では改めまして拙作を読んでくださる皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも216008、しおりも468件、お気に入り件数も940件、感想数も747件(2024/8/25 15:07現在)となりました。誠にありがとうございます。こうしてまた多くの方に読まれることがありがたいです。
そしてAitoyukiさん、今回もまた拙作を再評価してくださり誠に感謝いたします。おかげでまた話を書きたくなってきました。とてもありがたいです。
では今回の話の注意点としてちょっと短い(約9000字程)です。お察しの通り分割してるせいです!(白目)
では上記に注意して本編をどうぞ。
「そ、それは本当なのかメルドよ……」
「はっ。改めて申し上げます……既にヘルシャーは国境付近に部隊を展開。その数は五万にも及ぶとの報告を部下から聞いております」
玉座の間がどよめく。
鷲三らから説教を受けていた恵里達であったが、部屋になだれこんできた兵士の報告を聞いて急いでここへ向かう。自分達を見ると同時に兵士達が扉を開けてくれたおかげですぐに入ることが出来、そこにはもう光輝達幼馴染も集まっていた。
いなかったのは今もウルの街で仕事をしている愛子ぐらいで、デビッド達やフリードもいたのである。恵里達が入ったところでメルドが周囲にくまなく視線を向けた後、先の報告を述べたことによって場が騒然としたのだ。
「そんな……ご、五万だぞ!」
「数が違いすぎる……これがヘルシャーの本気だとでもいうのか」
改めて聞き直した大臣を筆頭にこの場にいた多くの人間が小声で不安を漏らしたり、忙しげに近くの人間の顔を見るなどしている。重吾達もまたどうすればいいとつぶやいたり、すがるような目つきで恵里達を見ていた。
「皆の者静粛に! 静粛にせよ!……メルドよ、ヘルシャーの布陣はどのようになっておる」
「はっ! エメットやフィンドレイといったヘルシャーについた貴族の旗も確認されており、既に包囲されている模様です」
エリヒド王の一喝によって一度は場が静まったものの、更なる情報によって再度場が混沌としてしまう。大臣達は両手で顔を覆ったり、その場で膝をついて呆然とした様子でこちらを見ている。エリヒド王も『なんということだ……』と漏らしながら手で顔を覆い、隣にいたルルアリアも右手で口を押さえてわなわなと震えていた。
“思った以上に多いね……”
その一方。恵里達もヘルシャーが差し向けて来た兵の多さに渋い表情を浮かべている。それだけ本気で王国を陥落させようとしているのだということは嫌でもわかってしまい、恵里は思わずげんなりしてしまった。どうにもならない、という訳ではないにしても面倒であることには違いないからだ。
“うん……わからない訳じゃない。そうじゃないけどさ”
“こんな時にすることじゃ、ないよね……”
“だよねぇ~。どこまでエヒトにいいように転がされてるんだか”
“念話”でハジメと鈴にボヤけば、二人も苛立ちを抑えようとしているのを恵里は返事から感じ取った。恵里も軽く肩をすくめながら同意すれば二人もため息を吐き、その姿を見てこの状況に嫌気がさしているのを感じてつられて短くため息を吐いてしまう。
「……くっ」
「落ち着いて。落ち着いて光輝。ね?」
「お前がそうなるのはわかる。俺だってそうさ……でも、今はそうじゃない。だろ?」
「……あぁ。ごめん、皆」
一応幼馴染達の方にもチラッと目を向ければ案の定、正義感の強い光輝の顔つきが険しくなっており、彼を雫と龍太郎らがなだめているのが見えた。
デビッド達も眉間にしわを寄せながら互いに見つめ合っており、自分達と同様“念話”か何かで話し合いをしているのだろう。そう恵里は推測しながら正面へと視線を戻した。
