あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

174 / 208
割烹でしばらく期間が空くと言ってましたが前言撤回。他の方の投稿見てもう辛抱できなくなりました(ォィ)

では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも219211、お気に入り件数も946件、しおりも469件、感想数も754件(2024/10/9 08:03現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして皆様に何度も見ていただけることがとてもありがたいです。

そしてAitoyukiさん、さてさん、拙作を評価及び再評価してくださり感謝いたします。おかげで筆を取る力をいただきました。早く次の話書き上げて投稿したいです。

では皆様本編をどうぞ。


幕間五十九 霧の中を走った先には

「ダメだ! もうこれ以上は――!」

 

「弱気になるな! ここで俺達が倒れたら街のひと――ぐぼぉ」

 

 夕暮れのブルック郊外にて肉の爆ぜる音がそこかしこで響く。街から百メートルほど離れたところで陣取った百名余りの兵士や冒険者の入り混じった部隊は今、()()もの魔物に襲われて風前の灯火となっていた。

 

「魔人族が! こ――ぐぇ」

 

「ブルックの街には一匹たりとも入れさせはせん! 俺達のほこ――ぶはっ」

 

四メートルほどある一つ目の巨人が振りかぶったメイスが冒険者の体を潰す。体長三メートルはあろう巨大な灰色の鷲がその両足でたやすく兵士の鎧を切り裂く。地上、空問わず襲い掛かる魔物に兵士も冒険者も次々と物言わぬ肉の塊と変化していく。

 

「クソッ、せめてあの化け物どもがいてくれれば!」

 

 魔物を一匹も討ちとれていない訳ではない。だが彼らが一匹仕留めるごとに五人がやられている。あまりに絶望的な実力差であった。

 

「仕方ねぇだろ! アイツらはクリスタベルと一緒に戦ってるだろうが!」

 

「俺達が戦わなきゃどうにもならねぇんだよ! 口より手を動かごふっ」

 

 そうしてまた別の魔物、何種類もの生き物をつぎはぎにして造られたような生命体に襲われて兵士が一人死ぬ。何匹もの魔物に囲まれた彼らの近くに、赤い目を光らせた三人の男達が()()()()()いく――。

 

「キリが、ないわねんっ!」

 

「もう、お気に入りの服も血でベットベトよぉん!」

 

 その一方、兵士の一人から『化け物』と揶揄された存在――クリスタベルの下で更生して漢女になった元犯罪者や冒険者ら二十人は今、()()()で眼帯を身に着けた隻腕の魔人族と戦っていた。

 

「あらあら……この程度で勝ったつもりかしらぁん?」

 

 体長五メートルはありそうなイノシシ型の魔物が風を纏いながら猛烈な勢いで突進してきたが、クリスタベルは横にズレて回避する。玉のような汗を飛ばしながらクリスタベルは魔物の側頭部に強烈な裏拳をお見舞いし、思いっきり横に吹き飛ばす。

 

「こ、この……化け物っ!」

 

「だぁ~れが一目見ただけで永遠の狂気に囚われて二度と正気を取り戻せなくなる化け物だゴラァァアア!!」

 

 化物扱いされたクリスタベル、そしてその場にいた全ての漢女達の咆哮が一体にとどろく――クリスタベル達が魔物を倒したのはこれが一度や二度ではない。クリスタベルは単独で、彼女? の仕込みによって並の兵士を容易に超える実力を持った漢女達は連携して魔物を撃破していた。

 

「「キュワァアア!!」」

 

「むしろそっちの魔物の方がよっぽどヤバいじゃないのよん!」

 

 だがクリスタベル達が戦闘を開始して討ちとった魔物は三百の内のわずか数十匹。その理由は隻眼の魔人族の女の肩の上に乗る二匹の双頭の白い鴉だ。この魔物が叫ぶ毎に魔物の傷が癒えてしまうのである。

 

「ホントよん! アラベルちゃんの言う通りだわぁ!」

 

「ハッ。あたしらは戦争、いや蹂躙に来たんだよ!」

 

 そのせいで確実に仕留めなければあっという間に復活してしまう。しかも隻腕の魔人族のところに行くためにはまだ二百余りの魔物の群れを超えていかなければならない。これにはクリスタベルもひどく焦りを感じていた。

 

(マズいわね……まだ漢女の皆は無事だけれど、疲労の色が濃いわ)

 

