あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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もしドラゴンボール7つ集めることが出来たら「オラの執筆スピード上げてくれぇーっ!」ってお願いするんだぁ(遠い目)

コホン。それでは改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも225756、お気に入り件数も961件、しおりも482件、感想数も769件(2024/12/7 21:40現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして多くの方がひいきにしてくださるおかげで自分もやる気が出ます。ありがたいです。

それとロック画面解除マンさん、Aitoyukiさん、今回も拙作を評価及び再評価してくださり本当に感謝いたします。そのおかげか、もう次の話が書きたくなってきました。

それでは今回の話を読むにあたっての注意点として長め(約13000字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


幕間六十三 偽物たちは暗躍する・序

「中村恵里、谷口鈴。一つ問います。あなた達一行がやっていることに意味はあるのですか」

 

 先程訪れた村で様々なことをやり終え、一端王宮へとアンファン達は戻っていた。そして穴まみれの部屋で話し合いを始めた中村恵里と谷口鈴に唐突にアンファンは尋ねた。

 

「……何? 今鈴と次のエリセンのことで話してる途中なんだけど」

 

 ナガヤマやミュウとやらがどうのと話していたことから彼女達の仲間や知り合いの類だろうとはアンファンも予想がついている。しかし彼女が聞きたかったのはそのことではない。

 

「恵里、抑えて……意味って、何のこと?」

 

「あなた達がわざわざ姿を偽ってまでトータスの人間を助けようと動いているのはわかりました。ですがどうしてそんなことをするのかがわからないのです」

 

 どうどう、と恵里をなだめる鈴にアンファンは疑問をぶつけた。村を訪れて色々とやっていた時から、何度も何度も胸の中に湧いてきた疑問をアンファンは口にしたのである。

 

「姿を私と同じにして動いた以上、『神の使徒』としてしか感謝されない。あなた達の評価が良くなる訳でもない」

 

 再生魔法を付与したアーティファクトを使って死にかけの人間を治したり、魂魄魔法も使って死んで間もない人間を蘇生し、また畑や作物を再生させたりなどといったことを見ててアンファンは思った。トータスの人間を助けても報われる訳ではないのに、どうしてそんな真似をするのかということだ。

 

「そっちが目を覚ました時に言ったでしょ。エヒトの奴を殺すための戦力がいる。だから今は一人でも減らせないし、後々かき集めるためにも必要なの」

 

「えぇ、それは覚えています。中村恵里。ですが本当にこれが必要なのですか?」

 

 恵里の返答にうなずきつつもアンファンは再度尋ね返す。

 

 聞いてた当初からよくわからず、命令だからという理由でアンファンも従っていた。その疑問は村人達に愛想良く対応していた恵里と鈴を見たせいで一層深まった。それ故にアンファンはこんな意味のないことをなぜするのかと尋ねたくなったのだ。

 

「もう恵里ってば……ねぇ。アンファンさんはさ、フリードさんが手を差し伸べてくれた時に嬉しくならなかった?」

 

 鈴が苦笑しながら恵里をたしなめた後、いきなりフリードのことについて問い掛けてきた。アンファンは思わずきょとんとしてしまい、なぜそんな問いを投げかけてきたのかと思いつつ、ふと右手の指先を目元にはわせる。

 

『えぇい全く……もう泣くな。貴様に泣かれると困るのだ』

 

 そして彼が目元をぬぐってくれた時のことをアンファンは思い出す……彼女の最初の記憶はイスに座った状態で光の鎖で手足を繋がれ、目の前には槍を構えた白髪赤目の少年――近藤礼一とやらが立ちはだかっていたというものだ。

 

 その状態で恵里から『そっちは誰の味方?』、『こっちのこと恨んでない?』などの幾つかの質問を受け、その全てに正直に答えた。するとアンファンの手足を縛っていた鎖は一瞬にしてかき消え、自由となった。

 

『エヒトの情報が一切引き出せなかったのは痛かったけどね……ま、いいか。立って。これからやることの話をするよ』

 

『わかりました。それでは――ぐぇっ』

 

 ため息を吐きながら前髪をぐしゃぐしゃにした恵里に促され、アンファンは立ち上がろうとした。その時、足に力を入れすぎたのか思いっきり顔から床に倒れ込んでしまったのだ。

