あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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どうにか書きあがりました!

では改めまして読者の皆様への盛大な感謝を。
おかげさまでUAも215176、しおりも464件、お気に入り件数も938件、感想数も742件(2024/8/16 21:32現在)となりました。誠にありがとうございます。相も変わらずこうして多くの方が見て下さることがありがたいです。

そしてAitoyukiさん、今回もまた拙作を再評価してくださり誠にありがとうございます。頭が上がりません。

今回読むにあたっての注意点として長め(約13000字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


九十五話 夢へと進む者達・急

「どうして、どうしてハジメ殿達はお強いのですか」

 

 目の前で腰を抜かしたままの青年は涙と鼻水を垂れ流し、そしてうらやみに満ちたまなざしでこちらを見ている。ベヒモス戦では終始お荷物でしかなかったウィルの問いかけに恵里はどう答えたものかと頭を悩ませる。

 

「えっと、その、恵里が説明した通りオルクス大迷宮を潜っていたので――」

 

「でしたらどうして、私のステータスはあまり変わっていないのですか」

 

 ハジメが上手いこと誤魔化そうとしてくれたものの、ウィルは右手で掴んでいたステータスプレートをこちらへと向けて突き出した。言いたいことを理解してハジメ達と顔を見合わせた恵里であったが、ゲイルが彼のものと思しきステータスプレートを受け取ってこちらへと持ってきた。

 

「……確かにウィルは短期間で強くはなった。だが、俺達にはまだ及ばないな」

 

 そう言いながらゲイルは自分のステータスプレートを取り出し、何度か交互に視線を動かす。その後ウィルのものらしきプレートと並べてこちらへと差し出してきた。いつの間にか近くに来ていたデビッド達とも一緒にながめたが、先程述べた通りゲイルの数値ほど高くはなかった。

 

「……そうですね。昔の僕と大差ないステータスでしたし、レベルは4上がった程度ですけど筋力とかの数値が大体30ぐらいになってます。すごい上がってる」

 

「でも流石にゲイルさんには……」

 

「そうだ……一体どうやってお前達は強くなったんだ? 俺達も正直気になってる」

 

 そのことにハジメと鈴も言及すると、今度はゲイルがこちらを見ながら探りを入れにきた。どう誤魔化したものかと考えていると、ゲイル達は真剣な表情でこちらをじっと見つめてきた。

 

「教えてくれ。アンタ達もそうだがそこの神殿騎士達は特に不可解なんだ」

 

「元々それ程の素養があるんだったらとっくにトータスで名前が広まってるはずだし、白髪赤目が高いステータスの持ち主だっていうウワサが広まってる訳でもない。どうなってる?」

 

 ゲイル達は疑いのまなざしをデビッド達へと向けており、またデビッド達も下手に何も言えないのか口を結んでいる。こうも理詰めで攻められると恵里も下手には返せなかった。かつての愛子の時のようにカウンターを食らいかねないからだ。

 

「……教えてもいいけどさ、絶対後悔するよ」

 

 だから恵里はあえてぼかし、想像を煽って怖がらせてあきらめさせる方向に舵を切った。目をつむって大仰にため息を吐き、腰に左手を当てて軽くうつむいたところで上目遣いで彼らを見ながら意味深な言葉を吐く。そうやって触れてはならないことだと暗に訴えたのだ。

 

「そうだな。確かに生半可な覚悟でやったら後悔するぞ」

 

「そうですね……人間を辞める。その覚悟が皆さんにはあるとでも?」

 

「人間を……辞める」

 

「そこまでやらないと……」

 

 するとデビッド達もそれに乗っかってゲイル達をじっと見つめ出す。彼らもその意図を察したのか次々と口を閉ざしていき、目を泳がせるようになっていった。

 

「そ、そんなの……聞いて、やってみなければわからないでしょう!」

 

 これなら大丈夫かと思った恵里であったが、ウィルだけはあきらめられなかったのかこれだけ匂わせても食らいついてきた。そこまで執着する理由がわからない訳ではないとはいえ、心底諦めが悪いウィルに恵里は苛立ってしまう。

 

「……こっちは親切で教えてあげたんだよ。やるな、触れるなって言ったのにさぁ」

 

「で、ですが、とてつもなく強くなれるんでしょう! ハジメ殿だって、元は私と大差ないと仰ってたじゃないですか! だとしたら私にも強くなれるチャンスはあるんじゃ――」

