あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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どうも。月に二回更新するのがもう習慣化しつつある作者です(遠い目)

コホン。では改めまして拙作を読んでくださる皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも199357、お気に入り件数も910件(2024/2/23 10:15現在)となりました。誠にありがとうございます。割烹でも述べましたが、感想数減りましたけど自分は元気です。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠にありがとうございます。またモチベーションが上がりました。感謝いたします。

では今回の話を見るにあたっての注意点として少し長め(約13000字程度)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


八十七話 使者の顔は怒りに歪む

「――これは何の真似だ!」

 

 フューレンの一等地にあるホテルの一室にて。男は歯を砕けんばかりに噛みしめ、青筋を額に浮かべながらテーブルを凝視している。

 

 今にも人を殺しそうな顔をしているビィズ・フォウワード・ゼンゲンを見て、すぐに鈴もリリアーナのそばに立って結界魔法を使えるよう身構えている。

 

 突然声を荒げた彼を見てすぐに恵里も自前の杖を構え、いつでも魔法を発動できるようにしていた。同席していたハジメと信治の方にも視線を向ければ同様であった。

 

「すぐにでも“聖絶”は使えます王女様」

 

「皆さん、今は静観を。下手にあちらを刺激するわけにはいきません」

 

 鈴が耳打ちし、リリアーナが小声で自分達に指示を出したのを聞きながらも恵里はじっと機会を待つ。そうしていると、金の刺繍された法衣をまとった見た目五十代の男がこちらに指をさした。

 

「そうです! 我らは話し合いの場を設けたというのにこのような真似を――」

 

 ヤンシー司祭と呼ばれた男が恵里達の方を見て行いを咎める――このような事態が何故起きたか。それは数時間前に王宮で行われた話し合いが起因していた。

 

 

 

 

 

「なるほど。ビィズ殿を含めたアンカジの人間がそちらにいるか」

 

 フューレンにアンカジ公国の使節団到来。その知らせを聞き、恵里達はすぐさま支度を整えて玉座の間へと向かった。扉をくぐれば既にエリヒド王も玉座におり、重臣とメルド、冒険者ギルドのギルドマスターも待っていた様子である。

 

 入ると同時に視線を向けてきた彼らの表情がほんの一瞬だけ少し緩んだ辺り、多分自分達を待ってたのだろうと全員が推測しつつも上座へと向かう。そしてフューレンで何が起きているかについて耳を傾けたのであった。

 

「えぇ。冒険者ギルドの方でも確認済みです」

 

「同じく。商業ギルドの方でもそういった旨の報告が上がっておりました」

 

 エリヒド王の言葉に同意したのは冒険者ギルドのギルドマスターと商業ギルドの人間――後で聞いた話によると支部長だったとのこと――であった。わざわざ違うギルド両方から報告が上がったことからしておそらく何かの意図があるのだろう。そう踏んだ恵里達はすぐさま“念話”で話し合いを行う。

 

“やっぱりさ、ただの親切やトラブルの解決だったりボク達に恩を売りたいって訳じゃないよね”

 

 その中で恵里は真っ先にある疑いを口にする。玉座の間に来る前にも話し合いはしていたのだが、その時出した仮の結論も『何かのトラブルがあったが、自分達に恩を売れるようイルワとグウィンが何か考えている』といったものだ。

 

“そうだな。恵里や幸利が言ったように、あの人達のことだからただ単に教えてくれた以外に意図があってもそんなにおかしくないかもしれない”

 

“それ以外の可能性だと……うーん。やっぱり王女様が言った結論かなぁ”

 

 あの二人がタダでは転ぶまいという意見が出ても光輝もハジメも異論は出さない。産地偽装食品をフューレンの商人に売らせる代わりに裏組織撲滅に手を貸すよう言ってきたり、帝国に輸出しようと考えていた回復薬を自分達のところでも売り捌こうとした前科があったせいだ。そのため全員の頭の中にはリリアーナが述べたある考えが思い浮かんでいた。

 

“おそらくそうでしょうね……公国の早急な引き込みとあちらの食料関係のトラブルの解決かと”

 

 彼女が口にしたのは複数の要因が絡み合ったが故の報告ではないかというものだった。

 

 フューレンから王国までまだまだ時間がかかることを考えれば、食料の補充や道中の魔物との戦闘で消耗した武具の修繕、そして使節団の人間の旅の疲れを取るために宿に泊まろうとしたりするのではと彼女は述べた。だが、今のフューレンの状況を見れば満足に出来ないということも恵里達はわかっていた。

 

