あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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きくうし業やらドクターとしての業務してたり本読んでたり金カム実写版見たりしてたら遅く成りました(白目)(精一杯の言い訳)

……コホン。では改めまして読者の皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも195972、お気に入り件数も901件、感想数も705件(2024/1/28 13:59現在)となりました。誠にありがとうございます。遂にお気に入り件数も900まで来ましたし、UAも20万が目の前まで迫ってきました。これもひとえに読者の皆様が拙作をひいきにして下さるおかげです。感謝いたします。

そしてAitoyukiさん、きゆみおさん、拙作を評価及び再評価してくださり誠に感謝いたします。またしても最後まで突っ走る力をいただきました。ありがたいです。

では今回の話を読むにあたっての注意としてやや長め(約12000字程度)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


幕間五十一 その出会いがもたらしたもの、もたらすもの

「ちぇー。いいじゃん不可抗力じゃん。ボク何も悪くないもん……」

 

 ランプの明かりが薄暗くなった部屋を照らす中、恵里はベッドの上で体育座りをしながら思いっきりスネている。

 

「確かにあの波が原因なのはわかってるし、恵里のあられもない姿を鈴以外に見せたくないのはわかるよ。僕だってそうだし」

 

「ねぇハジメくん、だから畑山先生にハジメくんも叱られたんだよ。わかる?」

 

 そんな恵里の隣で、ハジメは彼女の頭をなでながらなだめていた……のだが、ほぼ私欲が丸出しな発言のせいで彼の隣に腰かけていた鈴からツッコミが飛んだ。

 

 恵里の水着ご臨終事件がどうにか収束を迎え、宝物庫に入っていたハジメの上着を彼からかけてもらった後、恵里は愛子からお説教を食らったのだ。どうしてそうなったかという理由に関して向こうも理解は示していたものの、クラスメイト達全員を生かして帰す気概の愛子からすれば恵里の暴挙はどうしても許しがたかったようだ。そのため桟橋の上で正座させられたまま恵里は叱られたのである。

 

「どうしたの鈴? ボクがうらやましかったの?」

 

「いや鈴も流石にこういうのをいちいちうらやましがらないってば……」

 

 なおそこでハジメが愛子の言葉を聞きながら『恵里のあんな姿が他の人に見られなくて良かった』だの『僕と鈴以外には恵里の裸は絶対見せません!』なんて言ったせいで彼も一緒にお説教を受ける羽目に遭ったが。鈴は軽いジト目でハジメを見やり、その彼もアハハと苦笑いをした後でせき払いをしてから再度恵里に声をかける。

 

「こほん……でもね、流石に礼一君達に攻撃するのは駄目だよ。礼一君なら絶対避けられたとは思うけど、僕たちの大事な友達で仲間なんだから。ね?」

 

「わかってるけどさぁ……別に死ななかったんだしいいでしょ。あの時はもういっぱいいっぱいで狙いも何もなかったし」

 

 頭をなでながら諭すハジメに対し、恵里は気持ちよさげに少し目を細めつつも言い訳を繰り返す。するとハジメがそっと両肩を掴んで動かし、向かい合わせてくる。

 

「恵里、駄目だよ」

 

「うぅ……駄目?」

 

「うん。元々は雫さんのためだとしてもせっかくのお休みなんだから。そんな時間を血生臭くするようなことはしちゃ駄目だよ。ね?」

 

 表情は穏やかながらも真剣な眼差しをしたハジメにそう言われてしまえば恵里も敵うはずが無かった。どこまでも真剣に自分のことを本気で思ってくれているのがわかるからこそ反論出来ない。彼からの問いかけに恵里は少しため息を吐きながらもゆっくりとうなずく。

 

「……うん」

 

「うん。ありがとう、恵里」

 

 ずっと自分を愛してくれた彼からの言葉なのだ。自分を思いやってくれているのがひしひしと伝わり、こんなのどうやったって敵わないよと思いながら微笑むハジメを恵里は見つめた。すると鈴がわざとらしくせき払いをし、あることを口にする。

 

