あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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二週間経ってないんでセーフ!(何がだ)
では改めまして、読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも228626、しおりも486件(2025/1/13 10:01現在)となりました。誠にありがとうございます。やはりこうして何人もの方に見ていただけるというのはありがたいことです。励みになります。

それとAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠にありがとうございます。こうして評価してくださることが何よりの力になります。ありがとうございます。

今回の話を読むにあたっての注意点として少し長め(約12000字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


百一話 華やかな時間とかすかな影

「えっとその……地球の皆も一緒に戦ってくれた貴族や王族の皆様もお疲れ様でした! 堅苦しいことは抜きにして今日は楽しみましょう! 乾杯!」

 

 幾つものシャンデリアに付与された魔法のおかげなのか恵里達がいる王城の大ホールはひどく明るい。立食形式のパーティ会場となったこの場で、エリヒド王から乾杯の音頭を直々に任された光輝の声がこだまする。

 

『かんぱーい!』

 

 いつエヒトが動くかわからない、という理由から軽装であった恵里や彼女の仲間達も彼の声に合わせてグラスを高く掲げる。未成年が呑んではいけませんと愛子や鷲三らからガミガミ叱られたことで、酒の代わりに高い果実で作られた虹色のジュースに恵里は口をつけた。

 

(美味しいのはいいんだけどね……いちごに近い味でこの色とか頭バグるよ)

 

「「お疲れ様、恵里」」

 

 ほのかな酸味と主張し過ぎない程度には強い甘みが舌を刺激し、のどをサッと通り抜けていく。頭の中でケチをつけながらも二度、三度とドリンクで唇を湿らせていると、隣にいたハジメと鈴から声をかけられる。

 

「ハジメくんと鈴もお疲れ」

 

 お互い微笑みながら三人でグラスをカチンと当て、また中のジュースを飲んでいく。そうして恵里達はお互いとりとめの無い話をしながら食事を楽しんだ。

 

 例のジュースについても何度飲んでも慣れなさそうだと“念話”でこっそり伝えればハジメも鈴も同意してくれたり、また料理をつまみながら日本のご飯が恋しいねと言い合ったりしていつものように三人で盛り上がっていた。

 

「ご飯がおいしいし、やらないと区切りがつかないのもわかるけど、祝勝パーティやってて大丈夫なんだか」

 

 その中には今回の祝勝会のことも含まれていた。元々ヘルシャー帝国とアンカジ公国との戦争に勝利したことを祝って開く予定が事前に組み込まれていたらしい。

 

「区切りはやっぱり必要だよ。ほら、母さんが現稿を編集さんに送った後とか、父さん達の作ってたゲームがバグ取りも終わって完成した時とか。あと試験が終わった時にも打ち上げやってたでしょ」

 

「こういうのあると次もまた頑張れるもんね……フリードさん、さみしくないかな」

 

「別に大丈夫でしょ。ウラノスいるし。今回はアンファンだってついていってるんだから」

 

 ただ今回は戦争に参加した貴族達も含めてのパーティであるため、魔人族のフリードは自室にいるようお願いしたのだとエリヒドから聞いている。ちなみにアンファンもフリードと一緒がいいと言い、カルガモの親子みたいだと思いながら彼の後を追っていくのを恵里は皆と一緒に見ていた。

 

「それにほら、今回戦ったの僕達だけじゃないしね。でも、浩介君がまだ立ち直れてなかったらちょっと辞退しようと思ってたけどさ」

 

 その肝心の祝勝会であったが、実は一度中止になりかかっていた。トータス各地に魔人族とその軍勢が出現したことや無数の神の使徒が出てきたことで予定がずれ込み、また浩介の心がぐちゃぐちゃになったのもあってそんな空気じゃなくなったのが原因だ。

 

「流石に浩介君蚊帳の外にして盛り上がれないしねぇ。ダメだったらボクだって辞退してたよ。鈴もでしょ?」

 

 光輝が乾杯の音頭を取る前、リリアーナがスピーチをしていた際に若干遠い目で述べていたのを思い出しながら恵里は鈴をチラッと見ながら参加を見送ったかどうかをうかがう。

 

「うん。それと結構ギリギリだったよね。王様も王女様もラナさんと浩介君にしばらく頭上がらないかも」

 