“今のフューレンはそこらの村と大差ないだろ。食料も人間も無ぇし、施設だってあまり機能してるようには見えねぇ。いくら人数が多くないとしても満足することはねーと思うぜ”

 

 幸利の言い分に恵里達はうなずく。今のフューレンは機能不全を起こしていると言っても過言ではないし、もしそんな状況で多くの人間、それも国が送り出した使者をもてなしたりするには厳しいとしか思えなかったからだ。

 

“そうね。私達が商品として渡した産地偽装食品なんかもあるし、もしまだそれがあそこに残ってたらトラブルになるわね”

 

 それと優花が語ったように王国で育てたアンカジ産の食品の問題もある。流石に上手く隠してはくれているだろうが、今のフューレンは問題があまりにも多い。フューレンの両ギルドからの報告を聞きながら恵里達はどうしたものかと思案していた。

 

「ふむ……では天之河殿、皆様がたの意見をお聞きしたい。それとゼノ、そちらもだ」

 

「わかりました」

 

「御意」

 

 そこで王様が話を振ってきたため、ご指名を受けた光輝は自分達の考えを代表して伝えてくれた。それに王様含む上層部の面々がうんうんとうなずき、宰相のゼノもまた自分達と似たような意見を述べた。

 

「――それと帝国と同様、我が国に降伏勧告のために向かっている最中やもしれません……ならば好機、でしょう。ともあれどのような理由でフューレンを訪れたかはともかくとして調べる必要はあると愚考します」

 

「ふむ……もしそちらの負担になるのでなければどうかアンカジ公国の者達と会ってきてはいただけないだろうか。もちろんそちらの都合を最優先するつもりではある」

 

 そして宰相とはアンカジの使者が何の目的でフューレンまで来たかを語り、エリヒド王も彼らと接触することを頼んできた。

 

 だが宰相の方は光輝と同様の結論を述べた後は段々と額にしわが寄るようになり、またエリヒド王も渋い表情でこちらを見ている。他の上層部の人間やメルドも一様に歯噛みしたり迷っている様子であった。

 

「……その、王様や皆さんが望むのでしたら俺が話し合いを」

 

「光輝君」

 

「いけません、光輝さん」

 

 やはり敵対を選ぶのは心苦しいのだろうと察した光輝が和解の方に動こうと提案を持ち掛ける。だが、今後のことを考えればアンカジも裏切れないよう叩きのめしたいところであった。そこで恵里も止めようとしたが、それより先にリリアーナがかすかに震えの入った冷たい声を彼にかける。

 

「リリィ、でも……」

 

「この国に仕えていた貴族の中で離反しなかったのは先日軍議の間にいて助かった者達のみです。アンカジが先の混乱の後にギルドを経由して王国に未だ仕える旨を述べたのならばともかく、それをしなかった……あちらも裏切る可能性は十分にあるのです」

 

 光輝は食い下がろうとするも、続くリリアーナの言葉にただ手を強く握りしめて黙り込んでしまう。

 

 実際あちらも土壇場で裏切る可能性はあるのだ。それがもしエヒトとの戦いの際にやられたらそれだけで勝てる見込みは絶望的になる。少なくとも恵里はそう見ていた。

 

「それと民の心には未だエヒトへの信仰が根付いております。下手に王国と手を取り合うことをすれば混乱を招くことは必至です……どうか、今だけは堪えて下さい」

 

 リリアーナはダメ押しでもう一つ理由を挙げた。事実、王都でもまだエヒトに対する信仰が途絶えた訳ではない。あくまで大介やアレーティアなども対象に選ばれるようになったに過ぎないのだ。

 

 だからこそこの訴えに光輝は何も言い返せない。ただうつむいて肩を震わせるだけであった。

 

「光輝、お前が皆を助けたいのはわかるさ」

 

「龍太郎……」

 

「でも、まずは俺達を守らなきゃだろ?」

 

 そうして堪えていた光輝に龍太郎が言葉をかける。彼の言葉に光輝は一層うつむき、隣にいた雫が無言で彼の右手にそっと両手を添えた。

 

「ねぇ龍太郎、いくらなんでも――」

 

「まぁ待てって雫。どうせ戦いになったとしても全員無傷で無力化しちまえばいいんだ。俺達ならやれる。違うか?」

 

 その一言に光輝は顔を上げると、先程まで握りしめていた自分の左手を開いてじっと見つめている。龍太郎の言葉にどこか腑に落ちた様子で彼の左手にも自分の右手を重ねていた。

 

「そうね……私達ならやれる。龍太郎の言う通りね。ねぇ光輝、今は駄目だけれど」

 

「……あぁ。絶対助ける。これが罪滅ぼしになるかはわからないけれど俺はそうしたい。その、皆は……そうか」

 

