あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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皆様お待たせしました。ミレディ戦の続きです。二日前に更新したばかりなので、まだ御覧になってない方はそちらをぜひ。

それと今回ちょっと長め(約11000字程度)となっているのと、またミレディへのヘイトが上がりそうな内容となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


九十話 怒れる解放者

「失望、させないでよ?」

 

 ライセン大迷宮の最奥、直径二キロ以上ある球状の空間でミレディ・ライセンの冷たい声が響く。ほぼ同時に皆のつばを呑む音もまた恵里の耳には届いていた。

 

(はは……冗談でしょ? これで勝てって? ……ふざけるな。ふざけるなよ!)

 

 幾つも神代魔法を持っていたせいでハードルが上げられたことを恵里は心の中で嘆いていたが、それが通じる相手じゃないことはもうわかってしまっている。先程の彼女の言葉と共に五十ものゴーレムの騎士が散開していったからだ。

 

「――皆! あのゴーレムに魂は無かった! あのクソ女、どこかから遠隔で動かしてる!」

 

 このままじゃなぶり殺しもいいところだと考え、恵里は振り返って叫ぶ。さっきの自分のように戦意がなえてしまったかもしれない皆を奮い立たせるために、ここを切り抜けて神代魔法を手に入れるために。皆を見れば誰もがハッとした様子であり、すぐに表情をひきしめたのがわかった。

 

「だな! 気合入れろシア!」

 

「は……はいっ!」

 

「まったく……お前達はこんな苦境を超えていたのか!」

 

「オルクス大迷宮の時がマシな気はしますけどね!――戦おう皆! 勝つんだ、ここでも!」

 

『うん!』

 

『おう!』

 

「承知!」

 

 自身の言葉でハジメ達の顔はすぐに真剣な表情になり、ほほを両手ではたいたり声を張り上げてそれに応じた。呆然としていたほんの数人もため息を吐いてから目を細めて表情をひきしめたり、動揺しながらもミレディが操る巨大ゴーレムの方に視線を向ける。これなら大丈夫と確信した恵里はすぐに前方へと体を向けた。

 

「……一番注目しなきゃいけなかったのは君の方だったかなぁ!」

 

 するとミレディも左腕を突き出し、モーニングスターを射出してきた。予備動作もなく猛烈な勢いで飛び出してきたため光輝が大声を上げる。

 

「散れぇー!」

 

 恵里もフリードの手を取ってハジメ、鈴と一緒に別のブロックへと飛び移った。さっき脅した時に語ったように重力を操作する魔法で方向を調整して“落下”させたのだろうと恵里は察する。

 

「……ふぅん」

 

「皆、まずはゴーレムの騎士に対処! 術師の皆は数人がかりで戦うんだ!」

 

 光輝の号令にうなずきつつ、恵里は周囲を見渡す。六メートルほど先のブロックの上で鷲三と霧乃が広げた翼をたたんでいたため、きっと二人が光輝と雫をつかんで空を飛んだのだろう。

 

 他の皆も無事に別のブロックに移れたようでホッとしつつも、今自分達のいるブロックへと迫っている四体のゴーレム騎士を見て恵里は構える。

 

「あっちの武器を奪ってから他のブロックを破壊しよう! それと破片とかは僕に渡して! 鈴と協力して“震天”が付与出来ないかどうかやってみるから!」

 

「「わかったよハジメくん!」」

 

「来るぞお前達!」

 

 流石に生成魔法での付与ぐらいは許してほしいと思いつつ、ハジメの提案に鈴と一緒に応じる。そしてフリードの声に内心うなずきながらもこちらへ“落下”してきたゴーレム騎士の盾の一撃をかわす。

 

「このっ!」

 

 四体全てが持っていた盾を前に出して砲丸のように突っ込んできたが、動きが見えていたことで恵里達は難なく避けられた。だがその直後に騎士達は弾かれたような勢いで切りかかってきたため、オルクス大迷宮仕込みの回避技術で恵里はギリギリの所でかわす。

 

「“炎刃”っ!」

 

 半歩体をずらして振り下ろしの一撃を避けると、そのまま横へと動いた。そして相手の真横に立った恵里は右手を突き出し、相手の肘から十cm程度のところまで近づけて炎系初級魔法“炎刃”を放つ。

 

