あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

159 / 208
ミレディ戦の終わりの目途が立ったので投稿します。単にもう我慢が効かなくなっただけとも言う(ォィ)

それでは拙作を読んでくださる皆様への盛大な感謝を。
おかげさまでUAも205076、感想数も715件まで伸び、またしおりも450件、お気に入り件数も922件と多くの方が待っていてくださったことがとてもありがたいです。

そしてAitoyukiさん、エイプリルフールネタを評価して下さり本当にありがとうございました。投稿してよかったと励みになりました。

では今回の話の注意事項として、とあるキャラへのヘイトが高まるかもしれません。では上記に注意して本編をどうぞ。


八十九話 現れた『壁』

「皆、早く来てぇ~! 一番奥に行けるかも~!!」

 

 ライセン大迷宮の入り口近くで待機していた恵里達の耳に妙子のやや間延びした叫びが届く。自分達が突入するのはいつ頃になるだろうかと話し合ってた時に聞こえたため、弾かれたように六人は声のする方へと振り向いた。

 

「妙子さん!?」

 

「どういうこと!? 説明は!」

 

「ちょ、ちょっと後回しにしてぇ~! 開いてると、魔力が無くなりそぉ~!」

 

 声がしたのは入り口から一メートル足らずのところに置いてあったゲートホール、そこを起点に開いたゲートからだ。ゲートキー片手に軽く脂汗をかいている妙子の姿がそこにあり、苦し気な表情をしていたのもゲートの維持のためということに恵里もすぐに気づいた。

 

「今行くぞ菅原!――おい先生! 中村も谷口もボサッとしてんな!」

 

「アイツが必死に魔力注いでんだ! 突っ立ってる暇なんてねぇだろ! シア!」

 

「は、はいぃ~!」

 

 自分達をたしなめることを言うや否や信治と良樹が駆け出して行った。

 

 彼らの言う通り魔法が分解されやすいこの大峡谷と、ここ以上に分解作用が強い大迷宮を繋いでいるのだから当然魔力の減りは尋常ではないのは妙子の表情を見ればわかる。シアの手をつなぎながらゲートへと走っていった良樹と信治の後を追おうと三人はお互い向き合った。

 

「っ! わかった! ハジメくん! 鈴!」

 

「ま、待って! 今行く!」

 

「う、うん!」

 

 すぐさま恵里達もゲートへと駆け込めば、出たのは長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。部屋の全容を把握しようとするが、衝突音や破砕音など誰かが戦っている音に気付いてハッとする。そちらへ全員そろって視線を向ければ、幸利達がハジメ謹製のアーティファクトを使って騎士のような奴らと戦っているのが見えた。

 

「ユキ、セットしたわ!」

 

「助かる!――食らいやがれぇ!」

 

 直径三十センチ、長さ一メートル半、後ろにクランクが付属したバズーカ砲のような見た目のソレから発射されたのは弾丸を模した岩の塊。それは何体もの鎧姿の相手を巻き込み、派手に吹き飛ばしていく。

 

「よっし命中!」

 

 どこぞのSDなガンダ〇のプラモに付属している、プラスチック製の弾丸を発射するバズーカやビームライ〇ルを基に作り上げた武器はちゃんとその力を発揮していた。ちなみに弾丸はここライセン大峡谷にある岩石三十キロを圧縮して作った代物である。

 

「次の弾丸装填するわよ!」

 

 ちなみに三十キロもの岩を飛ばすために使ってるのは巨大かつ強力なバネだ。それを元のおもちゃのように押し込んでセットするのは手間がかかるため、専用のクランクが付属しているのである。尤も、全身の力を使わないとチートなステータスの恵里達でもクランクを回せないため、最悪使い捨てを想定している武器であった。

 

 幸利の横にいた優花はナイフを一度投げると、すぐにクランクに手を伸ばし、思いっきり踏ん張りながらそれを回していた。

 

「有象無象程度が群がろうと!」

 

 優花と幸利がマトモに戦えない状態ではあったが、そこは奈々と浩介が対処していた。剣と盾を構えて接近した相手は“深淵卿”を発動した浩介が流れるような動きで愛刀『黒曜』を振るって難なく切り捨てている。