 優しく微笑んだ雫に光輝もやや苦い表情ながらもアンカジ公国との戦いを受け入れる。そして振り向いて何かを言いかけた彼であったが、自信満々に微笑む恵里達の方を見てどこかばつの悪い顔を浮かべて苦笑するだけであった。

 

「ボク達は最初からそのつもりだよ、光輝君」

 

「俺達は一日足らずで戦争終わらせたんだぜ? だったら同じぐらいの速さでスピード決着、お互い無傷のまま勝てばいい。だろ?」

 

 恵里と幸利がアンカジ公国と矛を交えることに同意を述べれば、他の皆もうなずくなり短く同意の言葉を漏らすなりした。

 

 魔物肉を食べて手にした力と死線をくぐり抜けた経験、それに神代魔法を恵里達は三つ手にしているのだ。組み合わせ次第なら相手を無傷で追い返すことも出来るという自負が恵里達にはあったし、恵里達ならやれるだろうと重吾達は感じていたが故の答えであった。

 

「それで皆さん、どうするつもりですか? 大迷宮の攻略もあるでしょうし、最悪放置しても問題は無いと思いますが」

 

「ボクはとっとと接触した方がいいと思う。もし本当に降伏勧告のつもりだったら早く戦争の準備をしてもらった方がいいでしょ。いつエヒトの奴が何を仕掛けてくるかわかったもんじゃないしね」

 

 とはいえ戦争を仕掛けるタイミングはどうするか。愛子が出した疑問に恵里が答えれば、ハジメ達も確かにと言いながらお互い目を合わせてうなずき合っている。

 

「では使徒様がた、よろしいでしょうか?」

 

「わかりました……けれど、あまり大人数で押しかけるとあちらを威圧しそうだから、何人かに絞りたいと思ってます。いいですか?」

 

 自分達の反応にホッとした様子で軽くため息を吐いたエリヒド王から、改めてアンカジの使者の調査を頼まれた。だがもし仮に自分達が接触するとなるとあちらも人の多さで驚くだろう。光輝の提案に恵里も王国の上層部の誰も異論ははさまなかった。

 

 

 

 

 

「まずは私達の求めに応じてくれたことに感謝いたします王女殿下」

 

 フューレンを治める貴族の一つであるクデタ伯の家の応接室にて、恵里達は当主から直々に歓待を受けていた。

 

 玉座の間での話し合いを終え、恵里達はすぐさまフューレンに訪れるメンバーを決めた。頭の回る恵里、ハジメ、そしてアンカジの使者と会うことを踏まえて王族代表としてリリアーナ、彼女の護衛として信治、いざという時に治療が出来る鈴の()()である。

 

 なお他の皆はライセン大迷宮の捜索や人工神結晶の研究など普段通りの活動に戻っている。

 

「いえ。礼には及びません。少しでもそちらの力になれるのであれば幸いです」

 

「王女様の気遣い、痛み入ります」

 

 そうしてメンバーが決まるとすぐにゲートキーを使い、メアシュタット水族館のバックヤードに置いておいたゲートホールを通じて五人はあちらへと向かった。冒険者ギルドの倉庫に置いておいたゲートホールは先日帝国の人間がやってきた日に回収しており、また礼一が送った生き物を確認がてらこちらの方にゲートを繋いだのだ。

 

「こっちは驚いたけどね。使いっ走りが入り口で待ってるとかどれだけ切羽詰まってたのさ」

 

 そこで初めて海の生き物を見たリリアーナと共に目を白黒させたり輝かせながら出入口へと向かうと、そこに冒険者ギルドと商業ギルドの職員そして数名の冒険者が待っていたのだ。

 

「申し訳ありません。いささか状況が切迫しておりまして」

 

 おそらく両ギルドの使いだろうと察した一向はすぐに彼らから話を聞き、今のフューレンの統治に尽力している貴族の一人であるクデタ伯爵の邸宅へと馬車で向かった。現在恵里達は伯爵の家の応接室におり、イルワ及びグウィンそして家の当主であるグレイル・クデタ伯とテーブルを境に向き合っていたのである。

 

「中村様の仰る通りです。ではクデタ伯爵、今の状況を教えていただけませんか」

 

「はっ。現在はこの街に残ってくれた教会の者達が対応に当たってくれていますが……正直厳しいかと」

 

 恵里がやや呆れた様子でイルワ達が使いを寄越したことを述べれば、リリアーナも少し眉間にしわを寄せながら問いかける。するとクデタ伯は少し顔を下に向けながら現状を語ってくれた。

 

「ひとまず使者であるビィズ殿と近衛、それとお付きで来られた教会の司祭と護衛をする神殿騎士数名がこの街で一番の宿にいます。しかしその司祭が無理を言いましてね」

 

「王国に向かう際に必要な食糧、武具の整備を()()の相場の八割での提供、そして使節団全員を()()の宿に泊めるよう仰せになられておりまして……」

 

 現在の使節団の動向をグウィンが語り、それをクデタ伯爵が補足する。道理で厳しいと述べた訳だと恵里達はすぐに理解を示した。

 

“えーっと……なぁハジメ、今のどういうこった? フューレンがマトモに動かねぇってのに馬鹿言ってる感じか?”

