぐさまカムからツッコミを受けたが、愛子は持論を語るだけだった。自分が叱るよりもハジメがやった方が効く。それなら少しでも建設的な動きをした方がいいと。コイツとんでもねぇなと多くが思ったのも無理は無かった。

 

“ケンカするのはいいよ。二人の性格を考えると仕方がないから。それはわかる。でもね、場所選んで? 選ばないでそういうことやったら皆に迷惑かかるでしょ?”

 

“は、はい。ごめんなさい……”

 

“ハジメくんごめんなさい……”

 

“うん。謝るのは僕にじゃないよね? 誰に謝ればいいかわかるよね?”

 

“あ、後でみんなに謝るから……”

 

“ちゃ、ちゃんと皆にごめんなさいって言うから……”

 

 そんな中でもハジメの説教は続く。ケンカするのもちゃんと場所を選ぼうと決意する恵里と鈴であった……。

 

 

 

 

 

「待ってくださってすいません。話し合い、再開してください」

 

「「皆さん本当にごめんなさい……」」

 

 自分達のせいで話し合いが中断してしまったことに若干気まずそうに謝罪するハジメと、カタカタ震えながら南雲家直伝の土下座をしてわびを入れた恵里と鈴。三人の間の真のパワーバランスが明らかになるような構図に誰もが苦笑しつつも愛子が再度提案してきた。

 

「時間ももったいないですし、そろそろ始めましょうか。あ、お茶のお代わりはいりますか?」

 

「いえ、遠慮しておきますよ愛子()()

 

「私も」

 

 なおその際イルワとグウィンの愛子に向ける視線に『畏怖』の色が軽く混じっていたが誰も言及しなかった。例の魔王発言を聞いていた皆はあの時の言葉に偽りなしと感じていたし、リリアーナと当の二人もただならないものを感じ取っていたからだ。

 

「コホン。では先程の話しぶりからして、フューレンを立て直すことが出来ればやれることも増える。そうお考えになってもよろしいでしょうか」

 

 とはいえそれに呑まれたままだと話が進まない。わざとらしくせき払いをし、リリアーナは先のイルワ、グウィン両名の言わんとしていた事を指摘する。すると二人も苦笑いをにこやかな笑みへと変えた。

 

「意を汲んでくださり恐縮です、王女様」

 

「えぇ。恥ずかしながら今の私達ではやれることに限界があります。ですがフューレンがある程度復旧出来たのならば相応の成果を出すと約束しましょう」

 

 その回答を聞いてやはりかと目ざとい恵里達は思案する。実際に街中を歩いて回った恵里達からすれば立て直しをしなければマトモに機能しないであろうことは理解していたからだ。商売関連は特にである。

 

「うわ、さっきのそういうことかよ」

 

「あぁ。いい根性してるっつーかな……」

 

 礼一のボヤきに幸利が答えれば、奈々や優花といったイルワ達の言葉の真意に気付かなかった皆も納得やら驚きやら様々なリアクションをしている。

 

「結構厚かましいわね……」

 

「あ、あはは……たくましいっていうかなんて言うか」

 

(ホンットそうだよねぇ~。で、向こうは一体何を要求してくるんだろ。使える人間寄越せ、って言ってくるのは間違いないけど)

 

 声を潜めて話し合うなりしており、全員があちらの意図を把握出来ただろう。そう思いつつ、恵里はあちらが何を要求してくるかを考えながら出方をうかがう。

 

「君達が言いたいのもわかるよ。厚顔無恥と言われればそれまでだけれど、ここで動かなければフューレンも立て直すのに時間がかなりかかってしまうからね」

 

「特に商業はダメージが甚大ですから。最早壊滅といっていい状況ですし、このままではフューレンはただの交易の中間地点といった程度の立ち位置になってしまうでしょう。私どもとしてもそれは看過できませんので」

 

 ギルドのトップである二人の言い分を聞いて多くが納得したようにつぶやいていたり、苦笑したりしている。恵里はどういう風にやれば恩を売れるだろうかと思いつつ、()()交渉に出ていない二人から意識を外しはしてなかった。

 

「確かに……わかりました。ではイルワ冒険者ギルド支部長、グウィン商業ギルドマスター。貴方がたは何をお求めになられるのですか。お答えください」

 