 相手をする魔物一匹一匹が自分達に匹敵するレベルの実力の持ち主であり、しかもまだ大量にこの場にいる。その上例の魔物は疲労まで回復するのか、衣服が張り付くほど汗をかいた自分達と違ってまだまだ魔物達は動けるのだ。ヤワなシゴきなどしてはいないが、それでもこのままではじり貧になってしまうのは嫌でもわかる。

 

「こ、のぉ!」

 

「これ以上冒険者の皆のところへは……行かせない、わぁん!」

 

 そして自分達が攻め手を少しでも緩めてしまっては、街の近くで必死になって戦ってくれている兵士達や街の教会に避難している人達に被害が及びかねない。それ故にわずかたりとも休むことなくひたすら攻撃を仕掛けるしかなく、動きも粗くなる。あまりに厳しい状況で漢女達は戦いを強いられていたのである。

 

「おやおや。現れた時の威勢はどうしたんだい? ガボントども、仕留めな!」

 

 クケー! とけたたましい鳴き声を出し、体長一メートルほどの魔物が腹ばいになって地面を滑っていく。地球でいうところのペンギンに似た灰色の生き物はすさまじい勢いでクリスタベル達に迫ると、両足を蹴って体を浮かせる――そしてくちばしを閉じてミサイルのように突っ込んできた。

 

「ぐぅっ!? カワイイ見た目して、暴れん坊ねん!」

 

 その鋭いくちばしにクリスタベルは右腕と左ももを貫かれてしまう。苦痛に顔を歪めながらも貫かれた箇所の筋肉を思いっきり収縮させ、出血と動きを食い止めながら魔物同士を勢いよくぶつける。骨と肉の砕ける音を大きく響かせた後、ただの血袋となった魔物を体から引き抜いた。

 

「フロリアンベルちゃん!? 店長も!?」

 

「騒いでる場合じゃないわよ皆!……カワイイ子でも、おイタは厳禁ってこと教えてあげないとねぇん!」

 

 弟子のガーネットベルがうろたえたようだったが、すぐにクリスタベルは喝を入れる。自分以外にもダメージを受けた子は多かったようで、見渡せば何人もの漢女達が体から血を流しているのをクリスタベルは目撃してしまう。

 

(これは……流石にマズいかもしれないわ。でもね)

 

 メイスを構えて突っ込んでくる一つ目の巨人の懐にクリスタベルは飛び込んだ。激痛で左足にあまり力が入らないが、それを堪えてみぞおちにストレートを叩き込む。感触からして内臓が潰れたのを確信し、確実にトドメを刺すためにもう一発拳を突き出して腹をえぐる。

 

「街の皆を守るため――それに、大介きゅんやアレーティアちゃん達の味わった苦痛! そのことを考えたら……屁でもないの、よっ!」

 

 脳裏に浮かんだブルックの街での日々、隣人達との思い出、その日々の中で出会った『反逆者』と呼ばれて理不尽にさらされた子供達に抱いた尊敬の念で己を鼓舞し、クリスタベルは更に全身に力をたぎらせる。

 

「皆! ここで踏ん張らなきゃブルックが血の海に沈むわ! それでもいいの!」

 

 何匹もの獣や虫が組み合わさったような魔物の顔面に左足で回し蹴りを見舞いつつ、クリスタベルは叫ぶ。

 

 もし襲われてるのがここだけであったのなら自分達が囮となって町人が非難する時間を稼ぎ、別の街や村に逃がすことも考えてはいた。だが迎撃に出る前、キャサリンを含めた冒険者ギルドの職員から他の集落なども襲撃を受けているという報告を誰もが聞いている。もう逃げれる場所は教会やギルドの建物ぐらいしかなかったのだ。

 

「そう、ねぇん! あたし達、負けてらんないのよォ!」

 

 そしてこれほどの魔物が暴れて無事で済むとは思えなかった。だからこそクリスタベルはそのことを今一度伝え、漢女達を奮起させる。

 

「店長にメイクアップとエステしてもらって生まれ変わったんでしょ、あたし達は! 気合いってモンを見せる時よぉォー!」

 

 雄叫びを上げながら暴れる漢女達と連携し、クリスタベル達は一匹ずつ確実に魔物を仕留めていく。一人で駄目なら二人で、二人で無理なら三人で倒していく。貫手で首を貫き、蹴りで眼球を潰し、腹に拳のラッシュを決めて次々と魔物を絶命させていく。