「コホン。ハジメくん、恵里ばっか構わないでよ……実際恵里のせいで鈴達のナイトクルージング無くなっちゃったんだからね」

 

「うっ」

 

「まぁまぁ鈴。落ち着いて。ね?」

 

 その言葉に恵里も思わず軽くうめき声を上げ、向かい合っていたハジメも後ろを振り向いて鈴をなだめにかかっている。

 

 そうして愛子からのお説教を終えた後、ハジメは自分と恵里、そして鈴の三人に加えて数名で夜のクルージングを楽しもうとしていたのだ。使うのはただの船ではなく、ここ数日の間、休みを縫って造り上げた小型の潜水艇である。真っ暗な夜の中で海の魚()()を捕まえながらクルージングする予定だったのだが、ある六名にそれを譲ったことから彼らはお留守番となったのだ。

 

「だって……近藤君達は恵里のせいで死にかけたからわかるよ。それと、理由はわかるけど畑山先生がそこに収まったからね。アレーティアさんと檜山君じゃなくって」

 

 そう。今夜ナイトクルージングに向かっているのは例の事件で恵里が襲った礼一に昇、明人、淳史に加えて愛子とカムの六人なのだ。ここで愛子とカムが選ばれたのにもちゃんと理由はあった。

 

「まぁまぁ鈴……確かにアレーティアさん、とんでもないことになってたしね」

 

 ……実は恵里がポロリした事件の裏である騒動が起きていた。恵里の錯乱振りを見たアレーティアが突然顔を青ざめさせ、ブッ倒れてけいれんを引き起こしてしまっていたのだ。

 

 隣にいた大介曰く、恵里が“風刃”を飛ばした直後に瞳が濁り、やたらと『ごめんなさい』と何かに謝り続けた後に口から泡を吐いて倒れたらしい。『多分俺達を襲った時のこと思い出したかもしれねぇ!』と必死な形相で“鎮魂”を使いながら言っていたと近くにいた礼一らから聞き取っている。

 

「あーうん……あれはちょっと気の毒、だったかなぁ」

 

「檜山君大丈夫かなぁ……」

 

「大丈夫だって思いたいけどねぇ……」

 

 その後、“鎮魂”をひたすらかけたことでアレーティアはメンタルを持ち直した……はずだったのだが、自分達を見るなりすぐに大介の後ろに隠れてガタガタ震えていた。その後彼女は大介と一緒に宿に戻り、先程香織の“念話”を経由してもう大丈夫だという連絡が来たためひとまず三人もホッとしていた。

 

「それに相川君達の事情を考えると流石にね。信頼できる畑山先生がいた方がいいと思う」

 

 そして愛子らが選ばれた理由なのだが、それは昇、明人、淳史の三人が惚れた相手に裏切られたことに起因していた。自分達がハイリヒ王国の混成軍と戦う前までは相思相愛であったらしいが、負けると同時に手のひらを反されてしまったからだということだ。

 

 その際人間不信を患ったらしく、また彼らが信頼を寄せている愛子から『仁村君達の面倒は私が見ます』と述べたためハジメが自分の宝物庫を譲ったのである。今頃はもうエリセンの人が寄り付かない西北西の海域へと足を延ばしている頃だろうと三人は推測している。

 

「ハニートラップかどうか疑っとけばよかったのに……ボクが言えた義理じゃないか」

 

 そんな時、恵里はため息を吐きながら明人達のことに言及する。あの時本当に彼らを好きになった女達は本気で愛していたのか疑えばよかったのにと述べたのである……その女どももかつての自分と何一つ変わらなかったことへの皮肉も言いながらだ。

 

「恵里」

 

 流石にこれにはハジメが怒った様子を見せた。再度振り返った時にはこれ以上何も言わせないと言わんばかりの表情で自分を見ていたのである。

 

「ねぇ恵里。どうして僕が怒ってるかわかるよね? それと前に恵里が道を踏み外さないように僕は何とかしたいって言ったのは覚えてる?」

 

「うん……わかってる。それに覚えてるよ」

 