 

『うわ、派手に転んだ……』

 

『だ、大丈夫? い、痛くない?』

 

『う、うぇ……これは、何……?』

 

 鼻から頭に抜けて伝わるよくわからない感覚、鼻から出てくる生ぬるくて気持ち悪いもの。そしてぼんやりする視界と初めて体験する『何か』にアンファンは目を白黒させ、今自分が感じているものの正体を尋ねようと顔を上げる。

 

『うわ鼻潰れてねぇかコレ。美人も台無しじゃねぇか』

 

『は、鼻血まで! い、今すぐ治すから待ってて! “聖典”!!』

 

『香織、そこまでやんなくっても……まぁボクのゴーレムもやってたし、別に恥ずかしくなんて――』

 

『え……えっ。えっ、えっ?』

 

 中腰になって自分をのぞきこむ鈴や白崎香織、しゃがんで呆れたように見つめる礼一、立ってこちらを見つめている恵里やフリード。彼らの姿を見た時、またしてもアンファンの頭によくわからないものが頭の中でいっぱいになってしまう。

 

『あ……あ、あぁ……あ”ぁあ”ぁぁぁあ”ぁああぁ!!』

 

 それが恵里の語った『恥』というものだと理解した時、香織に自分の鼻が治されたと知った時、アンファンは今にも死にたくなって泣きじゃくった。

 

『え、これって――』

 

『鈴、“縛羅”使って! 香織も!』

 

『うわぁーん!! あ”ー!!』

 

 後で聞いた話ではあるが、アンファンは自身の持つ翼を広げ、そこから物体を分解する作用のある羽根をそこかしこに乱射したらしい。

 

 というのも恥ずかしさで頭がいっぱいで何も考えられなかったのと、いきなり()()()()()()()後に体を光の鎖でぐるぐる巻きにされてうつ伏せで地面に転がっていたせいでアンファンもよく把握していないからだ。

 

『フリード、あいつ泣き止ませてよ』

 

『おう。メンドーだから頼むわ』

 

『恵里、近藤、貴様ら……っ! ここで無茶を言うな!』

 

『う゛ぅ……う゛ーっ!』

 

 いきなり体の自由も利かなくなっていたこともあり、とにかくアンファンは涙が止まらなくなっていた。恵里や礼一らが何か話をしていた様子ではあったが、初めて理解した感情が暴れ狂っていたせいもあって聞き取れる余裕すらなかった。

 

『わ、私も近くに行きますから!』

 

『流石にこのままだとかわいそうだよね……鈴も近くに行きます』

 

『わかったわかった!……全く、もう泣くな。貴様に泣かれると困るのだ』

 

 だがそんな時、おそるおそるといった様子でフリード、香織、鈴が近寄ってきた。そして深くため息を吐きながらフリードが片膝立ちになって声をかけてきた。そして左手でアンファンのあごにそっと手を添え、持っていたハンカチで涙をぬぐったのである。

 

『う゛っ……うぇ?』

 

『その様子だと痛みも初めてのようだな……仕方ない』

 

『鼻血いっぱいだね……今ふいてあげるね』

 

『鈴も前はちょっとした傷でも泣きそうになってたしね。大丈夫、もう痛くないからね』

 

 近づいて気遣いの言葉をかけてくれたのはフリードだけではないのはわかった。香織も鼻周りもふいてくれたし、鈴に頭をなでられもした。けれども何度も自分の目から流れるものを根気強くぬぐい取ってくれたフリードから、アンファンは目を離せなくなったのである。

 

『……どう、して』

 

 ぐすぐすと鼻を鳴らしながらアンファンはつぶやく。先程までは自分が無様をさらしたことが恥ずかしくて仕方がなかった。今も大してそう変わらないのに、何故かフリードから目をそらせない。もっと目元をぬぐってほしい。そんな思いが彼女の中に芽生えていたからだ。

 

『とりあえずこやつ……アンファンだったな。奴が泣き止むまで待つぞ。魂魄魔法を使うなよ』

 

『混乱するから、ってことでしょ。はいはい』

 