 

“うん。大体それで合ってるよ信治君”

 

 そして信治の方もある程度噛み砕いたようでそれをハジメに“念話”で確認をとり、ちゃんと把握している彼のことを恵里はちょっとだけ見直す。

 

「こほん……グウィン商業ギルドマスター、フューレンにある宿で機能しているのはどれほどですか」

 

「……記憶の限りでは四割、その程度だったかと。それも王国の血税の一部でどうにかといった具合ですね」

 

 なるほどなーとポツリと漏らした信治を横に再度リリアーナが問いかければ、商業ギルドの長であるグウィンは目をつむって苦虫を嚙み潰したような表情で答えた。

 

「何分急いで集めたので……過不足はありませんでしたか?」

 

 帝国の方に薬を売りつける案を恵里が提案した後、すぐにリリアーナは王国へと戻って事情を話して急遽会議を開いた。そこで予算を編成し直し、かき集めた金をフューレンの商業ギルドに預けたのである。

 

「二日足らずで用立てて下さったことを考えれば文句など言いようがありませんよ。それに坂上さん達が工面して下さったものもあります。当座をしのぐことは出来ました」

 

 また龍太郎らも各地を飛び回って魔物の素材を換金し、そこまで多くはなかったものの商業ギルドに稼いだお金を寄付していたのもあった。それらの金を受け取った商業ギルドはすぐにフューレンに残った商人と店を維持するために金をばら撒き、どうにか全ての店を潰さずに済んだのである。

 

「ですが使節団をもてなすに相応しい格の宿だけでは収容しきれません。扱いに差が生じてしまいます。それと残った武具職人の方はかつての三割程度で、食事をするのもやっとの状況なのです」

 

 だが、ここで問題となったのが今回訪れたアンカジの使節団、厳密にはその司祭の無茶振りであった。それに応えられるほど今のフューレンは余裕が無かったし、かといって無碍に扱ってしまってはどんな悪評が立つかわかったものではないからだ。

 

「その上で先の要求ですか……」

 

「バッカじゃないの? フューレンの都合を無視して勝手に自分達の意見を通そうだなんてさぁ」

 

「王女様、中村様の仰る通りです……」

 

 リリアーナは若干目を細めながらぽつりとつぶやき、恵里も半笑いを浮かべながら推測を口にすればクデタ伯爵はハンカチを取り出して顔を何度も拭いている。アンカジ使節団の要求をグウィンが語った辺りでアタリをつけていたが、まさかここまでとはと皆でため息を吐いた。

 

(どうせ箔づけしてやるから感謝しろとかそんなところでしょ? ったく、余計なことしてくれちゃってさぁ……)

 

 あまりにも無茶苦茶な要求をしてきた輩に心底呆れ果て、どうせその理由も大したものじゃないんだろうと恵里は邪推する。向こうも大変だなと軽く同情を寄せながらもソファーに少し深く背中を預けながら耳を傾けた。

 

「あの、すいませんグウィンさん。そのことで何かトラブルとかありませんでした? その、私達が持ち込んだ食料とか……」

 

()()()()()のものに関しては未だバレてませんよ谷口さん。それと先程の件についてですが、幸いにもビィズ殿が仲裁に入ってこちらの意を汲んで下さったおかげで問題はありませんでした。ですがあちらも入用なのは事実ですし、司祭の方は納得されてない様子でして……」

 

「なるほど」

 

 そこで鈴がトラブルが起きたのではと質問をするが、ビィズの采配によって何とか避けられたことをグウィンが言ってくれた。だがグウィンも伯爵もイルワも額を手で押さえている辺り、その司祭とやらには今も困らされているのだろう。

 

 じゃあどうするのやらと恵里はリリアーナに視線を向ければ、キッとした表情を目の前の三人に向けて一気に切り込んだ。

 

「事情は理解しました。しかしそれでしたら私達が出来る事となると、あちらと接触して真意を探るくらいしかありませんね――私達を呼んだのはそのためですか?」

 