 

「深淵卿はどう、浩介君!」

 

「深淵の極みまで至れば我の影を幾億も並べてみせよう! しかし半ばの今では影は霧散し、深淵の力も形無しといったところか!」

 

 魔力を体に纏うことによって身体能力を向上させる仕組みである“限界突破”は、この大迷宮の持つ魔力の分解作用によって()()無意味となる。それは亜種ともいえる“深淵卿”も同じだった。分身だってほんの一瞬で消えると前に述べていた。

 

「されど我が深淵を捉える者なし!」

 

 とはいえ彼の口ぶりからして“限界突破”よりはかろうじてマシだと恵里は考える。本当に無意味であるならどこかのタイミングでそれを切っているからだ。実際“深淵卿”を発動してない時よりいくらかマシな動きはしており、今もゴーレム騎士を切り捨てている。まぁその香ばしさは変わらないと思いつつ奈々の方へ視線を向けた。

 

「じゃあ今度は私の番! いっけぇー!」

 

 奈々も手に持ってたグリップ付きの金属製の大型の筒を向け、トリガーを引いてウォーターカッターを発射する。その正体は水系の中級魔法“破断”であり、この筒の中及び背負っているタンクの中にある水を使ってそれを発動していたのだ。

 

 魔法で空気中の水分を集めるよりも最初からある水分を圧縮してやる方が魔力消費が少なくて済むのでは? というアレーティアのアイデアを受けて作られた代物であり、発案者だけでなく天職“水術師”である奈々も装備していたのである。

 

「っと、浩介や幸利だけにいいカッコさせらんないよな!」

 

「応よ! 俺達も!」

 

 そう言うと同時に信治はクリオネモドキ対策に作った火炎放射器を取り出して炎をまき散らし、良樹は幸利と同様にクランク式のバズーカ砲をブッ放してゴーレムを破壊していく。

 

「は、はいですぅ!――どっせぇい!」

 

 そしてシアも宝物庫から取り出した直径四十センチ長さ五十センチ程の銀の円柱状の物体に魔力を流し、大槌へと変化させて接近してきたゴーレムの騎士をフルスイングする。これもまた“ドリュッケン”という名前のハジメが作った大槌型のアーティファクトであり、大迷宮攻略の日にシアに渡した代物だ。見た限りではちゃんと活用出来ている様子である。

 

「はい妙子。大丈夫? やれる?」

 

「うん。ありがとぉ~恵里ぃ~」

 

 他の面々の活躍を見つつ、恵里はハジメと鈴と一緒に空になった魔晶石に魔力を分割して流し込んでいた。魔力が溜まったソレを妙子に渡して回復してもらうと、またしても別方向から声が響いた。

 

「全員来たな! 閉じるぞ!」

 

「ごめん皆、遅くなった!」

 

「すまん、魔力の回復で時間かかった!」

 

「あ、あの! わ、私達は先に通路を進んで敵を排除しに行きます!」

 

 礼一が開いていたゲートから光輝達のグループも現れたのだ。合流が遅くなったことを口々に詫びると、アレーティアが述べた通りすぐに彼らは通路を進んでいった。

 

「私の魔力をある程度注いでおいた。足しにしておけ」

 

「サンキュー、フリードさん」

 

 ゲートを閉じた礼一にフリードが別の魔晶石を投げ渡す。こうして全員がここに来たことを確認すると、恵里は光輝のグループ以外の全員に不調がないことを確認してから全員に声をかける。

 

「ハジメくん! 皆! そろそろ先に進もう!」

 

「わかった! でもまだ厳しいなら安全を確保してから休憩を――」

 

 ハジメがその声に反応したその瞬間、異変が起きた。なんと数体のゴーレム騎士達がこちらに()()()()()、切りかかってきたのだ。

 

「どこからだよ!?」

 

「っ! 考えるよりもまず倒す!」

 

 このゴーレム達が再生能力を持っていることは光輝達からの報告で知っていたが、いきなり上から降ってくるのは知らなかった。ハジメ達も面食らった様子であり、いち早く我に返った恵里が宝物庫から手榴弾を取り出して振りかぶる。

