あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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水古戦場走って遅くなりました。どこぞの緩歩動物とはもう会いたくありません(挨拶&言い訳)

では気を取り直して拙作を読んでくださる皆様への盛大な感謝を。
おかげさまでUAも190056、しおりも434件、お気に入り件数も892件、感想数も685件(2023/11/30 21:49現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして皆様が見て下さるおかげで書く気力が湧いてきます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当にありがとうございます。おかげさまでまた話を書く気力をいただきました。

今回の話の注意点としておまけを含めて長め(約13000文字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


幕間四十九 主演が涙する茶番劇、脇役が光る交渉

「じゃ、じゃあ、反逆者の奴らは本当に改心したってことですか!?」

 

 フューレンの街の広場で男の怒号に近い叫びが飛び、周りにいた人間も声を潜めながらも本当かどうか信じられないような面持ちであった。しかしそれらを向けられていた存在は()()()冷静な表情で彼らを見渡していた。

 

「……はい。この者達は既に私達の前で懺悔し、その罪を認めて悔い改めたのです」

 

 無数の人だかりに囲まれる中、ドレス甲冑に近い装束を身に着けた銀髪の女性は目の前の四人の少年少女を見下ろす。

 

 簡素な()()を身に着け、後ろ手で拘束されて地面に膝をついている彼らは聴衆の言う通り反逆者一味である。ここにいるのは中村恵里、南雲ハジメ、谷口鈴、天之河光輝だけであったが、銀髪の女性の傍らに控えている男の老人と妙齢の女の姿をした二人が他の者達も既にエヒトの前で悔い改めることを誓ったと述べている。

 

「で、ですが使徒様! こ奴らは我らをたばかっていた大罪人です! 今も裏切りの機会を待っているのでは――」

 

「……っ。私達と、あなた達の信ずる神の言葉を疑うと?」

 

 そんな折、この場にいた神父の一人が本当に反逆者の面々は心を入れ替えたのかと問いかけるも、神の使徒と言われた女性はグッと手を握りしめながらも冷淡な口調でそう返した。途端、神父は目に見えてうろたえる。

 

「そ、それは……」

 

「その言葉、エヒト様への信仰を疑ったと見なしてもよいのか」

 

 神とそれに仕える存在である使徒の言葉を疑ったとなればこの場で切り捨てられても仕方ない。むしろ今この場にいる全ての人間からそういった仕打ちを受けてもおかしくないだろう。神父という役職に就いているならばなおさらだ。

 

 そのことに気付いたが故に神父はうろたえ、老齢の男の姿をした神の使徒もまたその言葉の真意を問いかける。

 

「も、申し訳ありませんでした……え、エヒト様の遣いたる使徒様の言葉を疑うとは」

 

 顔を青ざめさせながらもその場にひざまずき、神父は許しを請う。その彼に向けられる視線の中にほんのわずかな人間が憎悪を向けてもいたりするが、多数は困惑と同情であった。多くが突如光の膜と共に現れたエヒトに仕える存在の言葉に翻弄されたからであったが故である。

 

「ならば私めがエヒト様に代わり許しましょう。これからも励むように」

 

 すると妙齢の女の姿をした神の使徒が神父の下まで歩いていき、かがんでその手を差し伸べた。そして老人の方もにこやかな笑みをたたえて神父を見つめており、その姿から人々は日々説法の中で語られる慈悲深きエヒトの姿を幻視する。その背から広げる藤色の翼も相まって神々しく思え、中には感激のあまり涙を流す者までいた。

 

「あなたが心配するのも尤もでしょう。ですが案ずることはありません。信徒の皆様、もし仮にこの者達が再度愚行に走るというのならば私達の力によって対処するまでです」

 

 そう述べると共に女と老人の使徒はその翼から羽根を落とす。それが地面や石ころに着いた途端、触れたものが消えていく様を見てどよめきが起きた。それを見た誰もが神の御業であると誰もが信じ、遠くにいてわからなかった者にもすぐにそのことが熱狂と共に伝わっていく。

 

「ではあなた達、エヒト様に背いた反逆者の皆様は私達のために尽くすことを誓いますか」

 

「はい。誓います」

 

 そして女の使徒が虚空から剣を取り出し、その切っ先を反逆者に向けて問いかければ、天之河光輝が顔を伏せながらも真っ先に同意する。

 

「今ようやく()の目も覚めました。この中村恵里、これからはエヒト様のため、そしてトータスの皆様のためにこの身を削って尽くすことを誓います」

 

「僕も同様です。全てはエヒト様のために。そして神の使徒様の意のままに」

 

