では改めまして拙作を読んでくださる皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも223362、しおりも479件、感想数も765件(2024/11/15 22:28現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして多くの方が拙作を追ってくださることに頭が上がりません。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当にありがとうございます。また筆を進めるための力をいただきました。感謝いたします。
では皆様、本編をどうぞ。
「俺が……俺がこの力をちゃんと制御できないから……だから、だから……」
「遠藤君は……遠藤君は何も悪くありません!」
朝日が差し込む自室の片隅で、少年がひざを抱えてうつむいている。そんな彼の手を握りながら必死に小柄の女性が言葉をかけ続けていた。
「アビスゲート、さま……」
二時間も前からラナ・ハウリアはこの部屋を訪れていた。しかし何もしないまま、声すらかけることすらせずにただ突っ立ってその様を見ているだけしかしていなかったのである。
――ヘルシャー帝国とアンカジ公国との戦争が終わって以降、ラナはメルドの指揮の下で他の兵士達やハウリアと一緒に警戒態勢で待機していた。いきなり魔人族がトータス各地に現れ、それの対処に浩介らが出ている間の対応を任されたためだ。
『アビスゲート様の下へ戻っていいんですか!?』
『あぁ。メルド団長がそう仰った』
しかし夜が明けて少し太陽が昇った頃、突如警戒を緩めても構わないと指示が下る。また浩介と親しいハウリアであるラナが名指しで命令され、浩介の下へと行くように言われたのである。
(皆には悪いけど、アビスゲート様は私が尽くすんだから……ふふっ。お疲れでしょうし、いっぱい甘やかしちゃお)
その唐突な命令にラナもどこか首をかしげたものの、きっと浩介も相当疲れたんだろうとその時は考えた。ならば自分がねぎらうんだと息巻き、他のハウリアの嫉妬の眼差しを受けながらラナは王宮を走る。
内心軽く浮かれながら彼を出迎えようとしたラナであったが、その思惑も部屋の中にいた彼の姿を見て消えてしまう。
『ごめん……ごめん。ごめん、みんな……』
……部屋の片隅で膝を抱え、両目から涙をはらはらと流しながらただ『ごめん』と何度も何度も浩介がつぶやいていたからだ。
『え?……どう、して』
アビスゲートと名乗っている時はもちろん、そうでない普段の彼がこんな弱々しい様子になるのはラナはほとんど見たことが無かった。せいぜい“深淵卿”という技能を解除した後に顔を覆って横になっている時ぐらいだ。
だが今の彼はそんな状態とは全く違う。自分が部屋に来たことすら気づかないまま、ただ謝罪の言葉を口にしている彼に言葉をマトモにかけることすら出来なかった。愛子が部屋を訪れ、彼に言葉をかけ始めてもラナはただじっと彼を見ていただけなのである。
「全部、全部エヒトが悪いんです! あんなのが、あんなのさえいなかったら遠藤君だって……!」
「そうだけど……そうだけど、でも……でも俺は!」
彼は無敵なんかじゃなかった。自分の手が届かないような存在じゃなかった。
「“深淵卿”をちゃんと制御出来てたら、そうすればあんな変な詠唱なんてしなかった! もっと怪しまれない詠唱が出来た!」
こうして心が折れることだってある『普通』の男の子なんだとようやく理解したが故に絶望したのだ。自分はただ彼を『都合のいい』存在だと思っていたのだと。
「そうしたら神の使徒に付け込まれることなんて、付け込まれることなんて!」
彼の特別な存在でいたことに浮かれてて、何もわかろうとしてなかった。そんな自分が何を言えばいいのかと迷い、ただラナは立ち尽くしていたのである。
「結局……そんなことはエヒトを信じた人達が悪いだけでしょう! 状況に流され、助けてくれた遠藤君のことも考えなかった! そんな恥知らずな人達が全部!」
「でも、でも!」
