あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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お待たせしました(しろめ)
では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも221569、しおりも476件、お気に入り件数も951件、感想数も761件(202410/26 23:54現在)となりました。誠にありがとうございます。七転八倒しましたけどどうにか更新にこぎつけることが出来ました。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり感謝申し上げます。いやもう毎度毎度嬉しくてたまりません。ありがとうございます。

では皆様、本編をどうぞ。


九十九話 彼らは何を選ぶ?

「まずは此度の戦、我等に勝利をもたらしてくれた天之河殿らに感謝を。どれだけ言葉を尽くしても伝えきれんな」

 

「いえ、そんな……」

 

 会議が始まって早々、エリヒド王が感謝の言葉と共に深々と頭を下げた。それにルルアリア王妃、リリアーナに大臣らも続く。だが自分達のリーダーをしてくれている光輝は恥ずかしさと申し訳なさを顔に出しながら首を横に振るばかりであり、恵里はそれを見て軽く目を細めていた。

 

(結局神の使徒相手に後れを取ったりしたことを気に病んでんだろうけどさ、別にいいじゃん。減るもんじゃないし)

 

「……恵里、お行儀悪いよ」

 

「はーい」

 

 無駄に律儀なんだからと彼の人の好さに何度目かわからない軽い呆れを感じ、用意していたテーブルに恵里は頬杖をついている。しかしそれもハジメがため息を吐きながら指摘をするまでであり、気まずさを軽く感じた恵里は返事をしてすぐに手を引っ込めた。

 

「それに大介様とアレーティア様もです。流石は真なる神であるお二方には――」

 

(しばらくはお礼合戦かなー。ま、幸利君達が戻ってくるまで時間かかるかもしれないし、テキトーに流しておこっか)

 

 ほんの数分前に会議のセッティングが終わったのだが、そこで幸利が『浩介の様子を見てくる』と言ってこの場を抜けようとしたのだ。浩介のことは恵里も気がかりであり、自分やハジメ、鈴、光輝、雫以外で付き合いが深い彼が行ってくれるならと快く送り出そうとしたのである。だが実際は幸利だけでなく優花と奈々もこの会議を抜けていたりする。

 

「だから違ぇっての……」

 

「あの、その……えーっと……」

 

(とりあえず幸利君だけじゃなくて優花と奈々もいるし、畑山先生もいるなら大丈夫かな)

 

 幸利について行きたいという下心もあるんだろうとは思ったものの、二人もどこか浮かない顔をしていたのを恵里は覚えている。やはり二人も浩介を心配し、力になりたいと思っていたのだろう。

 

 気まずそうに目を泳がせているであろう大介とアレーティアを無視しながらも恵里は二人や昨晩ウルから戻って来た愛子のことも考えていた。

 

「して天之河殿。貴公らは大事ないだろうか」

 

「……えぇ。誰も死なずに済みました」

 

 そしてエリヒド王が自分達のことについて尋ねたものの、答えた光輝の横顔は暗い。そうなっても仕方ないと恵里も理解していた。

 

(正直ヒュドラと戦った時以来かなぁ。あんなにボロボロになったの。あ、でもあの時は香織や鈴が回復してくれたか)

 

 恵里も何十もの神の使徒と戦って全身を切り刻まれ、全ての首を出してた方のヒュドラと戦った時以来の危機感をあの時は感じていた。また再生魔法で治してくれた幸利も、後で合流したハジメと鈴に他の皆も似たような傷を負ったと聞いている。故に光輝の反応にひどく共感してしまう。

 

「遠藤殿ですらか……」

 

「……浩介の奴すら勝てなかったか」

 

 大臣や王妃、それにメルドまでも伏し目がちになっているのを見て恵里も仕方ないと思う。正直彼を倒せる相手なんて誰もいないと恵里も思っていたし、ましてやエヒトが物量戦に持ち込んでも浩介なら勝てるんじゃないかとも考えていたからだ。

 

