コホン。では改めまして拙作を読んでくださる皆様への盛大な感謝を。
おかげさまでUAも208893、お気に入り件数も923件、しおりも454件、感想数も730件(2024/5/30 00:27現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして書くことが出来るのも多くの方に未だひいきにしてくださってるおかげです。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当に感謝いたします。こちらもおかげで大分助かっております。
今回の話を読むにあたっての注意点として話がかなり長く(15000字足らず)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。
九十二話 歩み寄って見えた未来
「もうやだ。現実こわい。この人達もっとこわい」
ライセン大迷宮の奥にある解放者の住処の片隅で一体のゴーレムが体育座りをしてうつむいていた。乳白色のローブを身にまとい、人間でいう顔の部分にニコちゃんマークのようなものが浮かんだ白い仮面をつけている存在の名はミレディ・ライセン。言わずもがなこの大迷宮の主である。
「ったく、面倒臭いなぁ。この程度のことで発狂しないでよ」
「いや普通発狂するって」
そんな彼女を見つめていたのはここに招かれた恵里達であった――この部屋へと来て新たな神代魔法を獲得し、治癒魔法のルーツとなるものがどこにあるかも尋ねた。その後、あるやり取りのせいで彼女は発狂してしまい、精神が落ち着いた後に壁の隅へと逃げ込んだのである。それは礼一のある一言がきっかけであった……。
「あ、壁が……この通路の先があのミレディのいる場所に」
シアがうなると恵里達も険しい顔つきで通路の先を見やる――自分達のところに近づいてきた別のブロックを見た恵里達は、軽く話し合いをした後にそれへと移った。あの超巨大ゴーレムは遠隔操作していることがわかっていたし、このブロックに関してもどうせミレディの差し金だろうと誰もがうなずいたからである。
「だろうな。んじゃ幸利、浩介。なんかあったら頼むわ」
「任せろ。何かあったら殺す」
「承知。我に任せよ」
光沢のある白い壁で出来た通路をブロックが進む中、良樹と幸利、浩介が最後の確認をする。話し合いをし、ミレディが何か仕掛けてきた時の対処を彼らに任せることにしたのだ。
「まぁ俺の出番は多分ねぇだろ。浩介がアビスゲートだしな」
「フッ。万難を排するのは我に任せよ。たとえ影が三つしかなくとも深淵に不可能はないということを示してみせよう」
何かあったらマズいということで分身は三体に抑えたものの浩介は未だ“深淵卿”を発動したままの状態だ。幸利もリボルバー型レールガンであるファントムを構えている。
やりすぎと言われても仕方がないだろうが、恵里は止めようとは思っていなかった。自分達が手足をなくすような戦いをさせられる羽目に遭ったし、その怒りを相手にぶつけたいという思いは恵里も大いに思っているからだ。
「……幸利君、威嚇射撃ぐらいに抑えてね。浩介君も」
「ボク達をここまでするぐらいの神代魔法の使い手だしね。操って
ハジメが彼らを制止するのに続いて恵里も軽く説得する。恵里もミレディへの恨み辛みはあるが、洗脳した後で猿回しでもさせるなりして愚弄することぐらいは出来るからとその感情を抑えていた。
どうせ最後はエヒトとの戦いで鉄砲玉にでもすればいいのだとも考え、強く歯噛みして眉間のシワを一層深くしながら堪えていたのである。
「わかってる。だから何かあったらだ」
「流石に我とて弁えている。志が同じであれば共に偽神討伐をすることも可能であろうからな」
「攻撃仕掛けてきたらにしてね? その時は僕も援護するけど……そういえばさ、ミレディってどうやって生き延びてたんだろうね」
二人とのやり取りでハジメも大分怒りが溜まってることを横で恵里が思っていると、その当人がある疑問を口にした。
「藪から棒に。どうしたのハジメくん」
「いや、ちょっと気になっただけ。はるか昔からずっと神代魔法を託す人間を待ってたのに、どうやって時間を過ごしたりしてたんだろうって。ちょっと気になって」
鈴が困惑とも呆れともつかない表情でツッコミを入れると、ハジメも苦笑しながらそう返した。確かに言われてみれば疑問ではあった。
「なるほど。人の身では時の流れには抗い切れぬからな。神の力の一端たる魔法ならば或いは、といったところか」