「……誠に心苦しいのですが」

 

 そうしてリリアーナが自分達がやれそうなことを述べた後で問いただせば、伯爵は顔をひどく青ざめさせながら弱々しい声で一言つぶやく。その答えに恵里は軽く疲れを感じたものの、想像を下回ったぐらいでほぼ想定通りの答えだったためまぁいいかと妥協する。そして皆と顔を見合わせてから伯爵らの方へと向き直った。

 

「わかりました。ではクデタ伯爵、会談を行うために向こうに打診していただけますか」

 

「なんと……では」

 

「はい。場合によっては早期に解決出来るやもしれません。早急の手配をお願いします」

 

 ならば後は出たとこ勝負だとリリアーナが手配を要請する。流石にイルワやグウィンがいきなり自分達を呼びつけたり、自分達が用があるから声をかけるのとは勝手が違うだろうしこの采配は妥当だろうと恵里は考えた。

 

 するとクデタ伯爵は今にも目から涙を流しそうな程うるませ、口を手で押さえてこちらを見ていた。

 

「はっ! ではすぐにでも使いを出します! それまで皆様はこの家を我が家と思ってごゆるりと過ごしてください!」

 

 立ち上がりながら力説してきた辺り、かなり苦労したんだろうなと恵里は察する。とはいえそれをとやかく言う気も無かったし、それよりも一息吐いたイルワが何かを言いたげにこちらを見つめてきたのに気を取られたからだ。

 

“どんだけしんどかったんだよ……ま、伯爵サマからこう言われたんだし、茶でも飲んで過ごすかー”

 

「……よし。グレイルの方は話が済んだみたいだね」

 

「あの、イルワさん。他にも何か話が?」

 

「あぁ。実はウルの街のこととちょっと()()()()()があってね――」

 

 一体何を話すのやらと思いながらも恵里達はしばしイルワの話に耳を傾ける。後で持ち帰って皆に相談しようとまとめた辺りで使用人が現れ、準備が整った旨を伝えられる。すぐさま恵里達はアンカジ使節団との会合に向かうのであった。

 

 

 

 

 

「なんと……まさか本当にリリアーナ殿が来られたとは」

 

「驚くのも無理はありません。少々特別な方法を用いてここに来ましたから」

 

 ここフューレンにおいては中心部に近いほど信用のある店が多く、中央区に近いフューレンの一等地のあるホテルに恵里達は訪れた。手続きもあまり時間はかからず、すぐにアンカジの使節団の長たるビィズ・フォウワード・ゼンゲンと会うことも出来たのである。

 

「使いの話は本当だったとは……」

 

「なるほど……ではそちらの方たちのお力でしょうか」

 

「それはご想像にお任せします。ただ、()()()になっているのは確かです」

 

 何か思案する様子の教会の人間、おそらく例の司祭であろう人物をずっと視界に入れながらも恵里はビィズとリリアーナのやり取りを見ていた。

 

(王族ってどこもこんなのかなー……さて、あの司祭とやらはまだ動いてなさそうだけど)

 

 どこぞの帝国の皇女様と対面した時とは違いとてもにこやかに、されどお互い静かに相手を探りながら話す様を見て王族ってどこもそんなもんなのかと恵里は半目で見ながら思う。無論、司祭と神殿騎士っぽい見た目の輩どもの一挙手一投足は見逃してなかった。

 

「なるほど。では護衛の方でしょうか? そちらの皆様もどうぞ」

 

「はい。失礼します」

 

 粗相がないようにと緊張しているであろうハジメを見て、真面目だなぁと恵里は顔がちょっとほころびそうになるのを我慢しながらハジメ達と共にリリアーナの後ろに立つ。ちなみにリリアーナはソファーに座り、テーブルをはさんでビィズと対面している。

 

「ほう……中々()()な方を連れておりますね。不穏な噂を耳にしましたが、彼らがいるならばハイリヒ王国も安泰でしょう」

 

「えぇ。彼らの尽力のおかげで今も王国はどうにか形を保っております」

 

 無用なトラブルを避けるために今回もアーティファクトで姿を偽装しているが、一瞬ビィズがこちらに鋭い視線を向けたことからしてどこまで機能しているやらと恵里は内心ため息を吐く。おそらくもう見抜いたんだろうなぁとハジメや鈴達と目を合わせながらも、とりあえず事の成り行きを見守るしかないと腹をくくった。

 

「紹介が遅れましたな。こちらは今回使節団に同行させていただいた司祭のヤンシーです」

 

「いやいやどうも初めまして王女様。アンカジ公国で司祭を勤めておりますヤンシーと申します」

 

