では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも222431、しおりも477件、お気に入り件数も957件、感想数も763件(2024/11/6 22:52現在)となりました。本当にありがとうございます。どうにか形に出来ました。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠にありがとうございます。またおかげさまでモチベーションが上がりました。
では皆様、本編をどうぞ。
(助けたら助けたでエヒトの魂が強化される。かといって見捨てたら使える戦力がごっそり減る可能性が大きい! ああもう!!)
トータスの人間を助けようと助けまいといずれもエヒトにとって都合のいい結果しか出ない。その事実を突きつけられ、恵里の心はひどく荒れ狂っていた。
「恵里、落ち着いて!」
「おい待てよ。それって……」
「うわー。エヒトの奴の印象が良くなるか戦力減るかしかねーじゃん。クソが」
(どうするどうする! アイツの思い通りなんて絶対にイヤだ! でも、他に方法が……)
鈴が声をかけたことや周囲のざわめき、玉座の間の空気が悲痛なものになっていくことにすら気づかぬまま恵里は頭をガシガシとかき続けている。
(疑いの強い奴の洗脳を解除して、神の使徒がやったって不信感を植え付けて……どこまで上手くいく? 他の洗脳されなかった人間がどんな動きをするかわからないし、エヒトがまた何かやってくる可能性だって高い。どうすれば、どうすれば……)
他に何かいい方法はないかと考えるも、トータスの人間の信心深さやエヒトが何かを仕掛けてくるんじゃないかという不安も無数に恵里の脳裏に浮かぶ。計算をしようにも常にその不安が頭の中にあるせいで失敗の可能性ばかりがチラつく。
(……ハジメくんだ。ハジメくんならきっと何か思いついてるはず!)
「……ハジメくん、何か浮かんだ?」
「正直僕もお手上げ……エヒトの採れる手があまりに多すぎる」
そうして藁にも縋る思いで隣のハジメを見やるも、彼をはさんで隣にいる鈴と共に難しい顔をしていた。冷や汗を流し、口元が下がっている彼の顔を見て恵里は絶望する。最も頼れる彼すらもいい案が浮かんでいないという現実を直視し、そのままテーブルの上に倒れこんでしまった。
「え、恵里! 大丈夫!?」
「もうやだ。ハジメくんハグしてチューして」
「あぁ……恵里落ち着いてよ。後でね。ね?」
その音に反応したハジメがすぐさま声をかけて来たため、恵里は色々とおねだりしたのだが先延ばしにされて余計に対策を考える気力がなくなってしまう。うめき声を上げる気力すらない恵里はただただ長くため息を吐き続けていた。
「どうする、光輝」
「選ぶしか、ないかもしれないな」
「天之河殿の申す通りやもしれんのはわかる……だが」
完全に意気消沈してしまった恵里の耳に光輝達のボヤきが入ってくる。龍太郎と光輝の悔し気な声、エリヒドの弱々しいつぶやきのせいで自分達の状況が悪いということを嫌でも思い知らされる。そのせいで恵里はもうどうにもならないと弱気になってしまい、再度深い溜息を吐いた。
「先生も思いつかねぇのかよぉ……」
「いやガチの詰みじゃねーか……どーすりゃいいんだろうなぁ~」
「やっぱり無理なのか……俺は、オスカー・オルクスの思いに応えられないのか」
「……私達の運命も解放者と変わらないのか。ミレディが何故ここまで絶望したかがわかるというものだな」
「……助けよう、皆」
大介達の声も頭に残らず、もうどうすればいいのかと考えることすら恵里は放棄してしまっていた。周囲のうろたえる声やあきらめに苛まれる声を恵里はただ聞き流し、この会議がただ終わるのを待つ。とっととお開きになってほしいと思ってエリヒド王の方へ頭を向けようとしていたその時、香織の力強い声が恵里の鼓膜を揺らす。
「……香織?」
「皆が悩むのもわかるよ。王様達が苦しんでるのもわかります。でも、でも私は嫌」
