あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。年の瀬投稿無理でした(白目)
では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも227773、お気に入り件数も968件、しおりも485件、感想数も774件(2024/12/31 23:46現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして多くの方が見て下さるおかげでやる気もたぎります。ありがたい限りです。

そしてAitoyukiさん、Eifionさん、拙作を評価及び再評価してくださり感謝いたします。月並みの言葉ではありますが、次の話を書くモチベーションが湧いてきます。ありがとうございます。

では今回の話を読むにあたっての注意点としてちょっと長め(約11000字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


幕間六十五 偽物たちは暗躍する・急

「使徒様、イルワの奴は見ませんでしたか!」

 

「奴を探し出して下さい! いくら裏組織撲滅のためとはいえ、反逆者を引き込んだんです! あんな信用ならない奴らを!」

 

 かつてフューレンで観光用の施設をあてがわれてた区の一角、水族館として憩いの場となっていた施設に住民が大挙して押し寄せていた。

 

「お、落ち着いてください!」

 

「奴は反逆者に魂を売ったんです! 裏組織撲滅もそのためにやってたんです、きっと!」

 

 無数のフューレンの住民に圧倒され、入り口にいた神の使徒――に姿を偽装したシアは目を回していた。落ち着くよう声がけをしても効果は無く、ただただイルワが悪い、反逆者なんて信じられるか、と大声を上げるばかりだった。

 

「いいから落ち着きやがれ……ください!」

 

「イルワを探し出して殺してください! そうしないと次何をしてくるか……怖くて夜も眠れません!」

 

 隣にいた良樹も声からして苛立っている様子がシアにはわかる。とってつけたような敬語すらもおざなりになってきており、このままだとフューレンの人達に手を上げてしまうのではと心配になっていた。

 

“よ、良樹さん! 暴力はダメですからね!”

 

“……わかってる! でもさっきから鎮魂ガンガン使ってもどうにもならねぇんだぞ! どうしろってんだよ!”

 

 すぐに“念話”でシアは良樹を注意するも、彼の方も努力が空回りしていることを聞いて頭が痛くなってしまう。先に水族館のバックヤードに来たのは間違いだった。やっぱり上空から現れた方が良かったんじゃないかとシアは一瞬だけ思ってしまった。

 

(いやでも予想通りイルワさん達が逃げ込んでましたし、武装したフューレンの人達がここに集まってたのを考えると大正解なんですけどね!)

 

 だがイルワ含む知り合いとすぐに合流出来たこと、このメアシュタット水族館の入り口前に集まった人間のことを考えるとシアはこれが正解だったとヤケになるしかなかったのである。

 

「潰れたはずのこの水族館に馬車が向かってたんです! きっとイルワの奴が逃げ込んでたんですよ!」

 

「それを聞いて皆に声をかけたんです。使徒様、どうせ潰れたんですしこの水族館ブッ壊してイルワを生き埋めにしましょう!」

 

 何せ老若男女問わずたいまつや剣に槍といった武器を掲げており、また恵里達術師が使うような杖を持っているのもちらほらいたのだ。しかも表に出る際に壊せだの何だのといった大声や詠唱と思しき言葉も彼女のウサ耳が何度か拾っている。

 

(いやいやいや! 礼一さん達を苦しめたあの生き物を閉じ込めたアーティファクトが壊れたらフューレンがめちゃくちゃになっちゃいます! それだけは、それだけは絶対に阻止しないと!)

 

 もし少しでも自分達が表に出るのが遅かったら水族館の打ち壊しを始めてたかもしれない。そうなったらここに転移させた魔物達も野に放たれることになりかねないし、厳重に封印しているクリオネモドキが外に出たら何が起きるかわかったものじゃない。

 

 イルワ達を王宮に移送した後で良樹と共に空から降りようという目論見は木っ端微塵となった。シアは良樹と共に大慌てで水族館の出入り口へと向かい、暴徒になりかけた住民を説得しなければならなくなったのである。

 

「使徒様、水族館の中にイルワの奴はいませんでしたか! もし見つけられなかったら俺たちも一緒に探します! 血祭りにしましょう!」

 

「ま、待って下さい。皆さんの手を汚す必要はありませんから。ね? ね?」

 