浩介の発言に多くがうなずく。はるか昔よりこの世界に留まり続けていることを考えれば、間違いなく何らかの神代魔法を使っているのは容易に想像がついたからだ。一体どんな魔法か或いはアーティファクトを使っていたのやらと恵里も考えていると、何かを思い付いた様子の光輝がハジメに質問をした。
「それってどうやって肉体を保持したかとかも含むのかハジメ? だったらコールドスリープが定番だと思うけどな」
「うん。SFの定番だもんね。オスカーが生成魔法の使い手だったし、そういう装置も作れそう」
「大迷宮に誰かが侵入したのに合わせて解除されれば永い間独りで過ごす必要もねぇしな。その線もありそうだ」
SFとかなら光輝が述べたようにコールドスリープという手段があるし、もしかするとこの剣と魔法の世界であるトータスでも似たような方法はあるのかもしれないと恵里も思う。少なくとも可能性としてはあり得るだろうと彼女は考えた。
「何なのだこーるどすりーぷというのは? 新手の魔法か国の名前か?」
「よくわからないんですけど、教えてくれませんか?」
「えーとだな……先生頼む」
「任せて。えっと、装置……だとわかりづらいからアーティファクトを使うなりして体を一旦冷凍させて――」
「んー、それもそうだと思うけどやっぱりゴーレムに魂移すぐらいはしてたんじゃない? ほら魂魄魔法があるし、年とったら体が悪くなるって言うじゃん」
フリードとシアがコールドスリープについて小声で尋ねてそれをハジメが答える中、恵里は自分達にとってもっと身近な方法について述べた。魂魄魔法による魂のサルベージだ。解放者のオスカーが作ったゴーレムに自身の魂を移し、老いとは無縁の体にした上で待ってたのではないかと恵里は予想したのである。その推測に誰もが『あぁ』とうなずいており、納得を示していた。
「あとは幸利君が言ったみたいに大迷宮に人間が入り込んだタイミングで意識が覚醒するような仕組みとかね。そういうのの組み合わせでしょきっと」
「あり得そうです……ゴーレムを操作してたのもきっと魂魄魔法か何かが付与された鉱石の利用かもしれませんし」
そうしてミレディの体のことやこの大迷宮のゴーレムのことについて話し合っていると、今まで続いていた通路も終わりが見えた。オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があったのである。
「はーい皆ー、この先にミレディいるよきっとー」
恵里達の乗ってるブロックが近づくと、やはりタイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まらることなく壁の向こう側へ進んでいく。そうしてくぐり抜けた壁の向こうにはちっちゃい人間らしいデザインのゴーレムが待ち構えていた。
「やっほー、お疲れ様! ミレディちゃ――どわぁぁあぁ!?」
姿をが見えると同時に空気を砕く音と切り裂く音が近くで響いた。ミレディと名乗ったゴーレムの足元には弾痕が三発、投げナイフも同じ本数刺さっている。
予想をつけつつ恵里は後ろを振り返ると、やはり幸利のファントムから煙が立ち上っているし優花がナイフを投げたであろう態勢のままであった。
「……俺は見なかったことにしとく」
「へぇ~。やるじゃん」
「まぁな」
「そうね。このアホに一泡吹かせたかったし」
見事な腕前だと拍手したかったものの、右腕が吹き飛んでいたため恵里は軽く口笛を吹いて二人を称賛する。明後日の方向に顔を背けた浩介はともかく、他の皆もサムズアップしてたりよくやったと言ってる辺りミレディには相当イラついてたことがうかがえる。
すると再起動を果たしたそのミレディが、顔面代わりとなってるであろう白い仮面に怒りと困惑の表情を交互に浮かべながらこちらへと迫ってきた。
「ちょちょちょ、た、たた、タンマー!! 出会い頭に攻撃するのがそっちのあいさつなの!? 野蛮にも程が――」
「開幕早々人の武器も宝物庫もブン捕って、テメェにクソ程有利な試合仕掛けたのはどこのどいつだ。あ?」
「すいませんでしたぁー!」
せわしなく仮面に浮かべる表情を変えながら訴えるも、幸利がファントムの撃鉄を起こして銃口を向けながら文句を言えば即座にミレディは頭を下げた。その直前の表情は泣き顔になっており、なんて無駄に高度なアーティファクトなんだろうと恵里は内心呆れていた。
「幸利、優花。とりあえず武器は下ろそう。ミレディが死んだらここの神代魔法が手に入るかどうかわからないし」
