あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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お久しぶりです。やっとこさ仕上がりました(遠い目)

それでは読者の皆様がたへの盛大な感謝を述べさせていただきます。
おかげさまでUAも201546、お気に入り件数も915件、しおりも452件、感想数も702件(2024/3/18 8:39現在)となりました。誠にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠にありがとうございます。おかげさまでまたモチベーションを上げることが出来ました。感謝いたします。

では今回の話を読むにあたっての注意点ですが、長め(約13000字程度)となっております。あとあるキャラに関してちょっとヘイトが高まるかも? とだけ述べておきます。

それでは上記に注意して本編をどうぞ。



幕間五十三 彼女『たち』の思い

「この区画の土壌の改良は終わりました」

 

「マジか。流石はフューレン支部長の秘蔵っ子だな」

 

 トータス一番の穀倉地帯で()()()ウルの街近郊、日本の琵琶湖の四倍ほどもあるウルディア湖の近くにあった畑の一角に愛子はいた。現在彼女はフューレンから派遣された冒険者のひとりとして“反逆者”畑山愛子に()()()()、現地の人間によって破壊された土壌の改良を行っており、二つの荒れ果てた区画を終わらせたところであった。

 

「他に残ってるのは向こうの畑がいくつかだな。やれるか?」

 

「少々魔力が心もとないですので少し休んでからでもいいですか?」

 

「あぁ構わねぇ。“耕作師”のアンタがいなきゃどうにもならんからな」

 

 無論正体を偽った上での参加であり、天職も“作農師”の下位互換のひとつを自称している。ステータスプレートを確認してきた際も偽装用のアーティファクトを使って騙すとかなり徹底していた。無事に監督役の冒険者から休憩の許可をもらうと、愛子は他の人の作業の邪魔にならないよう離れたところにひとり座る。

 

「ふぅ……」

 

 無論休まなくともまだまだ働けはするが、そうしたら偽装したものよりステータスが高いのを見抜かれかねない。そこから正体が露見する危険があったため、トータスの人間とあまり大きく差がなく感じるよう抑えている。

 

(私が土壌汚染をしたと難癖をつけて、勝手に壊して……本当に身勝手ですね)

 

 聖光教会からの指示に、自分を裏切った神殿騎士のローリエに言われるがままにこのウルの田畑も土壌を改良した。にもかかわらずエヒトの策略か何かのせいでこの街の人間に破壊された田畑を直すことに空しさと怒りを感じてもいた。だがこれが後々クラスメイト達の為になるのならと様々な感情を愛子はためらうことなく飲み下す。

 

(大丈夫でしょうか、天之河君達は……)

 

 そんな時、怒りや嘆きでなく何か別のことを考えようとしてふと大迷宮に挑んでいるであろう生徒達のことが気がかりになった。元々何かしら考えながらでも作業が出来ていたのだが、手持ち無沙汰になってしまったせいだろう。一度生まれてしまった不安に頭を悩ませながらも愛子はそれを打ち消すべくただ考える。

 

(いくら人数が多かったとしても、天之河君達は永山君達でさえ突破が出来なかったところを踏破した……だから問題ないはず)

 

 恵里達の実力がトータスに来てからすぐの頃とは次元が違うのは愛子とてわかっている。この間なんて素材集め及び騎士団に支給する装備の試験と称して、信治とクリス、ジェイドの三人がオルクス大迷宮を入り口から六十五階層までを一日で踏破したのだ。

 

(クリスさんとジェイドさんも鍛えるためにオルクス大迷宮に向かった中野君についていきました。お二人は彼についていくのがやっとだったとも言ってましたけれど)

 

 重吾達と騎士団では突破が叶わなかったらしい六十一階層すら信治のおかげで容易に突破したとも彼らから聞いている。

 

 信治が次元の違う強さであったことや装備のおかげで何とか戦えている。そうクリスとジェイドが歯噛みして悔しがっていたことを思い出してクスリと笑い、また政務で行けなかったデビッド共々鍛錬の時間を増やすと息巻いていたことも愛子は思い返して心の中で応援していた。

 

(当時は南雲君と中村さん、それと騎士団の人達でどうにか倒した伝説の魔物とやらも中野君だけで仕留めたらしいですしね。クリスさん達が悔しそうにしていたのもわかります)

 

 ちなみに倒した魔物のほとんどはデビッド達と愛子、そして恵里達が一口食べる分だけ解体したらしい。また六十二階層より上の出くわした魔物は灰すら残さずに信治が焼き払ったとのことだ。その伝説の魔物であるベヒモスに関しても信治が出会い頭に“緋槍”で頭を貫いて燃やしたと聞いている。