こうして愛子が彼に言葉をかけ続けているが状況は変わらなかった。慕っていた彼はずっと己を責め、愛子の言葉に耳を貸さないままだったのである。
「……俺、怖いよ。この力があるならきっと皆を守れるって思ってた。恵里をさらって、あの時光輝をボコボコにしたあの女を簡単に倒せるって思ってた。どんなにいたって絶対勝てるって思ってた!……なのに、なのにこのザマじゃんか」
ただ浩介の言葉を聞く度にラナは心がしめつけられる心地であった。
そんなことはないと彼に言いたい。そんなはずなんてないと伝えたい。けれども少しも理解をしようとしなかった自分が何を言えばいい? 同郷の人間である愛子でも無理なのに自分なんかの言葉に彼が耳を傾けるのか? 迷いがラナの心を掴んで離さず、ただ自己嫌悪をラナは重ね続けてた。
「だけど……だけど遠藤君は身を挺して幸利君を助けたでしょう!」
「分身だよ!……俺の本体が助けたわけじゃない。分身を自爆させてでしか、皆を守れなかった。助け、られなかったんだよ」
だが愛子の指摘を、慕っていた彼の言葉を聞いた途端にラナの頭が真っ白になってしまう。私が全てを捧げたいと思った人はこんなにカッコいい人で、そんな駄目な人なんかじゃない。その思いがラナを突き動かした。
「――違う!」
無理解な自分への嫌悪も抜け落ち、ただ彼に伝えねばとラナは一歩前に踏み出す。
「アビスゲート様……ううん、
そして確かな事実を浩介に叩きつける。言葉を止めた浩介に、自分の方に振り向いた愛子に、王宮の全てにも届くようにとラナは声を張り上げる。
「こうくんが皆を助けたの! 街の人達を守ったじゃない! 私達を守ったじゃない!」
詳しい状況はわからない。けれども浩介は見ず知らずの人達を助けたことをラナは確信していた。
「見ず知らずの人達をこうくんは守ったんだよ! 救ってくれたんだよ!」
かつてフェアベルゲンの亜人達に追い立てられた自分達を、帝国兵に出くわした自分達を救ってくれたのは他でもない浩介達だから。
どんな思惑があっても構わない。だって自分達はあの時死んでいたかもしれない。それか死ぬよりももっとひどい目に遭っていたかもしれない。だからラナは精一杯の感謝を、思いを口にしながら前に進む。
「何もしてくれなかったらきっと死んでたかもしれない。死んだ方がいい目に遭ったかもしれない。もう親しい人とあいさつすることだって、世間話だって、何も出来なかったはずなんだよ!……そんなささやかなことをこうくんは守ってくれたの。救ってくれたの!」
目頭が熱くなって、視界がぼやけてしまってもなおラナは声高に訴える。自分達の、そして誰かのささいな日常を貴方は守ってくれたのだと言い続ける。伝えながら歩み続ける。
「だから、だから――」
そして愛子ごとラナは浩介を抱きしめる。ほのかに冷たく、かすかに震える男の子に自分がいるということを体でも伝えようとする。そして――。
「今度は私が、こうくんを救う」
鼻水をすすり、鼻をぐすぐすと鳴らしながらある誓いをラナは立てる。自分達の、そして誰かの『未来』を救ってくれたこの少年の心を救うのだと心の中に一本の柱を立てた。
「……ラナ、さん」
「あなた、は……」
「私が無理ならハウリアの皆も、それでもだめならメルドさんも、こうくんの友達の力も巻き込んででも絶対に救う。だからお願い。自分を責めないで」
むせび泣きながらも自分を見つめる浩介を、悔しさと無念さに塗れた表情を向ける愛子をただラナは真剣な表情でじっと見つめ返す。だがそれも長くは続かず、先にラナが鼻声でしゃくり上げる。
「だから、だから……もうやめてよこうくん。私、かなしいよぉ~」
「ラナさん……ごめん。ごめん……っ」
悲しさ、苦しさ、辛さで頭の中がいっぱいになってラナは泣きじゃくてしまう。それ故に浩介が自分の背に手を回して胸元に顔をうずめるようにすがりついたことにラナは気づけなかった。
「本当に……あなたがうらやましいです」
「なぁ浩介……杞憂だったな」
「……何よ。心配して損したわ」
「えっと……大丈夫みたいだね、浩介っち」