「……それもそうか」
「まぁ、そうね。コウキの人の好さに感謝しなさいよ」
「あ~助かったぁ……でもさ、君達やってることが悪役――ごめんなさいごめんなさい!」
溜飲が下がったのか光輝が助け舟を出し、幸利達も武器を下げた……はいいのだが、すぐに調子に乗ったミレディが寝言を抜かしたせいで銃弾と今度はクナイがまた彼女の足元を穿った。頭を下げ倒す解放者を見て、威嚇射撃した幸利と下手忍であろう浩介含む全員が呆れた表情を浮かべていた。
「……まぁその、不安だったんだ」
かれこれ数分、何度も謝り倒していたミレディはふとぽつりと胸の内をこぼした。そのつぶやきを聞いた恵里達はミレディに視線を向け、ただじっと見つめている。
「さっきの戦いの時も言ったけどさ、やっぱりあのクソ野郎が何を仕掛けてくるかと思うとね。君達が抱えてる心の傷は間違いなく弱点になる。だから恨まれるのは覚悟してでもお説教しとかないとって」
やりすぎちゃったけどねぇ~と軽く体をうつむかせながらミレディはそう述べる。実際彼女の言ったことに誰も反論なんてしなかった。むしろ恵里達がやられたことを考えれば懸念は思いっきり当たっているぐらいで、顔を合わせるなりため息を吐くぐらいしかしていない。
「じゃあテメェは満足しただろ。しっかり俺らに恨まれてるし、俺らも手足なくなって面倒なことになっちまったんだからな」
だからといって水に流せるかというと話は別だったが。礼一がケンカ腰になってるように恵里も腹の内では怒りが渦巻いている。光輝やハジメ、鷲三と霧乃も止めない辺り誰もがそう思っているだろうと彼女は確信していた。
「いやそれは本気で反省してます……だから、ね。認めないとって思ったんだ」
『うん?』
『えっ』
いやに歯切れの悪い答えを返すミレディに恵里達は目つきを鋭くするも、続く彼女の言葉を聞いてそれぞれ短く言葉を漏らす。パチパチとまばたきを繰り返し、顔を突き合わせてざわめく恵里達にミレディは思いを口にする。
「君達を認めるよ。大迷宮の攻略者として、私達解放者の後を……ううん。このトータスをもてあそんだ存在を討ち果たす存在としてね」
『いよっしゃぁー!!』
『やったー!!』
「やはり深淵に吞み込めぬモノ無しということが改めて証明されたな」
「……フッ」
一秒にも満たない静寂の後、恵里達は歓喜の声を上げる。
恵里とてただその言葉だけで全てを許すほど寛容にはなれない。だが自分達が手足を犠牲にしてでも戦った結果を認められたことの達成感、それに喜んでいる皆に水を差すような真似なんてしたくなかった。今だけはただ喜びに身を任せ、残った手でお互いにハイタッチをしたりして思いを分かち合う。
「うんうん。そうやって喜んでくれるとミレディさんとしても嬉しいよ。いやー痛みに耐えてよく頑張ったね。感動したよ!」
『お前が言うな!』
……なおその直後、いらん一言を言ったミレディに全員がツッコミを入れたが。おわっ、と驚くミレディに対し、恵里はサブマシンガン型レールガンであるシャウアーを取り出して銃口を向ける。
「ボクらがこうなった当の原因が何抜かしてんのさ。今すぐ穴あけられたい?」
引き金に手をかけながら恵里は軽く脅す。別にミレディが死んだところで特には問題が無いと考えたからだ。“縛魂”は元々死んだ存在を操る降霊術の発展形だし、神代魔法を授ける際に魔力の分解作用のせいで失敗する可能性を考えればそれを排除している――つまり、他の魔法も何の問題も無く発動出来る可能性も考慮していたからであった。
「ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! また頭下げるからぁ!」
「じゃあとっとと神代魔法寄越す。どうせ重力関係の魔法でしょ」
「はいただ今ぁ!」
とはいえ確証もなかったため、ハッタリを利かせながら述べれば即座にミレディは頭を下げていた。顔代わりの白い仮面の表情も冷や汗が浮かんで緊張した様子のものに変化しており、早く神代魔法を渡せと迫ればせかせかと魔法陣を起動させていく。
「……絵面が強盗だね」
「まぁ止める気も無かったけどね。とりあえずシャウアー下げたら? 恵里」
「はいハジメくんも鈴も黙る」
そしてそんなことをしたから案の定、ハジメと鈴が若干引いた様子で恵里を見つめていた。その恵里も訂正する気が無かったため、軽く言い返すのが精々だった。そんなこんなで魔法陣の起動が終わると、未だ“深淵卿”を発動していた浩介の手を借りながら数人ずつ魔法陣の中に入ってその力を手にしていく。
