……こほん。それでは拙作を読んでくださる皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも207846、しおりも455件、感想数も728件(2024/5/16 09:29現在)となりました。誠にありがとうございます。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり感謝いたします。月並みな言葉となってしまいましたが、おかげさまで筆を進める力をいただきました。ありがとうございます。
今回の話を読むにあたっての注意点として少し長め(約11000字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。
「無くなった手足、どうにかしないとね」
「ボクよりもハジメくんの方が心配だよ。無事なの右腕だけなんだし」
「そっちは幸利君に頑張ってもらおうよ。ハジメくんはお休み」
恵里が手足のほとんどを失ったハジメを後ろから抱きかかえ、鈴は二人の対面で足を投げ出したまま――といってもひざから下は無くなっているが――話をしている。時折周囲に視線を向けつつも普段通りのやり取りをしている恵里達を見て心配はなさそうだとフリードは軽く息を吐いた。
(あの浮かれたウサギも良樹がようやく落ち着かせた。これで
今はゴーレム騎士が一体も浮いていない様子だがいつミレディが仕掛けてきても対応出来るよう、フリードも片膝を立てた状態で腰を下ろしている。恵里達や良樹達も喜び合いつつも警戒は続けている様子であり、特にこれといった問題はなさそうだと判断したフリードは改めて雫達の方へと視線を向ける。
「光輝……私、わたし……」
「うん……よく頑張ったよ雫。俺こそ、ごめん」
「大介、だいすけぇ……」
「ったく、泣くなっつーの……」
雫とアレーティアだけは恋人に抱き着きながら今もべそをかいている。光輝は残った右手でそっと雫の頭をなでており、大介もただアレーティアにされるがままとなっていた。
「……貴様ら、いつまでそうしているつもりだ」
戦闘中のミレディの揺さぶりにアッサリ引っかかったことを懸念していない訳ではないが、それよりもフリードは雫と光輝を見つめる二人の方が気がかりとなった。鷲三と霧乃である。
「……わしなんぞがどう声をかけたものかと思ってな」
「あの子がああなってしまった原因は私達ですから……怖いんです。雫に拒絶されてしまうのが」
迷いを見せながら自分の問いに答えた二人の心情は理解できる。しかしエヒトの洗脳を解いた後に雫は二人を家族として接しようとし、二人もそうしようとしてた記憶がフリードの脳裏に浮かぶ。そう簡単に乗り越えられるものではないことはわかっているとはいえ、面倒なものだと心の中でため息を吐いた。
「迷うのは無理もない。だが貴様ら、あの言葉で迷う程度なら戦いを止めろ。無様に死ぬぞ」
そうしてフリードは鷲三らを軽く突き放した。わずかに気遣いを含んだ程度の本音を言えば、二人はすぐに視線をそらして床を見つめる。やはり考えるかと思いつつも、雫達の方に視線を向ければ互いに顔を合わせて話し合っている様子だった。
「フリード、さん?」
「今鷲三さん達に戦いを止めろって……」
「んー、だとしたらわかんなくもねぇけどよ」
「迷う程度なら大迷宮の攻略は諦めるのだな、無論、雫、アレーティア、光輝。貴様らもだ」
流石に気づいたかと一瞥すると、今度はあえて彼等だけでなく全員に聞こえるようにフリードは『迷う程度ならここで大迷宮攻略はやめろ』と声を出す。再度光輝達の方に視線を向ければ、光輝達だけでなくハジメや幸利らもうつむくなり何かを言おうとしてこちらをじっと見つめている。
「おい待ったフリードさん。アンタ、流石にそれは――」
「せいぜい追い詰められて死なないために必死になった程度ではな。鷲三、霧乃、そして雫にアレーティア。ごっこ遊び気分で来るのならば王宮で大人しくしていろ」