 そうして恵里達に声をかけ、フリードはため息を吐きながらも何度も何度も目元にこぼれた涙をぬぐい続けてくれた。鎖による拘束が消え、あまり自身が泣き声を上げなくなってもだ。

 

「うれ、しい……これが、感情?」

 

 そのことを思い出し、アンファンは自分の胸にどこか暖かいものが宿ったのを感じた。

 

「嬉しいというのは、胸が暖かくて、口元が緩んでしまう……? わから、ないです」

 

 いきなり熱源でも生じたのかと両手を胸に当てるも、上から鎧をつけているせいもあって何が起きているのかアンファンは目を白黒させてばかりだった。目を覚まして以降、頭や胸などを刺激するよくわからないものが何度となく出てくるせいでアンファンはまたしても戸惑ってしまう。

 

「うん。そういうものだよ。でしょ、恵里?」

 

「ま、そうだね……それよりもとっとと永山君見つけてエリセン行こっか」

 

 その戸惑いをアンファンが口にすれば、鈴が自身の両手を握って微笑み返してきた。彼女の答えにそういうものでいいのだろうかと迷っていると、今度は恵里がアンファンの手を鈴の手ごと掴んで引いてきた。

 

「な、なぜ、なぜその人物を連れて行く必要が……!?」

 

「そのことは後で教えるよ。はい歩く歩く」

 

「あんまり急かすとアンファンさん転んじゃうってば、恵里」

 

「馬鹿にしないでください……私は二度も失敗はしませんので」

 

 そうして恵里と鈴に手を引かれ、アンファンはムスッとしながらも王宮の中を歩いていく。初めての色々なものに振り回されつつも、アンファンは恵里達と共に各地を巡っていくのであった……。

 

 

 

 

 

「ささ、使徒様。こちらです」

 

 強い日差しが差し込む宮殿の中、初老の男が声をかけて先を歩いていく。おつきの神殿騎士や聖職者達も含めて平身低頭なのは会ってから変わらず、むしろアンカジの問題を幾つか解決してからは一層彼らがへりくだっている。少なくとも姿を偽っていた少女にはそう見えた。

 

「はい。領主様のところに案内してください」

 

 こびへつらいの一歩手前とも言うべき彼らの様を見ていた『神の使徒』こと香織は口元がひきつりそうになるのを頑張って堪えている。アンカジで司教を勤めているフォルビンの後をついて行きながら、香織は頑張って微笑みを浮かべていた。

 

「流石は使徒様。我が国に巣食った魔物を容易に倒すとは」

 

「もうお一人の変わった言葉遣いの使徒様はどちらに。あちらの使徒様にも礼を述べさせていただきたいのですが」

 

「りゅ……もう一人は今は用事があって。今はちょっと」

 

 公国を訪れてからほぼ常に同行している神殿騎士や聖職者から質問を受けつつ、香織はある場所へと向かっていた。病で伏せった領主、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンがいる自室である。そのランズィが家族共々病に伏せっているからとフォルビンは述べていたが、香織はそれを本気では受け止めてはいなかった。

 

(どれぐらい前から病気なのかは結局教えてくれなかったし、水源にいた魔物を倒したり畑とかを再生するまでお見舞いしたいって言っても露骨に話そらしてたし……大丈夫かなぁ)

 

 香織が最初に感じた違和感、それ公国にやって来てすぐに招かれたのが領主のいる宮殿でなく教会の方であったことだ。

 

 領主のいる宮殿へと行って公国へ来た理由を説明したいと香織と龍太郎が言ってもフォルビンが『今はゼンゲン公はお伏せになられております』だの『エヒト様の遣いである使徒様の願いは我々が応じまする』などと言うだけで取り合ってくれなかったのだ。それもどこか粘ついたような笑みを浮かべたり、ギラギラとした視線を向けながらだ。

 

「そこの角の部屋になります」

 

 多くの問題を解決した今、ようやく領主の部屋まで案内されることとなった。だがそのことを香織は怪しんでいる。ちょくちょく悪だくみをする恵里を見ていたせいか、何かやらかそうとしている彼女と司教がどこかかぶって見えてしまうからだ。

 

「わかりました」

 

 とはいえアンカジの問題を全て解決したからこそ、ちゃんと案内してくれたのかもしれないと考えながら香織はフォルビンに案内されるまま歩いて行く。

 