「やっぱり重力操作の魔法だったね」
「原初の星の力ということか。中々に強力な力よ」
重力魔法の知識等を刻まれ、恵里は何となくこれは使いこなせそうだと一人思う。その際あることが引っ掛かったものの、それはあえて胸の内にしまいこんで他の皆の方を向く。手ごたえを感じている面々がほとんどであったものの、ハジメとシアだけは軽く表情が引きつっている。きっと自分にとっての生成魔法と同じなんだろうなと恵里は一人で納得していた。
「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、そこの錬成師君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」
「やっぱ穴あけよっか」
「ごめんなさいぃ~!!」
そしてミレディがまたいらん事を抜かしたため再度シャウアーを突きつければキレイな土下座を決め、必死に許しを請うていた。茶化さないと死ぬ病気か何かだろうかと思いながらシャウアーを宝物庫へとしまうと、あることを聞こうと恵里はミレディに声をかけようとした。
「えーっと、ミレディさん。ハジメやシアはもちろんですけど、俺や他の皆の適性に関してはどうなんですか? 結構強力な魔法ですし、そこも教えてほしいんだけど」
「まぁそうだね。ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。そこの錬成師君は……生成魔法使えるんだから、それで何とか出来るんじゃない? 頑張りなよ」
しかしそれは光輝に取られてしまう。恵里としてもあくまで聞ければいいと考えていたため特に気にはしなかったが、ミレディの返事を聞いてちょっとだけガッカリする。シアはともかくハジメの方は適性が無いと面と向かって言われるのは流石に悲しかったからだ。
「あと火や水、風に土の魔法が使える子はそこそこやれると思うよ。それと君と金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるし、特に金髪ちゃんは私に迫れるかもしれないね」
ハジメの方を向けば苦笑いながらも笑みを返してくれたため、まぁいいかと恵里も感情を呑み込んだ。そしてミレディの話を聞き、流石光輝君とアレーティアだなと思いながら二人に称賛の眼差しを送る。
「……あれで本気じゃなかったんだよな。ミレディの奴」
そんな折、あえて胸にしまい込んだ思いを礼一が口にしたせいで恵里も思わず苦い顔をする――試練の際、ミレディは幾つもの重力魔法を駆使していたが、その中で最高のものだけはあの時使っていなかったのだ。頭に刻まれた知識を照らし合わせればとんでもない破壊力のものであり、それを使われたら自分達はなすすべなく負けただろうと恵里もあの時確信していたからである。
「そりゃあね。“試練”なんだから。勝ち目のない戦いを仕掛けるほどミレディさんも無慈悲じゃ――」
「本気で失望して俺ら殺そうとしたのはどこのどいつだ?」
「……誠に申し訳ありませんでした」
そこで軽くドヤ顔をしたミレディだったが、良樹達不良共とフリード、そして鷲三や霧乃らが心底冷めた目で見つめ返せばアッサリ意気消沈。金属製のボディのはずなのにしわしわにしおれた様を幻視させる彼女の姿を見て恵里もちょっとだけ不憫さを覚えてしまう。
「ハァ……じゃあとりあえずボク達はこの魔法も磨いて、エヒト討伐のために使えばいいんでしょ」
「あー、うん。そうだね……あとちゃんと他の神代魔法も集めてね」
「わかってます――ところで、治癒魔法のルーツになった神代魔法もありますよね? それはどこにあるんですか」
「あー、そっか。迷宮の場所がわからなくなるほど長い時が経ったんだね。うん、場所はね――」
少し投げやりに言った恵里に対し、ミレディもしおれた空気をまとわせながらもちゃんと返す。そこに光輝が治癒魔法のルーツの所在についての質問を投げれば、彼女も感慨深い様子でそのことに答えていく。その答えに誰もが驚きを隠せなかった。
「まっさか海の中か……」
「大まかな位置はさっき教えた通り。後はナッちゃんのところの証に従ってね。お月様の光に当て続ければその位置を示してくれるはずだから」
ミレディの話が本当であるならばお目当ての魔法は海中遺跡、それもかつて礼一達が巨大クリオネと接触した辺りだというのだ。
