では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも226762、お気に入り件数も964件、しおりも484件、感想数も771件(2024/12/20 6:55現在)となりました。誠にありがとうございます。皆様がこうして見て下さるおかげで自分もモチベーションを落とさずに済んでおります。ありがたい限りです。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり感謝いたします。おかげさまでモチベーションが上がりました。
では今回の話を読むにあたっての注意として、ちょっと短く(約8000字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。
「これで土地と湖の汚染は全て祓いました」
「お、おぉ……」
「やっと、やっとか……」
高台に立っていた偽りの神の使徒が告げると、ウルの町に住む人達の安堵の声がそこかしこから響く。
「よかった……ウルでまた米作りが出来る」
「冒険者の人がやってくれてはいたけど……使徒様が言うならじい様の畑も大丈夫だ」
「今更……使徒さま、どうしてオラたちが作物を捨てようとした時にやって来てくれなかったんでさぁ」
はらはらと涙を流す者、その場で膝をついてかすかな笑みを浮かべる者、これからどうすればいいと悲観に暮れ続ける者と様々な人間がいた。しかもその大半は服が薄汚れていたりすそのほつれがあるなど困窮具合が垣間見える。
「よいか。これからまたこの町が農業の町として立て直せるよう各自励め! 解散せよ!……ありがとうございました。使徒様」
それは自分達の横に立っていた貴族の男性も同じであった。目にクマが出来ているし、また身につけている衣服も少しぶかぶかでシワが出来てヨレてしまっている。寝食を忘れて立て直しに尽力していたのであろうと鷲三は察した。
「えぇい、早く戻れ! 戻らぬか!」
「使徒様、どうかウルの町はもう大丈夫だって他の町にも声がけしてくだせぇ!」
「このままじゃ町が寂れていくんです! 半分の人間がここを出ていきました!」
「出てった奴らを呼び戻してくだせぇ! オラたちじゃ全ての田畑を手入れできねぇだ!」
貴族の男性から戻るよう言われてもなお町民達の多くはその場で乞い願うばかりだ。その光景を見て鷲三はウルの町の現状を改めて痛感し、思わずため息を吐きかけていた。
(わしらが直接の原因ではない。この者達が疑心暗鬼に駆られてやったことだ。しかし……)
彼らが今、食事や仕事に困っているのは自業自得な面があることもわかっている。少なくとも自分達がその直接的な原因ではないということも鷲三は承知していた。
しかし鷲三はかつてエヒトに操られ、この町をいくらか破壊してしまった時の後ろめたさが今も残っていた。何かの形でわびたいとずっと思っていたのだ。
“……このこと、光輝達に相談したいわね”
“そうか。わし個人としてもどうにかしたいと考えておった。後で相談しようか”
その時隣にいた雫の分身から“念話”で話しかけられ、その声からウルの住民に対する同情を鷲三は感じる。すぐに鷲三もそれに応じ、彼らのために何かしてもいいだろうと胸の内を明かした。
(もしここで愛子さんにも……いや、せめて戻ってからにするべきか)
雫に考えを話した際、愛子の力を借りることも鷲三の脳裏には浮かんだ。だがそれも愛子本人と向き合って交渉するべきことであり、今考えるべきことでは無い。そう断じて鷲三は一度目をつむってから貴族の男の方を振り向いた。
「これからどうするかはエヒト様に報告してから決めるとします」
「わかりました、使徒様」
「私達は常に貴方達を見ています。そのことを忘れないように」
微笑みを浮かべながら鷲三は声をかけ、住民達に声をかけた雫と共に微笑みを向ける。この場にいた全員が落ち着いたのを見計らってから鷲三は翼を展開し、雫も小さく“引天”と詠唱して二人は空へと昇っていく。
“私達、やらないといけないことが多いわね。お爺ちゃん”
雫が“界穿”を発動して出来たゲートへと二人して飛び込んだ直後、雫からの“念話”が鷲三へと飛んできた。横で浮いている雫の顔を見れば、どこか思い詰めたような顔つきをしている。
“雫、辛いんだったらわしと霧乃がやる。だから――”
“う、ううん。やりたくないなんてことはないわ。だから気負わないでお爺ちゃん”
雫に気遣いの言葉を送る鷲三だが、その雫はブンブンと首を横に振って否定している。本心からそう思っているならばいいがと心配しながら鷲三は雫を見るも、無理をして笑顔を浮かべているようにしか鷲三には見えなかった。
(……一朝一夕では解決などせんか。だがそれでもな)
まだ雫と前の様に接することは鷲三は出来ていない。昨日も霧乃と一緒にそのことで悩み、共に酒をあおったぐらいだ。しかしその雫が頑張って接しようとしてくれており、自分達が立ち止まる訳にはいかないと鷲三は考えていたのである。
“? おじい、ちゃん?”