「そして、申し上げ辛いのですが……遠方からアンカジ、そして聖教教会のものと思しき旗もフリードとウラノスが確認しております。数は、一万」
そして苦々しい表情で告げたメルドの報告を聞き、悪いことは続くなと思いつつ恵里はまたため息を吐いてしまう。ビィズが使節団としてフューレンに来たのは二週間ほど前で、急遽アンカジに戻ったという連絡もまだ来ていないからだ。
「……ちっ。最っ悪」
公国に戻ってもいないはずなのにこの状況であることを考えると、既定路線かあるいは帝国が圧力でもかけたんだろうなと恵里は露骨に舌打ちをする。
「あ、アンカジも既に……」
「もう、おしまいだ……王国の歴史はもう、終わりなのだな」
見れば大臣の大半はその場にへたり込んでおり、残り数名とエリヒドらは手を組んで祈りを捧げている。もしかしてと思った恵里は彼らの視線の先にいる人間の方向に目を向ければ、やはり大介とアレーティアがいた。大介は少し赤くなったほほをかいて居心地が悪そうに周囲を見回しており、アレーティアは彼の後ろに隠れてもじもじしている。
「な、なぁ、大丈夫なのかよ……」
「この数じゃ流石に……」
「おい天之河、勝てるのか。勝てるんだよな?」
こんな時でも何かにすがらないと駄目なのかと半目で彼らを見つめようとした恵里だったが、不意につぶやいた淳史らの方に意識を取られる。目を向ければ、眉尻を下げながらすがるような目つきでこちらを見ていたのに恵里は気づいた。
「……ごめん玉井。仁村と相川も。無責任に出来るなんて断言はできない。でも」
「それをこれから話し合いましょう。もしかしたらどうにかなるかもしれないから」
「あ、いや、その……」
淳史の疑問に光輝は申し訳なさそうに顔を伏せながらつぶやく。しかし言葉を続けようとした時に雫が真剣な顔つきで話に割り込み、明人らをじっと見つめたのだ。すると彼らも互いに顔を何度か見合わせ、コクリと首を縦に振って何も言わなくなった。
「ありがとう、雫」
「ううん。私こそ割り込んでごめんなさい……その、メルドさん。他には何かあるかしら?」
「まぁ無い訳じゃないが……とりあえず地図と駒、それと机の用意を頼めるか」
光輝が短く感謝を伝え、雫も彼に軽く頭を下げる。何度か視線をさまよわせた雫がメルドに問いかけると、彼も右手をあごに軽く触れさせながら何か考える素振りをしつつ答えた。そこで恵里達は互いに顔を合わせ、自分の宝物庫から机やパイプイスを取り出して玉座の間に並べていく。
「――帝国の兵の配置はこのような具合だと聞いております」
軍議の間は一応修繕はされたという話は聞いていたが、王宮に厄介になってから使ったという話を恵里は聞いていない。メルドがこの場で軍議をしようとしているのは単に時間が無いだけじゃないんだろうなと思いつつ、恵里はメルドの部下が持ってきた地図をながめる。
「ふむ……裏切った家が矢面に立っているか」
「はっ。大方あちらから忠誠を示せとでも言われたのでしょう……このように背後の神山以外に帝国は陣を敷いており、今も少しずつ包囲を狭めていると思われます」
地図の上には無数の駒が並び、中でも先鋒を務めているのは全てこの王国を裏切った貴族のものだとメルドは話していた。そうなのかと思いながら恵里はフリードに視線を送れば、一瞬だけこちらと顔を合わせた後に軽くうなずいて返す。
「私とウラノスを斥候扱いすることに文句が無い訳ではない……後でボトルの一本でも奢れ。メルド」
「……頼む。一本だけにしてくれ」
すると地図に目を落としていたフリードがほんのわずかな間だけメルドを見ながら注文をつけた。姿でも偽装して二人で酒場にでも入り浸っているんだろうかと一瞬思ったものの、心底どうでも良かった恵里は再度地図上に並んだ駒に意識を向ける。
