あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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久々の週一投稿です。やったぜ

では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも217859、感想数も752件(2024/9/15 18:47現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして好調にUAが伸びてるのは本当にありがたいです。

そしてAitoyukiさん、小説大工の源三さんことゲンさん、拙作を再評価してくださり感謝いたします。おかげさまでもう次の話が書きたくなってきました。ありがとうございます。

それでは久々の適量(約10000字程度)となりました本編をどうぞ。


九十八話 勝利者は誰?(後編)

「この、化け物がぁー!」

 

 怨嗟に満ちた表情で神殿騎士の一人が叫ぶ。その男を含め幾人もの人間がまた恵里の手によって空へと吸い込まれるように昇っていくが、その下手人である彼女は空を見上げずに周囲を見渡すだけであった。

 

“ねぇフリード、他のアンカジの兵は?”

 

“それは雫達がセットしたアーティファクトで既に空の彼方だな。いや、もうアレーティアが回している最中かもしれん”

 

 “念話”を繋いだフリードの答えを聞き、やっぱりと思いながら周囲を見渡すのを恵里はやめる。“遠見”の技能を使わなければ敵兵は見えず、その敵も大いにうろたえるか誰かを相手に突っ込んでは返り討ちに遭ってる光景ばかりだったからである。

 

“ってことはまだ敵がいるんでしょ。とっとと索敵終わらせてよねぇ~”

 

“わかっている。ただ、神の使徒がどこかに現れたかもしれんし、少々時間かかかる”

 

“はいはい。わかってるよ”

 

 とはいえまだ戦闘は終わっていないし、どこかで自分が出張る必要があるかもしれない。それにどこかでエヒトが神の使徒を動かす可能性だってあるのだ。フリードに理解を示した恵里はやや投げやりな返事をしつつ、再度周囲を見渡す。代わり映えのしない景色をながめてどうしたものかとため息をかみ殺していた恵里であったが、ふとあることが気にかかってしまった。

 

「“仙鏡”っと……さて」

 

 遠くを映す魔法を使い、恵里は目の前に投射された戦場の映像を見渡していく。目的は今も戦っているであろう幼馴染の様子を見ることであった。

 

(おー。後詰の奴らも動いてる。ってことはもう戦いも終わりが近いのかな)

 

 そんな折、恵里はハイリヒ王国の兵士や冒険者達の一団が帝国兵が埋まっているところで巡回か何かをしているのを目撃する――今回の帝国との戦いの際、ハイリヒ王国がかき集めた戦力に頼んだのは自分達がやったことの後始末であった。

 

(あ、アイツいい鎧着てる。やっぱ引っ張り出すよねぇ~)

 

 それは埋まっていた帝国側の兵士が逃げ出そうとした際に無力化したり埋め直したり、または寝返った者も含めて敵方の貴族を掘り起こして捕虜として確保してもらっていたのである。また彼らは自分達が無力化を行った後に来るよう王を介して指示を出しており、他のところも映してみれば似たような光景が何度も見えた。

 

(ん? あれってもしかして――)

 

 戦いの終わりを感じつつも恵里は引き続き幼馴染の姿を探し続けた時、ふとある場所を映したものを見て恵里は魔法の操作を止めた。

 

(大丈夫かな。アレ、ちょっと光輝君の手間が増えそう……どうしよっかな)

 

“恵里、聞こえるか。これから次に向かう場所の指示を出す”

 

 映しだされるものを見て、腰に手を当てて軽く首を傾けながら恵里は迷った様子を見せる。一度フリードに断りを入れてから彼の援護に向かおうかと悩んだ時、司令塔の方が“念話”を寄越した。

 

“あー、はいはい……わかった。次はどこに向かえばいい?”