「ゼンゲン公、使徒様がお見えになられました」

 

「なんと……入ってくだされ」

 

 そうしてある部屋の前でフォルビンがノックをして用件を伝えると、中にいた領主と思しき人物が緊張した様子で返事をして扉を開けた。中から出てきた男性に微笑むと香織も一礼してから入室し、中にいた少しこわばった表情の女の子にも笑みを向ける。

 

「ランズィ・フォウワード・ゼンゲンと申します。神の使徒様」

 

「こ、公女のアイリー・フォウワード・ゼンゲンです。どうぞよしなに」

 

「はい。じゃあここにいるお二人を一緒に治療します。いいですか」

 

 名乗った二人がうなずくのを確認し、香織は詠唱するフリをしながらアーティファクトを起動する。“絶象”を付与された指輪が光り、指輪から発した淡い()の光がランズィとアイリーに吸い込まれるように落ちていく。

 

(あの時の言い訳、ちゃんとフォルビンさん達信じてるよね? 疑ってないよね?)

 

 当然というべきか体から少し離れると偽装の効果が消えるらしい。そのことを失念していた香織はオアシスを再生した際、偽装した銀色でなく薄紅の魔力光を目撃されてしまったのだ。

 

(色々言ってたけどちゃんと説得したし、フォルビンさん達に見せた魔力光も薄い紅のままだから大丈夫!……多分)

 

 やはり見られた時はフォルビンら教会の人間が何かひそひそと話しており、それをごまかすために香織は『使徒も一人ひとり魔力光が違うんですよ!』と何度も何度も力説したのである。

 

 幸いすぐにフォルビンらは首を縦に振ってくれたし、畑や作物を再生した時も魔力光が偽装されないよう細心の注意を払っていた。だから大丈夫だと冷や汗をダラダラ流し、心配そうな表情で見つめてくるランズィらを凝視しながら香織は再生魔法の光が消えるのを今か今かと待ち続ける。

 

「終わりましたぁ……えっとキルステンさん、お二人の診察をお願いします」

 

「はっ」

 

 薄い紅の光が虚空へと登り、そのままかき消えていったのを確認すると香織は大きく息を吐く。そして天職が治癒師だと言っていたシスターに声をかけ、診察を頼み込んだ。そのシスターはうやうやしく香織に頭を垂れ、治療を終えた男性のところへと近づいていく。

 

「これより診察に移ります。ランズィ公、アイリー様。どうか体を楽にしてください」

 

 香織が他人に診察を任せたのは、神の使徒が何故ステータスプレートを持っているかという理由をどう説明すればいいかわからなかったからである。そこでフォルビンから治癒師の天職を持っている人間を連れてきてほしいと頼み、来てくれたのがこのシスターであった。

 

「……神の使徒様の御前であることを考えよ」

 

「もちろんです。エヒト様に誓って真実を明かします」

 

 ランズィと治癒師の女が鋭い視線で互いを射貫いたのを香織は目撃し、空気が一瞬張り詰めたのを感じた。多分キルステンが嘘をつくことは無さそうだと思った香織は彼女に任せることにし、ただじっと見守るだけにした。

 

「使徒様、こちらがランズィ様の結果です」

 

「ありがとうございます……はい。じゃあ次はアイリーさんもお願いします」

 

 キルステンは技能の“浸透看破”を使い、その結果が映ったステータスプレートも自分に見せてくれた。一応魂魄魔法を使ってステータスプレートに妙な魔法がかかってないかも調べてみたが、特にこれといったものも見つからない。

 

「ありがとうございました。キルステンさん……その、それと」

 

「使徒様が私のステータスプレートをお調べになられたことですか? 構いません。これで私の信仰が証明されたとあればむしろ栄誉ですから」

 

「そ、そうですか……えっと、ありがとうございます」

 

 診察してくれたキルステンに香織は感謝し、こっそり調べたことに対する謝罪もしようとしたが彼女は首を横に振って恍惚の笑みを浮かべるだけだった。自分に崇拝の念を向けられるのは背筋がゾワッとするが、構わないと言ってくれたことには感謝しないといけないと思いながら香織はどうにか笑みを浮かべる。

 

