では改めまして拙作を読んでくださる皆様に惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも192575、しおりも437件、お気に入り件数も896件、感想数も692件(2023/12/23 20:08現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして多くの方に読まれ、気に入って下さることはとても喜ばしいことです。
そしてAitoyukiさん、sahalaさん、拙作を再評価してくださり誠にありがとうございます。おかげさまでまた筆を進める力をいただきました。本当に感謝いたします。
では今回の話を読むにあたっての注意事項ですが、少し長め(約12000字)となっております。それではそれに注意して本編をどうぞ。
「じゃあまずは名前、それとどこの村か街の出身か言ってくれるかな」
「えっと、ぼくはシェルビーです。ぼくがいた村は――」
保安署の職員の一人が五歳の子供に尋ね、たどたどしい様子ながらも話してくれた内容を聞き取りペンを走らせている。保護した子供の聞き取りのために解放された冒険者ギルドの応接室でそれは行われていた。
「なるほど……ありがとう。出来るだけ早く家に帰れるようにするからもう少し待っててね」
「うん……」
ペンの動きを止めた職員が笑顔で話しかけたものの、シェルビー少年はすぐに『おじちゃん』と呼んで慕っている人間の後ろに隠れてしまう。しかし職員は特に嫌な顔をすることなく別の子へと視線を向けた。
「じゃあ次はそっちの海人族のお嬢ちゃん、こっちに来てお話しをしてくれるかい?」
「みゅ……わかったの」
そうして職員に声をかけられた亜人の女の子もある少年の服の裾を掴みながらも質問に一つずつ答えていく。
「ねぇまだ? まだ終わらないの?」
「おじちゃん、何かやってよー」
「外行きたい。早くお外行こうよー」
「……あの、いつ頃終わりますか?」
そんな中、十人ほどの子供達に群がられていた一人の少年が少し疲れた様子で保安署の職員に質問をする。しかし聞き取りを行っているのとは別の職員からの言葉に彼は思わずため息をこぼしそうになってしまう。
「すいませんね。あとそこの三人から聞き取りを終えるまでですので」
「そう、ですか……」
これも子供達を家に帰すためであることはわかっている。だから仕方ないと少年――永山重吾は出そうになったため息を呑み込む。
「ありがとうねミュウちゃん。じゃあそこの髪がアッシュブロンドのキミー、どこの誰か私に話してくれるかなー?」
何故彼がここにいるかというと保安署の方から呼び出されたからだ。保護した子供達が“勇者のおじちゃん”を探したり会いたいと言っていたために聞き取りが中々進まず、それで件の人物の特徴を聞いた結果、子供達を最初に保護した彼を見つけに職員が来たのである。
「ねぇおじちゃんまだ~?」
「おじちゃん、お話聞かせて。勇者さまなんだからおもしろいのあるよね!」
そこで職員と共に来てみれば重吾を見つけたと同時にどこか安心した様子で子供達が駆け寄り、どうにか聴取が進んだということである。親戚の子供の面倒を見たことはあったものの、十人単位でいる子供達の相手をするという経験なんて彼には無い。服やズボンの裾やら背中に登って髪の毛を引っ張ってくる子供達に振り回され、重吾は心の中で嘆いた。どうしてこうなった、と。
「……言っておくが、俺は十六だ。おじさんじゃない」
そしていくらオッサン顔とはいえどまだ二十歳にもなっていないというのに『おじちゃん』扱いは地味に堪えた。それで訂正したものの、肝心の子供達の多くは納得してない様子で『えー』と訝しげな視線を向けている。ひどく率直なリアクションに最近眉間のしわが増えた少年は心の中で涙を流した。
「おじちゃん肩ぐるましてー」
「お兄ちゃん、もっとお話聞かせてよー」
かくして長い取り調べも終わり、子供達を家に戻す際のルートを検討するからと言われて解放された重吾と子供達。だが彼らはアテもないままにただフューレンの大通りを歩いていた。