 

“今お前のいる場所から東だな。かれこれ――”

 

 繋がったのなら今伝えるかと思った恵里であったが、その時映像にある変化が生じたことで浮かび上がった心配はあっという間に消えた。そこですぐにフリードからの指示に応じ、恵里はすぐに“仙鏡”で次に暴れる場所を探していく。

 

“では頼んだぞ。私はこれから幸利に次の指示を出す”

 

“はいはいりょーかい”

 

 フリードの指示の通りに場所を探せばすぐに次のターゲットが見つかった。戦場を走って別の部隊と合流しようとしている奴らであり、合流直後を狙って一気に潰すかと画策しながら恵里は“界穿”を唱える。

 

「……気を付けてね、光輝君。それと浩介君も」

 

 先程見ていた映像に映っていたのはトレイシー皇女と見覚えのある野卑な男、その二人と戦う幼馴染であった。しかし恵里の口から出て来た言葉には一切の心配というものは見えず、ただ彼らの苦労をねぎらうものだ。作戦が終わったら雫とラナに二人の頑張りを伝えてやろうと思いつつ、恵里は開いたゲートホールをくぐっていくのであった……。

 

 

 

 

 

「この……薄汚いカスがぁー!!」

 

 それはフリードが恵里に次の戦場を説明する少し前のことだった。平原のある場所で何百もの帝国兵を空へと上げて軽くため息を吐いた光輝の耳に罵声が響く。空を見上げれば粗野で横暴な雰囲気の男とトレイシーが彼の下へと突っ込んでくるのが見えたのである。

 

「まだ抵抗するんですか! 大人しくやられて――」

 

「この程度で、戦いは終わりませんわ!」

 

 風の魔法で進んでるのだと理解した光輝は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。そしてどうやってこちらへと突っ込んでくる二人を無力化しようか考え、彼は聖剣を日本刀の形状に変化させると同時にある魔法を発動した。

 

「“魄崩”っ!」

 

 それは人間の意識や体内にあるエネルギーなどを攻撃する魔法であった。変化させた聖剣でやった居合と共にそれを放ち、相手の魔力を切断することで完全な無力化を図ったのである。

 

「なっ――」

 

「そうでなくては!――喰らいなさいな! エグゼスぅううう!!」

 

 だがここで思いがけない事態が起きた。二人目掛けて叩き込もうとした一撃は、トレイシーが持っていた大鎌を思いっきり前に振りかぶっただけで不発に終わったのだ。二人が進むスピードが衰えず、こちらにまっすぐ突っ込んでくるのを見て光輝は思わず目を見開いて凝視する。

 

「……マジか。トレイシー」

 

「冗談も……大概にしてほしいんですけどね!」

 

 だが袈裟懸けに振るわれた剣と横薙ぎに振るわれた大鎌に即座に反応し、二つの刃を刀身で受けると手首を返して攻撃をそらす。八重樫流刀術のひとつである音刃流(おとはながし)。相手の攻撃を受け流した瞬間にカウンターを入れる技を応用し、相手の攻撃を捌くことに専念したのである。

 

「チッ……ダニごときが、死んでろってんだよ!」

 

「アハッ! そうこなくてはぁっ。戦いを楽しみましょう、天之河光輝っ! ですわぁ!」

 

 受けた二つの刃が刀身を伝って火花が散る。聖剣を西洋剣へと戻すと同時に右手を刃の腹に添えて二人を押し出せば、トレイシーも粗野な雰囲気の男も弾かれたように後ろへと跳んだ。トレイシーの言葉に一瞬奥歯を強く噛みしめながらも光輝は再度聖剣を構える。

 

「そこの野卑な男は我に任せよ。光の導き手よ!」

 

「っ、浩介!」

 

 二人の出方をうかがっていた時、上から今度は頼れる声が届いたことに光輝は歓喜の笑みを浮かべる。降って来た数本のクナイは男の両腿と右足の甲へと向かっているように見えたが、男が大きくバックステップをしたことで浩介の攻撃は空振ってしまう。

 

「うぉっ!?……次の皇帝になる男に、何をしやがるゴミがぁー!!」

 

「そちらの戦姫の相手を頼む! 分身の我ではいささか相性が悪いのでな!」

 

「大丈夫だ――この人は、俺が相手をするつもりだから」

 

 激昂した男を浩介に任せ、光輝は軽く目を細めながら聖剣を構える。直後、トレイシーはエグゼスと呼んだ自身の漆黒の大鎌を上段から振り下ろし、それを受け流しながら光輝は己の思いをぶつける。

 

「戦いなんて、楽しむものなんかじゃない! 誰かを傷つけることを貴女は良しとするのか!」

 

 光輝にはトレイシーが魔物以下の存在に思えてしまっていた。いくらオルクス大迷宮の魔物であっても自分が生きるためであったり、神代魔法というとてつもない力をみだりに相手に渡さないために戦っていたと彼は認識している。

