あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

166 / 208
二週間経ってないからセーフ(セーフじゃない)

……コホン。では月二回がなんかもう恒例になった気がしますが、改めまして拙作の読者の皆様への盛大な感謝を。
おかげさまでUAも211393、お気に入り件数も932件、しおりも458件、感想数も732件(2024/7/2 22:37現在)となりました。誠にありがとうございます。久々にかなり跳ねた気がします。ありがたいです。

そしてAitoyukiさん、今回もまた拙作を再評価してくださり誠に感謝いたします。おかげさまでまた話を進める力をいただきました。

では今回の話を読むにあたっての注意点としてかなり長い(15000字足らず)のと一部ギスります。では上記に注意して本編をどうぞ。


幕間五十七 これが彼らの進む道・破

「よくぞ戻った。貴公らこそが真なる魔人族の英雄である」

 

 魔人族の国、ガーランド。魔人族の王が君臨する城の謁見の間にて、王は眼前にいる二人の魔人族を称賛する。

 

「もったいなきお言葉です。アルヴ様」

 

「ですが多くの犠牲を払ってしまいました」

 

「よい。過去を嘆く必要はない」

 

 (ひざまず)いていたのは右ひざから下を失った男、左ひじから先を無くして右目に大きな傷を負った女であった。王の言葉に申し訳なさそうに返事をする二人であったが、玉座に座っていた魔王――アルヴヘイトは穏やかな表情で彼らを見つめるだけであった。

 

「彼らのことは私も残念に思う。とはいえ貴公らも含めて氷雪洞窟で甚大な被害が出ることは承知の上で挑んだのだ」

 

 アルヴヘイトの目の前にいる二人は先日氷雪洞窟を突破して変成魔法を手にした男女であった。一週間ほど前に大隊規模に部隊を編成し、少なくない数の魔物も伴わせた上で派遣した。だが変成魔法を手にしたのはこの二人だけだったのである。

 

「彼らの死は決して無駄ではない。魔人族繁栄の礎となるだろう」

 

 アルヴヘイトも相応の被害が出ることは承知の上で派遣している。故に同族の被害を気に病む必要はないと述べたものの、それを聞いた男の表情は怒りと憎しみに染まっていた。

 

「……失礼を承知で申し上げます。これもそれもフリード・バグアーが裏切ったせいです! フリードさえ裏切らなければ……奴さえ裏切ることが無ければ今頃……」

 

「待ちなミハイル!……申し訳ありません。アルヴ様」

 

「構わない……私としてもフリードの事は残念だったよ」

 

 ミハイルと呼ばれた男は憤怒を堪えた様子でそう述べるも、隣にいた女がそれを止める。アルヴも残念そうに眉を落とし、ため息を吐きながらもミハイルの言を認めた。そして二人に向けて優しい眼差しを向けながらアルヴヘイトは語る。

 

「奴の裏切りのせいで我ら魔人族は窮地に立たされかけた。だがそれを乗り越えようと君達を含めた少なくない魔人族が立ち上がったのだ。そうして戦う力を手にしてくれた……その力、私や民のために使ってくれるか?」

 

 この派遣でもやはり多くの魔人族が死んでしまい、また生き残りもほとんどが前線に復帰するのも難しいほどに負傷してしまったという報告を受けていた。しかしそれを帳消しに出来るほどの成果を目の前の二人は挙げていたのだ。アルヴヘイトはやや芝居がかった様子で言葉を紡ぎ、ミハイルらに問いかける。

 

「無論です! 私達はそのためにこの力を手にしました!」

 

「はい! 私達の力を存分に使ってくださいアルヴ様!」

 

 アルヴヘイトはその答えに満足げに微笑む――想定通り。そして嬉しい誤算を前に偽りの魔人族の神は心の中で愉悦に浸っていた。

 

(フリードが抜けたのは想定外だった。適当な所で死んでくれれば面倒にはならずに済んだのだが……しかし我が主の器が見つかり、しかも心が脆いまま力をつけてくれている。そして神代魔法を手にした魔人族が二人出た。それと比べれば些細なことに過ぎん)

 

 かつて己の主から受けた言葉をアルヴヘイトは思い返す。不都合なことは確かに起きた。しかしそれ以上に己の主君にとって好都合なことが起きているのだ。眷属たるアルヴヘイトは喜悦を堪えながらもエヒトから下された命を口にする。

 

「ならばミハイル、カトレア。貴公らはその力で戦力を拡大せよ。そして――」

 

 それは主たるエヒトルジュエが更なる力を手にするための布石である。目の前の神の駒がそれに応じたのを見て、アルヴヘイトはひそかに口角を上げたのであった。

 

 

 

 

 

「浩介、鷲三さん。どうでした?」

 

「見た感じ近くに魔物もいないな。巨大クリオネもだ」

 

 巨大クリオネに襲われた幸利達は大迷宮の地面を破壊し、どうにか逃げようと画策する。しかしその下の空間は荒れ狂う海のミニチュアのような場所であった。その海流に誰もが吞まれてしまい、どこか無人島のような場所へと幸利らはたどり着いたのである。

 

