あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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やっとこさ仕上がりました(白目)
では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも230075、お気に入り件数も972件、しおりも488件、感想数も776件(2025/1/30 22:00現在)となりました。誠にありがとうございます。いやもうホントこうしてひいきにしてくださる人が多くてありがたい限りです。

それとAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当にありがとうございました。またしても書き続ける力をいただきました。ありがたいです。

今回の話を読むにあたっての注意点としてちょっと短く(約8000字)なっております。察して下さい(遠い目)
では上記に注意して本編をどうぞ。


百二話 魔の手のしのぎ方と早すぎた告白

 「まず俺達は再生魔法の研究と取得の二グループに分かれて動こうと思う。偽りの神の使徒として活動するのはもう少し期間を空けてけからで。それと畑山先生と永山達は相談してからどうするか決めてください」

 

 メルドから自分達はどう動くのかを尋ねられ、頼れるまとめ役である光輝がハキハキとしゃべっていく。軽いため息と共に『先生じゃなくて魔王なんですが……』と愛子がボヤき、会議場と変わった食堂に参加者ほぼ全員の苦笑が響くのを恵里は耳にする。

 

「あぁ、悪くない。となると」

 

「はい。幸利達のグループには研究を頼みたいと思ってます。あ、アレーティアさんは王様達の方を優先してください。俺達、それとアンファンさんも再生魔法の取得に向かおうかと」

 

「ん。わかりました天之河さん。状況に応じて動きます」

 

 メルドが述べたように光輝の考えは悪くないと恵里も思っている。既に再生魔法を取得した幸利達を遊ばせる必要は無いと考えていたし、愛子も神代魔法の取得に積極的になっているのを優花達から聞いていたからだ。

 

「えっ。どうしてですか? 私、フリードと一緒がいいんですが」

 

「何を言ってるんだ貴様は」

 

「……さぁ? ですが別行動と聞いてどうも落ち着かなくなりました」

 

「ひな鳥か赤子か……いいか。天之河達は貴様を戦力として――」

 

 ……ただ、アンファンが気の抜けたことを言い出したせいで軽い頭痛に恵里は襲われてしまったが。とりあえずフリードにアンファンの説得を丸投げしつつ、恵里は愛子や重吾達はどうするのやらとそちらに視線を向ける。

 

「皆さんに無理強いはしません。ですが私は大迷宮に挑戦しようと思ってます……ライセン大迷宮の攻略を天之河君達に止められてますしね」

 

 一瞬愛子がじとっとした目を自分達に向けてきたのに気づいたが、心底どうでも良すぎて恵里は無視した。愛子の方にも戦う意思があることは確認できたし、言葉のトーンからして愛子が変なことを考えているようには思えなかったからだ。

 

「俺もだ……借りを返す。それに、もう立ち止まっているのが辛い」

 

「重吾、愛ちゃん先生も……」

 

「ミュウちゃんを守りたいから?」

 

「それとレミアさんのためだよね。そうでしょ?」

 

「……あぁ。笑いたかったら笑えばいい」

 

 そこでふと重吾がぽつりとつぶやいたのを聞き、恵里は一瞬彼の方へと目を動かす。健太郎に綾子、真央が彼に問いかけていたが、重吾は皮肉気味に返事をしていた。しかし重吾の目は泳いでたりどこか遠くを見るかのようなものではい。軽く細まった目からはどこか決意か何かを秘めているように恵里は見えた。

 

「俺らは……」

 

「どう、すればいいんだろうな……」

 

(他は……まだ無理っぽいかな。ま、攻略しないといけない大迷宮は他にもあるし、もう少しぐらい様子見しよっか)

 

 その一方、玉井淳達は口ごもってたり視線をさまよわせ、健太郎と綾子と真央の三人は互いに見つめ合うだけで何も言わない。愛子と重吾が戦う意思を見せてくれただけマシかと思いつつ、ひとまず他の奴らは先送りでいいかと恵里は考える。