 

(中野君達のおかげで訓練もあまり出来てない私も強くなれましたしね。まぁ蹴りウサギとやらのものを食べた時と比べるとそこまであまり上がってませんでしたけど)

 

 懐にあったステータスプレートを取り出し、自身の本当のステータスの数値を再度確認する。前に見た時よりも数値が60~100は上がっているが、それでも恵里達が料理して寄越した魔物一匹分には遠く及ばない。とはいえ重吾達のメンタルケアのための畑いじりやこういった仕事で訓練の時間が取れない愛子からすればありがたいことではあった。

 

(でもあの子達、やたらと凝った料理を出してましたね……やっぱりオルクス大迷宮で過ごしたことが影響してるんじゃ――)

 

「おーい。そろそろ魔力も回復しただろうー? 次の現場に向かってくれー」

 

 恵里達お手製の香草をふんだんに使って数時間煮込んだ『ベヒモス肉の角煮モドキ』や『魔物肉のソテー』などを夜にデビッド達といただいた。それとオルクス大迷宮もそうやって魔物を調理して食べて彼らは突破していたことを考えるとやはり相当食事事情は厳しかったのではと軽く胸が締め付けられる思いに駆られるが、そこに監督の声がかかった。

 

「はい、わかりました――皆さん、どうかご無事で」

 

 サボる気も無かったし、少しでもクラスメイトのためにと休憩を切り上げ、冒険者に指示された場所へと愛子は歩いていく。両手でハジメ達から作ってもらった杖を強く握り、大峡谷にいる彼らの無事を祈りながら。

 

 

 

 

 

「お、さっきの子達が戻って来たねー。十分対策はしてきたのかなー?」

 

 ライセン大迷宮の最奥にある解放者の住処、そこでどこか楽し気な()の声が響く。声の主は子供ほどの背丈をした乳白色の長いローブをまとった何者かであった。

 

 ――やっぱミレディの野郎いい根性してんだろ。入り口にワナ仕掛けといてこれだもんな。

 

 ソレは虚空に浮かぶパネル状の何か――もしここである異世界から来た人間が目にしたのなら『ディスプレイ』や『スクリーン』とでも称しただろうソレを見つめている。そこにはこの大迷宮に侵入した六人の少年少女が映っていた。

 

 ――マジでクソ女だろ。いきなり即死トラップ仕掛けてくるとか馬鹿じゃねーか。

 

 入口の回転扉で入った直後、飛来した漆黒の矢を彼らは難なく避けるなり捌くなりしていた。ただしこの程度はこの大迷宮においてはまだ序の口で軽い警告程度の罠でしかない。それをこの場所にいる存在は知っているからこそ、この程度の罠と地面に浮き上がったメッセージで反応している彼らをまだまだ青いと考えていた。

 

 ――この罠仕掛けた人、絶対腹の奥底まで腐ってますよぉ……。

 

 挑戦者である彼らはほとんどが白髪赤目であり、中には少し青みがかったロングストレートの白髪のウサギの亜人と思しき少女もいた。その中でガラも口も悪い少年二人と亜人の少女が()()をけなす言葉を口にしたものの、部屋にいた何者かはププッとこみあげて来た笑いを手を推さえてこらえるだけであった。

 

「あれあれ~? その程度でイライラしてて大丈夫ぅー? ココを突破する前に泡吹いて倒れても知らないぞぉ~?」

 

 挑戦者である彼らを映像越しに軽く煽るとソレは残りの三人の方に意識を向ける。これで翻弄される程度じゃ攻略など夢のまた夢でしかないと判断し、じゃあ残りの三人の方はどんなリアクションをするか気になったからだ。

 

 ――光輝君や雫の話の通り、煽って冷静さを失わせる目的だろうね。心底いい性格してるよ。

 

 片方の少女の言葉を聞いてほうほうとソレはあごに手を当てる仕草をする。とはいってもその体に()()()()()は無かったため、ニコちゃんマークの口元の部分に手を添えるだけだったが。まぁ今の段階ならこの程度は頭が回るかとソレは考え、まだ脅威にはなりえないと切り捨てようとした。

 

 ――本当にそうだね。恵里みたい。

 

 ――鈴、もしかしなくてもケンカ売ってる? 買うよ。三百倍にして返してあげる。

 

 ――鈴、恵里を煽らないの! 恵里もケンカしようとしない!……まぁでもよく出来てるよここは。

 

 だがそんな折、エリとスズという名前の少女の間に入って仲裁した少年にこの部屋の主は注目する。彼が間に入った後で漏らした言葉に一行の視線が集まったからだ。

 

