あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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二週間経過してないんでセーフにしてください(しろめ)

では改めまして読者の皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも200440、お気に入り件数も914件、しおりも451件、感想数も699件(2024/3/2 23:58現在)となりました。ありがたいことにUAも20万にまで登りました。本当にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当にありがとうございました。またしても書き進める力をいただきました。感謝です。

では皆様、本編をどうぞ。


八十八話 子供達の暗躍と見え隠れする困難

「大変申し訳なかった! 教会の手の者がそちらに大変不躾なことをしてしまったことをお詫びしたい!」

 

 アンカジからの使者であるビィズの必死な声がフューレンの一等地の宿の一室の中で響く。お付きの司祭が恵里達に色々となすりつけようとしたことにビィズがキレてしまい、彼をなだめることにしばし時間がかかったからだ。

 

 恵里の“鎮魂”の重ね掛けによってビィズも落ち着きを取り戻し、ひとまず教会の人間とチンピラはこのままだと面倒そうだからと岩の鎖で拘束して床に転がしたことでどうにか事態は収束。現在ビィズは顔中に汗をかきながらこちらに何度となく頭を下げ倒していたのであった。

 

「むー! むぐー!」

 

「いえ……しかし、良かったのですか? このようなことをしてしまっては教会を敵に回すようなものでは……」

 

 そのせいかリリアーナもいたたまれない様子で彼を気遣っており、声のトーンや顔にうっすらと浮かんだ汗からして彼女も演技でなく本気で心配しているのだろうと恵里も推測している。とはいえ下手に口出しして話の腰を折るのもまずいと思い、とりあえず何もせずに突っ立っているだけであった。

 

「そちらが世界の敵と宣告されたのはわかっております。ですが、このまま物別れに終わるのは私の本意ではありません」

 

 先程の焦った様子から打って変わり、拳を握りしめながらリリアーナを見据えてビィズは話してきた。その様を見て嘘は無いように見えたのだが、ならば何の目的で王国を訪れようとしたのかがわからず恵里は思わずつばを呑む。

 

“大丈夫。とりあえず王女様に任せておこう”

 

“うん……”

 

 あちらの意図が見えないことに少しだけ怖くなってハジメの方に視線を向ければ、彼の方も真剣な表情であちらを見ている。

 

 しかしすぐにこちらの視線に気づいて、ほんの少しだけこちらに顔を向けて“念話”を使って声をかけてくれた。その気遣いのおかげで少し落ち着くと恵里は短く返事をする。

 

「物別れ……そういえば先程『まだ手を取り合える』と仰っていましたね。もしや今回の訪問の目的は――」

 

 そうして再度前に視線を向けると、何かに感づいたらしいリリアーナがビィズに質問を投げようとする。するとそれに先んじてビィズの方も口元をほんの少し緩ませながら己の腹の内を語ってくれた。

 

「はい。リリアーナ様のご想像の通り、降伏勧告の(てい)を取ってまだ我らは共に未来を歩めるかを確かめに参りました……この愚か者どものせいでご破算になったかもしれませんが」

 

 その際猿ぐつわを噛まされてす巻きになってる司祭や神殿騎士に鋭い視線を一瞬向けつつも、ビィズは額に手を当てながら深くため息を吐いている。恵里としてもまさかそんな理由で王国に来るとは思わず、やはり他にも何か裏があるんじゃないだろうかと思わず勘ぐってしまう。

 

「そうですか……それ()本心だということはわかりました。ですが、この窮地を利用しようとは考えていませんか?」

 

「……流石にわかりますか」

 

 そこでリリアーナも一旦あちらの主張を受け取った上で疑問をぶつければ、あちらも参ったとばかりに苦笑いを浮かべた。そしてキッと表情を改めてから話しを再開する。

 

「先の護衛の方々を見て確信しました。おそらく『魔人族の手先』と世間で言われるようになった神の使徒の方々ではありませんか」

 