「じゃあランズィさん、達の治療も終わったことですし、お仕事に戻ってもらっても――」

 

「使徒様、それはなりませぬ」

 

 一応ここの領主だから『さん』付けよりも『様』付けの方が良かったかと思いつつも香織はあることを言おうとする。ランズィが公務に戻るよう遠回しに『神の使徒』として宣言しようとしたのだ。だがフォルビンが即座に待ったをかけた。

 

「フォルビン、貴様……」

 

「ランズィ公、貴公はまだ病み上がりだ。使徒様の力で病が治ったとはいえ、まだ体力が戻った訳でもあるまい」

 

「帝国と手を組んで、私と父を追い込んで――」

 

「使徒様の御前であらせられるぞ! 嘘偽りを申すなアイリー公女!」

 

 眼光が鋭くなったランズィに抗議するアイリー、そしてもっともらしいことを言うフォルビン。その様子を見て香織は確信する。今のアンカジはフォルビンら教会の人間によって動いている。そしてフォルビンが偉そうに声を上げているのには帝国も絡んでいるということをだ。

 

(公国からの使者の人達はまだフューレンにいるのに戦争にアンカジは参戦してた……こういうことだったんだ)

 

 帝国と公国が連合軍を組んで襲ってきたことに香織も納得すると同時に、どうしてこんなことをするんだろうとフォルビンらの動きにうんざりする。かつて恵里達が王国の教会の人間に振り回されたことも思い出し、香織は一層イライラしてしまう。

 

「使徒様?」

 

「な、なな、なんでもないです、よ?」

 

 しかし香織は苛立ちが顔に出ないよう、口元を引きつらせながらも必死にニコニコ笑いながらごまかそうとする。フォルビンらが向けてくる疑わしげな視線が痛いし、うっすらと目を開けてランズィとアイリーの方を見れば何か思案している顔をしていて怖くて仕方ない。けれども香織はこの場を乗り切ろうとあることを口にする。

 

「そ、それより! アーティ――わ、私の神代魔法の力でランズィ公の病だけでなく疲れも消しました!」

 

 それは神の使徒の力で何もかも解決したという嘘であった。ただしアーティファクトの力でどうにかしたこと以外は全て本当のことであり、ランズィとアイリーの顔を見れば特にこれといった疲労感も苦しさも浮かんでいない。

 

「うむ。もう私は使()()()()()()()で公務に戻れよう。フォルビン」

 

「で、ですよね! だから今すぐにでもランズィさんにはお仕事に戻って――」

 

「なりませぬ」

 

 偽物とはいえ神の使徒である自分の言葉がきっと届く。そう期待して香織はフォルビンに訴えようとするも、向こうはいかめしい顔でぴしゃりと言葉を遮った。

 

「使徒様のご慈悲によってゼンゲン公は回復された。それは認めましょう!……しかしゼンゲン公はこのアンカジには相応しくない!」

 

「帝国からの使者が来られた際、まだビィズ殿が戻られてないことを理由に同盟の締結を先延ばしにされた!」

 

「これから先、手を取り合うべきは()王国ではなく帝国! ご乱心召された公に代わってフォルビン司教がその手を取らなければアンカジの未来は危うかったのです!」

 

 目をカッと大きく開き、額から汗を流しながらフォルビンはそう力説する。それに続き、他の教会の関係者もランズィが公国のトップに相応しくない理由を大きい声で列挙していったのである。

 

「フォルビン、貴様ら……!」

 

「使徒様、どうか考え直していただきたい! 貴女様がたが降臨された際、わずかな混乱もなくこのアンカジを取り仕切っていたのは司教様なのです!」

 

「とってつけた理由で父様と私を幽閉して、どこまで恥知らずなのですか!」

 

「こうしてアンカジに平穏を取り戻していただいた使徒様には感謝の念に堪えません……後は我ら人が解決します。どうか信徒である私達を信じていただきたい」

 

 先程ランズィを診察したキルステンも含め、教会の人間達はこぞって自分達が正しいと訴えるばかり。怒りを露わにして震えるランズィにも、アイリーの告げた言葉にも耳を貸さずにただ『自分達を信じろ』と訴えてくる。そのことに香織は落胆と共に顔を伏せた。