平時であれば露店の呼び込みや通りを行く客の熱気などで大いににぎわっていたであろうここは自分達以外誰も見当たらない。裏組織の摘発も終わったばかりで当たり前のことではあったのだが、子供達の声がよく通るこの道を行きながら重吾は一人思う。
(……俺は結局、何がしたかったんだろう)
いきなり異世界に来ることになり、家に帰れなくて枕で涙を濡らしたこともあった。戦争に参加することになった上にその訓練はいきなり厳しいもので、部活のそれとは比べ物にならないほどにハードでその場に倒れこみそうになったことだってあった。
(キツい訓練を乗り越えて、オルクス大迷宮で死にかけて、それでも訓練を続けて……俺は結局何を得たんだろう)
それを乗り越えたら今度は魔物の討伐だ。平野部で生き物を殺し、生理的な嫌悪を覚えつつも今度は地下の大迷宮でのものに切り替わった。だが前々から敵視していたクラスメイトのせいでそれは死と隣り合わせのものとなってしまい、当時は頼りにしていた神殿騎士と騎士団の人間が戦い合って頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。それでも大迷宮での訓練が続き、先に進めなくなったら盗賊の討伐をやらせられた。
(人殺しをしただけで俺は……飾り物の勇者をやってただけだ)
今となってはハニートラップ要員だったとわかる女にいいように言いくるめられ、やってのけた討伐を終えたらその次は行方知れずとなったクラスメイト達との戦いに望んで身を投じた。その果てに得たのは愛していたはずの女や信頼していた大人からの裏切りと罵声、お飾りの『勇者』として身に着けた振る舞い、そしてどうにか守れた『友達』の命だけ。微塵も釣り合わない結果しか返ってこなかった。
(……あの時、俺に勇気があれば――)
「おじちゃんどうしたの? お腹痛い?」
ずっと敵視していたクラスメイトに頭を下げていればきっと違う未来が得られたかもしれない。そう思っていた少年の耳に彼を心配した様子の子供の声が入り、ハッとした重吾は視線を下に向けた。
「私たちうるさかった?……ご、ごめんなさい」
「やっぱり僕たちめいわくだったの?」
「違う……そうじゃない、そうじゃないんだ」
どこか怯えた様子の子供達に何も悪くないとすぐに重吾は伝えるが、委縮した様子の彼らにその言葉は届かない。目に涙を浮かべ、びくびくしながらこちらの機嫌をうかがうように見つめてくる。
「君達は悪くない。悪く、ないんだ……だから」
「でも、でもお兄ちゃん、苦しそうだったの」
「僕たちがわがまま言ったから……だから、でしょ?」
ここで重吾は思い出した。この子達は人さらいに遭っていたことを、あの暗い牢屋の中で身を寄せ合っていたことをだ。他人が怖くて仕方ない。機嫌を損ねたらどうなるかわからないという状況で過ごしていた。なら自分を怖がるのも当然だと思い至り、自己嫌悪で胸がねじ切れそうになる。
「違う……違うんだ。俺の話を聞いてくれ」
「ご、ごめんなさい……あ、あやまるから許して……」
「そうじゃない。そうじゃ――」
「あらん? どうしたのかしらん?」
見捨てられることへの恐怖に満ちた目で見られ、どうすればいいと焦りとパニックで息が詰まりそうになった時、聞きなれない
「どうしたよクリスタベルさん?」
「おや……あんた達、あの子供達は誰なんだい? どうもきな臭い事情がありそうだけど」
「あぁキャサリンさん、実は――」
重吾が目を向ければそこにいたのはクラスメイトに彼らの仲間らしい絶世の小動物系美少女、そして一切見覚えのないオバチャンと二メートル大の筋骨隆々の何かであった。
「お、おじちゃん。あ、アレ……」
「お、俺の後ろに隠れてろ……だ、大丈夫だ。俺が守る……っ」
特におそろしくいいガタイをした性別が男っぽい何かに
「んもぅ、子供の前じゃなかったら
「ひっ!?」
「う、ぅぇぇ……」
「みゅ……? おに……おねぇ、ちゃん?」
一方魔物と勘違いしてしまいそうなおぞましい何か……もとい漢女はプリプリといった様子で『私、怒ってるわよん』と言いたげに手を腰に当てていた。なお顔面に幾つか青筋が浮かんでいたせいでほとんどの子供達が一層震えあがっていたが。
「いやその顔で言っても説得力ねぇよクリスタベルさん。血管浮き出てたら怖ぇって」