 

「頃合いだね……コートリスども、やれっ!」

 

 だが漢女達の快進撃もここで途切れてしまう。魔人族の女の号令と共に上空から雨のように無数の石の針が降り注ぎ、それに当たったクリスタベル達の体に異変が起きたからだ。

 

「っ! グリニスベルちゃん! みんな!」

 

 針が刺さったところから徐々に体が石化していく。無差別に降り注いでいたせいで魔物も針の餌食となっていたのだが、魔人族の両肩に留まっていた双頭の鴉が鳴くと同時にそれが治ってしまう。石化している際に砕かなければ魔物達は無傷で戦場に復帰してしまうのだ。

 

「本調子なら、負けないのにっ!」

 

「ぃぎっ!?……店長、ごめん、なさい……」

 

 その上あまりに魔物達の攻撃が激しく、魔法の詠唱すら満足に出来やしない。石化して次々と体を砕かれていく漢女達を見てクリスタベルも歯噛みするしかなかった。せめて状態異常を回復できる“万天”を使える子が無事で、自分達がそのための時間を稼げたらと悔しさに涙を流してしまう。

 

「ぐ、この……っ」

 

「ハッ、化け物でも流石にこれだけの物量差なら適いっこないかい」

 

 無論クリスタベルも無傷では済まなかった。魔物に貫かれた手足をかばいながら動いていたせいで石の針に何度も被弾していたのである。魔法への耐性も高い分そう簡単に石化が広がることはなかったが、それでも筋肉の一部が石に変化すれば体の動きは悪くなってしまう。そこを付け込まれてしまった。

 

(ごめん、なさい……みんな。大介きゅん、アレーティアちゃん、龍太郎きゅん、香織ちゃん……死んじゃ、ダメよ)

 

 多数の魔物に袋叩きにされ、石化した肉体や骨を粉砕されてしまう。手足があらぬ方向へ曲がり、砕けた細かい石が血にまみれながら地面に落ちる。走馬灯が巡る中、ブルックの街の皆にわび、同情した子供達のことを想いながらクリスタベルは目を閉じようとした。そんな時、ふと聞き覚えのある声が彼女の耳に届く。

 

「「“絶象”!」」

 

うわオカマども多いな……って、無事かー? まぁ大丈夫だと思うけどよ」

 

 その声と共に痛みがかき消え、体に力がみなぎった。それと同時に突風が吹き荒れ、血しぶきが上がる。体にかかったそれに目を向ければ、折れたはずの手足も石化した体も完全に元通りに戻っていたのである。

 

「……は? う、嘘、だろう……?」

 

「この程度で我らが後れを取りなどせん……それともう一つ。よくも大介達の恩人を殺そうとしてくれたな」

 

 しかも周囲にいた魔物も見渡せば既に多くが横に両断されてしまっているし、他の漢女達も全員傷が癒えていたのである。こんな奇跡を起こしたと思しき三人の少女達を見てクリスタベルの瞳はうるんでしまった。

 

「んもぅ……王子様がいっぱい。あたしには選べないわぁん」

 

「ん……光栄です、クリスタベルさん」

 

「いや勘弁してくれ……俺そういう趣味ねぇんだよ」

 

「あ、俺も無理です。恋人いるんで」

 

 子供の時に読んだ王子様が囚われのお姫様を助ける絵本の内容をふとクリスタベルは思い出す。きっとあのお姫様もこんな気分だったのかしら、と状況を一転させた子供達にクリスタベルは熱い視線を送るのであった。

 

 

 

 

 

 ブルックの郊外に現れると同時にアレーティアは、クリスタベルと彼女? と同類であろう人達を浩介と共に急ぎ再生魔法で治した。周りを見渡せばまだ数百の魔物が隻眼の魔人族の女の近くにいるが、真のオルクス大迷宮の浅い階層程度の強さならば自分達でどうとでもなるとアレーティアは確信していた。

 

“落ちぬ陽、そして翳らぬ月よ。既に勇士達は我らが深淵の力で現世に舞い戻った”

 

 続く浩介の香ばしい文言つきの報告にアレーティアはホッとする。“仙鏡”でブルックの周囲を調べてた際に兵士達が何百もの魔物に襲われていたのを大介達と共に確認していたからだ。いつもの深淵卿の言い回しから変化がない辺り、言葉通り全員死なずに済んだのだろうとアレーティアは判断する。

