あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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ようやっと仕上がりました!
では改めまして、読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも233094、お気に入り件数も994件、しおりも498件、感想数も779件(2025/2/17 22:41現在)となりました。誠にありがとうございます。いやはやこうして多くの方がまた自分の作品をひいきにしてくださることがとても嬉しいです。

今回の話を読むにあたっての注意点として久々に長く(約15000字)となりました。では上記に注意して本編をどうぞ。


百四話 過去に打ち勝った先には

“燃えろ燃えろー!!”

 

 火炎放射器を振り回しながら恵里達はメルジーネ海底遺跡を走り抜けている。理由は一つ。今も通路のそこかしこから這い出て来ているクリオネモドキを抹殺するためである。

 

“燃料が足りないなら魔法も使おう! クリオネモドキを()()させちゃダメだ!”

 

“うん! 使いそびれた燃料を空っぽにしちゃおう!”

 

 今回大迷宮攻略に参加したメンバー全員で燃やしながら進んでいるため、通路は灼熱地獄と言っていい有様だ。だがそれもグリューエン大火山でも使った冷気をばらまくアーティファクトと酸素ボンベをフルに活用し、“念話”で話をしながら恵里達は進んでいた。

 

“あれだけやってまだ死なねぇなんてしぶといなホントよぉ!”

 

“恵里が縛魂をかけた時に龍太郎君が自分を食べたって言ってたしね! 自分の体を切り離すことぐらい思いつくべきだったよ!”

 

 良樹の言葉に恵里は心の底からうなずき、ハジメの言葉に奥歯を噛みしめる――こうしてメルジーネ海底遺跡を焼き払いながら進んでいるのは、恵里達がクリオネモドキを倒すのに失敗したせいであった。

 

“っ! 例の場所だ!”

 

“うわタコ食ってやがるっ!! あれだけやってまだこんだけ残ってたのかよ!!”

 

 恵里達はメルジーネ海底遺跡の入り口近辺で例の巨大クリオネと遭遇した。そこで苦戦しつつも作戦通りゲートを搭載した魚雷()()を突っ込ませ、相手の体内にタールを送り込んだ。そして投げ込んだ手榴弾で着火して爆破すること()成功した。だがそこからが問題だったのだ。

 

“全員打ち合わせ通りに動いてくれ! 俺もすぐ動く!”

 

 クリオネモドキはタールに浸食された体を分離して大迷宮へと逃げたのである。そこで恵里達も大慌てで大迷宮に入るが、潜水艇から下りた直後にそのクリオネモドキと思しきゼリーとエンカウント。こうして片っ端から焼いて回りながら進んでいたのである。

 

(足が倍ぐらいあるし、足の半分の先は金属っぽい。こんなのすら食べるとかホント化け物だね!)

 

 そうして進んだ恵里達は幸利らから報告のあった大きな空間へとたどり着き、あるものを目撃する……そこに()()()()であろう三メートルはあるタコのような魔物とそれを食らうクリオネモドキの姿をだ。

 

(こんな状況でも逃げも迎撃もしない……なるほどね)

 

 恵里達が大広間に到達すると同時にそこかしこの隙間からゼリー状のものが湧き出てくる。迫ってくるクリオネモドキの一部を火炎放射器で燃やしつつ、恵里は魔物を食らい続けている巨大なクリオネモドキから目を離さなかった。

 

“必死にご飯を食べなきゃ死ぬ、ってコトだね。食べて体力回復してる間に倒そう皆!”

 

 それ故に恵里はある答えにたどり着く。

 

 自分達が迫っているのに魔物を食べることに集中している。つまり何かを食べることでクリオネモドキも回復するということ。また自分達の迎撃を後回しにしているということは今奴が追い詰められているということ。つまり相手が完全に追い詰められているということにだ。

 

“あぁ、奴を追い込むぞ! 鈴、けん制してくれ!!”

 

“特大の奴、決めちゃって!”

 

“うん、わかった!――蒼天っ!”

 

 “念話”で恵里が皆にそのことを訴えれば、すぐさま光輝とハジメが指示を出した。鈴が魔法の名前を叫ぶと同時に恵里の視界の端が青白く染まる。次の瞬間、青く輝く炎の球体が恵里達に迫っていた無数のゼリーへと飛び込んでいく。

 

“恵里、信治! 二人の()()()()()を頼む!”

 

“オーケー! 火の神って崇められた信治様に任せろ! 瞬光!!”

 

“わかった。それじゃあボクも本気出そっか――覇潰! 瞬光っ!!”

 

 それに続いて光輝が新たな指示を出すのを聞き、()()を使うのかと恵里は確信して笑みを深める。信治が自信満々の声を上げて“瞬光”を発動したのに続き、恵里もミレディ戦で入手したであろう技能――“限界突破”の上位互換の技能と“瞬光”を使う。

 

(くっ!……これをアレーティアは、平気でやってるんだよねっ! ホント嫉妬するなぁ!!)

 

 限界を超えて拡大した知覚能力と集中力を駆使し、恵里は暴れ狂う魔力を練り上げて少しずつ形にしていく。

 

 昨日この魔法の実現に成功した彼女の姿を、薄れた前世? の記憶の中で事もなげにある魔法を使っていたアレーティアの姿を思い出したのもあって恵里は奥歯が砕けん程に噛みしめている。だがそんな彼女に負けてたまるかと恵里は持てる全ての力を使い、ある()()()()を発動しようとしていた。

 

“ハジメ、大介、礼一は引き続き火炎放射器で攻撃! 良樹は風属性の魔法でクリオネモドキを出来るだけ巻き上げてくれ!――瞬光!”