 ――光輝君達の話だと一息吐いたタイミングとか、焦ってるところにこの文章が出てたって言ってたよね。鷲三さん達やアレーティアさんも思わずキレそうになってた、って言ってたし下手に付き合う必要はないよ。

 

 その少年の話に誰もが耳を傾けている様子であり、腕を組んだりして何度もうなずいたりしている。その様子からして彼がリーダーの類かもしれないとソレは推測しつつ、周囲に気を払いながらも話を続ける少年達の方に再度意識を向けた。

 

 ――まぁ嫌でもこういう文章見せつけられるんだろうけどね……。

 

 ――せめて魔法が使えればね。ホントいやらしいところに造ってくれちゃってさぁ。

 

 ――うん。でもオルクス大迷宮を突破してきた僕達なら、それに僕達と鍛錬を重ねたシアさんならやれる。そうでしょ?

 

 彼の両脇にいた少女達も肩を落とすなりため息を吐くなりしてげんなりした様子を見せている。だがその少年の一言で白髪赤目の面々の顔から陰りが落ち、亜人の少女もうなずき返して拳を握りしめていた。

 

 ――そうだね。やってやろうじゃん。

 

 ――うん。オルクス大迷宮と同じくらいなら鈴だってやれるよ。魔法が使えなくたって戦えるんだから。

 

 エリとスズという少女は互いに口角を上げ、少年にその不敵な笑みを見せた。

 

 ――あぁ。谷口の言う通りだ。光輝達から話聞いて色々準備したんだからな。

 

 ――おう。それにシアだってここ最近は相当強くなったし、俺らについていくぐらい訳ねぇだろ。

 

 ガラの悪そうな少年たちも身に着けていた指輪に視線を落とすなり、亜人の少女と肩を組んで歯を見せながら笑っている。

 

 ――そ、そうです! わ、私だってやってみせます! 良樹さんにいいとこ見せますよー!

 

 そしてウサギの亜人の少女も顔を少し赤くし、軽く表情をこわばらせながらも威勢のいい言葉を出す。そして一行はまっすぐ通路を進んでいったのであった。

 

 ――また矢かよ!

 

 ――今度は両方の壁から!

 

「ふぅん。そっかぁ~。オーちゃんの大迷宮突破したんだぁ~」

 

 攻略者一同が通路を進み、壁から発射された矢をなんとか避けているのを見て、ちっこい何かは興味深げにつぶやいた。

 

「なるほどねぇ~じゃあ実力はちゃんと保障されてるってことかな? どこぞの暗殺者ちゃん達のグループも結構動けたしね」

 

 彼らより先にここを訪れた六人の男女のパーティのこともソレは思い出す。コウキやシズクといった名前の男女も仕掛けた罠を紙一重で対処していたし、様々なルートをさまよわせても誰も脱落はしなかった。せいぜいスタート地点に戻した時にコウキとダイスケという名前の少年たちが叫び、他が頭を押さえるなり舌打ちするなり苛立った様子を見せただけだ。

 

 ――やだー! 臭い! すっごい臭いぃ~!!

 

 ――いやぁ~~~!! とって! ニオイとってください良樹さぁ~ん!!

 

(こっちの子達も初見でここまで対処出来てる……ハジメとかセンセイって呼ばれてる子は相当頭も回るし、エリって名前の子は悪知恵もそれなりに働く。今は泣き叫んでるけど油断はしちゃ駄目な類かもね~。ふふっ)

 

 床から迫る槍をかわし、せりあがる床の部屋に穴をあけて脱出し、しかしその直後にクッサい水をぶっかけられて発狂したエリとシアという少女達をなだめている一行を見ながらソレは考える。きっと初の攻略者に彼らはなり得るだろうと心の中で期待が高まっていた。

 

 ――ハジメくんのゴーレム……ボクと最初に造ったゴーレムが……。

 

 ――恵里、しっかり。しっかりして!

 

 ――ゴーレムは最悪造り直せるから。ね? それにあの子がいなかったら僕達も脱出に間に合わなかったかもしれないから。

 

 ――だな。少なくとも無駄死にじゃねぇよ。

 

 ――壁が迫って潰すとか殺意高すぎるだろ……マジで死ぬかと思ったぜ。

 

 ――そうです! 恵里さんとハジメさんのゴーレムのおかげで私達助かったんですから!