「だろうねぇ~。ま、ご飯が無駄にならなかったからいいんじゃない」

 

 二人の話にうなずきつつ、恵里はまた皿に盛ったサラダを口の中に入れる。シャキシャキとした食感と赤紫色のソースがもたらす程よい酸味とほのかな甘みに思わず目を細めた。

 

 ……オルクス大迷宮攻略中はただただ肉を、それも味付けは塩や生えてた草なんかをふりかけたものばかり食べてたせいなのだろう。とにかく肉以外、それもある程度味の濃ければなんでもいいとばかりに恵里は食べるようになっていたのである。

 

 ちなみにパーティーが始まってからハジメと鈴が食べてるのはサウスクラウド商会経由で仕入れた魚とアンカジ産の果物などであった。

 

「なぁ、南雲。それに谷口と中村も。よく野菜や魚ばかり食えるな……」

 

 だからなのかいつの間にかこちらに来た重吾がなんともいえない目つきでこちらを見ていたのだ。それに気づいた恵里はハジメ達と一緒に口の中のものを飲み込み、彼の方に顔を向ける。

 

「ハッ、王宮でいいご飯ばっか食べてたからわかんないんだよ。毎日毎日肉肉肉肉肉肉肉肉……飽きる飽きない以前の問題だったからね」

 

「はい“鎮魂” 恵里、どうどう」

 

 思いっきり目を細め、嫌みと共にオルクス大迷宮攻略時の食事情を語れば重吾も顔を青くしてしどろもどろとなっている。もっと嫌みをネチネチ言ってやろうかと思った矢先、鈴の“鎮魂”で重吾に向けてた敵意や憎しみがあっという間にクールダウンしてしまった。

 

「……ボク馬や牛じゃないんだけどぉ」

 

「恵里、永山君も怯えてるから落ち着いて。ね?」

 

「……永山君。今回は恵里が悪かったけど、このことは鈴達全員のトラウマだからあんまり刺激しないで」

 

「すまん。俺が軽率だった……」

 

 そのため下手人であり自分をなだめる鈴に恵里はジト目を送るものの、全然相手にされずにあしらわれてしまう。ただ、ハジメがすぐなだめに入ってくれたり鈴が自分達の食事関連について軽いトラウマになっていることを述べたこと、そして重吾が謝罪と共に頭を下げてくれたことでひとまず溜飲は下がった。

 

「それで? 一体何しに来たの? まさか雑談でもしに来た?」

 

「恵里、けんか腰はダメだよ」

 

「……俺をエリセンに送ってくれたことだ」

 

 とはいえ恵里は何故重吾が自分達に声をかけたのかが気になってしまう。そこでハジメに叱られながらも問い掛ければ、重吾から納得のいく答えを返されて思わずうなずいてしまった。

 

「ミュウもレミアも不安がっていたからな……俺の方から話せる範囲だが、色々と話しておいた」

 

「そっか。永山君、ちゃんと話せた?」

 

「あぁ……正直助かった。礼を言う」

 

 あまり多くは語らなかったものの、鈴の問い掛けへの答えや重吾のホッとした顔つきからちゃんと話が出来たのだろうと恵里は察する。深々と頭を下げてからその場を離れていった重吾を見送ると、すぐに恵里はハジメと鈴に声をかけた。

 

「ま、恩を売っといて正解だったかな」

 

「ただの親切。それでいいでしょ、恵里。ね、ハジメくん?」

 

「うん。でも打算ありきでも恵里が誰かに優しくしてくれるのは嬉しいかな」

 

 重吾をエリセンに連れて行ったのはあくまで恩を売るためでしかない。それが功を奏したし、ハジメからも褒められた。鈴はやや呆れた様子でこちらをじっと見ているものの、ハジメに褒められたことで有頂天になってる恵里は気にも留めなかった。

 

「ありがと、ハジメくん。じゃ、せっかくのこういう席だし、色々歩いて皆と話したりしない?」

 

「そうだね。鈴も賛成……雫のことも気になるから」

 

 先ほど重吾がこちらに来たことを思い出し、恵里は一瞬上を見上げた後に会場を回ることを提案する。彼のように幼馴染みや友達と話して回るのもいいかと考えたからだ。すると鈴がわずかな間だけ顔をうつむかせ、恵里も気になっている幼馴染みの名前を挙げる。