 道理を考えればハジメが怒るのも恵里は理解できる。それに今回は自分が悪いことも理解しているつもりであったし、彼が何としても自分を日の当たる道にいさせたいと言ったのも覚えてた。だからこそ少しビクビクしながらも彼の言葉を恵里は待つ。

 

「そっか……あのね。僕もさ、相川君達と大差なかったと思う。恵里が心変わりしたから、本気で僕を想ってくれたからそうはならなかっただけでね」

 

「……うん」

 

 その言葉で恵里の胸はズキリと痛む。そう。目の前の大好きな男の子は境遇を考えれば淳史達と大差なかったのだ。たまたま彼が自分を本気で愛してくれて、それで自分も彼を本気で愛したからあんなことにはならなかっただけでしかない。息が詰まって苦しげにうめく恵里にハジメはなおも訴えかける。

 

「恵里、僕のことを想っているなら彼らの痛みもわかってほしい……玉井君達だって本気で愛してたと思う。そうじゃなかったらきっと畑山先生が必死になってかばったり、案じたりなんてしないと思うから」

 

「……っ」

 

 その言葉に恵里は何も言い返せない。以前、ハニートラップを仕掛けた奴らを愛子が水責めで殺そうとしてたというのを本人とその場に居合わせた重吾らの口から聞いていた。そのことを考えれば裏切りの傷は相当深かったのだろうと恵里も想像がつく。下手をしたらこの少年に同じ傷を与えていたかもしれないと推測出来てしまうからこそ何も言えなかった。

 

「だからお願い。恵里、僕達だけじゃなくって他にも色んなものを、人を大事にしてほしいんだ」

 

 そう真剣な様子で訴えてきたハジメに恵里はどう言葉を返せばいいか迷う。恵里にとって大切なものはハジメに鈴、両親に幼馴染と親友達とその家族であり、彼らがいれば後はどうなったって構わないと今でも思っている。

 

 高校に入ってから親しくなった大介達馬鹿四人に関しては失ったら少し惜しいと思う程度だし、このトータスそのものにしたって別に焼け野原になろうと知ったことじゃないと考えている。けれども目の前の男の子はそれらも大事にしてほしいと言ってきたのだ。どうして、と問いかけるよりも先に彼はその理由を語ってくれた。

 

「それは……」

 

「恵里にとって大事なのが僕や鈴、正則さん達なのはわかるよ。でもね、恵里にとってどうでもいいことでも他の人にとっては大事なことかもしれないんだ」

 

 体を抱き寄せ、ギュッと抱きしめながら耳元で彼はつぶやく。彼の言葉を聞いて自分の価値観が少し揺らいでしまうのを感じつつも恵里はハジメの話に耳を傾ける。

 

「僕達はそれも大事にしたい。恵里にもさ、そうしてほしいって思ってる――だってさ、もし恵里にとって大事なものがその人にとっては何でもなくて、消えてしまっても別に構わないとしたら僕は辛いから」

 

「ハジメ、くん……」

 

 目を少し潤ませながらハジメに訴えられ、恵里は胸が締め付けられる思いに駆られる。今自分が考えているスタンスは立場が逆になってしまえばこんな簡単にわかってしまうものだから。だからこそそうならないでほしいと願う彼の思いが痛い程にわかったから。

 

「エヒトみたいな奴だったらまぁ仕方ないけど。関わらないようにしたり対処したりすればいいだけなんだから。でも、僕達と一緒に動いてくれる人に、そういう風にしないでほしい。代わりに僕もその人達に恵里の大切なものを守ってほしいって伝えるから。僕も守るから。お願い」

 

「……うん」

 

 彼が痛い程に自分を思ってくれていることを言ってくれて、恵里はそれにうなずき返した。

 

 自分をただ愚直に好きになってくれて、どこまでもまっすぐに愛してくれる。そんな彼の願いと愛を恵里は振り払えない。そんな彼だからこそ好きになってしまったのだから。夢中になってしまったのだから。簡単に無碍(むげ)にすることなんて出来やしなかった。

 

「そうだね。ハジメくんの言う通りだよ――ねぇ恵里。正則さんや幸さんにとって誇れるような人間でいたいんでしょ? だったらさ、もっと色んな人の大事なものを大切にしてあげてよ」