“いや、何でもないぞ雫。そろそろ次の村が見えてきた頃か”
“そ、そうね……うん”
その意気込みを感じ取ったのか再度雫が“念話”を送ってきたが、鷲三は首を横に振りつつ話をそらす。雫の気まずそうな声色を聞いて失敗したと確信した鷲三は、細く長く息を吐きながら下に広がる村の景色をながめるのであった……。
ブルックの街の町長が住む邸宅、その一室の窓から黄金の光があふれ出る。
「ぅ……ぁ……」
「アレーティアちゃん、頼むよ!」
光はその家の応接室から出ており、そこにいたのは一組の夫婦と妻にだけ自分達の素性をこっそり教えた二人の偽りの神の使徒であった。神の使徒の偽物の一人であるアレーティアが魂魄魔法によって町長であるアダム・ウォーカーの洗脳を解除しようと奮闘していたのである。
「……っ、はいっ」
「頑張れ、頑張れよアレーティア!」
「んっ!」
その様をもう一人の偽物の使徒である大介に声をかけられたことで、一層アレーティアはやる気をたぎらせた。魂魄魔法を取得した自分でも解除するのにかなり集中と根気がいる。だからこそ彼の声がアレーティアの力となったのである。
(魂魄魔法を手に入れる前に中村さんはオリジナルで魔法を……私、だって)
そうして町長の魂に絡みついている魔力を丁寧に引き剥がしていくアレーティアであったが、ふと彼女の脳裏に恵里がかつてやったことが思い浮かぶ。彼女は魂魄魔法を手に入れる前に
彼女に出来たのなら自分だってやれる。そう思って奮起したアレーティアは更なる魔力をほとばしらせ、町長のアダムにかけられた魅了の魔力を剥ぎ取っていく。時間は二分足らずではあったものの、アレーティアの額からは玉のような汗を流れており、荒い息を何度となく吐いてアダムを見つめる。
「……はぁ、はぁ」
「お、終わったのか……お疲れ、アレーティア」
駆け寄ってきた大介に後ろから抱きしめられ、彼の胸に左耳を当てながらアレーティアは彼を見上げた。ゆっくりとうなずき返せば大介もホッとため息を吐いて抱きしめてくれる。愛おしさが胸の中からあふれそうになり、アレーティアはそっと大介に手を伸ばす。
「あー、ゴホン。アレーティアちゃん?」
「はぅっ……ぁぅ」
「うん……? きゃ、キャサリン? わ、私は一体……」
しかしキャサリンのわざとらしいせき払いのおかげで今やるべきことではなかったのをアレーティアは自覚し、赤面する。アレーティアが大介の胸に顔を埋めるや否やうろたえた様子の男の声色が彼女の耳に届いた。
「やっと正気に戻ったね……おかえり、アダム」
「キャサリン……私は確か、神の使徒様の目を見つめてから……そうか。すまなかった」
顔から火が出るのを堪えつつキャサリンらの方を見れば、彼女と町長が静かに抱き合っているのをアレーティアは目撃する。手応えがあったのはわかったが、洗脳の解除は成功したということを改めて確認してアレーティアも安堵のため息を再度吐いた。
「良かった……」
「だな。なぁキャサリンさんよ」
「あぁ、わかってるよ。アダム、ちょっと聞いてくれないかい」
顔を上げて大介と喜びを分かち合った後、大介がキャサリンへと声をかけてくれた。意図を察してくれたキャサリンも自分達がここを訪れた経緯や理由を語り出した。
「なんと……そうか。本当に申し訳なかった」
「信じて、もらえるんですか」
何のためらいもなく自分達に頭を下げたアダムを見て、アレーティアも思わず驚いてしまう。いくらエヒトにはめられたからとはいえ、世間における自分達の認識は『世界をめちゃくちゃにしている大悪党』なのだ。いくら洗脳を解いたといえど、ここまで何のためらいもなしに謝罪してくれるとはアレーティアも意外だったのである。
「だよなぁ。いやまぁ嬉しいけどよ」
「キャサリンの言葉を疑う必要などありはしないよ……それに今もあの熱狂を覚えているのだ。それを考えればな」