「水流に吞まれた時は焦ってしまったがな。見ての通り海水に再度呑まれる心配もなかろう」

 

「そいつは安心しました……流れるプール、もう行けねぇ気がする」

 

 周囲や天井を見渡しながら述べる鷲三に頭を下げつつ、幸利はうへぇとため息を吐いた。今彼らがいる場所は真っ白な砂浜が続き、ずっと遠くに木々が鬱蒼と茂った雑木林のような場所が見えているようなところだ。また頭上一面には水面がたゆたっており、結界のようなもので海水の侵入を防いでいるようである。

 

「浩介、アレーティアさんはどうだ?」

 

「へこみっ放しだよ……大介が作ったお守りでどうにか立て直そうとはしてるみたいだけどさ」

 

 とんだところに流されたなと内心ボヤきながらも、幸利は近くにいた浩介の分身にもう一人の仲間の具合を尋ねる。

 

 この空間にたどり着いたのは幸利、浩介、鷲三、アレーティアの四人だけであった。浩介と鷲三曰く、八重樫道場の忍者達が例の激流の中を進んで合流しようとしてくれたらしい。しかし魔法による水流の操作や即席の岩の鎖での体の固定など色々試みたものの分断されてしまったと二人は述べていた。

 

「……わかった。俺もなんか言葉をかけてみるよ」

 

「ありがとう幸利……その、無理すんなよ」

 

「無理なんてしてねぇよ」

 

 距離が離れすぎているのかそもそも特殊な空間なのか、“念話”や“心導”でも連絡が取れず他の皆の無事はわからない。湧き上がってくる不安を胸の中に押し込めながらも、浩介と軽くやり取りを交わしてから幸利はアレーティアのところへと向かう。

 

「あー、アレーティアさん。大丈夫か?」

 

「……ぐすっ」

 

 そうして体育座りをする彼女の近くに来てみた幸利だったが何を言えばいいかわからず、気まずそうな表情を何度も浮かべたり腕を組んだりしながらしばし突っ立っているだけだった。

 

 アレーティアの近くにずっといた浩介本人や後ろから来た鷲三から向けられる心配そうな視線が突き刺さり、余計に気まずさを感じてしまった幸利は何度も視線を泳がせる。

 

「別に、俺は責めてねぇよ。浩介も鷲三さんも、きっと……きっと優花達だってそう、だ。な?」

 

「……ごめんなさい。ごめんなさい」

 

 そうして何度かため息を吐いてからなるようになれと考えると、その場で(かが)んで彼女にいたわりの言葉をかける。しかしアレーティアは濡れ鼠のまま、顔をうずめて縮こまっているだけであった。

 

「仕方ねぇよアレーティアさん。対策を一切しなかった訳じゃないし、場所が悪すぎたんだ」

 

 幸利が目を覚ました時からずーっと彼女は意気消沈しており、そのそばで浩介がずっと声をかけ続けていたのだ。そのせいなのか目を覚ました時よりは落ち着いているように幸利には見えている。その証拠に彼女の右手からチカチカと光が漏れていたからだ。

 

「でも、でも私……判断を誤って皆さんを……」

 

 ここに来る前、大介が彼女のために“鎮魂”を付与したお守りを作ったと言っていたのを幸利は覚えている。さっきから右手の中で光り続けているのもきっとそのアーティファクトを何度となく使い続けているせいだろうということは容易に想像が出来た。

 

 泣き言を漏らしながらもそれを光らせているのは必死に立ち上がろうとしていることの証拠なんだろうと察し、幸利は心の中で称賛を送る。

 

「アレーティアさん」

 

「……はい」

 

 とはいえこのままここにいても時間が過ぎるばかりであったし、どう立ち直らせるかと思った矢先に鷲三が声をかけた。彼女も顔を上げないながらもびくりと肩を反応させており、鷲三に期待しながら幸利は見守ることにした。

 

「あなたはパニックを起こしても結界を解かなかった。もし仮にそうしてしまっていたらわし達はひとたまりもなかっただろう。それに攻撃の手を緩めもしなかった。檜山君という心の支えが無い状態でもな」

 

 その言葉の後、アレーティアはゆっくりと顔を上げる。目は潤み、鼻水も時々すすりながらも見つめ返す彼女に対して鷲三は再度言葉をかけた。

 

「撤退するかどうか迷ったのも今後のことを考えたからではないか? 次にここを訪れた時もまたあの生き物がいるやもしれない。違うだろうか」

 

「……はい」

 

 鷲三の問いにうつむきながらもアレーティアは答え、幸利もまたそれを聞いてハッとする。もし仮にここに再挑戦した際にあの生き物がいた場合、自分達はどこまでやれるかがわからなかったからだ。

 

 こうして真っ向から戦ったことであの生物の恐ろしさは嫌という程理解できた。火炎放射器による攻撃以外は効きが悪い相手が無尽蔵に出てくることを考えると、どうやって対処をすればいいのか幸利も思いつかない。

 

「……そうだな。また出くわすことを考えるとアレーティアさんやフリードが撤退の判断を下さなかったのもわかる」

 