(反省しないとかな……浩介君に頼りっぱなしじゃエヒトの奴には勝てない。早いとこ概念魔法を手に入れないと)

 

 それだけ恵里も浩介の“深淵卿”を信頼しており、今回の敗北は青天の霹靂もいいところであった。神代魔法の真髄を既に会得し、遥か昔からこのトータスを翻弄し続けてきた相手を甘く見ちゃいけないと改めて恵里は気を引き締める。

 

「ですが、その……とても申し上げ辛いんですが、浩介のことで……」

 

 そんな折、ふと光輝が申し訳なさそうにエリヒド王を見つめ出したのを見ながら申し出てきた。浩介の名前が挙がったことから、彼をしばらく休ませようとして光輝がお節介を焼こうとしたのだろうと恵里は推測する。

 

「遠藤殿か。今しばらくの休養だな」

 

「はい……少しの間だけでいいんです。ちょっとでいいから、浩介を休ませてくれませんか」

 

 エリヒド王が自分も浮かべた推測を口にすれば、光輝は席を立ってそのまま頭を下げた。本気で浩介のことを心配しているのがわかるし、部屋の前を通った時の浩介の嗚咽を聞いて心配しないほど恵里も薄情にはなれない。

 

「構わぬ。我らの恩人の一人であり、その前にそなたらの友人である御仁をむげに扱うことなど出来ん」

 

 もし断られたら自分も頼もうかと思っていると、エリヒドは首をゆっくりと横に振る。微笑みを浮かべながら浩介への思いを打ち明け、こちらの頼みを受け入れてくれたのである。

 

(……不安なら不安って言えばいいのにさ。面倒だね王族って)

 

 ただ、口元がやや引きつってるように見えており、その笑みも少し無理して維持しているんだろうなと恵里は思っていた。だがそれを口にせず、浩介のために申し出を受けてくれたエリヒドの面子ぐらい立ててあげようと特に言及はしなかったのである。

 

「王様……」

 

「ごめんなさい。僕達のわがままを聞いてくださって……」

 

 ふと周りを見てみれば、光輝だけでなくハジメや鈴達も瞳を軽くうるませてエリヒド王をじっと見つめている。こうして言葉にして浩介を思ってくれたことに感動したんだろうなと恵里は考え、単純なんだからと軽く苦笑いを浮かべてしまう。

 

「ふふっ。良かったわねアレーティアちゃん♥ 大介きゅんも♥」

 

(うわ、あの化け物気持ち悪っ)

 

「どうしたのかしら?」

 

「ひっ」

 

 なおその様子をクリスタベルとかいう化け物がほのかに口角を上げながら見ているのに気づいてしまい、恵里はちょっと口の端を引きつらせる。しかも心の中で悪態をついたのがバレたのか、青筋を立てながらこちらを凝視してきて軽くビビってしまった。

 

「むしろ光輝殿達も後でまとまった休みをいただくべきかと……まだ今はやるべきことがありますが、帝国と公国と新たな条約の締結や戦後の処理、それらに相当時間がかかりますもの」

 

「ルルアリア様の申す通りですな。賠償の取り決めなどはともかく、調印式の実施や王国の勝利を二国に発布するにしても時間がかかります。移動にかかる時間もありますし……」

 

 とりあえず現実逃避がてら大臣らの方に意識と目線を向ければ、浩介だけでなく自分達の方も休息をとった方がいいと彼らが述べた。

 

 恵里もその申し出はありがたく思ったものの、いつエヒトが仕掛けてくるかが不安であった。すぐにでもエヒトと戦うためのカードをそろえた方がいいと考えており、どうしたものかと右手でほほをかきながら恵里はハジメ達の方へと目を向ける。

 

「うーん、でも……」

 

「重力魔法やこの後手に入れる再生魔法の訓練の時間も欲しいところだし……」

 

「あの、それはもしかして中村さんの過去のことから……?」

 

「えぇ――おそらく、エヒトの狙いはアレーティア様。全ての神代魔法を手に入れたあなたの肉体だと私は考えておりますので」

 

 ハジメや光輝達も迷っている様子だし、その申し出に反対して大迷宮攻略を続ける方向に恵里は流れを変えようとした。だがそれより先にアレーティアが意味深なことをつぶやき、ルルアリアが補足したことによって恵里もすぐに自身の考えを撤回する。

 

(そうか! 前世でアレーティアの体をすぐに奪い取らなかったのはそういうことか!)