 

(……この人達も、言葉が伝わらないんだね)

 

 目の前で自分におべっかを使っている人達は都合のいいように自分を使いたいだけ。そう思ってしまった香織はわなわなと手を震わせ、チェーンで胸元に垂らした擬装用のアーティファクトへと手を伸ばしそうになった。

 

「使徒様? どうされました?」

 

 いっそのことここで正体を明かし、『自分に都合のいいことしかあなた達は信じてないじゃない』と怒りをぶつけてしまいたくなった。けれどもそんなことをしてしまったら龍太郎や恵里達に多大な迷惑をかけてしまう。

 

(早く来て、龍太郎くん。もう、我慢出来ないよ)

 

 どうにか一歩踏みとどまったものの、もうあまり長くこの場にいたくないと香織の胸の中で激情が渦巻いていた。

 

“香織、待たせた。今どこだ!”

 

“宮殿! 領主さんの部屋だよ!”

 

“わかった。すぐ行く”

 

 そんな時、待ちわびてた声が脳裏に届くと香織は顔をガバッと上げた。すぐに自分の居場所を教えれば愛する彼の少し申し訳なさそうな返事が届き、それだけで香織の心はやる気に満ちあふれていく。

 

「えー、使徒様。ここからは私達『人間族』のすべきことです」

 

「今後は我ら自身で問題を解決いたします。どうぞ。エヒト様の御前に戻り、我ら信徒の活躍を――」

 

「そっか。わかりました。なら勝手な理由でアンカジの人達を振り回していたことを伝えればいいんですね」

 

 うやうやしく頭を下げながらフォルビンらは退場を願い出てきた。なら自分がやることは彼の到着まで時間を稼ぐことだと香織は考える。恵里ほど上手くいかないまでもやってみせると香織はニッコリと笑みを浮かべ、教会の人達が一番困るであろう言葉をそのまま口から出してみた。

 

「使徒様……やはりか」

 

「し、使徒様……な、何故です?」

 

「わ、私達は正しいことをしただけで……」

 

「え、だって皆さんクーデターしちゃいましたよね? ビィズさん達がいない間に公国の一番上になったじゃないですか」

 

 するとフォルビンらは一様にぽかんと間抜け面をさらし、心底不可解とばかりに『何故』、『なんで』と質問をしてくる。ランズィのどこか確信を得たような発言にちょっと寒気を感じつつも、香織は思ったことを口にしながら話を続けていく。

 

「そ、そうしなければ帝国が後で滅ぼすと脅してきただけです!」

 

「ゼンゲン公を排し、帝国のために尽力すればこの公国も一層栄えるというフォルビン様のお考えに我らは賛同したのです!」

 

「うわぁ……思った以上にひどい。うん。やっぱりこれは――」

 

「聞いたかビィズさんよ。教会の奴ら、とんだことやらかしてたみたいだぜ」

 

 そしてフォルビンら教会の人間の聞くに堪えない言い訳に軽く引きつつ、『エヒト様に言っちゃいますからね』と香織が言おうとする。その矢先、愛しい人と同じ口調の言葉が部屋の外から響いて香織はドアの方に顔を勢いよく向けた。

 

「び、ビィズ? いや、そんなまさか」

 

「りゅ……あ、えっと」

 

「待たせて悪かったけどな……んじゃ、ここからは」

 

 部屋になだれこんだ集団の中にいた神の使徒の姿の彼を見て、思わず龍太郎の名前をつぶやきそうになってしまう。どうにか止めたもののばつが悪くて香織は顔をそらすが、龍太郎から一瞬じっとりとした視線が刺さって軽くたじたじになっていた。

 

「あぁ……私達、『人間族』が解決せねばな」

 

「び、ビィズ殿!? な、どうしてここに……」

 

 香織が顔を真っ赤にしていると、不意に聞き慣れない若い男の声が部屋にこだまする。ビィズ、という名前は香織も聞き覚えがあった。確か前にフューレンに訪れた公国から王国への使者の一人、それも領主の息子だったはずである。

 

「こちらにおわす()()使()()殿のおかげで一瞬で宮殿まで来たのだ」

 