 

「えーと、光輝きゅんって言ったかしらぁ?」

 

 だがそんな折、不意にクリスタベルが光輝に声をかけたのが気になって恵里はそちらに目を向けた。

 

「えっと、どうしたんですか」

 

「真面目なのはいいけれど、ちょっと肩肘張りすぎよん♥……相談してからになるんだけど、ウチの娘達も連れてってくれないかしらぁん」

 

 光輝が警戒してるのは誰のせいだと思いながら聞いていた恵里であったが、彼女? の意外な申し出に恵里は軽く口を開けて一瞬硬直してしまう。

 

「え、えっと……いいんですか?」

 

「戦える人間は一人でも多い方がいいんでしょう?……アレーティアちゃん達に匹敵するあなた達でも、アンファンちゃんみたいな存在に負けたんだもの。焼け石に水かもしれなくっても、少しでも戦う力があった方がいいとあたしは思うわ」

 

 どれだけ戦力としてプラスになるかはわからないし見た目からして心底敬遠したい奴らではある。だが下手な兵士の奴らよりもはるかに強いというのは恵里もわかっている。どれだけの底上げになるかはわからないにしても、この提案に恵里はありがたみを感じていた。

 

「まぁ、いいんじゃ――」

 

「いいのクリスタベルさん!? 他の漢女の人達も連れてって!」

 

 自分もクリスタベルの提案に賛同したいと恵里は光輝に伝えようとするが、香織に先を越されてしまう。ガタッと音を立てたのに反応して恵里がすぐに顔を向ければ、イスを真後ろのテーブルにもたれかかせたままクリスタベルの方へと香織が走って行くのが見えたのである。

 

「言ったはずよ香織ちゃん♥ トータスが荒らされるのを許せなかったから他の娘達だって来てくれたのよん」

 

 しかも食い気味にクリスタベルに声をかけ、両手を包むように握りながら香織は確認していた。そんな香織を軽く困ったような顔つきで見つめながらもクリスタベルはその理由を語ったのである。

 

「~~~~っ! ありがとうクリスタベルさん!!」

 

「……どうするの光輝君。戦力の増強はこっちとしてもありがたいけど」

 

「他の人達もなんか強そうだったしね……どうする、光輝君」

 

 黄色い声を上げながらクリスタベル(化け物)にハグする香織から目をそらし、恵里は光輝の姿だけを視界に入れながら彼に問いかける。後を追うようにハジメも声をかけてきたため、恵里は一度流し目で彼を見てから光輝の方を見やった。

 

「えっとその、助かりますクリスタベルさん……その、幸利。それとフリードさん達メルジーネ海底遺跡攻略をした皆には」

 

「研究だろ? 任せろ」

 

「うむ」

 

「わかりました」

 

 口の端をかなりヒクつかせながらクリスタベルに感謝を述べた後、光輝は幸利達再生魔法を取得した面々の方に視線を向けるのを恵里は見る。

 

 フリードや鷲三らはただ短く返事をして承諾していただけだったが、真っ先に返答した幸利の声色だけはやけにウキウキしているのを恵里は感じ取ってしまう。サプライズが全然隠せてないんだけど、と思わず半笑いになりそうなのを恵里は堪えようとする。

 

「わかったわ……ユキ、アンタサプライズとかドッキリに全然向いてないわよ」

 

「了解だよ光輝っち。それと幸っち、流石にちょっとキモいよ」

 

「ブフッ!」

 

「やめろ優花、奈々それに恵里も! 傷つくんだよ俺だって!」

 

 だが優花と奈々が返事のついでにツッコミを入れたせいで思わず恵里は吹き出してしまう。流石に手で押さえた上でうつむいて周囲に飛び散らないようにしたものの、幸利の涙声で余計に笑いを堪えきれなくなって全身を震わせていた。

 

「“鎮魂”……幸利君かわいそうだからやめてあげなよ恵里」

 

