おかげさまでUAも194858、しおりも440件、お気に入り件数も897件、感想数も701件(2024/1/14 15:07現在)となりました。本当にありがとうございます。こうしてまた見て下さる方が増えてくれたことには感謝しかありません。真にありがとうございます。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当にありがとうございました。また筆を進める力をいただけました。感謝に堪えません……。
では今回の話を読むにあたっての注意点としてやや長め(約13000字)となっております。それでは上記に注意して本編をどうぞ。
「すまん……本当に迷惑をかけた」
おそらく重吾から飛んできた謎の“念話”のせいで今にも飛び出していきそうな愛子を説得し、とりあえず出された料理を食べ終えてから会計を済ませた恵里達一向。その後、今重吾達がどこにいるかを愛子経由で聞き出しながらその家へと向かっていった。
「驚きましたよ全く……あなた達に何かあったと思ったら、私は……」
「あんまりじゅ……
愛子から聞いた話では重吾達は無事ミュウの家にたどり着けたらしいのだが、どうもご近所さんが原因でやたらと人が集まって集会のようなものが起きているのだとか。実際家の近くまで来てみれば無数の海人族の男がたむろしており、何かを聞いている様子であった。
「しかし一目見てみれば、なかなかにしっかりした奴じゃないか」
「フューレンの方で大捕物に加わった腕利きの冒険者だ、って付き添ってたギルドの職員が言ってたしな」
「ぐぬぬ……レミアさんとミュウちゃんは俺の方がもっと知ってるってのに。クソッ、悔しいぜ……」
そしてその男どもは揃って重吾のことをアレコレ言っており、男の嫉妬がかなり強めに出ているものの、彼を認めている意見が多い。コイツら一体何しに来たんだと恵里は呆れた様子で男どもを見ており、とりあえず何があったのかを尋ねるべく家の中へと入って渦中の人物と対面したのである。
「そ、それでアーヤさん、だったか? 本当にレミアの足は治るのかい?」
「は、はい……流石に数日かけないと無理、ですけど」
「数日、数日か! そんな腕の立つ治癒師まで連れてきてくれたのか」
「いやとんでもない人じゃねぇかアンちゃん! ハハッ、こりゃ駄目だ。俺達よりもよっぽど頼りにならぁ!」
そうして話を聞き取った結果、ミュウの母であるレミアの家にご近所さんが上がり込んで元気づけていたところに重吾達が来たということ、そこでミュウが彼のことをパパと呼んだのを聞いてレミアのファンの男どもが集まったということがわかった。一体何をやってるんだかと恵里達が再度呆れたのは言うまでもない。
「パパ、ミュウ悪いことしちゃったの?」
「いや……ミュウは悪くない。まぁ、その、多分」
その際、自分のせいで皆に迷惑をかけたのではと泣きそうになったミュウをすぐに重吾が止めていたりする。ちなみに恵里はその様を見て、心の中で『立派にパパやってるじゃん』とからかっていた。
「ふふっ。いなくなったミュウが帰ってきて、私もヴィンスさん達もちょっと驚いただけよ。ミュウは悪くないわ……それと皆さん。久しぶりにミュウが見つかって、それで私の足が治るかもしれないと聞いてヴィンスさん達が盛り上がってしまったせいでご迷惑をおかけしましたね。申し訳ありません」
こうして事情がわかったことで愛子の心配が単なる杞憂に終わってくれたことは確かであった。だが、今回の騒ぎのことで愛子含むこちらにいらぬ心配をかけさせてしまったことをレミアがわびると、男衆どももつられてこちらに頭を下げてくる。すると愛子がため息を吐きつつもレミアの方へと顔を向けた。
「……その謝罪は受け取っておきます。それで、ジュード君をこちらに泊めると言いましたがこの子の相手をしてもらいたいからですか?」
「それも無いとは言いません……娘とこうして再会できたのは全て