「確かイルワは反逆者にこの水族館を寄贈したと言っていました。反逆者のために物資を隠しているやもしれません。使徒様、このグレイル・クデタが冒険者を率いてここの調査を――」

 

「あーあーわかった。わかったでごぜぇますよ! 言いたいことはわかったからちょっと待ちやがれでございますー!」

 

 シアは脂汗をダラダラ流し、必死になって住民の暴走を止めようと試みる。それは良樹も同じであり、雑な敬語を使いながらもどうにか食い止めようと声を張り上げていた。だが住民達の興奮は収まってくれそうにはシアには見えなかったのである。

 

「あーもうとにかく! ここは俺とシ……シー……シアトが見るから大人しくしやがれくださいってんだよ!!」

 

「えっ!?」

 

 何度呼びかけてもどうにもならず、こうなったら神の使徒として解散するようお願いするしかないとシアが考えてた矢先のことであった。良樹がシアを変な名前で呼び、逆ギレしながら彼女の手を掴んである方向へと向かったのである。

 

「勝手に入ったらブン殴るからな! マジで!」

 

『え、えぇ……』

 

 しかもその先は水族館の中の方へだ。良樹の方を見てみれば、神の使徒の姿となった彼の顔は怒りに歪んで真っ赤に染まっている。一度フューレンの人達に顔を向けた時も変わらず、きれいな顔でキレてたものだから余計に怖い。

 

 住民が困惑と恐怖がない交ぜになった声を上げるのも無理は無いとシアは思う。

 

「え、えっと……打ち壊しはダメですからね~! 私達の言うこと聞いてくださぁ~~い! 神の使徒の命令ですよぉ~!」

 

 とりあえずシアも住民が下手なことをしないように念のため釘を刺しておいた。どこまで効果があるかわからなかったが後押しになってくれることを祈り、シアは怒り肩で歩く良樹と一緒に水族館の奥へと進んでいくのであった……。

 

「あの、良樹さん。大丈夫でしょうか」

 

「まぁ神の使徒の命令だからすぐには暴れたりしねーだろ。多分」

 

 良樹に手を引かれ、軽くほこりの積もった水族館の通路を歩くこと数分。中央の広場までやって来たところでシアは良樹に質問しようとする。するとシアが疑問を全て口にする前に良樹は振り返り、何度か視線をさまよわせつつもそれに答えていった。

 

「フューレンの人達のことも気になってましたけど……良樹さん、結構言葉遣い荒かったじゃないですか。私達、偽物だって思われたりしてませんよね?」

 

「……ま、まぁ、大丈夫じゃねぇの? 少なくとも住民の奴らは疑ってなかっただろ」

 

 すぐに反応してくれたことにはありがたく思いつつもちゃんと話を聞いてほしい。ちょっぴりほほを膨らませながら言いたかったことをシアが話せば、良樹は顔面を引きつらせながら目をそらす。余計にシアの中で不安が高まった。

 

「まぁそこは私としても気にはなっていたところだけれどね」

 

 そんな折、通路の奥から知った声がシアの耳に届く。そちらに目を向ければイルワ、ザック、そして彼らの護衛を買って出たという冒険者達がこちらへとやって来ていた。

 

「へいへい。反省してるよ」

 

「まぁ過ぎたことはどうしようも無いからね……お疲れ様、良樹君にシア君」

 

「あ、はいっ」

 

 イルワの指摘に対して良樹は軽く眉尻を上げつつも反省していると返した。それを聞いたイルワは軽い苦笑を浮かべたものの、それも一瞬だった。すぐに自分達にねぎらいの言葉をかけてきたためシアはイルワに向けて軽く頭を下げた。

 

「もう偽装はいらないでしょう。お二人とも、ひとまず解除してもいいのでは」

 

「そういやそうだな」

 

「あ、はい。そうですね……」

 

 そして一緒に来たザックから言及され、シアは良樹と一緒にアーティファクトのスイッチを切って偽装を解除する。すると冒険者達の方からおぉ、とどよめきの声が()()上がった。

 

「本当にとんでもないアーティファクトだな……」

 

「ここに来たときにも見ましたが、姿も声も偽れるなんて……それで幾つも作れるなんて悪い夢にしか思えませんよ」

 

「そうしなければ彼らはこのトータスを生き延びられなかった。だろう? 良樹君、シア君」

 