 海の中なら重力魔法で無理矢理全て海の上へと引きずり出し、マトモに動けなくなったところを飽和攻撃で倒すということも可能だろう。だが大迷宮という限られたスペースの中、しかも下手に強力な攻撃をしてしまえば自分達が生き埋めになるような場所では戦い方も選ぶ必要がある。

 

 それに先程の戦闘からして相手も確実に倒せるかどうかもわからないのだ。本当にとんでもない奴を相手にしたものだと思い返し、幸利もまた体をぶるりと震わせた。

 

「おまけに海の中の大迷宮だからな。下手に攻撃して大迷宮が壊れたらさ、流れ込んできた水に流されたり水圧で潰されかねないし。だから間違ってなかったって」

 

 浩介も続いて説得をしてくれたことに内心感謝しつつ、幸利はアレーティアを見やる。彼女も何度も目元をゴシゴシと腕でぬぐった後、目元を赤くしながらも立ち上がったのであった。

 

「……ごめんなさい。待たせてしまいました」

 

「いいさ。それよりすす……いや、待った」

 

 彼女も立ち直ったからと幸利は先に進もうと号令をかけようとした。しかしあることが気になりすぐに浩介、鷲三とアイコンタクトをとり、二人と一緒に彼女に背中を向ける。

 

「? あ、あの、皆さん?」

 

「いやー、その……俺達大介に恨まれたくないからさ」

 

「先にそちらの支度を済ませてからでいいだろうか」

 

 案の定、背後から心細そうにアレーティアが声をかけてきた。幸利も気まずそうにしながらも言葉を選んで説明しようとしたが、鷲三が一度せき払いをしてから遠回しに理由を言ってくれた。そのことに心の中で感謝しつつ、浩介と一緒に息を吐く。

 

「っ……はいぃ」

 

 数秒の静寂の後、恥ずかしそうにつぶやいたアレーティアの声を聞いた幸利は軽く赤くなったほほを指でかいたのであった。

 

 

 

 

 

「神罰を受けよ魔人族!」

 

「薄汚い人間族どもが! 滅亡せよぉー!!」

 

「ったく、どうなってんのよ! 話ぐらい聞きなさいってば!」

 

「私達戦う気はないんだってばぁー!」

 

 幸利達がアレーティアの立て直しに成功した頃、優花達は無数の兵士に襲われていた。あの激流に呑まれた後、彼女達は巨大な地下空間で海底都市とも言うべき廃都に無事にたどり着いていたのである。

 

 一行は服を着替えてからこの廃都を進んでいたのだが、ある時突然空間が歪んで二国の軍隊――人間族と魔人族の部隊が襲い掛かってきたのだ。

 

「おしゃべりはそこまでにしておけ園部! これで燃や――何っ!?」

 

 その際優花と奈々は自分達に敵意は無いことを訴えたものの相手は聞く耳持たず。何かを察した様子のフリードと霧乃だけは即座に戦闘態勢に移って攻撃。しかしフリードの火炎放射器による攻撃は一切効かず、放たれた炎はすり抜けてしまったのだ。これにはフリードも目を見開き、奈々も優花もギョッとした顔つきで辺りを見ていた。

 

「火炎放射器が効いてないよ!? あぁもう“波壊”っ!」

 

 そこで奈々が水系中級魔法である“波壊”を発動し、四方八方に津波を起こす。これで一旦押し流して仕切り直しにしようとしたのだろう。意図を読み取った優花もすぐにナイフを構えようとしたが、想定外の光景を目にして思わずナイフを落としてしまいそうになった。押し寄せる波と共に兵士達が消え去ったのだ。

 

「ど、どうなってるの!? 魔法当てただけで消えるなんて!?」

 

「なるほど……つまり魔力か何かで構成された影ということですか!」

 

 どういうことかと理解するよりも先に霧乃が翼を展開し、無数の羽を発射すると一気にその姿が淡い光となって消えていく。少し遅れてカラクリを理解した優花もすぐにナイフを宝物庫にしまうと、魔法の発動に移る。

 

「霧乃さんの言った通り、魔法じゃないとどうにも出来ない仕掛けってワケね! “波壊”っ!」

 

 選択したのは奈々と同じ魔法。炎系の魔法を発動させて水蒸気爆発を起こしてもまず無意味であり、また風系のものだと魔法を構成する核以外は普通の風と大差ないということが分かっていた。そして土系よりも水系統のものは展開が早い。それ故のチョイスだった。

 

「――“辻波”っ! 貴様ら、敵が延々と出てくる可能性もある! 近くの家屋の上に逃げるぞ!」

 

「「了解っ!」」

 

「わかりました。では失礼します」

 

 しかし津波を数度起こした程度では簡単にいなくならなかった。そこかしこから大量に押し寄せて来たため、フリードの号令と共に優花と奈々は“空力”を使いながら退避。フリードも霧乃と目を合わせ、黙ってうなずいてから彼女に担がれていった。

 

「ふぅ……とりあえず全員逃げ切れたみたいだけど」

 

「様子見のためにも一度周囲を見渡すべきだろう。目的地の一つぐらいは見つけるべきだ」

 

「確かにフリードさんの言う通りですね。二人とも、気を付けて」

 

「はい、霧乃さん。あとフリードも」

 