 

「はい皆離れててー、よいしょー!――って、ぎゃぁああぁあ~~~~!?」

 

『どわあぁああぁ~~~!?』

 

 その声で全員通路の先へと押しかけ、投げた手榴弾が一回バウンドすると同時に大迷宮を揺るがさんほどのすさまじい爆発が起こる。“震天”を付与した空爆手榴弾――この『空爆』は『空間爆砕』の略とのこと by ハジメ――がゴーレムをしっかり粉々に粉砕してくれたのをながめながら恵里は爆発で吹っ飛び、逃げてた皆もその場で思いっきりぶっ倒れる始末であった。

 

「いだっ!?……うぅ、思った以上にすごかったぁ……」

 

「マジで死ぬかと思ったぞオイ!」

 

「鈴、次はちゃんと加減して付与するよ……」

 

 何ともしまらないやり取りをしつつも恵里達は立ち上がり、先に進もうとする。だがその瞬間、前方に何かが()()してきた。

 

「ゴーレム!? どうして!?」

 

 現れたのはこの通路に出てくるゴーレム騎士そのもの。すぐに恵里達は視線を上へと向けるが不審なところは見当たらない。それどころか後ろからガシャガシャと嫌な音が響いてくる始末だ。

 

「挟み撃ち、ってこと? 全然笑えないわ!」

 

「確かにここのゴーレムは壊してもすぐ直っちゃうけどぉ!」

 

「怯んでんじゃねぇ! 俺らならやれるだろうが!」

 

 優花も奈々も上ずった声を上げ、ヒステリーを起こしていたがそれを大介が一喝する。それと同時に二人だけでなく、ショックを受けてた恵里や他の皆もまたすぐに立ち直って武器を構える。この程度、オルクス大迷宮では当たり前なことでしかなかったからだ。

 

「“鉱物系鑑定”に反応なし! 多分神代魔法を使ってる!」

 

「重力でも操作してる、ってことだね! 了解、ハジメくん!」

 

 ハジメの報告を聞き、すぐに恵里は宝物庫からオルカンを取り出して引き金を引く。バシュウウ! と轟音を上げながら進んだロケット弾は二秒足らずでゴーレム騎士の群れに着弾。爆炎と共に吹き飛んだゴーレムは両サイドの壁や天井に激しく叩きつけられ、そのまま動かなくなったのであった。

 

「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!! え、恵里ざぁ~ん……」

 

 なお、今しがた響いた爆音でシアは情けない悲鳴を上げながらうずくまっていた。亜人族で一番聴覚に優れた種族である兎人族故に、ウサミミをペタンと折りたたんで両手で押さえて涙目になって悶えていたのである。

 

「シアの鼓膜破れたらどうすんだ中村ァ!!」

 

「その時は薬使えばいいでしょ! はい行くよ! 光輝君達も前の奴らを倒してくれたみたいだしね!」

 

 耳に突っ込んだ指を抜きながら良樹がキレたが、恵里は薬でも使えばいいとのたまい、前方のゴーレム達を倒し終えた光輝達を見てとっととここを抜けるべきだと主張する。

 

「後で僕も一緒に謝るから! 今はごめん良樹君!」

 

「ったく、先生に恥かかせてんじゃねぇぞボケ!」

 

「あーもうわかった! わかったから! ボク一人で何度も頭下げるから!」

 

「……お前達はいつもこうなのか?」

 

「えーっとその、特例です。フリードさん」

 

 そうしてやかましく言い合いながらも恵里達は通路を駆け抜けていく。その間復活したと思しきゴーレム騎士達を相手取っては進むのを繰り返すこと五分ほど。遂に通路の終わりが見えた。

 

「全員、飛ぶぞ! フリードさんは誰かが補助を!」

 

『了解!』

 

 通路の先は巨大な空間が広がっているようだ。道自体は途切れており、十メートルほど先に正方形の足場が複数見える。背後からは数は少ないながらもゴーレム騎士達が落下しており、それらを迎撃し、躱しながら恵里達は通路端から勢いよく飛び出した。

 

「何人かで別々の足場に!」

 

