あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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どうにか執筆完了しましたァ!!
……では改めまして、読者の皆様への盛大な感謝を。
おかげさまでUAも224377、お気に入り件数も959件、しおりも481件、感想数も767件(2024/11/24 21:45現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして多くの方に見ていただけるというのはとても励みになります。

そして桶の桃ジュースさん、ponpokoponさん、Aitoyukiさん、拙作の評価及び再評価をしてくださり本当にありがとうございました。またしても書き進める力をいただきました。ありがとうございます。

今回の話を読む前の注意としてちょっとだけ長め(約11000字)となっております。では皆様、本編をどうぞ。


幕間六十二 偽りの救い手、降臨せり

「流石はエヒト様の御遣いだ! 魔人族との戦いで多くの()()()()()兵達の六割が復帰するとは!」

 

 玉座に座る青年の賛辞の声を皮切りに、そこかしこから神の使徒の偉業を褒め称える声が飛び交う。その青年と向かい合っているのは神に仕える二人の見目麗しい絶世の美女……ではない。

 

「いえ。帝国の皆さんがご無事ならそれで何よりです」

 

「ぼ……私達はそのために来ましたから」

 

「おぉ……なんと」

 

 アーティファクトによって姿を偽った光輝とハジメの二人であった。二人はうやうやしく頭を下げながら玉座に深く腰掛ける青年ことトレック皇太子にそう伝える。するとトレックは目を輝かせながら光輝達を見つめ、感嘆の声を漏らしていた。

 

「使徒様は実に寛大にあらせられる」

 

「おぉ、エヒト様……」

 

「エヒト様と使徒様に感謝を……しかしトレック様、あまりエヒト様の御遣いにすがられては」

 

 トレックの側に侍っていた大臣らも二人を見ながら恍惚に満ちた声を出したり、手を組んでエヒトに祈りを捧げるなどしていた。だがそこで祈っていた大臣の一人がトレックに意見すると、彼もうなずいてから光輝達に声をかけてきた。

 

「無論、わかっている……使徒様。もうしばしお力添えをしていただけるでしょうか。民達の前に出てお声がけしてくださるだけでいいのです。我が帝国と公国の連合軍が反逆者どもを血祭りにして戻ってくるまででいいのです。どうか」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべたトレックは席を立つと、光輝達に頭を下げながら頼み込んできた。彼の悲痛な声と側にいた大臣らもトレックと同様に動いており、もう誰も微動だにしていない。

 

「……っ」

 

 どれだけ本気なのか、彼らが弱っているかは光輝もわかっている。だが親友達をためらいなくけなすトレックらに自分達の正体をさらし、本気で言っているのかと問い詰めたいという思いも光輝の中には宿っていた。握った拳をぶるぶると震わせ、軽く奥歯を噛みしめながら光輝は帝国の人間達をじっと見つめていた。

 

「使徒様、どうか……」

 

「もちろんです。その願い、聞き届けました」

 

 怒りで頭がいっぱいなせいでトレックらの頼みに光輝は答えられない。だがハジメが自分の代わりに返事をしてくれたのである。それを聞いた瞬間光輝も我に返り、申し訳ないと思いながらハジメを一瞥する。すると彼も笑みを浮かべながら首を横に振ってくれた。

 

“ごめん、ハジメ。助かったよ”

 

“仕方ないよ。僕だって正直不愉快だったし。でもさ”

 

“あぁ、わかってる。帝国の人達だって被害者だからな”

 

 すぐに光輝はハジメに“念話”でお礼を告げると、ハジメも胸の内を明かしてくれた。彼の気遣いに心が軽くなるのを感じつつも、光輝は再度気合いを入れ直す。目の前の人達もまたエヒトのせいで何もかもを狂わされた被害者であるのだからと考え直して。

 

「はい。お……私達がここに来たのもどこかに潜んでいる魔物の討伐ですから」

 

 愛想笑いを浮かべながら光輝は再度、自分達がヘルシャーを訪れた理由を話したのであった――。

 

 

 

 

 

「皆、お待たせ」

 

 光輝とハジメが帝国を訪れる二時間ほど前のこと。作戦会議を終えた光輝達は一旦解散し、一時間ほど経過してから王国の練兵場へと集合することとなった。理由は姿を偽装するアーティファクトを三人除いての調整、再生魔法を付与したアーティファクトの量産、そして神の使徒の復活にかかる時間を考慮したからだ。