 

“わかってる!”

 

“へいへいっと!”

 

“おうよ! まだまだ礼が足りねぇって思ってたからなぁ!”

 

“任せな! ついでに谷口、俺に合わせろ! 嵐帝!”

 

 鼻から生暖かいものが伝うのを感じていると、恵里の目の前で竜巻が吹くのが見えた。鈴の操る青白い炎と重なり合うように竜巻が動いて炎の嵐を巻き起こす。

 

“っし! これで大体消えたァ!”

 

“皆、今だよ!”

 

 燃えさかる竜巻がゼリーの津波を巻き上げ、そのことごとく蒸発させていくのが恵里の視界に映る。十秒足らずで消えた鈴と良樹の合作の魔法であったが、タコの魔物を食らい尽くした巨大クリオネ以外の全ての敵を燃やし尽くしたのである。

 

“鈴、助かったよ! それじゃ――蒼龍!”

 

“んじゃ本領発揮といきますか! 蒼龍っ!”

 

 そして恵里は信治と共につい最近使えるようになった必殺技――前世? でアレーティアが使っていた蒼炎の龍を暴れさせる魔法を発動する。重力魔法を駆使して“蒼天”の炎をコントロールし、龍の形にしたものを恵里は己の左隣へ来るよう動かす。

 

“んじゃま行くか中村”

 

“はいはい。とっとと終わらせよっか”

 

 信治のニヤついた声が頭の中に響き、軽く舌打ちしそうになったのを堪えながら恵里は持っていた杖を前に向ける。もちろんその先にいるクリオネモドキへ、どこかの隙間から逃げだそうとしているのか縮んでいる因縁の相手へとだ。瞬間、二匹の青白い炎の龍が上下左右に蛇行しながら突っ込んでいく。

 

“よし、これなら!”

 

“ざまぁみろ! 俺らにケンカ売っといてタダで済むと思うなよ!”

 

 重力場になっている口が開くと、クリオネモドキを構成するゼリーが二匹の蒼炎の龍の口へと一気に吸い込まれていくのが恵里の目にも見えた。技能の補助ありきといえど記憶と同じ光景が広がるのを見て、上手く再現出来たことに恵里のテンションは青天井となる。

 

“崩軛! 選定と黒天窮!!”

 

 信治と一緒に炎の龍を自在に動かしていたところへ光輝がアシストをキメてくれた。引力を切断する魔法を、そして対象を選定する魂魄魔法とあらゆるものを飲み込む最強の重力魔法を組み合わせたものを発動したのである。

 

 結果、そこかしこに潜んでいたであろうゼリーが真っ黒な球体へと吸い込まれていき、恵里達の魔法が消滅する頃には燃えさかる炎以外何も残ってはいなかった。

 

“ふぅ~……お疲れ、皆”

 

“流石にこれで大丈夫だと思いたいな。皆の感知系の技能も引っかかってないしな”

 

 すぐさま皆で話し合うと、生き残ったクリオネモドキがいないかどうか皆で燃えさかる大広間を移動しながら探す。しかし恵里だけでなく皆の感知系の技能に何一つ反応しなかったこともあり、恵里達はそこで捜索をやめたのである。

 

“とりあえず酸素濃度は相当低いだろうし、先に進んだ方がいいと思う”

 

“火の勢いも段々弱くなってるからね。酸素ボンベが空になっちゃう前に突破しなきゃ”

 

 またハジメと鈴が述べたように酸素ボンベの中身が残り少ないことも捜索をやめた理由であった。

 

 空間魔法に適正のある鈴や光輝の腕前が上がったことでボンベの容量が一時間分にまで跳ね上がってはいる。だがクリオネモドキを抹殺するべく火炎放射器を使いながら少しずつ恵里達は進んでいた。そのことを恵里も自覚している。

 

“えーと時間は……残り二十分切ったな。急ごう、皆”

 

“本来のルートだとどれだけ時間がかかるかわかんないしね。行こっか”

 

 光輝も取り出した時計をチラッと見てからそう言及している。幸利達はイレギュラーな方法で攻略していることを考えると自分達にどれだけ時間の猶予が残っているかもわからない。ならもう先に進む以外無いと恵里が考えを口にすれば、皆もそれにうなずいて答えてくれた。

 

(ここから先は運任せかな……とりあえずクリオネモドキ死んでますように。厄介な敵と戦いませんように)

 

 クリオネモドキが生き延びて奇襲を仕掛けてきませんように、面倒な敵と遭いませんようにと祈りつつ、恵里は仲間達と共に先へ進んでいくのであった……。

 

 

 

 

 

“とりあえずここ通らないとダメっぽいね”

 

 そうして恵里達は正規のルートを進んでいった。道中ドンナーや聖剣でマトモにダメージを与えられない頑丈な魔物が次々と現れたものの、鈴や光輝が空間魔法を駆使して倒していった。愛子や皆のおみやげとして十分な量の肉もちゃっかり確保している。

 

“これだけ大きい上に先が見通せない……ヒュドラとかマグマの蛇みたいな強い魔物が出てくるかもな”

 

 現在恵里達は水の壁へと行き当たってしまっていた。それも潜水艇が通れるほど大きく広い、まるで水族館の巨大水槽のようなものにだ。触れようとすればプールに手を突っ込むように簡単に沈んでしまうのに、奥が不自然に暗くて見通せないのである。

 

 光輝が言った通り、何か凶悪な魔物が待ち構えていてもおかしくないなと恵里も思ってしまう。

 

“とりあえずクリオネモドキの気配もないみたいだし、そのまま潜水艇を出して乗っちゃう?”