 

 それはエヒトの狙いは『概念魔法を使えるレベルになったアレーティアの肉体の奪取』ではないかということ。つまり自分達が神代魔法の取得を多少遅らせたところで問題はないのではないかということであった。

 

「でも、流石に多くの時間をかけるのは……」

 

「うん。アレーティアさんが危惧した通り危険だと思う。更にエヒトが何か仕掛けてこないとも限らないから」

 

 だがアレーティア、それとハジメがそれにすぐ待ったをかける。確かにエヒトが更なる一手を打ってくる可能性もあるし、各地の情勢が今以上に悪くなって王国に攻め込んでくるようになったら面倒だからだ。

 

「えっと、大迷宮攻略は少しは遅らせるにしても」

 

「神代魔法の研究や鍛錬はやっとかないとな。だろ?」

 

 鈴と龍太郎が言ったことについて恵里も思いついており、純粋に休むことが出来るのはせいぜい数日ぐらいだろうと考えている。その数日さえもどれだけ気が休まるやらと内心ため息を吐いてもいた。

 

「ま、やることは変わんねぇな」

 

「とりま神代魔法の研究と練習しっかりやらねぇとマズいぐらいか」

 

「そうだね。ま、何かあってもアレーティア達が取得した再生魔法があるし」

 

 結局礼一と良樹の述べた通りだ。ただ相手を想定してもう少し鍛錬をハードにした方がいいということぐらいである。幸いアレーティアや鷲三らが取得した再生魔法を使えば大けがしたとしても問題ないぐらいである。

 

「……恵里、何か変なこと考えてない?」

 

「もし再生魔法で疲れがとれたら皆でブラック労働しようとかそういうのじゃないよね?」

 

「んー、やりたくないけど選択肢に加えてもいいかもねハジメくん……ねぇちょっと。なんで信じられないものを見る目つきしてるのさ」

 

 なおそのことを口にしたら鈴とハジメが目を軽く細めて使い道を問いただしてきた。地球でハジメの両親にこき使われた記憶のせいか体が軽くかゆくなったものの、最悪それも視野に入れた旨を話したら光輝達まで信じられないものを見る目で見つめてきたのである。

 

「いや駄目だ。ブラック労働なんてやっちゃ駄目だ恵里……菫さん明日も稽古あるんですいくら連絡してるからっていっても徹夜辛いですキツいですあぁぁ……」

 

「こ、光輝! 大丈夫、それは昔のことだから! 昔の……あの菫おば様私いつまでこの格好続けたらいいですか? こういうフリルいっぱいのもの着てみたかったって言いましたけどこんなの恥ずかしいぃ…」

 

「そ、そうだよ! いくら疲れが取れても心まで、心まで……スミレ先生次はどこのベタ塗りすればいいですかトーン貼りは? もう締切まで時間が時間が時間が……」

 

「香織? おい香織しっかりしろ!! 光輝も雫もだ!」

 

「光輝達ブッ壊れたじゃねぇか……まぁ先生の親、結構人使い荒かったしなぁ」

 

 しかもその後、光輝や雫に香織などは過去のトラウマがフラッシュバックして悶え出し、他の皆もドン引きした様子で自分を見たりひそひそ話をしている。エリヒド王やリリアーナも何事かと話しているのが耳に入り、場の空気が微妙になったのを恵里は痛感していた。

 

「……やっぱやめた方がいいかなぁ。おば様おじ様に振り回されてたし。うん、ボクは大丈夫ボクは大丈夫ボクは大丈夫ボクは大丈夫――」

 