『なっ……!』
ひとつ発破でもかけねばなるまいと内心嘆息しながらフリードは言葉を紡げば、場の雰囲気が一気に急転する。するとすぐに怒声が彼の耳に届いた。
「おいフリード、アレーティアの覚悟ナメてんのかクソが!!」
「雫や鷲三さん達のことを悪く言うな!! 皆必死に――」
「! そ、その……わ、私は……」
「ぁ、あう……」
「それを見て相手が手加減するかとミレディが言ったのを忘れたか!」
雫とアレーティアだけはうろたえていた様子だったが、他の皆は鷲三と霧乃も含めて怒りをあらわにしている。反応した相手も含めて全てが予想通りなことに何とも言えない気持ちになったフリードだったが、それをこらえて喝を入れれば一部を除いて一気に黙り込んでしまう。
「んなもん聞いてんだよ! 人のことごっこ遊びだなんだ言いやがって!」
「ふざけた覚悟で俺らは来てねぇ! ナメんなクソ野郎が!」
「いきなり何抜かしてんだ! 言葉ぐらいちょっとは選びやがれ!」
「そうやって反発出来てる貴様らは私を好きに言うがいい――だが黙り込んでいるお前達はどうした。何故私の言葉に反論しない」
礼一や良樹、幸利はすぐにフリードに向かって反発して彼もそれをよしとしたものの、目をそらしていたり自分の言葉にうなずいていたりする面々に向けて問いかける。
「あれがミレディの策であったのなら貴様らはものの見事に釣られていたな……もしこれがエヒトであればどうなる。言え」
語気を強めながら言えば、一層光輝達はうろたえた様子を見せた。うつむき、口ごもり、反論出来ない彼らに軽い失望を抱きながらもフリードは更に彼らに訴えかける。
「あの場ですべきことだったのは奴の言葉に耳を貸すことではない。己の思いを貫くことだった。戦場はお前らの甘えなど許容などせんぞ!」
自分とウラノスを、そして連れていた灰竜の群れを倒し、そうして幾つもの神代魔法を手に入れた彼らの実力をフリードは見込んでいる。己の背を預けるに足る相手だと認めているがために彼は容赦なく辛辣な言葉をかければ、大介が舌打ちをしつつもそれに返事をした。
「チッ……頭に来るけどマジでフリードの野郎の言う通りだな。てか光輝達はいい子ちゃん過ぎるっつーんだよ」
「怒りをただ露わにするだけではいずれ足元をすくわれるぞ、大介……ともかく、何度となく死にかけながらもオルクス大迷宮を突破した貴様らは口先だけの甘ったれではないはずだ」
大介の言葉に『そうそう』と礼一や良樹など悪ガキどもがうなずき、アレーティアもまたコクリと首を縦に振っている。フリードは横目で大介を見て、軽く鼻を鳴らして忠告をした後に光輝達を諭した。
「あ? 何笑ってんだコラ。殴るぞ後で」
「だ、大介落ち着いて!……その、皆さんの思いが簡単に揺らぐものじゃないのは私がわかってます。だから、えっと」
大介に一度声をかけてからアレーティアが光輝の方を振り向きながら話す。途中からとはいえ同行していた彼女の言葉だったからか、オルクス大迷宮を攻略していた皆の表情がわずかに明るくなっていく。それを見たフリードは軽く笑みを浮かべると、うつむいている鷲三と霧乃に言葉をかける。
「ならば貴様らはどうなのだ? 洗脳を解かれたあの時、ただ己の行いを悔いただけか」
「……違う」
「いいえ。そんなことはありません」
「そうだとしたらどういうことだ。己の罪にまた酔ったか」
二人も合流してから今まで何の覚悟も無しに戦ってきたのかと問えばそれを否定する。だがこちらを向かずにうつむいたまま答えていたため、押しが足らなかったかと軽く面倒くさがりつつも更に問いかけた。
「仕方、なかろう」
「……あなたにはわからないでしょう。わが子を手にかけた母の苦しみなど」
「知らんな。だが過去も未来も既に血まみれな私よりも貴様らが遥かに恵まれているのは確実だろう」