 四人組の冒険者の中の二人が姿を偽装するアーティファクトのすさまじさについて触れたものの、すぐにイルワがフォローに入った。魂魄魔法を使ったコレは割と最近作ったはずだったような、とシアは思い返すものの、イルワがこちらを見てウィンクしてきたことからその意図を察する。

 

「いやこれ割と最近……」

 

「あ、はいっ! コレのおかげで色々と助かってます! ね、良樹さん! ね!!」

 

「お、おう……そう、だな。あぁ」

 

 必要に駆られて作ったもので悪意を以て運用はしていない。イルワのリップサービスに気づいてなかった良樹をシアは大声でさえぎり、彼と正面から向き合って肩を掴みながら同意を求めた。それで良樹も気づいたようで、困惑をしつつも何度となくうなずいて返す。

 

「……なるほど。そうだったか」

 

「イルワ支部長が信じた人達ですからね。誤解されるような言い方をして申し訳ない」

 

 すると向こうも頭をかいたり苦笑しつつも自分達にわびを入れてきたため、シアは目をぱちくりと何度も瞬きをする。相手は人間族であり、自分はその人間族から差別される亜人なのだから。

 

 だというのに侮蔑や嫌悪の混じった言葉や視線を向けなかったことにシアは思わず驚き、良樹やイルワの方に何度も視線を行き来させる。

 

「あの、えっと……私、亜人ですよ? なのにどうして」

 

「フューレンを救ってくれた恩人の一人であるのは違いないからな。他にもあるが、馬鹿にしたらまずお前の連れに死ぬまで殴られそうだ。婚約者を置いて死ねないんでな」

 

「ったりめーだ。シア馬鹿にしたら殺すぞ」

 

 思わずシアは疑問を口にするも、ニヒルな笑みを浮かべたイイ男な冒険者が腕を組みながら返事をする。他の冒険者達もうんうんとうなずいて返すと、良樹がいきなり肩を組んできて軽く物騒なことを言い出した。

 

「もう、良樹さんってばぁ……っ」

 

「さて。良樹君達には申し訳ないけれど、フューレンの現状を打破するためにここらで一度腰を据えて話をしたい。いいかな?」

 

 暴力的ながらも自分に対する愛情をありありと感じられてシアは思わず赤面し、しっぽもウサ耳も喜びのあまりゆらゆらと揺らしてしまう。喜悦に浸っていたシアであったが、不意にイルワが話し合いを持ちかけてきたため、ハッとしてそちらの方に目を向けた。

 

「確かにな。イルワさん、あんたの知恵が欲しい」

 

「はい。私達に力を貸して下さい、イルワさん」

 

「あぁ。じゃあこっち、事務室の方に行こうか」

 

 イルワの提案を聞き、良樹と顔を合わせたシアは共にイルワに助けを請う。イルワも微笑みながらそれに了承し、ザックや冒険者達と目を合わせてから水族館の奥へと進んでいく。

 

「とりあえず、礼一さん達が捕まえた魔物は大丈夫そうですね」

 

「えぇ。それと素人目ではありますが水族館の奥の水槽も、そこにあった幾つものアーティファクトも特に異変は見えませんでした」

 

「ありがとうございますザックさん。後でハジメさん達を呼んでチェックさせてもらいますね」

 

 そうしてシアは通路の水槽を確認がてら歩く。打ち壊しを始める前に止められたのが功を奏したのか、ほこりがそこかしこにあっても水槽や壁に亀裂といったものは今のところ見えていない。

 

 しかも道中でザックが奥のクリオネモドキが保管されている水槽のことについても話してくれた。シアは彼に頭を下げて感謝を示しつつ、一緒に事務室へと向かっていく。

 

「さて。状況の整理をするとしよう」

 

 特にこれといったトラブルもなく事務室へとたどり着くと、イルワとザックは備え付けられたソファーに座り、冒険者達も二人を囲む形で立って警戒してくれることとなった。シアと良樹はイルワ達と向き合う形で席に座り、話し始めたイルワをシアはじっと見つめる。

 

「まず私はグウィンギルドマスターの要請でイルワ支部長を保護しました。ゲイルさん達がいるのは用心棒としてですね」

 

「なるほど、そうでしたか。ありがとうございます」

 