 ブラック労働を押し付けるつもりだと勘違いされて恵里も少し苛立ったものの、ハジメの両親に散々振り回された経験を思い出したせいで罪悪感が押し寄せて勝ってしまう。自分もトラウマが再燃しかかっていたし、その時の苦労をもう味わいたくないと本気で思ったからだ。

 

「“鎮魂”っ!……えーと、話の続き、いいですか?」

 

『はい……』

 

 エリヒドにルルアリア、他大臣もざわついていたものの、アレーティアの魂魄魔法と鶴の一声で一気に静まった。光輝達も赤面しながらもそれにうなずき、ハジメと鈴らも消えいりそうな声で返事をする。

 

「あー、うん。アレーティア、お願い」

 

「はい……では話の続きを。帝国や公国の兵士などはどうされてますか?」

 

「む、あぁ……メルド、頼む」

 

 恵里も気まずい感じで返せば、アレーティアもせき払いをしてからエリヒド王達の方に視線を向けて別の議題を取り上げる。するとエリヒド王もなんとも言えない表情のままメルドに詳細を尋ねた。

 

「コホン……捕虜に関しては現在も首から下を生き埋めにしたままだ。お前達に収容所を造ってもらう時間も無かったし、すぐに厳戒態勢に移行したからな。余裕が無かったんだ」

 

 その話を聞いて恵里もなるほどと首を縦に振る。六万もの数の人間をしまう場所なんてこの王国にはないし、メルドが述べたように自分達がすぐに用意することだって出来なかった。かといって野放しにして暴れられたらあまりにも馬鹿馬鹿しい。そうなるのも仕方ないと無理はないと恵里も考える。

 

「その……そう、だよな」

 

「ちょっと、多すぎるものね……」

 

 だが光輝達は渋い顔つきをしており、大介達も憐れみに満ちた表情を浮かべている。無駄に善良な光輝達はともかく大介達もこういうのは同情するのかと恵里も内心ちょっとだけ驚いていた。

 

「仕方ないのはわかるけど……うん」

 

「流石に生き埋めは恥ず過ぎんだろ……マジで同情するわ」

 

「皆さん、こればかりは仕方ないです。いくらなんでもこれだけの生きた人間を暴動も起こさずに保護するのは難しいですから」

 

 そして生き埋めのことについてハジメと大介も言及したのだが、アレーティアが申し訳なさげに言った話を聞いて二人とも何度か目を泳がせてから黙り込んでしまう。かわいそうだとは思っていてもそうせざるを得ない。そのことはわかっていたのだろうと恵里は察する。

 

(お人好しの皆じゃそう思うのも無理ないよね……ありがと、アレーティア)

 

 嫌われ役を買って出たであろうアレーティアに恵里も内心感謝し、また皆の気持ちも理解しているからこそあえて何も言わなかった。ただ黙ってメルドの方へと視線を向け、他に話は無いのかと目で訴える。するとメルドも一度せき払いをしてから話を切り出してきた。

 

「オホン……そうだな。流石に一晩生き埋めは堪えただろうし、()()()()達も拘束前提で順次解放してやった方がいいだろう。後で騎士団に指示、いや冒険者ギルドの方にも緊急依頼として要請してもいいかもしれん」

 

 まぁ流石にずっと首から下を生き埋めにはしないかと思いつつも、メルドがどこか引っかかる言い方をしたことに恵里も気づく。兵士じゃない奴らでも混じってたかと思ったが、帝国と公国が勝利すればトータス統一が出来ることを考えて両国のトップでもいたのかと察する。そしてその推測は的を射ていた。

 

「メルドさん。それだと他の人は既に土から出したように聞こえますが」

 

「あぁ。流石に帝国のトップと公国側の指揮官は既に捕えたという報告が上がっている。そうだろう、デビッド?」

 

「うむ。正確には私の配下の神殿騎士達がな。帝国の皇帝、また皇女と皇子、それと公国の司祭を名乗る男や筆頭神殿騎士だ。いてもおかしくはないと思ったが、聞いた時は正直頭痛がしたな……陛下と相談し、皇帝陛下らは貴賓室、司祭らは離宮の一室に軟禁している」