 光輝の指示を受けながら走り幅跳びの要領で恵里達は次々と跳躍していく。大迷宮の魔力の分解作用により“空力”すらもマトモに使えない中、オリンピック選手を遥かに凌ぐ距離を恵里、ハジメ、鈴そしてフリードは一緒に跳んでいった。

 

「駄目ぇ!」

 

 ――空を漂う中、シアの叫びが恵里達の耳をつんざく。その瞬間、全員の身に異変が起きた。

 

「んなぁっ!?」

 

「わっ!?」

 

「きゃっ!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 なんと恵里達は後方へ()()()感覚に襲われたのだ。

 

「ぐぇっ!?」

 

「ぁぐっ!?」

 

「ぐはぁ!」

 

 振り返る暇すらなくほんの一瞬で誰かと体がぶつかったような痛みが走る。その直後、今度はすさまじいまでの重圧が彼女達を襲う。

 

「な――がぁっ!!」

 

「から、だ、がぁ……っ!」

 

 見えないプレス機にはさまれて潰されるかのような心地であった。しかも手足どころか指一本すらマトモに動かないほどの押し込む力に何とか抗おうとするも敵わない。だがそれもほんの一瞬で終わった。

 

『宝物庫がっ!』

 

「してやられたかっ!」

 

「あ――か、返せコラぁー!!」

 

 ――持っていた武器、ホルダーに入れてた薬、そして宝物庫全ての喪失と引き換えに。それら全てが宙空へと飛び出し、一か所で塊になると同時にまばたきの間に下へと勢いよく落下していく。

 

「おいおい冗談だろ……」

 

「誰か武器は! 残ってる人間はいないか!」

 

「駄目だ! 俺の籠手も残ってねぇ!」

 

「薬も無くなってる! ど、どうしよう!」

 

「――やってくれたな、ミレディ・ライセンっ!!」

 

 ここにいる皆だけでなく恵里も冷静ではいられなくなってしまう。流石に大ボスを前に武器どころか薬すらも喪失するなんてシャレにならない。魔法ですら使えるのが中級が限界のここでこの状況はあまりに痛すぎる。恵里も頭をかきむしりながらただ叫ぶだけだった。

 

「何かが来ます! 皆さん、警戒を!」

 

 どうすればいいのかと誰もが迷っていたその時、アレーティアが叫ぶと同時に猛烈な勢いで何かが上昇してきた。それは瞬く間に恵里達の頭上に出ると、その場に留まりギンッと光る眼光をもって睥睨する。

 

「……冗談、キツいってば」

 

「これで戦えって?……正気かな?」

 

「おっきい……アレと……?」

 

「……これでは処刑と変わらんな」

 

 目の前に現れたのは宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが全長が二十メートル弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、左手には鎖がジャラジャラと巻きついていてフレイル型のモーニングスターを装備している。

 

「あ、はは……これ、シャレにならないかな」

 

「光輝ぃ……」

 

「良樹、さん……」

 

 恵里達が巨体ゴーレムの存在に圧倒されていると、いつの間にかいなくなっていたゴーレム騎士達がヒュンヒュンと音を立てながら飛来して周囲を囲むように並びだした。整列したゴーレム騎士達は胸の前で大剣を立てて構える。まるで王を前にして敬礼しているようであった。

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

 

『……は?』

 

 ……今この場で無惨に殺されてもおかしくない状況の中、聞こえてきたのは巨大ゴーレムのふざけた挨拶であった。まるで家に来た友人を出迎えるような軽やかなトーンで声をかけられ、誰もが間の抜けた言葉を漏らしてしまう。

 

「あ、それともう一つお知らせ。君達の持ってた武器とアーティファクトはぜーんぶ没収させてもらったよ。若い子が道具に頼り切っちゃダメだぞ」

 

 しかし呆然としていられたのもそこまでだった。やはり自分達のものを奪ったのはこの女の声を出すこのゴーレムが原因だったのだと理解させられたからだ。それほどの力の差、あまりにも自分達に不利な状況。恵里も乾いた笑いが浮かんでしまう。

 