 

「二つとも使えるか?」

 

「俺の担当したのはちょっとだけハジメの奴には劣る、かな」

 

「少し魔力を食うぐらいでしょ。オールラウンダーの光輝君が言うと嫌みにしか聞こえないよ」

 

 光輝はハジメと協力して偽装用のアーティファクトの調整を行った。また二人は鷲三と霧乃と共に再生魔法を付与したアーティファクトの生産も受け持っていた。時間こそかかったものの難なくそれは完了し、雫、鷲三、霧乃は光輝達に先んじてトータス各地を回ってくれていた。

 

「ごめんハジメ……それと、後は恵里達だけなんだな」

 

「まぁ大丈夫だろ。先生が何もしてなかった、ってことは悲鳴すら上がらなかったんじゃねぇの」

 

 作業を終えたハジメと共に練兵場へと向かえばいつもの面々のほとんどが出迎えてくれた。いなかったのは神の使徒復活を担当していた恵里、鈴、香織、礼一、フリードと重吾達王国に残ったメンバーぐらいである。

 

「そうだね。きっと恵里と鈴、それに礼一君達ならきっと大丈夫だよ」

 

 なお恵里達が大所帯なのは再生魔法担当のフリードと魂魄魔法担当の恵里に加え、“縛光鎖”による拘束を鈴と香織が任されたからだ。礼一は神の使徒が拘束を引きちぎって仕掛けてくる可能性を考え、迎撃のために抜擢されたからである。

 

「ま、そっちは問題ねぇんじゃねぇの……それよりあのクソ魔王、放っといて大丈夫なのかよ」

 

「幸利とデビッドさん達がいるから大丈夫だと思いたいんだけどな……」

 

「大迷宮の真上の岩盤の破壊とか、複数設置した水車を回して電気垂れ流しとか……あくどいよね、本当に」

 

「あのぽわぽわしてた畑山先生はどこにいったんだろうな……」

 

 そうして恵里達が来るまで待つことになったが、信治が言及したことから話の内容はデビッドの口から漏れた愛子の凶行へとシフトした。ライセン大迷宮をどうしても破壊したいという愛子の執念が、焦りながら説得するデビッドの口から出ていたのを玉座の間にいた多くのメンツが聞いていたことも関係していた。

 

「まぁ、俺も攻略に参加しないで、皆が手足を失う羽目に遭ったって聞けばああなる、かな」

 

 今でこそ多少慣れはしたものの、ちょっと前まではぷりぷり怒る様が可愛らしかった彼女があの様だ。光輝も愛子にフォローを入れつつも、どうしてああなったんだろうなと思いながら遠くを見つめる。それにつられて何人ものため息が練兵場にこだまする。

 

「みんなお待たせー……」

 

「「ごめんね待たせて……」」

 

「時間がかかったけれど大丈夫……なのか?」

 

 そうして時間を潰していると、ようやく恵里達五人と神の使徒が来てくれた……のだが、彼らの様子を見て光輝は軽く口元がヒクついてしまう。何せ恵里達がひどい猫背のままこの場に現れたり、神の使徒をじっとりとした目で見つめてたりしたからだ。

 

「おう見えるのか光輝。俺ら見といてそのセリフか」

 

「悪かった。謝るから。謝るから礼一。本当にごめん」

 

 とりあえず傷の類いは見えなかったものの、何かあったと確信した光輝は不機嫌をあらわにしながらにらむ礼一に深々と頭を下げる。

 

「いやマジで何があったよ……」

 

「中村の奴か谷口、白崎がしくじったか?」

 

「……恵里、鈴もお疲れ」

 

「「うん……」」

 

「香織、よく頑張ったな」

 

「うん……ちょっと、疲れちゃった」

 

 また大介や良樹らがひそひそ話をしたり、ハジメが恵里と鈴を、龍太郎も香織をねぎらったりと場がざわつき始めたため、自分が代表して何があったかを尋ねようと光輝は頭を上げた。

 

「原因は……その神の使徒、だよな」

 

「うんコイツ。アンファンが原因でさ」

 

「うん、まぁ……ね」

 

 そうして鈴と一緒にハジメに抱きついている恵里に聞いてみると、彼女も目を細めながら神の使徒を軽くにらむ。恵里と一緒に返事をした鈴も苦笑を浮かべており、大けがこそしなかったが相当面倒なことが起きたんじゃないかと光輝は推測して冷や汗を流す。