 

「わかった。じゃあ雫さんは……あそこだね」

 

「「うん。行こう、ハジメくん」」

 

 恵里としても雫のことは気にかかっていた。潜水艇を造る際に何度か話しかけはしていたものの、彼女とメインに話していたのはあくまで光輝と家族だったからだ。家族と上手くいっているだろうかと思いつつ、ハジメの後ろを恵里は鈴と一緒についていく。

 

「雫、お疲れ様。その、よく頑張ったな」

 

「う、ううん。お爺ちゃんもお母さんだってそうでしょ」

 

「……光輝君。あなたから見て雫はどうだったかしら」

 

「いやその、すごく頑張ってたと思いますよ。俺達の倍以上はいろんなところを周ってたんですし……でも、それは師範代も霧乃さんだってそうでしょう?」

 

 雫達は大ホールの奥の壁の辺りにたむろしており、あと数メートルの辺りまで近づいたことで耳を澄ませずとも彼らのやりとりが聞こえてきた。プライベートだから聞かれたくないのと彼女達なりに自分達に配慮しているのだろうということが察せられ、恵里も思わず苦笑いしてしまう。

 

「ですが、これも大人の勤めとしてやったまでです光輝君。その言葉は雫にかけてあげて――」

 

「いや、大人だからとかそういうのは関係ないでしょう! 雫はもちろんですけど、それが鷲三さんや霧乃さんをねぎらわなくてもいいってことじゃ――」

 

 雫達は雫達でどうにか立ち直ろうとしている。四人とも相手を過剰に気遣いながらもどうにか接していたのだ。今ここで下手に自分達が出て行ってもややこしくするだけだなと恵里は直感し、ハジメと鈴に“念話”で話しかける。

 

“……頑張ってるね。ボク達がしゃしゃり出ちゃダメだ”

 

“うん……雫、頑張って”

 

“そうだね。僕らは別のところに行こっか”

 

 ハジメと鈴も自分と同意見であり、すぐに話し合いを終わらせると恵里は再度四人を一瞥する。心の中で頑張れと励ました後、ハジメ達とその場を離れていった。

 

「他のところは普通に盛り上がってるのにさ……なんかあそこだけ政治色強いんだけど」

 

 そうして三人で食べた料理のことでアレコレ話したり、他の皆の盛り上がり具合を遠目で見ていたのだがふとある一団を見て恵里は軽く顔を引きつらせていた。

 

「ほうほう。坂上殿と白崎殿の話を聞いた時もそうだが、実に驚かされるな」

 

「だろ? ま、なんだかんだ使えると思うぜー」

 

「もう、信治さん。協力を誓ってくれましたし、アンカジはもう王国の傘下にありますけどあんまり馴れ馴れしくしたら失礼ですよ!」

 

「確かに。ちょっとばかり横柄が過ぎると思うよ信治君……ま、それはそれとして。私のポストは物流関連の取り仕切りということでいいのかな」

 

 信治とリリアーナがイルワ、ウィルの護衛で同行したと思しき冒険者達、そしてビィズら公国の使節団の人間らが話をしていたからだ。しかも信治がビィズと肩を組んで背中をバシバシ叩いているもんだから恵里も思わず冷や汗をかいてしまう。

 

「王女様が中野君叱ってるけどね。流石にビィズさんも怒ってもいいと思うよ」

 

「あ、ビィズさんも信治君と肩組んだ……意外と大丈夫そうだね」

 

 しかし鈴が不安を漏らしてすぐにビィズも上機嫌で信治と肩を組み、オロオロしている冒険者達を余所に共にグラスを掲げていた。その後グラス同士を軽く合わせて乾杯し、親しげかつサウスクラウド商会のことで盛り上がっていたせいで恵里の心配も霧散してしまった。

 

「多少の無礼など、私達がしてしまった失敗とこれからアンカジにもたらされる利益を考えれば痛くもかゆくもない。ささ、中野殿。もう一杯」

 

「お、サンキューな……あー、これで酔っ払えりゃもっと面白ぇんだろうけどなー」

 

「問題なさそうだし別にいっか」

 

「細かい話は後にした方が良さそう……ハジメくん、どうするの?」

 