 顔のしわも深く、微笑みを浮かべている様子からどこか好々爺のような印象を受けるロマンスグレーの髪色の男が穏やかな声色で自己紹介をしてきた。

 

(コイツ……王女様に視線合わせてないし、今もちょくちょく目が動いてる。あと名前でも呼んでないね。コイツは敵でいいかな)

 

 しかしこの男はビィズから話を振られるまで名乗りを上げてはいなかったし、別のことに意識が向いていた様子を見せていたことから恵里は完全に見切りをつけていた。

 

「はい。初めましてヤンシー司祭。ハイリヒ王国の王女、リリアーナ・S・B・ハイリヒです」

 

「……さて。司祭の自己紹介も終わりましたし、お互いの状況を知るためにも少々話をしようではありませんか」

 

「えぇ。こちらとしてもアンカジ公国が今どうなっているか気になっておりました」

 

 その司祭が自己紹介をするとリリアーナも見事なカーテシーでそれに応える……そうして表面上は和やかなムードのまま会談が始まった。まずお互いの近況から話し、神の使徒と名乗る存在が現れたことやその時どういった対応を取ったかなどを語り合っていく。

 

“皆、調理場に行こうとした変な奴らがいたけどとりあえず全員無力化しといたぜ”

 

“お疲れ様、浩介君”

 

 ――リリアーナとビィズが話し合いと腹の探り合いをしている中、同行していた浩介の分身から“念話”が届く。今自分達がいる部屋の前に本人、そしてこの会場となったホテルの中を分身が二人歩いて警備しており、その内の一体が事が起きる前に対処してくれたのだろう。

 

 リリアーナの身に危険が及ばないようにとエリヒド王の頼みで鈴と浩介もメンバーに加わったのだが、それが取り越し苦労とはならなかったことに恵里は何とも言えない気持ちとなった。

 

“それともう一つ。その変な奴らを抑えようとしてた人達がいたから接触してみた。後で報告するよ”

 

“そっか。じゃあ話がついたらまた連絡してね”

 

 そして続く浩介の話に恵里はアンカジの面々が一枚岩でないことを察する。調理場に向かった、ということはこれから出すお茶にでも何か仕込む気だったのだろう。それを阻止しようとした人間もいるということは最低でも二つの思惑があると恵里は考えた。

 

“調理場、ってぇとやっぱ毒でも盛ろうとしたのか?……やってくれるじゃねぇかアイツら”

 

“待って待って信治君。そういう人達を抑えた、ってことはあっちの人達の中に僕達と敵対する意思は無い人もいるかもしれないよ”

 

“落ち着いて中野君! もしかすると浩介君が話をしようとしてた人は味方かもしれないから!”

 

 案の定リリアーナに危害が及んだかもしれないと考えた信治が思いっきり顔をしかめそうになり、すぐにハジメと鈴がフォローを入れる。すぐに恵里も小声で“鎮魂”を唱えて彼をクールダウンさせて説得にかかった。

 

“はい落ち着く。まだ浩介君からの報告も無いでしょ。やり返すんだったら事実がわかってからね。愛しの王女様に恥かかせる気?”

 

“あー……助かった。中村”

 

“ありがとう恵里。でも流石にやり返すのはちょっとやめよう? ね?”

 

“えー。一応仕掛けようとしてきたのあっちじゃーん。ハジメくーん”

 

 リリアーナのことを交えて冷静になるよう説得すれば、魔法の効果で気分がフラットになったのもあってかすぐに信治も落ち着きを取り戻してくれた。ただそれはそれとしてハジメに踏みとどまるよう言われたのはあまり納得がいかなかったが。

 

“それにしても王女様が話してる最中に不審者が出るなんて……なんか怪しいね。いきなり行動に移した感じがする”

 

“それ俺も思ったわ谷口。多分俺達がここに現れるのは想定外だったんじゃねぇか?”

 

 ふと鈴が口にした疑問に信治が答え、そのことに恵里も少し考え込む。鈴の言う通りこの会談は急遽ねじこまれたものだ。にもかかわらず二つある不審者のグループの一つが調理場に何かをしに向かった。という点がどこか引っかかる。

 

“多分ボク達に何か仕掛けるのは予定通り。けれどボクらがここに現れたのは想定外、ってところじゃないかな?”