ミュウの方に一度視線を向けてから愛子はレミアに問いかけた。本当に重吾達をこの家に泊める気なのかと。ミュウの家に行く中でそのことを愛子から聞いており、ミュウを連れて来たことと自分の足を治すことのお礼としてそうしたいらしいと訝しげに言っていたのを恵里も覚えている。愛子からの問いかけを聞いたレミアは微笑みを絶やさぬまま、そう愛子に答えた。
「……ジュード君、
「いや、その……ミュウをこの家に連れてきてから色々とありまして……」
「質問攻めやら持ち上げられたりでさ……その、探す暇も無かったんだよ」
「流石に悪いって思ったんだけど、レミアさんに断られ続けちゃって……」
「部屋はいくつも空いてるから好きに使ってくださいとか、好きな時に治療が出来ますとか言っててぇ……」
愛子からの質問に重吾達は顔をそらしたり引きつった笑いまで浮かべながら答えていった。どうもミュウの母親はおっとりしている風ではあるが、相当押しが強いらしい。また彼らがこう述べたにもかかわらず全然焦った様子もなかった。なかなかに肝も据わっているということを察した恵里はレミアのクセの強さに『えぇ……』と軽く引いてしまう。
「……申し訳ありませんが、彼らにも色々と事情がありまして。
「あら、そうでしたか……ですがもう時間も遅いですし、宿の方も空き部屋がどれだけ残っているかわかりませんよ? それに私はジュードさん達にお礼をしなければならない立場ですし、無理を言ったりはしないつもりです」
重吾達のメンタルを守ろうと語気を強くしながら語る愛子に対し、何かを感じ取ったのか真面目な顔でレミアもそれに答えていく。あくまでもこちらの考えを尊重するといった感じで答えており、愛子から目をそらさず、目が泳ぐこともなかった辺り裏も無いのだろうと恵里は察する。
「一人でいたい、親しい相手と時間を過ごしたいとこの子達が思った時はどうするんですか? 一緒の家だと気が休まらなかった場合は?」
「もちろんその時は私も引きます。ミュウにもちゃんと言って聞かせますよ……それに、この家は結構広いですから。ジュードさん達の分の部屋は一人ずつあてがっても問題ありませんし」
「レミアさんの、いや俺達の恩人だからな! 駄目だったら俺らの家に招くぜ!」
「エリセンの家は基本広いからな! 気を遣えばその程度問題ねぇ!」
その後も外野からのヤジを加えながら愛子とレミアが何度も応酬を繰り返す。お互い押しが強かったものの、どうしても重吾にお礼をしたがってる様子のレミアが根気強く反論していく。
「えっと……こういう時って、ジュードさん達本人の意志を確認するのが先ですよね? いや
「結構神経質になってやがるからなぁ……なぁ、そっちはどうなんだよ?」
そんな時、恵里達同様蚊帳の外であったシアが尤もなことを口にした。それに良樹も応じて重吾の方に視線を向ければ、彼らも心底気まずそうにしながらも自分の意見を言葉にしていく。
「……レミアさんの言う通りだ。今から宿を探しても空き部屋が無いんだったら、な」
「なぁ愛ちゃん、俺達のことを大切に思ってるのはわかるよ。けどさ、レミアさんならきっと大丈夫だよ」
重吾は軽くため息を吐き、仕方ないといった表情をしながらもその声色は明るかった。また健太郎の方も少し怯えが見られる表情ながらも愛子を気遣い、重吾に引っ付いているミュウを一瞥した後にそう述べた。
「二人とも……でも」
「そうだよ。けん……ケインくんの言う通りだよ。きっとレミアさんは良い人だよ。その、こんな風に目の下にクマ作ってるんだし」
「そうだね~。レミアさん、ミュウちゃんに何度も謝ってたし……悪い人は謝らないよ、きっと」
それでも説得を続けようとしている愛子に対し、健太郎に腕を絡ませたり手を強く握りながら綾子と真央も推測を伝えていく。
二人の動きからして、多分ミュウの前だから見栄を張ってはいるもののまだ怖いのだろうと恵里は推測していた。だが綾子の言う通りレミアの目の下にはクマが出来ているし、心なしか少し頬がこけているようにも見える。それに先程から表情や声のトーンから悪意の類が見られないことから手助けして恩を売るのもアリかと恵里は考えた。