「あのねぇ~、挨拶もしたし君達のアーティファクトがどうなったかもちゃんと答えてあげたんだよ? だったら何かお礼の一つも返すのが礼儀ってものでしょ? 全く、これだから最近の若者はさぁ~」

 

 目の前にいる凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムの嘆きに恵里達は何も言い返せない。燃え盛る右手と刺付き鉄球を付けた左手を肩まで待ち上げ、やたらと人間臭い動きで「やれやれだぜ」とでも言う様に肩を竦める仕草まで相手はしている。

 

「……それで、こっちの武器を奪って満足した? 解放者じゃなくて泥棒でも名乗ったら?」

 

「だな。追いはぎやっといて言うセリフがそれかよクソッタレ」

 

「我らを恐れるのは道理だ。深淵に至る我らに敵は無し……が、このようなやり口は心底気に障る」

 

「……わしらを試すというにはあまりに姑息としか思えんがな。武器を奪われた上で戦え、というのはあまりに卑劣ではないか」

 

 けれども言われっ放しは癪に触ると恵里は相手を()()()()()()ながら嫌味をぶつける。大介と浩介、鷲三もとげとげしい言葉を放ったりしていたが、向こうは右手の人差し指を立てながらこちらに事もなげに返してきた。

 

「まぁそう見えるよね――でもさ、君達は空間魔法、生成魔法、魂魄魔法は最低でも持ってるでしょ? それじゃあアッサリと試練を突破しちゃうじゃん」

 

 途中、立てた指で円を描きながら答える相手に恵里は思わず歯噛みする。完全に手札が割れており、その上でしっかり対策を打ってきたということだ。自分達の武器や道具を一つでも確保出来ていたらと思ったが、そうさせないために自分達に仕掛けて来たのだろうと察する。

 

「……そのゴーレムは特別柔らかい、ってことですか? そうじゃなかったら俺達の勝ち目がないんですけれど」

 

 光輝が問いかけるが、声のトーンがやや平坦なのと話し方からしておそらく腹を括るためのものだろう。そう考えて自分もどうやってこのゴーレムを倒そうかと恵里は考えていると、当のミレディとやらは親しい人間と雑談するような明るいトーンで答えてきた。

 

「ん~? もしかして楽できると思った? 残念でした~。今まで君達が戦ったゴーレムに()()()()ぐらい硬いよー。でもでも~、ミレディさんはちゃんと『試練』として君達と向き合うつもりだから」

 

 腰に両の手を当てるような仕草をし、胸を張るような仕草をしながらだ。やたらと人間臭い仕草をするこのゴーレムに思わず恵里は鼻を鳴らし、ミレディ・ゴーレムの()()やその周囲にいるゴーレム騎士の動きを観察しながらどうしたものかと考える。

 

(ハッ、よく言うよ。武器も魔法もロクに使えない中で倒せって? お前が遠くから操ってるのはとっくにバレてるんだよ)

 

 あまりにも無理ゲーなこの状況でどうやって勝つんだと思いつつも恵里はあるものを探っていた。それはミレディ・ライセンを自称するゴーレムのどこに『彼女の魂』が入っているかだ。

 

 もし仮にあの女の魂が入っているのならばそれを直接攻撃し、破壊してしまえばこの大迷宮は突破できる。だが貴重な魔力を消費しながら魂魄魔法で探ってもそれは一切見えなかった。代わりに人間の心臓にあたる部分に魔力の流れが集まってるぐらいだ。

 

(お供の武器でも奪ってそれで核になる部分でも壊せって? 本当にそれで勝てるの?)

 

 けれども恵里はその攻略法では()()勝てないと確信していた。それはこの大迷宮を進んでいた際に何度となく痛感したミレディ・ライセンの底意地の悪さからだ。これまで仕掛けられた罠の数々、それも一歩間違えばオルクス大迷宮を突破した自分達でも死にかねない凶悪さを放つものが幾つもあったのだ。判断が甘ければきっとここでも死にかねないと恵里は直感していたからである。

 

(そうなるとあのゴーレム辺りをぶつけるか、空間魔法による直接攻撃か。それか他に……うん?)