 

“ありえそうだね。恵里”

 

 目の前の司祭が今もせわしなく視線を動かし、何かを待っている様子も相まって浩介に取り押さえられた奴らが関係しているとしか恵里には思えなかったのである。自分の推測を簡潔に伝えればハジメを筆頭に皆も納得を見せた。

 

「――なるほど。そちらも大変だったご様子で」

 

「いやいや。王国と比べれば私どもの方は平穏無事といった状況です。」

 

 そうして話し込んでいる内にどうやらリリアーナとビィズの方も話に一区切りついたらしい。

 

 ハジメ達と話し合いながらも恵里は王族同士の話にも耳を傾けていたが、国に起きたことを詳細に語ることこそしなかったものの、あえて弱った様子で話していたのは記憶している。それも助けを求めるようにチラッ、チラッ、と視線をビィズに送っていたのもだ。

 

(うわっ腹黒っ。よくもまぁここまで堂々と演技が出来るね。ボクだったら恥ずかしくて出来ないよ)

 

 王国がもう風前の灯火だということを印象付けるためにしれっと演技しているリリアーナに対し、コイツかなり腹黒いなと恵里は自分のことを棚に上げながら心の中で非難していた。

 

“どうしたの鈴? 何か言いたいことでもあるの?”

 

“別に……よくわからないけど釈然としないなぁって思っただけ”

 

 なお何故か鈴にあり得ないものを見る目つきで見られたが、特に心当たりも無かったため恵里は無視した。

 

「ふむ、そちらの状況は理解しました……ではビィズ殿、この機会ですし今ここで書状を改めてもらうのはどうでしょうか」

 

「いや、しかし……」

 

「こちらにおわすのは王家の人間です――でしたら分別の一つもつくでしょう。我らの役目をお忘れではあるまいな?」

 

 そうしてリリアーナのことを頭の中でとやかく言っていると、あちらの方も動きがあった。やはり彼ら一行は王国に向けて動いていた様子であり、改めてこの使節団が一枚岩ではないということが確認出来た。仕掛けてくるならそろそろだろうかと思っていると、司祭のそばにいた神殿騎士がビィズの下へと向かっていくのを目撃する。

 

「ですが――待て! まだ私の話は終わっていない!」

 

「本分を果たされませビィズ殿! 我々は王国に降伏勧告をしに参ったのです!」

 

「待て貴様ら! ビィズ様の意志を無視する気か!」

 

 すぐにビィズの横にいた護衛と思しき兵士達が神殿騎士を止め、ビィズと共に抗議の声を上げる。神殿騎士の言葉が本当で、ビィズと兵士が演技をしていないとなれば教会と彼とでそれぞれの思惑があるということになる。

 

 面倒だなぁと恵里が思わず眉をひそめていると、司祭はしれっと書状を手に取ってテーブルの上へと置いた。

 

「ではこちらの書状の確認を――ランズィ公の慈悲に感謝なさい。反逆者ども」

 

 その広げられた書状の内容を確認すれば、いつぞやの帝国が差し出した書状を彷彿とさせる文章がそこにあった。即時降伏を勧める旨の文章、公国と帝国に割譲する領土の取り決めの会議の日取り、勧告を受けた後の王族の扱い等々である。

 

“うわーすっごいデジャヴ感じるー”

 

“……帝国の時と大差なかったね”

 

“帝国よりはマシには見えるけどそれだけっぽいな”

 

“今の王国の立場を考えるとわからなくもないけど……ひどいね”

 

 皆で一緒に“念話”で色々言い合っていると、それを確認し終えたリリアーナがため息を吐きながらビィズの方に視線を向けた。

 

「……これはアンカジ公国の総意と見てよろしいでしょうか」

 

「お待ちくださいリリアーナ殿! 私はただ、ハイリヒ王国とまだ手を取り合えるかどうか――」

 

 実際問題あちらが敵対の意志を向けるのであれば願ったり叶ったりである。リリアーナもやや平坦な声を出してはいるが、どうせ失望を堪えてる風に装ったものだろうと恵里は確信している。しかしビィズがまだ話し合いをしたいと大きな声を出したとほぼ同時に外の方からも声が上がった。

 

「おのれ恥知らずのアンカジ――うげぇ!?」

 

「くたばれアンカジの外ど――ぶべらっ!?」

 

“あ、なんかチンピラみたいな奴が近くの部屋から二人出て来たから迎撃しといたわ”

 

“あ、ありがとね浩介君”

 

 大方司祭辺りの仕込みであろう輩も出入口の前で待機していた浩介に即座に鎮圧された。ひとまず浩介に礼を述べ、一体何を仕込んだんだかと考えながらも恵里は司祭の方に視線を向ける。ここでまたあの男が手を打ってくるのは見え透いていたからだ。

 

「なっ……何者だ!」

 

「はっ! いきなり我らの部屋に武器を持って侵入しようとした輩が現れました! 我らの方で即座に捕えたのですが、先の声明からしてアンカジに恨みを持つ輩、それか王国に仕える人間かと!」