「そんなに気になるならさ、そっちだって泊まればいいじゃん。今泊まってる宿を解約してさ」
「なか――」
「っ! そう、ですね! それなら……まぁ、目を光らせることは出来ますか」
そこで恵里が提案をすれば、愛子も納得した様子は見せた。その際重吾が自分の苗字をつぶやこうとしていため、もしやそれでバレるかと心底焦ったものの、愛子の方がすぐに大きな声で被せたおかげか気づいた様子は無かった。
「カムさん、すぐにホテルに戻りましょう。荷物を持ってきてこちらに厄介になります」
「……わかりました。その、レミア殿。お気を悪くしたのなら申し訳ありません」
「いいえ……皆さんも何か事情があるというのはわかります。けれどそれはここでは関係ありませんから」
「ありがとうレミアさん!」
「「「ありがとうございますレミアさん」」」
踵を返してすぐに家を出ようとする愛子をカムは追おうとする。しかしその前に一度レミアに謝罪すると、彼女の方もこちらが色々と抱えているのを分かった上で気遣いの言葉をかけてくれた。それに対してパルにシア、ハジメと鈴も感謝を述べた。
「いいえ。どういたしまして……本当なら私が料理を振舞ったりしたいところなんですけれど」
「おっしゃ。じゃあミュウちゃんを連れてきてくれたお礼に俺達で宴会開くぞ!」
「俺ぁカミさん連れてきて色々やってもらぁ! こんなめでたい席だしアイツも悪い顔しねぇだろ!」
ハジメ達が述べたお礼にレミアも返事をするが、今の自分ではもてなせないことを軽く嘆いて頬に手を当てながら短くため息を吐いていた。するとレミアを慕う男衆どもがやいのやいのと言いながらすぐに宴会を開く算段を立てていく。
「「「良かったね
「良かったですねジュードさん」
「まぁ良かったじゃねぇか。やっと頑張りが形になったんだしよ」
ハジメと鈴は純粋に彼を思った様子で、恵里の方はからかい半分で重吾に声をかけた。シアもちょっと感極まってた様子で、良樹もいくらか茶化した雰囲気ではあったものの、彼の苦労が報われたことにねぎらいの言葉をかけていた。
「……あぁ」
「パパ、良かったの! ヴィンスおじちゃんやウォルトンおじいちゃんたちがはりきってるの!」
「……あぁ。ありがとう、ミュウ」
自分達の返事に対してはやや気恥ずかしそうに顔を背けながらも返すばかり。しかしミュウの場合は向き合って彼女の頭を不器用ながらも優しくなでながら話しかけている。それを見て健太郎が彼の背中を軽く小突き、綾子と真央は微笑んでいた。
「ほらジュードさん、これ食えこれ食え!」
「エリーさん達だっけか! まだ腹が減ってるならアンタ達も食ってくれ!」
「おーいアイさーん達はまだかー? まだ……おー、来た来た!」
急遽開かれた宴会は恵里達も巻き込んで行われ、地元の人を中心に大いににぎわったのであった。
「おーい先生ー、そっちはどうだったー?」
ミュウの家近辺で宴会が行われたその翌日。エリセンに行く前に決めていたグループに分かれ、恵里達は信治、リリアーナ、ヘリーナの三人と共にエリセンにある商業ギルドと漁業ギルドが入っている建物を訪れていた。
「あ、
信治達、というかリリアーナはフューレンの商業ギルドからの推薦状を持ってギルドの支部長との話し合いに向かっていった。そして恵里達もその推薦状とリリアーナの口利きで漁業ギルドと交渉しようとしたのだが、対応した相手がなんと昨晩宴会に参加していた海人族の一人であった。
「運が良かったよ。何せ昨日会った人が受付にいたからね」
「おかげで推薦状を出さなくても結構スムーズにいけたよ」
そこで彼の口利きもあってすぐに秘書の一人を回してもらって色々と相談をしていたのである。それを終えて待合室の長イスに座って待っていると、少し経ってから信治達もこちらへと向かってやってきた。それで彼らをその場で立って出迎えたのである。
「マジか……じゃあ結果の方も」