「私ども冒険者ギルドとしては数人ほど腕の立つ人間、それとは別に錬成師を数人ほど常駐させていただければと考えております」

 

()()()のお金を貸してもらえれば。後は残った商人の支援となる案を考えてくだされば助かります」

 

 リリアーナが直接話を切り出せば、イルワとグウィンはお互いの要求を提示してきた。錬成師を連れてきてほしいというお願いや単に金を借りたいというのに引っかかりを感じはしたものの、恵里もその要求に理解は示した。

 

(んー。グウィンさんの方はわかるけどイルワさんの方はちょっと引っかかるなぁ。腕の立つ人間は見た目を偽装して街の見回りとか、後は外の魔物への対処とかだろうけど。錬成師が必要ってのはよくわからないのがなぁ。何か壊れたの?)

 

「なるほど……グウィン商業ギルドマスターの方は理解しました。そちらは後でエリヒド王へと嘆願してみますので。それとイルワ支部長の方は街の外の魔物への対処と、あと他にも何かあるようですが。それをお教えいただけますか」

 

 恵里が軽く予想したものとリリアーナが口にした言葉はおおむね同じ。自分達を見回りに行かせようとは考えてなかったのだろうかと思いつつもイルワの答えを待つ。すると額に手を当てたり、軽いうなり声を上げるなど何度か逡巡する様子を見せてからイルワが口を開いた。

 

「……恩人である君達にあまり色々言いたくはないんだけどね、その、保安署や冒険者の方から報告があったんだ。幸利君達のことなんだが、地下水路の天井に穴をあけたり床を変形させたまま後始末を()()()()とね」

 

 即座に恵里含む何人かが幸利らの班の面々に顔を向けた。彼ら一同は即座に目をそらして口笛を吹き出した。図星である。

 

「まぁ被害そのものがあったという訳ではないからいいんだけどね。闇のオークションにかけられる人達を収容してたスペースをどうするかも考えてたから声をかけたんだ。後はここらで地下水路の補修や整備なんかも行いたいとも思っていたし、ギルドの方でも手配をかけようと思ってね」

 

 理由を聞けば納得は出来た。まぁ幸利達がテンションが上がって後始末を忘れたまま他の場所へと行ったのだろうと考える。後で幾らでも幸利達とはOHANASIは出来るのだ。今は別にいいかと考えていると、イルワは更に言葉を続けた。

 

「それと腕の立つ人間に関しては王女様の言うことも一理ある。色々と対処した上で見回りもしてくれると保安署に恩を売れるだろうと思ってね」

 

「何故です? 街の警ら活動はその保安署の皆様のお仕事、ですよね。それを奪うような真似をなさっては……」

 

「これがそうもいかないんですよ。リリアーナ王女様」

 

 やはり見回りも頼んできたかと思ったのだが、恵里もリリアーナと同じことが気にかかっていた。先の作戦で自分達は大暴れしたのだからその分注目を集めている。それも元の姿でだ。

 

 それを考えるとあまり自分達が外に出るのも不味いのではと勘ぐり、一体どんな理由を述べてくるのやらとイルワが話す内容に耳を傾ける。

 

「少し落ち着いたら裏組織壊滅の知らせを流そうと思ってたんだけど、何分君達が活躍しすぎたせいでね……冒険者の数が減った状況でどうやって裏組織全てを壊滅させることが出来たか。それをここの住民に納得させるためにも必要なんですよ。『裏組織壊滅の立役者』、それを成し遂げた人間がちゃんと表に出る必要がね」

 

 イルワの発言を聞いてようやく恵里も腑に落ちた。自分達が巡回することで『この人達のおかげでもうこの街は大丈夫なんだ』と納得してもらうためなのだろうと。とはいえそれではいそうですかと恵里は受け入れた訳ではなかった。

 

「あの、大介達の悪評のことは……」

 

 それは、一番の問題である自分達につけられた『反逆者』という悪評のことだ。

 

 これさえなければここまでコソコソ動く必要も無かったし、イルワが言った『裏組織壊滅の立役者』という立場に立つことも出来る。だというのにここで悪評がネックとなってしまうことを踏まえるとどうするのか。

 