 イルワ達とは顔を合わせてすぐに外へと出たため、シア達は詳しい経緯を知らなかったのである。それについてザックから教えてもらうとすぐにシアはぺこりと頭を下げた。

 

「いえ、これも元は私達の責任です。いくら神の使徒に煽動されたといえどもです」

 

「君達の仲間からここに魔人族とその軍勢、それと神の使徒が現れたことは聞いているだろう? 浮き足立ってしまったところの一手だ。どうにも出来なくってね」

 

 だがザックもイルワもため息を吐きながら顔を手で押さえている。悔しい思いをしたのは自分達だけじゃないということがわかり、シアはホッとすると同時にどうにかしたいという義憤が胸の中で湧いてくるのを感じていた。

 

「イルワのことを血眼になって探しているのは二人も知っているでしょう?……恥ずかしいですがこれが今のフューレンです。皆さんに恩知らずな真似をしてしまっていて、正直恥ずかしいですよ」

 

「ま、そのツケは踊らされてる馬鹿に払わせるから気にすんな。で、だ」

 

 背中に弓を背負った冒険者が渋い表情を浮かべ、フューレンの住民がイルワを探していることに言及してきた。そのことにシアもうなずき、良樹も鼻を鳴らしながら返事をする。そして良樹が右腕をソファーの間にあったテーブルの上にどっかと置き、軽く体を乗り出した。

 

「どうすんだ? 心を落ち着ける魔法を何人かに使ってみたんだけどな、すぐに勢いに乗っちまうのか大して効果なんざなかったぞ」

 

「私達が神の使徒の姿で説得しても興奮が止まりませんでしたしね……」

 

 良樹が住民をどうにかしようとした時のことを語ると、シアもそれに続いて対処出来なかったことを話す。もし恵里やアレーティア、幸利といった魂魄魔法のエキスパートがいるなら落ち着かせて説得出来たかもしれないが、自分達ではもうどうにもならないのだ。

 

 こうなったらイルワやザックといった頭の回る人間に作戦を立ててもらうしかないとシアも直感し、どうにかしてもらおうと良樹と一緒に頭を下げる。

 

「それにしては良樹君もシア君もよく逃げられたね。そこに対処のヒントがあると思うんだけれど」

 

「んなこと言ったってな……俺らの言うこと聞け、って言ったぐらいだぞ」

 

「そうですよね……神の使徒の命令ですからねー、ってお願いしたぐらいしか」

 

「それだ」

 

 イルワが何かに感づいたようで、シア達は答えを持っていると暗に述べた。だがそのことにシアは心当たりが無く、良樹と一度顔を合わせてから逃げた際の経緯について触れる。直後、イルワが左の人差し指を立てながら何かを指摘してきた。

 

「おかげでいい案が浮かんだよ。聞くかい?」

 

 イルワがニコニコと笑みを浮かべながらこちらを見つめており、恵里がろくでもないことを考えついた時の笑顔と被っているようにシアには見えてしまった。

 

「聞くか、つったって……ま、聞くしかねーし、聞いた方が面白いんだろ?」

 

「うわ、良樹さん悪い顔してますぅ~」

 

「うっせぇ」

 

 しかも隣の良樹も口角を上げてニヤついており、あくどい顔をした彼を見てシアは軽くドン引きしてしまう。すぐに良樹がすねた様子でシアに返事をしたところでイルワがこちらに声をかけてくる。

 

「良樹君、それにシア君。君達の力、厳密に言えば()()使()()の力を借りたい。協力してもらえるかな」

 

「借りたいって言ってもよ、どうやって対処する気だ? 俺達その姿でどうにかしようとしたんだぜ?」

 

「簡単さ。アプローチの仕方を変えるんだよ――神の使徒の名を使って、逆に引き込むのさ」

 

 そうして協力を申し出てきたイルワに良樹が真っ先に反論するも、イルワはあくどい顔を浮かべたままその考えを明かす。引き込むとはどういうことなのかシアはピンと来ず、思わず隣の良樹と顔を合わせて互いに首をかしげた。

 

「で、どうするんだよ」

 

「これから詳細を詰めようと思う。ただ、今思いついたものを口にするならこう、かな」

 

 良樹の質問にイルワは笑みを崩さずにその思いつきを語った。途端、シアの背筋にぞわりと冷たいものが走り、隣の良樹と顔を見合わせれば彼も軽く引きつった笑いを浮かべている。冒険者達も周囲を見渡しながらもひそひそと話していた。