愛子が羨望の眼差しを向けたことも、彼の友人達が顔を出して安心した様子で見つめていたことさえもだ――『神』という存在への依存から抜け出した少女はただ、自身の思いをたださらけ出していたのであった……。
「……ベッドは流石にお行儀が悪いと思いますが」
「すぐ横になれるでしょ。愛ちゃ……畑山先生だって疲れてるんじゃない?」
「うん。優花っちの言う通りだよ。体も心も疲れてるだろうし」
愛子は自室のベッドに腰掛けながら、虚空からパイプイスを取り出した優花と奈々にじっとりとした視線を送る。しかし二人は特に気にかけることもなく、苦笑を浮かべながらも愛子を見つめ返すだけだった。
「……園部さんと宮崎さんはどうしても私を休ませたいんですか」
――ラナの言葉によって浩介が立ち直った後、愛子は部屋を訪れていた生徒三人のせいで自室に来る羽目に遭った。
泣きじゃくった浩介が数分足らずでラナの胸の中で眠ったのを確認した愛子は、ラナに羨望のまなざしを向けつつもその場から離れようとした……が、彼女は愛子を放さなかった。それも何度ももがこうとしてもだ。
「放っておいたら私達のために無理しかしないでしょ」
「そうだね。それにラナさんも『愛子さんも私が甘やかすから! お姉ちゃんって言っていいから!』って愛ちゃ……先生を離そうとしなかったし」
泣きじゃくりながらラナが妙なことをのたまったこともあって、その時の愛子は頭痛にまで襲われてしまっていたのである。いつの間にか部屋を訪れた幸利、優花、奈々によって引き剥がしてもらわなかったらどうなっていたのかと思い返し、愛子は思わず頭を押さえてしまう。
「ですが、私には休んでる暇なんて……早く話をしないと、皆さんに伝えないといけないんです」
しかし目の前にいる少女二人に愛子は裏切られたのだ。この二人も自分を休ませる腹づもりであったせいで自室にまで引きずられてしまい、こうしてベッドに座らされたのである。
だが愛子は一刻も早くウルの街の状況の報告を、訪れて活躍していた幸利が無数の神の使徒に襲われて全身を切り刻まれたことを話さなければと考えていたのだ。とにかく二人に事情を話して部屋を出ようとすると、優花と奈々が互いに向かい合って話し出す。
「先生が気がかりになる、ってことは……ウルの街ってユキとコースケの分身だったかしら?」
「えっ」
「うん、そうだね……先生、私達は皆無事だよ。何があったかももう王様達に話した後だから」
その話の内容はまさに愛子が気にかかっていたことであった。部屋で出くわした幸利や優花、奈々達だけでなく他のクラスメイトも無事であり、またウルの街関連の情報も既に共有されている。そのことを知った愛子は思わず気の抜けた表情のままその場で立ち尽くしてしまう。
「そう、でしたか……」
「うん。だから愛ちゃ……先生が急ぐ理由もないんだよ」
「あっちはあっちでもう話し合いを始めてるでしょ。だからこっちも、しましょ」
そうして席を立った二人に肩を掴まれ、愛子は再度ベッドに座らせられてしまう。だが急ぐ理由はなくなったにしても休んでいる理由が愛子にはないため、再度立ち上がろうとするも優花と奈々が両肩に力をかけられてるせいでそれも叶わない。
「園部さん、宮崎さんも……」
「……愛ちゃんが焦る理由ぐらい、わかるつもりよ」
「私達だって力がなくて後悔したこと、何度もあったし」
どうにかして優花と奈々を説得出来ないかと愛子は口を開くものの、二人がうつむきながら語った言葉のせいで思わず言葉が詰まってしまう。二人が苦しげにきゅっと口の端を結んでいるのを見て、それが本当のことだということがわかってしまったからだ。
「……ごめんなさい。私、いつも皆さんの力になれなくって」
護衛のために来てくれた鷲三と霧乃が連れ去られた時のこと、二人を含めた生徒達が自分を助けに来た時のことを思いだし、愛子は深々と頭を下げる。もしあの時自分にも力があったら誰も傷つかず、悲しませることもなかったのではないかと罪悪感に苛まれたからであった。
「頭下げないでよ愛ちゃん!……そんなことのために話したんじゃないわ」
「そうだよ! 私達だってそうだった、って言いたかっただけだから……」