 

「それじゃあ見せてもらおっか。この私、ミレディ・ライセンに君たちの実力ってものをさ」

 

 ――遥か昔、トータスで人々の自由を勝ち取るために戦った解放者の一人、肉体を捨ててでもなお神を討つ覚悟を持った少女は画像越しに声をかけたのであった。

 

 

 

 

 

「あーもう疲れた。もう行きたくない。死ねミレディ」

 

 ハイリヒ王国の王宮、そこの食堂のテーブルに今日も恵里は力なく突っ伏していた。ライセン大迷宮攻略開始から既に五日が経過したが、まだどのグループも最奥まで到達していない。今日も皆罠やライセン大迷宮の構造などに振り回され、そのまますごすごと王国に戻る羽目に遭ったのである。

 

「ねぇ雫、流石にイナバ()()がかわいそうだよ。もう吸うの止めてあげようよ……」

 

 他の皆も大迷宮の罠やらミレディのメッセージやらで手玉に取られ、恵里と同様に突っ伏していたりひじを着いていたりと様々。その中で異彩を放っていたのは光輝の膝の上に乗っかりながら、イナバのお腹に顔を埋めて呼吸していた雫であった。

 

「そ、そうだな……なぁ雫、その、そろそろイナバさんを放してあげよう? な?」

 

「スー、ハー……あと三回。三回吸ったらイナバ()()解放するから。だめ?」

 

「そ、それぐらいなら……いい、かな?」

 

 軽くしどろもどろになりながら光輝も注意するが、当の本人はイナバから顔を上げてうるんだ瞳で条件付きの継続を願い出た。それにアッサリ屈した光輝がおそるおそるといった様子で鈴の方に顔を向けるが、鈴はため息を履きながらイナバの方に視線を落とす。

 

「きゅぅ……きゅぅぅ……」

 

「もう。イナバさんの目がまた死んでるよ。光輝君も鷲三さん達もあんまり甘やかさないのっ」

 

「あぁん……鈴のいじわるぅ」

 

 瞳がにごっていた様子のイナバを見ていたたまれなくなった鈴は、頭痛をこらえながらも雫のなすがままになっていたイナバをひったくった。雫の恨み言も意に介することなくすぐに自分の席に戻ると、()を膝の上に置いて頭をなでる。

 

「はい。イナバさんお疲れ」

 

 あえて雫のイナバ吸いを許容したのも雫のためであった。先日のウルの街の一件で軽く幼児退行してしまった彼女のメンタルケアのために我慢するよう()()こみ、今日も役に立ってくれたからである。

 

“堪忍やぁ……助かったでぇ鈴はん……”

 

 首輪に付与された“言語理解”と“心導”によってイナバは鈴に礼を述べる――こうしてちゃんと言葉でやり取りできるようになったのも魂魄魔法の研究のおかげであった。実験をしている際に雫が『もしかしたらイナバちゃんとあとユグドラシルと話が出来るかも!』と思い付きを口にし、じゃあ試しにとやってみたことがきっかけだったのだ。

 

「すまんイナバ殿。今日も雫のために付き合ってくれて助かった」

 

“あーかまへんかまへん。ワイだって雫はんのために一肌脱ぎたかったんや”

 

 そこで魂魄魔法の一つである“心導”を付与した首輪をイナバに与えて意思疎通が出来るかどうか試してみたが、その時はちゃんとした言葉とはならずに感情の揺れ動きなどがわかった程度だった。そこで自分達が持っている“言語理解”も付与してみればこうして話をすることが出来るようになったのである。

 

「まぁ雫のために我慢してくれるのは助かるけどさ、あんまり我慢出来なかったらすぐに逃げよう。ね?」

 

“無理言わんといてやぁ……だって雫はん可哀想やったし、放っておけなかったんや”

 

 ……なおその際、イナバがコテコテの関西弁を放つ一人称が『ワイ』の男の子だということが判明。また皆にビビり散らしていることや死にたくないがために媚びに媚びていたことまで明らかになっている。あとユグドラシルは結構なビビりであることもわかった。そして雫はイナバの本性を知って無事に卒倒した。

 

「まぁシズのことは私達とコウキでもなんとかなるから。アンタだって大切な仲間なのよ。意見ぐらい言いなさいよ」

 

“ありがとうな優花はん……”

 

「うん。次は僕達に相談してね……じゃあそろそろ大迷宮攻略会議に移りたいんだけどいいかな?」

 

 恵里と同様にテーブルに突っ伏していた優花も軽く顔を上げながらイナバを気遣い、切なげにきゅうきゅうと鳴きながらイナバも返事をした。ハジメもイナバに自分達を頼るよう述べると、毎食後のライセン大迷宮攻略会議の開始を持ち掛ける。

 

「えー、やりたくねぇ……あそこ面倒くせぇじゃん……」

 

「だよなぁ。俺もう行きたくねぇって。アレーティアとエロいことしててぇよ」

 

「ぁぅ……大介ぇ」

 