 その言葉に恵里は軽くげんなりし、チラっとハジメ達の方を見れば彼らも顔を引きつらせてたり苦笑していた。とりあえず全員で一斉にリリアーナに視線を向ければ、彼女も軽く息を吐いてからコクリとうなずく。再度皆で顔を合わせると、一斉に姿を偽るアーティファクトのスイッチを切った。

 

「モガッ!? ムガー、ムー!!」

 

「やはり……ならば一日足らずでハイリヒ王国の軍三千を打ち破ったというのもあながち嘘ではなさそうですな」

 

 地面に転がってる奴らはうなり出したが、お互い特に気にすることなく話を続ける。やはり自分達が王国の混成軍を倒したことは伝わっているかと思いながらも、リリアーナが語った『他の目的』とやらは何なのかと恵里は持っていた杖を握り直した。

 

「えぇ。それは本当です……もしやこのことをランズィ公に話し、アンカジと会談の場を設けるおつもりですか?」

 

「そう出来ればそちらも楽やもしれませんが、アンカジの民が納得はしませんでしょう。ここにいるような者達もいるのです」

 

(ま、だろうね)

 

 リリアーナの推測にかぶりを振ってビィズは否定する。確かにそこに転がってるような教会の奴らはまず許さないだろうし、自分達の悪評が神の使徒経由でトータス全土に広まったことをなどを考えれば相手の言い分も理解が出来た。それほどまでにエヒトに対する信仰は根強いということを改めて恵里は感じる。

 

(そうなると他に何か考えてたか即席で思いついたはず。一体何を――)

 

 口ぶりからしてこちらとやりあう気は皆無なようにしか見えないが、もったいぶっている辺りどんなとっておきがあるのやら。王族の会話は面倒だなぁと思っていると、ビィズが口角を上げたのを恵里は目撃する。

 

「――そこで私がそちらに(くだ)る、というのはどうだろうか?」

 

 バンザイしながら唐突に出してきたビィズの提案に思わず恵里は目をむく。まさかこんな提案をしてくるとは思わなかったのだ。すぐにハジメと鈴の方に顔を向ければ二人も信治も鳩が豆鉄砲を食ったような顔でビィズの方を見ていた。

 

「ビィズ様、何を仰います!」

 

(ホントに予想外だよ! 一体何考えて……あっ!)

 

 何が目的でこんなことを言い出したのかとこれまでのビィズの言葉や行動を一つ一つ思い出して洗っていき、ふと同じようなことが前にもあったのを恵里は思い出した。自分と愛子が即座に却下したあのやり取りをだ。

 

“ね、ねぇどういうこと!? どうしていきなり降参するってビィズさんが!?”

 

“いやマジで意味不だろ……もしかして俺らにゃ敵わないって思ったか?”

 

“信治の言う線もありそうだな……なぁハジメ、恵里。二人はどう考えてる?”

 

 恵里が答えと思しきものに行き当たった一方、鈴達も軽いパニックを起こしていた。自分もあのやり取りを体験して断ってなければ多分鈴達と同様に自分も慌てふためいたかもなぁと思いつつ、恵里はハジメと目を合わせた。

 

“恵里は思いついたみたいだね”

 

“ハジメくんこそ”

 

“じゃあせーので言おっか。せーのっ”

 

「ゼンゲンの血とアンカジを守り、また自身を交渉の糸口とするためですか」

 

 ――アンカジ公国を守るため。奇しくもリリアーナと共に推測を同じタイミングで口にすれば、ハジメと目を合わせて一緒に苦笑を浮かべる。

 

 そうしてうなずいた後、その答えに鈴達もあること――エリヒド王とルルアリア王妃がリリアーナとランデルを自分達に預けようとしたことを思い出したようで、何度かリリアーナとこちらに交互に視線を向けてきた。

 

「参った。まさかそれも見抜かれていたとは」

 

「ビィズ様、それは!」

 

「お前達も見ただろう。先程の彼らの力を……半分だ。半分しか彼らは動かなかった」

 

 配下の兵士も声をかけたが、ビィズの言葉に一様に黙り込んでしまう。事実、教会の奴らを抑えるのに動いたのは恵里と鈴だけであった。恵里が“鎮魂”でビィズを落ち着かせ、鈴の光と土の魔法で丁寧に司祭らを捕縛。ハジメも信治も動いていない。