「うん。とりあえず漁師の人は何人か確保。予定が変更にならない限りは獲りに行ってくれるって」
「気に食わないけどあの女が引っ搔き回してくれたおかげでね……」
恵里、ハジメ、鈴がやっていたのは水族館に展示する魚類を漁師に捕獲してもらうための交渉だったが、なんと結果は成功。宴会で知り合った相手の口利きもあったが、一番大きかったのは神の使徒の存在であった。コイツらがトータス全土に現れてお告げをし、トータス中が混乱に陥ったことで逆に漁師が暇になってしまったせいで自分達の依頼を受ける余裕が出来たのである。
「エリセンの方も情勢がいくらか不安定になってるのと大きな取引先であるハイリヒ王国との貿易を一旦取りやめたせいで漁師も仕事が減ったみたいでさ。金をチラつかせたらすぐに食いついてくれたよ」
仕事が減れば当然貿易に必要な金を獲得するチャンスが減る。だからこそ自分達が持ち掛けた仕事にも漁業ギルドが食いつき、数人の漁師を斡旋してもらえたのだ。
「なるほどな。じゃあ漁師の方はどうにかなるか」
「そうだね。それでそっちの方は? 渡されたリストに載ってた魚は買い取れそう?」
信治がこちらの成果を聞いてただうんうんとうなずいているのを見て、おそらく向こうも特に問題なかったのだろうと勘ぐった恵里は信治達の方の成果について尋ねてみた。すると担当していたリリアーナの方が反応する。
「そうですね。こちらの方も今かけあってもらっているところです。多くはこの街でも食用とされているものですし、余分があるなら幾らか買い取れるでしょう。それと船の方の手配も既に済ませています」
リリアーナ達が担ったのは水族館で展示する魚の買い付けとそれらを輸送するルートの確保であった。流石にこの街の中で大っぴらに宝物庫やゲートキーを駆使して運ぶという訳にもいかなかったため、商会の資金を出して向こうの港まで運ぶということとなった。もちろんある程度離れて人目が無くなったらアーティファクトの出番ではあるが。
「後は手配が終わるまでの間滞在かな。しばらくゆっくりできそうだね」
「そうですね。皆さんも研究に大迷宮探索と色々されてましたし……ここで少し休んでもいいんじゃないでしょうか」
軽く背伸びをしながら恵里がつぶやけば、リリアーナの方も頬を染めながら軽く信治の方を見やっていた。すまし顔ではあったものの信治の後ろについているヘリーナと同様、信治と一緒にいられるのが嬉しいんだろうと思っていると、不意にその彼があることをつぶやく。
「そいつぁいいな……あ、そうだ。
信治が言った『アレ』の正体に恵里達もすぐに気づき、顔を合わせて三人そろってニマニマといたずらっぽい笑みを浮かべる。
「アレ?……あ、うん。待ってる間にちょっと
「そうそう。待ってる間にちょっと話し合ったんだよねー。別にさー、展示するのは魚
「だから後でこっそり使うつもりだよ。あ、でもスペースが限られてるから人数限定かな」
実は今回エリセンへと向かう際、仕事の合間を縫って恵里達はあるものを急遽造っていた。やはり急ごしらえな分色々と粗が目立つし、そこまで大きいものも造れなかった。が、ある『目的』のためならば運用しても問題ない出来栄えであると同時に恵里達は考えていた。
「魚以外?……あ、なるほどな。そういうことかよ」
「? あの、シンさん。アレ、って一体何ですか?」
「皆様が夜に何かをされていたのは存じてますが、一体何を……」
「ソイツは見てからのお楽し……っとと、あっちも終わったみたいだな」
それを見た信治も同様にあくどい顔をするも、『アレ』の正体に心当たりがないであろうリリアーナとヘリーナだけはそろって首をかしげるばかり。一体その正体は何なのかと尋ねるも、後で驚かす気満々の彼はそれを先延ばしにする。そうして軽くむくれるリリアーナを見て苦笑する彼と共に恵里達の方にも“念話”が届いた。
“頼まれてたもんは全部買っといた。じゃあ指定した場所に集合な”
“きっと恵里ちゃんと鈴ちゃんに似合うと思うから!” じゃあまた後でね!”