 

「……私は悪くありません」

 

 そこで神の使徒に視線を向ければ、彼女はフリードの服のすそをちょんと掴んで恵里達をジト目で見つめ返していた。名前は確かドイツ語の『始まり』の意味だったかなと思っていると、フリードがその神の使徒を半目で見ながらつぶやく。

 

癇癪(かんしゃく)起こして羽根を部屋中にまき散らした貴様が何を言うんだろうな」

 

「……私の目元をぬぐって泣くなと言ったのに。私は何も悪くありません。何も間違ったことなどしていません」

 

 フリードに言及され、そっぽを向きながらどこかすねたように言うアンファンの様子を見て光輝は多くを察する。きっと復活した後に何かしらあって、それであのアンファンが軽く暴れたのだろう。光輝は再度冷や汗をたらりと流した。

 

「鼻痛くない? もう血は出てないと思うけどまだ痛かったら言ってね」

 

「……気遣いに感謝します。白崎香織」

 

 続く香織の気遣いで光輝はなんとなく経緯を把握した。

 

 以前恵里達が造った犬型のゴーレムが魂を入れた直後にこけたことを思い出し、同様の流れであの神の使徒が顔面を強打したであろうことを光輝は想像する。そして泣きじゃくって分解能力のある羽根をバラまいたのだと推測し、微笑ましさやらはた迷惑やらで思わず半笑いを浮かべてしまった。

 

「うっぷ……」

 

「大介、アレーティアさんを頼む」

 

「わかってる……アレーティア、お前はアイツと違うからな。落ち着けマジで」

 

「えーとこほん……アンファンさんでいいのかな? 作戦のことは聞いてるだろうか」

 

 過去のやらかしを思い出して軽く青ざめたのだろうアレーティアを大介に任せ、光輝はアンファンと名付けられたであろう神の使徒に声をかける。

 

「……ここに来るまでに耳にはしています」

 

「そうか。それならありがたい――じゃあ皆、確認しよう」

 

 耳にしているのならば話は早いと思い、光輝はせき払いをしてから今回の作戦の概要について改めて触れる。

 

「今回の作戦は本物の神の使徒であるアンファンさん、そして姿を神の使徒に偽装した俺達が二人一組で各地を周ってトータスの人達を救助することだ」

 

 今回自分達がやるのはエヒトの画策によっていらぬ被害を受けたトータスの人達の救助活動である。光輝が内容について触れれば、未だいじけた様子のアンファン以外の面々が顔つきを改めて光輝を見つめていた。

 

「再生魔法のアーティファクトも用意した。コレで汚染された水源や作物の回復、それと魔人族の襲撃で傷を負った人達……まだ助かるかもしれない人達のためにも使ってほしい」

 

 各地に潜んでいるかもしれない毒持ちの魔物への対処、再生魔法を付与されたアーティファクトを活用して水源や作物のリカバリーやまだ死んでない人達を助けることが今回の目的だ。そのことを伝えればハジメ達も真剣な面持ちでうなずき返し、光輝は更に話を続ける。

 

「この場にいない浩介達は不参加だ……昨日のことを考えると三人、いや四人一組ぐらいで動くべきだとは思う。けれど、まだ浩介の心の傷も深いし、幸利達がフォローしてくれてるのを考えるとさ」

 

 昨日無数の神の使徒に襲われたことや一刻も早く対処した方がいいことをを考えれば、“深淵卿”を発動した浩介の分身百人を護衛につけて一人ひとりバラけていった方がいいだろう。だが部屋の中ですすり泣く彼のことを思えば光輝には出来なかった。

 

「いや園部達逃げ回ってるじゃねぇか。アイツらいいのかよ」

 

「……それは仕方ないんじゃないかな、大介君」

 

 まぁ優花と奈々は今も愛子から逃げてるらしく、二人ぐらいは頭数に加えてもいいかもしれないと光輝も思わず苦笑いを浮かべた。すぐさまフォローしてくれたハジメに内心感謝していると、その当人からあることについて言及される。

 

「それと光輝君。キャサリンさんやイルワさん達のことも」

 

「あぁ、そうだな。大介とアレーティアさんはキャサリンさんを、良樹とシアさんはイルワさんやビィズさん達を頼む」

 