 

「まぁそれなら収まるでしょうね」

 

「不敬なのはわかっているが……背に腹は代えられんな」

 

「はは、なんつーこと考えてんだよ」

 

「住民の苛立った心を慰撫するため、と君達が言えばむげには出来ないだろう?」

 

 だがすぐに良樹は口角を上げながらイルワに返事をしている。そのイルワもにこやかな笑みを崩さぬまましゃべっており、悪い人達ばっかりだとシアは口の端がヒクついてしまっていた。

 

「よくまぁ短時間で思いつくもんだ」

 

「私達としても正直引きますが……」

 

「いい案ですね。ぜひやりましょうそうしましょう。いくら潰れた場所を使うとはいえ、商業施設を壊して巨大な祭壇作るより遙かにマシです」

 

「「いや、えぇ……」」

 

 それはイルワ達の冒険者達もシアと同様だったのだがザックだけが妙に前のめりであり、口の両端を思いっきりつり上げ、しかも軽く上ずった声でやろうやろうと言っていたのである。これにはシアも良樹と一緒に引いてしまう。

 

「いや、あの、イルワ支部長……?」

 

「全くだ。フューレンを救った幸利君達を助けるどころか、襲うような恥知らずが信奉する存在の思い通りなんて願い下げだね」

 

「えぇえぇ。恩人を切り捨て、商人どころか住民の一人も救いはしない。そんな奴へくれてやる信仰などカケラもありませんよ」

 

 しかもこれにイルワまでもが同意し、ザックと顔を合わせて悪い笑みを浮かべているものだから余計に引いた。ドン引きである。二人の言い分はわかるものの、シアとしてもここまで敵意を丸出しにするものなのかと思って良樹の方を見やった。

 

「支部長、言い分はわかるぞ。でもエヒト様を……」

 

「いいのかアンタら。信仰してる神様なんだろ?」

 

「心配には及ばないよ。キャサリン先生からも『エヒトなんかに従うな』ってお墨付きをもらっているしね」

 

「このトータス全土を見渡す目を持っていながら、恩人に後ろ足で砂をかけるような神にくれてやるものなど何一つありませんよ」

 

 その良樹も軽く声を震わせながら二人に質問を投げかけたものの、イルワとザックは笑みを浮かべたまま敵意と憎悪がこもった声で返事をしている。それを見たシアは『あ、本気で怒ってる』と軽くゾッとしつつも嬉しくなってしまった。

 

「そうかよ……いいぜ、乗った。殴られっ放しじゃ面白くねぇしな」

 

 すると良樹が前のめりになり、ニィッと口元をつり上げながらイルワが口にした作戦に乗ると述べたのである。そんな彼のどう猛な笑みを見て、言葉を思い返してシアもつられて悪い笑顔になってしまう。

 

「おい反逆者ぁ!! いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるだろ!!」

 

「えぇ、やりましょう。お二人もエヒトと戦ってくれるんでしたらすごく心強いです」

 

「いやお前らも止めろよ!? エヒト様だぞ! トータスの神に何度も何度もつば吐き捨てるな!!」

 

 警戒していた冒険者が大声を上げてるし、こちらを凝視しているが関係ない。殴られっぱなしじゃ面白くないということにシアも心の中で同意し、自分もその作戦に乗ることを伝えたのである。

 

「はっはっは。ゲイル、レント、ナバル、ワスリー。君達も面白いことを言うんだね」

 

「いくらなんでもめちゃくちゃだ! フューレンをどうにかするというのならともかく、エヒト様を侮辱するというのなら流石に俺達だって――」

 

「お二人とも、今助け……え? いいんですか?」

 

 シアも自分の思いを表明した直後、冒険者達がイルワとザックに掴みかかってきた。すぐにシアは良樹とアイコンタクトをとって二人を助けようとするも、イルワもザックも涼しい顔をしながら首を横に振るばかりであっさり意欲が削がれてしまう。

 

「あぁそうそう。ギルドの職員から聞いた話なんですが、あの銀髪の女が降りてきてからこのフューレンを支援する貴族がおかしくなったようで」

 

「キャサリン先生からの手紙でね、旦那さんのアダムさんがエヒトを盲信するようになったとあるんだ。読むかい?」

 