「大介、それを言うのは流石にクリスタベルさんが可哀想だと思う……“鎮魂”」
そんな折、クラスメイトの一人である檜山大介のそばにいた美少女が何かをつぶやくと共に重吾の中から恐怖が消え去り、目の前にいるナイスバルクな性別不詳の何かも穏やかな面持ちになっていく。
「あらん? ありがとうアレーティアちゃん……ふふっ、気遣いの出来る子を持てて大介きゅんも幸せねぇん♥」
「……おう」
「あれ……こわく、ない?」
「うん……落ち着いた気がする」
もしやと思って子供達の方に目を向ければ、彼らも困惑した様子ではあったもののその顔色は良くなっている。間違いなくあの少女のおかげだろうとそちらを向き、重吾は軽く頭を下げた。
「助かった……子供達はもう大丈夫だ」
「ん……気にしないでください。怯えてたら話が出来ませんから」
「それでもだ。ありがとう」
やや他人行儀で返事をした少女に再度感謝を述べてから頭を上げれば、今度は白崎が連れである坂上と例のバケモノの手を引いてこちらへと近づいてきた。
「さっきは驚かせてごめんね。私は白崎香織。香織って呼んでね。それとこっちのおっきくて頼りになる男の子が坂上龍太郎くん! それでこっちの親切な、えーと……親切な人がクリスタベルさんだよ!」
「あー、おう……坂上龍太郎だ。ま、よろしくな」
「さっきは怖がらせちゃってごめんなさいねぇん。あたしは漢女のクリスタベルよぉん♥ よろしくねみんな♥」
近づくなり白崎はかがんで子供達と目線を合わせ、連れて来た二人の分も合わせて自己紹介をする。微笑みながら紹介した白崎に何を言えばいいのか迷いながら名乗った坂上、そして余計に謎が深まる自己紹介をしたクリスタベルを子供達は戸惑った様子ながらも見つめ返していた。
「……ねぇ香織お姉ちゃん」
「どうしたの? 何か聞きたいことでもある?」
「えっと、その……お兄ちゃんとは知り合い、なの?」
重吾としても何を言えばいいのか――特にクリスタベルとかいう白崎らと普通に親しく話をしている何者かに対してだ――と思って思案していると、海人族の女の子が彼の服の裾を掴みながら前に出て、白崎に話しかける。すると白崎も軽く視線をさまよわせてからその質問に答えた。
「えーっと、そう……だね。そんな感じだよ」
白崎のその返答に重吾も内心ホッとしていた。クラスメイトという関係ではあったが、親しいというよりこちらが一方的に敵視していたことを隠してくれたからだ。あくまで知り合いという体を通してくれたのだが、少女はその答えにどうも納得がいかなかったらしく、首を軽く傾げながら白崎の方をじっと見つめていた。
「ホント? ホントに香織お姉ちゃんはお兄ちゃんと知り合いなの? 何かかくしてない?」
「う、うん! そ、そうだよ!」
「……お兄ちゃんもそう、なの? ウソついてない?」
「あ、あぁ……そうだ。信じて、くれ」
そこで重吾はこの少女のものを見る力のすごさを知ってしまう。白崎と自分の間柄のことを見抜いた様子で問いかけてきたのだ。純粋な瞳で見つめてくるものだから嘘をついていることへの罪悪感も強く、どちらもそうだと返すのが精一杯であった。
「みゅ……わかったの。ごめんなさい」
そうしてじっと見つめ合うことしばし。ようやく亜人の少女も追及を止めたが、自分のズボンの裾をギュッと握って何かを我慢するような様子を見せる。きっと言いたいことをこらえているんだと察した重吾は余計に胸が締め付けられる思いに駆られてしまい、何をやっているんだとまたしても自己嫌悪に襲われる。
「まったく……香織ちゃん達だけじゃなく、あんた達も大変だねぇ」
気まずさでどうにも空気が沈んでいた時、苦笑しながらオバチャンが重吾の元へとやって来る。すると彼女と共に歩いてきた檜山と美少女もこのことに言及してきた。
「まぁ、そうだよな。お前だって本当のこと言えねぇだろ。カッコつけてたって聞いたし余計によ」
「永山さん、その思いは私にもわかります……気に病む必要は無いですから」