 

「戦の高揚というものを知りませんの? 戦いに身を投じているなら存じているでしょうに!」

 

 しかし目の前の少女はただ純粋に戦いを楽しんでいると光輝は確信していた。口角を上げ、楽しげな声と共にギラギラとした目で自分を見つめていたからだ。

 

 ハジメと接して色々なサブカルチャーの知識を持っていたし、そういう人間もいるということは『知識としては』理解していた。訓練で浩介の分身を何度となく倒したこともあるし、自身が強くなることに達成感を感じたりすることも光輝とて否定はしていない。しかしだからといって、ただ戦いに楽しみを感じるような存在になる気はなかった。

 

「そんなものに、俺は身を委ねたりしない! 戦いは、道を切り拓くためにある!」

 

「ならばそれで構いませんわぁ! 存分に闘争を楽しみましょう!」

 

「だからしないって、言ってるだろう!」

 

 だから光輝は彼女の言葉を否定する。トレイシーが止まることなく刃で描き続ける円の軌跡を受けては流す。手首や腕に歩法、体全体を使っての円運動が生み出す無限の斬撃を一つひとつ受け、どれだけ加減して攻撃すれば倒せるか言葉の応酬を繰り返しながら計算していく。

 

「考え事とはいい度胸、ですわね!」

 

「うぉっ!」

 

 だがそれを見透かしたトレイシーは距離を取ると同時に大鎌を大きく振るう。その瞬間、鎌から噴き出したオーラがいきなり孤月を描いて光輝を追撃していく。かつて自分が放っていた“天翔閃”と同等の威力の斬撃を聖剣で受け流すとすぐさま正眼に構えた。

 

「わたくしが望むのはただ一つ。死合いですわ。血湧き肉躍る本気の闘争ですわ!……せっかくこうして強い方と出会えたんですもの。フューレンの時から何度となくお預けをもらって、このままでは体の火照りが収まりませんわ」

 

 そして凄惨な笑みを浮かべる女を見て、光輝は思わずため息を吐く。話が通じない。もしかすると相容れないかもしれないと光輝は直感してしまう。

 

 自分の言葉が届かない時は何度もあった経験からそこまで絶望はしていない。今回もきっと分かり合えないであろうことへの徒労を感じ、思わず柄を握る手に力が入ってしまう。

 

「……そうですか。わかりました」

 

「やっと、やっと本気を出していただけるのですね!」

 

「あぁ。出してやる――俺の()()を、実力を」

 

 だからこそ真っ向から倒す。己の全力を以て叩き潰すことを光輝は決意する。赤い瞳をくわっと見開き、瞳を凝視しながら“威圧”をトレイシーへと叩き込んだ。

 

「っ!? なっ!」

 

 “威圧”で一瞬体の動きが鈍ったのを確認すると同時に“重縮地”で距離を詰める。自身の接近に反応した彼女が逆袈裟に切り上げるが、それと鏡合わせになるよう光輝も聖剣を斜め下から振り上げる。

 

「そん――あぁっ!?」

 

 加減しない全力の一撃は容易に彼女の持っていた大鎌を空へと打ち上げた。その勢いのままコマのようにくるりと回転しながら更に距離を詰め、聖剣から左手を放すと同時にひざを軽く曲げて重心を落とす。

 

「――ごぼっ!?」

 

 回転の勢いも乗せ、相手の脇腹に左腕でひじ打ちを叩き込もうとする。しかしトレイシーは自身の左腕を下げて防御したため狙い通りには行かず――左ひじを砕き、脇腹を強打する程度で済んでしまった。

 

「そこっ!」

 

「――がぁぁぁっ!」

 

 だがそこで光輝は追撃を止めない。聖剣を上に放り投げ、右手でトレイシーの右肩を打ち抜いた。ミシリ、と鈍い音が響くと同時に肩が潰れてトレイシーは苦悶に満ちた表情を浮かべる。しかしそれでも光輝は追撃を止めようとはしなかった。

 

「でぇいっ!」

 

「ひぎっ――がぁあぁ!!」

 