苦し気につぶやく鷲三、苦痛と憎しみの混じった目でにらんできた霧乃を容赦なく切り返すと、フリードは遠くを見つめながら自分のことを語っていく。
「このトータスにおいて人間族と魔人族は何百年にも渡って戦争を続けている。私もまた一介の魔人族として祖国のために戦うことを決意し、そして戦いに身を投じた」
血塗られた歴史が続く世界に生まれた一つの存在として、血で血を洗う場所へと己の意志で踏み入った魔人族としての自分のことを。その途端、周囲はしんと静まり返ってしまった。
「対立する人間族との戦いで私の知人も友人も何人も死んでいる。手足を失っただけで済んだ者達もいたがそれはほんのわずかだ――犠牲になる同胞を一人でも減らすために私は力を求めた。神代魔法という規格外のものをな」
過去を思い返し、フリードは一瞬だけ何とも言えない表情を浮かべた。叔父のデール、友人のイライジャにフェルディナンド、王国との戦いの後で襲撃してきた部隊にいた仲間のケネスにライオット、メイシー、ネイルといった数え切れないほどの犠牲者の顔が、言葉が、脳裏によみがえる。
「それを手に入れるため、私も志願して近くの大迷宮である氷雪洞窟へと向かった……そうして無数の同胞の死体を、犠牲を積み重ねて私は変成魔法を手にした」
次に思い浮かべたのは最初に攻略した大迷宮での同胞の姿であった。眠ってそのまま動かなくなった者、攻略途中に大迷宮のギミックにかかって襲い来る死体の仲間となってしまった仲間達、そして生き延びることは出来ても神代魔法を手に入れることも出来ずに手足を失った部隊の皆の顔をだ。
「そこから先は貴様達も知っているはずだ……故に私は止まらん。犠牲になった者達のために、エヒトの手によってこれ以上苦しむ同胞を出さないために私は戦う」
悔恨、羨望、あるいは憎悪をぶつけてきた彼らの顔を忘れたことは一度も無い。故にこのような悲劇が二度と起きないためにと突き進んできたことを、その結果アルヴヘイトとエヒトにいいようにされたこともフリードは思い出していた。けれども同胞を救いたいという『願い』はまだ残っている。それ故に進まねばならないと語った。
「貴様らはどうなのだ? 私を下したお前達が、生半可な覚悟で戦ってるなどとは言わせないぞ」
決意に満ちた表情から一転、光輝達の方を向きながらフリードは真剣な顔つきで問いかける。多くの仲間が悲し気な顔を見せたりまぶしいものを見るかのような目つきであったが、そう言われた途端にハッとした様子でお互い顔を見合わせていた。
「はい皆。フリードの言う通り。ボク達だって負けてないでしょ。家に帰りたいってずっと思ってるんだから」
「そうそう。俺らずっとそれで頑張ってたじゃねぇか」
「さっきもそれでやる気になってただろ? いいじゃんかそういうのでよ」
真っ先に恵里が言葉を口にすれば、すぐに良樹や礼一らが乗っかってあーだこーだと言い出した。俗っぽいがそれ故に切実な願いであることをわかっていたため、フリードもそれ以上何も言わずに鷲三達の方へと視線を向ける。すると二人も弱々しい様子ながらも目をそらさずに見返してきたため、フリードは腕を組んで話すのを待った。
「……強いものだな。そちらも、あの子達も」
「えぇ。私達とは違いますね」
うらやみ、悔しさ、諦観などが混じった言葉をつぶやいてきた鷲三と霧乃に呆れ、見込みも何もないかと背を向けようとしたフリードであったが続く言葉を聞いてピタリと止まる。
「じゃが、わし達が何もしなくていい理由にはならん」
「はい。ただ罪を贖うだけでなく、雫と、子供達のために私達も戦います」
鷲三と霧乃の瞳は揺らがずにフリードを見つめている。思いを伝えた後もブレることのない視線を送る二人を見てほんのわずかに口角を上げると、フリードは言葉を贈る。
「貴様らの手は血にまみれたやもしれん。だが、まだ失ってはいるまい……お前達と私は違う。せいぜい大事にするのだな」