 目的は剣を持っていた腕の両断。いくら金属で出来ているからって関節部分は他と比べて頑丈だとは思わなかったからだ。

 

「“炎刃”! “炎刃”! “炎刃”! そらっ!」

 

 一度では三cm程度溶けたかどうかな程度であったため、更に三発連射して肘の半分ぐらいまでを溶断する。これ以上は魔力の無駄だと考えた恵里はすぐに“豪脚”で腕を蹴り飛ばした。半分程度しか残ってなければ腕を支える強度もないと見込んだからだ。

 

「――っ!! いっだぁ……」

 

 予想は的中。かなりの痛みを伴いながらも腕はもげて床代わりのブロックの上へと転がり、直後にゴーレム騎士も上へと“落下”していく。

 

「とりあえず武器は確保……と、ハジメくん! 鈴! フリード!」

 

 多分ここでも再生するというのはわかっていたが、こうして逃げた辺り材料がないと無理なのだろう。完全に倒しきれなかったことを口惜しく思いながらも恵里はハジメ達は大丈夫かと彼らの方に振り向いた。

 

「“聖壁・光散華”っ!」

 

「“崩陸”っ! でぇいっ!……い、痛ぃ」

 

 鈴は中級の防御魔法である“聖壁”を刃物に見立て、ゴーレムの両腕と頭に三つのバリアを突き刺すとそのまま爆破。ハジメも両手をゴーレムの腕に当て、“崩陸”で関節部を脆くすると自分と同様に蹴ってひじを破壊していた。

 

「万物は集い散りて成される 砕けたる金剛石 押し固められし砂――ふッ! いずれも天の理に従うものなり――ぬっ! しかし我が成すは天の理を覆すものなり!」

 

 一方、フリードの方も攻撃を避けながら詠唱に移っていた。解放者から伝授()()()()()()文言を連ねながら振り下ろした剣と叩きつけられる盾をかわしていたが、流石にこれでは集中できないだろうと恵里はすぐにハジメ達と目を合わせる。

 

「いくよ、ハジメくん、鈴っ!」

 

「うん! フリードさん!」

 

「今援護します! “聖壁・刃”!」

 

 自分の意を即座に汲み取ってくれた二人と息を合わせ、恵里は攻撃に移る。まず鈴が両ひざの裏へと二枚の光の花弁を飛ばして突き刺し、恵里はハジメと息を合わせてその花弁を一枚づつ蹴り抜く。

 

「「やぁーっ!!」」

 

 “豪脚”による一撃により浅く刺さっていた花弁は亀裂を入れながらも更に深く進んでいく。そして砕け散ると同時にゴーレム騎士の両ひざの両断に成功する。

 

「助かった!――あまねく存在を消し去る力 塵芥すら残さずうつろい失せよ 其は神の怒り 至高にして究極の無慈悲 裁きを受けよ――“分解”っ!」

 

 ズゥゥン! と音を立てて前のめりに倒れると同時にフリードは駆け寄り、剣を持っていた手に自分の手を重ねながら詠唱を終える。途端、カランと落ちる音がすると共にゴーレムの騎士は上空へと舞った。

 

「よし……これで武器は四つ確保したか」

 

 この大迷宮の中でも神代魔法は効果を発揮してくれたようだが、フリードが膝をついて肩で息をしている辺り魔力の消費は相当激しいのだろう。

 

 ただ発動するだけでも相当使うのだから、魔力の分解作用のあるここならなおさらかと思いつつ、こちらを見上げているフリードに恵里はため息と共に手を差し出す。

 

「はい手を取って。それと鈴、“譲天”使ってあげて」

 

「うん。お疲れ様ですフリードさん。“譲天”」

 

「……すまん」

 

 フリードの手を引いて立ち上がらせると、彼の腕に手を当てながら鈴は魔法であちらの魔力を回復させていく。

 

 “豪脚”など体の内部で魔力を展開する方の技能は特に問題なく使えるため、おそらく皮膚同士の接触で魔力のロスを減らそうとしたのだろう。すぐにフリードの顔色が良くなり、鈴もすぐに手を放した辺りあまり魔力のロスもなかったのではと恵里は考えた。

 

「はい。じゃあフリードさんももう大丈夫そうだし」

 

「うん。じゃあ僕と鈴は手に入れたゴーレムの腕に“震天”の付与を」

 