 おそるおそる視線を向ければ、部屋に新たに入った神殿騎士などの数十名の集団の中にそれらしい人がいた。さっき治療したランズィとアイリーに似ている人間がいたのである。『お願い』を果たしてくれた彼に対し、香織は『流石龍太郎くん』と思いながら何度も何度もうなずいていた。

 

「さて、フォルビン。申し開きはあるか」

 

「わ、私達はあくまで病に冒されたゼンゲン公とアイリー公女に代わって……」

 

「あいや待たれい!!」

 

 ビィズがフォルビンを問い詰めれば、白々しい言い訳を並べようとしている。だがその瞬間、ロマンスグレーの髪をした美中年が人なつっこい笑みを浮かべながらビィズとフォルビンの間に入ってきた。

 

「や、ヤンシー……? ど、どうしたというのだ?」

 

「紹介していただきありがとうございますフォルビン司教。改めまして、(わたくし)めは司祭のヤンシーと申しますもう一人の使徒様! さて、私はこちらの司教より密命を受けておりました」

 

「ほう。申せ」

 

「や、やめよ! 言うでない!」

 

「ハイリヒ王国に無条件降伏を突きつけ、それで私達の誰かを切り捨てさせるよう仕向けよと命じられました! 念のためにごろつきを雇って襲わせるようご指示もなされましたな! 無論ビィズ殿は命がけで守り、我ら聖教教会に恩義を感じていただくよう――」

 

「しゃ、しゃべるなぁーーー!!!」

 

 ショックを受けた様子のフォルビンに頭を下げた後、立て板に水と言わんばかりの饒舌さでアンカジの教会の悪だくみをつらつらと吐き出してくれたのである。

 

“龍太郎くん、もしかしてあの人”

 

“あー、そういえば首輪つけたって言ってたな恵里の奴。とりあえず前はあんな性格じゃなかったらしいぞ”

 

 いきなりすごいコントが始まったことに香織もちょっと圧倒されたものの、ヤンシーの首にあった覚えのある首輪を見て納得する。そのことを龍太郎に確認すれば案の定であり、余程のことがない限りは使われないしまぁいいかと香織はとりあえず流すことにした。

 

「き、切れぇー!! この大嘘つきを今すぐ処断せよ!」

 

 香織達と行動を共にしていた教会の人間達は顔色が土気色となっていく。しかしフォルビンも往生際が悪く、ヤンシーのことを嘘つきだ何だと言ってこの場を切り抜けようとした。

 

「オッケー、わかった。じゃあまずはお前からだ」

 

「え? 使徒様? ま、待ってくだされ! わ、私は何も――ぐぇっ」

 

 だが“縮地”を使ったらしい龍太郎がフォルビンの真ん前へと現れ、そのままみぞおちに一撃をたたき込んだ。相変わらずの技のキレに香織はぱちぱちと手を叩いて彼の腕前をたたえる。

 

「父上、ご無事でしたか!」

 

「うむ。心配をかけた」

 

「良かったですなゼンゲン公……」

 

 そうしてビィズがランズィの手を握り、互いの無事を心配し合った。その様を見てヤンシーや新たに現れた神殿騎士どもは涙を流しているが、香織達と一緒に動いていた奴らは誰も彼もうろたえている。

 

「じゃあこっちの人達は」

 

「俺達がどうにかするか」

 

 おろおろしている彼らとフォルビンを香織と龍太郎はすかさず光と岩の鎖で縛り上げていく。神殿騎士達に暴れないよう注意もしたものの、彼らは目を白黒させるばかりで特にこれといった抵抗もしなかったのである。

 

“お疲れ様、龍太郎くん”

 

 そうして彼らを拘束していくかたわら、香織は“念話”で龍太郎をねぎらう――実は龍太郎が席を外していたのはこのためであった。

 

“あぁ。でもこれも香織、お前の思いつきのおかげだからな”

 

 何度となく領主に会わせてほしいと頼み込んでも却下するフォルビンを見て香織は怪しみ、龍太郎と何度となく“念話”で話しあっていた。

 

 そこで香織が思いついたのが先日恵里が話をしていたアンカジからの使者を連れてくることだ。自分と龍太郎のどちらかが彼らをアンカジに連れて戻り、言い訳ばかりするフォルビンをどうにかしようと考えたのである。

 

“でも龍太郎くんだってすごいよ。私達()面識がなかったけど、リリアーナ王女を通して連れてきてくれたんだもん”

 

“まぁそこは……王女様()すごかった、の方だろ”

 

 だがこの考えの問題は『香織も龍太郎もアンカジの使者と面識がない』ということだった。そのためどちらが行っても応じてくれるかは賭けになる。そこで龍太郎が思いついたのは『話し合いに参加していた人間を仲介役として連れて行く』ことだった。

 

“え? 何かあったの? もしかして立て込んでた?”