大介も自分の言葉に乗っかって疑ったものの、アダムは首を横に振った。そしてうつむきながら体をかき抱き、ぶるりと体を震わせているのをアレーティアは目撃する。
「魔人族の襲撃があった後に君達が到来し、使徒様……いや、あの女達がやって来た。そして私の心を操り、このブルックの人間を煽動して神への信仰を強めるようにした。出来過ぎた流れに気づけないほど私も愚かではないよ」
アダムの指摘にアレーティアも思わず舌を巻いてしまう。あのキャサリンの伴侶であることやこの街の町長をやっていることを考えればこれぐらい頭が回るのは当然なのかもしれなかったが、それでもここまで早く立て直せるとはアレーティアも思わなかったのである。
「すっげぇ……さすがキャサリンさんの連れだわ」
「当たり前じゃないかい。あたしをこのブルックに連れ戻したいい男なんだよ」
「よしてくれよキャサリン。恥ずかしいじゃないか……」
大介が横で感心していると、キャサリンが軽く胸を張りながらアダムのことを評価する。人を見る目で何度となく自分達を驚かしたキャサリンが言うならば間違いない。そうアレーティアは確信した。
「申し訳ありませんアダム町長。ひとつお願いがあります」
そしてほほをかいているアダムと向き合い、アーティファクトの偽装を解除しながらあることを頼み込もうとする。この提案は町長宅を訪れる前に既に大介に話を通しているし、承諾ももらっていたことでもあった。
「あたしらに間抜けのフリを続けてほしい。違うかい?」
だがすぐにキャサリンが真剣な表情でアレーティアを見つめ返し、今口にしようとしたことを述べたのである。ギョッとして一瞬大きく目を見開き、自分と同様に偽装を解除していた大介と顔を合わせる。
“まぁ、キャサリンさんならわかるよな……”
“ん、同感。キャサリンさんの勘の良さを侮りすぎてた”
しかしキャサリンならそれぐらいわかるかとアレーティアはすぐに確信し、すぐに落ち着いた様子の大介とうなずき合ってアダムの方に視線を向ける。すると向こうも深くうなずき返してアレーティアを見つめ返していた。
「私達が不自然な動きをした際、再度あの女達が降りてくる可能性があるから。そして今度はこの街の人間全員が心を支配されるから。そうでしょう?」
「えぇ。そうです」
頼もうとした理由に関しても語ってくれたアダムを見て、この人なら任せても問題ないと確信したアレーティアは深くうなずきながら返事をする。
(このまま信仰に傾倒したままでいてくれれば、エヒトが手を打ってくる可能性も低くなる)
――アレーティアの懸念は自身の計画を妨害されたエヒトがどう動くかについてだ。あくまで自分達が立てた予測でしかないが、エヒトは自身の魂の強度を上げるべく動いているはずである。
(ブルックの人達を苦しめ続けることは申し訳ないのはわかっている。けれどメルジーネのあの映像のことを考えると……駄目。苦しくても二人に呑んでもらうしかない)
だがここでもし洗脳を解除し、
エヒトは再度神の使徒を派遣してくるだろうし、今度は街の人間全員が被害に遭いかねない。しかもそれが『殉教』という形であるならブルックの街は消滅してしまう。メルジーネ海底遺跡で見た過去の映像のことを考えれば決してあり得なくはない。だからこそ、アレーティアはこんな馬鹿なことを頼もうとしたのである。
「次はどうなるかわからないんです。ですからどうか、お願いします」
「……頼む。俺もアレーティアからこの話を聞いたときは本気でビビッた。世話になったキャサリンさんが犠牲になってほしくねぇし、クリスタベルさんのいたこの街をめちゃくちゃにしたくねぇ。この通りだ」
「……頭を上げてください」