「用があるならきっと信治君から“念話”が飛んでくるだろうし、いっか。じゃあ今度はどこに行く?」

 

 商売の話なら向こうに丸投げしといた方がいいだろうと考え、恵里は鈴と一緒にハジメの手を引きながらまたパーティ会場を歩いて行く。すると今度は香織ら四人が楽しげに談笑しているのが見えた。

 

「あ、恵里ちゃん。こっちこっちー」

 

「……行っちゃう?」

 

 何が理由で盛り上がってるかわからなかったし、自分達が入ったことで水を差すかもしれないと思い、恵里はどうしようかとハジメと鈴と一瞬だけ顔を合わせる。だがその直後、香織がこちらを見ながら声をかけてきたのだ。軽く苦笑しながら二人を見れば、ハジメと鈴も似たような顔つきで恵里を見つめ返していた。

 

「そうだね。行こっか」

 

「うん。香織ー、一体何の話をしてたのー?」

 

「うん。今日みたいにこういうゆっくりした日も久しぶりだねー、って話。それでね――」

 

 ハジメ達も二つ返事で承諾し、香織達のところへと歩いて行けばすぐに会話に混ざっていく。ここ数日がバタバタしてたことから始まり、香織がアップで恵里と鈴がハジメお手製のシニヨン、シアがポニテと髪型だけでもオシャレしながらパーティに参加したことなどで恵里達は盛り上がっていた。

 

“なぁ中村。やっぱ偽名は前にエリセン行った時のでいいか?”

 

“そうだねー。とりあえずそれの女性版……いや、そのままでもいいかも”

 

 そうして良樹が“念話”で話題に挙げたのは『次に神の使徒として動く際、どんな偽名を名乗るか』であった。何故この話題が挙がったかというと、報告の際に良樹と香織がうっかり本名を言いそうになったり変な名前でごまかそうとしたことがバレたことに由来している。

 

“恵里ちゃん、それってトータスの人達に違和感を持ってもらうためだよね?”

 

“そ。あっちが引っかかることが重要だからね”

 

 それを聞いた直後の恵里は般若と大差ないほどの形相を浮かべており、自分達が怪しまれるようなことをよくもやってくれたなと香織と良樹をにらみそうになっていた。だがその直後、ある考えが浮かんだことで恵里は即座に顔をにやけさせたのである。

 

“相変わらず恵里は悪知恵はものすごく回るよね。いくら神の使徒があんまり名乗らないからって自分達は言っちゃおうってさ”

 

 それは偽名を名乗り、他の神の使徒とは違う存在がいるということをトータスの人間に認識させる。そして自分達の知名度を上げてから正体を現し、『これまでトータスの人達を助けてたのは自分達だとアピールしてエヒトの信仰を削ぐ』という作戦であった。

 

 恵里がこの思いつきを語った時も今もこうして“念話”で話しているのはエヒトに作戦がバレないための配慮である。

 

“鈴うっさい。いいじゃん別に。誰が助けてたかを明らかにしてるだけなんだけどぉ~?”

 

 それを“念話”で皆に明かした際、二人の失敗に苦笑していた光輝達の顔が一瞬で引きつったのを恵里は覚えている。その時はもちろん、今もそんな顔をされる覚えは無いと恵里は半目でハジメ達を見つめた。

 

“……まぁそれは大事だと思うし、あの報告で結論も出たけどね”

 

“偽名を出すにしても一度に一回か二回。それもさりげなく、だよな”

 

 ハジメの言葉に龍太郎もうなずき、また恵里も二人に同意しつつもその意見を出したアレーティアに内心感謝の念を送る……実はこの話、あるオチがついているのだ。

 

“下手に言いふらしたら本物の神の使徒も名乗りだしてくる、ってアレーティアさん言ってましたもんね……”

 

 これを口にした当初は大介達もドン引きこそしてたものの、すぐに偽の神の使徒として偽名を言いふらしながらガンガン人助けしようぜと言い出していたのだ。それに恵里も乗っかって具体的な計画を詰めようとしたところ、シアが述べたようにアレーティアが待ったをかけたのである。

 

“そうなったら意味ねぇもんな……ホントロリ介がロリコンで助かったっていうか”

 

“言い方考えようよ良樹君……”

 