 しかし礼一を筆頭に馬鹿四人が心底嫌そうな顔をハジメに向けており、それを恵里も光輝もとがめようとはしない。礼一の言う通り何度も何度もあそこで翻弄され続けたせいで皆モチベーションがダダ下がりしていたからである。

 

「礼一君や大介君が言いたいのもわかるよ。でも氷結洞窟と比べてリスクが低いし、それ以外に攻略出来るのがあそこしかないんだから。ね?」

 

 だがハジメも口調はやや柔らかいながらもそれを受け入れることはなかった。それは自分達がライセン大迷宮の攻略に差し掛かった際、メルド率いるハウリアの部隊がハルツィナ樹海である大迷宮を見つけたことも関係していたからだ。

 

「確かにそうですけどね……父様達が見つけたあの大迷宮、何か別の神代魔法が必要みたいですし」

 

 なかなかライセン大迷宮が見つからないことに業を煮やし、光輝達が他の大迷宮に関する情報を漁ってくれたことがきっかけであった。偶然にも王国の図書館の蔵書の一つに大迷宮に関する情報が載ったものがあり、その一つにハルツィナ樹海が該当していたのだ。

 

 そこでシアやカムが自分達ならば迷わずあの樹海を動ける旨を伝え、それを聞いたメルドとフリードが腕の立つハウリア数名を連れて樹海を探索したのである。その際樹海に住まう亜人とひと悶着あったものの、どうにか無事にたどり着いたのだ――樹海の奥にある枯れた大樹に。

 

「俺らから借りた攻略の証じゃどうにもならなかった。だよなメルドさん?」

 

「あぁ。数も足らないし、再生に関する神代魔法など手に入れてなかったはずだからな」

 

 テーブルに頬杖を突きながら幸利はメルドに問いかけ、メルドもそれに答えながらため息を吐いた。

 

 メルドとフリードの話では大樹の近くには石板があり、それには七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていたらしい。しかもこれまで攻略して手に入れた大迷宮の証と同じ紋様が三つあり、その裏側にも何かをはめるくぼみが七つあったというのだ。

 

 そこで一度ゲートホールを設置し、すぐに恵里達から攻略の証を借りてセットしたところ石板にこのような文言が浮かんだと述べていた。

 

“四つの証”

 

“再生の力”

 

“紡がれた絆の道標”

 

“全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”

 

 そんな意味深な文字が石板に出たと彼らは話しており、それに恵里達が疑問を抱いたのは言うまでもない。

 

「名前からして治癒魔法の上っぽいよね。やっぱりルーツって奴かなぁ」

 

「多分ナナの言う通りでしょうね……まぁ問題はどこにあるかだけど」

 

 幸利の左隣にいた奈々がつぶやけば、同じく右隣にいた優花がそれを肯定する。とはいえその再生に関わる神代魔法はどこにあるかわからず、結局ハルツィナ樹海に関しては後回しにするほかなかったのである。

 

「そうだな。正直私とてあの大迷宮にはうんざりしている……が、氷雪洞窟には私以外の魔人族が行っている可能性とてある。正直勧めはせんぞ」

 

 かといって生成魔法のある氷雪洞窟は魔人族の領地に近い。腕と足を組み、目をつむっているフリードが述べたように魔人族とエンカウントする可能性もあるため下手に近づけない。そのため結局ライセン大迷宮を攻略するしかないと手詰まりの状態なのである。

 

「あー、うん……今回ヒドかったもんねフリードは」

 

「やめろ恵里。貴様、私の醜態を口にするなよ」

 

 ……なお、昨日からフリードも大迷宮の探索に参加していたのだが、熱湯をかけられたり、対応が遅れて麻痺毒を持つサソリの群れの中にダイブしたり、後方から迫って来た巨大な岩を皆と一緒に悲鳴をあげながら逃げ回ったりなどしたと幸利らから聞いた。故に他の皆と同様かなりイライラしていた。

 

「まぁまぁフリードさん抑えて……でも、()()()()なら他の大迷宮も知ってるはずですから」

 

 ハジメもフリードをなだめつつも、あることを口にする。それは一昨日辺りから抱いたある疑惑のことであった。

 

「まだあのアマが生きてる、って話か。確かに妙っちゃ妙だもんな」

 

「ですねぇ~。いくら大迷宮のことを熟知しているといっても、ちゃんと私達に()()()()()()メッセージを出すなんて出来ませんよね」

 

 ――それはミレディ・ライセンが生きているという疑いだ。

 