横を見れば自分に続いて大介も頭を下げてくれており、彼に感謝しつつもアレーティアは頭を下げ続ける。しばらく続けていると声をかけられ、頭を上げれば微笑みを浮かべたアダムとキャサリンが自分達をじっと見つめていた。
「その提案、受け入れさせてください」
「そうだね。今のトータスがとんでもない事態になってるのはあたしもアダムもわかってる。なら約束してくれるかい? いつか必ずトータスを良くしてくれるって。あんた達ならやってくれるだろう?」
アダムは微笑みを浮かべたまま受け入れてくれ、キャサリンもニッと笑いながら約束を取り付けてきた。アレーティアもつられて一瞬笑顔を浮かべるも、すぐに真剣な表情になってうなずき返す。
「必ず。このトータスを救ってみせます」
「……あぁ。俺とアレーティアに任せろ」
「ったく、男の子がしみったれた顔するんじゃないよ」
そうして大介と共にその約束を守ると伝えるも、キャサリンが大介の肩を叩いたことにアレーティアは首をかしげる。一瞬大介が声を詰まらせたのはアレーティアもわかっており、一体何があったのかと心配げに彼の方を見る。
「大介、どうしたの? もしかして、安請け合いしちゃ……」
「いや、違ぇよ……その」
「ちゃんと言いな。惚れてる女の子の前だろう」
「きゃ、キャサリンさん、その、あんまり大介を叩かないで……」
珍しく言いよどんでいる彼を見てアレーティアは一層心配になり、またキャサリンが何度も肩を叩くせいで止めるよう言うべきか軽くオロオロしてしまう。だがそうして迷っている内に大介が目をつむりながら長く息を吐き、アレーティアを見つめながら告白する。
「……アレーティア、お前ばっか活躍してて自分が情けなくなってよ。それと、お前が活躍するのにイラついちまって」
「えっ」
「ったく、マジでダセぇな…………すまん」
青天の霹靂であった。まさか大介が自分の活躍に嫉妬や悔しさを感じていたとは思いもしなかったのだ。その上頭をかきつつ顔を背けながら大介が謝ってきたため、一層アレーティアは困惑してしまう。
「え、えっと……でも私、大介がいてくれるだけで後は何も……」
かつて大介達を逆恨みで襲ったことなどをアレーティアは未だ引きずっており、そんな自分を助けて求めてくれた大介に彼女は無上の信頼と愛を抱いている。だからそんなことを気にしなくってもいいと声をかけようとすると、横から二人のため息が聞こえた。
「嫉妬ぐらい、いいじゃないか」
「そうだね。可愛げってもんがあるじゃないか」
「っだぁー! 頭なでんな! ガキじゃねぇ!」
思わず声のする方を見ればアダムが自分達に微笑みを向けており、キャサリンが大介の頭をわしゃわしゃとなでくり回している。大介も顔を赤くしながらキャサリンの手をぺしっとはたいて髪を直す。するとはたき落とされた手をひらひらと揺らしながらキャサリンはあることを口にした。
「ウチのアダムもね、よくため息吐くことがあるんだよ。あたしを見ながらね」
「恥ずかしい話なんだがね、私なんかがキャサリンとつり合うのかと思う時がたまにあるんだよ」
キャサリンが『たまにじゃないだろう』と言いながらアダムの肩をべしべしと強く叩く様を見てアレーティアはあっけにとられてしまう。確かにキャサリンがすごいというのは何度となく見て体験して知っているが、先程の頭の回転の早さを考えれば決してアダムがつり合わない訳がないと思ったからだ。
「何度か顔を合わせた程度だけどね、あんた達がどういう人間かはわかってるよ。夫婦だってそんなもんさ」
「……見栄張るのもダメなのかよ」
「わかるさ。けれど張り続けるのも辛い時があるだろう?」
キャサリンの言葉に大介は今度は苦虫をかみつぶしたような表情で言い返すと、アダムの方から反論が飛んできた。それを聞いた大介の苦しげな表情を見て、アレーティアの頭の中でふとある推測が浮かぶ。
“大介、昨日のことを引きずってる?”