 

 鈴が言った通りクリオネモドキと思しき気配は今のところない。もし来るならこの水の壁を通った先にいる凶悪な魔物か何かと三つ巴を覚悟で襲ってくるのではないかと恵里は考える。

 

“ボクはそれでいいと思うよ。ハジメくんは?”

 

“そうだね。何が出てくるかわからないし、積んでる魚雷も残り二十発ぐらいだから……”

 

“魚雷発射するのって船の底だよな? 谷口や光輝に界穿使ってもらってよ、俺らが魔法飛ばすとかどーよ”

 

 そこで鈴に同意しつつ恵里はハジメに話を振れば、彼も自分と鈴の意見に同意しつつもある懸念を語ってくれた。そのことに対して恵里も不安が無い訳では無かったが、すぐに良樹がいいアイデアを出した。これに恵里も思わず手をポンと打つ。

 

“さえてるじゃねーか良樹。先生もそれでいいかー?”

 

“うん。僕も良樹君の案に賛成。光輝君は?”

 

“あぁ。いいと思う。ただ、界穿を使うと服が濡れて動きづらいだろうから――”

 

 そうして話し合いは進み、具体的にどう攻撃するかやどんな格好で船底にいるかも決めていく。その結果――。

 

「また着るなんて思わなかったね」

 

「バカンス以外で使うとは思わなかったなぁ」

 

 潜水艇の操舵をハジメに任せて恵里達は船底の後部にいた。それも水着で、である。ちなみに恵里はブラジリアン水着もどきがお陀仏になったため、新たに購入したクロスデザインのものを着ていた。

 

「マージで先生が自分の宝物庫に入れといてくれて助かったわ」

 

「確かにな。でも皆、いつもの格好と違って直撃を受けたらひとたまりも――」

 

“み、皆! 外見て! 前方!”

 

 そうして鈴と顔を合わせながらこういう目的で水着を着る羽目に遭うとは思わなかったと言い合ったり、礼一の言葉にうんうんとうなずいていた時であった。いきなりハジメが“念話”を飛ばしてきたのである。

 

「外、ってことは――鈴」

 

 不意打ち同然に頭に大きな声が響いたものだから両手で恵里は頭を押さえてしまう。だがハジメが無意味に声を張り上げる訳も、たとえ敵が来たとしても多少雑魚が群れて出てきた程度で騒ぐはずがないということも恵里は理解していた。

 

「うん。“仙鏡”……嘘ぉ」

 

 すぐに恵里は鈴と目配せをして“仙鏡”で外の様子を映してもらう。一m×一mの画面に映し出された光景を見て、鈴がつぶやくと同時に恵里はあごが外れそうになった。

 

「ふ、船だ……し、しかも浮いてねぇか?」

 

 ――透明なカプセルに入った凶悪な武装船。一言で言うならばそれに最も近いものが映っていたからである。

 

「あ、あぁ……それにあのアーティファクト、きっと武装だ。それもものすごい量じゃないか」

 

「魔方陣も見た感じ攻撃ばっかだろ。エゲつな……」

 

 普通にフロントの部分には窓もあるし船内も見える。よく見れば操舵のための輪っかもあるが中に人はいない。その船体には無数の魔方陣が刻まれており、礼一が言った通り大体が攻撃のためのものであったはずだと恵里も記憶している。

 

「あの船、空気の膜か何かで包んであるのか? その発想はなかったな」

 

“負け、た……完全にアイデアで負けた”

 

 そしてその殺意の塊はうっすらと輝く空気か何かによって卵状に包まれており、海水に触れずに宙に浮いていたのである。光輝のつぶやき、それに大介達が小声で同意した声が聞こえ、またハジメの打ちひしがれた声が恵里の脳裏に響いた。

 

「いやハジメくん打ちひしがれてる場合じゃないからねもう来たぁ!?」

 

 気持ちはわかるが言ってる場合じゃないでしょとすぐさま恵里はツッコミを入れる。その直後、例の武装船を包む膜のようなものが一段と輝き、すさまじい勢いでこちらへと突っ込んでくるのが映像越しに見えてしまう。

 

“皆、重力制御の装置も起動したよ!”

 

“流石ハジメくん! おかげで壁や床に叩きつけられずに済んだよ!”

 

 すると一瞬揺れたのを恵里は感じ、ハジメが潜水艇を動かしたのだと察する。それとハジメの報告を聞き、水の壁へと突入する前にこしらえたアーティファクトがしっかり効果を出したのを理解した恵里は即座に彼を思いっきり持ち上げた。

 

“わかったハジメ! いつでも攻撃の指示を出してくれ!”

 

“うん! とりあえず仙鏡で攻撃を確認しといて!”