 どうしたら、と良樹と顔を突き合わせている内に二人がしれっと情報を漏らした。途端、冒険者達から感じていた敵意や憎悪が薄れたのをシアは感じる。彼らの方に視線を向けてみれば、目が泳いだり顔を合わせたりしているのがありありと見えた。心当たりあるんですね、とシアは思わず納得してしまう。

 

「いや、その……」

 

「まぁそういうことだ。では良樹君、シア君。作戦会議を始めようか」

 

 言いよどむ冒険者達を余所に、イルワはにこやかな笑みを浮かべながら軽く前のめりになって話しかけてくる。彼の言葉にシアもうなずき、話し合いを始めるのであった……。

 

 

 

 

 

「使徒様が出てこられた!」

 

「使徒様、私達の話を――」

 

「今からこの水族館はこっちが管理する!!」

 

 話し合いを終え、再度姿を偽装して表へと出てきたシアと良樹。玄関を出て早々取り囲む住民から声をかけられたが、文言はともかく良樹が打ち合わせ通りに大声で宣言する。その勢いは一瞬にして静まったのはシアの目にも明らかであり、これならいけると彼女も確信すると良樹に続いた。

 

「でーすーかーらー、ここは今から私達が管理することになりました-!」

 

「クソ偉大なエヒト様がおま……皆を憐れんで娯楽を供給してやった……んですー!」

 

「今後は私達、神の使徒がこの水族館を管理しますのでご安心くださーい!」

 

 やっぱり良樹の呼びかけが結構雑ではあるが、水族館の周りにいる人達が面白いようにうろたえていることを考えれば問題は無い。それならと考えたシアはすぐに良樹に“念話”を送り、次の段階に移行しようと決め合う。

 

「この水族館を調べてみましたけどー、生き物はともかく他に怪しいものはありませんでしたー!」

 

「イルワはお……わたし達が()()したぞー!」

 

 それはイルワを既に排除し、そして怪しい物体は何もないと住民に誤解させることだ。良樹が杖を構えたのをシアが確認すると、たまたま視界に入った槍を持った男に二人は声をかけた。

 

「おーい。その槍もう使わないだろ。よこせー」

 

「え、いや、これ自衛用の……」

 

「あ、そうでしたか……じゃあ足下に石ころありません? 二つ私達に投げ渡してくださーい」

 

 槍を渡すのを渋られたため、仕方なくシアは別のものを要求する。すぐに住民が二つの石ころを持って手渡ししてきたため、ぺこりとお辞儀をしてからシアはあるものをお披露目する。

 

「私達はこのように……っと。エヒト様からいただいた力を使えます」

 

 シアは持っていた石ころの一つを掲げ、“分解”を発動する。空間魔法の適正が自分の体の周りぐらいにしか作用しないこともあり、シアの場合はこうしないと効果が出ないのだ。そのことに不便さを感じつつも右手の中にある石が消滅していく様を披露した。

 

「石が……あの時のお力ですか!」

 

「こっちも……ま、石ころだけじゃなくて人間だって簡単に消せる。納得出来たか?」

 

 結果は上々。イルワが提案した派手なパフォーマンスである“分解”のお披露目により無数の視線がシアの右手に集まっている。

 

 またここで良樹の方に顔を向ければ、器用に杖の上に乗せた石ころが光の粒子となって消えていく様が見える。同時に周囲が一層盛り上がったのをシアは感じていた。

 

「まぁこんな感じだ。イルワの方も……わかるだろ?」

 

「もう大丈夫ですよー。私達がどうにかしましたからねー」

 

 良樹が暗にイルワをこの力で始末したと訴えれば、住民も今度は一切反論してこない。追撃とばかりにシアがなだめればどよめきが広がり、『もう大丈夫じゃないか』、『使徒様がいるならきっと大丈夫』と口々に言っているのを彼女のウサ耳が拾う。

 

「それともう一つ! 神の使徒様の命令だ!」

 

「皆さん! この水族館の働き手を募集します! お給金も商業ギルドが支払ってくれます!」

 

 住民が安心した、ということでシアは良樹と共に作戦の最後の段階へと移る。それは雇用を生み出し、少しでもフューレンを活性化させようというザックの頼みの実現であった。

 