 六人一組でメンバーを編成し、二つもしくは三つの組でローテーションを組みながら恵里達は大迷宮の攻略を続けていた。誰もが何度も何度も罠にかかっては地面に浮かぶメッセージに煽られ、イライラしていたのを攻略会議で毎日毎日愚痴っていた際にある疑問が浮かんだのである……どうしてあれらのメッセージは()()()的確に自分達の目の前に現れるのかということだ。

 

「あの煽り文、床だけじゃなくって壁とか天井とかにも浮かんでるしね……それも見ないよう意識したつもりでも通路のところに出たりするしさ」

 

 罠にかかっては浮かんでくる例の煽り文を目にしないために、途中から恵里達は進路方向をあえて見たり、それか周囲を警戒してそこらの壁を見るだけに努めていた。だがそれでも通路の先や周辺の壁などにその文章があり、苛立ってしまうのだ。まるで絶対に神経を逆なでてやろうと言わんばかりにである。

 

「えっと、その……な、中村さんの仰ったように出来過ぎてますしね。絶対私達を逃がさないみたいに、その……」

 

「だな。そこはアレーティアの言う通りだ。床を見ないようにしたら絶対壁とかに浮かんでるしな」

 

 大介の手を握りながらアレーティアが述べたように必ず誰かしらが見かけるようにそのメッセージが浮かぶのだ。その上それを目撃するのは大介達四馬鹿や恵里のようにキレやすい人間の場合が多い。そのため、ハジメや光輝、そして冷静になった恵里達がどうしてここまで的確に煽れるのかを疑ったのである。

 

「……もしお前達の予測が当たっていたとするなら、宝物庫の存在を匂わせたのはまずかったかもしれんな」

 

 そんな折、毎回会議に顔を出していたメルドも目をつむりながらため息と共に懸念を漏らした。皆もなぞるようにため息を吐き、うなり声を上げるなどしている。

 

「そこですよね……トラップ対策のために道具を宝物庫から出してたのはあっちに見られてる可能性がありますから」

 

「そうだよねぇ……前に犠牲になったゴーレムも宝物庫から直接出したし」

 

 ハジメが述べたように攻略にあたっていたメンバーはちょくちょく宝物庫からアンカー付のワイヤーを取り出したり、恵里が言ったようにゴーレムを使ってトラップを検知しようとして壊されるなど失敗を繰り返している。

 

 それもあちらがリアルタイムで目撃しており、その対処に移ったと考えれば自然であった。まず間違いなく自分達の手の内が割れているだろうし、その対策を取られる可能性もあって憂うつになったのである。

 

「……でもやるしかない。どんな法則で動いているかもなんとなくわかってきたしな」

 

「そうですね。光輝君の言う通り、君達が付けたマーキングは決して無駄にはなっていません。全部一から造り変えている様子はないというのはわかっていますから」

 

 だが悪いことばかりではない。かつてミレディに『一定時間毎に大迷宮は変化するからマッピングは無駄で~す』といった旨で煽られたことがあったが、どういった法則に基づいて構造が変化するかもある程度見通しが立っていたのである。

 

「そうだね……光輝君の言う通りだ。あの大迷宮で使えそうな装備も人数分作ったし、皆空間魔法も取得したしね」

 

 ハジメの言葉に全員がうんうんとうなずき返す。魔法の発動が大峡谷以上に困難なあそこでも使える装備を思いついたハジメはそれを皆に話し、協力して制作していた。また弾数に限りのあるそれ以外にも奥の手として残りのオルクス大迷宮突破組とシアは空間魔法を取得していたのである。

 

「最悪俺ら全員で空間魔法使いまくればどうにかなるだろ」

 

「ま、燃費の問題からしてそうそうやれねーだろうけどな」

 

「いやあの中で“震天”とか“斬羅”撃ったら崩れるだろ。ま、そこはハジメの作った新装備に任せようぜ」

 

 最悪空間魔法のゴリ押しでどうにかなるだろうと礼一が述べ、回数のことを信治が懸念するがそれ以前に大迷宮崩落のことを浩介にツッコまれ、二人はバツが悪そうに顔を赤くして背ける。それと新装備のことについても浩介が言及すれば、ハジメも苦笑いしながらそれに答えた。

 

「本当は作りたくなかったんだけどね……結構チープだし、プラモの延長線だしさ」

 

「それでもだよ。あればっかりはハジメがいなきゃ絶対作れなかっただろ?」

 

 大迷宮攻略でハジメももちろん苛立っており、攻略会議で恵里達と一緒に愚痴を吐いたのも割としょっちゅうであった。その際彼のものづくりのプライドを投げ捨てて作ったのが例の装備である。地球にいた頃に作ったB〇戦士の武器のギミックを利用したものだったが十分使える威力なのは既に実証済みだ。