 

 武装船が迫ってくる映像に目を向け、光輝とハジメの言葉にうなずきつつ恵里は杖を強く握った。

 

 魔力は自分の魔晶石で回復したものの、クリオネモドキを倒した際に使った“覇潰”の後遺症である疲労感がまだ全然抜けてない。水で満たされた空間の中ではさっき披露した“蒼龍”だって色んな意味で使えない。だがそれでもやるしかないと腹をくくったからである。

 

「なんか撃ってきやがったぞ!」

 

「大丈夫、ハジメくん回避したから! あとアレ多分光属性の魔法!」

 

「多分“神威”やそれに近い代物だ!……殺意がちょっと高すぎないかここ!?」

 

 武装船とあわやぶつかる寸前、向こうの方からレーザービームのようなものがカッ飛んで来たのを見て恵里も思わず目をむいてしまう。鈴がその正体に言及し、また光輝が大まかな推測を述べたのを聞いて恵里は絶句した。

 

「高ぇってレベルじゃねぇぞ! マジでハジメがミスったらそのままお陀仏だ!」

 

「谷口、早くあの船映せ! ハジメの指示待ってないで俺らが攻撃仕掛けないと殺される!」

 

「ま、待って! 今映すから!」

 

 いくら“縛羅”で船を守れるといってもハジメの魔力が尽きてしまえばそこで終わりなのだ。ましてやこの潜水艇だって魔力を使って動かしているのである。大介と礼一がパニック同然に鈴に口出しするのも恵里はとがめられなかった。ただ、鈴が向こうの姿を一刻も早く捉えてくれるのを願って彼女をじっと見つめるしか出来なかったのである。

 

“皆、今残りの魚雷を全部発射するよ! 衝撃に備えて!”

 

“わ、わかったよハジメくん!”

 

 空中に浮かぶ画面の映像から潜水艇が弧を描いて反転したのを恵里は確認する。その直後、脳裏にハジメが攻撃に転じる旨の“念話”が飛び込んできた。すぐに魚雷が発射のための装置に転がり込んでいき、残った二十発が一気に消える。

 

「鈴、画面増やして! そうしないと確認が間に合わない!」

 

「わかってる! “仙鏡”! これで五つぐらいに増やせば――えぇぇえぇ!?」

 

 状況を確認するため、恵里は鈴に映し出す画面の数を増やして対応するよう頼み込む。鈴もすぐにその頼みを聞いて画面を瞬時に増やしてくれた……その結果、とんでもないものを恵里達は目撃してしまう。

 

「「「「はぁあぁあ~~~~~!?」」」」

 

「ち、チートだチート!!」

 

「インチキでしょこんなの!!」

 

「あぁもうこれだから解放者は!!」

 

 例の武装船の前方にゲートと思しき膜が現れ、そこに飛び込むと同時に姿を消してしまったのである。解放者どもが造った船のヤバさに全員驚き、思わず全力で罵倒してしまう。

 

「っ! 後ろ!!」

 

 幸い鈴が増やしてくれた五つの画面の一つに逃げたあの船が映ってくれはした。だが既に向こうは攻撃に移行していたのである。魔方陣の一つが輝き、そこから雷撃がほとばしってきたのだ。

 

“ハジメくん、後ろに来た!”

 

“嘘でしょ!? 障壁展開――くっ!”

 

 すぐにハジメが潜水艇に付与された“縛羅”を発動してくれたおかげで直撃は免れたようだ。大した振動も起こらず、ハジメの方からまだ大急ぎで指示が飛んでこないことに恵里はホッと一息吐く。だが武装船に刻まれた別の魔方陣が輝くのを見て、ふと寒気に襲われてしまう。

 

「おい凍らせてきたぞ!?」

 

「嘘だろ!? これ足止めたら死ぬじゃねぇか!!」

 

 今度はいきなり潜水艇の周囲が凍り始めたのである。すぐに潜水艇が動いてくれたことで氷の中に閉じ込められることは無かったものの、今度はあのレーザービームもどきの魔方陣が輝きだした。それも複数がだ。

 

“またレーザーのヤツが光ってる! ハジメくん、もっとスピード出して!!”

 

“は、ハジメ! 今すぐ回避!! 無理なら俺が迎撃に出る!”

 

“な、なんとか避けてみせる! 皆は迎撃に移って!”

 

 いずれの攻撃も紙一重でハジメがかわしたのは画面越しでわかった。だが同時に砲撃が障壁をかすった際にかすかにヒビが入ったのも恵里は見てしまう。あんなものを立て続けに食らって無事で済むとは到底思えず、恵里は青ざめてしまった。

 

“……出し惜しみなんて無しだ。アレを使う。一分、いや三十秒でいい。皆、時間を稼いでくれ”

 

 そんな時、光輝が声を震わせながら“念話”で命令を出してきたため思わず恵里はつばを呑んだ。

 

「待て光輝! ぶっつけ本番でやる気かよ!」

 

「おいマジか! いくら光輝だって無茶だろ! 大人しく他のにしとけよ!」

 

 良樹や礼一の言った通り、練習で何度か成功させた程度でやる気だとは恵里も思いもしなかった。実際、前世? で彼が使った時はそんな短い時間で発動するのは無理だったはずだと恵里は思い返す。

 

「頼む!……やらせてくれ。時間がない。これを使わないで後悔したくないんだ!」

 

 だが光輝は声を張り上げ、すぐに頭を下げてやらせてほしいと頼み込んだ。すぐさま船底の中でざわめきが広がり、恵里もどうしたものかと考え込む。

 

「……やれるんでしょ? ボクの前世と色々違うんだもん。ね?」

 

 前世? の考えなしな彼はともかく、慎重な今の光輝が追い詰められたからといってこんな博打を打つだろうか。そう思った恵里であったが、ふと“限界突破”と他の技能も合わせればもしかするといけるかもしれないと計算する。

 

「あぁ」

 

“もう……無理だけはダメだよ?”