「わかったよ。霧乃さんとフリードさん」

 

 そうして適当な建物の屋上まで優花達は退避に成功する。そこでここら一帯を見渡そうと話し合い、下に目を向けた瞬間優花は顔をしかめた。通りのそこかしこで血しぶきが舞っていたせいだ。先程自分達が攻撃した時と異なり幻同士の殺し合いでは流血したりケガしたりするらしく、思わず口元を手で押さえてしまう。

 

「これって……」

 

「むごい、ね……」

 

 通りや廃屋をべったりと血が汚しているのはまだマシな方だ。誰のものとも知れない臓物や欠損した手足、あるいは頭部が至る所で撒き散らされてかなりスプラッタな状態になっていた。誰も彼もが“神のため”だの“異教徒”だの“神罰”といった言葉を連呼し、眼に狂気を宿して殺意をむき出しにしながら戦っている。

 

「……見るに、堪えんな」

 

「流石の私も、ここまでむごい光景は……」

 

 優花と奈々が顔を青ざめさせている中、霧乃も口に手を当てて堪える様子であり、フリードもまた渋い表情を浮かべながら下の惨劇を見つめている。ふと優花の脳裏にかつてオルクス大迷宮で自分達が神殿騎士と争った記憶がフラッシュバックし、自分達も似たようなことをやっていたんじゃないかと疑問を抱いてしまう。

 

「……サイッテー」

 

「否定はせん……っ、攻撃が来たぞ!」

 

 今も昔もエヒトはこんなことをやっていたのかと嫌悪感に苛まれ、フリードからも同情される。だがそうしていられたのもつかの間であり、すぐに下から人間・魔人族問わず攻撃がカッ飛んできたのだ。少し息を荒くしている奈々の手を優花は引っ張り、即座に体を隠した。

 

「広範囲に吹っ飛ばす魔法なら……私とナナ、フリードで“震天”を使えばやれるかしら」

 

「お前達はともかく私はすぐに魔力が枯渇するから却下だ。幸い中級程度であっても魔法が当たれば消えるのだから、広範囲に効果を及ぼす魔法を使いながら進むしかあるまい」

 

「補充すれば大丈夫じゃないかな?」

 

「どこまで大迷宮が続くかもわからん状況で消費の激しい神代魔法をすぐに使うな。全く……」

 

 そこで優花は頭の中に浮かんだ手っ取り早い方法を口にするが、あえなく却下。奈々も魔晶石による回復があると述べたものの、フリードから正論をぶつけられてお互い沈黙してしまう。至極尤もであった。奈々と一緒にばつの悪い表情を浮かべた優花はため息を吐きながらこの場にいる全員に視線を向ける。

 

「じゃあフリードの言う通りにするわ。そうなるとナナと同じ水属性で攻めてくのがいいかしら」

 

「そうですね。私も合わせます。けれども幻が無限に出続ける可能性もありますし、倒し続けるのは現実的ではないかしら」

 

「だろうな。そうなると……奥にある城らしき建物を目指すぞ」

 

 下から多様な攻撃が飛んでくる中、身をかがめながら四人は話し合いをする。そして方針が決まったところで四人は魔法を何度となく発動しながら廃都の奥にある巨大な建築物を目指して動くこととなった。

 

(ユキ……無事でいてよ)

 

 各々魔法で無数の敵を薙ぎ払っていく中、優花はひとり思う。二尾狼との戦いで自分の心が折れてしまいそうになった時、自分を奮い立たせてくれた少年のことをだ。いつも自分の近くにいたのに今はいない。そのせいでひどく心細くなってしまい、敵に対処しつつも彼のことで頭がいっぱいになっていた。

 

「幸っち……」

 

 故に優花は気づかない。親友が彼の名前を愛称で、それも心細そうに呼んだことに。今にも泣きそうな顔で彼のあだ名をつぶやいたことに。フリードが軽く眉をひそめ、霧乃が微笑みを浮かべたことすらわからぬまま優花は大迷宮を進んでいくのであった……。

 

 

 

 

 

「皆さん、落ち着きましたか?」

 

「……ちっとはな」

 

 優花達が大迷宮を進む一方、幸利達もまた同様にメルジーネ海底遺跡を攻略していた。砂浜の先にある密林を抜け、無数の廃船がたたずむ岩石地帯へと足を踏み入れた。船の墓場とも言うべき場所を不気味がりながらも進んだ際、優花達と同様の異変に()()襲われたのである。

 

「……悪い、アレーティアさん」

 

「いささか刺激が強すぎたものでな……立てるか。浩介君、幸利君」

 

 一つは何百もの船が浮かぶ大海原の中での海戦に巻き込まれるというものであり、もう一つは和平条約を結んだ各国の各人種が集う船上のパーティーが一転して惨劇に化けるものだ。

 

 誰も彼もが目を血走らせながら戦う場所に放り込まれ、最初は和やかだったパーティーの会場が神の使徒によって操られた人間が起こすスプラッターショーを見せられた。その上どちらも血しぶきや切り落とされた手足などが舞ったり、臓物や首などもそこらに転がってるのが珍しくない代物であった。

 

