あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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遅くなりました(白目) 遂にミレディ・ゴーレム戦完結です。
三日前、昨日と既に投稿済みの話があるため、まだの方はそちらを先にご覧ください。

また今回の話の注意点ですが……過去最高に長くなりました(約20000字)(遠い目)
切るに切れなくって……(本日の言い訳)

それとグロ注意。それと今回その描写において他意はありません。では上記に注意して本編をどうぞ。


九十一話 果てなき壁を全力で超えて

 失意と侮りに満ちたフリードと良樹の声がライセン大迷宮最奥の間で静かに響く。思わず横のフリードを見れば、鋭い目つきでこちらを見つめ返した。

 

「何をしている恵里。貴様、この程度で戦意をそがれたか」

 

「で、でも……だって」

 

「言い訳をしている場合か!……あれがミレディ・ライセンの策だったとは考えんのか」

 

 フリードの言葉に恵里は思わずハッとし、あちらを見てみればふーんとつまらないものでも見たとばかりにつぶやいたのが聞こえた。もしや本当に、と思い直しているとあちらの方から白状してきた。

 

「考えてなかった訳ではないよ。でも三割程度かな。失望しているのは事実だしさ」

 

「オルクス大迷宮を突破した恵里達をどこまで甘く見ている。貴様こそ解放者であるオスカー・オルクスを軽んじているのではないか」

 

 抑揚のない淡々と語るミレディに対し、フリードは恵里の肩に手を置いて自分達のこれまでの道のりを評価する。同時にオスカー・オルクスのことについて触れれば、即座にモーニングスターがこちらへとカッ飛んできた。

 

「……私がオーちゃんを馬鹿にした? 冗談も大概にしなよ」

 

 フリードの手を取って跳んだ瞬間、足場にしていたブロックは粉々に砕け散る。ひとまず他のブロックに退避することは出来たものの、ほんの一瞬でも反応が送れていればブロックと一緒に砕け散るか破片と一緒に落下しかねなかった。そのことを思った途端に恵里の頭が怒りで染まってしまう。

 

「いきなり挑発しないでよフリード! 下手したら死ぬところだったじゃん!」

 

「まだ怒り狂う余裕はあるか。なら問題あるまい――ミレディ・ライセン、貴様があなどった恵里達はこれほどうろたえていても反応出来たぞ。オルクス大迷宮を攻略したこの者達がな」

 

 この野郎と襟首を思いっきり掴んで顔を近づけて怒鳴った恵里だったが、フリードは涼しい顔をしながらミレディに恵里達の強さを語る。するとこちらにモーニングスターを向けていたミレディの動きが止まった。

 

「……確かにね。それは認めた方がいいかな。でも――」

 

「いくら人数が多くとも大した力もない状況で、それも最初にオルクス大迷宮をこ奴らは突破したぞ。神代魔法に頼らずな」

 

「……嘘でしょ」

 

 それでもと言葉を続けようとした様子のミレディだったが、フリードが口元を吊り上げて挑発混じりに事実を述べればそれも止まる。しかも右手が微かに震えている様子から相当驚いているんじゃと恵里は軽くあたりをつけた。

 

「そうそう。レベルが8そこらで俺らオルクス大迷宮の魔物とか神殿騎士とか神の使徒を相手したしな」

 

「ば、馬鹿言わないでよ! 今どきの教会の戦力やそっちがいた階層の魔物はわからないけど、神の使徒はその程度の強さで――」

 

「フッ――神の木偶人形は我が討ちとった。己を深淵と一体化させて気配を断ち、耳目を潰して奈落へと放り投げた。それだけで深淵に呑まれたぞ」

 

「な、なぁ……っ!」

 

 信じられないとばかりに言葉を紡ごうとした様子のミレディだったが、良樹や浩介がその経緯を簡単に伝えれば体勢を保ったまま後ろへと()()()()()()。その方向にいた香織や龍太郎らは巻き込まれまいと飛びのいていたが、かなりの勢いでミレディが動いたことから相当驚いたのだろうと恵里は簡単に察することが出来た。

 

「皆本気で言ってる……これが嘘だったらとんだ詐欺師揃いだね。あぁもう、覚悟はとっくにあったってこと?」

 

「そういうこったクソアマ――お前ら思い出せよ! あの狼を最初に倒した時、先生が言ってただろうが! 家に帰るってよ!」

 

 ミレディの声は微かに震えており、礼一が鼻を鳴らしながら罵倒する。そして彼の言葉を聞き、恵里は愛しいハジメがかつて語った言葉を思い出す。

 

 ――帰ろう、皆。僕達の世界に。自分達の家に。

 

「そうだね……そうだよ皆!」

 

 死に物狂いで、紙一重で二尾狼を倒した後、気落ちしていた自分達にメルドが声をかけた。そして皆で誓ったのだ。絶対に地球に帰ると。自分の家に戻るのだと。あの時の熱が、渇望がよみがえったことで恵里の頭の中に巣喰っていた迷いは消え去った。

 

「だよなぁ! お前みたいな中ボスなんかに負けてる場合じゃねぇんだよ!」

 

「さっきから好き勝手言ってて頭に来てたんだよ! 言われっ放しのお前らにもだけどな!」

 

 大介が、信治が威勢よく啖呵を切る。その通りだ。結局大迷宮なんて家に戻る手段を得るための通過点に過ぎない。その程度の相手にいい様に言い負かされたことを恵里は少し恥じ、また好き勝手言ってくれた信治に腹を立てながらもその通りだと心の中で同意した。

 

「ごめんフリードさん。それに良樹君に礼一君、大介君に信治君も」

 

「そうだね。鈴達は家に帰るんだもん。ここで負けてる場合じゃないよ!」

 

 ハジメ達の方を見やれば、二人とも晴れやかな表情でミレディを見ていた。しかしこちらの視線にすぐに気づいた鈴達はすぐに目を合わせてきたため、お互いにうなずき合うと恵里は戦う意思を新たにする。

 

「私も……私だってそうよ!」

 

「雫!」

 

 他の皆もそうだそうだと意気揚々と声を上げていたが、声を震わせながらも叫んだ雫の声が恵里の耳に届く。

 

「私だって家に帰りたいもの! だから、だから……負けて、られない!」

 

 軽く顔をあちらに向ければ、まだ顔が青ざめたままで四人に体を支えられていたままではあったものの、雫の眼光は鋭くなっていた。オルクス大迷宮を攻略してた時、よく見かけた彼女の戦う時の顔に戻っていたのが恵里にはわかった。

 

「やれやれ……もしかすると見誤ってたのは私の方だったかもしれないね。でも」

 

 ミレディがボヤくと同時にゴーレムの騎士達がブロックの上に降りてきたため、恵里達はすぐに漆黒の武器を構える。ミレディもまた両手を構えて体勢を整えてきた。

 