 

 浮いてるゴーレム騎士を叩きつけるなり、威力の減衰を覚悟で“震天”や“斬羅”で直接当てるか。せいぜいそれぐらいかと思った時、ふとあることが気にかかった。

 

(待った。じゃあ()()()()()はどうやってクリアするの? 多分あのゴーレム騎士も再生するだろうし、壊して武器を盗みながらなんて現実的じゃない)

 

 それは自分達のような()()()()()()()()()人間でなく、()()()()()()が攻略する場合はどうすればここを突破できるかということだ。自分達でも中級程度の魔法がせいぜいなのに、武器も魔法も大した破壊力のものがない状況でどうやってクリアするのか。

 

(じゃあ他に何かある――まさか!)

 

 ゴーレム騎士の持ってる武器程度で勝利させてくれるほどこの女は真っ当な神経をしてないだろうと考え、ならば他に何があるか――そう考えた時、恵里はこの空間に浮かぶ様々なブロックへと視線を移した。

 

「……一つお伺いします。お供のゴーレム、それと――」

 

「――周辺に浮かぶブロック、どちらを壊せばクリアするための手段が手に入りますか」

 

 そしてそのことは光輝とハジメも思いついていたようだ。やっぱりと思いながらハジメの方を見やれば、彼も目を合わせてゆっくりとうなずいてくれた。流石ハジメくんだとニンマリと笑みを浮かべつつ、恵里は眼前の巨大ゴーレムを倒すための方法を口にする。

 

「へぇ、そこまでもうわかったんだ! 正解はね――」

 

「「――浮かんでるブロック、違う/だろ?」」

 

 光輝とハジメの疑問に感心したのか、声のトーンを軽く上げたミレディが何かを答えるよりも先に幸利と一緒に恵里は答える。彼の方を見れば口の端を吊り上げて鼻を鳴らしており、ハジメ並に信用できるブレーンである彼と答えが一致したのなら確実だなと恵里はニィッと口角を上げた。

 

「……そっか。それぐらい頭回るんだね。やっぱり頭の面じゃ問題なさそうか」

 

 その瞬間、ミレディの声のトーンが最初の挨拶と同程度にまで下がった。腰に両手を当てるような仕草もやめ、軽く両腕を曲げている。声に今仕掛けてきてもおかしくない姿勢からして恵里は直感した。この女の仮面がはげたのだということを、こいつは自分と同類だったと本能で理解したからだ。

 

「じゃあさ、私の質問に答えてくれるかな」

 

「何を、ですか」

 

「……何を問うのだ。ミレディ・ライセン」

 

 そして抑揚に欠けた声で問いかけるミレディに光輝とフリードが問い返す。一体何を言ってくるかと思いつつも恵里はあちらの出方をうかがう。

 

「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」

 

 噓偽りは許さないとばかりに威圧感の伴った声で問いかけてきた。それを聞いた恵里はやはりあの軽薄な態度はブラフだったと察し、何かを見定めようとしている今の姿が本質なのだろうと考える。

 

「決まってるよ――エヒトの奴を殺す」

 

 気に食わない答えならばきっと自分達を殺しにくるだろう。そのことも察しつつも恵里は先んじて答える。嘘偽りない本音を、大切な人間を踏みにじろうとするあの存在への憎しみを露わにしながら。

 

「何度も煮え湯を飲まされたし、アイツを放置して元の世界に戻ったらお父さんにお母さん、それと友達の家族が危険だからね。だからここで絶対に殺す」

 

 オスカー・オルクスの遺したメッセージから解放者の目的は知っている。だからその意に沿うものであり、自分達がしなければならないことを伝えていく。振り返ればハジメ達だけでなくアレーティアもうなずいており、シアも一拍遅れて首を縦に振っていた。

 

「……私は魔人族の国の奪還、全ての魔人族の救済だ。そのためにも貴様は倒す。ミレディ・ライセン」

 

 フリードも目的を伝えればミレディはただ短く『そっか』とつぶやいた。声の感じは先程と変わってない様子であったし、ひとまず即座に切り捨てにかかってくることは無いだろうと恵里が確信しているとミレディが再度言葉を紡いだ。

 