 左手で右のももにチョップし、ぐしゃりと肉と骨が潰れた音を戦場に響かせた。そしてそのままトレイシーが地面に倒れていくのを見つつ空転していた聖剣を右手で掴み、振り下ろしながら切っ先を彼女の顔へ近づける。

 

「と、トレイシー!?」

 

 一瞬視線を浩介の方に向ければ、粗暴な雰囲気の男もがんじがらめになっている。トレイシーを見てひどく驚いた様子でこれなら大丈夫だろうかとは思ったものの、オルクス大迷宮攻略時のことを思い出して警戒を解くことはしなかった。

 

「俺は無駄に命を奪うようなことはしたくない。それにもう貴女は戦えないはずだ……降参してくれ」

 

 光輝はただ静かにトレイシーへと問いかける。これ以上無駄な犠牲を出さないために。そして一刻も早く彼女につけた傷を癒すために。

 

「……最初から、勝てない戦いでした、のね。わかり、ましたわ。降伏、します」

 

「ありがとうございます。“聖典”……大丈夫かちょっと不安だな」

 

 すぐさま対象を目の前の少女のみに絞って“聖典”を発動し、彼女の体を仰向けにすると実際に触って確かめてみる。見た感じ自分がつかんで動かす分には問題ないように見えるが、もしかすると神経が断裂したかもしれない。その不安が光輝の頭をよぎり、近くにいた浩介の分身の方に顔を向ける。

 

「浩介、再生魔法を使ってくれないか。もしかすると俺のせいで手足が動かなくなったかもしれない」

 

「承知。後のことは我に任せ、貴公は戦場を蹂躙するがいい」

 

「あぁ……って言っても、フリードさんの指示をもらわないとだけどな」

 

 そして彼に真剣な顔つきで手に入れた再生魔法の使用を頼めば、彼もほのかに口角を上げてニヒルな笑みを浮かべて答える。後は任せろという彼の言葉を聞いて光輝は力強くうなずくも、一度視線を明後日の方へと動かして困ったような笑みを浮かべた。

 

「“絶象”……これで傷の方は問題ないだろう」

 

 一方浩介は笑みを崩さないまま、ある再生魔法を発動する。

 

 その瞬間、蛍火のような淡い光が発生してスっと流れるようにトレイシーの体へと落ちる。すると彼女の体が輝きだし、淡い光の粒子が湧き上がって天へと登っていった。まるでこの世の悪いものが浄化され天へと召されていくようで、光輝は神秘的で心に迫る光景に思わずため息を吐いてしまう。

 

「すごいな……あ、ありがとう浩介。それと」

 

「言ったはずだ。後は我に任せよ、と」

 

 思わず言葉が漏れてしまったものの、直後にフリードから“念話”の連絡が入る。光輝は少し申し訳なさそうに浩介に言葉をかけるも、浩介は笑みを崩さないまま向き合って返事をした。その後すぐに彼がトレイシーらの方に顔を向けたのを見て、光輝もすぐに“仙鏡”を発動してフリードから指示された場所を探す。

 

「もう少し暴れてくる。後は頼むよ。“界穿”」

 

「うむ……さて、トレイシー皇女。貴様とそこの男は我が拘束する。良いな?」

 

「えぇ、構いませんわ。敗者をどう扱うかは勝者の自由。お好きになさってくださいませ」

 

「ふざけるな薄汚い人モドキがぁ! 皆殺しだァ! お前ら全員殺してやる! 一人一人、拷問して殺し尽くしてやるぞ! 女は全員、ぶっ壊れるま――ぐぇっ!」

 

 そして光輝は最後に一度振り返り、分身の数を五人増やした浩介に後を託してから光の膜へと進んでいく。野卑な男の悲鳴を聞きつつ、浩介に殴られたんだろうなと思いながら。

 

 

 

 

 

 空を見上げれば戦いが始まった時点で中天にあったはずの太陽はもう傾いている。そろそろ夕方かなーと思いつつも恵里は上げていた顔を戻し、地平線の彼方まで続く生き埋めになった帝国兵達を見やる。

 

(フリードの方からエヒトの動きの連絡はなし。ちょっと神経質になりすぎたかな?)