 事実、出くわした神の使徒の中にも名乗っていた奴がいたのを恵里達は覚えていた。それを考えればエヒトも同様の戦略をやり出して自分達の作戦が頓挫してしまう。自分達も『エヒト神に仕える神の使徒のひとつ』という印象に操作させられてしまうからだ。

 

“まぁ檜山君はもちろんだけどさ、ホントにアレーティアには感謝しかないよ……止めてくれなかったらやらかしてただろうし”

 

 そのことをいつものようにオドオドしながらもアレーティアは指摘してくれたのである。言い方はともかく良樹の言った通りだと恵里もうなずく。一時期は自分達に敵意を抱いていたアレーティアを味方に引き込み、また心がボロボロになった彼女を立て直したのは他でもない大介だったからだ。

 

 前世? の時はただの手駒だったはずだが、どうなるかわからないものだと思いつつ恵里は目をつむって再度うなずいた。

 

“最悪鈴達の力にならないように殉教させてくるかも、って王女様も言ってたよね……恵里のこともそうだけどさ、エヒトってホントにロクなことしないよね”

 

“キャサリンさん達はアレーティアさんと檜山君が助けてくれたけど、それでもブルックや多くのトータスの人達の洗脳は解除出来てないしね……それでいいのかな、私達”

 

 また自分達の味方を増やさないように洗脳した人間を殉教させる可能性もあることをアレーティアとリリアーナが指摘してくれてもいたのだ。改めてエヒトの厄介さに触れてげんなりした鈴と迷いを露わにしてうつむいた香織を見て、恵里も思わずため息を吐きそうになってしまう。

 

「ったく、どうしたお前達。めでたい席で落ち込むな。他の奴らが萎縮するだろうが」

 

 そんな時メルドの声が不意に飛び込み、声のする方に恵里は皆と一緒に顔を向けた。メルドを含めた四人の人間がこちらへと寄ってきていたのである。

 

「メルドさ……団長、落ち着いて下さい。我が国の救世主ですよ」

 

「クゼリー、アイツらは割と考え込むし突っ走る質だ。ある程度強く言わなければ反応もしないぞ」

 

 メルドは半目でこちらを見つめているし、一歩後ろにいた女性の騎士が彼をいさめた。だがメルドは随分なことを言いながらこちらを一瞥してきたため、恵里は眉間にしわを寄せながら彼を見つめ返す。

 

「そ、そんなこと!……えっと、ない、よね?」

 

「まぁ、なぁ……」

 

「当たり前じゃん……ねぇメルドさん、ケンカ売ってるなら買うよ」

 

 なお香織の問い掛けには皆で顔を合わせてうなずき合うも、メルドから向けられていたじっとりとした視線が一層強まったのを恵里は感じ取っていた。

 

「皆落ち着いてくれって……なぁ皆、俺で良かったら力になるよ。サボッてた奴が言えた義理じゃ――ぁぅ」

 

「もう。ダメよこうくん。自分のこと卑下しないで、って言ったばかりなのに」

 

「あーうん。実はね」

 

 残り二人は少し卑屈な笑みを浮かべた浩介と彼のほほをつついたラナだ。言い回しからしてまだ浩介は立ち直れただけなのだろうと恵里は察し、彼に余計な負担をかけさせないよう先ほど話していたことをかいつまんで“念話”で伝える。

 

“なるほど……確かにお前達が渋い表情をするのもわかるな”

 

「え、頭に直接声が!?……た、確かに私達トータスの人間のために考えを巡らせて下さるのはありがたいです。ですが、その……」

 

 するとメルドは腕を組みながら何度かうなずいて共感を示してくれた。また女性の騎士ことクゼリーとやらは“念話”を付与したアーティファクトがなかったのか一瞬驚き、おそるおそるといった様子でこちらに感謝しつつも含みのある言葉をかけてくる。

 

“クゼリーさん、それにメルドさんもありがとうございます”

 

 ハジメが感謝の言葉を述べると共に鈴と一緒に頭を下げたのを恵里は目撃する。ふと何も言わない香織に龍太郎、シアの方も見やれば彼女達も頭を下げており、良樹も何秒か遅れて彼女達に続いていた。

 

“そっか……俺がどうにか出来てたら”

 