 真剣な表情のアレーティアと共に恵里も視線をイルワに送れば、軽く息を吐いた後にその考えを述べた。

 

「一応私にも考えがある。君達が改心して善人となり、手始めにフューレンの街に巣食う裏組織の摘発に参加したというカバーストーリーを流したいんだ」

 

「なるほど、それで皆さんを受け入れる下地を作ると。では具体的にはどうされるおつもりですか、イルワ支部長」

 

 一体どうやるのやらと思っていれば、また中々とんでもないことをイルワが言い出した。それで信じてもらえたら苦労なんてしないと恵里は内心ため息を吐きつつも、リリアーナの出したご尤もな疑問にどう答えるのかと静観する。

 

「そちらは姿を偽装することが可能ですね?」

 

「ん……アーティファクトの力で姿を偽ることは可能です。何かに姿を変えてほしいということですか」

 

「えぇ。ではここでひとつ質問をさせていただきたい――鎧をまとった、どこか冷たくも神々しい雰囲気の銀髪の女性に見覚えはありますか」

 

 まず一つ質問を投げかけられ、再度受けた質問を聞いて恵里はハッとする。真の神の使徒の姿をとって、自分達に有利な情報を流す。イルワが言いたいことをやっと理解できたからである。エヒトの方から妨害を仕掛けられない限りはどうとでも出来る凶悪なカードが手元にあったことにやっと気づけたのだ。

 

(うっわぁ……よりによってこんな簡単な方法を思いつけなかったなんて……いや、ここで気づけたんだからそれでいいか)

 

 エヒトがどんな手を打ってくるかに考えが囚われ過ぎて、こんな簡単な方法を思いつけなかったかと恵里は心底気落ちするもすぐに気持ちを切り替える。こんなことで落ち込んでいる暇なんて無いし、これでエヒトがどう動くかは不明ではあるものの、やってみる価値はあると思ったからだ。

 

(そういえば確か一つだけ死体が残ってたはず。アレを出してみよっかな。どうしよう)

 

 ……なお、神の使徒の死体も実は宝物庫に保管してあったりする。王都に降り立って演説か何かをしていた死体は比較的きれいな状態だったのと、状況が落ち着いたらエヒトからの情報を抜き取るために一つだけ氷漬けにして保管してあったのだ。他は普通に『遺体』として処理している。

 

 とはいえ『比較的』きれいなだけであって、そこそこ損傷が激しいからそれをどうするかを考えないといけないという問題はあるが。その解決法も結局思い浮かばなかったため、やはり神の使徒の死体を使う案は一旦保留にしておいた。

 

「なるほど……中野さん、先のイルワ支部長が仰ったのは『神の使徒』のことですよね?」

 

「だろうな。俺ら……って言ってもアレーティアさんは別か。ま、あのクソ女に関しちゃ面識があるのは違いねぇよ」

 

 リリアーナからの確認に信治が半ば吐き捨てるように答える。確かに永山達もオルクス大迷宮で目撃してたんだからなんとなくわかるはず、と考えながら周りを見渡せば、重吾達も心当たりがある様子でボソボソと仲間内で確認をしていた。自分達に関しては言わずもがな。

 

「大介、大介。その女ってもしかして」

 

「おう。城進んでる時にぶっ倒したアイツだろ、多分」

 

 アレーティアは見てなかったような、と記憶していた恵里だったが、大介の言葉からするに城内で合流する前に倒していたらしい。なら誰がやっても問題ないかと思いつつ、イルワの方へと目を向けた。

 

「全員思い当たる節があるようだね――誰か一人、演技の上手い女性がその女に扮して説得してほしい。正直、教会の人間も君達のことに関してあまりいい顔をしていなくってね。緊急時だからってことで黙らせはしたんだけれど、ガス抜きを兼ねて早めに対処したい。いいだろうか?」

 

 それならば是非も無かった。住人を一か所に集めるのはあちらがやってくれるだろうし、後は誰を神の使徒役として選ぶかだけ。さてどうしてものかと思ったその時、ふと鷲三と霧乃がつぶやいた。

 

「ふむ、そうか……ならばわしと霧乃も」

 

「そうですね。お義父さんと私も加われば説得力が増すかと思います」

 