 

「はぁ……わかりました」

 

 軽く目を細めてウィルをにらむも、彼はそれでも負けじとすがりつこうとしている。どうしてやろうかと思ったその時、ため息を吐いたハジメが少し目を細めながらわかったとつぶやいた。そのことに恵里は思わず目を軽く見開いてしまう。

 

「じゃあゲイルさん、僕のステータスプレートをどうぞ。もしかすると今の()()で数値が上昇するかもしれません。恵里、鈴も渡してあげて」

 

 にこやかな笑みを張り付けながら動いた彼を見て、“念話”で出された指示を聞いてハジメが軽くキレていることを恵里は察する。苛立ちから一転してウィルに同情を寄せながらも恵里はステータスプレートを操作し、技能の欄だけを隠蔽してウィルへと渡してからその場を離れていった。

 

「出来れば何か調味料が欲しかったところだけどねー」

 

「……君達も無茶をやるよ」

 

「流石に鈴もこれ以外の方法は考え付かなかったです……」

 

()()()手に入るものなんてないということを身をもって知っていただく。そう思いましょうか」

 

 鈴とハジメもステータスプレートをゲイル達に渡し、デビッド達もそれに倣った。そして四方に散ったベヒモスの四本の脚にそれぞれ分かれて近づいていき、それを自らの手で掴んだりゴーレムが出したアンカーなどで固定する。そして丸太ほどの太さもあるベヒモスの手足の肉をウィル達のところへと引きずっていった。

 

「切り分けは鈴がやります。“聖絶・桜花”」

 

「あぁ。頼む」

 

「ん? 切り分け?」

 

 ベヒモスの手足がすぐ近くに見えるところまで動かした後、鈴が再度“聖絶・桜花”を発動。良く焼けた肉を十センチ四方ほどのわかりやすいサイズにカットし、それを器用にバリアに載せて恵里達の手元へと落としてくれた。

 

「おい、まさか」

 

「え……なんで魔物の肉を……?」

 

「じゃあ、いただきます」

 

「「いただきます」」

 

「さ、食うぞ」

 

 それを見てただ疑問に思ったり何かに感づいた冒険者達を無視し、恵里達は一斉にベヒモスの肉にかじりつく。少し火が通り過ぎているのと筋張った肉なせいか少し固く、また臭みもかなり残っているせいで噛むのも呑み込むのも少し辛い。しかしあくまでそれだけでしかなかったため、恵里達はそのままカットした肉を全て腹に収める。

 

「ば、ばばば、馬鹿が! そんなことしたら死ぬぞ!」

 

「そ、そうです! 古来より魔物の肉を食べて生きていた人間はいないって――」

 

「じゃあ、試してみるぅ~?」

 

 予想通りゲイル達やウィルがこちらを案じてきたものの、真のオルクス大迷宮全ての階層の魔物を食べた人間からすれば“胃酸強化”の力で余裕で対処出来る程度でしかない。デビッド達も蹴りウサギを食べたのだから、遥かに浅い階層の魔物の肉ごときで死ぬことはないと恵里は特に気にしていなかった。

 

「な、なんで……どうして」

 

「ステータスも、わずかだが上がってる……一体、どうなってる」

 

 時間が経っても何も起きないのを不審に思ったのか、ウィル達はせわしなく視線をさまよわせている。トータスの常識を考えればそうなるし、実際食べて何度となく死にかけたのだからそうなる気持ちも恵里は理解は出来た。

 

「それはね、僕達が人間じゃないからだよ」

 

「はい。これがボク達の本当のステータス――これを見てまだ欲しがるんだったら考えはするよ」

 

 しかしあくまで恵里は理解を示すだけだった。ウィルからひったくるように自身のステータスプレートを取り上げると、技能欄の方も拝めるように操作する。

 

「ひっ!? あ、あぁ……」

 

 そして再度ウィルが渡されたステータスプレートに視線を落とした瞬間、彼の表情は恐怖に歪んで取り落とした。自分のステータスプレートが落ちる様を見た恵里はコイツには無理だなと鼻を鳴らし、冷めた目でウィルを見つめる。

 

「ま、魔物っ!?」

 

「し、神殿騎士が魔物だと!?」

 

「う、嘘だ!? お、お前達人間じゃなかったってのか!?」

 

 他の面々も想定通りだった。誰もが怯え、こちらに武器を突きつけたり後ずさりしている。どこまで失望させるのやらと思いつつも、恵里は口を開く。

 