「こっちもだね。じゃあ行こうか皆」
「だな! おーし遊ぶぞー!」
「し、シンさん! ば、場所を考えてください!」
どうも他のグループの方も頼まれていたことが無事終わったらしく、後は合流するだけとなった。ハジメが目的地に行こうと誘えば信治も場所をわきまえずに大声を上げる。すぐにリリアーナから注意をもらって気まずい様子になった彼を横に、他の皆と同様にテンションが上がっていた恵里はすぐに彼と腕を組む。
「うん。じゃあ行こっか。えへへ、ハジメくんとデート、デート♪」
「エリー、名前名前!……もう」
ハジメとデートが出来るということで大いに浮かれ、そこでうっかり恵里がハジメを偽名でなく本名でうっかり言ってしまったことに鈴が大いに焦る。幸い誰にも聞こえてなかった様子でホッと一息吐いた後、すぐに空いてるハジメの腕に自分の腕を絡め、仲間達と合流しようと一緒に歩いていく。
「じゃ行くぞリリィ、ヘリオトロープ。思いっきり楽しむと――」
「あ、あの、シン……さん。わ、私も着替えないとダメ、ですか……? その、とても恥ずかしいんですけどぉ……」
自分達の後を信治達も追ってきたのが足音でわかったが、ふとリリアーナの羞恥に満ちた声を聞いて恵里達は振り向いた。
「あー……駄目?」
「旦那様の世界の方では珍しくはないのかもしれませんが、高い身分の人間は人前で肌を晒すということは普通しませんので……あの、私も、なんですよね?」
リリアーナとヘリーナが顔を赤くして身もだえしながら彼に問いかけており、それを聞いた恵里達は顔を合わせて何故あの二人が顔を赤くしているかに気付く。続くヘリーナの言葉からして下手すればお嫁に行けなくなる程にショッキングなことだったというのも三人は納得を示す。
「いや、でもよ。肌を見せたくねーんだったら俺の上着でも羽織ればいいし、そういうヤツ売ってたって聞いたぜ」
「その、でもぉ……」
「お、奥様もこう仰ってるんですし、その、今回ばかりは……」
「……俺さ、二人の水着姿、スッゲー楽しみにしてたんだけど」
「「あ゛ぁあああぁ~……」」
だがそれでもと信治は食い下がったせいで二人も今にも泣きそうな表情で渋っている。そこで駄目押しとばかりに心底残念そうにボソッとつぶやけば、リリアーナもヘリーナも顔を覆って今にも奇声を上げてしまっていた。
「シン君、やっぱり今回は見送った方がいいんじゃ……」
「あー……ダメか? 先生もやっぱダメって――」
「う、うぅ……や、やります。わ、私の未来の旦那様のためなら、ちょ、ちょっと脱ぐぐらいやってみせます!」
「おい言い方ァ!!」
「わ、私も……み、未来の奥様に負けぬよう精進します! ひ、人前で素肌をさらすことも我慢します!!」
「お前もかーい!!」
そして色々と覚悟を決めて決意表明を二人はしたものの、この場でエラいことをやりかねないと誤解されかねないことをのたまったせいで大いに信治が焦ってしまっている。周囲から白い眼を向けられる信治達の手を引き、恵里達はこの場を後にするのであった……。
「やったなこのっ! ハジメくんっ!」
「ふふっ。これぐらい鈴でも避けられるよ!」
「だから二対一は卑怯だって――うわっ!」
太陽は中天に至り、穏やかな海を明るく照らしている。外部からやってくる船や漁船などが停泊している港とはまた別の素潜り漁などをやる人間用に開放された桟橋の辺りで恵里達は思い思いに戯れている。
「永山達は不参加か……」
「ミュウちゃんのお母さんのこともあるもの。仕方ないわ」
来た当初は人がいるかもと幾らか警戒していたのだが、漁は既に終わっていたのか誰もいないためプライベートビーチのようにほぼ気兼ねなく遊んでいた。ただ、重吾達四人に関してはレミアやミュウのことがあったため不参加だったが。自分達はいないけど楽しんでくれと愛子からの伝言があったことからそこは全員ほぼ割り切っていた。
「ぷはっ――海の中すごいよ! お魚さんいっぱいいた!」
「あぁ! 地球じゃ見ねぇような色合いとか形だったな!」
「じゃあ今度は
髪の毛と同じ白のビキニを身に着けた香織が龍太郎と共に海面から顔を出すと、お互い海の中で見た色鮮やかな魚の群れに感動をぶつけ合う。そしてまた見ようと香織が誘うと、お互いシュノーケルのマウスピースのようなパーツがついたスプレー管みたいなものを宝物庫から取り出して口にくわえ、一緒に海の中へと潜っていった。