 

 いつの間にか自分のそばに来ていた鈴の言葉で恵里は余計にハッとする。とても大切な父親のためにもいい人間に見えるよう昔からずっと努力してきたのだから。だからこそその言葉も届く。恵里は軽く息を吐き、一旦ハジメから離れると柔らかい表情を浮かべながら恵里はハジメと鈴を見つめる。

 

「そうだね……わかったよ。そうする。ハジメくんに鈴、それにお父さんや……皆にさ、いいところ見せないとね」

 

「「うん」」

 

 日の当たる方へと進もうという決意を恵里は大好きな二人に向けて口にする。ハジメと鈴も恵里の決意を優しく受け止めながら、彼女をギュッと抱きしめるのであった。

 

 

 

 

 

「すごいな……ライトが当たってるところだけはちょっと薄暗い程度だ」

 

「なんかテレビで映ってた夜の海を見てる感じだな」

 

 そうして恵里達が宿で休んでいる一方、ハジメから潜水艇を譲り受けた礼一達は彼に勧められた通りナイトクルージングを楽しんでいた。

 

「これを南雲達が造ったってんだよなぁ。船もそうだけどライトもどうなってんだか」

 

 ハジメが造ったものをあまり間近で見る経験が無かった昇達が特にリアクションが大きく、今自分達が乗ってる船のすごさにも驚きながら夜の海を楽しんでいる。

 

「ま、そりゃ俺らの先生……だとややこしいな。ハジメや幸利の腕ってもんだよ。腕がな」

 

 自分が褒められた訳ではないのだが、礼一は少し自慢げにしながら船を操作していた。ちなみにこの潜水艇は恵里の手によって魂を付与されたゴーレムの一種であり、“心導”で指示を出すことで備え付けのライトや水圧に耐えるために付与された“金剛”の発動といったサブの機能を動かしている。

 

「しっかし色々いるよなー。これが深海じゃなかったらそのまま俺も泳いでたんだけどよー」

 

 主なコントロールは船自身に任せているため彼も普通に海の景色を楽しんでおり、見たことのない魚やクラゲなどを見て驚きの声を上げている……ちなみに礼一だけでなくこの船に乗っている面々は皆水着のままだ。理由はこの船を出した場所が陸上や桟橋の近くなどではなかったからである。

 

「ですな。私も年甲斐も無く泳ぎたくなってしまいます……これもひとえに龍太郎殿と香織殿、それと皆様の配慮のおかげですな」

 

 この潜水艇、実はエリセンの『底』とも言うべきところで出したからだ。

 

 ハジメ達のセンスに大きく引っ張られたのかトータスで普及している船とは見た目が違ったというのもあった。だが何より人前で出すのをためらった要因は『所持者不明の船』を他の人に見られないようにするためだ。自分達は今あくまで『水族館の魚の仕入れ』のために港から定期便を使ったのだ……当然、こんな船を見られたら一発で怪しまれるため事前に手を打っていた。

 

「そうですね。今回は坂上君と白崎さんに感謝しないといけませんね」

 

 それは愛子が述べた通り龍太郎と香織のおかげであり、エリセンの成り立ちが大きく関わっている。エリセンは木で編まれた巨大な人工の浮島の上に成り立った場所だからだ。そのため潜って泳ぎさえすればこの浮島の海面下にある木で編まれた部分にたどり着くことだって出来る。そこ目掛けて二人が酸素ボンベもどきを口にくわえ、ゲートホールの設置をしてくれたのである。

 

 そうすれば後は簡単。龍太郎と香織と同様に酸素ボンベもどきを口にくわえ、水の中でゲートキーを使えば誰にも怪しまれることなく小型ボート大の船を展開できる。そうして彼らはエリセンの住民が寄り付かない海域へと出かけたのであった。

 

「しかし色々な魚がいるものですな……愛子殿、楽しんでおりますか」

 