 

 浩介は部屋になだれ込もうとした輩を叩きのめしただけで、リリアーナからの指示で気配を消したままだからカウントされなかったのだろう。ビィズが述べたようにたった二人が事態を収束させた。そのことを彼はちゃんと受け止めていたのである。

 

「ウワサが本当ならば二十人ほどで討ち破ったと聞く……皆が彼女達ほどの強さを持っているならば、方法次第では王国の部隊を倒すことも出来たはずだ。どこまで本当かはともかくとしてな」

 

 さっき動いた自分と鈴の実力からして逆算し、向こうの戦力じゃ敵わないと察したのだろうと恵里は思う。だからといってあまりにも思い切りが良すぎないかとため息を吐きたくもなっていたが。

 

「それにどのような経緯であれ、私達は王国に一人残らず切り捨てられても仕方のない立場だ……ならば私の身柄を置くぐらいはすべきだろうし、もし今後アンカジと話し合いの場を設けるのならば私の身柄を王国が預かっていた方がやりやすいだろう」

 

 その言葉になるほどと恵里は内心うなずいていた。どうせアンカジも倒して手中に収める手はずではあるし、ビィズがいれば公国に対してアクションをかけやすい。筋も通っているし中々計算も上手い。

 

 王族だけじゃなくて貴族にも頭回る奴がいるなぁと思いつつ、リリアーナが次はどんな手を指すのかと恵里は黙って見ていた。

 

「えぇ――それとビィズ殿が私達に降るのであれば少々こちらの腹積もりも話してもよさそうですね。私達が今、どんな絵図を描いているかを」

 

 そう述べながらリリアーナは帝国及び公国とも敵対して戦争に持ち込み、両者を支配下に置く算段を語っていく。その話を聞いて何度となくビィズはつばを吞み、少し顔を青くしながらも彼女の話にただ耳を傾けていた。

 

「……一つ伺いたい。王国は一体何をするつもりなのだ?」

 

「エヒト神との敵対です。少なくともトータス全土に現れた銀髪の女()()を討ち滅ぼすことは確定事項ですね」

 

 おそるおそる尋ねたビィズに対し、リリアーナは表情を一切変えることなく淡々と語る。ちゃんと覚悟を持ってエヒトと矛を構える気概であるリリアーナに対し、ビィズを含めたアンカジの面々は一層顔を青くしていた。まぁそれも無理は無いかと思いつつも恵里は成り行きをただ見守るだけであった。

 

「……それは王国がエヒト様に見捨てられたからか? それとも彼らの支配下にあるからか?」

 

「両方、というと少し語弊がありますね。少なくとも私は自分の意志で信治さん達の力になれるよう動いております」

 

 そう言いながらリリアーナは出されてしばらく経ったカップに口を着ける。部屋に入って出されたっきりのお茶を口に含みながらもリリアーナは毅然とした態度を崩しはしなかった。

 

「乱心なされたか!」

 

「よせ!……しかし、それならば一層私の存在は必要ではないだろうか。ただ、その」

 

 兵士がこちらを理解出来ないようなものを見るような目つきで見ているが、ビィズは苦々しい表情を浮かべながらも止めた。そこで改めて自分の存在価値を訴えてきたが、続く言葉はどこか勢いがない。

 

(そういえばあの司祭を殴った時民がどうとか言ってたな……もしかしてボク達と戦った際の犠牲のことでも考えてる?)