(でもまぁあっちも考えるね。寝返った奴らを壊滅させて、こっちが弱ったところを始末する……ま、ボクでも言うぐらいはしてたかもね~)
「……メルド、我らの兵はどれだけ動かせる?」
「…………ただ動かすにしても三千が限界かと。それも今から冒険者をかき集め、ハウリアの者達を加えてもです」
圧倒的な物量差に加えてえげつない戦略を仕掛けてきた帝国に対し、恵里は軽く舌を巻く。さてどうやって攻略してやろうかと近くにあった駒の頭を触ったり倒したりしながら考えていると、エリヒドとメルドのやり取りで再度玉座の間に嘆きが響いた。
「私の配下となった神殿騎士も加えればもう少しは増やせるが……」
「正直士気が厳しいところですね……純粋な戦力はこの場にいる私達だけと見た方がいいでしょう」
デビッドとチェイスのやり取りを聞き、アテになる戦力は自分達ぐらいだろうなと恵里も思っていた。
先程メルドが示した数は自分達と相対した混成軍が確かそれぐらいの数であったはずと恵里も覚えていた。野心を満たすためや勝ち馬に乗るなどして集まった五万相手じゃ、戦おうという意志もロクに出ないだろう。仮に集めたとしても動かさない方がいいのではないかとさえ恵里は考えている。
「大介様、アレーティア様、どうか、どうか我らにご加護を……」
「いや俺らに頼るなっつの……だから祈るな崇めるな勘弁してくれぇ!!」
「あ、あの、あの……ぁぅぅ」
それ以前にこれ程の物量差だと自分達が全力を出してひっくり返すしかないだろうなーと崇められてる二人を一瞥し、助けを求める視線を無視して恵里は戦略を練っていた。
「あの、メルドさん。父様達は……」
「まだ仕上がりは不十分だが連れていくしかあるまい。ま、カム達はフューレンでの一件で一層訓練に励むようになったから少しはマシになっているだろう……ところでだ」
顔を真っ赤にする二人を無視して頭を悩ませていると、シアがメルドに何か問いかけようとする声が恵里の耳に入った。少し聞き耳を立てればメルドがカム達ハウリアのことを答えている。そこで特に違うだ何だ言わない辺り尋ねようとしたことは合っていたのだろうと思いつつ、再度どう対処したものかと考えを巡らせようとしたところでメルドがこちらに声をかけてきた。
「お前達なら勝てるんだろう? それもほぼ誰も死なさず余裕を以って、な。どうなんだ」
「エヒトの動きを無視すれば楽だけどね」
そこで恵里は駒の一つをヒョイッと持ち上げながら全員を見渡す。今回の懸念は正面にいるヘルシャーだけではないことに気付いたエリヒド王や大臣ら、重吾達もハッとした様子で見つめ返した。メルドだけでなくハジメ達も苦い表情で恵里を見つめており、彼女も手に取った駒を他の駒とぶつけながら考えを述べていく。
「あのクソ野郎のことだからどっかでちょっかい出してくるでしょ。それがどのタイミング、どこでやってくるのかがわかんないけどね」
ただヘルシャー帝国を打ち破るだけなら、これまでに開発したアーティファクトやら前に王国相手に使った戦術、新たに手にした神代魔法を使えばどうとでもなるだろうと恵里は思っている。しかしこうして自分達が戦っている際に横っ面からエヒトが殴りかかってくるであろうことも予想していた。
「臨機応変に、ということか」
「そういうこと」
それ故に考えあぐねていることを口に出そうとすると、フリードが地図の上に手を置き、軽く前のめりになりながら恵里に問いかける。恵里の方もまた薄く笑みを浮かべ、結局なるようにしかならないなと思いながら持っていた駒を元あった場所の辺りへと戻した。
「ここでエヒトが何か仕掛けてくるなんて……どうすりゃいいんだろうな綾子、真央」
「もう、どうすればいいかわかんないよ……健太郎くん」