 それは自分達を陰ながら手助けしてくれたり、協力を誓ってくれた人達の救助のことだった。まだ無事かわからないことや彼らの協力を再び得たいということもあって、既にメンバーの振り分けも終わっている。

 

「はい」

 

「「任せろ!」」

 

「了解しました!」

 

「ありがとう。それと皆、他に質問は……ないんだな。わかった」

 

 彼らからの了解を得て、他に質問がないかと問い掛ければ誰もが一様に首を横に振る。アンファンも従ってくれることに少しホッとした光輝は、一度目をつむって息を長く吐いてから仲間達をじっと見つめた。

 

「……今回の作戦、俺達がどれだけ頑張ってもエヒトのおかげになる。そのことを改めて言いたい」

 

 その理由は今回自分達がトータスの人達を助けることがただの徒労にしかならないということを伝えるためであった。どれだけ頑張ろうと自分達の悪評は覆せないし、神の使徒、ひいてはエヒトのおかげということにしかまずならない。それを伝えるために覚悟をしたかったからである。

 

「今更でしょ。ま、割とボクのせいだけどさ」

 

「恵里ちゃん、そんなこと言わないでよ……それぐらい、ここにいる皆は覚悟してると思うよ。光輝君」

 

 すると恵里が短く息を吐きながら両の手を上に向けつつ言い返してきた。また彼女の自虐に対して香織がムッとした表情でやめるよう頼み込み、そして光輝をたしなめてきた。他の皆も軽く笑みを浮かべていたり、だよなぁと小声で香織に同調したりしていたため、光輝も心配しすぎたと内心反省する。

 

「そうだな……皆、トータスを救うために、俺達の世界を救うために力を貸してほしい。行こう! 俺達でトータスを救うんだ!」

 

『おー!!』

 

 そうしてかぶりを振ると、光輝が声を張り上げる。それと同時に練兵場に仲間達の声が響いた。ほぼ全員のやる気満々な声を聞いて安堵し、やる気をみなぎらせた光輝は号令をかける。

 

「各自、アーティファクトの起動と“仙鏡”も発動! なるべく神秘的な登場になるようにしてくれ!」

 

『了解!』

 

 ゲートキーでも転移そのものは可能ではある。だがそれよりも姿を偽ったまま上空から現れ、重力魔法を駆使しながら降り立つ様子を見せつければ一層自分達の正体を疑い辛くなる。それにインパクトを与えられると考えたからだ。

 

「よし。ここにしよう。ハジメ」

 

 “仙鏡”によって投影された空間にはある場所の上空――帝国の城の中庭の上を映している。そこから出るのを画策し、既にアーティファクトで姿を偽装していた光輝は同様のハジメに声をかける。

 

「うん。じゃあ恵里、鈴、アンファンさんと頑張ってね!」

 

「任せてハジメくん!」

 

「うん。しっかりアピールしてくるから」

 

 ちなみに恵里達だけは例外で三人一組である。理由はアンファンのサポートのためにも人数が多いほうがいいだろうという恵里本人からの提案であり、特に誰も反対することなく受け入れられていた。

 

 ハジメも出る前に恵里と鈴に声をかければ、神の使徒の姿となった二人も満面の笑みを浮かべながらそれぞれ答え、アンファンと共にゲートへと飛び込んでいく。

 

「気をつけてくれー!……よし、俺達も行こう! “界穿”っ!」

 

「了解。じゃあ皆、また後で!」

 

 そうして光輝もゲートを開き、仲間達に声をかけたハジメと共に目的のポイントへと転移する。景色が切り替わった瞬間、浮遊感と下からの視線を光輝は感じた。

 

「“引天”……よし、ちょっとずつ降りるぞ」

 

「助かったよ光輝君……じゃあ役者として頑張らないとね」

 

 重力魔法で二人分の落ちる速度を調整し、光輝達は無事に帝城の中庭へと降り立った。すると庭師や休憩をしていたらしい貴族然とした青年がこちらへと駆け寄ってくるのを光輝は目撃する。

 

「か、神の使徒様ですか!?」

 

「わ、我が帝城に何のご用でしょうか!」

 

「お……こほん。傷ついた帝国の兵士達はどちらにいますか?」

 

「ぼ、じゃなかった。私達が彼らの傷を癒やします。それと帝国の水源についてもお尋ねしたいんですが」

 