「ぶはー!……アレーティア速ぇな。俺本気で泳いでたってのによ」
「ぷは……ん。昔色々と鍛えてた」
先程まで一緒に泳いでいた大介とアレーティアは桟橋に上がって休憩に。光輝達と一緒に前衛を務めるだけあって後衛の魔物の肉を食べた面々よりも引き締まった肉体が映える。他の男子~ズと同様にトランクスタイプの水着を着ていた大介は真隣に座った黒のビキニ姿のアレーティアに顔を向け、勝負に勝てなかったことにちょっと残念そうにボヤいた。
「あーあ。これでも結構体力には自信あったんだぜー。ったく、アレーティアにいいとこ見せたかったんだけどよー」
「ん。私も全力を出さなかったら負けてた……それよりも私は大介を誘惑出来なかったのが悔しい」
「あー、いや、その……似合うぞ。うん」
その一方、軽くスネた大介を労わっていたアレーティアも、自ら選んで買ったこの水着で大介を悩殺しようとしていたのが成功してないことに軽くおかんむりであった。ただ、不満を口にした途端に大介は顔面を真っ赤にして顔を背け、海を見ながらつぶやいたまま黙り込んでしまう。それを見て彼女は溜飲が下がったのか、彼の肩に頭を乗せて目を細めた。
「気持ちいいですねアビスゲート様!……アビスゲート様?」
「これ、これだよ……俺が欲しかったのはこれだったんだ……!」
桟橋からちょっと離れたところで一緒に泳いでいたラナと浩介。たまたま近くに人がいないからってうっかりアビスゲート呼びしてしまったのだが特に浩介は咎めようとはしない。かつてなら血の涙を流していた『海でイチャつくカップル』に自分達もなれたということを存分に噛みしめ、感激の涙を流しながら天を仰いでいた。
「良かったなぁ、浩介」
「そうね。本当に不憫だったもの……ねぇ光輝、お祖父ちゃんとお母さんもまた泳がない?」
「あぁ。わかったよ雫」
「うむ。行こうか」
「ふふ。じゃあまた競争でもしましょうか!」
立ち上がるとすぐさまその場で飛び込んだ光輝、雫、鷲三、霧乃の四人。ターコイズブルーのホルターネックの水着をまとった雫は光輝と共にすぐに海面へと顔を出し、そこからちょっと進んだところで鷲三と霧乃も海面から上半身を出す。お互いの姿を確認してから軽く沖へと向かって泳ぎ出した。
……ちなみに当初、鷲三と霧乃は水着代わりにふんどしとサラシを身に着けていた。雰囲気にそぐわないため雫が用意した水着に着替えることと相成ったのである。ちなみに鷲三は黒のビキニ、霧乃は青のワンピースタイプのものだ。
「ねぇユキ。アンタ泳がないの?」
「せっかく水着買ったんだし泳ごうよ幸っち。ね?」
黒のタンクトップビキニを身に着けた優花とフリルの着いたワンピースタイプのものを着た奈々に幸利は迫られている。二人と一緒に未だ桟橋の上で座り込んでいた幸利は、泳いでいる皆に再度視線を向けてから軽くため息を吐いてこう返す。
「あんな人外どもの泳いでるのとか見てたらやる気も失せるっての……泳げねぇ訳でもねぇけどそこまで得意じゃねぇって」
先程また泳ぎ出した光輝達はもちろんのこと、桟橋に上がって休んでいる大介にアレーティア、初の海に興奮して“身体強化”まで使ってトンデモスピードで泳ぐシアに負けじと追いすがる良樹。当初はちょっと泳いでみるかと思っていた幸利も水しぶきを上げながら泳ぐガチ勢を見てそんな気分ではなくなってしまったのである。
「そんなのいいわよ別に。エリ達みたいに水かけあってるのでも楽しそうじゃないのよ」
「うん……私もやりたいんだけど、ダメ?」
けれども幸利と思い出を作りたくて二人の少女は軽く瞳をうるませ、彼の両脇から顔をのぞきこむようにしてお願いする。そうされてしまえば二人に気のある幸利も迷いを見せ、救いを求めて近くにいた妙子に視線を向けた。
「なぁ妙子……」
「つきあってあげなよ~幸利ぃ~……ちゃんと二人と向き合って。ね?」
「……わかったよ、もう。泳ごうぜ、二人とも」
オフショルダータイプのビキニを着けた妙子がやれやれといった表情でたしなめれば、幸利も遂に観念する。途端、すぐに二人の少女は彼の両脇を抱えながら立ち上がり、そのまま海面へとダイブするのであった……。
「獲ったどー!」
「これ確か食える魚だったよな! 後何匹か捕まえたら焼いて食おうぜ!」
「ったく、槍は俺の専売特許だろうが……! 次は負けねぇ!」
「ははっ、銛と槍じゃ勝手が違うってことだろ!」