「言ったでしょ。そこの護衛騎士が人間を辞めるって。それで、やるの。やらないの」

 

「ひっ……ひぃっ」

 

 視線の先の青年の顔は既に土気色になっているし、股の辺りや先程まで彼がいた地面も湿っている。でもなんの覚悟もない人間はこんなもんかと思いつつ、恵里はハジメと鈴、そしてデビッド達に視線をやった。

 

「ふゅ、フューレンの英雄が魔物だったなんて……」

 

「そうですね。僕達は“魔力操作”を持ってます。魔物を食べたことで得ました。ですが」

 

「魔物とさげすんだ南雲君達はあなた方の街を救ったのですよ。助けてくれた相手をけなしているという自覚はあるのですか」

 

 ハジメはゲイル達の主張を笑みを浮かべたまま受け止めていた。だが鈴はもちろんデビッド達は別だった。ハジメが何か言う前にチェイスが眉間にシワを寄せ、低いトーンで冒険者達に問いかけたのである。すると彼らは泡を食ったようにせわしなく視線をさまよわせ、無言で何度もお互いの顔を見ていた。

 

「鈴達は何度も魔物の肉を食べました。何度も何度も死にそうになりました」

 

「俺達とてそうだ。足先から頭まで全てが砕けそうになった。谷口と白崎の二人が“聖典”を使い続けなければきっと死んでいただろう」

 

「そ、そんなの……」

 

「証拠を見せれば納得してくれますか。恵里、鈴。ちょっと協力して」

 

 鈴は真剣な表情でウィル達をじっと見つめ、デビッドは腕を組んで少し目を細めながら過去を語った。そしてそれを聞いてもなお信じられないとばかりに首を横に振る冒険者達。そこでハジメが提案をしてきたため、一体何をやるのやらと思っていると再度“念話”で何をするかを伝えてくれた。

 

「オッケー。じゃあボクが魂魄魔法で」

 

「鈴が空間魔法」

 

「僕がそれを生成魔法で付与してアーティファクトを作る。いくよ」

 

 即座に了承し、お互いの役割を口頭で確認すると恵里達は紅の魔力をほとばしらせる。三人は宝物庫から武具の補修に使う材料を取り出し、それらを使ってあるアーティファクトの作成にかかった。目指すのは『記憶』を読み取って『空間』に映し出すプロジェクターのようなもの。

 

 広間いっぱいに広がった紅の光は次第に収束していき、まんまプロジェクターそのものな見た目のそれが出来上がる。そしてそれが地面に落ちる前に恵里は“隆槍”を発動し、台座のように地面を盛り上げて使いやすい位置にアーティファクトを配置した。

 

「はい完成~。コイツはね、触った人間の特定の記憶を一枚の映像……だとわかりづらいか。絵画みたいなものにして映し出すアーティファクトだよ」

 

 そう言いながら恵里がプロジェクターモドキに触れれば、一枚の映像を投射する。デビッド達が魔物肉を食べて苦しみ悶える様の静止画であった。

 

「うわ……思った以上に、グロいね」

 

 あまり意識せずにながめていた程度だったものの、ぼやけることなく映像がハッキリと映っている。デビッド達が浮かべた苦悶の表情、かつて自分達がやったように痛みを堪えるべく床に爪を立てたり頭を打ち付ける様もだ。よく見ればはがれた生爪や血の汚れも映っており、()()()()()()()流石ハジメと鈴だと二人の腕前を心の中で持ち上げていた。

 

「そ、そんな……」

 

「か、髪の毛が……体格まで変わっているんじゃ……」

 

 ちなみにゲイルやウィル達の震える声も聞こえてはいたものの、想定の通りのリアクションを取ったことを確認した程度で恵里はほぼ聞き流している。

 

「音は、無理だったか」

 

「やってみたんだけどね……でもあっち見た感じ、無くても大丈夫だったんじゃな~い?」

 

 一応記憶の中の音声も()()出来ないかとアプローチしてみたし、それをジェイドからツッコまれたものの本当に出来なかったのである。そこに関しては恵里も内心落ち込んではいたがそれを気取られないよう表情は取り繕ってはいた。実際ゲイル達もショックでうめき声を上げているだけに恵里は見え、バレていないことにホッとする。

 

「いやあったら多分もっとマズかったよ……」

 