 そしてお互いサッと話し合うと、ハジメと鈴と顔を合わせてうなずき合ってから恵里は入手した剣を一本手に取る。そしてフリードと向き合って手を再度差し伸べる。

 

「じゃあボクはフリードと一緒にブロックの破壊ね。やれる?」

 

「これぐらいしか私にはやれんしな。やるぞ、恵里」

 

「オッケー。じゃあ行くよ。ハジメくん達のためにも武器を持ってこないとね!」

 

 フリードも剣を手に取ると、差し伸べた手を掴んだ。恵里はほのかに口元を緩めると、彼の手を掴みながら二メートル近く先にあるブロックへと向けて駆け出して跳んでいったのであった――。

 

 

 

 

 

「ぐっ! ぬぐぅ……!」

 

「くっ……流石に少々厳しい、ですね……っ!」

 

 恵里達や他の皆がゴーレム騎士に対処しながらブロックの破壊に移っていた一方、光輝達は苦戦を強いられていた。ミレディが操る二十メートル弱の超巨大ゴーレムの猛攻をドーム状に翼を広げた鷲三と霧乃がひたすらしのぎ、また次々と迫り来るゴーレム騎士を光輝と雫が対処していたのである。

 

「ふーん。流石に二人がかりだと両手じゃ簡単には壊せないかー」

 

 ミレディは特に何の感慨もないとばかりにつぶやきつつも攻撃の手を止めない。右手のヒートナックルで何度も叩き、左手のモーニングスターを容赦なくぶつけ続けている。そのせいか二人の翼には徐々に亀裂が広がっていた。

 

「くそっ! このっ! 数が!」

 

「お祖父ちゃん! お母さん!」

 

 倒して奪った剣を半ば使い捨てる形で光輝と雫は集まってくる他のゴーレムを切り捨てている。だが一体切り捨てては二体が、二体倒しては三体が、と次々と現れるせいで包囲されて動けないでいた。しかも下手に隙を作れば鷲三と霧乃に向けて武器や盾を投げるなりしてくるため、二人はそれに追われてしまっているのである。

 

「やれやれ。この程度で泣き言言ってちゃダメだよ~? だってあのクソ野郎の手駒はこんなに弱くも少なくもないんだからさぁ~」

 

 淡々と言葉を連ねながらもミレディは攻撃の手を緩めることなく鷲三と霧乃の翼の結界にヒビを入れ続けていた。だが大振りで右手を叩きつけた後、『けれど』と述べるとミレディ・ゴーレムと他のゴーレム騎士も弾かれたようにその場から離れる。

 

「ちょっとワンパターン過ぎて飽きちゃうよねー。だからさ、これはどうかな?」

 

 そう述べた直後、上からすさまじい勢いでブロックが降ってきたのだ。しかもそれだけではない。

 

「――横から!」

 

「ほーら。逃げないと潰れるか押し出されちゃうぞー。がんばれー」

 

 更に横からもブロックが突っ込んできたのだ。すぐに光輝達は剣を複数拾ってから後ろに浮かぶブロックへと逃げ、体勢を整えようとした。

 

「また上から!」

 

「騎士以外は複数動かせないけれど、単に落とすだけならどうとでもなるからねぇ~。ほら、逃げないとぺちゃんこだぞぉ~」

 

「だったら!」

 

 しかしミレディがつぶやくと共に再度ブロックが降ってきたのだ。すさまじい勢いで頭上から落ちてくるそれに対し、光輝達は顔を見合わせるとすぐに上を向いた。

 

「このまま逃げの一手を選んでも勝てそうにないのでな!」

 

「私達も戦うとしましょう!」

 

「うん! お祖父ちゃん、お母さん! 光輝ぃ!」

 

 ゴーレム騎士から奪った剣を鷲三と霧乃に渡すと、すぐに四人はそれを構えて迎撃に移った。まず二人が分解作用のある翼を出してブロックを押さえ、勢いが弱まると同時に持っていた剣でひたすら切りかかる。

 

「“分解”――うぉおおぉぉぉぉ!!」

 

「「「はぁあぁぁああ!!」」」

 

 時折“分解”の魔力も載せながら何度も切り結べば、ゴーレム騎士の剣全てとブロックが砕け散ると共に黒い剣や槍などの武器が破片と共に現れる――それを見て光輝達全員が表情を緩めた直後、巨大な影が横から迫って来た。