 

 大半が今も泡を吹いてたり気絶しており、また文句をギャーギャー言って王国側の兵士や冒険者に殴られて伸びているのもそう少なくはなかった。しかし“遠見”の技能を使っても死んだ人間は敵味方含めていないように見えるし、ハジメ達やフリードの方からもそういった連絡は来ていない。

 

 エヒトが一切妨害してこないことにどこか気が抜けてしまったものの、作戦が最高の形で終わったことに安堵した恵里は大きく背伸びをして大あくびをする。

 

“フリードぉ~、もう敵はいないんでしょぉ~?”

 

“あぁ。今のところは神の使徒も見えん。それとメルドが後処理は任せろと言っていた。城に戻るぞ”

 

 改めてフリードと連絡を取れば特にこれといった変化もないことを再確認し、メルドの伝言を聞いてりょうか~いと気の抜けた返事をしてからゲートキーで自室へと戻っていく。

 

「いや~今回も面倒だったねぇ~。そうでしょ皆ぁ~」

 

「いや、その……まぁ、そうだね」

 

「アレ見て面倒だけで済ませられるの恵里だけじゃないの」

 

 そして玉座の間へと歩いていく中、戻って来たハジメ達とも恵里は合流した。そこで今回のことについて触れるも、ハジメと鈴が引きつった顔をしながら返事をするだけで光輝達は目をそらしたりうつむきながら歩くばかりだった。

 

「戦ってる時はさ、気にならなかった。気にならなかったんだけど……」

 

「いやヤバかったよな。流石にあの量の生き埋めはヤベぇわ」

 

「いくら狼藉者相手とはいえ、あそこまで容赦なく倒すとなるとな……」

 

 後悔に苛まれている様子の光輝のつぶやきに雫も香織もうなずいており、大介の言葉に礼一達もしきりにうなずいている。鷲三のボヤきと共に霧乃や浩介が気まずそうに視線をそらし、期待した言葉が返ってことないことに恵里はガッカリして目を細めてしまう。

 

「“鎮魂”……でもさぁ、あそこまでやらなきゃ勝てなかったじゃん。それに先に攻撃してきたのあっちなんだからね。ボク達何も悪くないじゃん。ね、アレーティア」

 

「え、いや、その……まぁ、はい」

 

 どこまでお人好しが抜けないんだかと半ばあきれつつも、恵里はしきりに顔を動かしてうろたえている様子のアレーティアに同意を求める。即座にハジメ達の視線が集まったこともあってか余計に周りを見渡すアレーティアであったが、最終的に同意してくれた。やはり納得がいってない様子のハジメ達はともかくとして恵里は溜飲が下がる思いであった。

 

「こ、今回も戦力の確保の意味合いもありましたし、それにヘルシャーの皇帝や皇太子も無傷で確保出来たと、り、リリアーナさんから聞きましたから……えっと」

 

 アレーティアの説得、というか彼女のセリフを聞いて恵里は内心ちょっとだけ驚いていた。しかし何も知らない人間からすればトータス全土を統一する大きな戦いであるため、国のトップが動くのも当然かと思い直す。

 

「……確かに恵里やアレーティアさんの言う通りだ。でも、急ごしらえで時間が無かったとはいえ、もう少しどうにかならなかったかと思うんだ。皆はどうなんだ?」

 

「まぁ光輝の言うこともわかる。けど、あの時はあれが最善策だった。ま、仕方ねぇだろ……それでも納得いかねぇんだったら今後の課題って考えるしかねぇんじゃねぇか」

 

 けれどもとウダウダと悩む光輝に対して龍太郎が一度短く息を吐いてから意見を述べた。香織や雫だけでなく恵里もそれにうなずき、自分達の地力をもう少し鍛えないと駄目かもしれないと思い直す。自分達が既に至った真髄にエヒトが到達してないはずがないし、ノイントに拉致された時の無力感もよみがえったからだ。

 

「だな。龍太郎の言う通りだ。光輝、お前はお前で色々考えすぎだよ……それよりも」

 

「うん。幸利君、エヒトの動きでしょ?」

 

 また幸利も龍太郎の言葉に同意を示して光輝を諭し、懸念を明かそうとする。先回りしたハジメが切り出せばあぁと短く切り返してから幸利が話を始めた。

 

「大体俺達と帝国の奴らが戦い合ってる最中に神の使徒を大量に下ろせばそれだけで勝てただろ。そのどさくさにアレーティアさんを連れてけば完璧だった。違うか?」

 

「そうね……いくら何でも静かすぎたわ」

 

 幸利の意見に雫だけでなく誰もがうなずいている。恵里としてもエヒトがこのまま何もせずに終わらせるとは露ほども思っていない。トータスに異世界転移した直後、王国の連合軍に勝利した直後に手を打ってきたあのエセ神がただ静観するとは到底考えられなかったのだ。

 

(幸利君の言う通り……でも今狙うんじゃなかったらいつ狙うんだよ。)

 

“み、皆さん! き、緊急事態です!”