「私も誓います。どうか今までの罪を贖う機会をください」

 

 そしてすぐに中村恵里、南雲ハジメ、谷口鈴もそれに続いた。恭しく、この身は今やエヒト様のためにと述べれば更に熱狂は高まっていく。

 

「し、信じます! 私も使徒様のお言葉を信じることにします!」

 

「お、俺も! 疑ってしまって申し訳ありません!」

 

 そうしてほんの数人が信じると口にすれば空気が変わるのはあっという間であった。誰もが神の使徒様を信じると声を張り上げ、広場は熱気に包まれる。それを見た銀髪の女はわずかにたじろぎつつも一言つぶやく。

 

「“鎮魂”……では私達はこの者達をしかるべき場所へと移し、トータスに住むあなた達信徒のために奉仕させます」

 

「しかしこの事をこの街の外に広める事をしばし禁ずる。未だこの者達の罪はわずかたりとも清算されてはおらん。故に善行を重ね、わし達がよしと判断してからそれを広めることを許そう」

 

「今しばらくは私達が天の上より見定め、時が来たならば改めて伝えるとします。では私達はこれで。あなた達を見ていますよ」

 

 そして手短にこの場にいる聴衆へと伝えると、現れた光の幕を反逆者と共にくぐっていって姿を消す。神の使徒達が姿を消すと同時に例の幕もまた消え、またしても目の前で見せられた神の力に聴衆は再度興奮に身を委ねた。かくして反逆者が心を改めたということはフューレンの人間の共通認識となったのである。

 

「……ふぅ。やっと終わったかぁ。お疲れ、皆」

 

 ――そして広場から数百メートルほど離れた裏路地にて。自分の分身の目を使ってタイミングよく“限界突破”と“界穿”を発動した浩介は額に軽くかいた汗を手の甲でぬぐう。神の使徒が広場に現れる際の演出をしたのは素に戻って無理矢理()()()()()()()()彼のおかげであった。

 

 天から舞い降りるという方法も考えなくはなかったものの、神の使徒に姿を偽装した雫が不自然な動きにならないかと恵里からケチをつけられたため、この演出となったのである。

 

「――光輝ぃ!」

 

「おわっ!」

 

 そして七人が無事にゲートから出てくると、すぐに偽装を解いた雫がタックル同然に光輝へと抱き着く。

 

「ごめんね……ひどいこと言ってごめんね……すずも、えりも、はじめくんも……うぅ……」

 

「俺はいいから……なぁ、皆。許してあげて、くれないか」

 

 急な抱き着きに思わずたたらを踏みそうになった光輝であったが、無事に彼女を受け止めつつもその懺悔を聞いて許した。そして申し訳なさそうに光輝が視線を向けてきたため、恵里も鈴もハジメもやや苦々しい表情でうなずく。

 

「いいよ、雫。別に恵里が考えた筋書きをなぞってくれたんだからむしろお疲れ様だよ」

 

「気にしないでよ。ボクやハジメくん達が考えた演出だったんだから、雫が気に病む必要なんてないよ」

 

「うん。鈴と恵里の言う通り。これぐらい気にしてないから。もう泣き止んで。ね?」

 

 三者三様にそれぞれ気遣いの言葉を雫へとかける。事実、先の一連の流れは恵里、ハジメ、幸利、リリアーナにアレーティアなどが考えたものだ。こうすることで自分達が先の摘発で動いていたことを納得させ、フューレンで活動しやすくなるように演出したのである。

 

「ありがと……ありがとう、みんなぁ……」

 

“ねぇ恵里、ハジメくん。お願いがあるんだけどさ”

 

“雫のことでしょ、鈴? もちろん、どうにかしよう。だって大切な幼馴染だから”

 

“うん。光輝君だけに負担をかけさせる訳にはいかない。僕達も考えよう。雫さん、光輝君、それに鷲三さんと霧乃さんのために何が出来るかを”

 

“……ありがとう。二人とも”

 

 そうして気にしていないと言ってあげれば、ひどく安心した様子で泣きじゃくりながら光輝へとしなだれかかる。その様を見て間違いなく雫に異変があったことも、その原因がおそらくウルの街であった惨劇に起因するであろうことも三人は見抜いていた。だからこそ、大切な親友であり幼馴染をどうにかして助けたいと心の中で奮起する。

 

“……なぁハジメ。それに恵里と鈴も。雫を立ち直らせるの、手伝ってくれないか”

 

“すまないハジメ君達。その、雫のことなんだが……”

 