 

「しまっ――!」

 

「ちょっと気が抜けすぎてない?――じゃあこのまま死んでもらおっか」

 

 大きく右手を構えたミレディ・ゴーレムが目の前に現れたのである。ブロックへの攻撃に専念していたせいで反応が遅れ、再度飛んで逃げるにしても直撃は避けられない。ならばと鷲三と霧乃は翼を広げて光輝と雫を守ろうとした。

 

「それはこっちのセリフだボケぇぇーー!!」

 

「くたばれですぅー!!」

 

「うぉっとぉ!?」

 

 だがその瞬間に横から良樹が黒い短剣、シアが黒い剣でミレディ・ゴーレムの横っ面をひっ叩いた。最高のタイミングでの横やりにミレディ・ゴーレムは軽くのけぞってしまい、向こうの攻撃は空振ってしまう。それを見るや否や、そのまま落ちていく彼らへと向かって鷲三は飛び立った。

 

「全く、無茶をする!」

 

「危なかったぁ……って、しなきゃ皆潰れてただろジイさん! 礼ぐらい言いやがれ!」

 

「た、助かりましたぁ……こ、このまま落ちて地面のシミになっちゃうかと」

 

「……まぁ感謝しておる。戻るぞ」

 

 口ぶりからして後先考えずに突っ込んできたのだろう。叱り飛ばした鷲三だったが、反発する良樹と軽く顔を引きつらせながら涙を浮かべるシアを見てため息を吐いた。そして二人を抱えたまま、すぐに光輝達のいるブロックへと戻っていく。

 

「心臓が止まるかと思ったよ……でも助かった。ありがとう良樹、シアさん」

 

「そうよ。本当に驚いたんだから……」

 

「でもあの時飛び出さなかったらお前ら死ぬかもしれないって思ったらよ……」

 

「心臓潰れるかと思っちゃい――皆さん、左へ!」

 

 光輝と雫が心底心配そうに二人を出迎えるも、ハッとした顔つきのシアに全員が反応して左へと飛びのく。ほぼ同時に巨大なモーニングスターが足場代わりにしていたブロックにぶつかり、壁へと吹っ飛んで激突してしたのだった。

 

「やれやれ。そこのクサいウサちゃんも厄介だねっ!」

 

「く、くさ――ブッ倒してやりますよぉ!」

 

 エグい悪口と共にミレディ・ゴーレムが右のヒートナックルを振り下ろせば、光輝達はすぐ後ろにあったブロックへと飛び移る。臭いと言われてシアも剣の切っ先を向けながらキレたが、飛び移ったと同時に襲い掛かって来たゴーレム騎士の対処に追われる。

 

「ったく! これじゃあ流石に――」

 

「打つ手なし、か!」

 

 持っている武器の切れ味と強度が高いおかげで何体ものゴーレム騎士を難なく倒せてはいるが、時折ブロックも迫ってくる。その破壊にも努めなければならず、壊した時には上や左右から無傷のゴーレム騎士が襲い掛かってくる。

 

「やれやれ。オーちゃんの大迷宮を突破した君達ならこの程度のハンデなんて余裕だと思ったんだけどね。期待外れだったかな」

 

「何がハンデですか! 武器も道具も奪われたらどうにも――」

 

「それだよ」

 

 直接ミレディを叩くことが出来ず、誰もが悔し気に表情を歪める中で当の相手がやれやれといった様子であった。左手のモーニングスターを腰に近づけ、人差し指だけを立てた右のヒートナックルを兜に向けながらつぶやいたミレディにシアが反発するが、その直後に感情の乗ってない言葉が彼らの耳に届く。

 

「あいつはこの程度で済ませるほど優しくなんてないよ。それもわからないのかい? 今私と君達がやっているのは()()でしかない。こんな生ぬるいもので弱音を吐く程度じゃ駄目だって言ったんだよ」

 

 時折声のトーンが落ちつつも語るミレディの言葉に、光輝達はゴーレム騎士の攻撃をいなしながらも歯噛みする。エヒトが厄介であることは新参者であるシアであっても良樹達の口から聞いている。だがその程度の認識では、この程度の強さでは勝てなどしないと言われても光輝達はただゴーレム騎士を倒すしか出来ずにいた。

 