 ハジメ共々ボロが出かかったものの、目を血走らせてじっと自分達を見つめている彼らにはバレなかったようだ。そのことに心の中で安堵しつつも光輝とハジメは当初の目的を果たそうと声をかける。

 

「す、すぐに大臣らを呼びつけます! 誰か! 誰かいるか!」

 

 驚いたことにその青年は皇族の類いだったらしく、すぐに二人は傷ついた兵士がいる治療院へと案内されることとなった。再生魔法を付与したアーティファクトを何度となく使ってまだ息のある帝国兵達を全快させ、玉座の間へと通されて何度となく光輝達は感謝を告げられたのである。

 

 

 

 

 

「トレック様! こちらの方々は――」

 

「エヒト様の御遣いだ。帝城に降臨され、兵士達を救って下さったのだ」

 

 帝国の城の玉座の間にて何度となく感謝の言葉や祈りの言葉を聞いた光輝達であったが、ここに来た目的を話して()()()()あってからある川の近くへとやって来ていた。

 

「ほ、本当ですか!」

 

「じゃあアイザックの奴も……ありがとうございます使徒様!」

 

「兵士どもよ、心して聞くがよい! こちらにおわす神の使徒様は、水源に潜んだとされる魔物を討伐されるために足を運んでくださったのだ! それも神代魔法とおぼしきお力を使われてな!」

 

 厳密に言えば帝国に隣接するヘルシェン川、その管理ゲートの近辺だ。トレック皇太子や帝国で司祭をしていると話したジャックス、そして近衛兵十数名と共に来た目的を語れば、一瞬にして場が一気に湧く。

 

「それとわしらの話を聞くためにわざわざ軍議の間へ――」

 

「じゃ、ジャックスさんそれ以上言わなくていいですから!」

 

 これ以上は恥ずかしいのと熱狂で面倒なことになるからと光輝が止めるよう頼み込めば、ジャックス司祭は半目で心底不服げな顔をして彼を見つめ返していた。

 

「なぜです? 使徒様の偉業を広めるまたとない――」

 

「は、恥ずかしいんで! それに時間をかけたらその分毒が川から流れるかもしれませんから!」

 

 擬似的な女装をして、嘘をついて人助けをしている様をべらべら話されてしまうのだ。申し訳ない上にあまりに恥ずかしくて仕方ない。もっともらしいことを言ったハジメと共に顔を真っ赤に染めながら、光輝は何度も何度も首を縦に振った。

 

「なんと……わしとしたことが、なんたる不覚!! 死んで、死んでわびねば……」

 

「よし! 神の使徒様の手を煩わせた大馬鹿はこのトレックが首をはねて――」

 

「しなくていいですから!……あぁもう、早く行きましょう!」

 

 そこでジャックス司祭が急に青ざめ、この世の終わりとばかりに震えてその場にひざをついた。しかもトレックがハッとした様子で腰の剣を抜き、上段に掲げたものだから慌てて光輝も二人を止める。そんなすったもんだの末、ようやく光輝達はヘルシェン川の調査を開始出来たのであった。

 

「しかし、流石神の使徒様だな。馬車も使わずに直接川へとおもむくことが出来るとは」

 

「これほどの力があれば、たとえ反逆者どもが魔人族と手を組もうとも恐ろしくはないな」

 

 そうして光輝達は“気配探知”や“魔力探知”などの技能を使い、川に沿って上流へと移動しながらバチュラムの居所を探していた。そしてそれはついてきたトレックや司祭らが自分達を交互に持ち上げ、けなすことへの苛立ちに耐えることも兼ねてしまっている。

 

“悪気がないのはわかってる……けど、辛いな”

 

“……そうだね”

 

 幸い光輝とハジメは先頭で動いていることため、自分の眉間にしわが寄ってるのは見られていないことに光輝は少しだけ安堵している。とはいえ後ろから聞こえる親友達もけなす言葉に耐えるのは辛く、ハジメと“念話”で愚痴をこぼしてでもいないとやっていられなかった。

 

“早くハジメや雫達の誤解を解きたい。けれどそれは今じゃダメだってのもわかってる。わかってるんだけどな”

 

“僕はさ、光輝君がリーダーで良かったと本当に思うよ。僕だったらどこかであきらめてたと思うし”

 

 愛する人や親友達が誤解されている現状を甘んじて受け止め続けなければならない。ままならない状況に苦しんでいるのは同じだというのに吐き出さなければやっていられない。自身のやるせなさを語っていると、ハジメが不意打ちをしてきたせいで光輝は思わず真顔になってしまう。