檜山の方はぶっきらぼうではあったものの、自分に向けてくれた彼らの気遣いに余計に苦しさを感じてしまう。檜山の言った通り、この子達の前でとっさに勇者だと嘘をついてしまったせいで本当のことを言って失望されるのが怖かった。自分はそんな大それた存在じゃないということがわかって責められるのが嫌だった。そしてそんなことに怯えてしまう情けない自分が嫌で仕方なかったのだ。
「放っておいてくれ……こっちのこともわからないで、触れないでくれ」
だからこそ向けてくれる優しさを重吾は拒絶する。苦しみにあえぐが故に何に手を伸ばせばいいのかわからなくなってしまった少年は自分と共に戦い抜いていたクラスメイトと、変わり果ててしまってもなお自分達を救おうとした教師以外の誰かを信じることが怖くなってしまっていた。
「おじちゃん……おじちゃん」
「こ、来ないでよ……おじちゃんいじめないでよ!」
「……お前達、どうして」
けれどもそんな自分を心配そうに、必死になって守ろうとする子供達を見て重吾の心は揺れる。どうして、噓つきの自分なんかにどうして優しくするのかと思ってしまう。
「重症だねぇ、全く……この子達も健気だよ」
オバチャンのつぶやきは重吾の耳には入らない。子供達が自分を守るべく必死になっていることで頭がいっぱいになっていたからだ。そして彼が驚いたのはこれだけに留まらなかった。
「お、お兄ちゃんから離れるの!」
「ぼ、ぼくたちがおじちゃんを守るんだー!」
「いや何にもしねぇって……ったく、これじゃあ俺らが悪者だな。おい永山」
亜人の女の子が近づいてきた檜山の服の裾に掴みかかったのである。引っ張ったり揺らしたりして抵抗すると、他の子も続いて彼の足にまとわりついた。誰もが自分のためにと動いていたのだ。その様にただ呆然としていた重吾に対し、檜山も罪悪感を感じた様子ながらも彼の手を掴みながら声をかけてきた。
「ちょい俺らに付き合え。ま、悪いようにはしねぇよ」
「永山君、お願い」
「……わかった。好きにしてくれ」
檜山からの唐突な提案、白崎からの頼みを重吾は断れはしなかった。自分も健太郎も彼らに負けてしまったのだ。彼らの機嫌をあまり損ねない方がいいと考えながら子供達に声をかける。
「行こう、皆……何かあっても俺がいる」
そう言って子供達をなだめ、彼は心配そうにこちらを見つめてくる少年達の後を追うのであった。
「この店はやっていてくれたのは不幸中の幸いってやつだね。さて」
大通りから場所を移し、まだ経営していた酒場にたどり着いた重吾達。全員が何かしら注文を終えた後、道すがらキャサリンと名乗ったオバチャンが話を切り出す。
「あんた達が世間じゃ神の使徒って呼ばれてた子だね?」
「まぁ、そうだな。俺は野村健太郎。で、こっちにいるのが辻綾子と吉野真央だ」
「えっと、その、はい」
「うん。よろしく~……」
適当に腰を落ち着ける場所を探していた際、どこか手持ち無沙汰だった様子の健太郎、綾子、真央とも合流し、こうして同席しているのだが彼らの表情もどこか硬い。そんな彼らではあったが重吾から知り合いだと聞かされてからは子供達がそばに寄っており、気遣うように見つめたり服の裾を掴んだりしていた。
「おじちゃん……」
「大丈夫、大丈夫だから……それで、話は何だ」
亜人の女の子を含む子供達もどこか不安そうにしばしばこちらに声をかけたり視線を向けてくるため、彼らが安心してくれるよう重吾は根気強く声をかけている。
ピーク時を過ぎたからかそもそも人がいなくなったせいなのか、自分達以外に客がいない酒場で重吾の声が響く。するとキャサリンと白崎がそれに答えた。
「大した事じゃあないさ。何か食べながら世間話でもしようかと思っただけでね」
「私の方から言ってみたの。永山君、辛そうに見えたから」
キャサリンはおくびにも出さなかったが、白崎の表情からはどこか自分達を気遣う様子が見て取れた。そこまで自分は思い詰めていたかと幾つもある心当たりのある点を頭の中に浮かべていれば、店の人間が頼んだ品を幾つか持ってきた。
「ま、食いながら話そうぜ。支払いは俺らが持つからよ」
「王国のツケにはするなよ、大介」
檜山が気前のいいことを言ったと思えばすぐさま坂上にツッコミを入れられ、顔をそらすと共に口笛を吹く。どうやら図星だったらしい。
一体何なんだと軽く気が抜けるやり取りを見てると、重吾の目の前にも頼んでいた十個の黒パンにスープの皿が数枚出された。