「鈴達もこうだったんだよね……音が無くったって引くよ」

 

 そこで恵里はもう二度とウィル達が言い訳出来なくなるよう、当事者であるデビッド達からコメントしてもらおうと目を向けようとする。すると先程の話を聞いたらしいハジメと鈴の声が聞こえ、急遽二人の方に顔を向ければ顔を引きつらせてコメントを述べていた。

 

「自分のことながら怖いな……いや、愛子の受けた苦しみに比べれば大したことではないが」

 

「少々、刺激が強すぎましたかね……」

 

「あ、やっぱり。じゃあアイツらにトドメの一つでもくれてやって」

 

「容赦がないな……さて」

 

 二人の意見に同意しつつ改めてデビッド達の方を見れば、彼らも苦い表情を浮かべている。やっぱりかと思いつつも恵里は当初の目的を果たすべく彼らへと声をかけると、デビッド達は軽く面食らったようで目を少し大きく見開いたり凝視したりしてきた。そんなのどうでもいいからと無言でじっと見つめて催促をすると、デビッドがゲイル達の方へと視線をずらす。

 

「魔物を食べたことでどうなるかというのは親や親せき兄弟、同業の奴らからうんざりするほど聞いてるはずだ。俺達も南雲達も死ぬはずだったが、それを無理矢理乗り越えてこの力を手にした。わかるか?」

 

「で、ですが、これだけで納得しろと言われても……」

 

 少し目を細め、冷たい声色で語るデビッドを見てから恵里はゲイル達の方に目を向ける。彼らは気まずそうに目をそらすばかりで、中には申し訳なさそうな表情を浮かべているのもいた。だがウィルだけは土気色の顔のまま疑問を投げかけて来た。そこで恵里はすかさずプロジェクターモドキに触れて別の静止画を映す。

 

「その少年少女、もしかして……」

 

「そう。ボク達。魔物の肉を食べて、神水飲んでどうにかしようとした時のね」

 

 それはデビッド達の時のように肉体が崩壊しかかった時のものであった。その時のものを三つとデビッド達の肉体の変遷のものも二つ、それらを続けざまに映してやればもうウィルも乾いた笑みを浮かべるだけとなった。

 

「もしこのアーティファクトが偽物の映像を出してるって疑うんだったら結構だよ。使ってみたら?」

 

「……いや、それには及ばない」

 

 そして恵里は先んじてこのアーティファクトに対する疑いのことも口に出す。それでも疑うならもう“縛魂”でも使って考えを変えさせるかと考えていると、ゲイルが首を横に振ってからその場で手をついて頭を下げた。

 

「申し訳なかった……俺達がやったことはフューレンを救った恩人に何度もつばを吐きつけたのと変わらないからな。許してほしいなんて言わない。だが、せめて謝罪ぐらいはさせてほしい」

 

「ゲイル……」

 

「それともう一つ聞かせてくれ。伝説の魔物を片手間で倒せるようなアンタ達からすれば、フューレンのことなんて放っておいても別に問題は無かった。そうじゃないのか?」

 

「えっと、その……」

 

 そのことに彼の仲間達がどよめいたものの、誰も彼が頭を下げ続けているのを止めようとはしていない。また向こうの問いかけに迷った様子のハジメが漏らしたため、仕方ないと思いながら恵里は悩んでいるであろう二人に代わって答えを返すことにした。

 

「そうだよ。正直トータスの奴らなんて何もしないで神代魔法を集めるだけでも問題なかったし」

 

「「恵里っ!」」

 

「事実でしょ? 皆がお人好しでフューレンの人達も救ったのはさ……まぁ、皆がお人好しだったおかげでボクも救われたけどね。そこは、別にいいけど」

 

 そのことにすぐにハジメ達が険しい視線を送って来たがそれが事実であると恵里はジト目で述べる。その後、目をそらしながらハジメ達に感謝の言葉を小声で漏らし、むずがゆい感じに恵里が襲われると同時に二人とも何も言わなくなった。

 

「ならどうして……どうして皆さんはそこまで力を手に入れようとしているんですか」

 

 その後ハジメと鈴をチラッと見れば二人も苦笑いしつつも目元が緩んでいるのがわかってしまう。そのせいで気恥ずかしくなった恵里がそっぽを向いていると、唐突にウィルが問いかけてきた。

 

「「「生きるためです/だよ」」」

 

「「愛子のためだ」」

 