直後、鷲三と霧乃は一瞬目を大きく見開き、頭を下げるとすぐに雫のところへと向かう。その背中を見送ったフリードはまた遠くを見つめ、今はもう遠くなった祖国へと思いをはせる。
(カトレア、ミハイル。貴様らはどうしてるのだろうな……やはり、アルヴヘイトに既に――)
まだ祖国にいる同胞が無事であることを祈ろうとしたが、トータス全土をひっくり返すような真似をしたエヒトの存在を、その眷属であるアルヴのことを思って止めた。偉そうに言っておいて自分も変わらんなと己を叱咤すると、改めて戦う覚悟をフリードは決めたのであった。
「フリードさん、その……さっきはありがとうございました」
「私のためになると思って動いたまでだ。感謝する謂れなどない」
礼を述べた後、光輝の口元が微かにヒクついたのを見て多少は怒りが残っていたかとフリードは察する。とはいえ自分にも非が無い訳ではないことは自覚していたため、フリードはそのことには言及しない。
「ツンデレか」
「ツンデレだな」
「私をコケにしたか? 礼一、大介」
「おー反応してる反応してる」
「礼一も大介も信治も! そこでふざけるな!」
それはそれとしてよくわからなかった言葉でからかった二人に対してフリードは目を細めた。その直後の煽り文句で額にうっすらと青筋を浮かべたフリードであったが、すぐに光輝が割って入ってすぐに説教を始めたことで溜飲が下がった。
「……コホン。皆、今のところまだミレディの方も動きがないみたいだし、これからのことについて話さないか」
そうして三人へのお説教を終えた後、光輝が今後のことについての話し合いを提案する。フリードとしてもただ時間を無為に過ごす気は無かったし、周囲を警戒しながらであれば別に問題ないだろうと考える。
「そうだね。警戒は続けながら、になるだろうけど」
「仕方なかったとはいえ、光輝達もかなりヤバいことになっちまったしな……」
ハジメの方も同じ結論に至っていたらしく、それに恵里や鈴がすぐにうなずいて返しているのをフリードは見た。そして幸利の発言を聞いて皆と一緒にため息を軽く吐いた。
何人生き残れるかもわからない戦況を無理矢理切り抜けたのだ。半数以上が手足を二つ失う程度で済んだとはいえ、今後の行動に確実に差し障りが出ることにフリードは頭を悩ませる。
「あぁ……この大迷宮が状況が悪すぎたとは今でも思うけど、それでもミレディの言う通りかもしれないって俺は思ったんだ」
真剣な表情で語った光輝であったが、すぐに表情を暗くしてうつむいてしまう。やはり友人達の手足が犠牲になったことに色々と思うところがあるのだろう。フリードもそのことについてはあえて言及せずに続きを待った。
「遥か昔からエヒトはいる……だったら俺達が頑張って見つけた神代魔法の真髄は既に知っててもおかしくなんてないし、それを駆使して俺達を苦境に追い詰めることだってそう難しくないかもしれない」
「だからってあきらめる理由になんてならねぇだろ?」
時間にして一分足らずであっただろうか。すぐに光輝は顔を上げ、エヒトの脅威について訴えてきた。改めて考えれば神代の時代には既にエヒトはいたのだ。想定の倍以上にエヒトが手強くてもおかしくはないとフリードも思うも、間髪入れずに口をはさんだ大介の言葉に心の中で同意を示す。
「あぁ。だから、道具が無くっても戦えるように神代魔法含めて全部の魔法をひと通りこなせるようになった方がいいかもしれないと思ったんだ」
そこで出された提案をフリードもそう悪くは無いと考え、何度かうなずく。武器も道具もない状況で頼れるのは魔法か近接戦闘の技術、これまで培った経験による判断ぐらいしかないからだ。直接攻撃も厳しい可能性も考えれば魔法を磨くというのは決して悪くないと思えたからである。
「いや、まず治癒魔法のルーツを押さえとかねぇとマズい。動ける奴だけでとっとと獲りに行くべきだろ」