「……今触れた方がいいか、幸利」

 

「そういう気遣いやめろ鈴も光輝も! 泣くぞ本気で!」

 

 すぐに呆れた様子の鈴が“鎮魂”を飛ばしてくれたおかげで笑いも収まってくれた。だが鈴と光輝が幸利を気遣い、彼が鼻をグスグス鳴らしながら反発したせいでまた再発しそうになってしまう。

 

 一気に場の空気が微妙になってしまうのを恵里は感じ取ったものの、それも光輝やメルドが“鎮魂”を連発したことで沈静化していく。

 

「……こほん。再生魔法の研究は幸利達に任せる。それとまだメルジーネ海底遺跡の攻略がまだな皆は向かってほしい。再生魔法が使える人間が増えれば研究もはかどるはずだ。だから頼む」

 

 光輝が一度食堂全体を見渡してせき払いをし、自分達に向けて頭を下げた。再生魔法取得の班に入ることもそうだし、幸利達のためにも今行くべきという考えにも恵里も納得はしている。しかしある懸念が恵里の頭の中にあったせいで素直に同意は出来ずにいた。

 

「光輝、ちょっとだけ待ってくれ。クリオネモドキの奴はどうするんだ」

 

 周囲もまたざわついており、自分と同じだろうなと恵里も皆の心情を察した。そんな中、龍太郎が声を上げたので彼の方に顔を向ければ、あちらも腕を組んで険しい表情を浮かべながら周りをチラチラと見ていたのである。

 

「俺みたいに近づかなきゃ倒せない奴じゃお荷物になるぞ。そこら辺どうするか考えてるか」

 

 近接戦闘が龍太郎のスタイルであることを考えれば恵里も納得しかなかった。それに大介や礼一、シア達に目を向けていたことを考えれば、同様の戦い方をする仲間はどうするのかという問いかけも兼ねていたのだろう。そう恵里は推測した。

 

「龍太郎、それは一応俺も考えてる。アンファンさんや王様達も話でしかわからないだろうし、クリオネモドキについて改めて確認してから話すよ」

 

「オッケー。ちょっと待ってろ」

 

「わかりました光輝さん。すぐ持ってきますからねー」

 

 光輝の方も一応考えがあるようであり、何を思いついたのかと軽く恵里は期待を寄せる。

また良樹とシアに光輝が目配せをしたのも目撃しており、何する気やらとゲートキーでどこかへと行った二人を恵里は見送る。

 

「皆さーん、お待たせしましたー」

 

「おいおいそれって……」

 

「おう。コイツ専用の水槽だ。機材ごと持ってきたぜー」

 

 数分後、良樹とシアが戻ってくるが恵里も光輝以外の皆と一緒に驚いてしまう。何せ二人が抱えて持ってきたのは自分達が捕獲したクリオネモドキが入っている円筒型の水槽だったからだ。

 

「だ、大丈夫なのか!? 愛子の話だと何であろうと溶かす上に並大抵の傷では死なない化け物なんだぞ!」

 

「あーそいつは大丈夫。これ先生が作った特製の水槽なんだわ」

 

 半径一メートル、高さが三メートルもあるこの水槽、実は潜水艇を造り終えた後に皆で一気にこしらえたものである。ちなみに潜水艇に使われているフロント水晶と同じ素材だ。

 

 この水槽の上部と底には重力魔法を放つアーティファクト、そして重力魔法を維持するための魔力のバッテリーが取り付けられている。

 

「はい。この水槽、重力魔法で中央にだけ水が集まるようになってるんです。もちろん中にいるクリオネモドキも外に出れないようにしてます」

 

 ハジメが説明したように水槽の中央には一メートルにも満たない水の球体があり、その中でクリオネモドキは浮いていた。ただ大きさは握り拳程度しかないし、元気が無いのか時折水中を泳ぐ程度で活発に動いてはいなかったが。

 