“だからこうくんは自分のことを悪く言わない!……とにかく『神の使徒の偽物』としての動きは下手に出来ない、ってことね”

 

「ご、ごめんラナさん! 息、いぎできなぐなる゛っ!!」

 

 同意を求めるついでに恵里は今の心情を明かす。それで浩介が一瞬卑屈になってしまい、やっぱりダメだったかと恵里が考えた直後にラナが彼を思いっきり抱きしめたのである。しかもそれが自分の胸に浩介の顔をうずめる形であったため、即座に浩介がもがき出して別方向で面倒なことになってしまった。

 

「何やってんのホントにさぁ……」

 

「まぁ今の浩介にゃいい薬になるだろ。それに浩介だったら呼吸を十分ぐらい止められないはずがねぇ。雫や鷲三さん、霧乃さんと同じ忍者だしな」

 

「に゛、忍者じゃね゛ぇ゛……っ゛!!」

 

 ラナのせいでシリアスな空気が霧散してしまい、メルドやハジメ達と共に恵里はふかーいため息を吐く。そしてうろんな目つきで浩介とラナを見るも、龍太郎の言葉を聞いてまぁ二人なら大丈夫かと考え直す。もちろん浩介の寝言は無視した。

 

“とりあえず後でクゼリーさんから話聞いといてくれメルドさん。で、そっちはどう思ってるんだ?”

 

“まぁ、そうだな……俺としては気合いを入れ直せとしか言えん。相手はエヒトだ。一筋縄じゃいかないのはお前達だってわかっていただろう。恵里を、王国を世界の敵にしたんだからな”

 

 そして龍太郎が頭をかきながらメルドに“念話”で問い掛ければ、こちらをじっと見つめながら意見を述べてくる。だが今度はやや鋭い視線で、しかも自分達の覚悟を問い掛けてきたため恵里もこくりとうなずいてから真剣な表情で向き合う。

 

“うん、わかってる。エヒトにはまだボク達じゃ何をしても勝てっこないってことぐらい”

 

“わかってますメルドさん。でもそれで僕の心は折れてませんから”

 

 恵里はぎゅっと手を握りながら自分達が力不足だということを認める。するとハジメも恵里の右肩にそっと手を添え、彼女の後ろから己の意思を伝えてきた。それだけで心の中にあった大きめの不安が吹き飛んだような心地がして、恵里はキッとした表情でうなずく。

 

“そうだねハジメくん……鈴だって、そうです。そのために皆で研究を、神代魔法の練習も続けてますから”

 

“あぁ。ハジメ達の言うとおりだ。心が折れちまったらもう香織と親友、地球の家族を守れなくなる。それだけは絶対無理だな”

 

 ハジメの“念話”に鈴達も続き、次々と意気込みを述べていく。

 

“私も。龍太郎くんにお父さんお母さん、恵里ちゃん達が傷つけられるなんて嫌ですから”

 

“俺はハジメや龍太郎みたいにマトモな理由じゃねぇ。ただ、エヒトのクソ野郎にやられっぱなしじゃ頭に来る。だから潰す。それだけだ”

 

“はい。もちろんです。だってエヒトがあんなに強い神の使徒を何体も抱えてるんですよ。それが父様達にも襲いかかってくるかもしれない。なら、倒す以外ないじゃないですか”

 

 戦うための準備をしていると語る鈴、大切な人達を守るために意気込む龍太郎に香織、ただただ敵意と戦意をたぎらせる良樹に不退転の覚悟を示したシア。

 

 それぞれの言葉を聞いてらしいなぁと思って顔を一瞬ほころばせつつも、恵里はメルドと目を合わせる。自分達の答えが及第点に至ってるだろうかとじっと見つめていた。

 

“あの、メルド団長。神代魔法は手に入れられませんけど、私達ハウリアも……”

 

“……メルドさん、俺も大丈夫だ。もう折れないよ。俺にはラナさんがいるから”

 

 今度はラナと浩介も戦う気概をあらわにした。二人に視線を向ければいつの間にか互いに向き合うように抱きつき、そしてどちらも顔をメルドに向けながら真剣な顔つきをしている。浩介を立ち直らせてくれたラナに内心感謝しつつ、恵里はメルドに問う。

 

「で、どうなの? ボク達と付き合い長いんだし、どれだけ本気かわかるでしょ」

 