 

「んじゃ俺らもひと暴れすっか。アレーティア、浩介」

 

「んっ。大介、遠藤さん。私は空を」

 

「なら俺は浩介と余ってる奴らだな。とっとと帰ろうぜ」

 

「承知。深淵の深さを傀儡に思い知ってもらおうか」

 

「ごちゃごちゃと何を……殺れ、お前達!」

 

 別に隠すほどの相手でもないことはわかりきっていた。だからこそ相手の動揺を誘い、実力差を示すためにあえて口頭でアレーティアは役割分担をした。大介、浩介と言葉を交わした直後、隻腕の魔人族の女の号令と共に魔物が飛び掛かって来たがアレーティアはうろたえない。

 

「“絶禍”」

 

 アレーティアの頭上に一メートル大の黒い球体が現れる。それはすぐに跳ねるように上空へと飛んでいき、滞空していたあらゆる魔物の一切合切を吸い込んでいく。魔物の肉が裂け、骨が砕ける音すらも吸い込みながらその球体はあらゆる物体を潰していった。

 

「“引天”――大介、浩介さん!」

 

 黒の球体を上へとあげてすぐ、アレーティアは新たな重力魔法を発動する。自分達に敵わないと思ったのかこの場から逃げ出していた魔人族の女も護衛していた魔物も全て引っ張ったのである。行き先は幾つもの肉片を量産していた大介と浩介のところであり、アレーティアの意図に気付いた様子の二人もそれぞれ動いた。

 

「嘘だろう!?」

 

「いーや、ホントだぜ」

 

「深淵に吞まれよ――“来々淵々・土生蛇(深淵より出ずれ奈落の蛇よ)”!」

 

 大介は持っていた二振りの剣でざっくばらんに魔物を切り倒した。浩介は大介と同様魔物を倒し、ついでに“縛岩”と思しき魔法で魔人族の女の手足を拘束。そして無防備となった腹に蹴りを見舞い、白目をむいた魔人族の女の体をくまなく岩の鎖で縛りあげていく。

 

「すごい……」

 

「流石ね。大介きゅんのお友達も強くてス・テ・キよん♪」

 

「はー終わった終わった。ついでにコイツ連れて帰ろうぜアレーティア、浩介」

 

 大介達の強さにクリスタベルとその同類達は感嘆の声や黄色い声を上げている。その大介も魔人族の女を担ごうとその場で膝を曲げ、女を拘束する鎖を掴もうとしていた。

 

(本当に、終わり?)

 

 だがアレーティアはこの戦いがあまりの呆気なく終わってしまったことに疑問を抱いていた。

 

「エヒ……いや、あやつの動きはこれだけか?」

 

 浩介がつぶやいたように、エヒトがただ魔人族の戦力を消耗させるようなことをわざわざ画策するのかとアレーティアは考えたからだ。以前自分達がハイリヒ王国の混成軍と勝った後で盤面をひっくり返した時のように、ここで何か仕掛けてくるのではと勘ぐっていたのである。

 

「そういや……そうだけどよ。でも近くにあのクソ女なんて――」

 

「近く――上かっ! 上から来るぞ!」

 

 どうやってここからひっくり返す? 本当にただ魔人族を消耗させるためだけに動かしたのか? とアレーティアが疑問符を浮かべていた時、浩介の叫びと共にアレーティアは近くにいたクリスタベルを抱きしめたまま横へと跳ぶ。その直後、おびただしい魔力がほとばしり、後ろを見れば地面が深く削れてしまっていた。

 

「うわっ。かなり上にウジャウジャいやがる!」

 

「主の名の下に反逆者に神罰を」

 

 上空へと顔を向ければ十体もの神の使徒がすさまじい勢いでこちらへ向かって突っ込んできている。さっきの攻撃はやはり分解の力を込めた銀の砲撃かとアレーティアは察し、このままじゃまずいとクリスタベルの腰に手を回したまま魔法の発動に移る。

 

「“黒天窮”!」

 

 咄嗟に発動したのは最強の重力魔法である。発生した黒球は乱回転しているかのように渦巻き、瞬時に直径一メートルほどの大きさに膨れ上がった。使徒が発射した無数の銀の羽根も、銀の砲撃も軌道を捻じ曲げて何もかもを吸い尽くしていく。

