では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも231211、お気に入り件数も981件、しおりも489件、感想数も778件(2025/2/1 12:22現在)となりました、誠にありがとうございます。いやホント再度ランキング入りしましたし嬉しいです。
そしてbyakko_e308さん、拙作を評価してくださり本当に感謝いたします。いやもうこんな高評価してくださり本当に嬉しいです。モチベーションがまた上がりました。
今回の話を読むにあたっての注意点としてちょっと短め(約9000字)となります。では上記に注意して本編をどうぞ。
「コホン。俺が言いたいのは再生魔法の真髄に目星がついてることだ」
――再生魔法の真髄。
幸利達がこの神代魔法を手に入れたのはほんの二日前でしかない。しかもその二日間は帝国・公国との戦争やエヒトの計略に振り回されて研究の暇すらなかったのだ。
「ホントなのユキ!」
「で、でも再生魔法を手に入れたのちょっと前でしょ! それなのにどうして――」
「そ、そうだ! いくら何でも早すぎないか!」
「まぁ待てって……いいか。ミレディと治癒魔法のルーツを話した時、それと変成魔法の真髄について思い出してくれ」
これには当然恵里も大いに驚き、隣にいたハジメだけでなく皆と顔を見合わせた。まさか奈々や光輝が言ったようにこんな短期間で判明するとは思わなかったからだ。すると幸利がまたニヤニヤしてもったいぶった言い方をしてきて再度恵里はイラッときて彼をにらんだ。
「早く本題入ってよ。そのニヤけ面すっごくイライラするんだけど」
「恵里、とりあえず落ち着いて」
「やめろ恵里マジで泣くぞ……あのな。もし仮に治癒魔法のルーツが変成魔法、『有機物に干渉する魔法』だとしたらミレディに尋ねた時に教えてくれたのは魔人族の領地の大迷宮になるだろ」
軽く眉間にしわを寄せて恵里が問い詰めれば、幸利も近くにいた優花の右肩に軽くしがみつきながら泣き言を言う。とりあえずそれで軽く溜飲が降り、ハジメから説得されたことで恵里はジト目を送る程度に抑えた。すると幸利が何故あんな前フリをしたのかを説明し始めた。
「そういやそうだな。で、じゃあどうして幸利はわかったんだよ」
「逆算だ。治癒魔法が細胞に干渉……だとフリードさん達にはわかりづれぇか。とにかく体に働きかけて傷をふさいだりするんじゃないってのはわかってくれ。それ以外の方法で元の手足が戻ったってこともな」
礼一がすぐに質問を投げかけたが、それにていねいに幸利は答えていく。幸利の言う通り、治癒魔法のルーツが変成魔法でないのはミレディの説明から明らかだ。つまり治癒魔法は体の細胞そのものに作用して一気に細胞分裂を起こすといったプロセスを経ていないということになる。そのことは恵里もすぐに理解した。
「それと魔法そのものの名前だよ。俺やハジメ、恵里達オタクならわかるだろ」
「いやいきなり言われても……再生まほ、う……?」
続けざまに幸利が投げかけたヒントに恵里は再度軽く苛立ってしまう。クイズをやってるんじゃないんだからそんなまだるっこしい問いかけなんて投げないでほしい。そう思いつつ考えていると、首をかしげていたハジメがいきなり目を大きく開いたことに恵里は驚いてしまう。
「うわびっくりした……どうしたのハジメくん。何かわかった?」
「……再生、ってことはもしかして停止や巻き戻しも?」
「ハジメくん、今話してるの動画を見てるとか、じゃ……ぁ」
何があったのかと問いかけても謎のつぶやきを返すハジメに思わず恵里は軽く呆れてしまう。場違いなことを言い出したハジメをたしなめようとした時、ふと頭の中でカチリと色々なものがハマるような心地に恵里は襲われた。