海面から出て魚が刺さった銛を掲げているのは仁村明人であった。彼と友人の相川昇、玉井淳史、そして礼一はハジメから作ってもらった銛を使って素潜り漁の真似事をやっていたのである。
来た当初は微妙な空気を漂わせていた明人達に礼一が人数分の銛を渡し、これで魚を獲らないかと言い出したのだ。そして一番数が少なかった奴が罰ゲームということで三人を海に突き落として無理矢理巻き込んだのである。結果は成功といっていい具合だ。モヤモヤした気分でいた彼らもゲーム感覚で体を動かしたことで昔の明るさを少しは取り戻せていた様子であった。
「……やっぱり無理強いしない方が良かったですね」
その一方、クラスメイト達が集まっている桟橋の先近辺から離れた場所にて。ワンピースの水着に上着を羽織り、潮風を浴びながらクラスメイト達を見つめていた愛子はすぐ近くを見下ろしていた。
「い、いえっ! わ、私はその……こ、こういうのも悪くないかなーって思ってたんです! し、シンさんは悪くないですし!」
近くにいたのは信治、リリアーナ、ヘリーナの三人。だがリリアーナだけはぷるぷると身もだえしており、うずくまった信治をヘリーナが看病しようとしているという構図である。
「し、信治様! だ、大丈夫ですか! お気を確かに!」
「ヤベぇ……もう俺あの世逝きそう。てか逝くわ」
理由はリリアーナとヘリーナの水着姿を見て信治が鼻血を噴き出したせいである。シンプルなタイプの白のワンピースの水着のリリアーナ、そして同じタイプの黒を着ていたヘリーナを見て興奮のあまり鼻からパトスがほとばしったのだ。
『ここが天国か』とのたまった後、鼻血を噴き出したまま後ろに卒倒しそうになった信治であったが、そこは意地と気合でどうにかたたらを踏んで留まった。そして自身の水着をところどころ赤に染めた後でその場でうずくまったのである。
「えーと止血、止血……確かメルド兄ちゃんが血が出てる部分を高い場所にするといいって!」
「ならば私が肩を貸しましょう! さ、信治殿!」
「お、おう……」
「大丈夫ですか! 信治さん!」
「私達も何か手伝えることはありませんか!」
「ぶほっ」
結果、色んな意味で恥ずかしがるリリアーナに鼻血が止まらない信治の処置をするべく必死なヘリーナ。そして彼の鼻血を止めるべく奮闘するカムとパルというバカンスには不釣り合いな奇妙な光景が出来上がったのであった。なお真正面に心配した様子のリリアーナとヘリーナが立ったせいか、鼻血が余計に噴き出してどうにもならなくなっていた。
「大丈夫かなぁ信治君……」
「大丈夫でしょ。多少鼻血が出たぐらいだし」
そして“空力”で足場を作って水のかけ合いをしていた恵里達は今、足場を維持したまま桟橋の方を見やっていた。
「まぁ“念話”で治療してほしいって言ってないし大丈夫だと思うよハジメくん」
鈴の言う通り、別に治癒魔法が入用になっていたという“念話”が届いた様子は無かった。あるんだったらすぐにでも“聖典”発動の際に発する光が周囲を覆っているはずである。ちなみに鈴の水着はヘリーナと似たデザインの白のワンピースタイプのものであった。
「そうそう――やっぱりさ、泳ぎに来てるんだからちゃあんとボクを見て欲しいんだけど」
そうして軽くジト目で見上げればハジメもちょっとタジタジの様子で頬をかいて目をそらす。恵里が今着ているのはブラジリアン水着に近い代物である。香織に『結構露出度の高い奴買ってきて!』と頼んだ際、他の面々と比べてかなり攻めたものを用意してくれたのだ。やはり効果は抜群だったらしく、お披露目してから今もハジメが自分の水着姿を見る時は必ず赤面している。
「そうだよねー。鈴の方も見て欲しいなーハジメくーん」
「いや、あのね……その、二人とも近いって……」
「裸ぐらいならちょくちょく見てるんだし、これぐらいどうってことないよねぇ~?」
「そ、それは別! 別だから!」
そうして鈴と一緒にしなだれかかり、胸を彼の体に接触させれば面白いようにハジメは慌ててしまっている。耳の先まで真っ赤に染まっている、変なところでウブな彼を見て恵里は満足そうに微笑んだ。鈴と一緒だからというのもあるのだろうけど、自分達を見て愛しい彼が冷静でいられなくなっている様に恵里は興奮を隠せずにいた。
(ふふっ。ハジメくん可愛い……それじゃあ、もーっとドキドキさせてあげ――)