 

「そういえばフリードさん。ユグドラシルの成長具合は?」

 

 そして力を入れていたのはそれだけではなかった。大迷宮攻略が始まってから二日後、今この場にはいない愛子がこの大迷宮を攻略することを見通して一行はフリードにあることを頼み込んでいた。それは変成魔法を使ってユグドラシルを強化してもらうということだ。

 

「流石にまだ実戦に投入するには早いだろうが、歩けるようにはなった。走るのはもう少し先といったところか」

 

 まだやり出して三日そこらではあったが、それでも従来なら出来なかった歩行が出来るようになり、大幅にやれることが増えたのだ。とはいえ長時間歩いていると根っこが痛むらしく、あんまりやらせないでほしいとユグドラシル当人(当木?)が訴えていた旨を恵里達は思い出して苦笑する。

 

「そうだね……やってやろうじゃん。今度こそ大迷宮の奥まで行って、ミレディの奴を倒して神代魔法手に入れよう」

 

「うん。今度こそミレディに一泡吹かせてあげるんだから」

 

 そんなハジメ達のやり取りを聞き、やる気が湧いた恵里は鈴と一緒に体を起こしてそう宣言する。そうそう何度もいいようにされてたまるかと言えば、多くの面々が胸を張り、また中には立って意気込みを語るのもいた。

 

「あぁ。ここまでやられっ放しはシャクに触るしな。やってやろうぜ!」

 

「うん! 皆でこの大迷宮も攻略しよう!」

 

「そうだな。お前達ならやれる。やってみせろ!」

 

 龍太郎と香織の言葉に全員がうなずき、メルドが発奮をかけたことで全員が『おー!』と歓声を上げる。かくして今回の会議は幕を閉じる。自分達ならやれる。自分達だったらここも無事に突破できる――そう()()を抱いたままで。

 

 

 

 

 

「さて……今回もあの子たちが来たね」

 

 大迷宮に人間が現れるようになってからかれこれ七日。今日もミレディは挑戦者たちの様子をながめていた。

 

 ――優花、奈々、無事か!

 

 ――うん! 幸っちのおかげでね!

 

 ――ユキ、手を放さないでよ! 流石にサソリの群れは嫌だからね!

 

 ユキトシ、ナナ、ユウカ、タエコ、コースケ、レイイチ、フリードという男女のグループが今この大迷宮を攻略しており、誰もが馴れた様子で罠を回避したり対処しては進んでいる。

 

「まぁ交代しながらだけど何日も潜ってるもんね。余裕になっちゃうかぁ~」

 

 こうして大迷宮の攻略にいそしむ彼らを見てミレディはつぶやく。その声は微妙にトーンが低かった。

 

(確かにこれ程の腕前だったら一番奥までたどり着けるね)

 

 その実力は彼女とて認めている。当初から誰も脱落するどころか怪我もろくに負わないままこの大迷宮を進んでいるのだ。煽り文を見せつけても苛立ちを表には出さないようになったし、大迷宮の構造の変化のタネも割れたのか『あぁこのパターンか』といった具合のセリフを吐くと同時に的確に対処していっている。

 

(けれどもそれだけ……あの子達は道具に、神代魔法に()()()()()()()気がする)

 

 そのことは間違いなくプラスの判断材料ではあったが、それ以上に不安になるものがあった――彼らが道具と神代魔法にあまりに頼り過ぎているように見えたことだ。

 

(ただ道具として使いこなしているだけならいい。いいんだ。けどそれだけじゃエヒトの奴には勝てない)

 

 既に空間魔法と生成魔法、魂魄魔法も取得しているだろうとミレディは考えている。

 

 まず空間魔法に関しては彼ら全員がどこからともなく道具を取り出しており、それがおそらく宝物庫によるものだろうと推測していたからだ。ならば当然付与のためにも生成魔法は持っているだろうと結論づけている。

 

 また髪の毛があまり痛んでいないことからおそらく“界穿”を使ってどこかの拠点に移動しているのではないかとも思っていた。表のライセン大峡谷で魔法で水を出し、汚れをふき取るよりはそちらの方が余程自然だと感じたし何より髪の毛がベタついてるようには見えなかったからだ。

 

(何度か出したゴーレムも自立して動いてた……でもまだまだ。あの程度じゃ脅威になんてなりえない。あれぐらいの完成度だと昇華魔法も使ってない可能性もあるかな)

 

 そして魂魄魔法に関しては何度か出したゴーレムが勝手に動いたように見えたのが原因だ。映像に写っている挑戦者達は今大量のゴーレムとエンカウントして戦っている。そのゴーレム達は自分が利用している感応石――特定のものを遠隔で操ることが出来る鉱石を利用して操っているものだ。しかし彼らは出したゴーレムを操る素振りは見えなかったからである。

 

(確かにここは魔法使いにとって天敵の場所だし、手に入れた神代魔法を使って対処するのもわかるよ……けれどさ、君達はそれに頼り過ぎてないかい?)