 そんな折、浩介と鷲三の方からも“念話”で打診が飛んできた。そちらの方を見れば霧乃も悲痛な表情でこちらを見つめ返しており、彼らもまた考えることは一緒だったようである。

 

“浩介君、鷲三さん、霧乃さん……”

 

“なんか雫の様子が変なのはわかってたんだけどさ、ここまでひどいとは思わなくって……頼む”

 

“これは私達家族の問題なのはわかっています。けれど、どうすればいいのかわからなくて……”

 

“無力だと笑ってくれても構わない。だがどうすれば、どうすれば雫の心の傷が癒せるかわからんのだ……”

 

 三人のあまりに苦しげな顔を見て恵里達は力になりたいと心の底から思う。特に恵里はエヒトに拉致された後、自殺しようと錯乱したのを雫が止めてくれたことに恩義を感じていたから尚更であった。

 

“もちろん。ボクがここにいるのは雫が止めてくれたおかげでもあるしね。だからどうかやらせて下さい。鷲三さん、霧乃さん”

 

“さっきそれを話してたところです。鈴達がどこまで力になれるかはわからないですけど、親友を助けたいんです”

 

“僕もです。地球にいた頃から鷲三さんと霧乃さんにもお世話になってましたし、その借りを返させてください。お願いします”

 

 恵里達がむしろ協力を申し出てくるのを見て、浩介らのほほを涙が伝う。ぐすぐすと鼻を鳴らし、三人とも腕やハンカチで目元をぬぐった後、また涙が出そうなのを堪えながら言葉を交わす。

 

“助かるよ恵里、鈴、ハジメ……”

 

“この恩は一生忘れん。その言葉だけでわし達も救われた”

 

“ありがとう鈴さん、恵里さん、ハジメ君……あなた達が雫の友達で、本当に良かった”

 

 口々に礼を述べる三人にうなずいて返した恵里達は、えぐえぐと幼子のように泣いてしまっている雫と彼女をあやす光輝に視線を向ける。どうか彼女の心の傷が治るように、泣きそうなのを堪えている少年の心が晴れるようにと決意を新たにしながら。

 

 

 

 

 

「なるほど。食料の補給か。通っていいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 一方、ブルックにて。キャサリンとクリスタベルの助力を得るために会いに来た龍太郎ら一行は、姿とステータスプレートを偽装するアーティファクトを利用して真正面から堂々と街中へと入っていく。

 

「……やっぱりちょっと気になっちゃうね」

 

 アレーティアが門番の男性に返事をし、門を出てすぐに香織が少し罪悪感に苦しんだ様子でぽつりと漏らした。

 

“悪いのはエヒトのせいだろ白崎。んなもん気にしなくっていい話じゃねぇかいい子ちゃんがよ。な、アレーティア、龍太郎”

 

“え、えっと、大介の言う通りです。これは白崎さんが気に病むことじゃないですから……”

 

 仕方がないこととはいえ、今回も不正な手段で街へと入っていったことに納得が出来なかったり罪の意識を感じていたのだろう。それを察した大介はやれやれといった様子で、アレーティアも大介の言い方に少し焦りつつも彼女なりに香織を励ます。が、当人は納得しきった様子ではなかった。

 

“でも……”

 

“そうだな。大介とアレーティアの言った通りだ。でもまぁ、全部終わって謝りに行きたいってんなら、俺もついてくさ。な?”

 

「……うん。ありがとう」

 

 不服そうに言葉を漏らす香織に龍太郎は足を止めると、じっと彼女の顔をのぞきこみながら“念話”で思いを伝える。街中で自分達の名前を不用意に明かさないためだったが、効果はあったらしくほんのりと瞳をうるませながら香織はうなずいた。その様子を見て三人も少し安堵した様子を見せると、すぐに目的の場所へと向かおうと通りを歩いていく。

 

「おいおい。フューレンに寄ったって割にゃ品揃えが悪すぎんじゃねぇか? 普段の半分もねぇだろ」

 

「親しくしてた商人が夜逃げしちまってな……どうにかかき集めてきてこれっぽっちなんだよ」

 

「おい。真昼間から酒飲みやがって。今日は店やってねぇのか?」

 

「ウルの街産の食材は軒並みダメだからな。アンカジの方と取引してる訳でもねぇしよ……じいさんの代からの店、たたむしかねぇかもな」

 

“ねぇ、これって……”

 

 前に来た時とは違って通りに面した露店はあの時のような熱気も感じられず、数も少ないように見える。往来から聞こえる話からしてもフューレンやウルの方面でのトラブルによる影響が出ているのが嫌でもわかってしまい、香織は心を痛めていた。

 

“思った以上に影響出ちまってるな……”

 

“こりゃな……キャサリンさんとクリスタベルさんに土産、用意しといたほうが良かったか?”