潜水艇を容易に破壊し、金属製の武器もダメにする。魔法すら効きが悪い例のトンデモ生物と戦う羽目に遭うのかと思うと誰もがゲンナリし、どうしたものかと頭を抱える。どうしたの? と声をかけてきたミレディにも悩みの種を明かせば、彼女もまた腕を組んで表情も困ったものへと変化させていた。
「うーん。それはちょっと厄介かなぁ。まぁでも、空間魔法の“縛羅”を展開し続ければ……ちょっと現実的じゃないかな」
「違いない。恵里達の規格外の魔力ならば発動し続けることもそう難しくは無いのだろうが、大迷宮の攻略のことを考えるとな」
ミレディも考えを口にはするものの、すぐにそれを引っ込める。それに反応したフリードの言う通り、自分達の魔力量ならば簡単な話なのだろうが後々響くことを考えると流石に遠慮しておきたいことであった。
「単に倒すならば我の無数の影での蹂躙だが」
「浩介君や雫の分身、モロに魔力で出来てるからねぇ。微妙に相性が悪いし、戦えないボク達が潜水艇に残って魔法を発動し続けるってのはアリかもしれないけど」
「どれだけ維持し続ければいいかわからないし、守ってばかりだとジリ貧だしね……手に入れた重力魔法を使って宙に浮かせて、魔法の影響を受けないような爆薬とかで爆破したりとかかな」
浩介も渋い表情をしながら意見を述べ、恵里の反論に何も返さない。その恵里もまた頭を悩ませていたものの、ハジメの出した案におぉ! と親友共々沸いた。先程ミレディが光輝とアレーティアは素質がずば抜けていると述べていたし、これならやれると勝ち筋が見えたからである。
「倒すのは何とかなりそうだね。じゃあミレディも巻き込んで話し合いを――」
「おい待った」
そこで恵里が音頭を取ろうとすると、礼一がいきなり待ったをかける。一体どうしたと軽く眉間にシワを寄せながら彼の方を向くと、ちょっと怯えた様子ながらもある提案を持ち掛けてきた。
「うぉ怖っ……その、よ。どうせだったらソイツ捕まえて食わねぇ? 多分魔物だろうし」
一瞬の静寂。その後に
「えっ」
「「いやあの皆さん……?」」
「た、確かに食べれば強化に繋がるし……まさか礼一!」
「おうそれそれ。いやー、どうせ倒すんだったら食って強くなろうぜ! 一部を分け合うぐらいでいいし、どうせ普通の生き物じゃねぇだろ!」
光輝だけでなくその場にいた多くが礼一の言葉の真意に気付く。思った通り食べて強くなろうぜと力説し、それを聞いた恵里も倒し方だけでなくどう調理すれば美味しくなるかについても並列して考えていった。
「大介達にとって名案なのはわかるんだけど……」
「えーと、やっぱり礼一さん達の言ってることっておかしいんです……よね?」
「言ってることどころではないな。これを名案扱いするのは奴らだけだ」
「いや何言ってるの。タチの悪い冗談とかやめてくれない?」
だがそれにすかさず待ったをかけた相手がいた。ミレディ・ライセンである。真顔で言ってきた彼女に恵里だけでなく幸利達も露骨に舌打ちをするも、そこであることに恵里達全員が気づいてハッとする……魔物は食べたら死ぬのが普通だということにだ。
「えーっと、その、事実です……信じられないとは思うんですけど」
「あのさぁ……いくらこっちだって冗談とかでそういうこと言わないんだけど。本当にそうやって強くなったの」
「いや、えぇ……」
ハジメがほほをかきながら本当のことだと述べ、恵里もミレディの反応に理解を示しつつも自分達はこうしてきたのだと反論する。じっと見つめ続けてるとミレディの表情は“恐怖”へと変わり、『うわ……』とか『えぇ……』と漏らして何歩か後ずさっていった。
「ま、普通の反応だな」
「いやだから死ぬでしょ。体砕け散るんだって。これが強くなった秘訣でーす、って言われてもまず頭の具合を疑うってば」
「真実だ。そのことを受け入れよ最後の解放者よ」
「それはわかってるけど、ホントにそうなんだって。神水飲んで無理矢理回復したりしながら食べたんだよ」
至極真っ当な言葉にフリードがため息を吐き、アレーティアとシア、鷲三と霧乃は目をそらしている。光輝や雫らもずっと苦笑しているだけであり、大介達も顔を合わせるぐらいで何も言わない。浩介と恵里だけが反論していたのである。尤も、その二人も時折目をそらしながら言っていたのだが。
「へ?……あ、そういえば。え? まさか、本気で? 神水ってすごい貴重なんだけど? まず手に入らない代物なんだけど?」
「まぁそれに関しては半分偶然なんだけど。ハジメくん、ちょっと借りるけどいい?」
「あ、魔眼鏡のこと? じゃあとりあえずこれごと渡すね」