 

「アンカジの兵がどれだけ犠牲になるか、ですね? それに関しては南雲さん達の方がお詳しいかと」

 

 何故言いよどんでしまったのかを恵里は推理してみたのだが、リリアーナはその答えを即座に提示する。ビィズもそれにうなずき、リリアーナと一緒にこちらに真剣なまなざしを向けてきたため再度ハジメ達と顔を合わせて話を始めた。

 

「まず犠牲は出さないつもりです。現に王国と戦った際にも気絶させる程度に抑えて全員無力化しました」

 

「どうやって無力化したかを今説明します。“礫弾”」

 

 まず自分達を代表してハジメが王国の軍相手にどうしたかをサラッと説明し、続いて鈴がボーリングの玉ほどの大きさの岩の弾丸を作ってハジメに手渡す。そして受け取ったハジメはすぐに“崩陸”を発動。岩の塊が瞬時に崩れ去っていくのを見ておぉ、とアンカジの人達からどよめきが漏れた。

 

「まぁこんな感じ。さっきのはハジメくんが考え付いたオリジナルの魔法でね、地面にすら作用できるよ」

 

「それも目の前ぐらいは一気にな。それでわかったろ?」

 

「……なるほど」

 

「むぐぐ……むがー! もがー!」

 

 そこに恵里が補足し、信治も乗っかる。流石に視界いっぱいとなるとハジメや光輝、後は浩介と愛子辺りと限られるだろうがいいハッタリにはなる。現にそれを聞いたビィズや兵士達も考え込んでいる様子であった。それと相変わらず地面に転がってるイモムシどもがうるさかったりする。

 

「……それならば兵に犠牲が出る可能性は低いか」

 

「エヒトと戦うならば兵はいくらいても足らないでしょう。ですので無用な犠牲は出しません……ご納得いただけましたかビィズ殿」

 

 あごに手を当ててビィズは考え込む姿勢をとっている。リリアーナはダメ押しとばかりにエヒトと戦う意思を再度示し、どうして自分達に話を振ったかを暗に述べながらも了承を迫っていた。

 

 王族の交渉エグいなと軽く引きながら恵里は二人をながめていたが、ふと空気が変わったのを感じた。ビィズが軽くうつむきながらため息を少し長く吐くと、表情をキッとしたものに変えてこちらを見据えてきたからである。

 

「……わかりました。であればこのビィズ・フォウワード・ゼンゲン、道化となろう。アンカジを巻き込む理由、戦争を終えた後の公国との顔役、好きに使っていただきたい」

 

 ソファーに座りながらも深々と頭を下げ、協力を誓ってくれた。予想外の方向に少し話がズレたが、いい方向に転がったと恵里はにんまりと笑う。

 

「ありがとうございますビィズ殿。では使節団の方と話し合いをして――」

 

「あの、ちょっといいですか」

 

 そしてリリアーナがこの後の対処について話し合おうとした時、ハジメがおずおずと話に割り込んできた。

 

「どうされましたか南雲さん? 何か、話に不備でもありましたか……?」

 

「いや、そういうんじゃないですけど……ちょっとビィズさんもアンカジの人達も気の毒に思っちゃいまして」

 

 何かと思えばハジメがお節介を焼きたがってただけであった。ホントお人よしなんだから、とため息を吐いて半目になりながら恵里は彼に何をする気なのかと軽く問いただそうとする。

 

「何やる気なのハジメくん」

 

「うん。やっぱりさ、役得ぐらいあってもいいんじゃないかって思ってね」

 

 役得、と言って一体何をするのやらと思って軽く首をかしげた時、ふと恵里の脳裏にあるものが浮かぶ。もしやと思ってハジメの方を見てみれば想像通りの答えが彼の口から出てきた。

 

「王女様、もしよろしければ僕達の商会についても話してみるのはどうですか」

 

 ビィズらは首を傾げ、鈴達は軽く目を見開いてうなずく。確かにそれならこちらにも利はあると思いながら恵里はうんうんとうなずき、口角を上げながらリリアーナに提案をする。

 

「いいねハジメくん。だったらさ、見返りに支店をアンカジに置かせてもらおうよ王女サマ」

 

「いいですね。ではビィズ殿、ここからは商売の話をしましょうか」

 

「商売、ですか……その話、くわしくお聞かせ願えますか」

 

 話を振れば彼女もニコリと笑みを張り付け、ビィズも少し戸惑いながらも少し前のめりになりながら話をうかがってきた。向こうもどうやら乗り気のようで、だったらしっかりと引き込ませてもらおうと“念話”で何を話していこうかとリリアーナ共々画策していく。