 

 このままだとこのブルックもきっと駄目になってしまう。そのことを直感でわかった龍太郎は焦り、大介も他の人間はともかく恩人である二人のためにも何か食べ物でも持ち込んだ方が良かったかと漏らす。

 

“それは駄目、大介。きっと二人の間に不要なトラブルを生みかねない。だから”

 

 ただ大介の考えはすぐにアレーティアに理由付きで否定される。自分より頭の回るアレーティアからこう言われてしまっては流石に否定できず、ばつが悪そうに大介は頭をかく。

 

“あー、だな。悪い。そこまで考えてなかった”

 

“ん。大介は二人のことを思ってそう口にしたのは皆わかってる”

 

“うん。檜山君がそう思ったのもわかるよ……早く行った方がいいよね”

 

“あぁ。行こうぜ、冒険者ギルドへ”

 

 当初からのプラン通り、冒険者ギルドへと進む四人。まずはキャサリンと接触するべく、早足で通りを歩いていく。

 

“キャサリンさん、いるかな?”

 

“まぁ駄目だったらクリスタベルさんのところに行くしかねぇさ”

 

 何故先に彼女と会うかについては彼女にクリスタベルの店へ来てもらうよう頼むためだ。ギルドの中では今回持ち掛ける相談と()()は聞かせられない。だから前に聞き取りや雑談をしたクリスタベルの店へと行ってもらうよう取り計らう。それが今の彼らの目的であった。

 

「ようこそ。冒険者ギルド、ブルック支部へ……おや?」

 

 ほどなくして四人はギルドの扉をくぐって進み、キャサリンがカウンターにいるのを一行は確認した……のだが、どうも一目見ただけでこちらの正体に気付いたららしく、多数の人に好かれるあの笑顔がほんの一瞬より柔らかいものに変わったのを香織達は見てしまった。

 

“まさか……キャサリンさん、気づいた?”

 

“なんでバレるんだよ……”

 

“キャサリンさん恐るべし……”

 

 奈落の魔物相手に観察眼を各々磨いていたため、四人は気付いてしまったのだ。アレーティアだけはほんの一瞬顔が強張る程度で済んだが、大介、龍太郎、香織は驚きのあまり体が動かなくなってしまう。

 

「おーい、あんた達。そこで止まってると他の冒険者達の迷惑になるから早くこっちに来な」

 

“ね、ねぇ、この声の感じって……”

 

“前にクリスタベルさんの店で話した時の感じ、だよな……見た目、違うはずだろ?”

 

 そしてかけてきた声も、以前クリスタベルの店で色々と雑談していた時の砕けた感じの声色と近い。ほぼ確実に自分達の正体がバレてしまっているであろうことが嫌でもわかってしまった。オバチャン恐るべし。四人はそう思いつつもキャサリンに促されるままカウンターへと歩いていった。

 

「はい、ようこそ。冒険者ギルド、ブルック支部へ。ご用は何だい?」

 

「……こちらの査定を」

 

 そして何事もなかったかのように用件を尋ねられた。完全に主導権も何も握られてしまっていると誰もが思いながらもアレーティアだけは事前の打ち合わせ通りに動く。袋から出すフリをして宝物庫から取り出した魔物の素材()()をカウンターへと置いた。

 

「へぇ。ここらの魔物の素材に少し大きめの魔石かい……ちょっと待ってな」

 

 キャサリンもすぐに気付いたらしく、ほんの一瞬だけ視線が素材……の下の方へと動いた。そのまま素材を受け取ったのを確認し、四人は彼女のリアクションを待つ。

 

「まいどあり。買取額はこれぐらいでいいかい? それと、()()は捨てといたからね」

 

「あぁ。ありがとう」

 

 そう言いながらキャサリンは二万ルタ程度の金をカウンターへと置く。龍太郎達は彼女が期待通りのリアクションを取ったことに内心手ごたえを感じながらも、それを表情に出さないよう必死に抑えながらギルドを後にしていった。

 

「よっしゃ! 上手くいったな」

 

「……ん。キャサリンさんには感謝しないと」

 

 そうしてしばらく歩いてから大介は大きくガッツポーズをし、アレーティアもそんな大介を見ながら微笑む。

 