「ありがとハジメくん――はい。もう加工したんだけどこの神結晶を偶然見つけて、コレから勝手にあふれ出るのを飲んでなんとかしたんだよ」
困惑、驚愕、混乱といった表情を次々と仮面に浮かべるミレディに、恵里はハジメから了解を取って宝物庫を借りる。ゴーグル状に加工した神結晶を取り出して神水の入手方法を語れば、ミレディの表情の切り替わりが更に早くなった。アレーティアは慈しみのこもった眼差しを彼女に向けた。
「え、いや、はい? あ、でも、筋は通るような……えっと、その、痛く、なかった? 普通に死ぬよね?」
「うん痛いよ。体が砕けるような痛みがしばらく続くし、死ねないから普通に気が狂いそうになったことが何度もあったし。ね?」
「えっ……えっと、一回とか二回ぐらいだよね? 後は耐性が出来て特に痛みも感じなくなったんだよね?」
「えーと、確か階層も百ぐらいあったし同じぐらいの回数起きてたよな?……うん。耐性は出来ても次の階層の魔物を食べたり、そこの中で一番強い奴の肉だとそれで耐えられなくなったりしてるんで。それぐらい起きてたんです」
幾つかの表情を高速シャッフルしながら尋ねてくるミレディに対し、恵里と光輝が友人らに聞いて同意を受けながら返事をしていく。遂にミレディの表情が真顔だけになった。アレーティアはミレディに聖母のような微笑みを向けている。
「嘘だっ!! やっぱり信じられないよ何か証拠でも持ってきなよそうでなきゃ初の攻略者がとんだキワモノなんてことになるじゃんそんな現実なんて認めたくないミトメタクナーイ!!」
「あ、壊れた」
「普通こうなると思います中村さん……」
数秒の空白を置き、“焦り”の表情を仮面に浮かべながらミレディは恵里に掴みかかる。その恵里も恵里でなんか様子がおかしくなったといった具合に淡々と述べれば即座にアレーティアのツッコミが飛ぶ。他の面々もだろうなぁと言いながら苦笑したり、納得した様子でうなずいているばかりであった。
「ほら違うんでしょそうだって言いなよ! 先にナッちゃんのところを攻略して空間魔法活用しながら進んだんだって――」
「うっさいなぁ、ったく……ねぇ皆、何か証明するいいものない? とりあえずヒュドラの肉って残ってる? 出来れば皮剥いでない首ごとのヤツ」
「え、ちょっと」
「いやアレはもう全部食べ切ったはずよエリ。皮も大体服とかになったはずだし……ハジメ、他の魔物とかは冷凍保存してない? 血抜きも済ませてあるはずだし、レジャーシート代わりの布を敷けばこの場で解体ぐらいやれるわよ。ついでに調理して食べれば完璧じゃない?」
「待ってやめて調理風景とか食べてる光景を見せようとしないで! 私の中の何かが壊れる!」
「ミレディさんが可哀想だからやめようよ優花さん……えーと、じゃあ皆の魔力光を見せてみるとか」
必死な様子で詰めてくるミレディをうっとうしがりつつ、何かいい証拠はないかと恵里が問えばハジメがあることを口にする。恵里も含めた全員が首をかしげるが、すぐにその理由にほとんどが思い至り、何度となく首を縦に振った。
「? どういうこったアレーティア?」
「えっと、その……」
そして全然思い至ってない大介ら四人もアレーティアやシアが耳打ちをすればすぐに理解を示し、あぁ! と声を上げて反応する――そして全員が可能な限り横に並び、技能や魔法をミレディに見えるように発動したのである。
「「「「“風球”」」」」
「えーと、“身体強化”!」
『“纏雷”っ!』
そうして全員の魔力光をミレディに披露する。解放者の住処にあまり影響が出ないよう、発動した際に自身の魔力光がハッキリと見えるようなものを選んで発動したのであった。
「魔力光?……そっか、確かに個人で差があるから――」
鷲三は紺、霧乃は藤色、アレーティアも金と魔力光には個々人で違いが出る。しかし、アレーティアを除く恵里達オルクス大迷宮攻略組は
向こうは雫と鷲三、霧乃が家族であることは把握しているし、そして何人もの人間が同じ色になることはあり得ないということもわかっているはず。だからこそこの光景を見せれば大迷宮で何かあったときっと理解してくれるだろうと誰もが判断し、こうして披露したのだ。
「あれ、一部だけ一色……魔物と、おんなじ――あ、あぁぁあぁあああぁあぁあぁあ!!!」
結果、ミレディ発狂。ムンクの叫びみたいなポーズをとったり、頭を抱えてうずくまったりしていた。
「そういや俺らの魔力光、マジで魔物と同じだな」
「え? 良樹さん、皆さんも今気づいたんですか? え?」