 

「もがー!!」

 

 それと相変わらずうるさいイモムシ達を見て、後で()()の材料になってもらおうかと恵里は舌打ちするのであった。

 

 

 

 

 

「いやはやこれは……本気で驚かされたな」

 

 ビィズらを連れてゲートキーで王宮へと戻ってきた恵里達は、自分達が開発したゴーレムなどを一通り()()()()した。現在は一連のパフォーマンスを終えて呆然とする彼らを連れ、自作のソファーなどを並べたハジメの自室にて小休止をしている。

 

「そうでしょうそうでしょう! 正直私も皆さんといて何度驚かされたやら……」

 

「あ、はい……」

 

 ソファーに思いっきり体を預けて深々とため息を吐くビィズに、対面で座っていたリリアーナは仲間を見つけたとばかりにしきりにうなずいている。ビィズはそんな彼女を見て顔を引きつらせ、何かを言いよどんだ様子でこちらを見ていた。

 

(ひっどいなーもう。ボク達だって最初は驚いたってば)

 

 ヘリーナから出されたお茶が相変わらず美味しいと思いつつも、先のリリアーナのセリフに恵里は内心口をとがらせていた。確かに常識破りなことはしょっちゅうやってる自覚はあるが、流石にそれを口に出されると傷つくのだ。外から来訪した要人がいなければ今すぐブー垂れたくなるぐらいには不満だったのである。

 

“後で鈴と一緒にお茶しよっか。何か言いたかったらその時に。今は我慢。ね?”

 

 どうやらこちらの様子に気付いたらしいハジメが“念話”を使ってお誘いをかけてきた。彼の方に視線を向ければ微笑みながら見ており、全部お見通しかぁーと恵里は思わず脱力しそうになる。

 

“はぁーい……”

 

「ごめんごめん」

 

 ちゃんと自分のことに気付いてケアもやってくれるのは嬉しいけれど、かんしゃくを起こした犬とかそういう風に扱われている気がした恵里はちょっと不承不承な感を装いながら返事をする。するとハジメが小声で謝ってくると共にこちらの頭を何度かなでてきたため、とりあえずそれで我慢するかと目を細めながらそれを受けていた。

 

「仲睦まじいですな()()()は」

 

「えぇ、まぁ……はい」

 

「「あ、すいません……」」

 

 ふとビィズがこちらを微笑ましげに見つめ、リリアーナもやや気まずそうな恥ずかし気といったトーンでそれに返事をしていた。ハジメと鈴も同様だ。別に休憩中なんだしいいでしょ、と腰に手を回したハジメの手にそっと自分の左手を重ねながら恵里は内心ボヤく。

 

「それで、先程見せていただいた品の数々、特に馬型のゴーレムは私どもの方でも扱いたい。それともう一つ」

 

「お褒めいただきありがとうございます。それと他にリクエストというのは?」

 

「馬型のもの以外も造られてましたし、出来れば牛型を。メインである果物と比べてそう多くは無いですが、野菜類を育てている畑を耕すのに牛の力はうってつけと思いまして」

 

(あー、そういえば砂漠の中の国のくせに割と畑が広かったな)

 

 何度かお茶を口にした後、ビィズは先程見せたゴーレムを褒めそやすと共に新たな注文を提示する。その内容を聞き、恵里はアンカジに潜入した時のことを思い出してひとり納得していた。

 

「あくまで目的別に形を変えてただけなんで、パワーさえ調整出来ればそのまま馬の方でも使えますよ。でも農業目的に使うんだったら別に造った方がいいかもしれませんね」

 

「なるほど。それは後で話を詰めさせてもらおう――では、そろそろ()()()を戻す時か」

 

 そこでハジメもゴーレムが何故様々な形をしているかの説明をしつつ、ビィズに理解を示した。それを受けて表情を軽く緩めたビィズはうんうんとうなずき、不意に視線を鋭くした。『あ奴ら』という単語を聞き、恵里も視界の隅にいた奴らの方に視線を向ける。