 

“でも……”

 

“まぁ誰彼構わずだと潰れちゃうし、ちゃんと選んでほしいところだけどね。でもそんな光輝君だから僕も雫さんもほっとけない。恵里が言ってたみたいにお人好しばっかりだしね僕達”

 

 ハジメの言葉に光輝は思わず胸が熱くなってしまう。先ほどまで重かった足取りもどこか軽くなり、最高の友人に巡り会えたなと思いながら光輝は前に意識を向ける。

 

“ハジメ、もう少しだけ頼めるか”

 

“もちろん。幼馴染みの頼みだしね”

 

 向き合うことなくただ“念話”だけでやりとりを済ませると、光輝は黙って作業に戻った。しかしなかなか魔物の気配は見当たらず、やはり水源の辺りだろうかとアタリをつけつつも取り逃す可能性を恐れてヘルシェン川の上流へと進んでいく。

 

「っ。これは……」

 

「どうされましたか使徒様? ここは水源の辺りになりますが……」

 

 川に沿って歩くこと二時間ほどが経ち、ついに川の水源にまでたどり着いた光輝達。ようやく複数の探知技能に何かが引っかかり、フリードが語っていた例の魔物かと光輝は聖剣を抜く。

 

「ここから先は俺……じゃなかった。私が対処します。それと」

 

「はい。皆さんは私が守りますのでどうか一歩も動かないでください」

 

 戻ったら永山からマナーでも教わろうかと苦笑いしながらも、光輝はトレック達に自分が魔物討伐を受け持つことを伝える。するとハジメの方もトレック達を守ると言ってくれたため、光輝は一度ハジメと顔を合わせてから互いにうなずき合う。

 

「お、俺?」

 

「しょ、承知しました! ささ、トレック様、ジャックス司祭も」

 

「では失礼します――“崩軛” “引天”」

 

 ハジメならばアーティファクトを駆使して誰一人けがなどさせないと信じ、後ろを彼に託して光輝は二つの重力魔法を発動する。引力をカットして十cmほど浮き、前方へと()()()ことで一気に水源へと迫っていく。

 

「ちょっとイライラしてたからな。お前には悪いけど、倒されてもらうぞ――“引天”っ!」

 

 ギリギリまで水源に近づいて地面に降り立つと、再度光輝は重力魔法を発動して水底にある巨大な何かを引きずり出そうとする。その際、かなりの抵抗を感じながらも持てる魔力を注いで魔物を空中に浮き上がらせようとした。

 

「んなぁっ!?」

 

「浩介、大きさぐらい言っててくれよ……」

 

 そうして水面から引きずり出そうとした途端、後方何十メートルも離れたトレックらの驚いた声が光輝の耳に届いた。光輝としても三階建ての家に匹敵する巨大なスライムが出てくるとは思わず、浩介に軽く八つ当たりしながらも重力魔法の使用を中止。相手をじっと見つめて出方をうかがう。

 

「っ!」

 

 そうして現れたスライムことバチュラムはすぐに体のそこかしこから触腕を生やし、光輝やハジメ達へとその塊をぶつけようとする。しかしドラム缶並みに太い水の塊が目の前に迫って来ても、光輝はうろたえることなくわずかな移動で攻撃をかわしていく。

 

“光輝君! こっちは大丈夫だから!”

 

「流石ハジメ……じゃあ俺も本気で倒すとするよ」

 

 どれだけ数が多くともただ大きく振り回しているだけの攻撃など“深淵卿”を発動した浩介と比べれば大したことなどない。“念話”でハジメの無事も確認した光輝は聖剣に“分解”の魔力を宿しながらも、別の魔法の発動に移った。

 

「“海炎” “砲皇” “壊劫”っ!」

 

 自分に迫ってくる触手を全て切り落として消滅させ、炎の津波でハジメ達の方へと向かう触手も蒸発させる。新たな触手は上級の風属性の魔法で全て弾き飛ばし、握り拳大の重力球を三つ発生させるとそれをバチュラムへと飛ばしていく。

 

「“壊劫” “壊劫” “壊劫”っ!」

 

 “神威”ではここら一体が吹き飛びかねないのと重力魔法の練習も兼ねての判断であった。三つの球体で触手を潰しながら本体を削り、まだいけると考えた光輝は黒い球体を十個に増やす。それらを自在に操ってバチュラムの体をえぐり取っていった。