「だからって私の神代魔法をそう簡単には渡せないね。結局実力が足りなきゃあの野郎には勝てない。それにその覚悟が本物かどうか試さないといけない。そういう訳だからさ」

 

 やはりこの程度じゃ神代魔法を渡してはくれないかと恵里が思っていると、ミレディの口から聞きなれない単語――“絶禍”と魔法と思しきものを幾度もつぶやいた。するとミレディの頭上に漆黒の星がつぶやいた数だけ浮かんでいく。

 

「そっちも『本気』でかかってきなよ。分身でも神代魔法でもさ。私も()()本気で相手してあげるよ」

 

 大迷宮の主の本気。それを見た挑戦者達は一様に唾をのむと、そのままミレディへと飛び掛かっていった。

 

 

 

 

 

「はぁああぁー!」

 

「どりゃぁあぁあー!!」

 

 香織と龍太郎はバットを振るうかのように、持っていた大剣を近くのゴーレム騎士に叩きつけて破壊した。それを終えると二人は手を繋いですぐに別のブロックへと飛び移る。

 

「幸利君!」

 

「優花! 奈々! 待たせた!」

 

 近接戦闘が他のメンバーと比べてそう得意でないステータスの幸利と奈々、そして一歩劣る優花のところへとやってくると三人が相対していたゴーレム騎士を背後から切り付けて倒していった。

 

「待ってねぇ! 助かる!」

 

「正直投げずに使うのには自信無かったのよ! 貴重な武器だから簡単に捨てられないし!」

 

「うん! 香織っちと龍太郎っちがいるなら百人力だよー!」

 

 三人は礼を述べると、すぐに連携して新手に向かっていく。幸利が最初に突っ込み、その後を優花と奈々が続く形で倒す。そうやってしのいできたのだろうと思いつつも龍太郎も香織と共に再生して戻って来たゴーレム騎士を相手どる。

 

「やぁ~!」

 

 そこに今度現れたのは妙子だった。こちらに向かってきたゴーレムを、背後から持っていた槍を思いっきり叩きつけてブッ倒したのである。

 

「妙子か! そっちは大丈夫だったか!」

 

「うん! なんとかぁ~! 鞭じゃないから使いづらくってぇ~!」

 

「思ってるのは皆同じ、ってことね。ならタエも一緒に戦って!」

 

「うん! するぅ~!」

 

 ハッとして尋ねた幸利に妙子は半泣きで返した。微妙にひしゃげた槍を両手で抱えながら語る彼女に優花が頼み込めば、妙子も何度も首を縦に振って優花達のところへと駆けていく。

 

「逃げろぉー!!」

 

 だが全員が合流しようとしたその瞬間、一メートル大の黒い球体が迫る。叫ぶと同時に龍太郎は香織の手を引き、幸利達は後方へと下がってそのまま別のブロックへと飛び移った。

 

「やべぇ、死んだかと思ったぜ……」

 

「うん……どうにか助かったけど、怖かった……」

 

 先程足場代わりとなっていたブロックは軋む音と共にあっという間に小さくなっていき、数秒後に球体が消えると同時に十センチそこらに圧縮されてそのまま落ちていった。

 

 龍太郎と香織は逃げ延びることに成功したものの、それでもブロックのへりをギリギリ掴むことが出来たからでしかない。即座に武器を捨て、全力で逃げなければ確実にあの球体の放つ重力から逃げられなかったと龍太郎は確信していた。

 

「大丈夫かオイ!」

 

「どうにかな! それより後ろ見ろ幸利!」

 

「龍太郎くん、私達の方も!」

 

 そうしてお互いの無事を確認した龍太郎達であったが、ホッとしたその瞬間を狙ってか追加のゴーレム騎士が三体現れる。悲鳴じみた香織の声を聞くと同時に龍太郎は腰を落とし、“豪腕”を発動しながら正拳突きを三発ブチ込んだ。

 

「りゅ、龍太郎くん!? 今、籠手ないよ!」

 

「~~っ!!……忘れてた。つい、体がな」

 

 自分達の危機に反射で動いたことで両手を思いっきり痛めてしまい、ヒビ入ってないよなと涙目になりながらも龍太郎は周囲を見渡す。案の定、胴が少しへこんだゴーレム騎士が再度ブロックの上へと降り立ち、また後ろにも同じ数のゴーレムに取り囲まれてしまった。

 

「香織、武器なしでもやれるか?」

 

「“天恵”……やってみせるよ。さっき近藤君に言われて目が覚めたから」

 

 初級とはいえ治癒魔法を唱えてくれたおかげで手の痛みもある程度引いた。その香織からの答えを聞き、やっぱり香織は最高の女だと笑みを深めながら龍太郎は彼女と背中合わせに立って構える。

 

「行くぞ香織」

 

「やろう龍太郎くん」

 

 後ろを彼女に任せ、龍太郎は弾かれたように前へと突っ込んでいく。無くしたのならもう一度手に入れればいい。不慣れではあるが、最悪ゴーレムの武器に“分解”を纏わせて叩きつければなんとかなる。もっと空間魔法の適性が高かったら楽だったかもな、とないものねだりをしつつも龍太郎はゴーレムどもを相手どるのであった。

 

 

 

 

 

「ほらほらどうしたの~? さっきの威勢はただの空元気ぃ~?」

 

「このっ!――やっぱりチートを使われたら面倒だね!」

 

 恵里はハジメ達と共にゴーレムの騎士達を切り捨てつつ、ブロックを渡ってどうにかミレディの下へと近づこうとしていた。

 

「武器はまだ、捨てなくて済んでるけど!」

 

「やっぱり重力魔法を避けながらは、ねっ!」

 

 だが時折飛んでくる黒い球体を避けながらであり、また近づくほどに落ちてくる頻度も高くなっている。今度は鈴と一緒に別のブロックへと飛び移った恵里であったが、待ち構えていた四体のゴーレムが自分達目掛けて武器を突き出してきた。最低限体をひねって避けながらも手にした槍で突き、剣を構えた鈴と共に刺さったゴーレムごと武器を振り回してなぎ倒していく。

 

「ちーとがどういった意味かはわからんが、やはり取り巻きどもを先に潰すべきだろうな! うっとうしくて敵わん!」

 

「ですね、フリードさん!」

 

 別のブロックに移ったハジメ達も持っていた黒の剣で袈裟懸けにゴーレムを叩き切っている。とりあえず向こうの方はまだ大丈夫かと思いつつも、恵里は無数の黒い球体を頭上に浮かべるミレディ・ゴーレムへと視線を向ける。

 

「言っておくけど、ここだと私だって全力を出せる訳じゃないからねぇ~。ま、大迷宮を普段運用するのに必要な魔力の大半をここに回してる分、本来のスタイルに近い状態で()()戦えはしてるけどさ」

 