 

「ハァ~……ったくしゃーねぇなぁ! 俺らも乗ってやる! いいだろ、な?」

 

 そしてほんのりと目を細めながら光輝を見れば、彼も見つめ返してこくりとうなずいて返す。するとハジメが真っ先に観念し、また大介も困ったような顔をしながら大きな声で同意を求めてきた。

 

「ったく貸し一つな。やるぞ光輝」

 

「……わかったよ、光輝君。じゃあ鈴は“界穿”でゲート開いて、ついでに攻撃すればいい?」

 

 恵里が周りを見渡すと、誰もがやれやれといった様子でうなずくなり声に出すなりして承諾していた。鈴も目を細めて覚悟を決めた様子で光輝を見つめており、どう動けばいいのかと光輝に相談を持ちかけていた。

 

「……大丈夫なのか?」

 

「何枚か画面を消さないとちょっと厳しいかも。でもその分は」

 

「俺らの出番か……やるしかねぇな。わかった」

 

 いくら鈴が空間魔法の適性が高くても“限界突破”も“瞬光”も使わずに発動出来る数は限度がある。両方の技能を使うとしても攻撃の方に集中した方がいいと恵里も思っており、また鈴も同じだろうとも考えていた。そのことを察した大介らもすぐにうなずき、自分達がやるとを提案してくれた。

 

「大介、礼一。“仙鏡”は幾つやれる?」

 

「谷口レベルは一枚でも無理だ。“限界突破”すれば半分の奴を二枚ならやれるはず」

 

「俺も大介と同じだ。やるなら十分そこらでキメるぞ」

 

「谷口が攻撃もやるってんなら俺らもやらねぇとな。やるとしたら……」

 

「重力魔法か水魔法かな。ただ、この船を壊しかねないから鈴とは別にゲート開かないと」

 

 話し合いはあっという間に進んでいく。術師でない大介と礼一が自分達の『目』の役割を、そして恵里ら術師の面々と光輝が攻撃を担当するのがすぐに決まっていった。

 

“僕も後で武装を――っと! 皆、流石にちょっと厳しくなってきた! そろそろお願い!”

 

「わかったハジメ!――よし。大介、カウントを頼む!」

 

「わぁーった! カウント始めるぞ! 三十!」

 

 水中で起きた無数の竜巻がこちらに迫ってくるのが画面映しに見え、またハジメから催促されたこともあってすぐに作戦がスタートした。

 

『“限界突破”ぁ! “瞬光”!』

 

「いくよ! “限界突破”! “瞬光”!」

 

「“覇潰”!! “瞬光”!」

 

 そして作戦通り恵里は皆と一緒に切り札を使う。反動でしばらく動けなくなるのも恵里は承知しているし、そのことへの焦りもある。だがここで全力を出さなければ絶対に負けるのもわかっていたからだ。

 

「俺らに任せろ谷口! “仙鏡”!!」

 

「あとお願い! 檜山君、近藤君!――“界穿”っ!!」

 

「任せとけ! 絶対切らすか! “仙鏡”!!」

 

 鈴が“仙鏡”で出していた画面を二枚消せば、代わりに大介と礼一が五十cm×五十cmのものを合計四枚展開する。そして鈴が三つのゲートを用意してくれた。

 

「よっしゃやるぜ! せーのっ」

 

「「「“黒天窮”!!」」」

 

 そして恵里は画面を確認しながら信治、良樹と共に最強の重力魔法を発動する。目標は何発もの魔法を発射しながら突っ込んでくる武装船の進路。鈴が展開してくれたゲートを通り、三つずつ発動した最強の重力魔法を、恵里達は映像で確認しながら操作していく。

 

「散々耐えて最後に避けやがって! ホント腹立つな!」

 

 恵里達が放った“黒天窮”を武装船は何度も強引に突破し、またある程度結界にヒビが入った途端にゲートを開いて別の場所へと逃げていった。

 

「あぁもう! 第二弾いくよ! “黒天窮”!」

 

「キレてる暇あるなら殺しに行かねぇとな! “黒天窮”!」

 

 潜水艇の脇に現れた途端、結界が元通りになっているのを見て礼一と一緒に恵里は苛立ってしまう。だが自分達の役割は本命のための時間稼ぎだと思い直し、信治と良樹を一瞥してから二人と共に再度攻撃を仕掛けていく。

 

“ありがとう皆! これならまだどうにかかわせる!”

 

「――十! おい谷口! 後は任せろ! “限界突破”ァ! “瞬光”! “仙鏡”ォ!!」

 

「うん! お願いするね!――“限界突破”! “瞬光”! “黒天窮”!! “界穿”!!」

 

 幸いこちらが攻撃しているせいか向こうの攻撃の手はある程度緩んでいた。潜水艇の障壁に攻撃が当たる頻度が減り、これならイケると思った矢先に大介が声を張り上げた。残り十秒耐えればいいこと、そして鈴も妨害に動いてくれたなら勝てる。そう恵里は確信する。

 

「八! 七! 六!――」

 

「トドメ刺す気でやれ! そうじゃなきゃ勝てねぇぞ!」

 

「わかってる!」

 

 だが魔晶石にためた魔力のストックもそろそろ底をつきそうになるのを恵里は感じていた。そのことに軽く舌打ちしそうになりつつも恵里は皆と一緒に重力球を操り、武装船の攻撃も障壁も破壊せんと暴れ続ける。

 

「残り三! 二! 一!……光輝ぃ!!」

 

「――待たせてごめん、皆。“神威・千変万化”」

 

 そして遂に時が満ちた。

 

 光輝から感じていた圧倒的な魔力が彼の背後へ集まっていったのを恵里の“魔力感知”が捉える。安堵と期待に駆られた恵里が光輝の方を見れば、真紅となった体の色以外記憶と遜色ない姿をした竜がそこにいた。彼の後ろにそびえ立ち、いななくような動作をしているのが見えたのである。