 

 霧乃からの追及を受け、メルドは同席していたデビッドの方を見やった。するとデビッドも一瞬額にしわを寄せてからそれに答えた。敗戦国のトップに成り下がったとはいえ、確かに下手な扱いをしたらどうなるかを考えると頭が痛くもなっただろう。自分達が生き埋めにしたことを棚に上げつつ恵里は二人に同情する。

 

「わざわざ皇帝も出てたのか……」

 

「まぁ皇女様も出てた、って言ってたしな。いてもおかしくはないだろ」

 

 国のトップが出陣していたことにハジメ達の方もざわついていたものの、そこまで驚いたようには恵里にも見えない。まぁそちらに関しては王国の方にでも丸投げしようと考え、恵里は龍太郎と光輝を一度見てからフリードに視線を向けた。

 

「国同士の話は王様達にでも任せようよ。それよりも気になること、あるしね」

 

「そう、だな」

 

「……あぁ」

 

 恵里が話を振れば光輝の表情も硬くなり、フリードもまた渋い顔つきを浮かべて地図に視線を落としている。一度玉座の間に集合して各地の報告を上げた際、フリードが気になるつぶやきを漏らしていたのだ。まさかだのあり得るだのとつぶやいていたのが気になり、また彼の不審な様子にハジメや光輝達も突っ込んでいたのである。

 

「フリードさん。もう一度言うぞ。俺は公国、光輝は帝国の方に浩介の分身と一緒に行った。魔人族の襲撃を防ぐためにな……それで、その時浩介の分身が言ってたんだよ。『巨大なスライムみたいな魔物がいた』ってな」

 

 それはある魔物についての報告に反応したことだ。龍太郎も光輝も直接その魔物を目にした訳ではなく、あくまで浩介の分身から聞いた話でしかない。だがその話の中に出てきた魔物のことを聞いてからフリードの様子がおかしくなったのだ。

 

「俺も浩介の分身からその話を聞きました……けれど、帝国の方に火の手が上がってた様子も無かったですし」

 

「俺達の方にも神の使徒の奴に率いられた奴らはいたが、別に公国のことについて何も言わなかったはずだ。何かあったんならそのことを俺や浩介にぶつけてただろうからな」

 

「あぁ。龍太郎の言う通りなんです……ただ、そのことを話した浩介の分身がすぐにやられてたことが不可解で」

 

 またその魔物の妙な点はそれだけではない。まず人間の方に被害がすぐに出た様子がないこと。そして目撃した浩介の分身がどちらも()()()やられていることだ……それがどういうことか、恵里もなんとなく予想はしていた。

 

「ねぇフリード。その魔物ってさ、地面にしみこんでこっそり人間食べたり土壌汚染とかしたりする奴?」

 

「……もっと質が悪いな」

 

 そこで恵里は自身の予想である『スライム状の体を利用し、地面に浸透して何かをやる』類のものかと問いかけるが、フリードは一層渋い顔つきになってそれを否定した。自分の予想よりも質が悪いと述べたフリードに対し、どういうことかと恵里は思わず首をかしげてしまう。

 

「光輝、龍太郎。私の質問に答えろ……そのスライム状というのはどういうものだ」

 

「いやだから、えーっと……ネバネバしてて」

 

「俺達の世界の認識だと透明で液体状で、粘り気を持ってて触ったら柔らかい。そんな感じのイメージです」

 

 そこでフリードが魔物のことについて問いかけるも、恵里としてもスライムに関するイメージは二人が語ったものと大差なかった。せいぜい国民的RPGでかわいげのあるデザインだとか、後は人間を丸吞みしてゆっくり消化吸収するエグい生物といったぐらいにしか考えていない。

 

「……やはり、な。私がいなくなればこの作戦を実行できる同胞はいないはずだが間違いないだろう」

 