 この潜水艇に同乗していたカムも集落にいた頃は拝めなかった光景に少しはしゃいでしまっており、目を輝かせながら魚やら海の中の植物やらを見ている。とはいえ愛子への気遣いを忘れていた訳ではなく、こうして時折声をかけていた。

 

「……まぁ、楽しんでないと言えば噓になります」

 

 愛子も席の一つに座り、礼一と“念話”を使いながら潜水艇のスクリューを操作しながら外の景色を見ている。フロントガラスならぬフロント水晶(透明な鉱石ですこぶる頑丈な代物で形成)越しに映る地球とは違う海の景色に色々と興味が湧きそうになるのを抑えつつ、昇達の方に意識を向けるという器用な真似もしていた。

 

「色んな魚とかがいるもんだなぁ……お、あそこにアシカっぽいのいるじゃん」

 

 各々夜の海を楽しんでいる中、ふと礼一はアシカに似た生き物を見つけると共に“魔力操作”を使って船に搭載されたギミックを起動する。

 

“右腕もうちょい上でえーと、あとちょい左……よし、発射”

 

“了解。キャプチャーボール発射”

 

 船に仕込んであった生物捕獲のための装置であるキャプチャーボール。ハジメらから頼まれた『現地生物の捕獲』を目的としたそれはゲートキーとゲートホールの技術の応用によって作られている。

 

 先端に取り付けられたバスケットボール大の球体に発射装置となるアームを展開し、礼一は大雑把なアームの向きを決めると船の魂に細かな指示を飛ばす。次の瞬間、射出された球体はすぐに目の前のアシカ型の生物の近くへと向かい、一瞬で姿を消す。今頃はメアシュタット水族館にある水槽の中で驚いていることだろう。

 

「おっし。ひとまずこんだけ送っとけばいっか……そういや、な」

 

 既に転送済みである魚やら亀の群れやら、それに鮫にアシカと色々な生き物のことを思い浮かべてもう仕事しなくてもいいだろと夜の海を楽しむ方に礼一は意識を向ける。ふとそんな時、礼一は大介達のことが気にかかった。

 

“どうしました近藤君。何か気になることでも?”

 

“よろしければ私にでもご相談ください礼一殿。微力ながら力になります”

 

 すぐさま“念話”を使って繋いできた愛子とカムに内心軽くギョッとする礼一であったが、幸い昇達には気づかれてないことから二人の厚意に甘んじることにした。

 

“いや相変わらず重いってカムさん。あと畑山先生もよ……ま、大介のことだよ。正確に言えばアイツが惚れてるアレーティアのことだ”

 

「……そうですか」

 

“愛子殿、お、落ち着いてください!”

 

 つぶやいた理由であるアレーティアへの懸念を話せば、目の前で座ってる愛子の機嫌が軽く悪くなったのを礼一はすぐに感じ取った。それとほぼ同時にカムが彼女をなだめ出したため、やっぱり不味かったかと思いつつも黙ってるよりはマシかと考えて思ったことを伝えていく。

 

“大したことじゃねぇよ。まーたプルプル震えてチワワみたいになっちまってたから今頃どうしてんだろうなーって思っただけだ”

 

 そうして礼一はアレーティアがブッ倒れた時のことを思い出す。見た目は絶世の美少女である彼女が泡を吹いて白目をむいた様は中々にホラーであり、目を覚ました後の怯えっぷりは見てて気の毒になるレベルであった。もう彼女に対して遺恨が無いからなおさら礼一はアレーティアと大介が不憫だと感じていたのである。

 

“檜山君が()()に心底惚れこんでいるのはわかります。わかってますけどね……重ねて聞きますけれど近藤君、彼女の存在が檜山君の負担になっていませんか?”

 

“なってねぇっての。本気で嫌ならアイツはとんずらこいてる。多分重荷に感じててもそれを楽しんでんじゃねぇの”

 

 なおその場には愛子もいた。多分前にアレーティアが大介らに逆恨みで殺そうとしたことをカミングアウトした時のことを思い出して、それで不機嫌になってるんだろうなーと邪推した礼一は改めて愛子からの質問にノーを突きつける。

 

“……彼女に甘い顔をしているとかそういうのではないですよね?”