 神の使徒のように翼を生やせるようになった二人が名乗りを上げたのである。確かに見た目の異なる神々しい存在がいてくれればより説得力が増す可能性もあったため、恵里もそれに反対することはなかった。

 

「あ、じゃあ私も神の使徒の役をやらせてもらいます。後は光輝……と、他に何人か来てくれないかしら」

 

 じゃあ誰が神の使徒の役をやればいいかと考えた時、間髪を入れずに雫が名乗りを挙げ、光輝や他の仲間にも立候補するよう願い出てきた。

 

(あれ? 雫もやるんだ。光輝君以外にも人を呼んだってことは……ボク達が改心した、ってのをエヒトのヤツも認めてますよって示すため、かな?)

 

 恵里は雫の発言の意図を推理しつつもある点が引っ掛かって考えてしまう。間髪入れずに自分もやると言い出した点、自分以外にもやって欲しいと頼んだ際に雫が光輝の名前を真っ先に挙げた点が気になったのだ。

 

「うん? どうしたんだ、雫。何か考えがあるのか?」

 

 その引っかかりを強めたのは光輝の反応だった。ほんの一瞬だけなんとも言えない表情を浮かべたため、どうして雫のことで? と気にかかったのだ。普段ならまんざらでもないような顔をするのにどうして、と。

 

「考えがあるのなら是非とも出してもらえるかな、雫君」

 

「はい。先程協力を申し出てきた祖父と母も神の使徒のように翼を広げる事が出来るんです。なので、神の使徒の真似が出来ると考えたんだと思います」

 

「なるほど、そういう事か。そちらのお二人は確か……」

 

「申し遅れました。八重樫鷲三と申します。そしてこちらが」

 

「雫の母の八重樫霧乃と申します。私達はこのように――」

 

 それを口にしようとした時、イルワが雫の発案した内容や鷲三と霧乃の素性について尋ね、二人は体が改造されたことで出せるようになった翼を小さく展開する。それを見ておお、とイルワとグウィンが圧倒され、同時に納得した様子を見せる。

 

(今はちょっと聞き辛いかな。後で雫……いや、光輝君は何か知ってるだろうし、そっちに“念話”送ろうか)

 

「そうか。これなら確かに! 流石だよ雫!」

 

「そう? えへへ……」

 

 光輝にほめられてはにかむ雫を見てやはりどこかおかしいと察したが、下手につついて今進んでいる話をオシャカにする気は恵里にはなかった。この違和感を頭の片隅に留めておき、話し合いが終わったらつついてみようかとイルワの悪だくみの方に集中する。

 

「なるほど……それなら確かに神の使徒として振る舞っても問題なさそうですね。いや、そもそも君達は姿を偽るアーティファクトを複数持っていたはずだから、あの翼を生やすことさえ出来ればあの姿にする必要はなかったかもしれないか」

 

「いえ、ですがそちらの前に姿を現した女もいるに越したことは無いでしょう。その方が民衆も事態を呑み込むのに時間をかけないで済むはずです」

 

「確かにそうですね愛子さん。そちらの都合もありますし、参加するのはそちらの四人に……」

 

「お待ちくださいイルワ支部長」

 

 いっそ全員翼が見えるようにするだけでもいいのではと思案するイルワに対し、真の神の使徒もいた方が『説得』がスムーズにいくのではと愛子はと伝える。イルワもそれに乗って筋書きを考えようとしていた様子だったが、今度はリリアーナが彼を呼び止めた。

 

「どうされましたか王女様。何か気になることでも?」

 

「えぇ。もしこの案をそのまま通した場合、このフューレンを中心にウワサが広がると思います。神の使徒はその罪を許された、と。私どもとしてはこれから帝国、そして王国から離れた貴族すべてと戦うつもりです。その際他の貴族がこちらにつく可能性を可能な限り排除したいのですが」

 

 神の使徒による説得を採用した際、起きうる問題を指摘するためであった。言われてみればごもっとも。ここにいる冒険者や商人が別の街に行った際に言いふらす可能性がある。とはいえ対処法自体はそう難しくは無いと恵里は考えている。例えば――。

 

「……理由は不明ですが、他の貴族にまで矛を交えるつもりということならば少々変えましょうか。では罪を償うためにはまずこのフューレンで一からやり直す必要があり、またこのことを口外してはならないとエヒト様が仰せになった。そう伝えれば大丈夫なはずです」