「なぁ恵里。ひとまず恵里の“縛魂”をかけてみてくれないか。海の中はともかく、大迷宮で遭遇した場合なら効くだろう?」

 

「んー、わかった。それじゃ“縛魂”――っ!?」

 

 ちょっとおかしい点はあったが大したものではないと思い、光輝にすすめられるままに恵里は“縛魂”を発動する。だが、その時に恵里は強い違和感と思いがけない光景に体が硬直してしまう。

 

「ん? 不発か? 中村にしちゃ珍しいな」

 

「……いや、違う。一瞬だがクリオネモドキの体がわずかにへこんだ。多分、自分を食ったぞ」

 

 信治の漏らした感想に恵里は心の中で違うとつぶやく。そして龍太郎の言葉に反応して上半身ごと恵里は彼の方へと向ける――恵里は感覚でわかってしまったのだ。“縛魂”はかかった。だがそれもほんの小さなかけらだけを掴んだようで、しかもその反応が一瞬で消えてしまった。だからこそ龍太郎の言葉が真実だと恵里は感じたのである。

 

「ハジメくん! 魔眼鏡出して! コイツ普通の生き物じゃない! すごい魔物!!」

 

 さっきよりも少し動くようになったこの生物を見て恵里は戦慄する。恵里はすぐさま隣にいたハジメの左腕の袖を掴み、目の前の生物は何か恐ろしい存在ではないかとを訴えた。

 

「ちょ、ちょっと待って……え、何これ。全部、全部赤黒いんだけど……」

 

 そのハジメも軽くうろたえた様子ではあったが、すぐに神結晶で出来たゴーグルを取り出してかける。そして口元と右手を震わせ、クリオネモドキを指さしていた。

 

「全部って、細胞全部が魔石か何かってことか!?」

 

「納得はいくけど冗談キツいぜ……」

 

「? さいぼうというものはわかりませんが、そんなに珍しいのですか?」

 

「オルクス大迷宮でもそんな魔物いなかったぐらいだよ、アンファンさん……」

 

 クリオネモドキがどれだけ規格外かは一瞬でこの場にいたほとんど全員に伝わったようで、そこかしこから上がる困惑や怯えの声が恵里の耳に入る。またアンファンの質問には光輝が答えてくれ、また彼女の方もそうですかとあまり興味ない様子で短く答えただけであった。

 

「恵里、お前の“縛魂”で支配下に置くのは無理か?」

 

「一瞬で何百人も人間を洗脳出来るんだったらね。微弱な魔力をちょっとずつ送り込んで洗脳するんじゃダメでしょ。弱かったらコイツのご飯にしかならないだろうし」

 

 渋い表情を浮かべたメルドからの質問に恵里はため息と共に返す。ミレディと戦った後でいつの間にやら生えてた()()を使えばもしかして、と一瞬だけ恵里は思った。だがそれで強化された自分でも多分不可能だなと考え、どれだけ無茶なことなのかも含めて皆に自分の考えを語っていく。

 

「で、どうするの光輝君。そっちは何か思いついてたんでしょ? ハジメくんもさ」

 

 周りを見渡せばこの会議に参加していたほとんどの面々が腕を組むなり難しい顔をしながらあごに手を当てるなりしていた。かくいう恵里自身もいい方法が思いつかず、額に手を当てて軽くうつむきながらも目から輝きを失っていない光輝、テーブルの上で手を組んで静かにしていたハジメに声をかける。

 

「一応恵里の“縛魂”をアテにしてたんだけどな……だったら“界穿”で()()クリオネモドキに攻撃するしかないか」

 

「やっぱり。僕も()()に直接攻撃を仕掛けるしかないと思ったよ」

 

 するとボヤくと共に光輝が意味深なことをつぶやき、ハジメが物騒なことを言うとそれに合わせてうなずく。二人の言葉を聞いて脳裏に恐ろしいものが浮かぶが、まさかと思いながら恵里は二人に問いかける。

 