保安署の職員から消化の良い食べ物を子供達に与えたとは聞いていたが、囚えられていた場所が場所であったしまだお腹が空いているかもしれないと思って注文したのである。顔を向ければ子供達はじーっと皿を見つめており、やはりまだ食べ足りなかったのだろうと思って重吾は声をかける。
「ほら、食べるといい」
「いいの? ありがとう、おじちゃん」
「あぁ。待っててくれ」
こういった場所に来ることがまずなかったため重吾は相場を知らない。とはいえ、キャサリンとクリスタベルがメニューを見てた時に渋い顔をしていたことから恐らく高かったのだろう。
(具が少ないし、それにこのパンも硬い……話は聞いていたが、今のトータスはここまで厳しいのか。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない)
出されたスープはあまり具が浮いていないし、パンもガチガチで王宮で神の使徒として生活していた頃にはお目にかかれなかった。それもこれも今のトータスの状況が悪いせいなのかと思いつつも、それよりも子供達の食事が先だと重吾は黒パンを細かくちぎってはスープに浸し、かなりふやけた辺りで渡されたスプーンにそれを載せる。
「口を開けてくれ……ん」
「あー……んっ」
注文した際に衛生面も考えてスプーンも人数分頼んでいたのだが、『客が来るかもしれないからこれで我慢してくれよ』と半分の五本を用意してくれた。少なかったとはいえ無理を聞いてくれた店側に感謝しつつ、重吾は渡された木のスプーンの一つを使って子供の一人の口へとふやけたパンを運んでいく。
「ふふっ。なんだか子沢山のパパみたいねぇん♥」
「……俺はそんな大した人間じゃない。あと歳も檜山や坂上と変わらない。そういう風に見るのはやめてくれ」
そんな時、ふと同席していたクリスタベルが微笑ましげな視線と共にそんな事をつぶやいた。それを言われた当人も見た目を気にしていたこともあって言い返したものの、相手の見た目が見た目なだけにあまり強くは言及できず。すると甲斐甲斐しく世話をしている重吾を見て、キャサリンも彼の行動を評価してきた。
「何言ってるんだい。見た目も歳も関係ないさ。あんたなりにちゃんと子供達のことを考えて動いてるじゃないか。クリスタベルが茶化したのはともかく、面倒を見てる様は似合ってるさ」
「それは……だって放っておけないだろう。この子達だって好きでこうなった訳じゃない」
微笑みながらそう述べたキャサリンに対し、少し照れくさそうに返す。同情からの行動であったり年上に見られる発言がちょっと嫌だったというのもあったが、人に世話をしている様を見て色々と言われるのはあまり慣れていなかくて恥ずかしかったのが大きかったのである。
そうやって子供達にご飯を与えていると、思わぬところからフレンドリーファイアが飛んできた。
「確かにそうだな。でも重吾、勇者やってた時よりも似合ってるよ」
「おい健太郎っ……!」
「そうね。勇者やってた時は顔つきが険しかったし。今の重吾君、少し柔らかい顔してたから」
「うん。貴族の人達を相手にしてた時なんか表情作って頑張ってたしね。それによく眉間にシワ寄ってたよ」
「綾子と真央も……勘弁してくれないか」
運ばれてきた料理に手を付けながら健太郎、綾子、真央もクスッと笑いながらそう言ってきたのである。
これには流石に顔を赤くして軽くうな垂れるしかなく、軽くオロオロしてしまった様を子供達に見つめられるも『何でもない』とため息を吐きながら返すのが精一杯だった。
「……重吾はさ、もう頑張らなくていいよ」
そうして恥ずかしながらも重吾が子供達に食事を与えていると、不意に健太郎がそんなことをつぶやいた。
「俺達のためにさ……頑張って頑張り続けて。もう十分じゃないか」
子供達の前だからか言葉を選びながら己の胸の内をポツポツと語っていく健太郎。重吾も親友からの言葉にどこか胸のつかえがとれたような心地であったものの、子供達の手前リアクションを起こすことも出来ず。だがそんな時、ひとりの子供が不安そうに漏らす。
「ねぇ、おじちゃん。おじちゃんは勇者したくないの?」
「それ、は……」