「愛子さんのためにですよ」

 

「愛子ちゃんへの贖罪だよ」

 

 それに恵里達は声をそろえて答える。言葉の意味がわからなかったのか、ゲイル達もまたしきりに目を動かしてこちらを見ていた。

 

「ボク達は王国、っていうか教会と敵対してたしね。下に降りてって、とにかく生きるためにも魔物でも食わなきゃどうにもならなかったんだよ」

 

 ハジメと鈴も近くに寄ってくると、恵里は二人と一緒にアーティファクトを操作する。ベヒモスと戦ったシーン、恵里目掛けて魔法を撃ってきた神殿騎士達の姿、断崖絶壁を下りて行く時や神結晶を見つけたシーン、二尾狼と戦った時のものなどを映していく。

 

「ベヒモスを……そんな」

 

「アンタ達が……まさか」

 

「そのまさかだよ。戦わなきゃ生き延びれなかったんだボク達は」

 

「恵里の言う通りです。こうして神結晶を、そしてそこからあふれる神水を手に入れることが出来たのは幸運でした。そのおかげで僕達は生き延びることが出来たんです」

 

「辛くっても苦しくっても、それでも生きるために鈴達は戦い続けたんです」

 

 信じられないものを見たとばかりに目を大きく開きながらさまよわせるゲイル達に、恵里は吐き捨てるように過去を端的に語る。そして普段よりも低いトーンでハジメと鈴が話せば、向こうは気まずそうな表情を浮かべてうつむくばかりであった。

 

「俺達も似たようなものだ」

 

「詳しくは言いたくありませんが、私達はかつて慕う人を傷つけてしまったことがありましてね……」

 

「もしあの時力があれば、操られることもなかった。それを思うとな」

 

「もう後悔したくないんだよ。だから僕達は力を求めた。これでいいかな?」

 

 デビッド達も続いて話をしてきた。ハジメ達のように声のトーンは少し低くなっているものの、語られた言葉は後悔の色がありありと浮かんでいる。デビッド達の過去を軽く思い出して納得しつつも恵里はウィルの方に目を向けた。

 

「そんな……じゃあ、じゃあ……」

 

「力を求めるのが悪いとは言いません。ですけど」

 

「なら……私はどうしろというのですか」

 

 泣きじゃくっていた青年にハジメがフォローをするも彼は更に涙と鼻水を垂らし、声を震わせながら小さくつぶやく。

 

「ハジメ殿達が……みなさんがつくってくれたこの鎧と剣が、どうぐがあってもなにもできない。わたしは、無力だ……わたじはなにも、なにもできないんだ!」

 

 その慟哭に恵里は思わずため息を吐き、どうしたものかと考える。イルワから冒険者になるのをあきらめるよう頼まれてはいるが、流石にこの状態で連れてきては頭を抱えるであろうことは恵里も容易に想像がついた。だからこそ冒険者をあきらめさせるついでに立ち直らせるいい方法は無いだろうかと思ったその時、ハジメから飛んできた“念話”に従って動いた。

 

「“限界突破”の後の“鎮魂”……はい。落ち着いた?」

 

「ありがとう恵里……それとウィルさん、僕達も無力感を感じたことはあったんですよ」

 

 ウィルの精神がほぼフラットになるレベルの一撃を叩き込み、頼まれた通りに精神を鎮静化させるとハジメがプロジェクターモドキを動かした。二尾狼との戦いで鈴がやられた辺りのものを数枚、勝利して穴をふさいだ後の沈んだ皆が映っている様子の一枚が続けて映し出されたのである。

 

「これ、は……」

 

「僕達だって目の前が真っ暗になったことぐらいあるんですよ」

 

「ちょっと恥ずかしいけど……でも、鈴達もこんな時があったんです」

 

 鈴が驚いてない辺りちゃんと承諾はもらったんだろうなーと思いつつ、恵里もかつての命がけの戦いに思いをはせる。なんだかんだ勝ち続けてはきたけれど、自分で思った以上にギリギリでの勝利は多かったんだなと恵里は振り返った。おかげで何を言えばいいかわかったとハジメに微笑みを向ける。

 

「ありがとハジメくん……そっちもさ、家族いるじゃん」

 

「え?……はい。父上と、ママと、兄上達がいますけど」

 

「うん。だったらさ、家族を悲しませるのぐらいやめたら?」

 