 

「やった……!」

 

 ――本来砲撃という形でしか発動できない神威を常時発動状態にし、操り続けることが出来る大技。恵里の前世? で光輝が使った最強の技である“神威・千変万化”が発動したのである。

 

「“界穿”……いっけぇーー!!」

 

 光輝は目の前にゲートを開き、大上段へと構えていた聖剣を前へと振り下ろす。すると天井に届きそうなほどの巨体であった竜はそのゲートへ向かってはばたいていく。

 

「っ! 出た!」

 

「散々皆を待たせたんだ。ここからは俺がやってやる!」

 

 水中に姿を現した竜はいななくように首を動かした後、一目散に武装船へと向かっていく。雷撃に砲撃、竜巻などを時にはかわし、時には耐えながら竜は接近する。画面から見て武装船と二メートルほどの距離まで近づいた竜崎はその顎から体と同じ色のブレスを叩き込む。

 

「アレに耐えるのかよ!? 本気出した光輝の“神威”だぞ!?」

 

「そう簡単に突破はさせてくれないか! 皆、援護を頼む!」

 

「「「「「「了解っ!!」」」」」」

 

 しかし真紅の竜が放ったブレスに武装船の障壁はヒビ一つ入っていない。しかもかわすことなく別の魔方陣を展開していることから余裕で耐えているとしか恵里にも見えなかった。良樹と一緒にドン引きしていた恵里であったが、光輝が命令を出してくれたおかげですぐに立て直すことが出来、再度杖を構える。

 

「バリアの傷が残り続けてる! もう少しで割れるかもしれない!」

 

「ハッ、そうこなくっちゃなぁ! 俺らであのクソ船沈めんだよ!!」

 

 そうして何度も何度も重力球を潜水艇の外へと出し、縦横無尽に動く武装船へと恵里は仲間達と共に攻撃を仕掛け続ける。時に相手の魔法を呑みこみ、時に光輝が操る真紅の竜と共に敵のバリアへと攻撃を仕掛けていた。

 

「この……流石に壊れろよぉ!!」

 

 だが思った以上に武装船の結界は頑丈だった。何度最強の重力魔法をぶつけても、ひとつひとつが“限界突破”で底上げされた“神威”と同等の竜の攻撃を受けても亀裂が広がるだけで割れた様子がないのである。これには恵里も息を荒くして苛立ちを露わにしていた。

 

「ホントな! いい加減にしろってんだよ!」

 

「くっ!……もう数分は保たせるけど、それでも無理なら……っ」

 

「ちょっと、鈴も辛くなってきちゃった……魔晶石も、からっぽだよ……っ!」

 

 また苛立ってたのは自分だけではないことも恵里はわかっていた。良樹達の舌打ちがちょっと前から恵里の耳に入っており、また光輝と鈴も弱音を吐いているのも聞こえていたのである。

 

(せめて、せめて“黒天窮”を攻撃だけに使えてたら!)

 

 “覇潰”と“瞬光”のおかげで未だ扱いの難しい“黒天窮”も複数展開し、またちょこまかとゲートで逃げ回るあの船に当てることは出来ている。“限界突破”を使っている鈴達だってそうだ。

 

 しかし攻撃と防御を兼ねて魔法を操っているからこそダメージを与える機会が減っている。ハジメが必死になって潜水艇を動かしてくれているからまだ直撃どころかバリアを破られたこともない。それでもジリ貧もいいところだと恵里は直感していた。

 

“皆お待たせ! ちょっと手間取ったけど、魚雷造ったよ!”

 

 ――だからこそ、唐突に頭の中に飛び込んできたハジメの声が恵里にとってはとても心強く思えた。すぐに恵里は鈴の方を向き、互いにうなずき合った。

 

“ハジメくん、今繋ぐよ! 界穿!”

 

「うん! 僕の宝物庫を!」

 

 すぐに鈴が操舵室とのゲートを開き、そこからハジメが使っている宝物庫が飛んでくる。それを鈴が受け取ると即座に幾つもの魚雷をその場に出し、浸水した船底に浮かべた。

 

“震天を付与してるから火力はあるはず! 恵里、後はお願い!”

 

「っ、“心導”!……そっか」

 

 ハジメの言葉にハッとすると、恵里はすぐさま鈴が出した三十全ての魚雷に向けて“心導”を発動する。想像通り全ての魚雷に微弱な意思のようなものを感じ、どうしてハジメが自分を名指ししたかを恵里は理解する。

 

「恵里に、ってことは」

 

「……皆、ごめん。“黒天窮”で攻撃する代わりにさ、この魚雷ボクが全部使っていい?」

 

 こちらをじっと見つめる鈴にうなずき返し、恵里は皆の顔を見ながら問いかける。すると誰もが不敵な顔を浮かべた。

 

「やっちまえ中村!」

 

「俺らじゃ流石にこんな量操るのも手間だしな!」

 

「俺も竜の操作で手一杯だ。頼むよ、恵里!」

 

「おーい谷口ぃ! 早くゲート開けー!」

 

「んなグダグダ話してる暇あるならとっとと俺らを勝たせろ! もうしんどいんだよ俺ぇ!」

 

 光輝達に任され、勝利を託されたことで恵里の心は奮い立った。ここで意識を失ってる場合じゃ無い。せめてハジメから預かったこの兵器を使い切るまで倒れるもんか、と手の甲で目元を、垂れ流していた鼻血をぬぐい取った。

 

「――うん! 鈴っ、ゲート開いて!」

 

「わかった、後頼むから “界穿”っ!!」

 

「よし。“心導”! いっけー!!」

 

 そして恵里は全ての魚雷に指示を出す。何度となく中と外を繋いだことで恵里の腰元の辺りまで水位が上がっており、鈴が低い位置に開いてくれたゲートを三十もの魚雷がくぐっていった。

 

「道中は俺達が!」

 

「後は頼むぜ、中村ぁ!」

 

 やはり魚雷を迎撃しようと武装船に刻まれた無数の魔方陣が輝く。だがすぐに光輝達が真紅の竜と重力球を操り、魚雷へと迫る無数の魔法を防ぐ盾となってくれた。

 

(流石に全部は撃ちこめない。けどっ!)