「なんとか……もう腹の中に、何も残ってませんし」

 

「あぁ……あんな胸糞悪いもん見せられたけど、まだ優花達と合流出来て、ねぇ。立つさ」

 

 結果、アレーティアと鷲三は口を手で押さえて吐き気を堪え、幸利と浩介はその場で四つん這いになって戻したのである。比較的早くアレーティアは立ち直ったのだが、幸利達は“鎮魂”をかけてもらっても落ち着くのに少し時間がかかった。そのことを幸利は少し気に病んでおり、またある()()もあったことからすぐにでも動こうとした。

 

「無理はするものじゃない。まだ顔が青いだろう」

 

「……すんません。でも、優花達や霧乃さんも……さっきみたいな映像を見せられてると思うとつい」

 

 鷲三の分身に支えられながらも幸利は理由を話す。それは二つ目の異変である和平条約締結後の船上パーティーの方でわかったことだ。そのパーティーはある国の王様が演説を始めるまでは和やかな雰囲気で悪い意味で気になる点は無かった。しかし、その演説を始めた当人とその隣にいた見覚えのある不審者が問題だったのである。

 

「お二人も、その……」

 

 その不審者はかつてオルクス大迷宮で出くわした神の使徒の姿とひどく似ており、またその演説をした王の様子がかつてエヒトに操られていた鷲三と霧乃とどこか被って見えたからだ。

 

 その王は狂信といえるレベルでエヒトへの“信仰”を口にしており、国や種族を超えて手を取り合おうとしていた彼らを差し向けた兵によって血祭りにした。それがウルの街で再開した時の二人と被って見えたのである。

 

「気を遣わんでいい……遥か昔からエヒトは似たようなことをしていた。ただそれだけでしかない」

 

 故にアレーティアも気遣った様子で声をかけたが、鷲三はただ苦渋に満ちた表情で首を横に振るだけ。後はただエヒトは昔から変わらなかったとつぶやくだけで他に何もしなかった。そんな様子の鷲三に幸利もいたたまれなくなり、思わず顔を背けてしまう。

 

「あの、皆さん……」

 

「行こう、幸利。それと鷲三さんも。アレーティアさんもそう言おうとしてたみたいだし」

 

「……あぁ」

 

 辺りに気まずい空気が流れた時、浩介の服のすそをちょんとつまみながらおずおずとアレーティアが声をかける。すると浩介も彼女と目配せをしてから二人に声をかけ、親指で前を指し示した。あえて空気を壊してくれたことに内心感謝しつつ、幸利は鷲三の分身に肩を貸してもらいながら一歩踏み出していく。

 

「暗いな……えっと、緑光石は……と」

 

 今四人がいたのは船の墓場の中の奥、そこでたたずんでいた豪華客船であったものの中であった。最初にその廃船を見つけた当初は特にこれといった変化も無かったのだが、四人がこの船の最上部にあるテラスへと降り立った際に例の二つ目の異変が起きたのだ。

 

「鷲三さん、見えます? 俺と幸利は技能のおかげ、アレーティアさんは吸血鬼だから見えるみたいですけど」

 

「うむ。助かる。いくら夜目が利くとはいえ、明かりがあるに越したことはないからな」

 

 二つ目の異変が終わった後もしばしそこで休んでいた一行だったが、甲板へと降り立って船内へと足を踏み入れる。先の異変の際、乱心した様子の王が兵士と神の使徒らしき存在を引き連れてそうしたからである。甲板に降りた後、四人は王様達の行き先を目で追うとすぐにアイコンタクトをとってから同じ道をたどっていく。

 

「なんつーか、お化け屋敷っぽいな」

 

「香織と妙子がいなくて良かったよ。アイツら発狂すんじゃねーか」

 

 幸利と浩介がそう話すのも無理はない。四人が入り込んだ船内は何故か完全に闇に閉ざされていたからだ。外は明るいし朽ちた木の隙間から光が差し込んでいてもおかしくないのだが、何故か全く光が届いていない。まぁそういうもんかと思いながら幸利は即席のライトを使って道を照らす。すると前方に向けられた明かりが白くヒラヒラしたものを照らしたのである。

 

「……亡霊?」

 

「そういえば二人は苦手だと聞いたな……アレも魔力で対処出来るのだろうか」

 

 足を止めた幸利はライトの光を少しずつ上に上げていく――その正体は女の子だった。白いドレスを着た女の子が、うつむいてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。先の二つの異変からアタリをつけたらしいアレーティアと鷲三は感想を漏らしながら、幸利は浩介と共に“夜目”の技能で他に何かないかと確認しながらも身構えた。

 

「うん。あの二人いなくて良かったわ。確実に進むどころじゃなくなる。特に妙子」

 

「どれだけダメなんだよあの二人……」

 

 薄っすらと目を細めながら言う浩介に幸利が顔を引きつらせながらツッコミを入れる。するといきなり女の子がペシャと廊下に倒れ込んだ。そして手足の関節を有り得ない角度で曲げ、まるで蜘蛛のように手足を動かして真っ直ぐ四人に向かって突っ込んで来たのである。

 

「……気持ち悪い。“水槌”」

 