 

「な……あ、アレーティアちゃん、何なのそれっ!」

 

「今は喋らないで。いえ、他の皆さんをこの場に集めて!」

 

「わ、わかったわん!」

 

 重力魔法を習得し、修行をしてまだ五日も経過していないが故に適性の高いアレーティアでも完全に操れるようになった訳ではない。ましてや大介達をメインにこちらへと向かってきたすさまじい密度の攻撃を全て防ごうとなると集中を欠かせないのだ。

 

「その程度の力で私達には勝てなどしません」

 

 “縛羅”では競り負けると判断したがために発生させた球体をアレーティアは操り、大介達へと向かってきている神の使徒どもを吞み込もうとする。

 

 だが神の使徒が気に障ることを言った直後、銀色の太陽としか言えないものが五つも降ってきた。それらはアレーティアの動かす滅びの球体を包むようにぶつかり、じわじわと削り取っていく。

 

「分解の……大介、浩介さん!」

 

「悪いアレーティア!」

 

「少々こちらも、分が悪いのでなっ!」

 

 今自分が出来る最強の攻撃すらも超える力の正体が、複数の使徒の力を束ねたものだとアレーティアは察する。また上空から更に二十もの神の使徒が降り立ってくるのに気づき、大介達の方を見やればやはり何人もの使徒達が彼らを包囲していた。

 

「弱い者イジメとか、ダセぇな!」

 

「クソッ――大介、アレーティアさん!」

 

 既に大介は“限界突破”を発動しており、また浩介も分身を大量に出して対抗しようとしている。だが大介達を取り囲む使徒も“限界突破”のような銀のオーラを身にまとっており、ステータスが跳ね上がった大介達の動きに余裕で追随している。

 

「私達はただ主の望みのままに動いているだけです」

 

 しかも使徒は数人がかりで大介に襲い掛かっている。浩介の方も分身を何体も出して対抗しようとしているが、上空から降り注ぐ無数の砲撃や羽根、そして周囲に何十もいる神の使徒が連携して襲い掛かってきているせいで大介は孤立したまま体を切り刻まれている状態だった。

 

「今、援護を――」

 

「それは不可能です」

 

 だからこそ二人を助けようと新たに重力魔法を発動しようとしたアレーティアだったが、それも双剣を構えながらこちらへと突っ込んでくる神の使徒二体のせいで阻まれてしまう。

 

「っ! ごめんなさい! “引天”っ!」

 

 クリスタベルの呼びかけでその場にいた漢女達は近くに集まっており、また彼女? 達を攻撃の余波から守るべくアレーティアは“引天”を発動する。自分達を横に()()させ、距離を取りながら神の使徒に向けて魔法を乱射していく。

 

「“凍雨”! “砲皇”! “緋槍”!」

 

 アレーティアの脳裏にかつて恵里が話してくれた前世? の話がよぎる。

 

 かつて彼女を含むパーティが魔人族との戦闘で死に瀕していた際、ハジメが自分を連れてやってきたと述べていた。その時発動した青い蛇のような生き物を模した魔法が何匹もの魔物を消滅させたらしく、いつかはそれを使って大介達の役に立ちたいとアレーティアは考えていた。

 

(せめて……せめて中村さんが教えてくれたあの魔法が使えたら!)

 

 解放者の住処で特訓しながら暮らしていた際に披露してくれたハジメの知識、つい先日手にした重力魔法によってその魔法の謎が解けたのだが、それをやるにはまだ技術と経験が足らなかったのだ。

 

 翼を前面に広げて盾代わりにしながら無傷で突っ込んでくる神の使徒を見て、アレーティアはただ悔しさで顔をしかめるしか出来なかった。

 

「その者達を解放しなさい。反逆者」

 

「アレーティアちゃん、私達は放っておきなさい!」

 

「そうよん! 私達が重荷になるぐらいなら――」

 

「駄目! そんなこと、絶対に――」

 

“すまん大介! アレーティアさん! ブルックの街にも神の使徒が――”

 

 自分達のことはいいと述べる漢女達に反論しながらアレーティアは神の使徒に抵抗し続けていた。だが状況は更に悪化したことをアレーティアは知る。兵士達の救助に向かっていたと浩介の分身からいきなり“念話”が届いてすぐに途切れたのだ。

 

(もう駄目……こうなったら撤退しかない!)