 

 それでも守り切れずに被弾して爆発したり、誘爆する魚雷もあった。障壁越しに潜水艇がかすかに揺れるのを感じつつも、恵里は残った十発の魚雷を武装船へと叩き込む!

 

「っし! 割れたァ!」

 

 遂に武装船を守っていた結界を破壊することに成功した。中まで水で満たされたことで武装船の動きは大いに鈍り、おかげで飛んでくる無数の砲撃を潜水艇が軽々とかわしていくのを恵里は目撃する。

 

「ごめん……あと、おねがい……」

 

 だが先に音を上げてしまったのは恵里達の方であった。もう恵里は“覇潰”を維持することすら出来なくなり、指先にわずかに力すら入らなくなってしまう。結果、そのまま前に倒れ込んでしまい、水面に顔を強打しそうになる。

 

「恵里っ……ごめん、すずも…………」

 

「俺も……ごめん、もう無理、だ」

 

「だぁーっすまん! もう限界っ!!」

 

 幸い鈴が体を抱きかかえ、肩を貸してくれたことで恵里は溺れずに済んだ。だがその鈴や光輝達が限界を迎えた旨の発言を聞き、また鈴が展開していた幅広のディスプレイが消えたのを見て恵里はわずかに顔をしかめる。

 

「死んで、たまるかよっ! “壊劫”っ!――礼一ぃ!!」

 

「わかってらぁ! “界穿”!!」

 

 今ここにいる仲間で動いているのは、重力魔法とゲートを開く役割を交互に入れ替えている大介と礼一のみ。だが使う魔法は“黒天窮”ではないし、自分や鈴と比べて操作がいささか荒い。迫ってくる攻撃を防ぐことは出来てもダメージを与えるのは難しいだろうと恵里は考えてしまう。

 

(あとちょっと、ちょっとでいいから保ってくれたら……っ!!)

 

 もう少しで勝てると思えば視界が涙でにじんでしまう。けれど泣いてるだけじゃ何もならないと恵里は悔しさと怒りに震えながらもあがく。もう一度だけ“覇潰”を、それでも無理なら“限界突破”を発動しようとする。だがすさまじい疲労感と体の中が空っぽかと錯覚する感覚に襲われるだけで何も起きやしなかった。

 

「クソッ……悪い、皆」

 

「俺も、もう限界だわ……すまん」

 

 そして遂に大介と礼一が膝をついた。むせこみ、どこかくぐもった音が聞こえたことから吐血したのだろうということを恵里は察し、もう一つしか打つ手は無くなったと絶望する。

 

「ハジメ、くん……にげ、て」

 

「うん、伝えるよ。ハジメくんっ……えっ」

 

 この潜水艇を犠牲にしてでも逃げる。これ以外に助かる道は無い。目だけを動かして鈴に訴えれば、鈴が虚空を見上げながら声を出してくれた。だが、不意に鈴が目を丸くして動かなくなってしまう。

 

“皆、どうにかなったみたい……あの船、どこかに行っちゃった”

 

 どうしたのかといぶかしんだ恵里であったが、ハジメが送ってきた“念話”を聞いてその理由を理解した――無数の魔方陣を輝かせていた武装船がいきなり攻撃を止め、再度結界を出現させたのである。そして一瞬強く輝いてから後ろにゲートを展開させ、そのまま姿をくらませてしまったのである。

 

“何があったのかと周りを見てみたらさ、あのコインに刻まれてた紋章が近くの壁にもあったんだよ。それも夕焼け色の魔力光で輝いててね。”

 

“な、なぁハジメ、それってもしかして……”

 

“うん、光輝君が考えた通りだと思うよ……ある程度ダメージを与えるか制限時間耐えきればOKな場所だったみたい。ごめん。もっと早く気づけば良かったよ”

 

 そして彼の推測を聞いて恵里は思いっきり深くため息を吐く。一定時間耐えるだけで済むのならここまで神経をすり減らしたり積極的に攻撃を仕掛けなくっても良かったのだから。無駄なことしたなぁとものすごい倦怠感に襲われ、恵里は思わずまぶたを閉じる。

 

“ホンットだよ……ったく、恨むぞハジメぇ”

 

“ごめんね……後で何でもするから”

 

“マジでやれよお前……ま、今はそれより”

 

「やすみたい……もう、つかれた」

 

 良樹達と一緒にハジメに恨み言の一つや二つ言いたくなったが、今は眠りたい。それぐらいの勝手は許してくれるだろうと思いつつ、恵里は睡魔に身を任せるのであった……。

 

 

 

 

 

「……ってことがあったワケ」

 

「お疲れ様、恵里ちゃん……」

 

 大迷宮攻略を無事に終えて王宮に恵里達は戻ったものの、仲間達から出迎えられる前に全員その場に倒れこんでしまった。それを目撃した香織らは悲鳴をあげ、彼女達に担がれて自室で休む羽目になったのである。