指の一本を動かすことすら面倒な気分であったものの、唐突に助けると言い出した香織が気になって恵里は気力を振り絞って香織の座ってる席の方へと顔を向ける。テーブルの上で握りこぶしを作り、それをわなわなと震わせていたのだ。
「……ぇ」
「エヒトの思惑なんて知らない。そんなことなんてどうでもいい。私はそれでも助けたいの」
必死に激情を抑え込んでいる様子の香織を見て、恵里は声にならないつぶやきを漏らしてしまう。その香織は顔を赤くし、ほのかに瞳をうるませながらもこちらに訴える。その言葉から感じられる熱量のせいで、頭の中に巣食っていた無力感が少しずつ弱まっていくのを恵里は感じていた。
「クリスタベルさんやキャサリンさん、それにイルワさんやグウィンさん。この人達は私や龍太郎君、それに恵里ちゃんや皆を助けてくれたから。だから今度は私達の番」
語られたのはあまりにも普通な理由。けれどもはっきりと、そして熱意のこもった声で語り掛ける様を見てひどく香織らしいなと恵里は思ってしまう。
「私達を助けてくれた人達の幸せを守りたいの。だから私は助けたい」
光輝ほどではなくともお人好しで、こうと決めたら一直線に突き進む質なのが香織なのだ。上っ面だけの友情を築いていた前世? の時も割とそうだったし、こうして友達となった今であってもそれは結局変わってなかったことを恵里は改めて認識する。
「龍太郎君、恵里ちゃん、それに皆。お願い。キャサリンさん達を助けるのに力を貸してください」
テーブルの上に突っ伏したままの体を起こし、恵里は周りを見渡す。ため息を吐いた龍太郎はもちろん、ハジメ達もまた苦笑を浮かべて香織を見ている。そしてクリスタベルだけは感極まったのかハンカチで目元をぬぐっていた。
「ありがとう香織ちゃん……お願い。もしキャサリンが操られてないんだったらきっと皆のために力を貸してくれるわ。元ギルドマスターの秘書長のキャサリンが動けば他のギルドの上層部も動いてくれるはず」
「お願い。お願いします!」
そしてクリスタベルが席を立って頭を下げると同時に香織もそれに続き、二人そろって頭を下げると共に場の空気も完全に変わった。ざわついてこそいるものの、悲観に満ちたボヤきや自分達は死ぬしかないといった嘆きの類はもう聞こえなくなったのである。
「……しょーがねぇな」
「龍太郎くん……」
そして龍太郎が腕を組みながらため息を吐くと、彼も立ち上がって恵里達を見渡してきた。やっぱり香織に甘いんだからと思いつつも恵里も龍太郎を見つめ返す。
「あー、その、なんだ。俺も香織の言う通りだと思う。助けてくれた相手のために動くのは当たり前だろ? エヒトの奴の思惑通りだからって見捨ていいもんかよ。違うか?」
そして坂上龍太郎という男子は義理人情に厚く、弱ってる人間を見捨てられない質だということも恵里は思い出す。かつて光輝に追いかけ回された時に自分を助けてくれ、雫が人間不信をわずらってた時も彼は自分に頭を下げていたのだ。なら香織に呼びかけられたらやらないはずがないと恵里も納得してしまう。
「また香織に振り回される気? こりないね龍太郎君もさ」
「うっせぇ。黙っててくれ、恵里」
「ホント白崎に甘ぇよな龍太郎も。白崎だって龍太郎の奴が断るとは思ってなかっただろ」
軽く鼻を鳴らしながら恵里がからかえば、龍太郎もばつが悪そうに顔を赤く染めながらそっぽを向いてしまう。すると大介も笑みをこぼしてから龍太郎と香織をからかってきた。
「それは、えっと……」
香織はすぐ言葉を詰まらせたようで、何度か視線をさまよわせてから龍太郎を見やった。そして龍太郎もすぐに香織と見つめ合い、お互い笑みをこぼしてから恵里達の方に顔を向ける。
「別にいいだろ、大介。お前だってアレーティアさんから頼まれたら断れないだろうが。それと同じだ」
「アレーティアのことはいいだろ……まぁ、それはそうだけど、よ。おう」
「大介も龍太郎も、口ゲンカは止めよう。からかっちゃ駄目じゃないか」