 ウィルの許へと近づき、かがんで目線を合わせながら恵里は問う。ウィルが言葉に詰まって何度も目をパチパチさせるのを見て、やれやれと思いつつも恵里は更に言葉を紡いでいく。

 

「ボク達だって家族がいるの……今は会えないんだけどね」

 

「僕達のやりたいことの一つが家族と再会することなんです。今はちょっと訳があって」

 

「鈴達が生きていたいと思ったのはそれもあるんです。もちろん大好きなハジメくんや恵里、幼馴染と無事に日々を過ごしたいとも思ってますけどね」

 

 当たり前のことをハジメと鈴と共に語っていけば、ウィルはぽかんと口を開けてこちらに間抜け面をさらす。それぐらい考えつかないの? と大いに呆れながらも恵里は立ち上がった。

 

「じゃ、帰るよ。そっちのママのいる家にさ。心配してるんじゃない?」

 

「恵里、あんまりイジメちゃ駄目でしょ……イルワさんも心配してると思います」

 

「もう……戻りましょう皆さん。それとウィルさん。時間が空くことが大前提になりますけど、僕達で良かったら相談に乗りますから」

 

 宝物庫からゲートキーを取り出し、恵里はフューレンへと続く光の膜を展開する。その後振り返ってウィルの方を見やれば、ほんのわずかに口角を上げながらこちらを見つめ返していた。

 

「……はい。申し訳、ありませんでした」

 

 ハジメと鈴の言葉が効いたのか悲し気に微笑んでいる様子だったが目は濁っていないように恵里には見えた。そしてゲイル達の助けを借りながら立ち上がり、こちらへと歩いてきていた。

 

「ウィル、お前は物語の英雄にはなれなかったかもしれない。でも俺達だって同じだ」

 

「あぁ。そもそも俺やクルト、ワスリーだって食い詰めて冒険者になったんだ」

 

「えぇ。やれることをやれる範囲でやって、私達はイルワ支部長に頼られる程の腕と力をつけたんです」

 

「何者かになろうとあがこうとしたお前の苦労はわかる。まぁそれだけはこっちも評価はしてるぞ」

 

「ゲイルさん……ナバルさんレントさんワスリーさんも……」

 

 そうして向かってくる中、ゲイル達は笑みを浮かべながらウィルにいたわりの言葉をかけていた。あちらも思うところがあったんだろうなと思いつつ、こちらの何かフォローでもしないと駄目かもなぁと恵里はぼんやりと思った。何せ横にいるハジメと鈴が自分とウィルに何度も視線を行き来させていたからだ。

 

「まぁとにかく何かしたくてしょうがないんだったらボク達の商会にでも入る? それか前にもらった水族館の管理人とか」

 

「……今はまだ考えがまとまりません。ですが」

 

 自分も二人に甘いなぁと思いつつも、恵里は近くまで来た貴族の青年に恵里は提案をする。しかし彼はゆっくりと首を横に振るだけだった。

 

「別の道、探してみようと思います。いつ見つかるかはわかりませんが」

 

「……ごめんなさい」

 

「どんな相談にも乗りますから。その……」

 

「いいえ。お気遣いなく……とりあえず、家族とイルワさんに会いたいです」

 

 夢が破れた青年に幼馴染の二人が声をかけるも、彼は結局首を縦に振りはしなかった。けれど、その今のこの男なら少しはマシな夢でも見つけるだろうと思い、共にゲートをくぐっていく。

 

「ま、頑張りなよ。こうしなきゃいけなかったボク達と違って、時間も余裕もあるんだし」

 

「……はい」

 

 自分も大分ほだされたものだと思いながら言葉をかければ、青年がキリッとした顔をしてこちらを見返している。お人好しになるのも悪くは無いかなと恵里は笑みを浮かべてゲートをくぐり抜けていったのであった……。

 

 

 

 

 

 ベヒモスを無事撃退し、イルワの頼みを叶えた上でウィルを家に送り返すことに恵里達は成功する。その際イルワに“魔力操作”のことがバレたりなどして結局彼を青ざめさせる結果となった。そんな恵里達は現在――。

 

「さて恵里さん。幸利君達をそそのかしたことに対する言い分はないかね?」

 

「何が悪いの? 別に問題ないじゃん」

 

「そういうところですよ」

 

 幸利、優花、奈々と一緒に正座して鷲三と霧乃に叱られていた。原因は昨晩恵里が『幸利君が増えればハーレム成立するじゃん』と言って三人をそそのかしたことである。

 