「ですが……」
すると優花と奈々が否定し、愛子の体に抱きついてきた。かつて使われていた愛称で優花が自分を呼んでいたが、何を言えば彼女達の中の無力感を消せるかということで頭がいっぱいなせいで気づかない。しかも何を言えばいいのかも思い浮かばないせいで余計にだ。
「だって、愛ちゃんも変わらないもの。私達だって何度も何度も死にかけて、その都度どうにか進んでたわ」
「うん。最初っから強くなんてなれなかった。少しずつ強くなって、苦しい思いして、それでも皆で家に帰りたいから必死に我慢してただけ」
だが二人はそんな自分の迷いを気にすることなく言葉を紡いでくる。その言葉だけでどれだけの苦しい道のりを歩ませたか、いらない苦労を強いてしまったかを連想させ、愛子は一層いたたまれなくなってため息を吐いてしまう。
「そうなってほしくなかった。クラスメイトの皆が心の底から笑顔でいてほしかったのに……」
「待ってよ愛ちゃん。私達のこと、憐れんでんの?」
これもそれも自分が力がなかったことが原因かと愛子は後悔を口にするも、急に一オクターブ下がった優花の声にびくりと驚いてしまい、おずおずと彼女の方を見やった。
「馬鹿にしないでよ……確かに辛いことも苦しいこともあったわ。否定はしない」
「それだけじゃないよ。私も優花っちも、幸っちも皆もそれを乗り越えてきたんだよ!」
見れば優花は眉根を寄せて愛子をにらみつけており、また奈々の方も見れば同様であった。それを見て、彼女達の言葉を聞いてようやく愛子は理解する。子供達はただ苦しんでいただけではなかったということをだ。
「後悔だってした。怖くて立てなくなったことだって本気で絶望したことだってあった! でも私やナナが手に入れたのはそれだけなんかじゃないわ!」
「永山君達のことを考えれば愛ちゃんがそう思うのもわかるよ! でも私も優花っちも失いたくない人が出来たの! あの辛くて苦しい旅がなかったらきっとそう思えなかった最高の人が出来たんだよ!」
肩をがっしりと掴み、凝視しながら二人が力説してくる様を見て愛子は確信する。この子たちは、オルクス大迷宮を突破した子供達はもう自分が守らずとも大丈夫だということに。彼ら同士で力を合わせ、困難に立ち向かって進めるということにだ。
「愛ちゃんからすれば私達なんて子供でしかないかもしれないわ! でも、私達だって修羅場の十や二十ぐらいくぐってるのよ!」
「恵里っち達が世界の敵になった時も、ベヒモスや神殿騎士の人達と戦う羽目に遭った時も! 電気出すオオカミと戦った時やヒュドラと戦った時だって、私達はあきらめなかったんだから!」
二人が啖呵を切っている様を見つつ、愛子はかつて目の前の少女達がクラスメイトと共に国をひっくり返したことを思い出していた。
(私、馬鹿だったなぁ)
その時は自分も微力ながら力になったものの、優花達はそんな絶望的な戦いにすらも勝利した。その後エヒトが世界をひっくり返す一手を打ってきても、アレコレ考えてあがき続けてきたという彼女達の話も愛子の脳裏をよぎっていた。
(園部さんや宮崎さん、天之河君達も傷ついてたのは確かでしょう。けれども彼女達は永山君達のようにただ深く傷ついただけじゃなかった。私が思ってるよりもすごく、強くなってたんだ)
それを思えば自分は彼女達を『無力な子供』として扱っていたのではないかと思い、それがどれだけ愚かなことなのかを痛感する。この子達にすべきことはそうじゃない。かけるべき言葉はそんなものじゃないと理解した愛子はフッと微笑みを浮かべる。
「情けないのはわかってるけど、きっとエリやユキ、ハジメ達がどうにかしてくれるって信じてるの! だから私もナナもそれを全力で――って何笑ってるの?」
「恵里っちや幸っちみたいに私は頭は良くないけど、水魔法のエキスパートだもん! アレーティアさんには勝てないかもしれないけど私だって――あ、愛ちゃん、どうしたの?」
すると力説していた二人が途中で話すのをやめ、不思議そうに愛子を見つめて出した。すると愛子も一度頭を横に振り、優花と奈々の顔を一度ずつ見つめてから話を切り出す。