龍太郎が言い返すとすぐに大介もしどろもどろになり、アレーティアと一緒にりんごみたいに顔を赤くしてしまう。そうしたら光輝が何度か手を叩いてから二人をたしなめ、せき払いをしてからこの場にいた全員を一人ずつ見つめてきた。
「香織と龍太郎の言う通りだと俺も思う――今この場で誰かが苦しんでいるかもしれない。誰かが辛い目に遭っているかもしれない。いい作戦がすぐには思い浮かびそうにないんなら俺もトータスの人達を助けたいんだ」
光輝がまたいつものお人好しっぷりを遺憾なく発揮すると共に、恵里は空気がまた変わったと感じていた。
『天之河殿の言う通りだ』とエリヒド王や大臣数名が口々に言い合う。レミアとミュウの名前を同席していた重吾がつぶやく。ハジメや鈴がやろうと小声で漏らしていたのが恵里の耳に入る――この場にいた少なくない人間が前向きな姿勢となっているのを恵里は感じ取っていたのだ。
「もちろん俺は無理強いはしない。けど、世話になった人を助けるぐらいなら罰が当たらないんじゃないか。そうだろ?」
光輝からも改めて問いかけられ、ハジメと鈴だけでなく雫に鷲三、霧乃、大介達、アレーティアとメルドも、王国の上層部の面々もまた苦笑しながらうなずいていた。フリードだけは腕を組んだまま目をつむっていたが、口元が軽く緩んでいるのを恵里は見逃さなかった。
「やりましょう、天之河さん。ここで私達が立ち止まっているのもまたエヒトの思惑通りかもしれませんから」
ずっと口を出さなかったアレーティアもまた光輝の言葉に乗っかり、別の方向から説得をしてきた。恵里も口角を上げ、獰猛な笑みを浮かべながらそれに答える。
「だね。どうせアイツの思惑に乗るんだ。そのまま食い破ってやろうよ」
全部思惑通りだとエヒトはせせら笑っているかもしれない。けれども全部思い通りになんてなってやらない。最後の最後にひっくり返して打ち破ってやると恵里は考えを切り替え、エヒトへの敵意をたぎらせた。
「そうだね、恵里ちゃん。皆も。私達は思い通りになんてならない、ってところを見せつけよう」
「うん、やっちゃおう。ハジメくん、鈴、皆」
香織と恵里の呼びかけと共にハジメ達も力強くうなずき返す。彼らの目から迷いは既に消えており、悲観的な顔つきをした人間は一人もいなかった。
「よし。じゃあ皆、姿を偽装してどこに向かうか話し合おう!」
「……ありがと、香織」
そうして恵里は会議を再開したハジメ達の方を見つつ、小声で香織に感謝を伝える。
お通夜みたいな空気をぶち壊してくれた。相手の思惑から外れることに終始してたせいで行き詰まった自分を助けてくれた。ちょこちょこ自分達を振り回していた彼女のおかげでいい方向に流れが変わった。
けれども直接感謝を伝えるのが少し恥ずかしくて、恵里は顔をつきあわせて言うことはしなかった。自分やハジメ達と同様によくなった耳が勝手に拾ってくれるという甘えもあったからだ。
「ううん。皆があきらめなかったからだよ。恵里ちゃんもね」
思った通り香織は嬉しそうに返事をしてきたものの、恵里はもう何も言わなかった。ハジメがこんな歯の浮いた台詞を言うならともかく、幼馴染みである彼女から言われては恥ずかしくてむずがゆい気分になってしまうからだ。
「私だって恵里ちゃんの親友だからね。力になれたみたいで良かったよ」
「うっさいうっさい。ほら話し合いに戻るよ」
「うん」
嬉しげに香織が話しかけてくるせいで恵里は余計に顔が熱くなってしまう。今の自分を見られてたまるかと恵里はそっぽを向き、香織に話し合いに戻るよう促す。香織の短い返事を聞き、ため息を吐きながら恵里はふと思う。
(……ボクも香織に毒されたかもなぁ。いや、皆にかな)
前世? だったら他人のおかげで助かったとしてもせいぜいラッキーだと思う程度で、言葉をかけるのも表面上取り繕うためでしかないし感謝の言葉を受けても特に何も感じなかった。
けれどもハジメと鈴以外の人間からかけられた言葉に嬉しさを覚えたり、心強さを感じる日が来るなど恵里は予想なんてしてなかったのだ。だから胸の中にまだ残る感情に恵里は戸惑いを覚えている。