その言葉に重吾は答えられない。子供達を助け出したあの時、とっさに出てしまったあの嘘を認めてしまいたくなかったからだ。自分達と変わらない境遇の子供からすら幻滅されたくない。そのつまらない意地が彼の口を閉ざしてしまう。
「……あのときもお兄ちゃん、つらそうにしてたの」
「うん。ぼくたちも見ててわかったよ」
だが自分があの時ついた嘘を彼らは既に見抜いてしまっていたということが今明かされた。これには恥ずかしさを覚えたものの、今ここで言ってしまえば楽になれるかもしれない。そう思って何もかもをぶちまけようとした時、海人族の女の子が見上げながら、少しだけ涙ぐんだ様子で重吾に思いを伝えてきた。
「でも、でもね。ミュウ、うれしかったの。くらくてさむかったあそこからお兄ちゃんはミュウもみんなも出してくれたの。だから、だからお兄ちゃんは“勇者”なの」
年端も行かない子供らしいたどたどしい喋り方で、けれどもハッキリと己の思いを口にしてきた。その言葉を聞くと同時に重吾が持っていたスプーンが落ち、他の子供達も彼に向けて様々な思いを伝えてくる。
「僕も……僕もおじちゃんのことかっこいいって思った。だって、あそこから僕たちを助けてくれたんだもん」
「でも……おじちゃんがつらいならやめていいよ。勇者さま」
「ぼくたちを助けてくれたとき、どうして苦しそうにしてたかわかったよ。イヤだったんだよね。勇者をしてるの」
「カッコいいんじゃなかったら勇者さまなんてやめようよ。おっちゃんのわらってる顔のほうがずっといいもん」
「お前達……みんな……」
子供達はわかっていた。自分の抱えていた苦しみを。自分が勇者という『役割』に囚われてしまっているのを。だから捨てていい。しなくてもいい。もうこの『型』から抜け出してもいいのだと思って目頭が熱くなる。
「香織ちゃん、そろそろ休憩の時間も無くなるだろうしブルックに帰らせてくれないかい?」
「あ、はい……わかりました」
その時キャサリンが地元であるブルックへと戻ると言い出し、それを聞いて微笑んだ白崎らはすぐに席を立った。そして檜山がどこかばつの悪い様子でテーブルの上の料理に視線を向けながら、独り言らしい何かを漏らす。
「あー、頼んだのはお前らで食ってろ。俺ら腹いっぱいだわ」
「……ありがとう。檜山、白崎」
「気にするな。お前らの気持ちはわかんねぇ訳じゃねぇさ。じゃ、行くぞ香織」
「うん。私達は責めないからね」
尤もらしいことを言いながら席を外そうとしているのが彼らなりの気遣いであることには重吾達も気づいていた。今この場で存分に泣いていい。好きにしていいと言外に伝えた彼らに重吾だけでなく健太郎達も感謝していた。
「じゃ私も戻ろうかしらん……あなたのことは龍太郎きゅんから聞いたわ。大人なんか信じたくないとは思うのはわかるわよん。でもね、あなたが守った子供達は信じてあげて。それがあたしからのお願いね」
同様に席を立ったクリスタベルも去り際に重吾にそう伝える。言われなくともと思いながらも重吾は子供達を、健太郎、綾子、真央を見つめる。
「こんな……こんな不甲斐ない俺でいいのか?」
「いいも悪いもねぇだろ。俺達は親友じゃないか、重吾」
「うん。もうリーダーなんてしなくってもいいよ永山君」
「そうだね。もう勇者もリーダーもお休み。ただのクラスメイトとしてやり直そうよ」
健太郎達の温かい言葉と共に両の目から涙があふれる。ダメな自分でもいいと言ってくれた親友に、もうただの『永山重吾』になってもいいと言ってくれた友人らにとめどなく感謝があふれる。
「おつかれさま、おじちゃん」
「ごめんなさいおじちゃん。僕たち、おじちゃんがずっとつらそうにしてたから、だから少しでもわすれてほしいって思って」
「ぼくたちとあそんでたらきっとイヤなこともわすれるって思ったの。ごめんなさい……」
「いい……いいんだ。もう、いいんだよ……」
泣きながらも自分を気遣ってくれる子供達に涙をボロボロと流しながら重吾は答える。この子達はずっと自分の心に寄り添ってくれた。自分達だって辛いだろうにこちらを気遣ってくれたことが嬉しくて、自分が情けなくて、それでもありがたくて。ただただ涙があふれ続ける。