 先程アレーティアは魔物の素材の買い取りをやってもらう際、その素材の下に一枚のメモ書きを忍ばせておいたのだ。それには『後でクリスタベルの店のお店に来ていただけませんか。もし来ていただけるならば後でゴミを捨てたとだけ言ってください。坂上龍太郎一行より』と書かれてあった。さっきゴミ云々で手ごたえを感じたのはそのためだ。

 

“まぁ会って早々俺達の正体がバレたのは流石に驚いたけどな”

 

“そうだよね。ちゃんと姿を偽装するアーティファクトは起動してたのにね。ますますキャサリンさんにかなわないって思っちゃったもん”

 

 まぁ最初から自分達の正体を看破されたことに関しては予想外もいいところだったが。そのことを振り返って誰もが苦笑しつつ、次の目的地へと向かっていく。

 

「あと数分も歩けばクリスタベルさんの店だったな」

 

「ん……気づいてくれるといいんだけれど」

 

 ブルックの街に来た際に厄介になった漢女、クリスタベルが経営する店へ。別れ際に可能な範囲で協力すると言質を取っているのだ。出来る範囲でそうしてもらうつもりで彼らは向かった。

 

「あらん。いらっしゃい♥ ここらだと見ない子だけれど、何の御用かしらぁん?♥」

 

 ドアベルが鳴ると共に懐かしい筋骨隆々のあの店主が出迎えてくれた。だが心なしかその声が前と比べて勢いがないように龍太郎らは感じ、アレーティアも何かあったと推測して言葉を詰まらせていた。

 

「あの、クリスタベルさん。お久しぶりです」

 

 クリスタベルの異変にうっすらと気づきつつも香織は声をかける。するとあちらも何かを思い出すように腕を組んで右手を下あごに当てて考える素振りをした。

 

「うん? どこかで聞いたことがあったような……ごめんなさいね。どこかで会ったことがあるかしらぁん?」

 

「あー、このカッコじゃわかんねぇよな。ちょっと、奥行かせてもらうぜ」

 

 申し訳なさそうに漏らすクリスタベルに、大介は店の隅へと歩いていき、すぐに姿を偽装するアーティファクトのスイッチを切る。その瞬間クリスタベルは大きく目を見開き、姿を偽装したままのアレーティアらと何度も視線を行ったり来たりさせていた。

 

「そんな……じゃあそっちの皆も」

 

「ん……私達の仲間の南雲さんのアーティファクトの効果で別人になりすましてます。お久しぶりです」

 

「もうあなた達ったら……! ちょっとリビングで待っててねぇん! すぐに店を閉めるわぁん!♥」

 

 顔を手で押さえ、瞳を潤ませたクリスタベルはすぐに店の外へと向かっていった。こうして店をすぐに閉めてこちらを出迎えようとしてくれる心優しい漢女に四人は少し涙が出そうになったものの、それは一旦後にしようとお互い目を合わせてうなずき合った。

 

「良かったぁ……クリスタベルさん、覚えててくれたんだ」

 

「当たり前でしょう♥ いっぱい苦労してた香織ちゃん達のこと、そう簡単に忘れる訳にはいかないわぁん♥」

 

「早いな!?……いやもう、その、ありがとうございます」

 

「いいのよいいのよ♥ 謝らなくったっていいわん龍太郎きゅん♥ じゃ、すぐにお茶を出すわねぇん。」

 

 一回しか訪れなかった自分達を覚えててくれただけでも嬉しいのに、こうして自分達をもてなそうとしてくれる。そんな彼女? の優しさにまたしても助けられたことをありがたく思いつつも四人は店の奥のリビングへと向かう。これから何を話せばいいやらと内容を色々と吟味しながら。

 

 

 

 

 

「――まったく、あんた達とんでもないことしかしてないねぇ」

 

「ホントそうよん。何度自分の耳を疑っちゃったかわからなかったわ」

 

 店の奥のリビングに案内された後、ほどなくしてキャサリンも店を訪れた。そこで龍太郎らは自分達に起きたことを話していった。親切な協力者が出来たこと、その後フューレンを訪れて商業ギルドから助力を得たことなど向こうが信じやすい情報だけを提示して。

 

「いや、その、あはは……」

 

「いや俺らからすりゃ秘密にしておこうとしてたのをしれっと見抜いたアンタが怖ぇーよ」

 

 なお割とアッサリとキャサリンに見破られてしまったが。王国、そしてフューレンと協力関係を結んだことまでバレてしまったのである。

 

「王国と協力関係になったことだけじゃなくって、フューレンが味方についたことまで推測で言い当てねぇでくれよ。心臓が止まるかと思ったぜ……」

 