「ったく、冗談じゃないよこのインチキ!」

 

 中級程度の魔法しか発動出来ないこの空間でどうして神代魔法を連発出来ているのかのカラクリも判明したが、それ故にとんだズルをしてくれてる相手に悪態を吐くのがせいぜいだった。そうこう言っている内にまた重力魔法がこちらへと飛来し、鈴と一緒に手を取りながら恵里は別のブロックへとまた跳んでいく。

 

「でも、これである程度ゴーレムの方は片付いたはずだよ!」

 

「そこのちっこいスズちゃんの言う通りだね。ま、それで勝てるとでも――」

 

 とはいえ鈴が言った通り浮かんでいたり一度に襲い掛かってくるゴーレムの数は大分減っている。けれども重力魔法を次々と展開していくミレディへと近づくには、今いるブロックの位置はまだ遠かった。

 

 そうなるように誘導されていることに舌打ちしていた恵里だったが、ふと視界の横を二つの影がよぎった。

 

「勝つに決まってるだろうがボケぇー!」

 

「んっ! 私達は、負けないっ!」

 

 大介とアレーティアである。しかも珍しいことにアレーティアは彼の背中から降りて一緒に並走しており、共に漆黒の剣を構えながらミレディへと突撃していた。

 

「おっとぉ! いやー、残念だったね」

 

 切りかからんと跳躍する二人だったが、横へと()()()ミレディによって紙一重で相手にかわされてしまう。このままじゃ二人が落ちると焦ったその時、何かが爆発する音が恵里の耳に入った。

 

「――っ! 助かった、浩介っ!」

 

「ぁぐっ!――助かり、ましたっ。遠藤さんっ」

 

「無茶苦茶やるんじゃねぇよ大介! アレーティアさんも! ノーダメって訳にはいかないんだぞ!」

 

 その叫びから浩介が助けたのだと、それも分身の自爆で吹っ飛ばしたのだということも恵里はすぐにわかった。本当に乱暴だよと心の中で思い、すぐに助けに行かないとと思った恵里だがそれは目の前の光景のせいで不可能だと悟ってしまう。

 

「無数に分身作れるのはズルじゃないかなぁ~。ま、私が言えた義理じゃないんだけどね――“壊劫”」

 

 彼とその分身に向かって三つ、四つと重力球が飛び交っているからだ。発動してから五秒そこらで消えるのはわかっているが、それでも何体もの分身を間近で自爆させて吹き飛ばさなければ浩介でも避けられないといった有り様である。

 

「これぐらいしなければ卑劣な貴様に一杯食わせることも出来んだろうからな! 深淵の恐ろしさをとくと味わえ!」

 

 下手に助けに入れば逆に自分が死ぬのは嫌でもわかったし、きっと雫や鷲三達も同じだろうと恵里は歯噛みする他無い。既に装束がボロボロで軽く血が飛び散っていたものの、まだあっちが動けるだけマシかとミレディへの怒りを無理矢理呑み下す。

 

「少しずつ近づいていこう、恵里!」

 

「そう、だねっ! 浩介君が倒れる前に!」

 

 また目の前に現れたゴーレム騎士に、穂先にまだ刺さったままのゴーレムをぶつけて一緒に吹き飛ばし、先に進んでた鈴の手を掴んで共に前へと跳んでいく。

 

「やれやれ。数が多いとちょっと厄介だねぇ!」

 

「しまっ――」

 

 その言葉と共にミレディ・ゴーレムは右手で近くのブロックに裏拳を見舞った。すさまじい勢いでこちらへと飛んできたことから、重力魔法も併用したであろうことに恵里は一瞬で気付く。だが一秒もあれば自分達にぶつかる巨大な金属塊をどうにかする方法なんて考え付きやしなかった。

 

「――“限界突破”っ! “縛羅”っ!!」

 

「鈴っ!」

 

 だからこそ鈴の咄嗟の判断に驚いた。この大迷宮じゃ“限界突破”なんて一瞬で効果が消えてしまうが、その一瞬だけでも壁の硬さを底上げをしようとしたのだろう。その試みは見事に功を奏した。

 

「鈴、絶対離さないでっ!」

 

「うんっ!」

 

 空間を固定して作った最硬の壁に阻まれ、ブロックの速度が目に見えて落ちる。すぐに恵里は鈴の体を抱き寄せ、“豪脚”も併用して足場を思いっきり蹴って飛び上がった。ズキリと来る足の痛みを堪えつつ、“限界突破”の反動に苛まれてる鈴の手を取りながらミレディ・ゴーレムに向かって走る。

 

「まったく、対応が追い付かないってば!」

 

「そのままくたばれぇー!!」

 

 軽く泣き言を言っているミレディ・ゴーレムの周囲にはもう仲間たちが集結しかかっていた。雫、浩介、鷲三、霧乃の四人以外は既に肉薄しており、最初に切りかかったのは良樹であった。

 

「っ! いける! コイツなら余裕で切れるぞ!」

 

「だったら私もぉー!!」

 

 逆手に持った短剣の一撃は硬そうな装甲を容易に切り裂いた。これならば全員で攻撃すればやれる。シアの攻撃で更に傷口が深くなったミレディ・ゴーレムを見て恵里は口元を吊り上げた。

 

「鈴っ!」

 

「うん! 行こう!」

 

 皆でかかればやれる。声をかければ鈴もやる気に満ちた声で返してくれた。それと同時に巨大なトゲ付鉄球が迫り、間近に迫る殺意から目をそらさずに恵里は叫ぶ。

 

「“限界突破”っ! “瞬光”っ!!」

 

 迂回どころか近くにブロックは無い。ならば、と口元を吊り上げながら恵里は二つの技能を使う。()()()()()()()()。このまま短期決戦を決めるんだと即決し、“限界突破”で肉体面でなく知覚能力の拡大を狙った恵里は鈴の手を引いて飛び上がった。

 

(やれる。ボクなら、あの極限の戦いを皆と切り抜けてきたボクだったら出来る!)