「オーちゃん達の大迷宮をクリアして、どうやって至ったかはわからないけど神代魔法の真髄まで知って、それで浮かれてただけでしょ――エヒトを倒すって言った割にさ、私達やあのクソ野郎が既に知っているものではしゃいでる程度じゃね」

 

 そして驚きと失望の混じった声で思いを告げて来たミレディに光輝達の手が一瞬止まり、大きな隙を晒してしまう。その隙を逃さなかったゴーレム騎士に押し込まれ、またミレディの方も左手のモーニングスターをこちらに向けたことに()()()気づく。

 

「戦える手段を奪われてもなお抗い続ける。それすら出来ないような人間に用は無いから。じゃあね」

 

「――クソッ!」

 

 ゴーレム騎士ごと潰さんとばかりにモーニングスターを射出してきたが、光輝達は迎撃も逃げることも、反論することすらも出来ずにいた。苦々し気に鷲三と霧乃が再度翼を展開しようとしたその時、ハジメの叫びが彼らの耳に届いた。

 

「くらえぇー!!」

 

 奥からキラリと何かが光るとほぼ同時に、巨大なトゲ付鉄球へと腕のようなものが飛来する。ドン! とけたたましい音と共にモーニングスターは弾かれて斜め下へと行き、何かを砕いたような音を聞きながらも光輝達はゴーレム騎士を倒していった。

 

「さっきからふざけたこと言って――いい加減にしなよクソ女がさぁ-!!」

 

 聞きなれたヒステリーと共に現れた彼女達を見て光輝達はホッとしてしまう。もう恵里達が武器を携えて合流してきたのだ。たったそれだけで彼らの顔はみるみるうちに明るくなっていく。

 

「恵里……あぁ! 行こう皆!」

 

「うん! 皆がいるなら私達だって!」

 

「だな! セコい手使ってエラそうにしてやがるババアに言われっぱなしでたまるか!」

 

「はいですぅ! 思いっきりほえ面かかせてやりましょう!」

 

 光輝が言葉をかけると共に雫が、良樹が、シアが声を上げて武器を構え直す。その様を見て鷲三と霧乃はほほが緩みそうになるのを抑えられなかった。

 

「……わしらがいなくともこの子達は立派になってくれてたな」

 

「えぇ……少々寂しいですが、私達も気を抜いてはいられませんね。お義父さん」

 

 次々と集結していく子供達を見て表情を緩めた二人だったが、すぐに手にした短剣を構えてミレディと向き合うのであった――。

 

 

 

 

 

「さっきのは“震天”を付与したゴーレムの腕かな。魔力の消費も激しいのによくやるね」

 

「友達を助けるためですから」

 

「それで切り札になりそうなものを使っちゃうかー。ま、その友情は素敵だと思うよ」

 

 とっさのハジメの行動にだけは本気で称賛した様子であったが、その前の感心したようなつぶやきに関してはあちらの声のトーンはほとんど変わってない。

 

 先程光輝達に好き勝手言った癖に勝手に幻滅したミレディへと恵里は視線を向ける。見れば仲間達も超巨大ゴーレムを取り囲んでおり、種類こそ違えど全員漆黒の武器を手にしているのがわかった。

 

「言ってくれるじゃん。何もかも知ったような口でさぁ」

 

 目の前のゴーレムを叩き潰す準備が整ったということがわかり、ならばと恵里は先んじてミレディに不満をぶつける。

 

「あっさりボク達に囲まれて、しつこく雫達を狙っても倒せない。かなり悔しかったんじゃないのぉ〜?」

 

「……ふーん。言うじゃん。否定はしないよ。否定はね」

 

 正直嫌味の一つでも言ってやらなきゃ気が済まなかったのだ。戦闘に移ればそれを言っている暇なんてないというのはわかっていたし、あちらのメンタルに少しでも揺さぶりをかけようと考えたからでもあった。

 

「それと直接やり合った訳じゃないけど、あいつの厄介さはしっかり理解してるよ。だからこそ必死さを感じないそっちに幻滅したんだけどね」

 

「ハッ、アイツに対面したことも無いくせによく言うよ」

 

 やれやれといった口ぶりで返してきたミレディだったが、恵里の告白と共にあらゆる動きがピタリと止まる。流石にそればかりは想定外だったのだろう。恵里は額にしわを寄せ、口元を吊り上げながら自分のことを語っていく。

 