 自分達が世界の敵となったこと、神の使徒がもたらした情報から推測して真実をほとんど言い当てたのだ。これにはアレーティアでさえも間の抜けた顔をさらしてしまい、残りの三人はひたすら冷や汗を流して目をそらすばかりだった。ただ本当のことを言ったら言ったで、向こうも信じられないものを見るかのような目で見てきた辺り理不尽である。

 

「ま、そのことは水に流そうじゃないか。そっちだってあたし達が信じるかどうかわからなかったから隠そうとしたんだろう? ほら本題に入った入った」

 

「まぁ、そうなんですけど……わかりました」

 

 キャサリンに話を進めるようせかされ、どこか釈然としないものを龍太郎らは感じたものの、こうして話をしてもいいとあちらから言ってくれたのだからと四人は本題を切り出すことにした。

 

「とりあえずキャサリンさんもクリスタベルさんも俺達の今の状況はわかったよな」

 

「もちろん。あんた達は今、ハイリヒ王国とフューレンと協力関係を結んだってのはわかったよ」

 

「そうねぇん。どうにか龍太郎ちゃん達の状況は飲み込めたわ。それで相談っていうとそのフューレンのことでいいのかしらん?」

 

 龍太郎が早速自分達の今の状況について尋ねてみればキャサリンはうなずき、クリスタベルも軽く苦笑しつつもフューレンに関する問題なのかと自身の推測を明かした。実際二人の認識は間違ってはいなかったため、大介らは一度目配せをしてからアレーティアに全部託す。

 

「ん……商業ギルドの立て直し。そのためにもまずお金を工面したいと思っています。一応私達の方でも考えたのですが」

 

 アレーティアもそれに応えてキャサリンに自分達が相談したいことを明かす。それを聞いた彼女も軽く目を細めてアレーティアらを見つめてきた。

 

「なるほどねぇ。確かにフューレンがダメになっちまえばこの街だって影響が出てくる。実際通りの露店は前と比べて少なくなっちまったからねぇ」

 

「はい。ですからここで一つ()()があります」

 

 眉間にしわを少し寄せながらもつぶやいたキャサリンに対し、恵里に幸利、リリアーナ、イルワ、グウィンに相談して決めた儲け話をアレーティアは持ち掛けた。

 

「商業ギルドの経営が回復するまでの間だけで構いません。私達の方で確保した魔物の素材、魔石を定期的に卸すので、それを買い取っていただけませんか」

 

 それは冒険者ギルドの方に素材を納品する形で金を引き出すというもの。とはいえ一度にもらう金額もある程度上限を設けなければあちらとて困るというのはわかっている。だがお互いにWin-Winの関係の取引となるから決して悪い話ではないし、必ず乗ってくるだろうとアレーティアは踏んでいた。

 

「なるほど、そうきたかい」

 

 そしてそれを裏付けるようにイルワ、グウィンのお墨付きであるこの案を聞いてキャサリンの方も眉間に寄せたしわが少し緩んだようであった。

 

「確かにありがたい話だね。ちゃんとこっちの利にもなるように考えてある。けれどもウチだっていくらでも金が湧き出てくるワケじゃないよ。限度はこちらで決めさせてもらう。それでいいね?」

 

「はい。構いません」

 

「やった!」

 

「ぃよっし!」

 

 出てくる条件も想定通り。事が上手く運んだことに喜んだのは香織や大介達だけでない。アレーティアもほんのわずかに口元を緩めつつも、更にもう一つの頼みを提案する。

 

「それともう一つ。ここ以外の各地のギルドでも同様のことをやろうと考えています。そのための口利きや便宜を図るのをお願いできますか」

 

 それはブルックだけでなく、冒険者ギルドが存在する各街や村を訪れて同様のことをやるということ。色んなところから少しずつ持っていけば一ヶ所で引き出す金が少なくてもそこそこの額になる。それを成し遂げるためにキャサリンに手伝いを頼み込んだのである。

 

「ふーむ……別にあたしに口利きなんてしなくても問題は無い。けれどもわざわざ頼み込んできたってことは、そっちが不審がられないように手引きをしてほしい。それとどこでどんな素材を納品すれば怪しまれないか。それを知りたいってことだろう?」

 

「はい。そうです」

 

 そのキャサリンもどうしてこういった形での協力も頼み込んだかも推測し、それを話してきた。それも全てアレーティアが懸念した点をだ。

 

「そこまで考えてるなんてすごいじゃないアレーティアちゃん♥ でも、口利きってのもモノによるわよん?」

 

「ん……それはわかってます。クリスタベルさん」

 