「やはりか。船上での戦いと同様、魔力を伴った攻撃は通じるようじゃな」

 

 ……が、アレーティアの容赦ない魔法の一撃が当たり、少女は盛大に吹き飛んで壁や廊下に二回ほどバウンドする。そのまま溶けるように消えていった幽霊らしき女の子を見て冷静に鷲三がコメントし、幸利と浩介もうなずいた。

 

「普通に引くな……大丈夫かあの二人」

 

「無理じゃねぇかな。むしろ絶対行かないって言うだろ……もしかすると優花達の方もこんなかもな」

 

 簡単に倒せることがわかりはしたが、ここがこういう場所だとわかった上であの二人は来るだろうか。若干遠い目をしながら幸利がボソッとつぶやけば、浩介も半目でそう返す。やっぱりかと思っていると、優花達の方も似たような状況だろうかとついでに浩介がつぶやき、幸利の顔は少しこわばってしまった。

 

「かもな……無事かな、アイツら」

 

「幸利?」

 

「いや、何でもない」

 

 どこか胸がざわめく感じがし、幸利は軽くうつむきながらぽつりと漏らす。浩介もそんな幸利に声をかけるも彼は頭を振り、肩を貸してくれた鷲三の分身の手を払いのける。そして前だけをじっと見つめながらゆっくりと歩いていく。

 

「幸利君? まだ無理は――」

 

「なぁ幸利。気になるのか、優花と奈々が」

 

 鷲三の声は無視したものの、唐突な浩介の問いかけに思わず幸利は足を止めてしまう。それと同時に記憶が幾つも脳裏によぎり、彼の中にあった焦りが大きくなっていく。のどの奥が渇いたような感じに襲われ、頭を鈍器で殴られたような気がしてひどく気分が悪くなった。

 

「……悪いかよ」

 

「待ちなさい幸利君」

 

 それをどうにか振り払おうとぶっきらぼうに短く吐き捨てて歩き出した幸利だったが、今度は鷲三が声をかけてきた。

 

「君は優花さんと奈々さんのことをどう思ってるのかね」

 

「……言わないと、駄目ですか」

 

 再度無視して歩いて行こうとしたが、この上ない直球の質問をぶつけられて再度幸利の足が止まる。質問の意図は彼にもわかる。自分がこうも動くことの理由を明らかにしたいということなのだろう。それぐらい察してくれよと苛立ちと焦りを抱えたまま振り向けば、誰もが心配そうな顔でこちらを見つめていた。

 

「あぁもう……好きだよ。好きで仕方ないんだよ! アイツらを“女”として見てるよ! 悪いか!!」

 

 遂にイライラを抑えきれなくなった幸利は叫ぶ。目を軽く見開くなり優しげな視線を向けるなり納得した様子の表情をした三人を見て、幸利は余計にイラついて思ったことを次々と口に出してしまう。

 

「仕方ないだろ! 二尾狼との戦いから妙に優花と奈々が俺に声かけるようになって、飯作ってる時は大体二人のどっちかが俺と一緒だった!」

 

 解放者の住処にたどり着いた辺りから薄々感じていた。二人は自分に気があるのじゃないかと。思えば真のオルクス大迷宮の辺りから自分にやたらと絡むようになったし、自分のことでやたらと一喜一憂するような気がしていた。

 

「優花も変に不機嫌になるし、奈々は悲しそうな顔をするようになった! 俺がそっけない反応したり二人が張り合ったりしてる時にだ!」

 

 あまり意識を向けてなかったというのもあるが、優花と奈々がやたらと張り合うようになったのは最初の二尾狼との戦い以降だったような気もしていた。一度光輝や雫に二人のことについて尋ねたこともあったが、『前はそんなことは無かった』と軽く目が泳がせたりどこか困った様子で答えていたのも幸利は記憶している。

 

「確信したのは俺が死にかけた時だ!!……あの時、二人とも泣いてた。ずっと俺にすがりついてた。俺が神水なんて使わなくってもいい、って何度言っても嫌がって使いやがった。そこまでされて、気づかないフリなんて出来ねぇだろ!」

 

 操られた鷲三と霧乃との戦闘の際に死にかけた時は意識がもうろうとしていたが、それでも優花と奈々が見たことが無いくらい泣きじゃくりながら必死に自分の治療をしていた。そのことだけはハッキリと幸利は覚えている。あの時の顔も、何度も声をかけてくれてたのも、神水で治った後の安堵した二人の様子も全てだ。

 

「心配だよ。どうしてかはわかんねぇけど、俺のことを好きになってくれた二人が今どうなってるかわかんなくて頭がおかしくなりそうなんだよ! アイツらが俺に神水を使おうとしてた時の気持ちが嫌でもわかる! わかっちまうんだ!」

 

 だからこそ今、二人の安否がわからないが故に幸利の心の中は荒れ狂っていた。あのクリオネモドキからはどうにか逃れられた。けれどもあの海流に流されて溺れて死んでしまったのでは? 妙な小島に流されて落ち着いた後、その不安が常に頭の中に根付いていた。その恐怖に彼は屈してしまいそうになっていた。

 