だが幸利は光輝の提案にすぐさま反論した。恵里とハジメもその理由にすぐ思い至ったようで、一拍遅れて理解した様子の鈴と一緒にうんうんと何度もうなずいている。一体どういうことかと思っていると、早速光輝がその疑問を口にしてくれた。
「幸利? それにハジメ達もどうしたんだ。そこまで焦らなくったって……」
「あー、畑山先生がボク達の状態を知ったらどうするか、ってことだよね?」
『あ』
そこで恵里から投げかけられた答えを聞き、なるほどとフリードも納得を示す。恵里達のことでアッサリ暴走する彼女が知れば何をしでかすかわかったものではなかったからだ。その様が浮かんだであろう光輝達もまた声を詰まらせてしまっている。
「他の大迷宮と違って神代魔法をミレディが直接頭に刻む可能性もあるし、出来れば知らないでおいてほしいんだよねぇ~。永山君達にも入手してもらって戦力になってほしいし、あと洗脳して戦力に組み込みたいし」
「恵里、言うことが物騒……ともかく、他の大迷宮と同じ仕組みで伝授するか確定してるわけじゃないからさ。それを考えるとね」
「……盲点だったな。早とちりし過ぎたよ」
恵里とハジメが理由を語ったことで、申し訳なさを露わにした光輝がすぐに頭を下げた。頭のキレ具合からして恵里がリーダーではないのかと思ったことは少なくなかったが、光輝のこの人となりを見てフリードも心の中で納得を示す。
「とりあえず治癒魔法のルーツは私やユキに任せなさい。コースケだって無事なんだし、最悪逃げればいいわ」
「うむ。深淵の権化たる我に任せよ。反逆者の爪牙と我の深淵あらば問題などない」
「私も取得に向かう。園部や遠藤と比べれば私は取るに足らない存在なのやもしれんがな。貴様らはここの神代魔法の習熟や研究をしていろ。そちらの方で役に立ってもらう」
優花が胸に手を当ててそう主張すれば、深淵卿をまだ解除していない浩介も口元を思いっきり吊り上げながらそれに乗っかった。フリードも自身の実力不足を理解しつつも次の大迷宮攻略のメンバーとして名乗りを上げる。その上で恵里達が手持ち無沙汰にならないよう伝えれば、やれやれといった様子で彼女が返した。
「りょーかい。ま、浩介君もいるんだしそうそう簡単に遅れはとらないでしょ」
「わかりました。じゃあ幸利、優花、それと奈々と浩介とフリードさんは次の大迷宮の攻略を――」
「光輝、待たんか」
「えぇ。私達を抜いてもらっては困ります」
そこで光輝も次の大迷宮の攻略を頼もうとしてフリードらの名前を挙げていったのだが、鷲三と霧乃が口をはさんでくる。フリードも念のためにと二人に視線を向けるが、緊張した面持ちながらもしっかりとこちらを見据えているのがわかる。ならばやれるかと軽く懸念しつつも二人の行動を見届けようとただじっと見つめるだけであった。
「鷲三さん、それに霧乃さん……その、大丈夫なんですか」
「……雫のことが気がかりではあるし、ミレディ・ライセンの言葉で迷ったわしらでもどこまで頼りになるかはわからん」
「ですが、このままでいいとは思ってもいません……どうか、私達も仲間に加えていただけませんか」
光輝や浩介なども心配そうに二人を見つめている。だが己の力不足や懸念していることを理解しつつもこうして一歩踏み出した二人を見て、フリードは彼らを甘く見過ぎていたと心の中で撤回した。
「……その、私も変わらなきゃ駄目だって思うの」
「わた、しも……私も、雫さんと同じ思いです」
すると今度はおずおずといった様子で雫が話しかけてきた。光輝の体に左腕をそっと添えつつ、顔を上げてこちらを見ている彼女にフリードも視線をやる。少し体をプルプルと震わせながらも何かを訴えようとする彼女を静かに見つめていると、アレーティアも似たようなことを述べてきた。
「私が……私が光輝とお母さん、おじいちゃんと一緒じゃなきゃ駄目だったから、こんなことになったんだし、頑張って一人でやれるようになりたいの」
「私も雫さんと同じ、です。ずっと大介におんぶにだっこじゃ駄目だと思ったから、だから……」