「巻き戻した、ってこと……?」
「恵里もハジメくんも変なこと言わないでよ。録画したアニメとかじゃないんだから、巻き戻しなんて時間でも……えっ。ま、まさか幸利君……?」
恵里が答えと思しきものを口にすれば、鈴が呆れた様子で口をはさんでくる。だが鈴もすぐに言葉の勢いがなくなっていき、恵里がのぞきこめばわなわなと震えているのがわかった。当然だと思いつつ、恵里は幸利の方にすぐに向き直った。
「ゆ、ユキ、アンタまさか……」
「わ、私達が手に入れたのって、も、もしかして……」
「おうそうだ――時間だ。手足が無事な状態まで
軽く青ざめている優花と奈々を一瞥してから幸利がその推測を語る。瞬間、食堂は一斉に湧いた。
「はは……神代魔法、何でもアリすぎでしょ」
『時間の操作』なんて小説や漫画でも定番の破格の能力の一つだし、それを手にしたと考えればこうなってしまうのも当然だ。そう考えた恵里は自分が腰を抜かしてぺたんと席に座ったことに、口元が思いっきり引きつっていることにすらも気づけなかった。
「そ、そういえば“神速”って魔法も手に入れたけど、これもすぐに動けるんじゃなくって……」
「……貴様らの言い分が正しいのなら『自分の時を早めている』ということか? あまりに恐ろしすぎて冷や汗が止まらんな」
そうして恵里が引きつった笑みを浮かべている間にも再生魔法を手に入れた面々の話し合いが進んでいく。
「“壊刻”というのもありましたね。便利なものだと思いましたが、これも仕組みは」
「うむ。“絶象”と変わらんだろう。魔法をかける相手の時間を戻す、という点では変わらん」
再生魔法に関してはある程度の説明しか恵里を含めた面々は聞いていない。“壊刻”は確かかけた対象が
「ホント、とんでもないね……全部時間操作ばっかり。すごいや」
だが、優花やフリード達の推測を聞けばベクトルこそ違えど『時間の操作』をしていることには変わらないということも恵里はわかった。同時によくもまぁこのバタバタした数日でめざとく見つけたものだと感心してしまう。
「――待って! ちょっと、皆にお願いしていい!?」
幸利を尊敬半分呆れ半分で見ていた恵里であったが、不意に脳裏にあることが浮かぶと再度席を立って大声を出した。ハジメやフリード、エリヒドらの視線が集まる中、恵里は幸利を見ながらある思いつきを口にしていく。
「前に人間の記憶を映し出すアーティファクトを作ったって言ったよね! それに再生魔法も付け加えて動画みたいに流せるようにして! 『再生』魔法なんて名前がついてるぐらいなんだし、やれるはず! ボクの前世の記憶を皆に見せたいんだ!」
それは情報の共有であった。かつてエヒトの居城でやられた時の悔しさと辛さ、悲しさを思い出し、口にする前に恵里は顔をしかめてしまう。だが、それでもやるだけの価値があるという判断とエヒトにやられっ放しでいることへの怒りによって提案することが出来たのである。
「い、いいの恵里ちゃん!? エヒトにやられた時とか、昔の辛い記憶とかえっと……」
「いいの! 香織は心配しないで! 口だけで伝えるのにも限界があるし、記憶が穴だらけでも皆で見たら何か発見するかもしれないから!」
ハジメよりも先に香織が口を出してきたが、すぐに恵里は自分の意見をぶつけて黙らせる。下手に情報を出し惜しんで負けたらシャレにならないし、何よりこの前何十何百もの神の使徒をぶつけられて自分達は惨敗したのだ。それを考えればやらない理由は無いと思えたからである。
「で、でも恵里ちゃん……」
「あのね、ボクの記憶なんてとっくにエヒトの奴にのぞかれてんの。今更だよ今更」
