まぁ自分も読んでて天之河出てきたら感想の八割ぐらいが彼で埋まってもおかしくないなー、とは思いますけど。
あ、あと遅くなりましたが大盛り定食さん評価ありがとうございました。まだ二話だけなのに畏れ多いです……。
時折変に大人びた様子を見せ、子供を装おうとしている。中村夫妻が今の恵里に抱いている印象のひとつがこれであった。それも一年前のある日――たまにとれた休みで何時ものように公園で遊んだ日からである。
正則が恵里と公園で遊ぶのはそう珍しいことではなく、休みをとる余裕があればよく向かっていた。だからあの日もいつものように無邪気な恵里と一緒に行くはずであった。だがあの日以来一緒に出掛けると、恵里は何かに怯えたり警戒しているような様子を見せる。一度妻と話をしたこともあったが、その時は幼稚園で何かあったのかもしれないと結論付けた程度であまり重くは見ていなかった。
だが、お遊戯会などで見せた演技は子供にしてはあまりに堂に入ってしまっていたものであった――まるで恵里とよく似た誰かが自分たちの娘のフリをしているかのように。家で練習をしていたのを一度正則も見たことがあったが、それはつたないというよりも逆に下手を装っているように見えた。それに気づいた時には妻共々悩み、クリスチャンになって悪魔祓いでも呼ぶかどうかまで考えたほどだ。
しかし恵里が自分に向ける笑顔は含みのない心からのものであると正則は自負している。それが自惚れであったとしてもそれを曲げるつもりはない。幸に関してはどこか含みというか陰のある笑顔を向けていたが、妻曰くそれも徐々に鳴りを潜めているらしい。
結局のところ、両親は今のところ恵里に何かするつもりは一切なかった。冷静になって考えれば悪魔が憑りつくなんて冗談以外の何物でもないし、人様に迷惑をかけることもない。親離れ出来るかどうか少しだけ心配になるくらい、自分達に甘えてくる愛しい我が子をどうにかしようという考えはもう浮かばなかった。
そんな折、何時ものように帰宅した正則はある光景を見て固まってしまった。リビングにある自分の椅子でぐでーっとなっていた恵里の様子を妻の幸が何とも言えない様子で見つめているのだ。一体何があったのかと幸に尋ねてみると、帰ってきた時には既にこうなっていた。だから学校で何かあったのではないか、と答えた。
どうしたものかと思案するも、こうして妻と話をしていても恵里の様子が変わったようには見られない。何もしないよりはマシであろうと考えた正則は意を決して恵里に声をかける。
「恵里、どうしたんだい? 何かあったのならお父さん達が力になるよ」
「恵里、お母さんに言いにくいならお父さんに話してみて。そんな顔をしているとお母さんも辛いわ」
「そうだよ恵里。話してごらん、ちょっとしたことでもいいから」
二人がそう声をかけるも肝心の恵里は虚ろな目でうーあー唸って逡巡した様子を見せるだけで、中々何があったかを口にはしない。どうしようと幸がオロオロとしていると不意に恵里がポツリとつぶやいた。
「すとーかーにつきまとわれた」
「「何があったの!?」」
ようやく口を開いた愛娘に矢継ぎ早に質問が飛び交い、そこでようやく初対面の男の子がつきまとってきたということを二人は知る。
『いじめられたんじゃなくて良かった』だの『でも会っていきなりつきまとわれるのは怖かったんじゃ』だの『何度も続くなら学校に相談しようか』だのと話し合っている両親を見ながらそれでどうにかなる相手じゃないと恵里は力なく呟いたのだった。
その男の子がつきまとってきてまた辛くなったなら学校に相談しよう。昨晩の家族会議でそう結論付けた両親に見送られながら半ばあきらめの境地で恵里は家を出た。
(ったくもう……天之河くんはさぁ。どうしていつもいつもボクの思う通りに動いてくれないかなぁ。ホント鬱陶しいったらありゃしない)
あの天之河光輝のことだ。『自分が納得する形で解決』しなければまた首を突っ込んでくるのは目に見えている。そのことが簡単に予想出来てしまうからこそ憂鬱で仕方がない。
(でもなぁ。それで学校行かないってのは流石に……あぁもう頭が痛い)
かといって通学せず、公園でブラブラして両親を心配させたり困らせるという発想は今の恵里にはない。少なくとも父親にとっては自慢の娘でありたいという願望があるからだ。