 

“ないない。アレーティアが前に起こしたヒステリーがあったし、大介のモノになってるからこちとらとっくに冷めてる……まぁ同情ぐらいはまだしてるし、後は単に一緒に色々切り抜けてきた仲間だからな。そんなもんだよ”

 

“そう、ですか……”

 

 それでもなお疑う愛子に再度礼一はノーをぶつける。真実を知って発狂し、やらかしが理由で人が変わったことに対しては思うところはあるがあくまでその程度。あくまで共に死線を切り抜けてきた仲間でしかないと伝えれば愛子もあきらめた様子でため息を吐いた。

 

「えーと、愛……ちゃん?」

 

「どうか、したのか先生……?」

 

「いえ……何でもないですよ」

 

「ほ、本当にかよ?」

 

「えぇ」

 

 そこでこちらが何かやってるのに気づいたのか明人達もおっかなびっくりな様子でこちらに声をかけてきた。だが愛子が少し疲れた様子で首を横に振ってそれを否定すると、昇も明人も何も言えなくなったのかそのまま黙り込んでしまう。

 

「……なぁ近藤。お前はさ、南雲の奴に嫉妬したことないか」

 

 だが淳史だけはおずおずといった様子で尋ねてきた。唐突な質問であったせいで一瞬あっけに取られるも、何言ってるんだかといった様子で礼一は背もたれに寄りかかりながら淳史の方を見た。

 

「なんだいきなり。ハジメの奴に嫉妬したとかよ。そりゃしてるに決まってるだろ」

 

「やっぱりしてなんか……え、マジか」

 

「マジもマジ。大マジだ。つーか今でもアイツがうらやましいしどうにかして超えてぇって思ってるよ」

 

 しれっと答える礼一に今度は淳史達がポカンとしてしまう。普段からつるんでる様子からして普通に仲が良いと思っていたからだ。

 

「最初に見た時は中村と谷口はべらせてたしな。それでイライラしてたし、こっちの世界に来てハジメの奴がフツーの天職だったから大介達と『じゃあ俺らで守ってやるか』って息巻いてた。その代わりに強ぇ武器たんまり作ってもらおうと思ってな」

 

「いや、えぇ……」

 

「で、ですが礼一殿。ハジメ殿やお仲間の皆様との前ではそんな素振りは……」

 

「そりゃな。だって……恥ずかしいだろうが」

 

 愛子もため息を吐いてから礼一を呆れた様子で見やり、明人達は軽く引いている。カムだけは困惑した様子ながらもそんなはずはないと否定しようとしたが、礼一はそれをあっさりと認めてしまう。そのせいで余計に彼らは戸惑ってしまった。

 

「そう思ってた。でもな、違った。全部違ったんだよ……アイツさ、スゴかったんだよ」

 

 一度背もたれに体重をかけ直し、視線をしばし宙にさまよわせてから礼一は語る。

 

「俺らと違って力なんて無いくせに、メルドさんのシゴきについていって。んでベヒモスも中村と一緒に倒しただろ? それ思い出すと今でも悔しくて仕方ねぇ。あとな、ハジメがいなかったらちゃんと飯も作れなかったんだぜ? 包丁も鍋もアイツが作ってくれたし、オルクス大迷宮を進む時もハジメと一緒に壁の中に大部屋作ったからあんま体痛めなくって済んだしな」

 

 もちろんベッドとかソファーもな。ありゃー革命だったわ。そう付け加えながら礼一は天を仰ぐ。その声色から尊敬に憧れ、そしてうらやみを感じた愛子達は何も言えなかった。

 

「だからよ。勝ちたい。アイツに負けない人間になりたい。そう思ってんだ……って、何黙り込んでんだよ」

 

 礼一が決意にも似たことを言うと場がシンと静まり返ってしまう。何か変なことでも言ったかと軽く焦る礼一であったが、すぐにカムが彼に声をかけた。

 

「いえ。違うのですよ、礼一殿……私も、あまり皆様をちゃんと見ていなかったのだと痛感しただけです。礼一殿も私達と変わらないのだとわかった。それだけなんです」

 