 

 信仰にかこつけて言いふらすのを禁ずればいい、と。他にも飴と鞭で口に出さないことの方がメリットがあると思わせるなどだ。思いついた内の一つをイルワが述べたことに腹の内でしたり顔になっていると、今度はグウィンの方も動いた。

 

「ですね。こちらとしても商業ギルドの方で緘口令を敷くとしましょう。違反した者には高い罰金を背負わせる。代わりに相応の()()()を与える、といった具合に。ただ、こちらが用意出来る見返りにも限度と言うものがありますし、そちらでご用意してくださると助かるのですがどうでしょう?」

 

 ここで自分が考え付いたものの一つ、しかもそれをよりしたたかにしたものを話してきたこの男に恵里だけでなくハジメや光輝達も軽く引いてしまう。自分達が見捨てないことを見越した上でここまで踏み込んでくるかと思ってしまったのだ。

 

「あ、じゃあいいで――」

 

「畑山先生! 頼むから! 頼むから今は抑えてくれ……!!」

 

「いいよ先生! 俺達のことでそこまで神経過敏にならなくっても!」

 

「危なっ!? ありがとう永山! 野村!」

 

 もちろん愛子はそれ以上だった。冷めた目で即刻手を引くことを宣言しようとし、すぐさま重吾を中心としたグループが止めにかかったのである。彼らの手によってどうどうと暴れ馬をなだめるが如くあやされ、すぐに恵里達も魔法を使って精神を落ち着ける。

 

「ダメです! 助けてもらいながらここまで厚かましく要求してくるような人と関わったら皆が――」

 

「先生今はちょっと落ち着いてね“鎮魂”!」

 

「流石に今台無しにされるとこっちも困るんだよ“限界突破”!――からの“呆散”っ!!」

 

「ぁぅ……ぁー……」

 

 使った魔法の中にちょっと用途が違うものが混ざっていたのには誰もツッコミを入れなかった。モンスター元教師を抑えこむには都合が良かったからである。とりあえず意識がもうろうとした隙に愛子を後ろ手にし、ハジメ謹製の簡単な手錠をかけて拘束。どうにか抑えこむことに成功したのだった。

 

「いや、その……今のは?」

 

「あ、お気になさらず……グウィン商業ギルドマスター、それでしたら私どもの方としましても限界があります。ですので」

 

「良かった……畑山さんに滅茶苦茶にされなくて済んだ……その、相談次第ですけど私達の出番ですね」

 

 愛子の暴走はともかく、グウィンからの要求には揺るぎすらしなかった王族コンビが答えを出す。一度息を吐いてからリリアーナが視線をこちらに送ると、同じくアレーティアも長くため息を吐いてからうなずき、こちらが動いた場合ならばやれると述べる。

 

「まぁこちらとしてもいささか厚かましかったですね。後でお詫びせねば。それで、王女様の方は具体案などはありますか? 無ければ私どもの方で商隊の護衛や積み荷の運搬などをお願いしたいのですが……」

 

「そうですね。扱える商人がいるかと皆さんが協力してくれるかどうかですが……皆さん、力を貸してくださいませんか?」

 

「俺はもちろんだよリリィ。ここで見捨てるような真似はしたくない。あ、それと俺は参加するのを決めたけど、皆にもそうしてくれとは言わないからな」

 

「……むぅ、私も。光輝が言うなら私もやるわ。あ、お爺ちゃんとお母さんも一緒よね?」

 

 もしちゃんとした計画などが無いのならば人夫として働いて欲しいと向こうは頼み込んできたものの、リリアーナは思案するような素振りをし、恵里達に協力を求める。案の定即座に光輝が反応し、何かに嫉妬した様子で雫も参加を申し出てきた。

 

「……あの、天之河さん。私も。それと直接手伝うのでなく、キャサリンさんの方に接触して何かできないか相談してみます」

 

「じゃあ俺も。アレーティアが行くんなら俺がついてかねぇとな。ま、後でだったら力仕事でも何でもやってやるよ」

 

「そうだな……なぁ、俺もいいか? キャサリンさんに相談しに行くってんならクリスタベルさんの力も借りてぇ。正直人手が多いに越したことはねぇしな」

 