 

 ひどく緩慢に動く灰色の世界を捉えながら恵里はモーニングスターの上を走り、飛び跳ねる。いくらトゲだらけといっても全ての面に生えている訳ではないし、危険なのはせいぜい先端だけでしかない。

 

 鈴に当たらないよう極限まで強化した知覚をフルに動かし、目と鼻から血を垂れ流しながら安全な場所に足を置き、時にはトゲの側面を蹴って進む。そうすれば根元の鎖にたどり着くのにそう時間はかからなかった。

 

「おっ死ねクソアマぁー!!」

 

「私は、大介に寄りかかるだけの女じゃないっ!!」

 

「手足に腹、何度もブチ抜かれながらヒュドラ倒した俺らをナメるなぁー!!」

 

 音も光も全てがねばつくようにゆっくりと動く世界を恵里はひたすら駆け抜ける。彼女の目は大介、アレーティア、幸利と次々と仲間達が取り囲んで攻撃を重ねていく様もしっかりと映った。その傷から持っている武器と同じ光沢を放つ装甲があることにも気づき、それと今自分が持ってる武器が何で出来ているかに恵里と鈴は気づく。

 

「アザンチウムっ! だったら!」

 

「この武器でも、やれるよねっ!」

 

 なるほど。どちらも世界一硬い金属で出来ているというのならゴーレム騎士の武器じゃ破壊出来ない。浮かべた予想が当たっていたことに気付きながらも恵里は鈴の手を放した。その時強化された“瞬光”も切れてしまったが、後一歩のところまで迫ったから問題ないと恵里はそのまま足元の鎖を思いっきり蹴る。

 

「「いっけー!!」」

 

 そして鈴と一緒にアザンチウム製の刃をその装甲に突き立て、手持ちの武器が軋む音を聞きながらもダメージを与えることに成功する。

 

「「よしっ!」」

 

「“壊劫” “壊劫” “壊劫” “壊劫”――調子に、乗るなぁー!!」

 

 傷を入れると同時にゴーレムから離れると、ミレディは叫びと共に重力魔法を連続で発動する。流石にこの至近距離だと避けられない。このままじゃ仲良くお陀仏になる。すると鈴がある魔法を発動する。

 

「“界穿”っ!」

 

 重力球が近づくのに合わせて空間を歪め、別のところへと追いやろうとした……が、展開した一メートルにも満たないゲートをスルリと三つ全ての重力球が避け、勢いを殺さぬままこちらを追いかけてくる。

 

「「嘘っ!?」」

 

「そんな小細工じゃあ私の重力魔法は避けられないよっ!」

 

 まだ全てを押しつぶす黒い球体が消えるまで二秒ある。しかもその間に自分達に容易に追いついてしまうのは目に見えていた。下手に自分が“縛羅”を展開しても数十センチ大程度の盾を展開できるかどうかで、迂回されたらそれで終わりだ。考えが浮かぶだけで何もしないまま、もう目の前にまで『死』そのものが迫ってきていた。

 

「“震天”っ!!」

 

 頭の中が真っ白になった直後、鈴がごめんとつぶやいたのを恵里は聞いた。そして彼女が自分の胴に抱きつくと同時に空間魔法を発動する。自分達を狙ってくる重力球に当てる気かと思ったが、その予想は()()()()()()と一気に視界から黒球から遠ざかっていく様に裏切られた。

 

「ぐぅっ!?」

 

「ぇ――鈴っ!?」

 

 音のする方に目を向ければ、鈴のひざから下が砕けて無くなっていた――その瞬間、恵里は気づく。鈴は自分の足の辺りを起点に“震天”を放ったのだと。いくら自分達が助かるためとはいえ、狂気としか言えない鈴の行動に恵里は思わず戦慄する。

 

「ぁぐっ!?……鈴、何やって――!」

 

「こうでもしなきゃ、助からなかった!……それに、治癒魔法のルーツが、あるでしょっ!」

 

 ブロックに背中をしたたかに打って痛みにもだえながらも泣き叫ぶ恵里であったが、鈴の必死な顔を見て何も言えなくなってしまう。実際鈴の言う通りだったからだ。

 

 こうして鈴が咄嗟にこんなことをしなかったらきっと二人で仲良くミンチになってしまっただろうことは簡単に想像がついた。そして鈴の言葉でどうして平気でそこまでの無茶がやれたかも理解した。この状態をどうにか出来る方法をまだ手にしてはいないが自分達は知っている。だからそれに賭けたのだということをだ。

 

「仲良く死んだと思ったら……そういう無茶は私も好きじゃないんだけどなぁ!!」

 

「お前が、言うなぁー!!」

 

 鈴をすぐに抱えて逃げようとした時、ミレディの叫びが轟く。それと共に更に重力魔法を発動し、その一つがこちらへと向かってきた時、ハジメの怒号と共にゴーレム騎士のスクラップがカッ飛んできた。

 

「「ハジメくんっ!」」

 

「殺す気で……いくら試練だからって、恵里と鈴を殺そうとして言う言葉がそれなのか! ミレディ・ライセンっ!!」

 

 例の重力球はゴーレムを吞み込んだおかげかこちらに来る前に消えてしまった。声のする方を見れば、両手をひざに当てて軽く肩で息をしていたハジメがいる。きっと倒したゴーレム騎士をそのまま投げ飛ばしたのだろう。だがこれまで見たことが無い憎しみと怒りに染まった彼の顔を見て、恵里は思わず鈴を強く抱きしめた。

 

「再生魔法があるからなんて甘え、それをエヒトが許すかって言ってるんだよっ!!」

 

 だがミレディは彼の咆哮に更なる重力球で返そうとしてきた。その瞬間、三つの影が巨大ゴーレムへと向かっていく。

 

「「「許す許さないじゃないっ!! 鈴は必死だっただけよっ!!」」」

 

 雫だった。鷲三と霧乃を助けた後、エヒトに対して憎悪を向けた時とほぼ同じ表情を浮かべながら、二つの分身と共にミレディへと切りかかる。

 

「それが何だっていうんだ! あのクソ野郎が頑張りを斟酌してくれるって!」

 

「あれしか鈴はきっと出来なかった! いくら私達が覚悟してなかったって、武器も道具も取り上げて、気に食わなかったら怒って! あんたとエヒト、何が違うの!!」

 

「あんな奴と私を、一緒にするなぁー!!」

 

 説教するミレディに雫は怒りを吐き出しながら幾度も斬撃を見舞い、分身と共に退避しようとする。だが怒り狂ったミレディが既に展開していた重力球三つを直接雫にぶつけようとしてきた。

 

「――ぐっ! “震天”っ!!」

 

 雫は分身二つを自爆させるも重力の渦から逃れられずに体が引っ張られていた。そこで左腕を突き出すとすぐに“震天”を発動し、ひじから先を爆散させながら自分の体を吹き飛ばす。

 

「それだけで逃げられると思うな!!」

 

「“震天”っ!!」

 

 だがそれでも黒の球体はまだ二つ追ってきており、雫は右手を突き出すと共に再度“震天”を詠唱。先程犠牲にした左腕と同様に爆発し、更に展開した分身を自爆させる。全身をボロボロにしながらも雫は恵里と鈴のいるブロックへと飛び込んできたのであった。

 

「雫っ!! どうして……どうしてこんな無茶するの!」

 

「無茶しなきゃ、死んでたわ……でも、まだ足が……」

 

 あまりに滅茶苦茶なことをした雫を見て、涙を流しながら恵里はとがめる。だが雫は血がダラダラと流れている両ひじを支えにし、歯を食いしばりながら体を起こして弁解してきた。本当に無茶しかしないと思いながらも恵里は右腕でごしごしと涙をぬぐう。