「私達、勝てるのかな……健太郎くん、綾子ぉ」
「……ミュウ。俺は、俺は」
早速ハジメ達と話し合いをしようと思った恵里であったが、重吾達の気の沈みようを見てしまって半目でため息を吐いてしまう。健太郎達は互いに体を寄せ合い、重吾はしきりにミュウの名前をつぶやいている。面倒くささを感じつつも、とりあえず鈴や香織とアイコンタクトをしてから恵里達は彼らに“鎮魂”をかけまくる。落ち着いたところで話し合いを再開したのであった。
「とりあえずエヒトのことを考えると余力を残してどうにか勝ちたいですね」
「それも無力化で、だな」
「ハジメ殿、幸利殿。何かよい方法があるのでしょうか」
まず大前提として今回やって来たヘルシャー側の全戦力の無力化である。
現地人を余裕で圧倒する神の使徒が無数にいることを考えれば千人単位でいなくても勝率は変わらないのかもしれない。しかし恵里は前世? の記憶があったのとトータス会議で『もしかしたら強い武器や防具を作ったりして戦力を強化したんじゃないか』という推測も出ていたことから一人でも減らさずに済ませたいと考えている。
「お前達はバイクや車があったはずだ……前の時のように、それを使ってどうにかならないか?」
「“崩陸”で地面を流砂にし続けるのはいいんだけど……」
「ハジメくんでも一度にやれる範囲が限られてるのがね……」
そこでルルアリアと重吾から疑問がぶつけられるが、ハジメと恵里は揃って渋い表情を浮かべる。前回と今回では配置された兵士の数があまりに多過ぎるし、広く陣取っているからこそこの方法
「王国相手にした時でも三台フルに使ってどうにか、ってところだったからなぁ……」
「壊れたキャンピングカーは修理したからもう一台使えます。でも……」
「一か所にまとまったのを攻めるのならまだ簡単でした。でも今回はちょっと……」
すると今度は幸利と光輝に鈴、友人達やデビッド達のうなり声が玉座の間に響いた。前回の作戦をなぞるだけではどうにもならないということに彼らも気づいているようで、馬鹿なことを言い出さないことに少しだけホッとしつつも恵里も何かいい案が無いだろうかとうんうんうなっていた。
「あーもう、アレだ。おい良樹に光輝、アレーティアさんよ。三人で竜巻起こしてもう全員ふっとばせよ。良樹は前やったから出来るだろ」
そんな時である。ふと礼一が投げやり気味に大雑把な方法を口にしたのだ。それを聞いて恵里の脳裏にシア達ハウリア一同が合流した経緯を思い出すも心底雑なやり口に思わず呆れ、彼を冷めた目で見つめてしまう。
「おい中村やめろ。ゴミか何かみたいに見つめられるの本気で怖いんだからな!」
「当たり前だろ馬鹿。あん時はただ吹っ飛ばしただけじゃなくて人も物も当てないように気ぃ遣ってやってたんだからな」
「それも結構長かっただろ礼一。魔物の大群をただ倒すのと違うんだぜ」
先程浩介が述べたように、彼の提案した方法は『魔物を殲滅する』のであれば有効なのだ。高火力の魔法や開発した兵器を駆使し、バスやキャンピングカーで周囲を走り回りながら搭載された武装を使って魔物ごと更地にしていくのならば問題は無い。が今回やることはあくまで『人間の無力化』だ。
「そういうこと。竜巻起こすのはいいけどさぁ~、上手く落とさないと死ぬじゃん。その手間を三人にやらせるワケ? 仮にアーティファクトを作って皆でやるにしたって息を合わせられなかったら人間が何かにぶつかって死ぬでしょ? いくら再生魔法があるからって少しぐらい考えてからしゃべってくんない?」
「はい……」
戦力をそっくりそのまま手に入れるのが目的だから殺す訳にはいかない。ただ宙に浮かせてシェイクするだけじゃ駄目なのである。その際の手間や起こり得る問題を口にし、思いっきり目を細めながらダメ出しをすれば礼一も涙目になって恵里に深々と頭を下げたのである。