 

 やはりである。扉の前で番をしていた神殿騎士どもが近くの部屋から出て来た不審者どもを引きずって現れたのだ。それも自分達にしれっと悪印象を植え付けることを抜かしながらであった。

 

「やはり……ビィズ殿! こ奴らは私達を暗殺しようとしたのです! これは許されることではありますまい!」

 

「うわクソみてーな芝居」

 

「……ここまで低クオリティなのってある?」

 

 信治とハジメがボソッと漏らしたように恵里もひどい三文芝居だと心の中で毒づくが、特に何もしなかった。このままあちらが敵対する流れに持って行ってくれれば色々と手間が省けて万々歳だからである。小三の時に旅行先で見た日〇猿軍団の芝居以下だったなーと思いながら向こうの動きを待っていると、いきなりビィズがテーブルをバンと叩いて叫んだ。

 

「――これは何の真似だ!」

 

 歯を砕けんばかりに噛みしめ、青筋を額に浮かべながらテーブルを凝視している。今にも人を殺しそうな顔をしているビィズを見て、すぐさま鈴がリリアーナのそばに立った。

 

 もちろんあちらが動くのなら“呆散”で意識を思いっきりあやふやにしてやるつもりであったし、ハジメと信治の方も武器こそ出していないが身構えている。

 

「すぐにでも“聖絶”は使えます王女様」

 

「皆さん、今は静観を。下手にあちらを刺激するわけにはいきません」

 

 鈴が耳打ちし、リリアーナが小声で自分達に指示を出したのを聞きながらも恵里はじっと機会を待つ。そもゲートキーさえ使えばすぐにでも逃げ出せるのだから焦る必要なんてない。ただ静かに見守っていると、司祭がしたり顔でこちらに指をさしながら声を上げる。

 

「そうです! 我らは話し合いの場を設けたというのにこのような真似を――」

 

「貴様が言うか!!」

 

 とはいえうっとうしいことには変わりなかったため、その煽り文句に恵里は思わず舌打ちしたくなる。が、ビィズが叫んだ次の瞬間にはそのことが頭から抜けた。あの司祭がビィズに殴り飛ばされたからだ。

 

「がっ!?……な、なにをされますか……?」

 

「お、お待ちくださいビィズ殿! ヤンシー司祭は何も悪くありません!」

 

「このような下らん芝居を仕掛けたのは貴様だなヤンシー! そうまでして王国と矛を交えたいか! 王都の民を戦の火で炙りたいと申すか!」

 

 殴られて呆然としている司祭に近づこうとして神殿騎士から抑え込まれるが、ビィズはそれでも吼え続けた。目を大きく見開きながら訴える様からして本気で王国を案ずる様が見受けられる。

 

「ゼブ! アッシュ! 王国の民をいたずらに傷つけたいと申したこの愚か者を切れ! 民のことを考えぬ者はアンカジにはいらぬ!」

 

「は……はぁ!?」

 

「いや、えぇ……」

 

 故に本気で恵里は困惑していた。正直あそこで自分達を殴りにかかってくれていれば後腐れなく敵対出来たのに、この熱血漢はマトモな理論を振りかざしてアホ司祭を処罰までしようとしている。部下と思しき兵士達も何度となく顔を見合わせており、どうしたらいいのか本気で迷っているのが嫌でもわかってしまう。

 

「……ど、どうしよう。これ、止めた方がいいよね?」

 

「す、すぐに止めましょう! 中村さん、すぐに“鎮魂”を! 谷口さんは結界魔法でビィズ殿とヤンシー司祭、それと他の兵士の方々を守ってください! 遠藤さんは入り口の騎士が不用意に動いたら対処してください!」

 

 不安そうに漏らした鈴のつぶやきにすぐにリリアーナが答える。そうして恵里達は事態の収拾を図るべく尽力し、話し合いを再開するまで小一時間かかってしまったのであった……。




世界の敵になって落ち目もいいところの王国を更にハメようとしたら公主のご子息に殴られたでござるの巻 by ヤンシー司祭

今回の話割とこんなんでした

2024/2/24 ちょっと修正しました。

悪食の味は?

  • ナマコみたいにコリコリしてる
  • フカヒレみたいに強い弾力(味はない)
  • 赤身魚の刺身に近い
  • 弾力がありつつも旨味がある
  • ゴム食ってるのと錯覚する
  • 味はしないが、程よい弾力
  • 味は薄いが歯切れがいい
  • 磯臭いがプリンとした食感
  • その他(活動報告に書きこんでください)
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