 

「だったらぁー!!」

 

 だがミレディの方は自分達が感傷に浸るのを許しはしなかった。叫びと共に空間全体が鳴動すれば、低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちてくる。もしやと思って見上げれば、天井そのものが落下しようとしていることに気付いて恵里は一気に顔を青ざめさせた。

 

「騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に“落とす”だけなら数百単位でいけるからねぇ!! 勝ちたいんだったら凌いで見せなよ!!」

 

 その言葉と共に一気に天井から無数のブロックが降り注いできた。一つ一つのブロックが軽く十トン以上ありそうな巨石である。そんなものが豪雨の如く降ってくる様を見てすぐに恵里は周囲を見渡す。

 

「究極の深淵に至った我に任せよ!!」

 

 このままでは潰される、と思ったその時、上空へと飛び上がった浩介が叫んだ。彼自身の体、そして既に展開していた二体の分身から無数に分身が現れ続け、そして間断なく響く爆音から無限に増殖する分身を使ってブロックを爆破し続けていることを恵里は察する。

 

「皆! 浩介の負担を増やすな! 負傷した雫と鈴がいるブロックへ!!」

 

 そして光輝の怒号混じりの号令を聞き、ハジメ達全員が一気に恵里達のいるブロックへと移ってきた。

 

「そんな……鈴さん、雫さん、アビスゲート様……」

 

「鈴ちゃん! 雫ちゃん! 今回復するから!!」

 

「お願い! 二人が死んじゃう!」

 

「俺が雫を! 香織は鈴を頼む!――どうしてこんな、無茶しないでくれよ雫……」

 

 シアが呆然とした様子でいたことにも気づかぬまま、必死の形相でこちらへと来た香織と光輝に恵里は悲鳴同然の声を上げる。涙をボロボロと流しながら香織達に治療を任せた直後、ハジメが鈴の右手を両手で包んで泣きじゃくっていたことに気付く。

 

「鈴の馬鹿っ! ばかぁ!……こんなの、こんなこと……」

 

「ごめんね、ハジメくん……でも、神代魔法があるでしょ。それで治してもらう、から」

 

「だからって……うぅっ」

 

 ハジメの気持ちが痛いほどわかる。こんなことをされたって嬉しくなんてない。いくら方法があるからって手足を犠牲にしてでも助けようとされても辛くて苦しいだけでしかない。うっすらと笑みを浮かべる鈴を見てちょっとの怒りとそれを容易に塗りつぶすほどの悲しみに襲われながら、恵里はハジメの手にそっと自分の手を添える。

 

「本当だよ馬鹿……バカ鈴。いくら方法が無いからって、ボク達もそこまで割り切れないよ……っ」

 

「ごめん……でも、死にたくなかったから。ここで鈴と恵里が死んだらハジメくん達が悲しむ、って思って……」

 

 涙で視界がにじむ。鈴の言いたいことは理解できる。けれどもと思いつつも恵里はうつむいて涙を流す。だがそれを許さないのはミレディだけではなかった。

 

「浩介君! まだ分身は出せるか!」

 

「どうにか! 分身だけならいくらでも出せるけど……流石に破壊が追いつかなくなってきた!」

 

 鷲三と浩介の大声でのやり取りが聞こえ、危機を感じた頭が勝手に動く。見れば浩介が鷲三に体を抱えながら飛んでおり、その状況で二人と横にいた霧乃がひたすら分身を出して自爆させ続けていたのである。

 

「このままでは……翼を展開しますかお義父さん!」

 

 今自分達がいるブロックは既にすし詰め状態で足場もないし、降ってくるブロックから自分達を守るためにこうしているのだろうことは容易に察せられる。それに自爆した際に自分達にダメージがいかないようあえてああしているであろうこともだ。

 

「流石に今の魔力の量ではな……! 情けないが、分身を出すだけでも辛くなってきた……っ!」

 

 だがその彼らを以てしても落ちてくる天井の破壊は厳しくなってきたということを聞き、どうすればと恵里は迷う。こうなったら自分も霧乃に抱えてもらって、手足を犠牲にして“震天”を撃つべきかと血迷いかけた時、ふと隣にいた信治が持っていた槍が一瞬まばゆく光った。

 

「おいアンタら! 今“斬羅”をつけてみた! 無いよりマシなはずだ!」

 

「感謝するぞ我が魂の友よ!――霧乃さん!」

 

 そう言いながら槍を逆手に持つと、霧乃目掛けてアンダースローでそれを上に投げた。一度うなずいてから霧乃も漆黒の槍を受け取り、落ちてくるブロック目掛けてそれを振るう。

 

「これなら! 浩介君、お義父さん! もう少し辛抱してください!」

 

「無論!」

 

「当然じゃな! 若い子だけに苦しい目に遭わせなどせん!」

 

 本来の魔法の二割程度の範囲ぐらいしか切断出来ているようには見えない。だがそれでも十分やれると自身ありげに返事をした霧乃は存分に武器を振るい続けている。とりあえず圧殺される心配がなくなったことに恵里はほっとしていると、今度は鈴の絞り出すような声が聞こえた。

 

「もう、大丈夫だよね……恵里」

 

「鈴っ!……大丈夫? 大丈夫だよね?」

 

 ハジメと一緒に少し冷たくなった彼女の体を抱きしめ、まだ鈴が生きていることに恵里はハジメと一緒に安堵のため息を吐く。だが鈴は震える手を恵里の肩に置くと、必死な様子であることを頼み込んできた。

 

「お願い……恵里、ハジメくん。ミレディを倒す作戦、考えて……」

 

「作戦、って……そんなこと、考えてる場合じゃ――」

 

「そうだよ! そんなこと言われたって――」

 

「そんな場合だよ!」

 

 唐突もいいところの頼みに恵里はハジメと一緒に無理だと弱音をこぼしたが、鈴の叫びに思わずハッとする。

 

「このままじゃ、ミレディに勝てない、よ……だから、おねがい」

 

 確かに鈴の言うことはわかる。皆でミレディにある程度のダメージを与えはしたが、それでもまだ致命傷には程遠い感じであった。それにこちらは鈴と雫が手足を失っており、また自分達の持ってる魔力もそう多く残っている訳でもない。この大迷宮の強力な魔力の分解作用も考えれば無駄撃ちなんてもってのほかだ。

 

「で、でも……この状況で、どうやって……」

 

 にもかかわらずミレディは実質的に魔力が無限で、しかも時間を置いたらゴーレム騎士まで復活してくる。ジリ貧どころの騒ぎじゃない。敗北がほぼ確定しているこの状況をひっくり返すためには作戦が確実に必要だ。だが鈴のことで頭がいっぱいなせいで恵里の頭にはそんなことなどわずかにも浮かび上がってはいなかった。

 