 

 自分が操っているゴーレム軍団を容易に切り捨てていく様子からして、おそらく“斬羅”辺りも付与されているのだろう。ユウカという名前の少女が持つ投げナイフやコースケとやらが使う細い反り返った剣を見てミレディはひとり結論付ける。だからこそミレディは両手を握りしめていた。

 

(……ここは私が軽く目を覚まさせてあげないとかな。もし仮にエヒトの奴を倒すのが目的だとしたらこのままじゃたどり着けない)

 

 エヒトを倒すためならばただ神代魔法を集めるだけでは足りない。彼らには“極限の意志”を持ってもらわなかればいけない。そうでなければエヒトを倒せないのだ……そしてミレディはただ彼らに不安や期待を抱いただけでなはかった。

 

(それにさ……君達真剣なの? いちいち拠点に戻って体洗うなんて贅沢なことやってる場合?)

 

 かすかな苛立ち、これも彼らに対してミレディは抱いていた。彼らを見ててどこか甘いように思えたのだ。

 

 本気で攻略するつもりならば拠点に戻るためにいちいち神代魔法を使うのか? ただでさえ魔力の消費の激しいこの場所で無駄遣いなんかするのか? 野営のための準備を整えて攻略にあたるのではないか? 彼らの肌や髪の汚れからどこか本気ではないのではないかと彼女はイラついていたのである。

 

(……そういえばあのシズクって子、やたらとコウキって子や家族とベッタリだったね。アレーティアって子もだけどさ、緊張感無さすぎないかな)

 

 それだけではない。コウキという名前の少年が率いるグループの中にいるシズクそしてアレーティアという少女の存在をミレディは冷めた目で見ていた。

 

 アレーティアという子はダイスケと、シズクという少女はコウキとシュウゾウそしてキリノという男女と常にベッタリな様子である。ちょくちょく頼っている相手に意識を向けている二人のその様子からして、その相手がいなければ何も出来ないような人間ではないかと勘繰ったからだ。

 

(覚悟の足りない子を連れてくなんてさ、舐めてるの? それで攻略出来るって本気で思ってるならさ……心底私達を馬鹿にしてるとしか思えないんだけど)

 

 そんな人間を連れても攻略出来ると思っているのならばそれは驕りでしかない。場合によってはその鼻っ面をへし折る必要があるだろうともミレディは考えていた。

 

「まぁいいさ。君達と対面すればわかる話だし。ミレディさんがマジメに戦えばいいだけだしね」

 

 またしても振出しに戻り、ため息を吐いている挑戦者達を見ながらミレディはひとりごちる。全ては自分が()()で相対すればわかるだろう。そう結論を先送りにしながら。

 

(もし君達がコレクション感覚で皆の遺したものを集めてるんだとしたら――ここで潰す。絶対に。それだけは許せない)

 

 だがもし、彼らが遊び半分で神代魔法を集めているのであれば?――そうであるならば何としても潰す。たとえエヒトに迫る資質があろうともだ。漆黒の決意を宿しながらもミレディはじっと挑戦者達を見つめているのであった……。




web版原作でも「ライセン大迷宮と最後の試練」で

>「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」
>嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で、ふざけた雰囲気など微塵もなく問いかけるミレディ。もしかすると、本来の彼女はこちらの方なのかもしれない。思えば、彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託した魔法で何を為す気なのか知らないわけにはいかないのだろう。オスカーが記録映像を遺言として残したのと違い、何百年もの間、意思を持った状態で迷宮の奥深くで挑戦者を待ち続けるというのは、ある意味拷問ではないだろうか。軽薄な態度はブラフで、本当の彼女は凄まじい程の忍耐と意志、そして責任感を持っている人なのかもしれない。

ってあるんでコレクション感覚で集めてたり、戦う覚悟がない子を連れてるとかだとキレると思うんですよ(本日の言い訳)

それとライセン大迷宮の残りの話はこれから書き溜めるのでちょっと感覚が空くかもしれません。理由はもちろんミレディのヘイト管理ですね。マジで思いっきり憎まれる可能性があるので、なるべくポンポンと話を投稿してどうにか軽減したいと考えているからです。

あとお察しの通りミレディ戦の難易度上昇してます。EXハードとかマストダイ辺りに。では失礼。
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