なお一部の面々は自身の魔力光が魔物と同じであるというミレディの発言に納得したり、そこから『魔物食べて強くなるのって変成魔法みたいなものなのかもね』と推測を語るなど割と場違いなことを言い合っていた。
「“鎮魂”っ! 恵里も幸利達も話し合いしてないで“鎮魂”かけてくれ!」
「“鎮魂” “鎮魂” “鎮魂”っ!」
「やめてぇええぇえぇ!! 私を正気に戻さないでぇええぇ!!」
頭がおかしくなった彼女を見て即座に光輝が反応。雫と一緒に“鎮魂”を連打し、どうにかミレディの精神を落ち着かせようとしたようだった。なお彼女からすればありがた迷惑であったようで、泣き言を言った直後に部屋の片隅に逃げてガタガタ震え出してしまう。
「もうやだ。現実こわい。この人達もっとこわい」
「ったく、面倒臭いなぁ。この程度のことで発狂しないでよ」
「いや普通発狂するって」
「……とりあえず彼女が落ち着くまで待とうか、皆。まだ大迷宮攻略の証ももらってないしさ」
そんなミレディを見て恵里が深くため息を吐きながらつぶやけば、鈴が容赦のないツッコミを恵里に入れる。その直後、光輝の提案に誰もがうなずいた。
彼の気遣いはもちろんのこと、この後楽にここを出られるだろうからだ。オルクス大迷宮の地上に繋がる魔法陣やグリューエン大火山のショートカットが攻略の証によって起動したのだし、ここもそうだという推測は容易に出来たからである。
「ちくしょう。私の価値は攻略の証ぐらいかよぉ~」
「何言ってんの。エヒトブッ殺すためにも役に立ってもらうんだから。大人しく鉄砲玉に――」
「恵里、なぐさめるのはいいけど変に刺激しないでね。めっ」
だが今度はそのことでミレディがいじけてしまう。虚空に手を伸ばそうとして引っ込めたり、恨みがましい表情を仮面に浮かべながら恵里達へと向けるなどといったことをやっていた。恵里がエヒト討伐のことを口にした際にほんの少しだけ顔を上げたものの、鉄砲玉扱いされたらすぐにうつむいてしまう。
「……光輝の言う通り、待った方が良さそうだな」
「魂魄魔法は逆効果かもしれないしな……とりあえず、手に入れた重力魔法の使い道について色々話し合いでもしようか」
龍太郎と光輝の出した結論に誰も異論をはさみはせず、時折ミレディの方に視線を向けながらも手に入れた重力魔法について恵里達は話し合う。そうして向こうから動きがあったのは話し合いを初めてかれこれ数十分が経過したころであった。
「あーもうわかった。わかったよぉ。君達が本当にとんでもない奴らだってのはわかった」
心底げんなりした声色と表情を浮かべ、のろのろとした足取りでミレディはこちらへとやって来る。恵里達としても丁度良いタイミングであった。何せ重力魔法を活用して空を飛ぶ移動手段を作ろうと話し合った際、光輝が見た目を〇レニアムファルコン号にしたいと言ったり、幸利がグラ〇サイファー造って乗りたいと力説したり、ハジメがあえて超巨大マンタみたいなファンタジー感全開にしたいとゴネたことで収拾がつかなくなってたからだ。
「“鎮魂”っ! はい。光輝君もハジメ君も幸利君も落ち着いて!」
「……俺はあきらめないぞ」
「俺だって曲げねぇからな」
「僕だって絶対通すから」
「ハジメくんも光輝君も幸利君も落ち着いてねー。ミレディがすごい顔してこっち見てるよー」
香織が即座に“鎮魂”をかけるも、納得のいってない様子の三人はまだにらみ合っていた。珍しくハジメに対しても呆れた様子を見せた恵里は、彼らに注意するとすぐにミレディの方に視線を向ける。
「まぁ私が与えた魔法でどうするかはそっちの自由だけど、アーティファクトの見た目でどうこう争ってる場合じゃないでしょ」
そして至極尤もなことを言われてハジメ達も渋々といった様子でにらみ合いをやめると、ミレディも真顔の表情を浮かべながらもどこか真剣な空気をまとわせながら話しかけてきた。
「あの時君達のことを覚悟が無い奴らだなんて言ってごめんね……出来ればこういう形で常に死と向き合い続けてた人間以外が良かったけど」
『おい』
軽く頭を下げながらミレディは謝罪をした。ただ、ちゃんと覚悟があったことを認めてくれたといってもその後の文言が余計だったせいで即座に恵里達は軽くドスの利いた声でツッコミを入れる。
「いやだから申し訳ないって思ってるってば……これ以上下手なこと言ったら余計にこじれそうだね。だから」
ほんのりと眉尻を下げて苦笑している表情を浮かべたミレディは懐から指輪を取り出し、それを恵里に渡すとすぐ自身の真横に大量の鉱石類
「あ、これが証の」