(っと、それよりもまずは話し合い。そっちに集中しないと)
「――湖のあるウルの街、それと他の街や村もだ! 水源が近くにある可能性がある!」
「その、申し訳ない。貴公らは姿を偽るアーティファクトを作ったと述べていたが」
かるく頭を横に振って恵里は雑念を払うと、再開していた会議に耳を傾ける。訪れる対象にウルの街も含むようになったらしく、また片っ端から街や村も訪れることが決まったようだ。面倒なことになるなぁと思いつつも自分はどこに行けばいいのかをハジメに“念話”で尋ねようとした時、エリヒド王が声をかけて来た。
「はい。とりあえずそれで神の使徒の姿になって助けようと思うんです。けど……」
「声が問題だよね……流石に男がやったらバレるでしょ」
内容は作戦の肝になる姿を偽るアーティファクトのことについてだった。光輝は難しい顔を浮かべ、雫や鈴、それと自分の方を彼が一瞥したのを恵里は見てしまう。見たのが
「あの、恵里さん。私や父様達もお世話になってるそのアーティファクトって魂魄魔法で相手を騙してるんですよね? でしたら――」
「あーうん。シアの言いたいことはわかるよ。でも調整しないとかな。見た目に特化してるからさ」
「恵里さん達は調整をしてから各地に向かってほしい。しばらくはわし達でどうにかしよう」
そこでシアがアーティファクトの原理について追及してきたため、恵里も調整さえすればどうにかなると返事をする。だがそこでいきなり鷲三が口を挟んできたのである。
「何、鷲三さん? 忍者だから、って理由で声マネでも出来るの? てか鷲三さん達はやらなくていいと思うけど」
「忍者ではない。が、雑技の一環でやれはするぞ。それにあの姿の方が不信感も抱き辛かろう……あーあーあー、よし」
そこで胡乱な目で恵里は鷲三を見つめながら問い返すも、鷲三は忍者であることをかたくなに否定してから喉元に手を当てて声を何度か出す。いやまさかと思いつつ恵里は皆と一緒にじっと見つめていると、再度鷲三が口を開いた。
「『トータスの民よ。私達が訪れました』……どうだね? 合ってるだろうか」
「『私達がその傷を癒しましょう』……えぇ。お義父さんほどではないかもしれませんが、似ているでしょう?」
「『魔物の対処は私達に任せなさい』……うん。お爺ちゃんやお母さんほどじゃないけど私もやれるわ。どう?」
そっくりであった。思いっきり神の使徒っぽい声が白髪に皺の深い顔立ちの八十代の老人の口から出て来たのである。その直後にしれっと霧乃と雫までほぼ同一の声を出したもんだから恵里は皆と揃って目をむき、三人を凝視してしまう。
(うっわぁ……流石忍者。ちょっと聞いたぐらいでよくまぁやれ――あ、そうだ)
忍者ってすごい。改めて恵里はそう思うと同時にあることを思いついて口の端がつり上がる。その直後、軽く目を細めた鈴とハジメが恵里に声をかけてきた。
「うわ、嫌な予感」
「……ねぇ恵里、今度は何を思いついたの? 悪いことじゃないよね?」
「いや二人とも落ち着こう。もしかしたら……もしかしたらちゃんとしたものかもしれない、から。多分……だよな、恵里?」
せっかくいいアイデアが思いついたというのに、またしても二人はそれを口にする前から疑ってかかってきたのだ。しかもハジメと鈴だけでなく、光輝達も疑いのまなざしを向けてきたのである。
「鈴もハジメくんも光輝君もさぁ、傷つくんだけど。ボクってそんな信用ないの?」
「え、えっと、とりあえず話だけでも聞いてみませんか皆さん……」
時間も無いのにどうして聞きもしないで判断するのかと恵里は軽くハジメ達をにらむ。するとおそるおそるアレーティアが声をかけてきたため、彼女の助け船に内心感謝しつつ恵里は軽くせき払いをしてから話を切り出す。
「こほん……ねぇ皆、ちょっと思いついたことがあるんだけどさ」