 

 あちらの浩介達はもう神の使徒にやられてしまったという最悪の予想がアレーティアの頭をよぎる。逃げまどう中、大介と一人だけとなった浩介の分身と背中合わせになり、アレーティア達も追い詰められてしまう。

 

“大介、遠藤さん。魔人族は?”

 

“悪い……どこにいるかわかんねぇ”

 

“俺もだ……全部逃げられた。ごめん”

 

 その時ふとアレーティアは魔人族のことを思い出す。あの女を連れて帰ればこの作戦の情報も抜き出せるかと思い、大介と浩介に尋ねたものの二人も見失ったと返した。

 

 何もかもが悪い方向に転がってしまっていることを確信したアレーティアは、この場から逃げるために宝物庫からゲートキーを取り出そうとした。

 

(今の戦いを見てたクリスタベルさん達も無事で済むかわからない。ならいっそ連れて帰って――)

 

「あなた達の目論見は既に破綻しています」

 

「何がだ!」

 

「主は全てを見通しています――あなた達と魔人族が内通していることを」

 

 クリスタベル達もついでに連れて逃げ帰ろうかと考えていたが、それも神の使徒の放った言葉によって頭から抜け落ちてしまう。何故? どうしてこの状況で言葉にする?――その意図に気付いた時、アレーティアの中で()()が繋がってしまった。

 

(これは……負け戦。私達全員を地の底に落とす策!)

 

「何抜かしやがる!」

 

「出鱈目を! 真実は我らと共にある!」

 

 もちろん神の使徒が言ったことなど、浩介の言う通りでたらめでしかない。だが魔人族の出現に合わせて現れた自分達という状況証拠、使徒の持つ神々しい見た目、そして使徒が持つ洗脳能力があれば容易に真実を捻じ曲げられる。

 

 エヒトがそのためだけに動かしたのか? という疑いも浮かびはしたが、アレーティアはそう結論づけて()()()()

 

「事実です。魔人族が魔物を引き連れて各地を襲撃した際、あなた達が全ての魔物を倒した」

 

「そうすることで人間族の心を(あざむ)き、策を仕掛けるために信用を勝ち取ろうとした。それが真実です」

 

「馬鹿抜かしてんじゃねぇぞクソが!」

 

「っ……俺達を馬鹿にするのも大概にしろ! 木偶人形が!」

 

 そしてアレーティアの予想通り神の使徒はそれらしい嘘を並べ立てた。全身を切り刻まれてそこかしこから血を滴らせている大介と浩介が切り結びながら吼えるが、使徒どもは意に介することなく大介と浩介の猛攻を()()()()()()いた。

 

「そんな、こと……」

 

「っ! し、信じないで! あの存在の言うことは信じちゃ駄目です!」

 

 案の定、クリスタベルと似たような見た目の人間? の何人かは互いに目を合わせている。このままではかつてミレディ・ライセン達がたどったように孤立無援の状況に追い込まれてしまうのが容易に想像でき、アレーティアは彼女? 達に必死になって呼びかける……例え脳裏に最悪の状況がありありと浮かんでいてもだ。

 

「真実は白日の下にさらされます。このように」

 

 しかし状況は悪化し続けていた。使徒の一人が切っ先をあらぬ方向へと突きつければ、その方角から無数の声が聞こえたのである。

 

「この寄生虫がー!」

 

「ふざけるな! お前達のせいでトータスはめちゃくちゃだ!」

 

「滅べ! 神敵め! 貴様らは一人残らず死に絶えるべきだ!」

 

 振り向けばそこには兵士や冒険者と思しき恰好の人間が、ブルックの街の人間と思しき民衆がいた。民衆の中には農具を掲げ、こちらを親の仇か何かを見つめるような目つきを向けている。そして誰もがアレーティア達に向けて罵声を浴びせていた。

 

「愚策とはいえ人間族がもてあそばれることを主は憂いました。故に各地に私達真なる神の使徒を遣わせ、真実を伝えたのです」

 

 ――町人の洗脳とそれによる煽導。

 

 その中にキャサリンこそいなかったものの、自分達を罵る人間の中に血走った目つきの人間が何人もいた。既に相手の策略通りにはめられたことに気付き、アレーティアはうつむいてしまう……きっともうこの悪評は覆せないとあきらめに苛まれながら。




続きは一週間以内……に出来たらいいなぁ、ということで(ォィ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。