「いいえ。私が過保護すぎたということがわかっただけです……園部さん、宮崎さん。お願いがあります」
「……何かしら」
「うん。何でも聞ける訳じゃないけど」
軽く目を細め、愛子は真剣な面持ちで二人を見る。すると優花も奈々も同様に真剣な顔つきで愛子を見つめ返してきたため、今の二人ならば耳を傾けてくれると確信した愛子はある話を切り出した。
「永山君達はもうしばらく時間をいただきたいのですが……神代魔法が、戦える力がもっと欲しいんです」
それは目の前の少女達も手にした神代魔法の習得であった。魔物の肉を何度も食べ、二ヶ月もの訓練を経てステータスを伸ばした彼女達ほど劇的に強くなることはないということは愛子もわかっていた。
「デビッドさん達と大迷宮の本格的な探索を、そのためのレクチャーもお願いしたいんです。お願いします」
だがエヒトが無数に神の使徒という恐ろしく強い存在をいくつも抱えていることを考えれば、自分も更に強くなった方がいいと愛子は考えていた。手を取り合ったデビッド達もこの考えには反対しないだろうと思い、愛子はためらうことなく二人に頭を下げたのである。
「頭上げてよ愛ちゃん!……でも、どうするの。ナナ?」
「愛ちゃん頭上げてってば!……そうだよね。恵里っち達、説得してからかな?」
すぐに優花と奈々は愛子に頭を上げるよう頼んできたものの、そのまま愛子が頭を下げ続けていれば小声で話し合いを始め出した。話しあいうんぬんと言っていたし、すぐには出来ないということは重々承知している。けれども今のペースで強くなるだけでは愛子はもう満足出来なくなってしまったのである。
「構いません。園部さん達の都合を優先してください」
「ならいいけど……それで、どこに向かうかとかのリクエストはある?」
頭を上げ、奈々の言葉に愛子はうなずきながら返事をする。優花達の邪魔になるようなことは避けたい。一生懸命になっている彼女達の邪魔になることだけはしたくないという大人としてのプライドがあったため、愛子は彼女達の都合を優先すると答えたのだ。
「愛ちゃん先生も私みたいな術師寄りのステータスだけど……まず一番条件が緩い魂魄魔法からかなぁ。エヒトにこびないなら大丈夫っぽいし」
「そうですね。まずはそちらからでもいいと思ってます。それと個人的には
そこでまず奈々が魂魄魔法の取得を
「いや、正気なの愛ちゃん……? あそこ、魔法をメインに使う人間じゃまず太刀打ちできないわよ」
「うん……あそこ、私や中野君達そこまで活躍出来なかったし。私達で中級の魔法が使えるぐらいなんだよ? やめとこうよ」
「園部さん、とりあえずその愛称で呼ぶのはやめてください。目上の人に対する態度じゃありません……こほん。条件を整えれば、と言ったでしょう? そうすればあそこは簡単に攻略出来そうだと思うんです」
まだ思いつきのレベルではあったものの、愛子の見立てでは突破可能だと見ている。二人の忠告にせき払いをしながらも愛子はハキハキとそう答えれば、ピタリと優花と奈々の動きが止まった。
「……ねぇ、それめちゃくちゃな方法じゃないわよね?」
「うん……その、何するか聞いていい?」
冷や汗を一筋流し、口元が軽くひきつった様子の優花と奈々が尋ねてくる。そこで愛子はにっこりと笑みを浮かべながら返事をしていく。
「えぇ。出来れば南雲君にあの潜水艇をもう一度造ってもらえばありがたいんですが」
「うん。イヤな予感しかしないわ」
「うん。もう何か怖いんだけど」
「まぁそうでなくても出来ますよ。いくつか魔晶石を借りられれば――ちょっと海の力を借りて水責めなんてどうかな、って」
答えた途端、優花と奈々が大きく目をむいた。やたらと汗を垂れ流し出した。もしや
「あ、愛ちゃん……?」
「み、水責めって、その……」
「園部さん、ちゃんと大人は敬いましょう。ほら、ゲートホールを置いた場所のひとつにエリセンの底があったじゃないですか。そことつないでライセン大峡谷を海水で埋め尽くして、大迷宮も水に沈めれば少しは難易度も簡単になるんじゃないかなって思いまして」