 

「そこだぁっ!」

 

 そうしてスライム状の体の七割を削り取ると、光輝は聖剣を横に構えながら跳躍。バチュラムの体を不規則に巡っていた核と思しき物体を正面に捉えた。そして横薙ぎの一閃と共にその赤い魔石を両断。

 

 一瞬の静寂の後、スライムの体を構成してたと思しきおびたただしい量の水が光輝の体を包み込むように降り注ぐ。

 

「ふぅ……これで終わりました。後は私達がここや川の水を使った作物の浄化を……あれ?」

 

 このままだと水に呑まれて溺れかねないと判断し、光輝はすぐさま“引天”を発動して川端へと戻った。それでもずぶ濡れになってしまい、空いた左手で髪の毛をぬぐって水を落とす。そうして振り向きながらトレックらの方を見れば、なぜか彼らは一様にひざまずいており、またハジメも顔を赤くしながら顔を背けていた。

 

「美しい……が、画家を今すぐ呼べ! 使徒様の美しい御姿を永劫トータスに残すんだ!」

 

「え、絵心のある者でいい! 今すぐこの場に描くのだ!」

 

“な、なぁハジメ……い、一体何が起きたんだ?”

 

“その……神の使徒が似たような状況になった場合のこと、考えて。それ以上、言えない”

 

 何があったのかと思ったらどいつもこいつも頭がおかしくなっていたのである。狂乱する帝国の人間を見て本気で困惑した光輝はハジメに助けを求めるも、彼も具体的に明言はしてくれなかった。

 

(ハジメの奴……なんでこんな時に薄情、な……)

 

 内心ハジメのことを悪し様に言う光輝であったが、彼の言う通り先程まで自分がやっていたことを神の使徒の姿でトレースしてみる。結果、どうして気まずそうに顔を背けていたのかがわかってしまい、顔がみるみる赤くなっていく。

 

(うん無理だなコレ!!)

 

 様々な魔法を駆使し、手にした剣で魔物を倒したドレス甲冑の絶世の美女の姿がまず光輝の脳裏に浮かんだ。そこまでは良かった。確かに絵になるし、見とれるのもわかる……問題はここから先だ。

 

(いくら偽装っていうか、幻を見せてるからってコレ大丈夫なやつか!?)

 

 先程濡れ鼠になった時もアーティファクトの力で色々と修正したのだろう……甲冑の下に着ていたノースリーブ&膝下まであるワンピースのドレスが体に張り付いているように。また髪を左手でぬぐった時も、神の使徒の銀髪が重たげになびいた様が彼らには見えたのだろうと容易に察せられた。

 

「う、うわぁあああぁー!!!」

 

 結果、めちゃくちゃ恥ずかしくなってしまい、光輝はその場で頭を抱えてしゃがみこんでしまう。普段なら一切気にならないのに、擬似的な女装をしたままやったせいで羞恥心が爆発してしまったのだ。

 

「し、使徒様が恥じらっておられる!」

 

「き、貴様ら今すぐ自害するのだ! わしも今すぐ――」

 

「や、やめてください! 体大事にしてぇー!!」

 

 目論見はいささか外れたものの、光輝達は帝国で起きたトラブルの多くを解決することに成功した。騒動が収まった後で汚染されたであろう水源、田畑に作物の再生も無事にこなし、帝国が受けたダメージも可能な限り回復させた。

 

「使徒様の偉業、必ず後生までお伝えいたします」

 

「で、ですからその、大したことはしてませんから……」

 

「二度と我らが粗相を働くことがないよう、一挙手一投足全て記載しておきますので! 全ての信徒にも伝えます!」

 

「お願いだから許してくれぇ~!」

 

 ……なおこのことが原因で帝国における神の使徒に対する認識が変わってしまい、また光輝のメンタルも割とボロボロになってしまう。二度と帝国行きたくない。顔を真っ赤にして涙目になり、ひざをかかえながら彼はそう思った。




もし仮に、反逆者の奴らが女装まがいのことをやって国を助けに来たと帝国の人間が知ったらどうなるんでしょうね。特に性癖(ォィ)

追記:タイトル書き忘れてたんで大急ぎでつけました(ォィ)

2024/11/25 重吾達のこと触れてなかったので追加、他修正しました。

2024/11/26 更にちょっと修正しました。
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