 

 もしや何か見落としているんじゃないかと思って違和感を探し出したその時、相当焦った様子のリリアーナの声が“念話”を通じて脳裏に響く。

 

“何があったんだリリィ!”

 

“と、トータスのあらゆる場所にま、魔人族が現れたとのことです! それも無数の魔物を引き連れて!”

 

 いきなりの声に頭が揺さぶられる心地であったが、すぐに信治が聞き返してくれたことでその焦りも理解できた。まさかここで魔人族が動くのは恵里としても想定外だったからだ。

 

「おいハジメ、それに中村に谷口! こんなことあったか! 前世だとどうだったんだ!」

 

「に、似たようなことはあった! でも――」

 

「記憶が間違ってなければ襲い掛かったのなんてココだけだよ! もう無いと思ったんだってば!」

 

 魔人族の襲撃は確かにあった。しかしそれは自分が魔人族を“縛魂”で蘇らせ、内通して手引きしたことで起きたはずだったのだ。フリードを味方に引き込みはしたが魔人族と内通して王国を滅ぼそうとした訳でもないし、何より以前自分達が王国との連合軍と戦った後に襲い掛かって来たことがあった。

 

「ノートにも確かそれぐらいしかなかったと思う! どうしよう皆!」

 

 虫食いだらけの記憶が間違ってなければ他に魔人族が動いたのはせいぜいフリードと一緒に化け物(ハジメ)を出迎えに行ったのと、アレーティアをエヒトが奪った後で奴の居城へと移動したことぐらいしかない。自身の記憶に頼り過ぎていたことが仇になったと後悔し、鈴と一緒にうろたえそうになってしまう。

 

「と、とにかく確認だ! 雫! 雫はフリードさんに連絡を! 空間魔法が得意な鈴、アレーティアさんは俺と一緒に状況を確認しよう!」

 

「それもそうだけどすぐに玉座の間に行こう! もしかするとリリアーナさんが他に何か掴んでるかもしれない!」

 

「っ! そうだな。ハジメの言う通りだ! まずは王様達のところに行こう皆!」

 

『了解っ!』

 

 すぐに冷静さを取り戻した光輝が指示を出し、それをハジメがフォローするとすぐに新たな指示を出す。即座に全員がそれに同意するや否や一斉に廊下を駆け出していく。

 

“状況はこちらも把握した! 仙鏡も使ったが報告の通りだったぞ! 帝国もフューレンも関係なしに同胞の部隊がすぐ近くまで接近している!”

 

 その途中、フリードの方からも連絡が来た。あちらも確認してくれたようだがリリアーナの報告の通りであり、救いはまだ本格的な侵攻はしていない様子ぐらいであった。

 

「まだ我が深淵卿のままであったのは幸いであったか!――光輝、俺が先行して進んだ方がいいか!」

 

 それともう一つ、まだ浩介が“深淵卿”を解除していないことは恵里達にとって大きなアドバンテージであった。最大深度による部隊の展開能力は随一だし、最悪浩介がゲートで各地に分身を送りこんで増え続ければ対処も可能かもしれないからだ。

 

「まだ時間があるかもしれない! それにハジメが言ったようにリリィの方に詳しい情報が集まってる可能性がある! ギルドの情報とかが!」

 

“他の場所も調べているがまだ多少の時間はある!――それとこれは私の予測だが、私の知己が変成魔法を手に入れたかもしれん”

 

 浩介が光輝に指示を仰ぐが、光輝は情報の獲得を優先するよう述べる。フリードの方も引き続き調べていたらしくそのことを明かしてくれるが、続いて出された推測に恵里は皆と一緒に息を吞んだ。

 

“フリード、それ本当!? だったらマズいよ! もし一人だけじゃなくて複数いるなら――”

 

“あぁ。貴様の前世の記憶以上の数の戦力が動いているかもしれん!”