 

「あいやあいやビィズ様! 私どもに何をご指名でしょうか!」

 

 好々爺らしい雰囲気をかもしていたはずのナイスミドルは人懐っこい笑みを浮かべながら快活に答えた。そう。恵里は例の首輪もコイツら相手に披露したのである。その結果、いつものように愉快なことを言い出すようになっていた。

 

「うむ。ヤンシー司祭、そしてボールドウィン、カルヴィン以下神殿騎士三十余名。残りの日程を逆算し、帳尻が合うようフューレンに滞在。それとフューレンの民を慮り、行動せよ」

 

「はっ!」

 

「そしてフォルビン司教に私に不幸な出来事が起きたと伝え、表向き従え! これは命令である!」

 

『ははー!!』

 

 そしてこちら側についた司祭らに命を下す――先程首輪で洗脳した際、何故あんな三文芝居をしたのかを問い詰めるとその背後にいた存在が明らかとなった。アンカジの聖教教会を牛耳るフォルビン司教の命令であったのだ。

 

「予定では帰国まであとひと月。()()殿()、改めて貴殿に同行をお願いしたいだろうがよろしいだろうか」

 

 そこであえて向こうの思惑に乗る。フォルビンの方には偽の情報を流し、アンカジを統治するランズィにだけはビィズが連れていた暗部の人間と共に事実を報告。共に演技をしてもらおうということになったのだ。

 

「あぁ、もちろん。俺達の都合優先でもいいよな?」

 

「無論。我らに否を言えまいよ」

 

 このことは既に友人達全員に通達済みであり、OKは既にもらっている。わざわざ浩介を連れていくのも経緯の説明とその補強のためだ。浩介もそれに二つ返事で改めて答え、ビィズもにこやかに受け答えをした。

 

「ではビィズ殿、私達が勝利した暁には」

 

「無論、私の方でサウスクラウド商会の支部を設立するよう手配を整えよう。たとえ父が反対しても必ず」

 

 ここに今、ハイリヒ王国とアンカジ公国の間で密約が結ばれる。エヒトを倒すための計画がまた一歩進んだことに恵里は笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「――では皆様、御武運を。光輝さん達にもよろしくお伝えください」

 

「あぁ。サクッと行って取ってきてやらぁ――行ってくるぜ、リリィ」

 

 ビィズと密約を結んでから早二日。練兵場でリリアーナとメルドそして騎士団とハウリアの面々に愛子とかなり多くの人間が恵里達()()()のメンバーは見送りに来た。

 

「いきなりねじ込まれた依頼さえなければ私も着いていけたのですが……」

 

 見送る側の愛子が軽く眉間にしわを寄せ、一緒に行けないことを悔いているがそれも仕方ない。フューレンの方からの緊急の要請があり、急ぎウルの街へと向かってほしいと打診されたからだ。

 

 既に何人か復興のために冒険者を向かわせていたのだが、想定以上に田畑の損害がひどいらしい。そのため何としても“作農師”である愛子の助けが必要になったのだ。

 

「流石にそれは断りますよ畑山先生。これから僕達が向かうのは先生みたいな人がマトモに戦えなくなるところですし」

 

 たとえそうでなくともハジメが述べたように、これから自分達が行く場所は彼女のような魔法を主体に戦う人間がマトモに戦えない場所――遂に発見したライセン大迷宮へと向かうのだ。

 

 自分達なら高いステータス故に出せる中級魔法でゴリ押しが可能だが、まだ魔物肉を食べてる量が少ない愛子では無理だろうと恵里は厳しい目で見ている。

 

「ま、来たかったらその問題を解決してからだね」

 

「今回私達が挑めばどういう装備が必要になるかわかりますし、それまで待っててください畑山先生」

 

「……わかりました。お願いします」

 

 流石に足手まといがいるとなると大迷宮攻略の難易度が跳ね上がる。それはハジメ達の危険にも繋がるため、恵里はあえて軽く突き放す。

 