「で、ですが! 前に来られた使徒様は祭壇を造ってエヒト様に祈れと……」

 

「えーと……劇場とかが潰れて日々の楽しみがなくなった皆様をエヒト様は憐れんだんですぅ!」

 

「作りたきゃ作れ。でもエヒト、さまはお前らの生活のことだって考えてんだぞ」

 

 祭壇を造り、住民全てが狂信に走ってしまえば間違いなくフューレンは立ち行かなくなってしまう。だから手に職を失った住民を雇用し、少しでもお金を流動させたい。それがザックの願いだったのである。

 

 イルワと一緒に考えた文言を思い出しつつ、シアは良樹と一緒にフューレンの住民へと訴えていく。

 

「エヒト様が……」

 

「ありがとうございます。ありがとうございます……」

 

「……今の私達じゃこれぐらいしか出来ないですけどね」

 

 やってることが詐欺同然とはいえ、フューレンの住民達が自分達に向かって祈ったり感謝の言葉を述べてくれる。そのことが申し訳なくて、シアは少しうつむきながら胸の内を明かす。けれども住民達はそのことに異を唱えなどしなかった

 

「そんな! エヒト様の命とあらばこのグレイル・クデタも微力ながら力になります――職にあぶれた者達はいるか! 希望する者達は全員雇用することを約束する!」

 

「商業ギルドだけに任せては経営が苦しいでしょう。この私、ラモンド・レボルシオもスポンサーとして出資させていただけませんか、使徒様」

 

「グレイル、ラモンド、貴様ぁー!……使徒様! このマクシム・リベリオも水族館に出資しましょう! リベリオ家の力、存分に使ってくださいませ!!」

 

 しかもこの場にいた貴族が住民を雇い入れると公言し、また水族館のスポンサーを名乗り出てくれたのだ。そのことに言い知れない罪悪感と嬉しさにシアは胸が締め付けられる心地であった。

 

「……皆さん」

 

「なんだ。まだまだ大丈夫じゃねぇかよ、ここは」

 

 思わず涙を流しそうになったシアだが、いつの間にか寄ってきた良樹に肩を組まれて驚き、涙が引っ込んでしまう。見上げれば彼も笑みをこぼし、この場を離れていく貴族と住民の一団を見つめている。

 

「どうにもなんねぇって思ってた割には立て直せそうじゃねぇか」

 

「そうですね。エヒトがどう動くか怖いですけど……」

 

「未来見といて不安がってんじゃねぇよ」

 

 内心思っていたことを吐き出しながらもシアは彼の言葉にうなずく。すると良樹から頭をガシガシとかかれ、うひゃぁと悲鳴を上げる。実はイルワと話し合いをした際、念のためにシアが“未来視”を使って確認してみたからだ。だがその映像の中で新たに神の使徒が現れることはなかったため、当初の予定通り二人は動くこととなったのである。

 

 ちなみに“分解”を発動しても魔力欠乏で倒れることが無かったのは、アーティファクトに利用していた魔晶石を元に戻し、良樹の魔力を譲ってもらったからだ。

 

“ねぇ良樹さん”

 

“なんだシア”

 

“私、昔の良樹さん達みたいにフューレンの人達を助けられたでしょうか”

 

 何度か頭をわしゃわしゃとなでられたシアは“念話”でふと良樹に声をかける。そして彼を見上げ、彼と視線を合わせながらふと思ったことを目と共に訴える。

 

“良樹さん達が私達ハウリアを助けたみたいに、私も皆さんの生活を守れたのかなって……その、ちょっと思っただけで”

 

 フューレンの住民が次々とこの場を去って行き、またこの場に残っていた貴族の二人も会釈して後にしていくのを見てふと思ったのだ。自分も誰かを守れただろうかと。すると良樹は軽く鼻を鳴らす。

 

「出来たに決まってるだろ……それと、恥ずかしいからやめろマジで」

 

「……はい」

 

 答えてから数秒後、真っ赤になった顔を背けながらぽつりと良樹がつぶやく。シアもふにゃっと笑みを浮かべてから彼に抱きついた。静寂を取り戻した商いの都市の一角で、それを成し遂げた少年と少女はしばしそこでたたずんでいたのであった。




新年一発目はシアと良樹の話になりました。次からは恵里視点に戻る予定です。
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