そうして思いついた良案を語っていくも、ハジメ達は即座に渋い顔を浮かべた。隣同士とひそひそ話をしたり、それはないとつぶやいたりと思いっきりネガティブな反応を返してきたのである。
「恵里、それやめよう? いくらなんでもやっていいことと悪いことがあるよ」
「恵里の前世のことを考えると思いつくのはわかる。けど、そればっかりは……」
「恵里ちゃんやめよう? 正則さんと幸さんが泣くと思うよ」
「いやねーわ……いくらなんでもヤベー奴じゃん。引くわ」
ハジメはもちろん光輝や香織、更には大介達までも非難してきており、これだからいい子ちゃん達はと恵里は思わず軽い呆れと苛立ちを同時に感じていた。
「恨みはあるがな……」
「流石にこれは……ですが」
しかも鷲三と霧乃も渋い表情をするだけで止めようともしないのである。ここまで追い詰められてるのに手段なんて選んでる場合かと恵里はため息を吐きたくなってしまう。しかしアレーティアやエリヒド達の方が静かなのが恵里は気にかかり、そちらへと視線を向けてみた。
「ふむ。使えるな」
「えぇ。その……皆様の善良さは素晴らしいと思います。ですが」
「は、はい。今は手段を選んでる場合じゃないと、その、私も思います」
するとハジメ達が軽く眉をひそめたり止めるよう促していたのに対し、エリヒド王達の方は好感触だったのである。ルルアリア妃やアレーティアだけでなく、大臣達やリリアーナそしてフリードもしきりにうなずいていた。なおそのせいでハジメ達がドン引きするのを恵里も感じ取っていた。
「いや、その……王様達がそう考えるのもわかるんですけど……」
「当然だろう天之河殿。奴らは多くの近衛兵を血祭りにしてくれたのだ。その上我らが命を落とす原因を間接的に作ったのだからな」
「父様母様が死ぬ要因を作ってくれましたしね――それはそれとして、神の使徒を利用するというのは決して悪くはないと思いますよ」
困惑するハジメ達をよそに、エリヒド達は私怨まじりながらも恵里が口にした『保管している神の使徒の死体の再利用』を改めて後押ししてくれたのである。
「そうだよ。この状況で手段なんて選んでたら勝てるものも勝てなくなるよ」
――神の使徒の死体は未だハジメが使っている大容量の宝物庫に入ったままだ。それもアレーティアの“凍獄”によって氷の棺に入ったような状態で保管されている。
それを解凍し、アレーティア達が手にした再生魔法を使って肉体を再生。自分の魂魄魔法によって新たな魂を入れて使い倒そうと恵里は考えたのである。
「エヒトの奴はまた盤面をひっくり返してきた。ボク達が王国に勝利した時と同じ、いやそれ以上に悪い状況になってる」
前に王国に勝利した時はまだ帝国も公国も無事ではあったし、他の街などもマシな状況ではあった。だが今はその二国の水源は汚染されており、放置すればいずれ滅びてしまう。そうなれば対エヒト戦のための戦力を確保できなくなり、ただでさえ高くはないであろう勝率が一層低くなる。
それを回避するためにも恵里はこの思いつきを口にしたのである。
「解放者も似たような感じだったでしょ? じゃあボク達も手段なんて選んでる場合じゃない……死んでほしく、ないんだよ」
自分がやろうとしていることがハジメ達の良心を削る行為だということも、両親に対して恥じるような行いであることも恵里は理解している。だが同時にエヒトの恐ろしさも恵里は理解していた。
だから恵里は訴える。強い語気で手段を選ばないでほしいと、弱々しい声で本当の思いをだ。
「……大介、皆さん。覚悟を決めてください」
「アレーティアさん。でも……」
「皆さんのその優しさは間違いなく立派だと思います。でも、今その優しさを私達と敵対してた相手に向けるのは間違って、ます」
そうして恵里がハジメ達に主張していると、アレーティアも大介のそでを軽く引っ張りながらもおずおずと意見してきたのだ。
大介すら反対しているにもかかわらず、自分をフォローしてくれようとしているアレーティアを見て恵里はハッとし、彼女に続いて話をしようとしてハジメにさえぎられてしまう。