途中で顔を合わせつつも、二人は自身の思いを語った。これに関してはフリードもそうすべきだと考えた。心の傷のせいで家族や恋人と一緒にいようとするのはわからなくもなかったが、それではエヒトと戦う際の弱点となり得る。
「そうか。雫、そちらは体の損傷が治ってからで構わん。だがアレーティア、貴様は次の大迷宮攻略に参加するということだな。今の言葉はそういう意味だろう」
今も体を震わせて泣きそうになっている二人に無理強いする気は無かったが、いずれはやってもらわねば困ると思いつつフリードは二人に言葉をかけた。両腕を“震天”で爆破して潰した雫はともかく、特にこれといった傷がないアレーティアならば問題ないだろうと片目をつぶりながら促してみる。
「が、頑張ります……だ、大介がいなくても遠藤さんが、い、いるから……」
「アレーティア無理すんな!」
「いやアレーティアさん参加してくれるのは嬉しいけど無理されても困るから」
ところがアレーティアは更に体の震えを強くし、グスグスと泣きながらそう答えたのである。大介と素に戻った浩介が即座にツッコミを入れ、ふるふると頭を横に何度か振った彼女を見て色々と悟ったフリードは深くため息を吐いた。
『フリードさん……』
「だ、大丈夫アレーティアさん! し、しっかりして!」
「アンタねぇ……アレーティアにあんまり無茶やらせんじゃないわよ!」
「無理であっても経験を積まねばならんだろうが。“鎮魂”を付与したアーティファクトでも用意すれば事足りる程度のことで甘やかすのも大概にしろ」
すぐさま多くのメンバーが向けてきた信じられないものを見るような目つきに対し、フリードは正論を容赦なくぶつける。優花や奈々などの面々がじっとりとした目つきで見つめているが、知ったことではないと撤回することなくフリードは冷ややかに見つめ返すだけであった。
「み、皆さん、フリードさんの言う通りですから!……その、アーティファクトは大介が作ってぇ……おねがい」
「ったく、出来が悪くても文句言うなよ……」
フリードが周囲にジト目を向けられる中、右手でほほを何度かかいた大介にアレーティアが押し倒す勢いで抱き着く。そうして大介に至近距離で愛の言葉をつぶやく彼女を見て、これでアレーティアの問題も解決しただろうと周囲に目を向ける。未だにほぼ全員がジト目を向けていた。
「ええい全く……話を続けるぞ。いつミレディ・ライセンが気まぐれを起こすかもわからんのだからな。私に言いたいのならせめてそれを終えてからにしろ」
再度正論をぶつければ光輝達も渋々といった様子でジト目を向けなくなったのだが、不承不承従った彼らの様子を見て、メルドの奴に再度シゴいてもらった方がいいのではないかとフリードは勝手なことを思うのであった……。
『治癒魔法のルーツがあればきっと僕達も復帰できる。だからお願いします皆』
『任せとけ。絶対攻略して戻ってくる』
「ふぅ……とりあえず叱った甲斐はあったかな」
解放者の住処にて、挑戦者達の姿を映すパネルを見ながらミレディ・ライセンはそうつぶやく。何度となくエヒトによって辛酸をなめさせられ、苦渋の決断をする羽目に遭った彼女からすればここで彼らが気合を入れてくれなければ困るからであった。
(いくらコースケって子が無数に分身を展開できるっていっても不安だしね。守りながらの戦いには限度がある。弱点は少ないに越したことはない)
コースケという少年が持つ無数に分身を出せる能力も何らかの制限があることは見抜いていたし、一人一人が戦えなければおそらくエヒトには勝てないと確信していたからである。
(けどまぁ私もちょっとムキになり過ぎたかな……いくら本来の試練の形式だとアッサリ勝負がついちゃうからってね)
ただ、ミレディもミレディで後悔が一切ないという訳でもなかった。このライセン大迷宮の最後の試練では、武器と道具の没収と重力魔法の駆使は本来組み込まれてないことだからだ。難易度調整のため、そして腑抜けたことを言う彼らの根性を叩き直すためだったとはいえど、回復アイテムも入った宝物庫まで没収したのは流石にやりすぎだと今になってミレディも思ったのである。