ジレンマに苛まれながら登校した恵里であったが、その途中で天之河のグループと出くわさずに教室に入れたのは紛れもなく幸運であった。ほっと一息吐きながら自分の席に着くと、メイが声をかけてきた。
「おはよう恵里ちゃん。どうしたの? 昨日の子のこと?」
心配そうに声をかけてきており、南雲ハジメの捜索の舵取りをやってもらっている以上は無碍に扱うわけにもいかない。仕方ないと苦笑いを浮かべながら恵里は応対する。
「あぁ、うん……また来たらどうしようか、って思ってさ」
「やっぱり。すごいカッコよかったけどさ、恵里ちゃんがいやがってるのにどうしてつきまとうんだろうねー」
ねー、と相づちを打つとにわかにクラス中がざわめき出す。どうしたと思って尋ねようとした時、隣の女子がそれよりが先に恵里に声をかけた。
「だいじょうぶだよ恵里ちゃん、あんなのクラスのみんなでなんとかするから!」
「そうそう! 学校でずっとウワサになってたみたいだけどさ、天之河くん話を聞かなかったじゃない。そんな子よりも恵里ちゃんの王子さまのほうがきっとステキだよ!」
隣の子が言ったのを皮切りに次々とクラスの女子の大半と一部の男子が騒ぎ立てた。その顔ぶれは恵里はとてもとても見覚えのあるもの――自分の恋バナ(ではない)にやたらと首を突っ込んでくる奴らであった。
やれ毎日王子様を探してる恵里ちゃんをあんな奴に渡してたまるかだの、やれアイツがチヤホヤされてるのムカつくから邪魔してやるだの、やれ他にも女の子いる癖に恵里ちゃんに手を出すなだのとまぁ好き勝手に言っていた。
正直顔が引きつりそうで仕方がなかったが、南雲ハジメを探すことを考えれば利用しない手はない。恵里は努めて笑顔を浮かべ、頭を下げる。
「ありがとう皆。私が探すときだけでいいから、助けてくれないかな?」
途端、大きな歓声が上がった。こうやってしおらしくしてればいいだろうと思ってやってみたが、結果は想像以上。これ大丈夫だろうかと顔を伏せながら恵里は少しだけ心配になるのであった。ちなみに外まで響いていたせいで担任の教師に全員叱られる羽目になり、あまり人の恋沙汰に関心のなかった子からの心象が悪くなったのは言うまでもない。
鈴、ハジメを探し始めてかれこれ五日が経過した。その間ずっと光輝が絡んできたが、一緒にいた龍太郎と思しき少年と結託したクラスの一部――何時の間にやら『恵里ちゃんの恋を見守り隊』とかいう名前がついていた――が抑え込んでくれたお陰で捜索の邪魔をされることはなかった。結果は芳しくなかったが。どちらもこの学校にはいないのではないかとため息を吐いた恵里の許に吉報が届いた。
それを耳にした恵里は昼休み、何時ものように龍太郎? とクラスの一部こと『恵里ちゃんの恋を見守り隊』で光輝を足止めしてくれる中、目当ての教室へと向かう。
「えっと……南雲ハジメくん、ですか」
自分の机で本を読んでいた少年は唐突に声をかけられ、目を白黒させて恵里の方を振り向いた。
「え?……えーと、そうだけど君は?」
「私は中村恵里って言うの。それでね、南雲くんにお願いがあって来ました」
すぐに教室でざわめきが起こった。ハジメ少年もまた人探しをしているウワサの少女が自分を探していたとは思わず、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
もしかして会ったことがあったのかなと目の前の少女と会った記憶を必死になって思い出すが、それらしい記憶は何一つ出てこない。どうして、なんで僕なのと疑問が浮かぶばかりで口をパクパクと動かすことしか出来なくなっている。
「最初に一目見た時から気になっていました。付き合ってください」
瞬間、空気が弾けた。女子の黄色い声が、男子から冷やかしやらうらやむような言葉が飛び交った。ハジメは唐突な告白と周囲の声で頭の中は真っ白に、顔はもう真っ赤に茹っていた。
「ぁぅ、ぁぇ、ぅぁ……」
前に読んだことのある漫画やラノベの中でも主人公とヒロインがこんな感じの運命的な出会いをしていたケースがあった。自分はそんなイベントとは縁がないと幼いながらもそう思っていたのに、実際に体験してしまったせいで興奮や困惑で頭がバグってしまった。
口から出るのは言葉にならない何かばかり。勇気を振り絞って告白してきたであろう相手の事を考える余裕はこれっぽちもなく、叩き込まれた情報を受け止めるだけで精一杯だった。
「あ、あのー……南雲くん?」