「この世界に来て早々ボクは神の使徒に連れ去られてるし、神の使徒と戦ったこともそれなりにあるしね」

 

「この世界……なるほど。違う世界、か。やっぱり。名前からしてそうだと思ったよ」

 

 恵里がそう述べれば、あちらも納得をした様子を示した。手にした神代魔法も筒抜けだったのだから当然かと思いつつもひとまず出方をうかがう。まだミレディも動く気配が無かったし、ここで下手を打って相手が殺す気になっても困るからだ。

 

「あいつ、そこまでやれるんだ。ま、神を自称するだけあるか……だったらさ、どれだけあいつが厄介かぐらいは皆理解できてるはずでしょ?」

 

 するとミレディが苛立ちを含んだ声で問いかけてきたため、皆の舌打ちや歯ぎしりをしたであろう音を恵里の耳が拾う。当然わかっていたつもりではあったが、さっき光輝達のところへと向かう際に言っていた言葉が脳裏に浮かんでしまったせいで言い返せない。

 

『エヒトを倒すって言った割にさ、私達やあのクソ野郎が既に知っているものではしゃいでる程度じゃね』

 

(悔しいけど……悔しいけど事実だ。ボク達がわかったことをエヒトの奴がわからないはずがない。それぐらい簡単にやれるってことは頭の片隅にでも置いておくべきだった)

 

 はるか昔、解放者達が戦っていた時代からエヒトはいたのだ。ならば自分達が手にした神代魔法の真髄だって既に知っていてもおかしくなんてない。

 

 自分達をこのトータスに引きずり出したことや自分のいる領域、神の使徒が“分解”を使えることを考えれば、空間魔法だけにしても自分達を凌駕するほどの腕前なのはわかってしまう。

 

(変成魔法だって、ボクの一番得意な魂魄魔法だって、アイツはボク達の遥か上であってもおかしくない。ったく、どれだけ思いあがってたかがよくわかるよ!)

 

 神の使徒の製造に変成魔法も、神の使徒に空間魔法を授けていることや魂一つで存在している可能性も考慮すれば魂魄魔法だって自分達のはるか先に至っているだろう。お釈迦様の掌の上でいい気になってた孫悟空の気持ちもよくわかると悔しさで顔をしわくちゃにしていればミレディが更に追撃してくる。

 

「さっき言ってくれた君、それとシュウゾウとキリノって人達は特にわかるんじゃないの?……体を神の使徒に近いものにされたみたいだしね」

 

 その言葉を聞くと即座に恵里は雫の方へと体をひねった。やはり雫の顔は青ざめており、軽く背中を丸めた彼女を光輝達や浩介が取り囲んでいる。とりあえず四人が体を支えているから気絶しない限りは大丈夫かと思いつつ、ミレディの方に振り向けばまたも容赦のない言葉を浴びせてきた。

 

「どうせそこのシズク、って子がやたらべったりしてるのもその二人が関係してるんでしょ? きっとそこの二人が家族とかで、エヒトに操られてひどい目に遭ってたから。でしょ?」

 

「この……っ!」

 

 どうして雫が顔面蒼白になっているかの理由もわかった上で追求してきたのである。歯がひどくきしむ音がしたことに気づかぬまま、良心が少しはとがめないのかと恵里が言い返そうとしたその矢先であった。

 

「あ、あぁ……」

 

「誰かのために戦った奴が言うんじゃねぇ! ふざけるんじゃ――」

 

「そうだよ――私達も仲間たちをエヒトに操られた。方法は違うだろうけど君達の同類だからね」

 

 自分が言うよりも先に叫んだ龍太郎に対し、ミレディはただ淡々とそう答える。途端、この空間の中で張り詰めていた空気が霧散したような気がした。

 

「あいつの策略を退けて、手を差し伸べて、そうして増やしてきた仲間がさ……ある日敵になったんだよ。あいつの駒の力でね。私達は討てなかった。君達はその不幸にどうにか抗えたようだけどさ」

 

 虚空を見上げながら語るミレディに恵里もハジメ達も何も言葉を返せない。ミレディが受けたその苦しみはかつてオルクス大迷宮の最奥で生成魔法を授ける際の映像で知っているからだ。

 

「お、おかあさん、おじいちゃん……」

 

「雫! 雫、しっかりするんだ! 雫!」

 