自分の愚かしさに苦しんだり恥ずかしさで頭が爆発しそうになっても死ぬより遙かにマシだと考え、恵里はキッと目を細めながら周囲を見回す。自分の苦しみのせいで親友達や愛するハジメを失う訳にはいかないと決意を込め、戸惑う皆に目で訴えていく。
「……わかった。じゃあ幸利君。もし研究に余裕が出来たらこれもお願いするね」
「まぁ、やってみる。でも研究が最優先だからな。やれるかどうかはまだわかんねぇしよ」
すると隣にいたハジメが軽く息を吐いて、例のプロジェクター型のアーティファクトをテーブルの上へと置いた。それに手を当てて一度視線を向けてからハジメは幸利の方を見やっている。幸利の方も腕を組んで迷った様子ながらも承諾してくれた。
「じゃあ他に誰か質問とかはあるか?」
自分のお願いが無事通ったのを確認し、恵里も思わずホッと息を吐きながら席に座る。とりあえずこれでやれることは全部やったはず。そう考えた恵里はイスの背もたれに軽く体を預け、会議の終了を待とうとした。
「あ、あの……な、中村さんに伝えないといけないことが」
その直後であった。アレーティアが声を震わせながら自分の名前を呼んだのである。気になった恵里は彼女の方を見てみれば、アレーティアは軽く顔を青ざめさせて大介に支えられながらも手を挙げていた。
「どうしたのアレーティア? ボクの考えに何か穴でもあった? それとも他にある?」
「実は、その、中村さんに伝えそびれたことが……」
聡明なアレーティアがここで意見を出してきたことに深い意味があると思い、恵里はこれまでの提案や考えに何か欠点があったのかと尋ねる。すると前に恵里の魂の治療をやった時のことをぽつぽつと語り始めたのである。治療の際、恵里の体に二つの魂があったことをだ。
「本当はあの時言うべきでした。でもそのせいで中村さん達が躊躇してしまったら、それに未来から過去に来た人の魂はそうなるのが普通なのかって思ってしまって……」
大介の後ろに隠れながらもアレーティアは話し、またそれを聞いた恵里は思わず頭を手で押さえてしまう。確かにアレーティアの言った通り、やってる最中に魂が二つも見えたら自分だって驚くだろうし対処に迷うと恵里も思ったからだ。
「ハァ……話したっけ、前世でメルドさんの残留思念を憑依させた話」
かなり異なるとはいえ前世? で似たようなことを恵里もやってはいた。だがそれはあくまで
「アレか……確か二十八階辺りで聞いた記憶はあったが」
「あ、はい……解放者の住処で暮らしてひと月ぐらいの頃に」
「二人が覚えてるならいいや。似たようなのでボクがやったことはある。けど、意識が乗っ取られるなんてことは無かったしね。それに逆行――未来から過去にやって来た人間がどうなるかなんてわかんないでしょ。気にしても仕方ないよ」
恵里の問いかけにメルドは渋い表情を浮かべ、またアレーティアはコクコクと小刻みに頭を縦に動かしていた。そこで話のタネにした過去のことを例に自分がどうなったかについて語る。また自分というイレギュラーのケースを気にしてもしょうがないと恵里は右の人差し指をくるくると回し、ほんのりと苦笑しながら皆を説得した。
「そうだな……アレーティア、次何かあったらちゃんと報告しろ。いいな」
「はい。ごめんなさい……」
「はいはい頭下げないの。ボク感謝してるんだからね? おかげでもうエヒトの奴に怯えなくって済んでるんだから」
メルドに叱られ、消え入りそうな声で謝るアレーティアに恵里はちゃんと彼女に感謝していると伝える。事実彼女のおかげで神の使徒経由で操られることは無くなったし、神代魔法の取得も出来るようになったのだ。そのことをありがたく思っているだけで苛立ちも何も無いということを改めて口にしたのである。