「ねぇ恵里。ちょっといいかな」
「どうしたの、ハジメくん」
「再生魔法と魂魄魔法でよみがえらせた神の使徒は僕達の戦力、ってことでいいんだよね?」
一体どうしたのかと恵里は真剣な表情で自分と向き合うハジメを見つめる。すると彼は至極当たり前なことを聞いてきたのである。そしてその言葉に裏があることにすぐ恵里は気づいた。
「……そうだね。念のため魂を入れるまでは鈴と香織に拘束してもらいたいけど」
「うん。何があるかわからないしね……じゃあそれが終わって、僕達と一緒に戦ってくれることを了承すれば戦力として扱っていいよね?」
恵里は神の使徒を仲間に加えるプロセスを語ってからハジメの出方をうかがう。するとハジメが再度まだるっこしい言い方をしてきたことで彼の真意に気づき、恵里は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「そうだね……
彼が言おうとしたのは蘇生した神の使徒も仲間として扱ってほしいということ、仲間を粗雑に扱うなということだ。右手を口元に、左手を右ひじに添えながらそのことを述べればハジメは一瞬だけ目を大きく広げ、そして軽く息を吐き出した。
やっぱり、と心の中で思うと恵里はあっけにとられている鈴や光輝達、そしてエリヒド王ら王国上層部の人間全員を一瞥する。
「ホントもう。ハジメくんも皆もお人好しなんだから。ま、元々エヒトの情報を抜き取るために残してたんだし、それもダメ元だったしね。ちゃんと戦力になってくれるんならボク
そうして恵里はハジメ達に自身の考えを伝えた。元々エヒトの情報を少しでも手に入れるのが目的だったし、前世? の記憶とゴーレムを造った経験から肉体を復元して魂を入れてやれば十分戦力になることは想像がついたからだ。
「……まぁでも、ハジメくんと鈴が王国の人達を説得するのを手伝ってほしいんならやらなくもないけどねぇ~」
後は神の使徒に対して敵意を抱いている王国側との話し合いを、そしてハジメと鈴の頼みならば応じなくもないということを恵里は述べた……軽く頬を赤く染め、目を泳がせながらだが。
「恵里ちゃん、素直になろうよ」
「恥ずかしがり屋だから。恵里は」
「うん。ハジメくんの前以外で素直になることまずないしね」
「~~ッ! いいよ、じゃあボク抜きで話し合いなよ! 皆なんか知らない!」
「ごめんごめんごめん! 僕が悪かったってば! 僕だけは恵里の味方するべきだったよ! 謝るから! ねぇ!」
それを苦笑した様子の香織、ハジメ、鈴にツッコまれてへそを曲げた恵里は顔を真っ赤にして舌を出し、席を立って玉座の間を後にしようとする。すぐにハジメに手を掴まれ、謝り倒されるものの腹の虫は収まらなかった。
「ハジメくんの馬鹿ぁ! ボクが恥ずかしいのわかっててそういう意地悪しないでよ!」
「うんごめん! でもそうやって恵里が歩み寄ってくれたのすごい嬉しかったよ! 恵里だってやればできるんだって!」
「そ、そんなの……し、親友のため……あぁもう恥ずかしい!! 何言わせるのハジメくんは!」
「鈴落ち着いて! また恵里にハジメ君がとられてイライラするのはわかるけど!」
「雫止めないで! いっつもいっつも恵里ばっかりハジメくん独占しちゃって! もう許せないんだから!」
「余所でやれ貴様ら。うっとうしい」
「まったくアイツらは……まぁ俺はそこまで神の使徒にはこだわっちゃいませんが。陛下、どうされますか」
「なんと……む、そうだな。私としては頭数に数えられるのであればそれで構わぬ。ルルアリア、それと大臣は――」
そうして唐突に始まった恵里とハジメの痴話ゲンカを余所に会議は進んでいく。二人がケンカを終えるのとほぼ同時に会議も終わり、正気に戻った恵里とハジメは気まずそうに頭を下げたのであった……。
やっぱり香織はこういう時に突撃してくれると思うのです。何せ最終決戦でもハジメを信じて迷うことなく戦い抜いた娘ですから。
2024/11/7 ちょこちょこ修正しました。