「おねがい、恵里、ハジメ君……」

 

「「雫っ!」」

 

「雫ちゃん!」

 

「雫さん!」

 

 思わず弱音を吐いた時、雫まで痛みを堪えた様子で頼んできたのである。光輝に龍太郎、香織、シアが悲痛な声で彼女の名前を呼ぶが、雫はただじっと恵里を見ながら語り掛ける。

 

「ここで……まけたくないの。だって、私達、生きてかえるんでしょ! だから!」

 

「……わかったよ。雫」

 

 おそらく激痛を堪えてもいたからだろう、涙を流し、悔し気に表情を歪めながらも訴える雫を見てようやく恵里も覚悟を決めた。このまま皆で仲良く死ぬなんてごめんだ。なら作戦でも悪知恵でも何でも出すしかないと皆を見渡し、何かやれる方法は無いかと考える。

 

「何かあるか。恵里」

 

「正直持ってる武器で攻撃するか“震天”を使っての攻撃とかしか浮かばないよ。流石にすぐ思いつけって言ったって……」

 

「……だったら、これならどう?」

 

 今まで泣きじゃくっていた光輝も雫を見て心境が変化したのか、真剣な様子でこちらを見ている。だからといってすぐにやり方が浮かぶ訳ではない。どうしたらと思ったその時、ハジメがある作戦を提案してきた。だがそれだけでは足りないと直感した恵里はすぐに修正案を出した。

 

「これなら……全部が直撃はしないとしてもある程度ダメージは与えられるはず」

 

「……その、中村さん」

 

「中村、アレーティアの話も聞いてやってくれ」

 

「だな……それと皆、賭けに出てみねぇか」

 

 多少ブラッシュアップした程度ではあったが、多少は使えるはずだと考えを口にすれば、今度はアレーティアがおずおずと手を上げて自分を覗き込んだ。アレーティアの案ならと考えた恵里は大介からの頼みにすぐにうなずき、また皮肉げな笑みを浮かべた礼一の話にも耳を通した。

 

「――これなら、これなら多分勝てる。けど」

 

「いや、ここは礼一の言った通り賭けてみるしかねぇだろ。このままじゃジリ貧だしな」

 

 ハジメ、アレーティア、礼一の案をひとまとめにした作戦を改めて口にした恵里であったが、あまりに無茶苦茶が過ぎる内容であったためにうつむいて迷ってしまう。だがそこで幸利が背中を押した。やるしかないとそう言ったてきたのである。

 

「っと。我らにもその企みをご教授寝返るか。深謀遠慮の女王よ」

 

「すまぬ。少々遅くなったな。わしらにも何か手伝えるか」

 

「浩介君。それに鷲三さんに霧乃さんも……もうちょっといい方法が浮かんだからそれを話すよ」

 

 すると浩介達もひと区切り着いたのかこちらへと降りて来た。そこでほんの少しだけとはいえ皆で話し合った作戦を更に練ったものを恵里は口にしていく。

 

「全く……私と違って色々と無茶苦茶だ。お前達は」

 

「……だな。あのクソ女に一泡ふかせねぇと気が済まねぇ」

 

「そんなのヒュドラの時に水蒸気爆発やった時と変わんねぇよきっと……ま、無理強いはしねぇ」

 

 良樹、信治も幸利の言葉に乗った。フリードは呆れと感心半々につぶやいたぐらいで誰の反対も聞こえず、念のために顔を上げて皆の顔を見た恵里であったが、全員が覚悟が決まった様子でただうなずくだけであった。

 

「……やるしか、ないのか」

 

「他に方法があるはず! 無理なら私達が時間を稼ぎます! この命を賭けてでも――」

 

「もうジリ貧なんです!」

 

「霧乃さんが命を粗末にしても雫が悲しむだけだってわかってよ!……皆、やろう」

 

 迷う鷲三と説得しようとしてきた霧乃をハジメと一緒に黙らせると、恵里は静かに決行を促す言葉をつぶやく。合流してからずっとうつむいていたシア以外が静かにうなずき、今すぐにでも動こうと恵里が立ち上がったその時であった。周囲を埋め尽くしていたブロックが浮かび上がったのである。

 

「さ~て、死んでる? ま、君達のことだからどうせ作戦の一つでも練ってると思ってたんだけどねぇ~」

 

 重力を操作しているのだからと声のする方を見やれば、やはりミレディの仕業かと恵里は確信する。既に何体ものゴーレム騎士がミレディ・ゴーレムの周囲に浮かんでおり、数からして全部修復を終えていた様子であった。

 

 先手を取れなかったことに思わず舌打ちするがもう勝つしかないと改めて覚悟を決めた恵里は雄叫びを上げる。

 

「皆、やるよ! 浩介君、鷲三さん、()()を!」

 

「――わかった!」

 

「承知!――皆の者、我を使え!!」

 

 おー!! と全員が声を上げるとまず浩介が無数の分身を一気に展開し、その後鷲三が彼を抱えて前方へと飛び立った。

 

「俺達が絶対隙を作る!」

 

「直接行かない分しっかり援護するわ! 行って!!」

 

「頼むぞ幸利、皆!!――ここで決めるんだ! 俺達の勝利を! “瞬光”っ!!」

 

 そしてある九人を残して全員が飛び出すと、浩介の分身の肩や背中に足を置く。そして光輝の号令に従い、使える全員が“瞬光”を発動して不安定な()()を無理矢理進んでいく。

 

「この程度の曲芸でっ!!――“壊劫”っ!!」

 

 無論ゴーレム騎士も、重力魔法もこちらに目掛けてやってくるが関係ない。それぐらい既に想定済みだ。

 

「クソッ!――“震天”っ!!」

 

 近くを走っていた良樹の叫びが聞こえた。おそらく例の球体に押しつぶされそうになったのだろう。こうして手足を犠牲にするのも計算の内だった。ミレディに迫るまで最悪両足さえ残っていれば、()()見舞った後は死にさえしななきゃなんだっていいのだと考えながらただ前へと進む。

 

「邪魔だぁあぁぁぁあーーーーーー!!!」

 

 当然ゴーレム騎士も重力魔法も近づいてきている。赤く染まった視界に飛び込んできたゴーレム騎士を足蹴にし、時には切り捨て、迫って来た重力球は浩介の分身が自爆することによって前へ前へと血だるまになりながら恵里が、皆が進んでいく。

 

「命を粗末にする程度で、私に勝てると思うなぁーーーーーーーー!!!」

 

 今度は怒りに染まったミレディがモーニングスターを射出してきた――重力魔法は全てこちらへと向けられており、また自身の武器を振るってきた相手を見て恵里は亀裂のような笑みを浮かべる。

 

「“界穿”っ!!」

 

「なぁっ!?――どわあぁぁああ!?」

 