「とりあえず間に合ったみたいだし良かったよ」
その宝物庫も結構危険なタイミングで戻しており、もし少しでも遅れていたのならエリという少女は助からなかったであろうとミレディは考えている――あの時彼女が放った“震天”を発動した際、“限界突破”
「……まぁ、あの子達が持ってた神水まで使わせちゃったのは反省した方がいいよね」
反省する点はそこだけではなかった。彼女達の持っていた伝説の回復アイテムも複数使わせてしまったことをミレディは本気で悔いていた。話を聞いている限りだと残り五本はあるらしいが、それでも二つも今回使わせてしまったようだ。こればかりは本気でミレディも頭を抱えており、我がことながらなんてことを……と改めて額の部分に手を置いていた。
(しかし規格外の子達だったな。再生魔法をアテにしてたとはいえ、私の操るゴーレムを真っ向から倒したのは流石としか言えないよ)
そうしてしばし自己嫌悪していたミレディだったが、何度か頭を振ると今も話し合っている彼女達を見ながらその戦い振りを思い返していた。真髄を理解したが故にオリジナルのものまで創って活用していた神代魔法、無数に増える分身を足場にするといった機転を利かせた戦い方、そして何より痛みも何も恐れずに立ち向かう様など。
親しい相手や家族におんぶにだっこな様子を見せる仲間がいなければ重力魔法を託すに足る。そう断言出来てもいい相手であったとミレディは思っている。そのシズクやアレーティアという少女達も心を入れ替えたことから信じてみる価値はあると腕を組みながら彼女は考えていた。
「お、大迷宮の機能の復旧も終わったみたいだね」
エリ達を映したものだけでなくこの大迷宮を管理するためのパネルも横に浮かんでおり、それは大迷宮の各フロアに再度魔力が行き渡ったことを示すサインが各所に表示されていた。地下深くにある魔力溜まりの魔力を普段は分散しているのだが、今回に限っては挑戦者達と戦うために自分と最後のフロアにだけ集中させていたのである。
(各フロアの罠や機能は問題なし。それとフロア組み換えも可能、と)
そのため本来ならこの場所では扱えない重力魔法も、自身と魔力溜まりを直結させることによって無理矢理発動出来るようにしていた。それがミレディが『ほぼ』とはいえ本気を出すことが出来た理由であった。とはいえ今のゴーレムの体と魂にかなりの負担を強いるため、もう二度とは使わないだろうとミレディは思う。
「私を真っ向から負かしたんだしね。そろそろお迎えしようか」
そう独りつぶやくとミレディはパネルを操作して最奥の部屋のブロックの一つを動かす。挑戦してきた彼らの大半は四肢を二つずつ失っているし、それぐらいやらないと移動も厳しいと考えたからである。
『あ、ブロックが』
『あそこ、壁が光ってるね。ってことはあっちも受け入れてくれるのかな』
ブロックを動かすついでに、この場所に続く通路の入り口を偽装した部分も光らせておく。迎える意志があるということをあちらも把握したらしく、全員が今いるブロックの端へと寄っていった。
(実力は申し分なし。極限の意志を持つ可能性は有り……とりあえず託してみようか。この世界の未来を)
パネルを見上げながらミレディは独り思う。この大迷宮を力技で突破した彼らがエヒトを倒してくれることを、流れ星に願うように。
今回の話でこの章も終了となります。
次の章のラストは読者の皆様の脳内に自然と「Don't_Boo!_ドンブラザーズ」が流れるようになったらいいなと思います(気が早い)
2024/5/18 ちょっとフリードが無慈悲すぎたのでほんのり修正。
2024/5/19 ちょっとあとがき修正
2025/1/22 鷲三の光輝の呼び方が違ってたのでそこら辺修正