「俺のせいで……俺のせいで優花、奈々が……二人が死んだかもしれないって思ったらもう、もう……」

 

 怖い。自分の判断ミスのせいで死んだかもしれない。今ならわかる。あのへこんでいた時アレーティアを責めなかったのは、逃げるために打った一手が二人を殺してしまったかもしれない恐怖から目をそらしていたからだと。頭の中がぐちゃぐちゃになってしまい、幸利はその場で膝をついてしまう。

 

「“魄崩”っ!――幸利っ!」

 

 後悔と絶望が頭の中にべったりと張り付いていたせいで浩介が何故“魄崩”を使ったかも幸利にはわからなかった。三人が駆け寄り、浩介と鷲三が自分の体を抱きしめながら周囲をうかがっているのを見てようやく何かあったということに気付く。今自分は怪異の類に襲われたということに。

 

「霧乃がおる。フリードさんもおる。それに二人はそう簡単に倒れるような弱い子ではない。違うか?」

 

「それは……そう、だけど」

 

「進みましょう清水さん! 進んで、奥まで行って、別れた皆さんの安否を確かめましょう!」

 

 鷲三の言葉に弱々しく幸利は反論するが、続くアレーティアの必死な叫びに心が少し揺れ動いた。負の感情に支配された心にかすかな光が差し込んだような気がしたのだ。

 

「アレーティアさんの言う通りだよ! 優花達がどうなったかなんて後で確かめればいいだろ! とにかく抜けよう。生きて二人に会いに行こう!」

 

「……あぁ」

 

 浩介の説得を聞き、濁った幸利の瞳にかすかに光が灯る。まだ死んだとは確定していない。そのことを支えに、引きこもりになって腐りそうになっていた時に自分を助け出してくれた恩人の言葉に幸利はすがる。そして立ち上がって目の前の怪異――生首と斧を持ってこちらへと走ってくる男を見据えた。

 

「まだ……決まってねぇ。俺は、アイツらに……優花と奈々に会うんだ! “緋槍”っ!!」

 

 そうして幸利は怪異に向けて上級の炎系魔法を発動する。怖がりながらも、怯えながらも、二人に会いたいと願いながら進んでいく。そして――。

 

「“辻波”っ!……あぁもうっ! どうして、どうしてユキがいてくれないのよっ!」

 

 ――隣にいない相手を想っていたのは幸利だけではなかった。優花達もまた魔法を駆使し、建物の天井を伝いながら廃都を進んでいた。当初の目的地として城らしき建物まであと少しではあったのだが、そこに群がる幻影が多すぎて手を焼いていたのだ。

 

「“波壊”っ!――幸っちなら、もっと上手くやってたかなっ!」

 

 奈々も広範囲に水魔法を発動してなぎ払い、次々と敵を消していっている。しかしそれでも押し寄せる敵の勢いは微塵も衰えていないのだ。優花と同様に眉間にシワを寄せ、幸利の名前を出しながらも魔法を使って幻影を倒し続けていた。

 

「発言の意味はあえて触れんが、人手が多いに越したことはないということは同意しておく! “波壊”っ!」

 

 手に持ったプレートを光らせ、フリードも魔法を発動していく。これはフリードのみ詠唱するせいで発動に時間がかかることから優花が生成魔法、奈々が“波壊”を付与して作った即席のアーティファクトだ。

 

 移動の際は翼を広げた霧乃の手を掴んで建物を渡っていたフリードは今、三人と共に門に一番近い廃屋の屋根の上で敵をひたすら倒し続けていた。

 

「二人ともやはり幸利君のことが――シッ!」

 

 霧乃もフリードの手を引きつつ、魔法と羽根をバラ撒きながら三人と共に道を作り続けている。また魔力を纏わせれば幻影にも通用するのではと考え試し、今は手ごろなガレキに魔力を纏わせて投げることもやっていた。

 

「そ、そんなこと今は関係ないでしょ! 波か――」

 

 先の霧乃の言葉に思わず優花も反応してしまうが、すぐに頭を振って雑念を払おうとする。顔を赤くしつつも“波壊”の発動をしようとしていたところであった。

 

「……うん。好き。私、幸っちが男の子として好きだよ」

 

「う、うわわわっ!?……な、ナナ、アンタねぇ――」

 

 だがそれも奈々の言葉を聞いた瞬間に集中が途切れ、そのまま魔法は霧散してしまう。こんな時に何を言うのかと奈々に怒りをぶつけようとした優花だったが、振り返った瞬間に言葉を失ってしまった。

 

「本気だよ。優花っち……私ね、幸っちがいないと本当にダメだって思ったもん」

 

 顔を上げながらも涙をこらえ、持っていた杖を両手でギュッと握りしめながら立っていたのだ。鼻を軽くすすると同時に左目から涙がこぼれ、奈々は嗚咽(おえつ)を漏らす。場違いだとはわかっていても優花は彼女から目を離せなくなってしまっていた。

 

「さっきからね、ずっと幸っちがいてくれたらって思ってたよ。こんな状況でも文句言いながら戦ってるんだろうなって」

 

「ナナ……」

 

「もしかしたら私達じゃ思いつかないようなことをやって、それで楽にあのお城に行けたかもって」

 