 程なくしてミレディ・ゴーレムの上から武器が降り注ぐ。そしてそれはゴーレム本体や腕の関節だけでなく、鎖にも突き刺さり、ほぼ同時に爆発してゴーレムを破壊していく。計算通り。否、()()()()の成果を叩き出してくれた幸利達に心の中で感謝を述べる。

 

「「“辻波”っ!!」」

 

 そして手はず通り残ったメンバーが次の一手を打ったのを恵里は確認する。開いていたゲートから奈々とアレーティアが水が降り注がせてくれた。後は残った面々がどれだけゲートを維持できるかにかかっている。

 

「水っ!? でも水浸しにしたぐらいで――」

 

「「凍って! “凍柩”!!」」

 

 ゲート越しに聞こえた詠唱を聞いて恵里は更に勝利に近づいたと確信する。全身を濡らしたミレディ・ゴーレムはこの一撃で完全に凍り付いた。どれだけ時間を稼げるかは不明だがこれで両腕による攻撃だけは完全に封じたからだ。

 

「なっ!? 何で上級魔法が!?」

 

「最早奴の手札は木偶人形と星の力のみ!! 総員、突撃ぃーーー!!」

 

 全て計算通り。後は近づいて倒すだけ、と恵里は皆と共に一気に距離を詰めていく。

 

 ――作戦はこうだ。ブロックの上に鈴、雫、幸利、奈々、優花、アレーティア、霧乃、フリードそして追加でシアの九人が残り、無茶な方法で近づいていく自分達にミレディの意識を少しでも持っていかせる。“遠見”の技能を持つ数人でミレディの動向を見守ってもらい、その間幸利にある『仕込み』をしてもらう。

 

「この、小癪なぁー!!」

 

 ブロックの上に置いていったアザンチウム製の武器数本に加え、浩介の分身が拾ってきた――降り注いだ天井のブロックを破壊した際のものもだ――ものにも“震天”を付与してもらう。そして相手が隙を見せると同時に“界穿”を発動してそれらをミレディに当ててもらうのが最初の一手だった。

 

 あの時は何本か誘導に使ってでも当ててほしいと頼んだのだが、全部見事に当ててくれたのは優花と霧乃の腕前だろうと恵里は考える。

 

「“壊劫” “壊劫” “壊劫” “壊劫” “壊劫”――これでぇ!!」

 

 次の一手は相手を凍結させ、少しでもこちらに迫る時間を稼いでもらうことだった。そのため水及び氷魔法のエキスパートである奈々と魔法の天才であるアレーティアに残ってもらったのである。その企みも怖いくらい上手くいき、目測三メートルまで迫ってもミレディ・ゴーレム本体は迎撃には動いていない。

 

「このまま一気に――」

 

「この至近距離で避けられるとでも――」

 

 重力魔法に関しては浩介の自爆、それが無理なら手足を犠牲にして“震天”を使って避けるしかない。あちらだって流石に自分を魔法に巻き込むことはしないはずだと考え、恵里達はただ前へ前へと進む。

 

「くたばれですぅーーーーーー!!」

 

『えぇっ!?』

 

 更に自分の予想を、それもいい意味で裏切ってくれた存在が現れた。ほぼミレディ・ゴーレムの真下、新たに現れたゲートから()を構えたシアが突っ込んで来たのである。

 

「でりゃぁあぁあーーー!!」

 

「しまっ――どわぁあぁあ!?」

 

 重力魔法はやはり自分達だけに向けられたまま、体はまだ凍り付いてノーガードの状態でシアの一撃をモロに食らってミレディ・ゴーレムは体を縦に大きく切り裂かれた。おそらく信治が霧乃に渡したあの槍なのだろうと恵里は察する。

 

「あ、危なっ!! あと少しでコアを壊され――」

 

「もう一丁ですぅーー!!」

 

「ぐっ――“壊劫”っ!!」

 

 アザンチウムで出来た装甲は大きく抉れ、焦りが見えるミレディに対してシアは獰猛な笑みを浮かべて見下ろしている。槍を上段に構えたシアであったが、次の一撃を見舞うよりも先にミレディが手を打った。

 

「くっ――“震天”っ!! “しんてん”っ!! ぐぎぃっ!!」

 

 シアが左足を突き出した次の瞬間にはやはり爆発した。だが左足を犠牲にしてもなお重力魔法は追いすがり、左腕も爆ぜさせてシアは死神から逃げ切った。

 

「後は任せろシア!! お前の根性、見せてもらったぞ!!」

 

「へへ……あと、おねがいしますぅ……」

 

 良樹の激励と一緒に恵里は心の中でシアを褒める。あのピーピー泣いてたのがよくやった、とブロックの上で倒れている彼女を一瞥すると恵里は皆と一緒にミレディへと迫る。

 

「いくよ皆ぁー!!」

 

『うぉおぉおぉぉー!!』

 

 もう一メートルにも満たない距離へと迫った恵里は改めて号令を上げ、ハジメ達も絶叫しながら突き進む。

 

「コレ直すの時間かかるんだけどなぁ――“絶禍”ぁ!!」

 

 ミレディも多少のダメージを覚悟したのか、この至近距離であってもためらうことなく重力魔法を発動させてきた。それもこれまで生み出したものよりふた周り以上大きい代物をだ。

 

「ハジメと恵里は切り札だ! 二人だけは何としても守れぇー!!」

 

「あの禍星は我の影に任せよ!!」

 

 それを確認した恵里達だったが慌てなどしなかった。奥の手を残してたのは計算の内であったし、次の一手から大きく逸脱はしてなかったからだ――それは光輝達によるアザンチウム製の武器による攻撃、そして“震天”を使って自爆するという無茶苦茶な方法であった。

 

『我が必ず食い止めるっ!! “震天”っ!!』

 

「頼む浩介! 少しでいいから時間稼いでくれ!!」

 

「ここまで来たら私だって後には引けないんでね――“壊劫” “壊劫” “壊劫” “壊劫” “壊劫”!!」

 

 浩介の分身のほとんどが巨大な黒の星へと突撃し、“震天”を発動して自爆し続けることでその動きを食い止めていた。だが更になりふり構わなくなったミレディは武器を構えた恵里達に向けて幾つもの重力球を差し向けていく。

 

「縛羅だと避けられるよ! 目の前で見たから!」

 

 叶うことならばアザンチウム製の武器でミレディ・ゴーレムの胸の装甲を破壊したいところだが、追い詰められた向こうが自爆覚悟で重力魔法を使ってくる可能性も浮かんでいた。故にこんな狂気じみた攻撃も恵里は選択肢として挙げていたが、親友達は、悪友達は話し合いの時にそれを受け入れてくれたのである。

 

「だったら逃げ回るついでに攻撃だ! “震天”っ!!」

 

「絶対に勝つぞ!! “震天”っ!!」

 

「痛くて辛いのは何度も経験したから! “震天”!!」

 