 話が早くて助かると思っているとクリスタベルの方もしきりに感心した様子でうなずきはした。だが自分達に手引きする方法は選ばせてもらうと言外に述べ、大介達も軽くつばを飲み込む。

 

「それも理解しています。ですのでキャサリンさんのやれる範囲で構いません。どうかお願いします」

 

 故にそれをわかった上で吸血鬼の元王は頭を下げる。ここまでくれば後は向こうの出方次第。もちろん協力できないのならばそれで構わないし、別の方法を一緒に考えればいい。そう思いながらアレーティアはキャサリンとクリスタベルが答えを出すのを待った。

 

「ねぇキャサリン。やり方は幾らでもあるんだし、あたしは悪くないと思うんだけど。少しぐらい手を貸してあげたっていいんじゃなぁい?」

 

「そうさね……わかった。便宜を図るのは流石に出来ないけど、やれる範囲で協力してやるさ」

 

「さっすが俺のアレーティアだ! 信じてたぜー!」

 

「んっ!」

 

「いよっしゃあー!!」

 

「やったー! やったよ龍太郎くん!」

 

 その言葉で一同は沸き立った。実際今回持ち掛けた商談もキャサリンの協力がなければどうにもならない話であり、ずっと緊張していたからだ。細部を詰めるのはこれからとはいえ、こうして成功を収めたことで緊張の糸が切れたことで押し寄せた喜びが彼らを支配したからである。

 

「おめでとう皆。それとアレーティアちゃん、ちょーっと聞きたいことがあるんだけれど?」

 

「? どうしたんですか、クリスタベルさん」

 

 そうして四人でもみくちゃになって喜んでるところにクリスタベルが話しかけてきたため、全員が彼女? の方に視線を向けて首をかしげる。何か不備でもあったんじゃ、と今更ながら不安が押し寄せるもかの漢女が言ってきたのはそういうことではなかった。

 

「フューレンの方で結構な人数の犯罪者が捕まった、って言ってたでしょ? もしそっちの方でも対処に困ってるならあたしが役に立てるかと思ったのよん」

 

 その提案に一同はありがたく感じはしたものの、あまりにも意外であったためにしばしそのまま固まってしまう。その反応から『あらやだ余計なこと言っちゃったかしらん?』と困惑するクリスタベルを見てようやく全員再起動。アレーティアがそのことを尋ねた。

 

「また変わったことを言うねぇ。どうしたんだいクリスタベル」

 

「……クリスタベルさんの提案はありがたいんですけど、どうして?」

 

「さっきの話、捕まえた犯罪者の対応で保安署の方も大忙しで冒険者ギルドの方も対応に追われてるんでしょ? だったら罪の軽い子達数人ぐらいならあたしでも面倒見れるかと思ったのよん」

 

 クリスタベルが申し出た理由を聞いて香織達は納得する。確かに最初に会った時は見た目のインパクトも相まって奈落の魔物に負けず劣らずの強さを持っているのではと感じたからだ。今こうして彼女? の見事な体格に一同が視線を寄せれば、やはりそこらのならず者ごときに後れを取るはずがない。そう確信できるほどの筋肉と均整の取れた体つきであった。

 

「もう……キャッ♥ あんまり漢女を見つめないでちょうだい♥ 流石に照れちゃうわん♥」

 

 そう言いながら両手で自分の体を抱くようにしてクネクネと動く様を見て、大介と龍太郎はちょっとだけイラッとする。香織とアレーティアはほんの数秒苦笑するだけに留めた。

 

「その……一応イルワ支部長に確認してからでいいですか? 私達の一存で決められる話じゃないので」

 

「もちろんよん♥……そうとなったらすぐに支度をしないといけないかしらん。フューレンまで馬車で一週間近くかかるし、でも馬車の方は――」

 

 その提案は一旦保留にしたいと回答すれば、クリスタベルも快くうなずいてくれる。そしてこれからフューレンに行こうと思案したため、香織がいいことを思いついたとばかりに手を打った。

 

「あ、大丈夫ですよクリスタベルさん。すぐ行けますから」

 

「もう香織ちゃんってば。そんな近所にある訳じゃないんだから」

 

 イタズラを思いついたように口元をちょっと吊り上げながら言えば、クリスタベルも苦笑しながら彼女をたしなめる。が、大介達は何を言いたいかがすぐにわかったため、同様に意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「あーアレか」

 

「香織お前なぁ……ま、いい意趣返しになるか」

 

「ん。やっちゃってください白崎さん」

 

「? もしかしてそれが出来たりしちゃうのかしらん?」

 

「そうですよー。えいっ」

 