「いいですか。日本で一夫多妻は認められてないというのはあなただって知っているはずでしょう。わかっていながらどうして」

 

「だから増えれば大丈夫だって言ったんだよ。ほら一夫一妻。ね?」

 

「倫理観と常識はオルクス大迷宮で捨ててきたのかね?」

 

 食堂で朝食を終えた後、幸利が浩介に『頼むから“分身”の技能を付与したアーティファクトを一緒に作ってくれ』と頼み込んだらしい。そしてその理由を尋ねられて話した際、偶然鷲三がそれを聞いていたという。結果、根掘り葉掘り聞かれ、元凶の恵里もバレた上に止められなかったハジメと鈴も連座することになってしまったのだ。

 

「いや、その鷲三さん! 恵里は確かにそう言いましたけど、悪いのは俺が……」

 

「わ、私も! エリのその言葉に乗ったのは私と奈々もそうです!」

 

「うん! 受け入れられなかったら私も反対してましたから!」

 

「理由がなんにせよこれは許されたものではないぞ!」

 

 そこで横にいた幸利達が額に汗をかき、体を震わせながらも抗議してくれたものの鷲三の一喝によって仲良く黙り込んでしまう。

 

「ハジメくんも鈴もさ、三人の味方しないの?」

 

「まぁ、悪いことだってのは僕達もわかってるし……」

 

「止められなかった鈴もちょっと責任感じてるから……」

 

 なお先程からハジメと鈴は引きつった顔で終始うつむいたままである。せいぜい受け答えで何度かこちらを見る程度なため、そのことを少し情けなく思いつつも早くお説教終わらないかなーと恵里は考えていた。聞き流す気満々である。

 

「それを世間の目が許しはしないでしょう。仮にそれを度外視したとしても、幸利君が増えたことがいずれ露見します。そうなったらどうするつもりなのですか? 彼にお兄さんと弟はいても確か歳は離れてるはずでしょう」

 

「地球に戻ったとしてもこの力を持っていることが知れ渡ったらどうなるか。無事で済むとは限らんし、地球が混乱してもおかしくはない。その責任を君達はとれるのか」

 

 とはいえ二人の至極尤もな言葉を受けてそのまま流せるほど恵里も薄情にも考えなしにもなれなかった。実際この力を持ったまま地球に戻ったら大変なことになるのは目に見えてるからだ。

 

 それに地球ではどれだけの時間が経過しているかもわからないし、力を捨てて戻っても長期間失踪していたとなるとその事実をどうごまかすかが悩ましい。

 

(言われてみれば確かになぁ……やっぱり前に話し合った時のハーレムOKなとこに移住する案かなぁ)

 

 ちなみに自分達の場合だが、トータス会議をしていた際に『もし異世界転移が起きなかったら?』ということも議題に挙がって話をしていたのだ。その時の結論がコレである。

 

 ただ、トータスに転移して生成魔法と“分身”いう便利な存在を知ってからは『じゃあボクと鈴でハジメくん一人ずつシェア出来るね!』と密かに邪な考えもしていたが。ただ鷲三と霧乃が言及したことを踏まえるとこちらは無理そうだなと内心ため息を吐いていた。

 

「……じゃあ、なんとかすればいいんですよね」

 

 やっぱりエヒトってクソだなと心の中でグチっていると、不意に幸利がぽつりと漏らした。軽くドスの利いた声が引っかかり、彼の顔を見れば軽く目がすわっている。何かやらかす気じゃないかと思わず恵里は軽く身構えてしまう。

 

「どうする気だね?」

 

「まだ考えてません……でも、俺と優花、奈々が悲しまなくって済むような、それと地球の奴らを黙らせるような案を出せばいいんですよね」

 

「それをどうするかと言ってるんです。そう簡単にやれるものではないと言っているんです」

 

 流石にまだ考えがまとまってなかったようだが覚悟が決まっているのは声のトーンからしてよくわかった。見れば優花と奈々も真剣な目つきで鷲三達を見ており、二人も同様なのが恵里にも理解出来た。

 

「だったらさ、ケチつけられないぐらいすごい存在にでもなる?」

 

 だから恵里も助け舟を出す。真っ先に脳内に挙がったのは『地球全土に及ぶ洗脳効果のあるアーティファクトで人類の認識の書き換え』であったが、それに自分の両親やハジメと鈴、そして幼馴染の家族を巻き込む訳にはいかないとすぐに却下した。その代わりに何か無いかと考えて出たのがコレである。