「いいじゃねぇかアレーティア。中村の奴がこう言ってるんだしよ」
「……ん」
「全く、あれだけ俺達の役に立ったんだ。もう卑屈にならなくっていいだろうに……」
すぐに大介がアレーティアの頭をなでながら説得にかかり、彼女も大介の方を見上げながらこくりとうなずく。それと同時にアレーティアの震えも治まり、メルドと共に恵里はため息を吐く。
「お前達、他に何かあるか? 何でもいいからな」
「あ、そうだ。ミレディの奴に再生魔法の真髄尋ねるのよくね、メルドさん。あと重力魔法のことも聞き出そうぜ!」
「いいな。アイツなら真髄知っててもおかしくねぇし、研究の時間省けるかもしれねぇもんな!」
話がひと段落着いたことでメルドが皆に声をかけたが、すぐさま良樹と信治が思いつきを口にした。考えなしの馬鹿のくせにやるじゃんと心の中で思いつつ、恵里は口元を軽く緩ませながら話に耳を傾ける。
「よし。じゃあ浩介達にはミレディのところへと行ってもらうとして、他に何かあるか? 無いなら解散に――」
「あー待った待ったメルドさん。やる前に
そうしてまた会議が終わりそうになった時、今度は礼一が水槽の中にいるクリオネモドキを指さした。アレを食べることを提案したのである。そこで前に彼がライセン大迷宮の解放者の住処で言ったことを思いだし、恵里はポンと手を打った。
「あぁ。俺達で食べるのも兼ねて良樹とシアさんに頼んだからな。えーと、量は一人あたり……」
「いや確かにこの子そのために保護してたけど……でもこの大きさじゃ人差し指の先ぐらいが限界じゃないかな」
どうして運んできたのかについても光輝が話してくれてなるほどと思いつつも、苦笑しながら語るハジメの言葉に恵里も思わずうなずく。二十人オーバーの人間が食べるのだし、
「再生魔法で減った分を戻せばいいんだよハジメくん。ほら、ぷるぷるしてておいしそうだし皆もいっぱい食べたいよね」
「恵里、血も涙も無い提案やめてくれない?」
「えー」
だから恵里はそれを解決する妙手を提示する。なお隣のハジメは少し眉尻を下げながらそれに反対してきたため、恵里は思いっきり眉をひそめて不満を漏らす。
「何が悪ぃんだよ先生。指先程度の量じゃ食った気にならねぇっての」
「中村さんと中野君の言う通りですね。切り分けに失敗したとしても再生魔法の力で復元出来るならちゃんと私達が食べる十分な量を確保出来るでしょうし」
「そうだよ。何の問題があるの? 皆頭カタいよ」
「お願いだから愛ちゃんもひどいこと言うのやめて。エリ、アンタも!!」
すぐに信治と愛子が自分を擁護してくれたため、恵里は再度皆に再生魔法の活用を訴えかける。優花やハジメ達が反対するのに負けまいと半ばムキになりながらも恵里は声を上げ続けた。
「……アレーティアちゃん達から話を聞いてはいたけど、ホント正気を失っちゃいそうねぇん」
「大丈夫ですクリスタベルさん。慣れます」
「あの、アレーティアさん。それ絶対慣れちゃいけないことだと思うんですけど」
「そういえばいつの間にかヘリーナが席を外しましたけど、もしかして……」
「皆様お持ちしました。頼まれた小皿とカトラリー、我が城に保管された全ての調味料です」
皆を必死に説得する最中、クリスタベルらが何か言っていたが恵里は気に留めはしなかった。魔物を食べるのは生き抜くために必要な行動であり、自分達の中である種の娯楽となっていたからだ。ただ、ヘリーナの声とワゴンの車輪が回る音、彼女の足音にだけは恵里は皆と一緒に反応したが。
「よしお前らテーブルを動かせ! 立って食え! それと一つのテーブルに調味料は一つ! 別の奴を試したいなら別のテーブルに近づけ!」
「皆、これからクリオネモドキを取り出す! 奈々と俺の“凍柩”で固めるぞ! “界穿”っ!!」