「ね、ねぇハジメくん、光輝君。その直接攻撃ってさ、魔法とか爆弾をアレの体の中に送り込むってこと……?」

 

「…………あぁ」

 

「うん。それしかないかな、って」

 

 顔を背けながら重々しく光輝はうなずき、一方ハジメはテーブルの上に黒い鉱石を出しながら苦笑する。その鉱石がフラム鉱石こと自分達が製造した火炎放射器の燃料であることを思い出し、恵里は二人のガチっぷりに軽く恐怖して冷や汗をたらりと流した。

 

「ちょ、ちょっと待て! 光輝はともかくハジメ! お前の案は駄目だ! タールをたらふく食わせて引火でもさせる気か!? 爆発がどこまですごくなるか計算したのか!?」

 

「そ、そうだハジメ! 俺だって“黒天窮”や“蒼天”を数回ぶつけるぐらいに考えてただけなんだぞ! 火力と殺意が高すぎる!」

 

「ねぇ光輝。今のハジメ君の発想にも引いたけど十分光輝のも怖いから」

 

 案の定、すぐさまメルドと光輝がハジメの考えに反対してきた。雫のつぶやきに何度も首を縦に降りつつ、恵里もどうしてそこまでハジメが過激な発想に至ったかを問いただそうとする。

 

「うんホント……ねぇハジメくん、どうしてそこまでやろうとするの? 幸利君や近藤君達が襲われたのを恨んでるのはわかるし、アレが二階建てのアパートぐらいの大きさだってのも覚えてる。でも大迷宮の魔物なんかにもったいないよ」

 

「そうだよハジメくん。ちょっと怖いよ。それに恵里の言う通りだよ」

 

「うん。光輝君の案は大迷宮の中だったらそっちがいいと思う。それと恵里、鈴。あれは大迷宮の魔物じゃないよ。だから倒すのに全力を注いだ方がいい」

 

 ハジメの右隣にいた鈴と一緒にそこまでやらなくてもと説得しようとした恵里であったが、首を横に振って真剣な表情である推測を語ったハジメを見て呆然としてしまう。まさか目の前にある水槽の中の生物が『大迷宮の魔物』でないとは思わなかったからである。

 

「嘘、でしょ……」

 

「……南雲君。その根拠は? そうでなければその燃料を無駄遣いすることになるかもしれませんよ」

 

「礼一君や畑山先生が襲われてた時です。だって、大迷宮じゃなくて()()で襲ってきたじゃないですか」

 

 再度起きるざわめきに今度は恵里も加わっていた。まさかあんな凶悪な生物が()()()()の類いだとは思ってなかったからだ。しかしいぶかしげに愛子が問いかけたのに対し、ハジメが理路整然と答えを出したのを聞いてその考えはすぐに揺らいでしまう。

 

「……マジか。でもまぁ、突破させる気のねぇ生き物を配置したら試練の意味がねぇしな」

 

「え、ユキ。アンタ本気なの……?」

 

「幸っち、ハジメっちのこと信じるの?」

 

「考えてもみろよ。入るための仕掛けを解くにしたって水圧に耐えられる船を用意するか“縛羅”を使い続けて潜らないと無理だろ。漁とかで使う船ならともかく潜水艇を造れるか? 浮くのと潜るのは違うし、せいぜい重力魔法と空間魔法活用して潜るしかねぇだろ……そこで襲われたらどうする? 死ぬぜ?」

 

「それにこれまで攻略した大迷宮に()()()を守る生き物なんていなかったしね、幸利君」

 

 それでも大迷宮周辺を守るガーディアン的な存在であるかもしれない。そう恵里は思い込もうとした。だがそれも幸利とハジメが並べたロジックによって完全に崩されてしまい、とてつもない絶望に襲われて頭を抱えてしまう。

 

「嘘って言ってよぉ……もう本気で殺しに行くしかないじゃん」

 