「……まぁ、俺のこと持ち上げてくれるのは悪い気はしねぇし」

 

 あまりに礼一らを過剰に持ち上げていたことを恥じるカムにつられ、礼一も顔をそらしながらつぶやいた。礼一のほほが少し赤くなっているのを見て、愛子も明人らも軽く息を漏らすと共に場の空気が柔らかくなる。

 

「そっか……近藤、お前も俺らと変わんねーんだ」

 

「……ぉぅ。まぁ、な」

 

「そうなのか……いや、さ。南雲の奴、こんなすごいの造って、それになんか幸せそうだったし、その……な?」

 

「あーわかるわかる。ま、俺だって最初はそう思ってたからな。ま、俺らがとっくに過ぎたとこをお前らも通ってるだけだよ」

 

 ハジメに嫉妬してたり力の差を感じているのは自分達だけじゃない。そのことに少し安堵した様子で明人がつぶやけば礼一は顔を背けながらそう答え、淳史が何故ハジメに嫉妬していたかと尋ねた理由を聞いてカカッと笑いながら軽く上から目線で返した。

 

「なんというか安心しました……近藤君はいい方向に変わることが出来ていて。私の手助けが無くても大丈夫で少しホッとしてます」

 

 そして礼一達の話を聞いていた愛子も安堵と寂しさが混じった笑みを浮かべながら胸の内を漏らす。自分が守らなくても彼らは問題なかった。そのことに何とも言えない思いを抱きながら。

 

「ホッとしてるにしちゃなんだよその声……まぁその、これもハジメのおかげだよ。だから気にすんなって。ハジメの奴だったら中村のおかげだって言うんだろうけどな」

 

 愛子の声にどこか違和感を持ちつつも、藪蛇になったら面倒だと礼一は下手に突っ込みはしなかった。代わりにこれもそれもハジメのおかげだと述べ、また自慢の親友ならばその連れが原因だと言うだろうと個人的な推測を漏らす。

 

「南雲君が、ですか?……もしかして中村さんの前世の……」

 

「あぁ。けどまぁ正直今でも信じきれちゃいねぇけどよ」

 

 そこで愛子も恵里のことについて軽く説明を受けたことを思い出して口にすると、礼一もそれで合っていると一応答えた。だがそれに関して完全に信じ切ってはいないとアッサリ白状し、『えっ?』と全員に怪訝な目を向けられるとすぐに礼一はその理由を語る。

 

「いやーだって俺らがたどった未来と全然違ぇし。俺なんて中村の奴に後で殺されて操られるんだぞ。色んな意味で信じられるか」

 

「「「うわぁ……」」」

 

「その、えぇ……」

 

「そ、そんな……え、恵里殿とてそこまでひどいことをされるはずが……」

 

 その発言に全員が軽く引いてしまった。カムに関しては恵里にも善性があると思ったが故の抵抗であったが、他の四人に関しては付き合いがまだ長くは無いにしてもアイツならやりかねないという嫌な納得から来るものだった。

 

「いや大マジ。昔は光輝の奴に執着してたらしいし。それも俺らが知ってる光輝とは似ても似つかねぇような口先だけで調子のいい奴によ。ハジメにベタ惚れなのを知ってると違和感しかねぇし」

 

 そしてどうして礼一が信じてないかという理由もしっかりと語ってくれ、それに五人それぞれ納得を示した。彼らとしても前世? の光輝が礼一の語ったような人間だったとは信じられず、ハジメに心底惚れこんでいる彼女の姿を思えば別の奴に尻尾を振っている様など全然思い浮かばなかったからだ。

 

「っと、長話になっちまったな。とっとと行こうぜ。あっちの奴らが寄り付かない場所によ」

 

 そして話が切れたところで礼一は更に奥の海域へと進むことを提案する。エリセンからかなり離れた――計測すれば二百キロは離れている――ところで色々とやっていたが、もっと先へと礼一が言うと愛子達は思案し出した。

 