そんないっぱいいっぱいになっているハジメの心の内をいざ知らず、恵里は恵里で混乱していた。元々恋人ごっこで済ます気でいたし、最悪断られても友達になれませんかと申し出るつもりだったのだ。いきなり厳しい要求をチラつかせ、その後本命を出すことで受け入れやすくしようという魂胆だった。
それを実践してみたつもりが、どうしてか目の前の少年は今にもぶっ倒れそうになっている。まさか効き過ぎたか、と考えるも後の祭り。はひ、とろれつの回らない単語を出して目の前の少年は本当にぶっ倒れてしまった。
「え!? ちょ、ちょっと南雲くん!? 南雲くーん!?」
大事になってしまい、慌てた恵里は駆け寄ってハジメを揺さぶる。しかし目を回したままで起きる気配が全然なく、教室はざわつき出す。どうしてこうなったと内心頭を抱えたくて仕方がなかった恵里の耳に彼のクラスメイトの一人のつぶやきが届いた――先生を呼んだ方がいいんじゃ、と。
「せ、先生! 先生連れてきて! この際誰でもいいから! 早く!」
非力な今の自分では運ぶのは無理だと判断した恵里は必死に大声で周囲に何度も頼み込み、たまたま教室の近くを通った先生がハジメをおぶって連れて行ってくれた。
なお、恵里は事情を聴くために職員室にそのまま向かう羽目に。聞き取りとお説教だけで昼休みが潰れる中、どうしてこうなったと恵里はただただ後悔するばかりであった。
「恵里ちゃんおかえりー。なんかあったの?」
「いや、まぁ、そのね……」
予鈴が鳴った辺りで解放され、疲れた様子で戻ってきた恵里を『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の子供たちが出迎える。どうだったどうだったと口々に聞いてくるクラスメイトに授業が終わってから話すことを約束し、どうにかなだめすかしたところで先生が教室に入ってきた。どうやら今回はギリギリセーフだったようだ。特に叱られることもなく、今日の授業も滞りなく進む。
そうして授業が終わり、帰り支度をしている時に再度何があったかを先のクラスメイト達に尋ねられた。昼休みのことは下手に隠した方がダメージが大きいかもしれないと考えた恵里は正直に話すが、案の定クラスが笑いの渦に包まれる。
「こ、こくはくしてブッ倒れたってダサッ! その子ダサい!」
「けっこうウブな子だったんだねー。でもそんなこと言われたら私もおどろくかもー」
「いや、それにしたってないわー。すきって言っただけでダウンかよー」
「恵里ちゃんスゴい! 明日にはウワサになってるんじゃない? 男の子をたおしたつよい女の子がいる、って」
誰も彼もやはり好き勝手に言っており、覚悟していたとはいえやはり頭が痛くなる思いであった。特に最後。そんな不名誉なウワサなんざいらないからどう消そうかと考えていると、今日もまた望まぬ輩がやって来た。天之河少年とその取り巻きである。
「恵里ちゃん! いったいどうしたんだ!? 他のクラスの子が君のせいで倒れたってウワサになってる!」
もう広まっているのか、と恵里は本気で頭を抱えたくなった。その様子を心当たりがあると察した光輝が恵里に詰め寄ろうとするが、今回も『恵里ちゃんの恋を見守り隊』と龍太郎に無事阻止される。最早ありふれた光景になりつつある中、未だに騒いでいる光輝を黙らせるべく恵里は嫌々ながら弁明する。
「あのね。倒れたのはともかく、私はその子に付き合って下さいって告白しただけなんだけど。誤解しないで」
「……えっ?」
溜息と共に述べると、光輝は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべて全然理解できないとばかりに周囲を見渡している。
「ほ、本当なのか?……」
「本当だってば。じゃあ私はもう行くね」
そう手短に告げた恵里は、中身を確認してからランドセルを背負う。そしてクラスの仲間に後はお願いと一言だけ伝え、未だにショックから立ち直れない光輝を横に出入口へと向かった。龍太郎が呆れてたりおそらく取り巻きであろう女子たちが自分のクラスメイトと言い合いしているようだが気にしない。これでまだしつこく付き纏ってくるというのなら親に相談しようと考えつつ、教室を後にする。
そうして玄関へと向かった矢先、ふと恵里はハジメのことが気にかかった。付き合いを申し出たというのにこのまま帰るのは流石に不味いのではないか、と。せめて保健室に顔を出してどうなったかぐらいは聞きに行くべきじゃないかと考えたのだ。