「恵里、流石に礼一君がかわいそうだからやめてあげて……」
「ハジメくん……コイツら甘やかすとロクなことにならないよ」
「中村、お前……」
「俺らのおかげで生成魔法の真髄とかわかったじゃねぇかよ! ちょっとぐらい大目に見てくれよ!」
「感謝してない訳じゃないけどそれはそれ、これはこれでしょ」
ハジメがオロオロした様子で礼一を気遣ってほしいと頼み込んできたものの、恵里は思いっきり渋い表情を浮かべてハジメを見つめる。良樹が述べたように彼らが馬鹿やったおかげで大きな収穫を得たことは何度もあったことは認めたものの、別問題だと恵里は言い放つ。
「近藤さんが仰ったことは決して悪くは無いのですが……いえ、お待ちください」
信治に良樹、幸利らも彼に同情するような視線を送ったりこちらに呆れたような視線を向けてきても無視した恵里であったが、ふとリリアーナの漏らした一言を聞いて思わず顔をそちらへと向ける。
「何か浮かんだの? 何でもいいから言ってくんない?」
「「「おい、俺らの扱い……」」」
「し、信治さんも斎藤さん達も頑張ってらっしゃるのはわかってますから……それで、一つ思いついたことが」
もしや何かいい案でも浮かんだかと恵里は声をかけた。その際良樹達の力ないつぶやきを無視してじっとリリアーナを見つめれば、彼女も少し引きつった笑顔で彼らにひと言声をかけてから本題を切り出した。
「皆さんは先日重力魔法という神代魔法を習得されましたよね」
「うんそうだね。ボク含めて適性があるのは結構……うん、いたけどさ。バラけて重力魔法で帝国の奴らでも浮かせるの?」
「え、えぇ……それも一応案として浮かびましたし、その力は相手を押しつぶすのにも使えますよね? どうでしょうか」
彼女が
「単に浮かせたり押しつぶすだけならね。でもちょっと使うのはねぇ~」
「それは鈴も一応考えました。でも重力で潰す場合だと力加減を間違えると潰れちゃいますし……」
だが重力魔法を使うことに対して難色を示したのもちゃんと訳があった。
単に自分達が軍隊のいる場所に飛ぶのはどうとでもなる。空間魔法の“仙鏡”で遠く離れた場所の光景を空間に投影し、“界穿”でそこに移動し、重力魔法を発動すればいいだけでしかないのだから。しかし鈴が述べたように重力魔法の加減が難しいのだ。
「それほど、難しいのですか」
「ただ壊すだけならいくらでもやれるよ。ミレディが何メートルもある金属の塊をぺしゃんこにしてたのを見てたし。でも、軽くかけるだけだとぶっつけ本番になっちゃうからね。そんな危険な賭けなんてしたくないの」
まず“壊劫”などでより強い重力をかける方向でいくとそのまま地面のシミになる可能性がある。それだけ重力魔法の破壊力は恐ろしく、かといって相当手を抜いた場合だと多少体が重くなる程度でしかない。マトモに動けなくなる程に抑え、かつ体にダメージが残らないようにするのも難しい。
「仮にそうなったとしても再生魔法でどうにかはなると思うんですが……今使えるのは幸利君達だけですからね。死んだ人にかけても必ず蘇生できるにしても彼らに余計な苦労はさせたくないですし。“崩陸”と組み合わせたら、その……際限なく沈みそうですし」
最悪何かあった場合、ハジメが述べたように再生魔法を使えばいい。しかし再生魔法はまだ手に入れたばかりだし、それを会得しているのは自分でなく幸利達メルジーネ海底遺跡を攻略したメンバーだけだ。どこまでやれるかまだ不明なものに賭ける気にはなれなかった。
それに“崩陸”と組み合わせて重力魔法を発動させた場合の最悪のケースも恵里の脳裏に浮かんでいた。地中深くに生き埋めになったらどーすんだ、という話である。
「リリィ。君の案は悪くないとは思うんだけど、仮に浮かせる場合だと人間がそこかしこに飛んじゃったりするんだ」