 

 そして恵里の脳裏にチラついた懸念を話せばフリードはそれを否定しなかった。であればトータス全土に襲撃を仕掛ける戦力を確保出来たことに嫌な納得が出来てしまう。かつてグリューエン大火山を訪れた際、フリードはウラノスや灰竜の群れを連れてきていた。一人でもあれだけの数の魔物を使役できていたのだから複数人いればもっと多くの数を戦力として調達出来てもおかしくないからだ。

 

「リリィ、王様! いますか!」

 

「悪い待たせた!」

 

「信治さん! それに皆さんも! こちらに来てください!」

 

 玉座の間には王国のトップが勢揃いしており、恵里達はすぐにリリアーナの近くまで走っていく。そしてすぐに情報交換をし、整理をしていく。

 

「各地のギルドからの情報は先程述べた通りです! すぐにでも皆さんには各地に向かっていただきたいです!」

 

「わかった! 浩介は今からゲートキーを使って各地に分身を送ってくれ! それと俺は一番戦力の多そうな帝国の方に行く! 龍太郎、それと香織は――」

 

 光輝の推測の通りリリアーナの下へ各地のギルドから情報が集まっていたようだ。ひとつひとつは五百から千ほどの数で構成された魔人族と魔物の混成部隊らしい。

 

 だが、その規模の部隊がトータスの様々な街や村へと差し向けられているのだ。それを考えるとどの場所も陥落してもおかしくない程の戦力であり、矢継ぎ早に指示を出す光輝の指示に恵里も皆と同様に従う。

 

(でも、なんでどうして……どうして今コレをやるの?)

 

 だがここで恵里の脳裏に疑問がチラつく。何故このタイミングでトータス各地を魔人族が急襲することになったかということだ。確かに自分達は帝国と戦って幾らか疲弊はしているし、アーティファクトに転用した神結晶もまだ元に戻していない。襲撃を仕掛けるのには適したタイミングであることには違いはなかった。

 

「ったく、エヒトの野郎。魔人族を勝たせようとでもしてんのかよ!」

 

(そう。そこなんだ……ホントにそれだけ?)

 

 恵里の一番の疑問はこの采配をしたエヒトの思惑であった――実はこの戦力の分布、王国近辺にだけは一切ないのだ。自分なら戦力の分散なんかしないで、帝国との戦いが終わると同時に神の使徒や魔人族の大部隊を送り込む。なのにそれをしないということはどういうことか。それがあまりに不可解だったのだ。

 

「既に分身の大半は各地に派遣した! 後は我本体と貴公らの番だ!」

 

「わかった浩介!――よし、全員行くぞ!」

 

 しかし考えても思惑は読めない。それよりもエヒトが打ったであろう一手を潰すのが先かと考え、恵里はゲートキーを取り出してすぐに自分が担当する村へのゲートを開く。

 

「ハジメくん、鈴、皆! ちゃんと生きて帰ってね!」

 

「うん! 絶対に生きて帰ろう!」

 

「もちろん! 一人でも欠けて帰るなんて嫌だからね!」

 

 更に浩介がその場で分身し、仲間ひとり一人に彼の分身が四または五人つく。話し合いの結果、六人一組、最悪人数を増やすことで対処するという作戦も何もない脳筋戦法で対処することになったのである。

 

「じゃあ浩介君達、頼んだよ!」

 

「「「「「委細承知!!」」」」」

 

 浩介の分身が後ろに来たのを見るとすぐに恵里は彼らと共にゲートをくぐっていく――思惑がわからずとも、何もかもエヒトの思う通りにさせてたまるか。ただ偽りの神への怒りと共に。




ちなみにアレーティアは大介とペアで動くため、浩介の分身は四人だけです。雫は一人+浩介の分身五人で頑張ってます。でも寂しくは感じてるかもですね。

……なんでこのタイミングで魔人族がこんな動きしたんでしょうね。ふふっ。

2024/9/17 ちょっと加筆修正しました。

2024/10/19 ちょっと抜けてた描写があったので加筆修正しました。

2024/10/20 間抜け過ぎてやらかした部分を修正しました(白目)
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