「オッケー光輝っち! せーの!」
そしてメルドの指揮に従って恵里は皆と一緒にイスやテーブルを動かしていく。水槽から出たクリオネモドキが一瞬バタついていたが、それも光輝と奈々の手で一瞬で二メートル四方の氷の塊に閉じ込められて数秒で動かなくなった。その様を見て恵里は皆と一緒に歓声を上げる。
「……よし。もう動いてはいないな。再生魔法を使える幸利達はこっちに来い! 切り分けも頼む! それと何人か調味料をテーブルに並べてくれ! 他は一列に並んでメイドから皿を受け取れ!」
「ハァ……はいはい。じゃあ私がやるわ。とりあえずお刺身みたいな感じでいいわね?」
「じゃあボクは調味料並べるよ……どんな味かなぁ」
数十秒待ってクリオネモドキが動かないのを確認し、メルドの号令に従ってまた皆が動く。優花なら上手く切り分けてくれるだろうと思いつつ、恵里は調味料の配膳の方に立候補する。嫌悪や恐怖といった視線を感じつつもそれを無視し、どんな味やらと期待しながら自分の仕事をこなしていく。
「やっぱりゼリーみたいな味かな」
「クリオネって確か貝の仲間だったはずだよ。もしかするとほんのりそういう味がするかもね」
「クラゲみたいな食感なだけかもね。ほら透明だし」
「何の味もしねーってのだけは勘弁だなー。ま、食えばわかるだろ」
そうしてヘリーナから小皿とフォークを受け取り、皆と仲良く並びながらどんな味なのかを恵里は話し合った。自分も知らなかったオタクな知識を披露するハジメに感心したり、サメやエイみたいなアンモニア臭がするかもと光輝が予想したのを聞いて軽くげんなりしつつも待つ時間も楽しむ。
「よし、全員に渡ったな。じゃあ――」
『いただきます』
(さぁーてどんな味かな。ナマコとか赤身の魚とかでも面白そう。ま、美味しくて強くなれるのを期待かな)
メルドが自分達を見渡して確認したのを見て、恵里は皆と一緒に手を合わせる。そしてすぐにクリオネモドキの刺身のひと切れにフォークを立て、ドキドキしながらもそれを口に含む。
「……ゴムだこれ」
……そしてとてつもない後悔を味わった。香織がつぶやいたようにゴムか何かを噛みしめているかのような心地であり、ひと噛みごとに吐き気を伴う味わいが口いっぱいに広がっていく。端的に言っておそろしくマズかったのである。
「ソースをつければ……うん。ソースに失礼」
「……こんなことを言うのは悪いとわかってますけど、皆さんはこんなに美味しくないものを大迷宮を潜ってたときに食べてたんですか?」
「いやありません。追い詰められてよくわからない植物の根っこを皆で食べた時でもここまでマズいのはありませんでした」
とりあえず調味料をつけてみればきっと大丈夫だろうと思ってどばどばかけてみた。余裕でマズさが勝った。オルクス大迷宮を潜っていた時にマズい物を食べたことが無かった訳では無いが、それらを余裕で超える程の不快感が口からしみ出してくるのだ。
(飲み込むのも辛い……ハジメくん達も同じみたいだ)
時間を経る毎に恵里は顔がしわくちゃになっていくのを実感していた。また周りを見れば食べた皆も顔がしわっしわになってたり、口元を押さえるのが見えた。皆もこの刺身がおそろしくマズいと感じていることに恵里は軽く安堵する。
「これだったら指先ぐらいで良かっ――!」
そうして口の中に絶望的な味がこびりつき、食べた皆と共に心がくしゃくしゃになりそうになっていた恵里であったがその身に異変が訪れる。久しぶりの体が崩れていくあの感覚が来たのである。
「か、おりっ!」
「“せい、てん”っ!! 耐えて、みんなっ!!」
「“せいでん゛”っ! すずも、サポートする、からっ!!」
「が、ぐぁあぁあぁあ!!!」