「問題は無いんですよね……戻るにしても南雲君から預かった宝物庫にこの船をしまって、ゲートキーでエリセンの下へ行けばいいだけですし」

 

「確かに……それとハジメ殿や恵里殿がエリセンの人間が寄り付かないところに大迷宮があるやもと仰ってましたし」

 

 愛子の言う通りエリセンに戻るのはとても簡単であったため、帰還をもう少し先延ばしにしても構わない。またカムが言ったようにハジメが宝物庫を貸した際に、誰も人が寄り付かない場所は大迷宮の近くだからではないかという推測を口にしていた。そしてそれもごもっともだと思ったカムもまたそれを確認してからでも良いのではと思ってしまった。

 

「相川、お前達はどうなんだよ」

 

「その……」

 

「まぁ、近藤がいいなら別にいいだろ」

 

「おし。じゃあ決まりだな。んじゃ行こうぜ行こうぜ」

 

 そして昇らに確認すれば特に反対の姿勢を見せることも無かったため、そのまま進むことを彼らは選んだ。目指すは更なる先、まだ見ぬ展示用の魚や生き物の捕獲、そしてあるかもしれない大迷宮の入り口を探しに――。

 

 

 

 

 

 ――海人族の街の遥か沖、西北西の彼らが寄り付かない遥か彼方。その海域の底にある解放者の一人が残した大迷宮、その中で悪魔が暴れ狂っていた。

 

 巨岩すら押し流す激流の中、無数に泳ぐ三メートル大のサメ型とトビウオ型の魔物達。サメの魔物は自身の固有魔法によって巨大な氷――破城槌と言うべき形状をした一メートル程のものを作り、それをすさまじい水流に任せた。流れる氷の周囲をトビウオのような魔物も泳いでおり、体表の色も相まってまさしく銀の弾丸となっていた。

 

 それらが雨あられの如く向かっていたのはこの大迷宮に潜り込んだ侵入者の下であった。数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの死の雨をそれは避けることも迎え撃つこともせずにただ待ち構え――全て、受け止めて貪り食らう。

 

 十メートルはあろうその巨体を貫かんとした氷の破城槌はすぐに形を失っていき、遂にはひと欠片も残ることなく怪物の腹の中に消えた。それは魔物も同じであった。食い破ろうとした侵入者の体に触れると同時にジュワーと音を立てて頭か溶かされていく。無論トビウオの魔物もすぐに逃げ出そうとするが、瞬く間に盛り上がった侵入者の体がそれを許さない。いずれもすぐに腹の中に納まり、肉も骨も内臓も血も、余すことなく食らい尽くした。

 

 しかしこの場所を守るために存在する魔物は怯えることなく侵入者へと向かっていく。巨大な氷の槍を展開しながらだ。激流の一部を氷の塊だけで埋め尽くしてしまいそうなほどに増え、そしてその全てが侵略者へと突き進んでいく。

 

 百重ねて足りなければ千並べ、千も並べて足りなければ万で埋める。今もなお増え続ける無数の殺意と共に魔物は進む。これで絶対に仕留めるとばかりに進めば――。

 

 グパァ!!

 

 悪魔から、無数の触手が伸びた。

 

 ほんの一瞬で伸びた触手は木のように無数に枝分かれして氷も魔物も一切合切を絡めとっていく。掴み、砕き、へし折り、取り込み、そして食らう。数えることすら馬鹿馬鹿しいほどの氷の凶器も、それを扱うサメの魔物も、一切残ることなくこの存在の腹の中。触手を収めたその魔物――地球で『流氷の天使』とも称される生物に似た存在は激流に逆らい、岩壁に穴をあけ、そして閉じた門から外へと出ようとする。

 

 まだ足りない。既にこの縄張りに現れる()は食らい尽くした。また出るまでに時間がある。それを理解していたが故に、あまりにも大きな体を維持するがためにそれは動く――悪食と呼ばれるそれの欲望はまだ、満ちていない。




海だ! 水着だ! パニックホラーだ! という訳で悪食ちゃんです(何がだ)
悪食ちゃんとの戦闘はまた次回で。

2024/1/29
ちょっと加筆修正しました。
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