「確かに……目の前の生き物に全部任せるぐらいでも難易度は問題ありませんでした。けど」

 

「そういや他の魔物もいた、って言ってたなアレーティア……ってことは大迷宮の魔物もコイツはエサにしてたってことかよ。引くわ」

 

 恵里が心底げんなりしながらボヤくと、アレーティアがかすかに声を震わせながら幸利の言葉に納得したことを述べる。しかもそこで大介がげっそりとした声色で考えたくもなかった事実を言ってくれたものだから、恵里はテーブルに突っ伏して長く長くため息を吐いてしまった。

 

「かわいらしい見た目の割にホントに怖いわねぇん」

 

「……その大迷宮、後で私達も攻略しようと考えてました。そうなると」

 

「あぁ。確実に消す必要があるな。それも奴が大迷宮から出ている時にだ」

 

 次から次へと面倒な敵と遭遇する運のなさに恵里はうんざりしてしまう。そんな時、チェイス達も再生魔法の取得に積極的であること、メルドの決意に満ちた声も恵里の耳に入った。

 

 そこでふと恵里は潜水艇に入れられる人間の数を数え、デビッド達やクリスタベルの同類まで連れて行くとなると流石に難しいと考えてまたため息を吐く。

 

「……やるしかないね。倒そう」

 

 むくりと体を起こし、恵里は光輝とメルドの方を見ながらつぶやいた。隣のハジメを含めて視線が集中する中、ため息と共に立ち上がりながら恵里は自分の計算を口にしていく。

 

「クリスタベルだっけ? そっちの仲間がどれだけ来るかもわからないし、潜水艇に乗れる人間だって限度があるからね。そうなると二つぐらいの班に分けて行った方がいいと思う。どう?」

 

「そうねぇん。アラベルちゃん達も行くとは思うけれど、あくまであたしの予想でしかないわ。でも十人ぐらいは行くって考えてくれると助かるわぁん」

 

 どれだけの人間が取得に向かうかは不明だが一度に潜水艇で運ぶ数にも限界がある。ならばあぶれた人間が可能な限り安全に攻略出来るようにした方がいい。恵里が意見すると光輝とメルドは彼女を見ながらうなずいて返してくれた。

 

「わかりました。クリスタベル……さん達の仲間の人達も取得に行くと考えると一気に潜水艇で行くのも難しいと思う。大迷宮に向かう班も恵里の提案通り二つに分けたいと思う。いいか皆?」

 

「あぁ」

 

「だな」

 

「うん。それで行こう光輝君」

 

 光輝が提案すればすぐに賛同の返事がそこかしこから飛んできた。そこですぐさま光輝は班分けへと移り、またクリオネモドキを倒すための手段を細かく詰めていく。

 

「ひとまず班とクリオネモドキを倒す方法は決まったな……皆、他に何か言いたいことはあるか?」

 

「あー、その、いいか?」

 

 大迷宮攻略に関する話も終わったし、もう話し合うものもないだろうと恵里も思っていた。が、幸利が何かを言いたそうな声を聞いて恵里は彼が何かサプライズを企ててたのを思い出し、一体何を言い出すのやらと体を幸利の方へとよじって向ける。

 

「あ、幸利。悪かった。話してほしい」

 

 光輝が話を振ると同時に皆がざわめき、恵里が軽く見渡しただけでも幸利に期待のまなざしを向けているのがわかる。

 

「おう改まった感じで言うのやめろ光輝。お膳立てされるとサプライズにならねぇよ……」

 

 それで一度幸利もうろたえて何度か周りを見渡すが、せき払いと共にとんでもないことをぽろっとこぼしてきたのである。

 

「コホン。俺が言いたいのは再生魔法の真髄に目星がついてることだ」

 

 あまりにも早く見当をつけたという告白。あっけにとられてしまった恵里は他の皆と同様に間抜け面をさらしたことに気づけなかったのであった……。




続きは二日後ぐらいに投稿出来たらいいなー、と思っております。
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