「私達の意志を紡いでくれるのは素直に嬉しいかな。そっちの魔人族の彼は君達と目的が別だけど別に構わないしね」

 

 その言葉を噛みしめるように何度も何度も首を縦に振っており、やはり大丈夫かと恵里は心の中でホッと一息吐く。そんな時、ミレディはあることを問いかけてくる。

 

「――でもさ、ふとした拍子に戦えなくなるような子を連れてくるのはどういうことかな? 馬鹿にしてる?」

 

 一オクターブ下がった声色が、燃え盛る右手を強く握りしめた音がこの球状の空間に響く。まるで首元に氷の刃を添えられたかと錯覚するかのように、先程とは比べ物にならないほどに威圧をかけてきている。呼吸を一瞬忘れるも、すぐに我に返った恵里は左腕を盾代わりに前に出した。

 

「わかるよね? そこのシズクって子とアレーティアって子だよ。ねぇ?」

 

「そ、そんなこと……そんなことないわ!」

 

「それ、は……」

 

 思わず二人の方を振り向けば、雫は軽く顔をこわばらせながらもすぐに反論していたが、アレーティアはやはり答えに窮して大介の後ろに回って彼を抱きしめている。やっぱり二人の弱さを見抜いていることに歯噛みしそうになりながらも、恵里は顔を上げて反論する。

 

「で? ウダウダ問答したいのそっちは。試練をするんじゃなかったのぉ~? もしかしてボク達に揺さぶりでもかけようってぇ~?」

 

「……それもそうだね」

 

 このままミレディと問答を続ければ二人が参ってしまうかもしれない。親友を傷つけようとするのは気に食わなかったし、アレーティアだって心強い戦力だと恵里は考えている。だからこそヘイトをこちらに向けさせようと挑発すれば、癪に障る言い方ではあったがあちらも追及を止めた。

 

「今私がするべきなのは試練だ。君達に後を託して大丈夫かどうか。それを戦いながら確かめればいいだけだからね」

 

 ゴーレムの頭をこちらへと向け、静かに、平坦なトーンでミレディは語っていく。今の今まで攻撃を仕掛けてこない辺り、()()になれば自分達はいつでも平気で潰せるのだろうという確信が恵里にはあった。何せこの部屋に入ってすぐ、『重力操作』と思しき魔法になすすべなくやられたのだから。

 

「じゃあ戦いを始める前に一つ忠告……そこの暗殺者君達。分身を出して自爆させまくって勝とうだなんて野暮なことはしないでね。でないと――“壊劫”」

 

 その凄まじいまでの実力差を恵里達は改めて実感させられる。

 

 突如ミレディ・ゴーレムの右手に黒く渦巻く球体が出現し、近くを漂っていた三メートル大のブロック一つを呑み込んだのである。ほんの数秒、金属がきしみ潰れる音がこの空間中をつんざいた。そして――。

 

「こんな風に()()からさ……君達はとっくに気づいてるでしょ? 私が操るのが重力を扱う魔法だってことに。さっきみたいに君達を意のままに動かすことも可能だよ。だからさ」

 

 ――球体が消えると同時に数cm程度の大きさのいびつな金属の塊が音も無く落ちた。

 

「失望、させないでよ?」

 

 あっという間に下へと消えた金属の塊を見て恵里は確信する。絶対に下手なことをしてはならない。そうなれば自分達は『挑戦者』でなく、『敵』としてああなってしまうと。

 

「ははっ……嘘でしょ」

 

 全員のつばを飲む音を聞きながら恵里は前世? のことを思い出す。かつてクラスメイトを裏切り、化け物と蔑んだ少年と対峙した時に感じた命の危機をだ。震えが、止まらなくなっていた。




ミレディ「アイテムなぞ使ってんじゃねえ!」

という訳でミレディ・ゴーレム戦EXハードモードです。ミレディアンチというかマンチ(マンチキン)というか。詳しくはggってください。

具体的に言うと某サルファのリアル女主人公で同難易度を選んだぐらいですね多分。これも詳細はggってください(他力本願)

あと重力魔法を直接ぶつけてこないからセーフ! アフターで浩介が挑んだのと多分大差ないし! 多分!! 続きは二日後となります。それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。