 フリードの方もイメージのすり合わせが終わったようだが、その表情は暗い。これは間違いなく厄介な奴だと恵里は確信し、またフリードの発言からして変成魔法が強く関わっているということも察する。

 

「いやー、神の使徒が倒したんじゃねぇの? エヒトの奴だって祈る人間がいなくなったらマズいだろ」

 

「……大介、きっと違う。多分その魔物は無事。狂信を煽るために今も潜伏してるはず」

 

 半目で見つめる大介が自分やフリードの心配を杞憂だと述べるも、アレーティアは首を振ってそのことを否定した。フリードと変わらないほどに思い詰めた表情を浮かべたアレーティアを見て、恵里もそんなにヤバい代物なのかと確信する。そしてそれは続くフリードの発言によって真実だとわかってしまう。

 

「おそらくアレーティアの言った通りだろう。私の時は違ったが、今回はそのためにアレを使った可能性がある――アレはバチュラム。それも水源の汚染を目的に変成魔法で造り変えたものだ」

 

 おぞましい運用目的を聞き、玉座の間がにわかに騒がしくなる。まさかの真実に恵里も思わず目をむき、どうして二人があんな顔つきをしていたかを理解した。

 

「待ちなさい! それじゃあ――」

 

「ふ、フリードさん! それじゃあ帝国もアンカジも毒でやられた可能性が!」

 

 共に焦った表情を浮かべながらクリスタベルと光輝が問いかける。二人の脳裏をよぎったのはおそらく水源の汚染による毒殺だろうと恵里は推測する。恵里もまた同じものが浮かんでいたため、二人が尋ねなくても本当かどうかを確かめるつもりであった。

 

「落ち着け!……もし私の時と変わらない、あるいは人間族の狂信を煽るものであるなら即死することはない」

 

 しかしフリードは首を横に振ってそれを否定した。だが恵里はフリードの『狂信を煽る』という言葉に引っ掛かりを感じ、もしや即効性でなく遅効性の毒をあのスライムは分泌しているのかと恵里は別の予想を浮かべる。

 

「フリード、そのバチュラムはどんな毒をまき散らす? 恵里達で対処できるのか!」

 

「落ち着けメルド!……私の記憶と変わらないのであれば、水を摂取した人間族の魔力を暴走させる症状を引き起こす毒を出しているはずだ。それも数日潜伏してから発症するものをだ」

 

 メルドが机に乗り出してフリードに問いただしてくるも、フリードは一喝してすぐにその毒の詳細を語った。それを聞いたアレーティアやエリヒド王達は何かに気付いたようで顔を伏せたり見合わせている。恵里も聞いてすぐにヤバそうな症状だとは気づき、またどこかデジャブを感じていた。

 

「うーん、魔力の暴走って……なーんか聞いたことあるっていうか知ってるような……」

 

「ねぇフリードさん、その魔力暴走ってどんな症状なの?」

 

 どうしてデジャブを感じるのかもわからず、恵里は背筋に何かねばついたものが這いずっているような気持ち悪さを痛感する。そんな思いに苛まれる中、鈴がその症状について質問した。恵里としてもそれについて聞けばむずがゆいような喉元から何かが出かかってるような感じから抜け出せるかと思い、耳を傾ける。

 

「簡単に言うなら魔力が過剰に活性化して内側から破壊していくようなものだ。まぁ貴様らが魔物を食べて体が壊れそうになったのと近いだろう」

 

『あーっ!!!』

 

 そしてそれは的中した。フリードの簡単な解説で恵里はハッとし、鈴達と一緒にフリードを凝視する。

 

 かつて自分達が初めて魔物を食べた際、体がバラバラになりそうになった時の感覚と症例が似通ってたことにやっと気づけたのだ。それ故にどれだけヤバいものなのかを一瞬で理解出来た恵里はすぐさまフリードに質問をぶつけた。

 

「じゃあフリード、帝国やアンカジの人達は――」

 