 ニコニコしながら香織は懐からゲートキーを取り出し、そのままフューレンへと繋がるゲートを開く。その瞬間現れた光の膜には平野と街道が映り、それを目撃してしまったキャサリンとクリスタベルは目を大きく見開いてしばし固まってしまった。

 

「よし。一応ゲートホールは置いておいたぞ」

 

「ど、どういうこと? な、なんであたしの家の一部が街道になってるのぉん!?」

 

「ありがとう龍太郎くん。あ、どういうことかは行ってみればわかります。さ、キャサリンさんも!」

 

「ちょ、ちょっと待った! あたしもかい!?」

 

 そう言いながら香織達はキャサリンとクリスタベルの手を引いてゲートをくぐる。そこから歩いて数分、一行の視界にはフューレンを象徴するあの外壁が飛び込んできた。それを見た二人はその場で動かなくなり、しばし呆然とした様子で目の前のものを見ていた。

 

「これ、私達の親友のハジメ君が作ってくれたものなんですけれど、これのおかげで色んなところを一瞬で移動出来ちゃうんです!」

 

「ねぇキャサリン。これって夢かしら」

 

「奇遇だねぇ。あたしだってそう思ったよ」

 

 香織はドヤ顔でゲートキーを掲げるも、ショックが大きすぎたせいか夢か何かと勘違いしている様子。まぁ無理も無いかと思いつつ、二人を上手いこと驚かせたことに他の三人も満足していたのだった。




おまけ キャサリンの慧眼

 程なくしてキャサリンもクリスタベルの店に訪れたため、すぐさまアレーティア達は話を切り出すことに。

「まず私達が今置かれている状況です。先日、私達に協力を申し出てきてくれた方がいて、現在はその方のところに居を構えて色々とやってます。そこでフューレンの方でも私達に力を貸してくれる方が現れました」

 流石にハイリヒ王国、そしてフューレンが自分達と協力関係を結んだ経緯を話しても信じられないだろうと踏んだアレーティアは軽く言い換えて説明をした。

「ちょっと待った。アンタ達、その親切な人と()()そういった関係を結んだんだい? ハイリヒ王国の悪行がウワサになった辺りからかい?」

「あ、いや、その……」

 ところがキャサリンは何かに気付いた様子で問いかけられ、思わず答えてしまった香織の表情は強張ってしまっていた。無論それは大介も龍太郎もであり、それを見たキャサリンはやっぱりといった様子で四人を見つめていた。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!……ねぇキャサリン、あなたのその言い方だとまるでハイリヒ王国がアレーティアちゃん達と協力関係を結んだ、ってとられてもおかしくないわよ?」

「なんだいよくわかってんじゃないかい」

 おそるおそるといった様子で確かめてきたクリスタベルに不敵な笑みを見せながらキャサリンは答える。見抜かれた。見抜かれてしまった。アレーティアは思わず口をポカンと開けたまま止まってしまい、大介達もブワッと大汗をかきながら視線をそらす。恐るべき洞察力であった。

「どう、して……」

「前に胡散臭い女が現れてハイリヒ王国も上層部がどうのって話を聞いたもんだからね。お互い世界の敵になった同士だし、利害関係を結ぶのは当然だと思ったのさ」

 そうなった経緯は違うのだが単なる勘でなくしっかりとした理屈まである。見事な洞察力を称賛するしかないと龍太郎らは思った。

「それにこの街の人間以外にもギルドの人間から話を聞く機会ってのもあってね。話を聞く限りじゃ香織ちゃん達に対する敵意は高い。そんな相手にわざわざ協力しようなんて人間はまずいないよ……フューレンの方はあたしの教え子のイルワが条件付きで提案してきたんじゃあないのかい?」

 更にえげつない追い打ちが決まる。わずかな隙すらないロジックで攻められればもう降参するほかない。アレーティアも深く、ふか~くため息を吐いてうつむくのがせいぜいであった。

「ったく、どこまで見通してるんだよ……実際その通りだよ」

「流石ねキャサリン……」

 その洞察力にクリスタベルも思わず舌を巻いており、龍太郎もそれを認めるだけだった。だがこれでオバチャンは追撃の手を緩めることはしなかったのである。

「そりゃあ教育役をやってたからね。これぐらい頭が回らなきゃやってられなかったさ――それで、どういった経緯で王国とイルワの奴とも協力関係を結んだんだい? あたしに教えておくれよ」

 あの人の好い笑顔を浮かべながら世間話でもするかのように迫ってきている。キャサリン恐るべし。この人を敵に回したらいけないと四人は心に深く刻みこんだのであった……。
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