 

「大丈夫だったか? お前ら満身創痍だったんだろ。魔法だけで切り抜けられたのか?」

 

 そうしてしばしベッドに横になって休んだことで体力が回復した後、説明することとなった。今ここにいるのは部屋の主である恵里、ハジメ、鈴そして香織と龍太郎の五人である。

 

「そこは役割分担して切り抜けたよ、龍太郎君。幸い回復に時間を使うことが出来たし、それに魔力回復薬も大分使ったからね」

 

 しばし潜水艇で休んだ後、鈴から魔法で魔力を譲渡してもらったことで動けるようになった恵里は皆と共に大迷宮探索を再開した。武装船と戦ったフィールドを抜けてしばらく歩くとY字路に突き当たり、それぞれの通路の先には魔方陣があった。

 

「結構ビクビクしながら休んでたけどね。正直敵が出てこない安地で本当に助かったよ……」

 

「そうだね鈴ちゃん……で、そういえば鷲三さん達が切り抜けた場所に恵里ちゃん達は行ったんだっけ」

 

「そうそう」

 

 大方香織達が語った例の空間にでも恵里達はアタリをつけ、二手に分かれたのだが案の定。ハジメと鈴と一緒に船の墓場へとたどり着いた恵里は鈴と共に魔法を駆使し、またハジメが相川昇達に貸していた魔力砲を使うことでその場を切り抜けていた。

 

「まぁ話を聞いてたからそんなにキツくもなかったよ。エヒトの悪趣味っぷりにちょっと引いたぐらいでさ」

 

「参ってなかったの恵里だけだったと思うけど……」

 

 もちろんあの悪趣味な光景を見る羽目に遭ったが、恵里は軽く顔をしかめる程度のものでしかなかった。ハジメと鈴は戻しそうになっていたため何度となく“鎮魂”を使ったが。そのことを思い出した様子の二人からじっとりとした目を向けられてしまい、ごめんごめんと恵里は平謝りする。

 

「……それで、あの船どうしよう?」

 

「とりあえず大迷宮にいる間は下手に出して使わない方がいいんじゃない?」

 

 その後は誰も欠けることなく再生魔法を手にした恵里であったが思ってもみないお土産を手にすることとなった。例の武装船である。大迷宮を突破して解放者の住処を訪れ、中央の魔方陣がある神殿のような場所に立ち入った直後に現れたのだ。

 

「コントロール奪われて勝手に外に出された後、なぶり殺しにされるかもしれないでしょ」

 

「そういうのは無い、って思いたいなぁ……」

 

 しかもゴゴゴッと音を立てて水面の一部が渦を巻いて凹んでいき、そこからせり上がってきたのだ。あたかもSF映画などで湖の下の秘密基地から航空機が出てくるシーンのように。

 

 しばらくの間皆で声にならない叫びを上げたことを思い出しつつ、恵里は香織にアドバイスを送る。

 

「とりあえず何があってもいいように潜水艇も改造した方がいいかな。あと武装も大量に積まないと」

 

「お前らの話を聞かなきゃ『どこと戦争する気だ』ってツッコんだが、戦争する気じゃないとマジでキツいだろうな……」

 

 ハジメのことだからどうせ次に香織達が攻略する際に潜水艇の操舵をまたやるんだろうなと考えつつ、恵里は新たに手にした力のことに思いをはせる。

 

(ボクや他の皆だとわからないけど、適性の高い鈴ならきっとあのアーティファクトを改良出来る。動画みたいに再生できる)

 

 もし幸利が述べたように時間に干渉する類の力であるならきっとこれぐらいやれるはず。かつてエヒトの居城で自分の記憶を抜き出され、再生させられた時のことを思い出して似たようなことが出来るはずだと恵里は息巻く。

 

(アイツに出来たんだ。ボクらだってやれる。お前だけの専売特許じゃないんだ。やってやるさ)

 

 過去の記憶、前世? の情報を少しでも拾うことが出来ればわずかでも勝てる確率が上がる。やってやると己を奮い立たせ、恵里は明日から研究に打ち込もうと考えるのであった……その果てに何があるかも知らぬまま。




おまけ 悪食ちゃんのその後

悪食ちゃん「あの鬼畜外道がぁー!! ちょっと我輩が食べようとしただけで爆破したり跡形も無く燃やそうとしよって!! もうやだ! 人間コワイ!!!」

大迷宮を抜け、海流に乗って必死に逃げるクリオネモドキ。

悪食ちゃん「ここなら多分大丈夫だろうか。もう我輩は人間なんて襲わないで魔物だけ食べて穏やかに過ごすのだ」

ミュウ「みゅ? 待ってー!」

指先サイズのクリオネモドキ、エリセン近辺に流れ着く。そこで水遊びしていたミュウに見つかる。

悪食ちゃん「え、なんか人間っぽいのに見つかった! 助けて!!」

ミュウ「あ、待ってー! ミュウなにもしないのー!」

悪食ちゃん「嘘だッッッッッッ!! 我輩は騙されないからなぁーー!!」

クリオネモドキ、全力逃走。そしてどこかへ。


次回の更新についてですが、いつぞやのライセン大迷宮のようにちょっと書き溜めるので時間が空きます。まぁそういことなのでよろしくお願いいたします。

2025/1/18 ちょっと修正しました。

2025/7/13 魂魄魔法の“心導”を「魂導」と勘違いしてたので、該当箇所を修正しました。
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