「そうだね。私達はブルックの街に行ってちょっとやれることが無いか試してみるよ」

 

 アレーティアも伝手を使うことを提案し、すぐに彼女のお世話役として大介も名乗り出た。そして龍太郎と香織もかつて世話になった相手に力を貸してほしいと頼みこむ腹積もりを明かし、アレーティア、大介と一緒に動くことを伝える。

 

「おいハジメ。ゴーレム使うんだったらここじゃねぇか?」

 

「うん。僕もそう思ってた――グウィンさん。その見返り、用意出来ると思いますよ」

 

 幸利がここでゴーレムの貸し出しをやるべきだと暗に伝えたのを聞き、ハジメもそれに乗っかった。恵里としてもここ以上に最適な状況は無いと考え、それとあちらを軽く驚かそうと思って内容を明かそうとはしなかった。

 

「俺らで他に何かやれることねーか? なぁリリィ、何でもいいから言ってくれ。お前の力になりてぇんだ」

 

「信治さん……コホン。その、でしたらオルクス大迷宮の方で魔物を狩って、その素材や魔石を集めるのをお願いできますか?」

 

 信治もいいところを見せようとしたのか、リリアーナにどうやったら自分が力になれるかと直球をブン投げていた。そのリリアーナも信治の真っすぐな思いにキュンとして乙女な表情を数秒浮かべつつも、すぐにせき払いをして自分達なら片手間にやれそうな案を提示してくれた。

 

「んじゃ俺も信治君の恋のために一肌脱いでやるとすっか。あ、俺が遊ぶ時の金、全部負担でヨロー」

 

「礼一テメェ、この野郎……っ!」

 

 そして茶化しながらも悪友を助けようと礼一も声をかけ、信治も怒りと恥ずかしさで少し顔を赤くしながらも軽くにらみつけている様子から本気でキレた訳ではないのだろうと恵里は察する。

 

「ま、信治だけじゃなくって俺達のためにもなるしな。よし、じゃあ俺も久しぶりにオルクス大迷宮潜るわ」

 

「あ、あの、良樹さんが言うなら私も――」

 

「待てお前ら。ライセン大迷宮の捜索はどうした」

 

 そして良樹も名乗りを上げようとしたところでイイ笑顔のメルドが問い詰めて来た。その言葉で顔を青くした礼一と良樹を見た限りでは単に恋路を応援するというよりは大迷宮探索から逃げるためという理由が大きかったらしい。

 

「お、俺は……その、リリィの力になりたくって……! わ、わかってくれよメルドさん!」

 

「そ、そうです! お、王女としての権限を使って信治さんにはオルクス大迷宮の攻略を命じます!」

 

「王女様まで……全く」

 

 その後も信治だけは怯えながらもリリアーナのために役立ちたいとメルド相手に啖呵を切ったり、リリィもそれに乗ったり、重吾達がやはり迷っていたため参加を見送る形になったり、後で保安署から呼び出しがあったりと色々あったが話は進んでいく。

 

「ねぇ皆。ちょっといいこと思いついたんだけどさぁ」

 

 そうして各々やれることを列挙していき、ある程度話がまとまったところで恵里が猫なで声で話しかけてきた。先程思いついたいい案を早速形にしようと思ったのである。

 

「何かな、恵里君。他にいい案が浮かんだのかい?」

 

「もっちろ~ん。絶対に儲かる話だと思うけどねぇ~」

 

 湧き出る愉悦を止められずニタニタと笑う恵里を見て、付き合いの深い面々は何かを察したような何とも言えない表情で彼女を見ていた。周囲からの視線を特に気にすることなく恵里はその思い付きを口にしようとし、グウィンの方からケチをつけられる。

 

「絶対に儲かる、という話ほど胡散臭いものはないのですが……具体的にどうやって儲けるので?」

 

「簡単だよか・ん・た・ん」

 

 クスクスとほくそ笑みつつもグウィンをいなし、恵里は絶対に上手くいく策を言葉にする。

 

「商品を売りつければいいのさ。帝国とそれに追従する貴族の奴らにね」

 

 その悪魔的発想を形にした恵里の口元はひどく歪に歪んでいた――。

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