「そ。それとこれは私からの餞別。ゴーレムを動かすのに使ってた感応石とかととっておきだよ」
上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインをした指輪を見てほんのり口角が上がった恵里であったが、ミレディの述べた内容に軽く驚いた様子を見せる。感応石は後で作り方を研究しようと思っていたがこうして現物を渡してくるとは思わなかったし、彼女が述べた『とっておき』を含めて他にも色々と手渡してくるとは予想外だったからだ。
「この二つがとっておきでね――あのクソ野郎を殺す道具、そしてアイツの“神言”対策のアーティファクトだよ」
そう言いながら短剣とビー玉くらいの大きさをした灰色の珠を恵里達に見せる。それらに顔を向けながらどんなものなのかとミレディが語った時、不意にぞわりとしたものが恵里の背筋を駆け抜けた。以前雫がエヒトに対して向けた殺意、それを何段も鋭利かつドロリとしたものを感じ取ったからだ。
「……禍々しさとも区別のつかない力を感じるな」
「そんな、強力なものを……」
「うん。これを使ってほしいってのもあるけど、君達の目標にもしてほしいからね」
浩介や隣のハジメがどこか
「目標、ですか」
「そう。君達がこういうのを造れるようになって、あのクソ野郎を殺せるようになるためにもね」
顔を向ければ、手渡されたハジメだけでなく光輝や幸利、深淵卿になった浩介にアレーティアなども息を吞んで二つのアーティファクトを見つめている。残りの神代魔法を集めれば作れるようになるのだろうかと思っていると、ミレディは仮面に真剣な表情を浮かべた。
「そのためにも全ての神代魔法を手に入れてほしい。誰でもいい。七つ全てを手にして、“概念魔法”を造ってほしい」
そのミレディの言葉に思わず恵里もうなずきそうになり、ハジメや他の皆は何度か首を縦に振っていた。聞いたことのない魔法であり、記憶の中では七つしかないはずの大迷宮を超えた先にあると明示されたそれを聞いて恵里は生唾を吞む。この二つがその正体であり、それがエヒト殺しの切り札となる存在の名前なのかと理解したからだ。
「叶う事ならアイツの居場所に行く概念魔法も渡しかったんだけどね~。あのクソ野郎にハメられた時になくしちゃってさ~」
ちょくちょく見せていた軽い感じでミレディが話をした時、ふとあることが恵里は引っ掛かった。エヒトの居る場所に行く、ということはもしかすると自分達がいつかしたいと思っていたこともこの“概念魔法”とやらは叶ええてくれるのではないかと思ったからだ。
「もしかして――」
「うん。そこのエリちゃんが言ってたように君達が元の世界に戻る手段だって概念魔法で造れるよ」
ハジメが問いかけようとした時、ミレディが先んじて述べた言葉に恵里達は言葉を失ってしまう。まさかこんなところで地球に戻れる手段のヒントを手に入れられるとは思わなかったからだ。
「もど、れる……僕達地球に帰れるんだ!」
「やるぞお前ら! エヒトの奴をブッ殺して地球に戻るんだ!」
「やろう皆! フリードの行った氷雪洞窟もちゃんと行って、概念魔法を手に入れようよ!」
故に恵里達はこの上なく沸き立った。ずっと切望していた願いが全ての大迷宮を超えた先に、全ての神代魔法を手に入れた先にあると知って抑えが効かなくなったからである。鷲三も霧乃も今ばかりは年甲斐もなくはしゃいでおり、その様をアレーティア、フリード、シアとミレディが見つめていた。
「アレーティア、シア。貴様らはどうするのだ? どうせ檜山と斎藤と一緒に行くのだろう?」
「……はい。私の居場所は大介の隣、ですから」
「えぇ。私はずっと良樹さんの隣を歩くと決めましたから」
「やはりか……ま、私は止めん。したいのならば勝手にしろ」
今も盛り上がっている恵里達を見つめながらフリードが問いかければ、アレーティアは少しオドオドしながら、シアは明るくそれに答える。フリードもフッと薄っすらと笑みを浮かべるとただ短くそう返して何も言わなくなった。
「頑張ってね。私達が果たせなかった願い、君達に託したよ」
そしてこの大迷宮に挑んだ挑戦者全員を見ながらミレディはひとりつぶやく。自分達の宿願を彼らに託して。その表情はひどく穏やかなものであった。
これまで積み重ねてきたことは誰であっても否定させたくない、ってのが作者の持論です。
えぇ。『誰』が積み重ねたものでもね。ふふっ。
2024/6/6 19:35 割烹のタイトル、アンケートの内容ちょっと修正しました。