(まぁ、あんなことになったのにそのまま帰るのは薄情だよね。気がないって思われるのも不味いし仕方ない。顔を出すか)
やれやれと思いながら保健室へと寄り道すれば、ちょうどそこから目当ての人物が出てきてくれた。手間が省けたと恵里は少しだけ機嫌を良くしながら彼の側へと近づいていった。
「な~ぐ~も~くんっ」
「うわっ!?……な、中村、さん?」
声をかけるとまたしても目を白黒させ、オドオドした様子でハジメは恵里を見ている。あの化け物と違って扱いやすそうでよろしい、と軽く上機嫌になった恵里は一緒に帰ろうと提案する。
「ちょ、ちょっと待って。い、今、目がさめたばっかだからまだ帰りのじゅんびも――」
オロオロしている様子のハジメを見て恵里はある妙案が浮かぶ。ニヤリと笑ってハジメに近づくと至近距離でそれを口にした。
「じゃあさ、一緒に行っていい?」
それを聞いてハジメはしどろもどろになり、幾度か逡巡を見せた後、小さくうんと呟いた。
(天之河くんと違って実に扱いやすいね。そういうところは好きだよ――さて、今の時間なら鈴を探すのもそう不自然には見られないかな。見つかるといいけど)
頬を赤く染めたハジメと一緒に彼の教室に行くかたわら、恵里は下校しようとしている鈴を探す。きっと誰かと親し気に話をしているであろう様子を想像して頬を膨らませつつ、早く自分もその中に加わりたいと願いながら。だからであろうか。
(なにさ、たのしそうにして……鈴のいないとこでそういうのやってよ。めーわくだよ)
――うらやましそうに、寂しさをこらえるように二人の様子を一瞥した一人の少女を恵里が見つけることはなかった。
もう人もまばらになった教室でハジメが帰りの準備をしている中、恵里は何を話すべきかについて考えあぐねていた。
(銃を作って使ってたことを考えるとコイツ、相当のオタクのはず。だとすれば話題に使えるのは漫画かゲーム辺りだろうけど、この頃って何が流行ってたっけ……)
前の世界では光輝に自殺を止められて以降、母親にいびられていた頃とは違って同世代の子と話すことが多くなった。ただ、恵里からすれば当時は邪魔者か利用する相手のどちらかとしてでしか見ておらず、あくまで話を合わせるために当時の少女漫画や雑誌に軽く目を通していただけだった。
今も自分の周りの子供に合わせるためにテレビを眺める程度でしかない。まだお小遣いをもらえてないため雑誌はまだ買えてないし、ましてや男の子の好きそうな話題に関しては何もわからない状態である。
(ダメだ、全然浮かばないな。これはあっちから話をうまく引き出し続けるしかない、か。まぁ、こちとら前世……でいいのかな? 重ねた年月がある。受け答え程度ならどうにかしてみせるさ)
幸い、あまり知らないなりに上手く相手から話を聞き出すための技術は前の世界で鍛えてある。一言二言話し、後は上手く相手に思うままに話させてやればいいだけなのだ。それでどうにかなった経験は数知れない。
(ん、もう帰る準備は終わりそうだな。それじゃ……)
「お待たせ、中村さん。じゃあ、その」
「うん。帰ろう、南雲くん。」
笑みを浮かべ、恵里は帰り支度を終えたハジメと一緒に教室を出ていく。そこで早速、ハジメからの心証を良くするために話しかけた。
「ねぇ、南雲くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「な、何かな、中村さん?」
「うん。あのね、南雲くんが好きなのって何? 食べ物でも趣味でもいいから知りたいな」
緊張であがっている様子のハジメを見てクスクスと笑いつつ、恵里は話を切り出す――その不用意な一言でオタクがどれほど能弁になるかもわからずに。
「あ、あのねあのね! スパロ○とかアトリエシリーズって知ってる? スパロボはガン○ムとかマ○ンガーとかのロボットアニメがいっぱい出てるゲームなんだけど、新作のIMPA○Tはすごいよ! ドットがキレイになったし、アニメーションもすごいから見ててあきないよ! ステージも多くてボリュームもあるからすきなロボットいっぱい使えるよ! それとね、今やってるオスカルのアトリエもおもしろいよ! エンディングもいっぱいあるから何度でもたのしめるし、あそんだデータのひきつぎもできるよ! あとねあとね――」
(長い長い長い! 話を捌ききれるか!)