「ありがとう皆……俺、もう……やめるよ、勇者。ごめんな、皆」
「馬鹿言うなよ。親友」
「うん。勇者じゃなくてもお兄ちゃんはカッコいいの!」
そうして遂に少年は背負わされた役目を脱ぎ捨てた。ずっと共にいてくれた友人達の支えが、自分を思ってくれていた子供達の心が彼をただの少年へと戻したのだった……。
重吾が健太郎らと子供達の前で勇者を辞めると宣言した翌々日のこと。重吾と子供達はハイリヒ王国の都、その郊外にある畑で健太郎達と一緒に収穫作業をやっていた。
「うんしょ、うんしょ」
「無理はするな。持ち運べる量だけでいい」
フューレンにいてもやれることもなく、また子供達が親元に戻れるまで少し時間がかかることから手持ち無沙汰となってしまったのだ。そのためここ数日は畑仕事を手伝ってもらったり、健太郎らに協力してもらって子供達と遊んだりしている。
「おじちゃーん! おっきいおイモ出たー!」
「そうか。偉いな」
中村らがエリセンに行く際に子供達のいた村や街へ寄って移動用のアーティファクトを設置しているため、設置さえしてしまえば移動そのものはすぐらしい。だが、寄る場所が多いためあと一日ほど時間がかかるとのことだ。なので子供達は今日も重吾と一緒にいるために仕事をしている。なお子供達の『おじちゃん』呼びを訂正するのはもう諦めていた。
「良かったなリーダー、じゃなかった。重吾が元気出たみたいで」
「だよな。ずーっとしかめっ面ばっかだったし」
「あぁ……俺達も自分で何とかしなくちゃな」
「昇お兄ちゃんたち、どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
その様を見た相川昇、仁村明人、玉井淳史はうんうんとうなずいて彼らを見ている。そしてそう述べた淳史の言葉に昇と明人も彼と同様にやや力なく笑っていた。そこを子供達に見られたものの、三人ともやや引きつった笑みでごまかそうとしていた。
「……無理はしないでくださいね。相川君、仁村君、玉井君。何かあったら私に頼ってください」
「……うん」
そんな彼らに愛子は自分を頼るよう述べるも、返事をした明人と同様に昇も淳史も苦笑いを浮かべている。仲間以外の人を信用するのが怖くて、かといって精神的に危うい愛子に寄りかかるのもはばかられる。だからこそもう重吾に頼りっぱなしでいるのではなく、自力でどうにかしないといけない。そう思って彼らはどうにか自分を奮い立たせようとしていた。
「重吾お兄ちゃーん!」
そうして全員で収穫した作物を種類ごとに木箱に分け、それぞれの宝物庫へとしまうと亜人族の女の子が重吾へと駆け寄って来た。
「お仕事おわったの! ミュウたちと遊んでほしいの!」
「あぁ。待っててくれ。ミュウ、皆」
彼が保護した子供の中で、特に海人族の子供であったミュウが懐いている。片時もそばを離れることなく、よく重吾と一緒にいる。そのせいで夜も重吾がそばにいるようになったのが、子供達のために割り当てられたフューレンの宿の大部屋で全員一緒に寝ることになってしまったのはここだけの話。
「ホントにミュウに慕われてるよな重吾」
「……まぁ、悪い気はしない」
健太郎にからかい半分でそう言われるも、重吾はそう述べた通り子供達から慕われることにもう疑問を抱くことも罪悪感を感じることも無くなっていた。自分達と変わらない境遇だったのと、子供達の本音を聞いたことがプラスとなって彼の新たな支えとなっているからやもしれない。
「だって重吾お兄ちゃんはミュウたちを助けてくれましたからー」
『たすけてくれたからー』
むふーと自慢げに言うミュウに続いて子供達も軽くドヤ顔を浮かべている。それがなんだかおかしくて綾子や真央、他にも健太郎や昇達もつられて笑みがこぼれた。
「じゃあ行こうか……今日はどうしたい?」
「かくれんぼー!」
「おままごとー!」
子供達に今日は何をして遊ぶかのリクエストを聞き、何をしようかと健太郎らと話し合いながら重吾は歩いていく――メッキの勇者は今、静かに黄金の輝きを放っていた。
なんだかんだ子供達も助けてくれた重吾のことをこれぐらい思っていると自分は考えてます。それと今年中にもう一回更新したいなーとおもってますまる