「師範も霧乃さんも何やってるんだよ! 雫を気遣ってやってくれよ!」

 

 あの時はそういうことがあったのかと思った程度だったが、鷲三と霧乃が操られて戦うしかなかった過去を経た今は違う。その言葉がひどく重く感じてしまい、遠くから聞こえる雫を気遣う光輝と浩介の叫びもあって恵里は思わずうつむきそうになる。

 

「だから私達はそれぞれ大迷宮を用意して待っていた。私達の代わりにあのクソ野郎を倒す逸材がいつか現れるのを待つために……覚悟も持たないまま、ここまでやれる人間が現れたのは想定外だったけどね」

 

「覚悟って……僕達は――!」

 

「雫だって覚悟して――」

 

「あるわけないでしょ。君達にさ」

 

 祈るように、待ちわびるように遠くを見ながら語っていたミレディだったが、こちらに視線を落とすと同時に声色から強い失望がハッキリと感じられた。そのことにハジメや鈴達が怒りをあらわにしたものの、ミレディは更に怒りの込めた声で恵里達を否定する。

 

「私からの問いかけで簡単にくじけるような人間を連れて、特定の相手を執拗に狙っただけでうろたえるような子を連れてきてさ、馬鹿にしてる? あいつが見え見えの弱点を狙わないはずがないでしょ?」

 

 その問いかけにも恵里は何も言えなかった。その通りだったからだ。

 

 いくら分身とはいえ鷲三と霧乃に殺された雫の精神がほんの半月そこらで治るはずがない。そんな雫を連れてこの大迷宮を訪れたのだ。モノによっては雫が命を落とす可能性だってあった。そのことを考えてなかったことをさっきから何度も突かれていると感じ、反論出来なかったのである。

 

「それ、は……」

 

「……その通り、じゃな」

 

「私達が、全て……」

 

「仲間を見捨てられない? 可哀想? そう思うのは立派だけどね、だったら尚更連れてくるってのは間違いじゃない?……大事に思うにしたってやり方ってものがあったでしょ」

 

 さっきの言葉に()()が言いよどんでしまい、更なるミレディの追及に恵里の頭は真っ白になってしまう。戦力の低下、仲間内の不和を招く可能性などそういった計算が先に来ていたが、今のミレディの言葉で本当の自分の思いに気付いてしまったからだ。

 

(ボクは、馬鹿だよ……どうして、どうして今まで気づけなかったのさ)

 

 あふれてくるのは雫への思いだった。雫と離れたくない。傷ついてもなお戦おうとする彼女の力になりたい。仲間外れにしたくない。仲間外れにして悲しませたくない。彼女をいたわる思いがずっとそこにあったことにやっと気づけたのだ。

 

(ボク、間違ってたのかな……あいつの言う通り、光輝君達ごと雫を遠ざけておくべきだったのかな)

 

 けれどもミレディの言う通り、それが彼女を死なせてしまう要因となったら? あの時は分身だったが本人が死ぬようなことがあったら?――今となっては大切な幼馴染で、()()の一人の命が失われる可能性を考えれば嫌われてでも遠ざけるべきだったかもしれない。うつむいた恵里の顔から涙がこぼれ落ちる。

 

「そんな……私、私は……っ!」

 

「そんな震える手でエヒトが倒せるとでも思ってる?……どこまで失望させてくれるの」

 

 雫が懸命に叫ぶ声が聞こえたが、ミレディの方には微塵も届いていない。むしろこちらに対する侮蔑が一層強まった様子であり、大きなため息も聞こえてしまう。

 

「もういいや……()()()にはがっかりさせられたよ。今ここで潰す。私達の願いを継がせる資格なんて――」

 

 遂にミレディの声に()()が伴ったことで恵里はすぐに顔を上げる。このままでは確実になぶり殺しに遭う。けれど重力そのものを操る相手にどう戦う? どう立ち向かう? すぐには結論が出ず、どうすればいいと軽いパニックを起こしそうになっていたその時であった。

 

「……言いたいことはそれが全てか、ミレディ・ライセン。だとすればこちらとしても興ざめだな」

 

「言うじゃねぇかフリードさんよぉ……ま、俺もだけどなヒスババアが」

 

 フリードが、良樹が失意と侮りを露わになった声をミレディへとぶつけたのである。




対ミレディ戦は次回で終了の予定です。投稿は明日を予定しております。
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