「メルド、団長。その、ラナを含めたハウリアは戦力になるでしょうか……」

 

「ま、その意気込みなら恵里達()問題ないな。ただ、シア以外のハウリアは恵里達が突破した大迷宮の難易度次第、といったところか。それとだ」

 

 心配そうにメルドを見上げるクゼリーに恵里はどこか違和感を感じつつも、別にどうでもいいかとすぐにメルドの方に意識を向ける。するとメルドも不意に口元を緩め、自分達なら問題ないと太鼓判を押してくれた。恵里は心の中でガッツポーズをしつつも妙な言い方をしたメルドから視線をそらさなかった。

 

「そう、ですか」

 

「あ? どうしたメルドさんよ」

 

「後で俺も大迷宮攻略に参加させてもらうぞ。他の神代魔法、それと概念魔法とやらも使えた方がより勝てる確率が高くなるだろうしな」

 

 ちょっと落ち込んだラナをよそに良樹が不思議そうに問いかければ、メルドが一瞬口角を上げてから大迷宮攻略にまた参加してくれる旨を述べたのである。いい意味で意表を突かれて恵里も目が点になり、すぐにハジメや鈴達と顔を見合わせれば皆口をぽかんと開けたりあっけにとられた様子で恵里を見つめたりメルドの方を見たりしている。

 

「驚くことか? オルクス大迷宮もグリューエン大火山も一緒に攻略してただろう。使える手札が多いに越したことはないからな。それとまぁ、なんだ。俺が攻略に参加する時は何人か代わりに国に残ってくれれば助かる」

 

 ただメルドが続けた話を聞けば恵里も納得する。神代魔法を使える人間は多いに越したことはないし、またメルドが大迷宮攻略で王国を留守にしても代わりの人間を配置すれば問題は無い。

 

 条件付きとはいえメルドを大迷宮攻略のための戦力として数えることが出来ることに心強さを感じつつも、恵里は脳裏に浮かんだある考えを口に出す。

 

「そっか。ホントにありがたいよ。まぁでもメルドさんは畑山先生とか永山君達の引率とかをしてもらった方が良さそうだけどね」

 

「それに関しては他の皆と話し合ってからにしましょうかメルドさん。恵里も。ね?」

 

「……はーいっ」

 

 そこで恵里も自分の意見を申し出れば、メルドだけでなく香織や龍太郎らもうなずいてくれた。じゃあこのまま色々話してしまおうかと考えた矢先、ハジメから釘を刺されてしまう。しかもこちらを向いた彼がうっすらと微笑みながら名前を呼ばれ、恵里も仕方ないなぁと短く息を吐きながらもうなずいて返した。

 

「そうだな。ハジメの言う通り、後回しにして構わんことだ」

 

「えぇ……皆様。先のことを考えるのはいいとは思いますが、息抜きの場で気が休まらないのは本末転倒です。戦う人間は休むことも仕事の内ですから」

 

「はいはいわかりましたー」

 

「恵里ってば……もう」

 

 メルドとクゼリーの説教じみた忠告におざなりに返事をすると、横にいたハジメと鈴が大きくため息を吐いたのを恵里は聞いた。二人に視線を向ければハジメは軽く口元が引きつっており、鈴はただ静かにジト目で恵里を見つめている。

 

「……はーい。反省してまーす」

 

「ったく、先生も谷口も堅ぇっつの。明日のことは明日考えようぜ! 飯だメシ!」

 

 メルドとクゼリーが苦言を呈したことも、自分が雑な返事をしたことが悪かったことも理解していた恵里はハジメと鈴を見ながら反省した旨を述べる。するとやれやれといった様子で良樹が前に出て、自分のグラスと料理の載った皿を胸元の高さまで上げながら誘ってきた。

 

「そうだな。さ、まだ飯は満足に食ってないだろう。エヒトを討つまではこういう豪勢な料理はそうそうありつけないぞ!」

 

「そうだね。じゃあ龍太郎くん、それに皆。今日はいっぱい楽しもうよ!」

 

 そしてメルドと香織の楽しげな声を聞いて恵里も破顔し、くるりと体をハジメと鈴の方へと向ける。二人もクスッと笑って恵里を見ながらうなずいた。

 