 半分泣いているのに、攻撃の手を止めてるのに、それでも優花はただ奈々の愛称を言うだけしか出来ない。彼女の『もしも』を聞く毎に彼が言葉の通りに動いている様が脳裏に浮かぶ。奈々の言葉を優花は無視できなかった。

 

「何をしているか貴様ら!」

 

「二人とも攻撃を! 話はせめて解放者の住処に――」

 

「それに、それに――いてくれたらそれだけで安心できるのに」

 

 フリードの罵声も、霧乃の叱責も届かない。ただ目の前の少女の言葉だけが優花の心を支配する。その言葉に同調してしまい、優花は心を大きく揺さぶられる。

 

「……そんなこと、言ってる場合じゃない、でしょ」

 

「うん、わかってる……でも、でもっ!」

 

 聞きたくない。()()()()()()。だから彼女をとがめようとするが、己の口から漏れたのはあまりにもか細い声でしかない。奈々は遂に両目から涙をこぼし、赤い瞳を更に赤くしている。

 

「仕方ないじゃん! 私()幸っちが好きだから! そばにいないのがすごく辛いから!」

 

 その叫びを聞くのが苦しくて、自分からずっと目をそらすことなく訴えてた少女があまりにもまぶし過ぎて、優花は彼女の襟元を掴み、涙をあふれさせながら声を張り上げた。

 

「黙りなさいよ()()! 私だって……私だってアイツが、ユキが好きなのよ!!」

 

 遂に優花は己の中にあった感情を認めてしまう。幸利への思慕を、いないことの不安を、もしかしたら死んでしまっているのではという不安を。

 

「なんで……なんでアンタもユキを好きになったのよ! どうして、ねぇどうして!」

 

 ――そして、同じ人を好きになった親友への『怒り』と『恨み』を、素直になれる彼女への『嫉妬』を、友達を嫌ってしまった自分への『嫌悪』をだ。優花の叫びを聞いた奈々も歯を食いしばり、涙をボロボロ流して悲しみと怒りが入り混じった表情でその腕を掴んだ。

 

「仕方ないじゃん! ()()だってあの時好きになったんでしょ! 心が折れてた私達を励ましてくれた幸っちのこと!」

 

「そうよ! あの時私も救われた! 好きになって……好きになってもしょうがないじゃない!」

 

 自分の腕を握り潰そうとする程に強く掴みながら奈々は訴えてくる。今まで築いてきた友情に亀裂が入る音が聞こえる。腕の痛みが己の罪深さじゃないかと錯覚しそうになる。あまりに辛くて苦しくて、ただ泣きじゃくってしまいたくなってしまう。

 

「私が不用意でした……フリードさん、私が道を切り開きます! 分身であなた達を運びますから!」

 

「全く……私も魔法で援護はする! どうにか門を破壊して突っ込め!」

 

 だが二人で向き合ってられる時間は唐突に終わりを告げた。いきなり間に入った霧乃の分身が二人を抱え込み、そのまま城の門へと突っ込んだのである。

 

「霧乃さん待って!」

 

「ちょっと待ってよ! まだ、まだ私奈々と話が――」

 

「そんなことをしてた場合じゃなかったでしょう!」

 

 いきなりケンカを中断させられた二人は霧乃に噛みつくも、彼女が大声を上げたのととてつもない勢いで空を滑空したことでピタリと止まった。

 

“喧嘩なら後でしなさい。この大迷宮の攻略が終わってからです!”

 

 ものすごい勢いで敵陣の中を飛んでいく様を、先程までなかった衣服の傷を見たことで優花も奈々も顔を青ざめさせた。自分達が大迷宮攻略を投げ出してケンカなんかしたからいらない傷がついたのだと優花は理解する。

 

 オルクス大迷宮じゃこんなことをやってたら死んでたと思い返していれば、向かいにいる奈々もまた体を震わせながら見つめ返していた。

 

「私、何やって……」

 

「どうして……私、馬鹿だよ……」

 

 “分解”を纏わせた短刀で門を切り裂き、霧乃は無事に王城への侵入に成功する。心に幾つもの傷を負った二人の少女達は流されるまま、奥へと進んでいく。そんな彼女達を大人たちは何とも言えない目で見つめるだけであった……。




だってそりゃあね、いつまでも仲良しこよし続けられませんって。

恵里と鈴は昔っからハジメのことでケンカしてましたし。恵里は欲しいものを両方手に入れたいという願望があったのと、鈴はハジメが一人だけ選ぶなら恵里を選ぶということも理解してたから両手に花も受け入れられました。ハジメ? 言わずもがな。

健太郎の場合は特殊です。綾子、真央と三人の共依存から来るものですから。だからこういうことはまず起こせない。

けれども幸利、優花、奈々の場合は別です。元々は単なる友人同士だったのに、あることが切っ掛けで出来た三角関係ですから。それまでなあなあになってただけでね。こうして暴発してからが本番ですよ。

とりあえず言い訳をさせてもらえるなら悪いようにはしないよ、とだけ。なお予定は未定な模様(そういうとこやぞ)

2024/12/26 今更ながらちょっと修正しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。