話題を振られて舞い上がったか、それともロクに友達がいなかったからどう話せばいいのかわからなかったか、あるいは両方か。情報の津波を遠慮なしに叩き込まれて恵里はてんてこ舞いになってしまう。
「あとそろそろポケモ○のあたらしいのが出るみたいだから前にやってた金銀をひさしぶりにやってたよ。次はどんな○ケモンが出るかワクワクするよね! そういえば中村さんはどのポケモ○がすきなの?」
「あ、あのね南雲くん……」
ようやく話一辺倒であったハジメが質問してきたため、この好機を逃す手はないと恵里は頭痛をこらえながらすぐに話しかけた。
「うん、何がすき――」
「一気に話しかけられてもボクは受け止めきれないからさ……ちょっとずつ、話をしてくれない?」
ふつふつと湧いてきた怒りをどうにか抑えつつ諭せば、ハジメも自分のやらかしに気づいてごめんなさいと消え入りそうな声で謝ってきた。そしてお互い深呼吸をしてから改めてハジメに好きなもの尋ねてみれば、先の説明を少しだけわかりやすく話してくれた。
「えっとね、さっき言ったス○ロボっていうのは色んなロボットが出てくるシュミレーションのゲームだよ。えーっと、将棋とかオセロにちょっとだけ、ほんのちょっとだけ似てるかも。そういうゲームなんだ。あとさっき言ったオスカルのアトリエはね、主人公の女の子を動かしていろんなばしょでアイテムをあつめてアイテムを作るゲーム……ってわかる?」
(まぁこの頃の男の子なんてゲームとかそういうのにお熱か。でも家にゲームの機械なんてないし、まだお小遣いなんてもらってないからそっち方面でついていくのは無理だね。となると、次は……)
「あー、うん。なんとなくわかった。けど、私の家に機械がないからゲームの方は無理かな。だから南雲くんが好きな漫画とかテレビは何? そっちならついていけるかも」
「うん! わかった。えっとね――」
ゲーム関連はどうにもならないと知って気落ちしているハジメに恵里は別方向からアプローチをかけた。そこでまた顔を輝かせつつ話をしているのを聞けば、やはり年頃の男の子が好みそうな漫画雑誌やそれに掲載されていると思しきタイトル、そして特撮ヒーローといったものが多く挙がった。だがある漫画のタイトルを聞いて恵里は首をかしげることになる。
(『桜吹雪舞う中でキミと』……あれ? どっかで聞いたことがあったような…………あ。確か、少女漫画のタイトルじゃなかったっけ)
高校の入学式、桜吹雪の舞う中で出会った二組の男女の恋模様を描くという割とありふれた設定の作品であったが、割と好みの絵柄で面白かったため恵里は忘れることなく覚えていた。
実際これは小学生の時分に鈴としていた話題でもあったはずだとおぼろげながらも記憶がよみがえってくる。それを懐かしみながら恵里は相づちを打つ。
「南雲くんも少女漫画を見るんだね。ちょっと意外かも」
「うん。よくわかんないところもあるけど、よく見てるから」
(ふーん、こういうのにも目を通しているのか。となると姉とか妹が見てるのを眺めてたとか、興味が沸いてこっそり見たとか……いや、どうかな)
小学生の男の子が少女漫画を見る理由に適当にアタリをつけてはみるものの、どれもしっくりとは来ないために恵里は少しだけもやっとする。とはいえ、それもハジメの家に行けばおいおいわかるだろうと考え、先の発言に適当に相づちを返した。
「そっかー。あ、南雲くん。よかったらさ、南雲くんが好きな本を後で読んでみたいんだけど教えてくれない?」
あちらの趣味趣向に沿って媚を売る作戦である。こうやって少しずつ近づいていき、うまい事気に入られようという魂胆だ。とはいえ、先ほどえらく饒舌に自分の趣味を語っていたことを考えると軽く触った程度で適当に迎合するとボロが出かねない。それが原因で距離を詰められない可能性も考えると本当に厄介だと思いつつ、興味のあるジャンルだけで上手く攻め込むしかないかと恵里は考える。
「う、うん。わかった。じゃあ、明日でいい? どれを持ってくれば……ってダメだよね。先生におこられちゃう」
「あ……そ、そうだね」
ふとここで二人は校則で私物の持ち込みが禁止されていることを思いだした。仮に持ち込みがバレて親が呼び出されるのような事態はもっての外だし、先生から親に連絡が行くのだって避けたかった。
前の世界では親の目なんぞ小三のあの日以降は特に気にも留めず、他の子供たちもコッソリやってたからそれに倣っていたが今は別である。お父さん第一主義である恵里には非行は考えられなくなっていたのだ。
これはどうしたものかと思って恵里はうんうんとうなる中、ここでハジメとが思いもよらないことを口にした。
「えっと、その……中村さんがよかったら、ウチ、くる?」
「へっ?……い、行く! お願い!!」
予想よりはるかに早いものの、ハジメの懐に潜り込む願ってもない提案があちらから出てきたことに恵里は一瞬フリーズする。だが、それを逃す手はないと恵里は頭を勢いよく下げて頼み込むのであった。
2024/2/16 ちょっと加筆修正