「ハジメくん、鈴。まだ食べてないのあったよね。エリセンの魚、まだ残ってるかな」

 

「魚は皆楽しみにしてたからね。大介君達が取り尽くしてないことを祈ろっか」

 

「無かったらパンにしようよ! バターとジャムをいっぱい塗ったの!」

 

 そうして恵里達は憂いを忘れ、一夜限りの祝勝会を全力で楽しんでいった。

 

 何度となく補充される料理に舌鼓を打ち、幸利に明日ちょっとしたサプライズがあると予告されたり他の皆とどうでもいいことで談笑するなどしていた。

 

 また健太郎と綾子、真央の見事な社交ダンスを披露する様やアレーティアとリリアーナのフォローを受けながらどうにか踊り切った大介と信治に拍手を送ることもあった。またいつの間にか紛れ込んでいた複数の漢女達のキレのあるブレイクダンスに度肝を抜かれたりもした。

 

「はな、離してください皆さん! 中野君に、今のうちにお説教、しとかないと!」

 

「落ち着いてくれ愛子ぉー!!」

 

 ……他にも信治が飲酒したのを目撃したらしい愛子が顔面に幾つも青筋を立て、しかもデビッド達やカムに押さえ込まれているのを目撃したり、デビッド達を振り切ろうとした彼女を鎮圧する羽目になったことも。

 

 そんな騒々しくも楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。そして――。

 

「ではこれより作戦会議に移る」

 

 翌日、朝食を終えた恵里達はまた食堂のテーブルやイスを動かして作戦会議を開いていた。議題は戦争を終えた王国と恵里達が今後どう動くかについてである。

 

「陛下や女王様、そして王女様は現在帝国と公国の戦後の処理をしてくださっている。もちろん騎士団長である俺や教皇代理を務めているデビッドもまたいくらか手伝ってるがな」

 

(そういえば、幸利君のサプライズって何だろうね)

 

 司会進行を務めているメルドが要領よく話を進めていく中、恵里の頭を占めていたのは幸利のサプライズのことであった。

 

(しょうもないことだったらほっぺ思いっきりつねってやるけど、やけに自信満々だったなぁ。再生魔法関連かな)

 

 ハジメ達と食事を楽しみつつ、シェフからソースの作り方や下味のつけ方を教えてほしいねと話し合っていた時に優花と奈々を連れながら彼は来たのだ。絶対驚くと豪語した幸利は奈々と一緒にひどくニヤニヤしていたし、優花も引きつった笑みを浮かべていた。

 

「戦後処理に関しては俺達王国、それともしかしたらアレーティアやえーと……」

 

「クリスタベルよん。何かあったら護衛として、かしらぁん?」

 

「まぁ、その、頼む……」

 

 彼だけでなく優花達までとなると本当なのだろうと思いつつ、恵里は司会をやっているメルドに意識を向ける。優先順位をはき違える気は無かったからだ。話を聞いた限りでは王国の上層部の面々の動きの説明は終わっていたらしい。

 

「次は光輝達だな。偽の神の使徒としての活動、新たな神代魔法に取得したものの研究。他にも――」

 

(さーて、次はボク達だ。やれることはやらないとね)

 

 自分達がすべきことを幾つも言葉にして並べていくメルドをながめつつ、恵里は気を引き締めて何を担当するのかを頭の中にメモしていく。全てはエヒトを倒すため、家族のいる地球へと帰るために。少女は静かに戦意という名の炎を燃やしていたのであった。




ちなみに愛子がデビッド達の拘束を解いて信治『達』にお説教すると大体こんな感じ(一部抜粋&没ネタ)

愛子
「いいですか中野君。皆さんが毒に対する耐性を持ってるのもそれで酔えないのも知ってます。ですが日本では二十歳未満の飲酒は違法行為です。いくら異世界で日本の法律は関係ないといってもこういう席でお酒を飲んでしまっては違法行為そのものへのハードルが下がってしまいます。これを割れ窓効果と言ったはずですが、もし飲酒や他の違法行為などが習慣化してしまったら中野君の普段の生活にも支障をきたしますし、いらないトラブルが起きる要因に――」

これを正座しながら信治、そしてとばっちりでリリアーナが受けます(ォイ)


2025/1/18 ちょっと修正
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