「あ゛いごぉ! だえろ゛っ! たえ゛る゛んだっ!!」
香織と鈴がしっかり治癒魔法を発動しているのを確認しつつ、ここ最近はご無沙汰だった痛みに襲われた恵里は口の端をつり上げていた。味だけはどうしても無理だった。だがまたこうして自分が強くなれる。わずかであってもエヒトの計略を失敗させる可能性が高まったことに歓喜していたのである。
「え、えっとあたしも何かした方がいいわよね!? とりあえず治癒魔法出来る娘連れてくるわ!!」
「あ、白崎さんと谷口さんが既に最上級のものを使ってるんで意味がないです……」
「え、えぇ……」
泡を食った様子のクリスタベルを見て恵里は軽くニヤつく。あんな見た目でも人並み程度に慌てる様を面白がりつつも少し親近感を覚えたからである。道理で香織が心を許した訳だと激痛に苦しみながらも恵里は納得したのであった……。
「とりあえず、今のところは見当たらないね」
会議を終えた後、恵里達はすぐさま対クリオネモドキ専用の新たな武装の制作にかかった。そして午後にはそれを潜水艇に積み込み、ハジメの運転の下、メルジーネ海底遺跡へ向けて出発したのである。
「まだエリセンの底のゲートから出発して一時間も経ってないしね」
「じれったいのはわかるんだけどな。焦っても仕方ないさ」
フロント水晶に映る景色をくまなく見ながら恵里がつぶやけば、すぐにハジメと光輝がそれぞれ返事をする。確かに出発してそこまで時間が経過してない。それに記憶が正しければ今いる辺りはエリセンの住民が漁に使う海域だったはずだと恵里は思い返す。
「そうだけどさぁー……待ってるだけなのも辛いよね」
「だな。あの腐れクリオネをとっとと叩き潰してぇってのはわかる。正直イライラして仕方ねぇしな」
光輝に言われた通り焦ってるということを認めるも、恵里はため息を吐きながらイスの背もたれに体を預ける。するとななめ後ろの席にいた礼一が同意を示してくれ、恵里はほんの少しだけ気持ちが楽になった心地がした。
「近藤君、“鎮魂”いる? サービスしとくよ」
「今からイライラしてると辛いと思うし、良かったら私もするよ」
「気遣いだけ受け取っとくわ中村、谷口。サンキューな」
そして鈴と一緒に“鎮魂”をかけようかと提案するも礼一にやんわりと断られてしまう。ただ彼の声色からして口にしたことである程度落ち着けたのだろうと恵里は察する。短く息を吐いた恵里は、自分や礼一以外に落ち着かない人間がいるかどうか周りを見渡した。
「大介、お前さっきからソワソワしてるけどアレか? 便所か?」
「違ぇよ……まぁ、アレーティアの奴がちょい心配でよ」
「あー、そうか。悪い」
今回の大迷宮攻略兼クリオネモドキ討伐隊に選ばれたのは恵里、ハジメ、鈴、光輝、大介、礼一、信治、良樹の八人である。その信治が大介を軽くからかうが、彼の言い分にどこか歯切れの悪い返事をしていた。それを聞き、信治も信治でリリアーナやヘリーナ辺りでも心配したのだろうかと恵里は想像する。
「まぁ今は海の景色でも楽しもうよ。ねぇ礼一君、ここら辺で面白い生き物見なかった?」
今のところは勘が働かないし、まだまだ大迷宮まで距離がある。ならハジメが言った通り景色を楽しんだ方が得だと考え、恵里も軽く気を抜いてフロント水晶から見えるまだ明るい海に目を向ける。
「お、そうだな。そういや大群のカメがここらを通った記憶が……」
「それ、もしかしてレイディングタートルって魔物かも。確か群れる亀の魔物って聞いたし」
そうして恵里は皆と雑談を交わし、一時の団らんを楽しむ。皆となら何があっても乗り越えられる。そう信じて。
悪食「イヤァァ助けてママー!」
恵里達『お前が飯(まま)になるんだよ!』
2025/3/1 ちょっと修正しました。