 とはいえ鈴が言ったように今回の挑戦でどういったものが必要になるかわかるだろうし、後々エヒトとの戦いに備えるためにも神代魔法を使える人間はいるに越したことは無い。悔し気に見つめる愛子らに見送られながら恵里達は開いていたゲートをくぐってライセン大峡谷へと転移する。

 

「着いたぞ。ここが」

 

「ライセン大迷宮か……」

 

 捜索隊が設置したゲートホールのおかげで大迷宮の入り口の真ん前に恵里達は出た……もしこれが他の大迷宮だったらもっとテンションが上がっていただろうと恵里は思う。しかしこの場にいる皆のテンションは自分と同様に低かった。というのも……。

 

“おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪”

 

「ホントふざけた字面だよね。嘘であってほしかったんだけど」

 

 原因は視線の先にあったのはふざけた看板。壁を直接削って作ったであろう見事な装飾の長方形型のそれには、女の子らしい丸っこい字でこんな文面が掘られていたのである。この話を聞いた時は自分の耳を疑ったし、今は自分の目がおかしくなったのではと恵里は心配していた……が、どうやらそうでもないらしい。

 

「マジかよ……ウソでもなんでもねーのかよ」

 

「いやー、聞いた時は全然信じられませんでしたけど……ねぇ」

 

 メンバーの一人である良樹も口元辺りの表情筋がヒクついているし、シアも信じられないとばかりに目を細めている。二人の言葉には恵里も心の底から共感しており、油断でも誘うためかあるいはかなり愉快な性格をしているかのどちらかであってほしいと願望込みでアタリをつけていた。

 

「えーと、光輝君達がここに入ったのは昨日からだよね。でもまだ、ってことは」

 

「相当苦戦してるのかな。魔法を使うのが厳しいだろうし」

 

 ここでハジメが半ば強引に話題をすり替え、鈴もそれに応じて推測を話す。大方どうにかこの何とも言えない空気をどうにかしたかったのだろうと推測するが、今回はそれがありがたかったことから恵里もそれに乗っかる。

 

「まぁ二人が言いたいことはわかるよ。でもさ、万能選手の光輝君に忍者の雫と鷲三さん、霧乃さん、あとアレーティアはともかくとして檜山君もいるし大丈夫じゃない?」

 

 鈴の言う通りこの峡谷では発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうし、おそらくこの大迷宮の中もそうだろうという予想は容易に立つ。しかし恵里はそこまで心配はしていなかった。

 

「それもそうだな。アレーティアさんはハジメが作った武器とかもあるだろ? あの水鉄砲とか。そこまで心配する必要ねぇだろ多分」

 

 純魔法使いタイプなアレーティアはともかく他はこの大峡谷でも戦える人間揃いだ。それに信治が述べたようにアレーティアにはハジメが制作した数々のアーティファクトも持たせている。威力偵察に向かった一次隊のこのメンバーならばどうにかなるだろうと恵里は見積もっていた。

 

「それもそうだね。ちょっと皆を甘く見過ぎ――」

 

「「ミレディぃーー!!」」

 

「……でもなかったかも、ね?」

 

 例の看板の近くから響く光輝と大介の怒号。思ったよりこの大迷宮の攻略は骨が折れそうだと皆と仲良く恵里は冷や汗を流すのであった……。




という訳でようやくライセン大迷宮に突入することが出来ました!
……マジで長かったっすわー。一応時間軸的には原作と大差ないぐらいなんですけどね。

あとちょっとしたネタバレですがミレディ戦の難易度がちょっと上がります。具体的には拙作のスーパーヒュドラくんよりちょい上ぐらいを想定。EXハードな感じです。

2024/5/20 ちょっと修正しました。

悪食の味は?

  • ナマコみたいにコリコリしてる
  • フカヒレみたいに強い弾力(味はない)
  • 赤身魚の刺身に近い
  • 弾力がありつつも旨味がある
  • ゴム食ってるのと錯覚する
  • 味はしないが、程よい弾力
  • 味は薄いが歯切れがいい
  • 磯臭いがプリンとした食感
  • その他(活動報告に書きこんでください)
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