 光輝が、龍太郎が、香織が、皆が武器での攻撃を仕掛けていけば徐々にあちらの装甲も削られていく。そしてある程度攻撃をした後、重力魔法から逃れるために段階を踏んで手足を二つずつ爆ぜさせている。見るだけで痛ましくて胸が苦しくなるが、その甲斐もあってアザンチウム製の装甲から核と思しきものが見えた。

 

「最後は僕が――」

 

「やらせないっ!! “絶禍”ぁー!!」

 

 最後の一手である『ハジメの“錬成”または“崩陸”による破壊もしくは恵里の魂魄魔法による内部破壊』にまで二人は迫っていた。だがまだあきらめてなかったミレディが更に巨大な重力球を発生させてこちらへと放ってきた。

 

「なっ!? すまん! 俺じゃぁ――」

 

「ハジメ君、恵里さん!」

 

 浩介と鷲三の悲鳴が聞こえる。光輝達は浩介や鷲三の分身が安全な場所へと連れていくためにほとんどいない。防ぐ手段は一切ない。だが恵里はハジメと見つめ合い、共にうなずく。それだけでお互い全てがわかった。

 

「まずは僕から――“限界突破”!! “震天”っ!! “ほうりく”っ!!」

 

「ぐっ――このぉおおおぉぉ!!」

 

 まずはハジメがミレディに接触すると同時に“限界突破”を使い、次に足を爆破した。ミレディ・ゴーレムごと爆破の衝撃で動かすことで、ほんのわずかでも重力魔法から距離を取ったのだ。そして即座に両手でコアに触れると生成魔法の真髄を叩き込んでいった。

 

 装甲の亀裂を更に広げ、核そのものも削れていく様子が恵里にも見えた。だがそれでもミレディの動きは止まらず、重力魔法も徐々に近づいてきていた。

 

「後は頼んだよ恵里!!――“震天”っ!!」

 

 ハジメは左手をついたまま、“震天”を発動する。ゴーレムの核に亀裂が入ったのと彼が下へと落ちるのを見てから恵里はミレディへと向かう。

 

「これで終われ――“操魔”っ!!」

 

 そして恵里もハジメがやってくれたであろう取手状に変形した装甲に左手を伸ばし、右手で核に触れる。使うのはかつてシアに使ったオリジナルの魂魄魔法――触れた相手の魔力を操作する魔法で核に入った亀裂を通じ、ゴーレムの中にある魔力へと干渉してそれを思いっきり暴走させる。

 

「ぐっ――がぁぁぁああぁ!!」

 

 途端に亀裂から一気に光があふれ、暴走した魔力が恵里の手を破壊していく。皮膚が裂け、ただれ、指も骨も砕ける感覚に襲われながらも恵里は止めない。皆が捨て身でここまで持ってきてくれたのだからとひたすらあがく。

 

「よく頑張ったと思うよ本当に。でももう間に合わない! 重力に呑まれるよ!」

 

 だがミレディは止まらない。魔力の暴走のせいで超巨大ゴーレム自体は動かなくなったようだったが、大きな重力球は依然として恵里に迫っている。体が強く引っ張られ、一秒も取っ手を握ってはいられないことを察した恵里は博打を打つ。

 

「だったら! “限界突破”ぁー!!」

 

 この大迷宮では魔力が分解されるせいで、身体能力を跳ね上げる効果を発揮するのはほんの一瞬しかない。だがその一瞬に恵里は自身の運命を賭けた。

 

「う、うわぁあぁあ!?」

 

「いっけぇえぇぇ!ーーーー!!」

 

 ほんの刹那の間だけとはいえ、発動した“操魔”も強化された。それによってミレディ・ゴーレムの中の魔力は更なる暴走を引き起こし、亀裂が一気に広がって砕け散ると同時に洪水の如くあふれた魔力が恵里の右手を焼き尽くす。

 

「っ!!」

 

『恵里っ!!』

 

 遂にミレディ・ゴーレムの目から光が失われ、その巨体も身じろぎ一つしなくなる。だがその代償は大きかった。二度の“限界突破”の使用のせいで取っ手を握った手に力は入らなくなり、まだ強烈な重力を発していた禍星に引っ張られて恵里の体は宙へと浮いてしまう。

 

「“震天”っ!!」

 

 近かったが故に先に動かなくなったミレディ・ゴーレムが吞み込まれていく中、このままだと一緒に潰れると瞬時に判断した恵里は鈴達の真似をする。脱力し、使い物にならなくなった右手の方で“震天”を発動して脱出しようとしていたのである。

 

(っ!! まだなの!?)

 

 威力が減衰しないよう右手の中で発動すれば、幾つもの肉片と不快な音をまき散らしつつも重力の渦に一瞬だけ抗った。しかしそれだけで依然として体は黒く渦巻く球体へと向かっている。

 

(あっ、死ぬ――)

 

 目の前の黒い星は揺らめきながらも形を保っており、巨大なミレディ・ゴーレムの残骸はメキメキと音を立てて小さな塊へと圧縮されていく。その様を見て恵里は明確に死を意識した。自分もまたああなる運命だと――だがオルクス大迷宮であの時誓った、礼一が思い出させてくれた言葉が彼女を突き動かす!

 

「まだ、だぁーーーっ!! “しんてん”っ!!!」

 

 生きる。家へと帰る。ハジメと一緒にいる。鈴と共にいる。ただそのためだけに恵里は再度“震天”を発動する。残った右腕を犠牲にしても、他の手足も犠牲にしてでもと覚悟の一撃を放った瞬間に彼女の体から紅の魔力が噴き上がる――この時恵里は()()()()()

 

「ぐあぁあぁぁああぁ!!」

 

 ひじまで残っていた右腕は完全に吹き飛び、その余波は恵里の右半身を軽く抉る。右目が潰れ、右ほほや胸からも鮮血がほとばしる。だがその力は紛れもなく彼女を救った。黒い球体が消えたのである。

 

(ぁ……終わった……勝ったよハジメくん、すず)

 

 それを確認すると共に恵里の意識は一気に闇へと落ちていく。“震天”のダメージに何度も限界を超えた代償は決して軽くなかった。自分に手を伸ばす親友とその師匠の姿を見て、ハジメくんが良かったなぁと場違いなことを思いながら彼女は意識を失うのであった……。




いやー長かった! やっと終わりました。あ、最悪BANされたら察して下さい。実際“震天”は空間を吹き飛ばすほどの威力ですし、減衰しててもこれぐらいはあると仮定して今回の話を書きました。そうでなかったらありふれ最硬の金属にダメージ入れられそうにないですし(本日の言い訳その2)

まぁ今回も荒れに荒れるだろうなーとは覚悟しております。はい。

では次回、幕間をはさんでこの章も終わりとなります。


2024/4/26 ちょっと修正しました。
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