「……かつてアルヴは、何日もかけて肉体を破壊する遅効性の毒を分泌するよう造れと言っていたな。だがエヒトの目的が狂信を煽るならばもっと毒性そのものは薄まっているはずだ。だが、それ故に何日も苦しむだろう」

 

 フリードは苦虫を嚙み潰したような顔でそれに答えた。元の症状でも即死することはまずないということを聞いて恵里はホッとするが、それでも対処をしなければ国が大きなダメージを負うことも理解している。

 

(厄介だな……対処しなかったら帝国と公国の兵士達の士気が下がるどころか暴動を起こしかねない。けど)

 

 帝国と公国両方の戦力の幾らかはこちらにあるとはいえ、エヒトとの決戦を想定するなら全ての兵士を自分達の戦力に加えたい。それに加えて恵里は頭の中にある懸念がチラつき出し、下手に動けないことを察して思わず舌打ちをしそうになっていた。

 

「ふ、フリードさん! じゃあ私達が魔法でどうにかすればいいんですよね! 私の治癒魔法で――」

 

「魔力暴走は“万天”でも効き目が薄かったと記憶している……毒性が強く残るままであったなら、再生魔法でなければ効果が無いかもしれん」

 

 一つはその症状に対処する手段であった。もし仮に治癒魔法でもどうにかなるなら各国の治癒師に任せればどうにかなる。手を上げて自分がどうにかすると言い出した香織が出張る必要なんてないのだ。その程度で済むようなものをエヒトの傀儡である魔人族が用意するはずもないし、きっと無理だろうと恵里も考えていた。

 

「そんなぁ……あ、でもハジメ君や光輝君、幸利君の生成魔法で再生魔法を付与したアーティファクトがあれば!」

 

「確かにいい案だと思うよ香織さん……でも、僕らじゃ警戒されますよね。ただ姿を変えただけだときっと」

 

 一瞬ショボくれた香織だが、すぐに新たな方法を提案してきた。それをハジメも苦笑いしながら評価し、すぐに浮かない表情である問題を口にする。

 

 フリード達が取得した再生魔法でなければ不可能であるとするなら、もし治療が終わったらただものじゃないことが判明してしまう。そこから反逆者認定と助けた相手が疑心暗鬼に陥るのは嫌でも想像がつく。

 

「あ、そっか……でも、帝国と公国の人達が……」

 

「……一応抜け道はあるんだよねぇ」

 

 ……しかしそこに抜け穴が、そして恵里の懸念事項があった。

 

「っ! 恵里ちゃん、教えて! その方法で皆を助けようよ!」

 

「落ち着け白崎……神の使徒だ。それなら確実に怪しまれはするまい」

 

 ――恵里が懸念したのは『自分達の功績をエヒトの信仰に使われる』ことだ。

 

「フューレンにいた神の使徒達が言ってたからね……自分達の姿以外に鈴達は見た目を変えれる、って」

 

 エリヒド王に報告を上げた際、鈴は先の内容を神の使徒が語っていたことも伝えていた。その時は一体何を言ってるのやらと恵里は軽く馬鹿にしていたものの、今ここでそれがどういう意味なのかを嫌と言う程痛感していた。

 

(このためにわざわざ抜け穴を用意してたってことか……ホンットにイラつく! エヒトの奴めぇぇ……!!)

 

 もし仮に自分達の姿すら偽れると神の使徒が街の人間に言っていたら、その言い出した神の使徒が真っ先に疑われる。だからそれは確実にあり得ない。故に自分達は神の使徒に姿を変えれば好き勝手出来るのだ……エヒトの信仰を強めるのと引き換えに、だが。

 

(助けたら助けたでエヒトの魂が強化される。かといって見捨てたら使える戦力がごっそり減る可能性が大きい! ああもう!!)

 

 あまりに厄介な選択の強要。恵里は頭をかきむしりながらエヒトへの怨嗟を爆発させていたのであった……。




今回に関してはマジで情報開示ミスったなぁって思いました(本日の懺悔)
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