「重力がないと宇宙ステーションの人達みたいなことになっちゃうもの……って、流石にリリアーナさんでもわからないわよね」
そして重力の軽減や消失などの場合によることも恵里は想定していた。光輝と雫が述べたように重力が無くなったら何かの拍子に体がどこかへ吹っ飛んでしまう。
「えーと、つまり……人の体が鳥の羽のように風に舞うような感じでしょうか」
「そういうこと。んで魔法の範囲から外れたらそのまま一気にズドン。ぐっちゃぐちゃになっちゃうからね」
吹っ飛んだ体もコントロールしないといけないだろうし、ちょっとでも重力魔法の範囲から外れればそこで元の重力に引っ張られる。命綱もクッションも無い状態でバンジージャンプをやらされることになりかねないのだ。リリアーナの理解力の高さに内心驚きつつもどうしたものかと考える。
「今のでわかるんだ……えっと、そういうことです」
「じゃあ俺が提案した通り竜巻起こした方がマシじゃね?」
「いやそれはそれで問題が――」
「待ってください!……やはりそうだったんですね」
香織も口をうっすらと開けてリリアーナに驚いていた様子であった。そこでまた礼一がさっきの方法を蒸し返す。正直どっちがマシなのかわからないというのにまた押し付けるなと龍太郎と一緒に止めようとした恵里であったが、リリアーナが静止してきたことに驚いて思わずそちらを向いてしまう。
「ただ風属性の魔法を扱うのも、重力魔法や地面を柔らかくする魔法を使うのも駄目……でしたら、こういう方法はいかがでしょうか」
ちょっとドヤ顔でこちらを見つめ返してきたリリアーナに、ちょっとだけイラッと来た恵里は舌打ちをしそうになってしまう。しかし彼女が話した案を聞き、さっきの香織のように皆で間抜け面をさらしてしまった。
「……出来る」
「やれる、ね……」
皆の口から漏れ出るのは成功や実現を確信したものであった。それは恵里やハジメ達、メルドにフリード、デビッド達だけでなく重吾達や先程まで絶望していた大臣にエリヒド王までつぶやいている。顔を上げて互いに見合えばその目に曇りは一つもなかった。
「このままだと皆の負担がすごい。けど、もっと突き詰めればきっと負担を減らして勝てる! ありがとうリリィ!」
「え、えぇ……」
「おい光輝、それ俺のセリフだ! 盗んな馬鹿っ!」
「ご、ごめん信治!」
そして光輝が真っ先にリリアーナに礼を伝えるも、彼女はアテが外れたように顔をそらしてちょっと引きつった笑顔を浮かべている。すぐに信治が彼女の手を引いて抱き寄せ、嫉妬と怒りにまみれた言葉を口にすれば光輝も心底申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「と、とにかく考えよう! 時間だってどこまで余裕があるかわからない! 皆で案を出し合うんだ!」
そして取り繕ったように提案をする彼に恵里だけでなく雫にハジメ、フリードやメルド、ルルアリアらが笑みを浮かべた後、すぐさまこの場にいた皆が話し合いを始める。
「移動手段はどうする! 車三つにバイクだけじゃ足りねぇぞ!」
「馬車を使おう! 商業用に用意した奴とゴーレムを使えばどうにかなる! リミッターも僕が外す!」
「それでも数が足りないね……他にいいのない!?」
「ねぇ姫様本気!? まだ研究途中の奴なのよ!?」
「ここで使うのを惜しんで負けてしまったら元も子もないでしょう! 最悪魔晶石も使いましょう!」
かくして打倒ヘルシャーの会議は進む。終わりに向けてのカウントダウンが刻一刻と迫る中、恵里達は鬼気迫る勢いでそれに抗う方法を必死に模索し続けるのであった……。
なんとなくリリィの活躍シーンを入れてみたくなりました。反省はしていない。