“念話”でメッセージを送るが、大介はアレーティアと顔を合わせようとしなかった。やっぱり、と思いながらアレーティアは彼に抱きついて再度“念話”でなぐさめの言葉を贈る。
“大介だけじゃない。私や遠藤さん達だって死にかけた。どうにもならなかった”
“けどよ……もっと俺が強かったら、お前を泣かせなかった。お前並みに魔法が使えたら前からもっとお前の、アレーティアの力になれたかもしれなかった。そうだろ”
彼の言葉を聞いたアレーティアは一層力強く彼を抱きしめる。やはり大介は自分のことを思ってくれている。彼が向けてくれた嫉妬がひどく心地よく、そしてその思い込みが間違いであることを伝えようとアレーティアは決意する。
「とにかく半端なんだよ、俺は」
「誰から捨てられても仕方なかった人間に手を伸ばし続けてた。あなたは半端じゃない」
彼が弱音を吐くとすぐにアレーティアは思いをぶつけ、そのまま大介の唇を奪った。
言葉で伝わらないなら行動で示す。けれども今は恩人の目の前だから数秒触れるだけに留める。その後、唇を離せば軽く眉根をひそめながらも顔を赤くしてしどろもどろになっている大介がアレーティアの視界に映った。
「おい、アレーティア……っ!」
「恩知らずの恥知らず。そんな私を救った大介は誰が何て言おうと最高の人。自分であろうと他人であろうと、悪く言うのは許さない」
「…………好きにしろよ。ったく」
立てた右の人差し指を唇に添えて、微笑みながらアレーティアは宣言する。すると大介は大きくため息を吐きながら右手で顔の上半分を覆ってしまう。そんな仕草をする彼が一層愛おしく、アレーティアの顔はにやけ面になりかかっていた。
「なんだいなんだい。どういう過去があったかあたしは知らないけど、アレーティアちゃんだって役に立ってるようにしか見えないんだけどね」
「そうだね。お互い卑屈になりすぎるのも良くないと私も思うよ」
するとキャサリンとアダムが苦笑しながら自分のことに言及してきた。見られるのも覚悟の上でやったものの、アレーティアの背筋にむずがゆいものが上っていく。やっぱり恥ずかしくなってしまい、現実逃避とばかりに大介を見ようと顔を上げれば彼も何か言いよどんだ様子でアレーティアを見つめ返していた。
「まぁ、その……俺はよ」
「恋人も夫婦もそんなもんさ。ま、あんた達なら大丈夫だとあたしは見てるよ。ほら、他にも行くところがあるんじゃないかい?」
「どうして好きになったか。それをちゃんと思い出せる内ならきっと大丈夫。ブルックは任せなさい」
「……わかりました。ではブルックを頼みます。キャサリンさん、アダムさん」
大介が何か言おうとする中、キャサリンとアダムは励ましの言葉を自分達にかけてきた。そしてブルックのことについても言及し、アレーティアも大介から離れて頭を下げてから再度偽装する。
「……俺はまだ忘れてねぇからな」
「大丈夫。私も覚えてる。好きになった理由も、好きになってくれた理由も」
そうして大介もアーティファクトで姿を偽ると、町長宅を後にする。その途中、大介はアレーティアを一瞥してからぽつりとつぶやき、アレーティアもにっこりと笑いながら彼に返事をした。
「次行くぞ次」
「ん。次は確かここの近くの集落の――」
偽装の影響で彼の声も鈴を転がすような美声に聞こえてしまう。ぶっきらぼうに言う彼が可愛らしく、アレーティアは一層笑みが深くしながら次に向かう場所を愛する人と共に確認していくのであった。