 

“俺らの代わりに王様共々戦後処理引き受けてくれてたんだよ……マジで頭上がんねぇ”

 

 恵里達は今方々に散って活動しているため声をかけられない。だからリリアーナに頼もう、ということだった。だがそこで龍太郎の口から驚きの事実が明かされ、香織はその場で固まってしまう。

 

「……王女様になんて言えばいいかなぁ。土下座した方がいいかなぁ」

 

「いや、土下座して謝ったらこっちが気の毒になるぐらい頭上げてくれって王様達が必死になってたぞ……」

 

 急に押し寄せる罪悪感に苛まれ、どうわびるべきか香織は悩む。だが龍太郎から伝えられた情報を聞き、余計にいたたまれなくなって頭を抱えてしまう。

 

「信治とデート出来る日、俺達で工面した方がいいだろうな」

 

「そうだね……」

 

 もう過ぎたことなんだから私はいいのにとは思ったものの、彼の提案の方がまだ素直に受け取ってくれそうだと考えて香織は長いため息を吐いた。

 

「父上、お話したいことが」

 

「うむ。そちらの神の使徒を偽っているお二方……反逆者の方だろうか」

 

 リリアーナへのおわびのことで色々悩んでいる内に向こうも話し合いが終わったらしく、いきなりビィズに声をかけられた上に彼が話す前にランズィに正体を見抜かれてしまう。香織と龍太郎は互いにビクッと反応し、ゆっくりと首をランズィの方へと向ける。

 

「私達は以前、神の使徒と会ったことがありましてな。昨日のこともありますが、面したことがあったのはお二人のような人間味のある相手ではありませんでした」

 

「あの存在と再び会うことがあったならば、自身の血肉の一片すらも捧げる狂信者のフリをせよ。そう父から申されていました。向こうもそれが見抜けなかったのか、民はともかく私と父はあの者に心を惑わされずに済んでおります」

 

 どうして自分達の正体がバレたのか、ビィズやランズィらが洗脳されずに済んだ理由も聞いて香織は龍太郎と共にうんうんとうなずいた。ランズィの頭の回転の速さやビィズ、アイリーの全力の演技のすごさに感心していると、そのビィズから声をかけられる。

 

「反逆者……いえ。白崎香織様、坂上龍太郎様。お仲間の皆様がたとリリアーナ王女に伝言を頼めるだろうか。公国の戦後の処置、それとサウスクラウド商会についての詳しい取り決めをしたいのだ」

 

 そういえば恵里が話した内容にハジメの名字をもじった商会のことがあった気がすると香織は思った。そのことかなと思いつつ、龍太郎と一度顔を合わせてから香織はうなずいた。

 

「わかりました。恵里ちゃん達にちゃんと伝えておきます」

 

「む? その商会とは何だビィズ。詳しく聞かせてくれるか」

 

 伝えるぐらいなら別にいいかとうなずく香織だったが、ランズィとアイリーが首をかしげてビィズに説明を求めた様子を見て少し迷う。ビィズ一人で説明するより関わってる自分達も参加した方が向こうのためになるかもと思ったからである。

 

「……次行くの、ちょっとだけ遅くなってもいいか?」

 

「ちょっとだけなら大丈夫じゃない、かな?……ランズィさん。それはですね――」

 

 龍太郎も同じことを思っていたらしく、改めて彼の優しさを感じて香織の口元が緩む。龍太郎と顔を合わせてうなずき合うと、香織はランズィ達に声をかけたのであった……。




2024/12/8 ちょっと修正しました。
2024/12/10 更にちょっと修正しました。

2024/12/20 タイトルちょっと修正しました。察して下さい(遠い目)
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