具体的なプランを語っていけば、二人は体をカタカタと震わせ、何度も口をパクパクと動かして愛子を見ていた。優花達の反応を見てやはり過激であっただろうかと愛子は思い直し、ため息を吐きながらどうしてそれを思いついたかを語り始めた。
「今の私やデビッドさん達では実力不足かもしれませんから。ですから大迷宮の魔物を溺死させたり、罠なんかも機能しないようにすれば安全かなって。ほら、酸素ボンベもありますから!」
遂に優花と奈々の顔が青ざめ始めた。やっぱり過激だったかと確信し、愛子は苦笑しながらほほをかいて二人に言い訳を述べていく。
「やっぱり過激でしたか……でも、魔法を主体に戦う私だとお荷物になるかもしれませんし、でしたらこういう作戦の方で役に立つしかないんじゃないかと思ったんです」
「あー、うん。そ、そうよね……」
「愛ちゃんのそういうとこ、立派だと思うよー……」
だが言い訳を並べ立てた際、優花と奈々が徐々に顔を背けていったため、愛子はそれを不審に思った。そして優花達がライセン大迷宮を突破したかについての報告を聞いてないことを愛子は思い出し、ずいっと体を乗り出す。
「……そういえば園部さん、宮崎さん。皆さんのグループはライセン大迷宮を突破したんですか? まだ無理だというのならこの案も悪くないと思うんですが」
「いや、その……」
「あ、愛ちゃん、あのね……」
二人は座っているパイプイスごと後ろに下がった。その反応を見て愛子は確信する。二人もしくは攻略したグループの誰かが、自分に言えないような何かがあったのではないかということに。
愛子は大きく目を見開きながら立ち上がり、体を震わせる二人に向けて一歩踏み出して問う。
「もしかして……誰かが大けがしたんですね? それとも体の一部が――」
「「“界穿”っ!!」」
二人は即座に逃げた。愛子も二人の手を掴もうと自分の手を伸ばすも、途中で空間を閉じるとそこで両断されることを思い出してしまい、その手が止まってしまう。
「ふ、二人とも待ちなさーい! ちゃんと何があったか話さないとお説教ですよー!」
ならば二人の足取りを追おうと考えたものの、それぞれ別の空間とつながっていたのがゲート越しの風景で見えていた。また彼女達がそれぞれゲートキーを持ってることから追跡が困難であることも容易に想像がついてしまう。
「あの子達は……いいでしょう。そちらがそのつもりなら私だって勝手に動きます」
愛子は深くため息を吐くと、じっとりとしたまなざしを虚空に向けながら独り言をつぶやく。そしてすぐに愛子はデビッド達に“念話”を飛ばした。
“デビッドさん、聞こえますか”
“どうした愛子? 今天之河達と会議をしている……それと”
“そうですか。園部さんか宮崎さんに告げ口されたんですね”
“頼むから待ってくれ愛子! 園部から念話で話を聞いたんだが、愛子がやろうとしていることのせいでトータスが激変しかねないらしい! もしそうなったら王国だって無事で済まないんだ! 考え直してくれ!”
そこで愛子はデビッドに作戦の概要を伝え、彼やクリス達の方から王国に根回しをしてもらおうとしたが既に優花に先回りされていたのである。
そのことを知って奥歯を強く噛みしめ、また流石にデビッド達に迷惑はかけられないと考え直した愛子は急遽思いついたあることを口にした。
“でしたら谷口さんとアレーティアさんに取り次いでください! ライセン大迷宮に巨大な岩を何度も落として構造を破壊します!”
“だから落ち着いてくれ愛子!”
かくして愛子の鬼“念話”はしばし続く。偽りの神に抗う意志を宿した魔王を自称する女もまた立ち直り、己のやり方で力を手に入れようとあがく……なおそれが招いたのは彼女の教え子の一人である幸利と、彼女を慕う四人の男からの必死過ぎる説得というなんともしまらない結末であった。
いきなり飛び火してミレディかわいそう(他人事)
あと水没したら絶滅確実なダイヘドアくん含むライセン大峡谷の生き物みんなかわいそうですね(他人事)
2024/11/15 23:12 まえがきちょっと修正しました。
2024/11/18 12:57 名前間違えてたんで修正しました。ごめんよ信治、それと健太郎……。