その興奮のままに更に体を密着させようとした時、ふと大きな波が彼らを襲った。大して大きな波が来なかったために恵里は思いっきり油断しており、そのまま波に呑まれて岸の近くまで流されてしまう。
「ぶぇっ!?……げほっ、げほっ……あー、ひどい目に遭った」
「わぷっ!?……うぇぇ……飲んじゃったぁ」
「うわっ!!……あぁ、びっくりし、た……ぁ」
すぐさま呼吸を止め、波の勢いが弱まった辺りで再度“空力”で足場を作って海面に顔を出す。判断が早かったのが幸いしたか気管支に水が入るということもなく、三人とも溺れずに済んだ様ではあった。
「? どうかしたハジメくん? ボクの胸ばっかりじっと見ててさ」
「い、いや、その……み、水着が……」
こちらに視線を向けたハジメは顔だけでなく全身が真っ赤に染まっており、よくわからない言葉を発していて恵里は思わず首をかしげる。確かに結構きわどい水着を着ていたし、もしやさっきの波で少しズレたのだろうかと考えて恵里はハジメのウブさにちょっと苦笑いを浮かべる。
「水着? あ、もしかしてちょっとズレたの? やだなぁもう。確かになんかスースーするけどさ、ちょっとぐらいだけでしょ。それぐらいで――」
「い、いや、だから、み、水着が! 水着が!」
「あーうん……ちょっと鈴、泳いでくるね……」
やはり大きく慌てている様子のハジメと何故か目をそらして沖へと泳ぎ出した鈴を見て、流石に恵里も違和感に気付く。一体何があったのやらと思って視線を落とし……さっきからどうしてスースーしているのか。その原因にようやく恵里はたどり着いた。
「ぁ……あ、あぁ、あぁぁ……」
即座に胸元を手で隠し、彼女もまた周知に悶える。さっきの波で上の部分が持ってかれたことにようやく気付いたのである。
「ん――ぷはっ……なんだこれ。誰の水着だよ」
運が悪いことに恵里の上の水着がただよってた辺りに素潜り漁をやっていた礼一らが現れてしまう。しかも礼一の顔面にそれが乗っかる始末だ。それを手に取って周りを見渡すのを見て、恵里の羞恥心は遂に爆発してしまう。
「し……死ねアホぉーー!! “風刃”っ!!!」
「「「ぎゃぁぁぁあぁぁ!?」」」
「どわぁー!! こ、殺す気かぁー!!」
容赦なく“風刃”をかっ飛ばして礼一を真っ二つにしようとして大失敗。オルクス大迷宮で鍛えた反射神経のおかげで礼一は見事に回避。昇達も紙一重でかわす。が、ものの見事に恵里の水着だけはお陀仏になってしまった。
「し、死ねぇー!! お前なんか死んじゃえー!!!」
「す、鈴ー!! は、早く“鎮魂”かけてぇー!!」
「あーもうとんでもないことになってるよぉ! “鎮魂” “鎮魂” “鎮魂”!!」
水着がただの布切れになってしまったことで余計に頭がぐちゃぐちゃになった恵里は、もうひたすら“魔力放射”で形にもなってない魔力の塊だけを飛ばす。そこから必死に逃げる礼一達に恵里を止めながら鈴に“鎮魂”で落ち着かせるよう大声で頼み込むハジメ。そして必死になって“鎮魂”をかけまくる鈴。
“ゲートホールの設置終わったよー”
“もうすぐそっちに戻れるぞー”
“来るの後にして龍太郎君、香織さん!”
“今ちょっと恵里の水着がご臨終で大変なの!!”
“何が起きたの!?”
ある目的からエリセンの水面下の部分にゲートホールを設置しに向かっていた香織達も近くまで戻って来たらしく、“念話”でその旨を伝えてくれたがこちらはそれどころではない。錯乱した恵里をどうにかしようと幼馴染~ズ全員が彼女の近くに向かって“鎮魂”をかけにかけまくっている始末である。
「えへ……えへへ……いっそ殺せよぉ……もぉハジメくんのお嫁さんにしかなれないよぉ……」
「いや恵里大分余裕ありすぎない?」
かくして波間のバカンスは散々な結果に終わった。次からはちゃんと波にさらわれても大丈夫な水着を着けよう。そう恵里が決意したのは言うまでもない。
いやー年明けに相応しい水着回でしたね。このオチのために恵里の選んだ水着はコレにしました(支離滅裂な発言)
ちなみに作者はモノキニとクロスデザインが調べてて好きになりました。何のことかって? まぁアレですようん。
あ、そうそう。エリセン名物のある話をしてからやっとライセン大迷宮に移るつもりです。うんいつものように伸びましたよ(白目)
2024/1/19 追記
ライセン大迷宮寄る前にやることがあったの思い出した&次の話が構想の段階で一話で収まりきらないことが判明しました(白目)
ライセン大迷宮攻略はもうちょっと先になります……orz