 

「全く……少しは反省したかと思えば突拍子もないことを。恵里さん、神様にでもなるつもりか?」

 

「地球にいた頃はどれだけ大人しくしていたかがよくわかるわね……私達が持つこの力、他の人達がどう見てしまうかはわかっているつもりでしょう?」

 

「わかってるよ。でも――」

 

「ウチの恵里がすいません……ですが待ってください鷲三さん、霧乃さん」

 

 だが鷲三と霧乃は頭を手で押さえて深くため息を吐くばかり。猫を被っていたのは認めはするが、だからって今の関係性を捨てる気は微塵もない。口を出そうとした時、頭を下げたハジメが何かを言おうとしたため恵里は言葉を引っ込めた。

 

「僕も恵里と鈴と一緒に生きることをあきらめてませんから」

 

「……ハジメ君。本気かね?」

 

 ハジメの一言に恵里はうんうんとうなずく。そこで鈴はどうかと思って横に顔を向ければ、鏡合わせのようにお互い顔を見合わせてしまう。そのことが少し嬉しくなり、一緒に笑みをこぼすとすぐに鷲三らの方へと向き直った。

 

「えぇ。鷲三さんが仰ったようにもし地球に戻ってもトラブルが起きるのは間違いないでしょう。だから僕達も方法を探します。三人で幸せになる方法を」

 

「だって、鈴達はもう離れられませんから。そうじゃなかったら悩んでません」

 

「ま、そういうこと……舐めないでよ。ボク達は本気だよ」

 

 どんな壁が立ちはだかろうが地球に戻るし、三人で一緒に幸せになる。その覚悟を胸にハジメと鈴と三者三様のに啖呵を切った。鷲三と霧乃が困り果てた様子で深い溜息を吐くと、今度は幸利達も後に続いた。

 

「俺もだ……俺だって優花と奈々と一緒になるのあきらめてねぇ! いくら俺の恩人の家族だからって、こればっかは否定させねぇぞ!」

 

「そうよ! ユキと一緒にいられないなんて死んでもゴメンだわ!」

 

「うん! 絶対死んでも離れないから! 幸っちと一緒の人生がいいの!」

 

「……全く、強情な」

 

「一途だったらちゃんと応援できたんですけどね……」

 

 幸利達もまた情熱的な思いを口にすれば、大人二人は天を仰いで再度ため息を吐く。恵里はハジメと鈴と、そして幸利達とも顔を合わせ、うなずき合った。

 

「やろう幸利君。僕達も共犯者だよ」

 

「最高に頼れらぁ。頼むぜハジメ」

 

「頼むわね。エリ、スズ」

 

「任せて、優花」

 

「エヒトを殺した後どうするかも考えないといけないし、他の皆も巻き込もうよ。人数多い方が出てくる案も多いしね」

 

「恵里っち、ホント腹黒いなぁ……じゃあ早速――」

 

 そうして六人で誓いを立て、一緒にあくどい顔を浮かべながら画策していた時であった。扉を開け放って一人の兵士が転がり込んできたのである。

 

「で、伝令、伝令ー! へ、ヘルシャー帝国が国境付近に現れたとのことです!」

 

 ずれた兜も直さず、汗だくになりながら兵士は声を時折かすれさせながらも報告を上げた。恵里だけでなくこの場にいた全員が顔を見合わせ、すぐさま部屋の出入り口へと向かっていく。

 

「み、皆様はもう玉座の、玉座の間へ……」

 

「わかりました! 後は僕達がどうにかします!」

 

「もう来たってのか? まぁハジメ達の手足が戻った今だったから良かったけどよ」

 

「ギリギリだったわね……ねぇエリ、アンタ何かいい作戦ない? 何か考えてるんでしょ?」

 

「いきなり言われたって困るよ。とりあえず話聞いてからだね」

 

「私達も斥候、いえ先行して攻撃を仕掛けた方がいいかもしれませんね」

 

「ありがとう霧乃さん。でもまずは話を聞いた方がいいと思います」

 

 かくして恵里達は玉座の間へと早足で向かう――つかみ取りたい未来への道筋はあやふやで、幾つもの壁が立ちはだかっていても彼女の顔にわずかな翳りはない。ただ前を見据えて恵里は歩き続ける。

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