あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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いやーマジでかなり時間かかりました(白目)
では今日まで待って下さった読者の皆様への盛大な感謝を。

おかげさまでUAも234886、お気に入り件数も999件、感想数も782件(2025/3/9 10:15現在)となりました。誠にありがとうございます。いやなんかもうお気に入り4桁目前になりましたね……マジビビってますわ。

そしてAitoyukiさん、かさじぞうさん、拙作を評価及び再評価してくださり誠にありがとうございます。月並みではあるんですがまた書き進める力をいただきました。感謝いたします。

では今回の話を読むにあたっての注意点として少し長め(約12000字程度)となります。

また拙作を構想してた当初から思いついてた一番キツい話です。あと読んでると何かの曲がかかるかもしれません(ニコニコ)

では上記に注意して本編をどうぞ。


百五話 『ここ』に辿り着いた少女

「完成、したね……」

 

 自室に差し込む夕日が部屋の中央にあるプロジェクターのようなものを照らしている。それを感慨深げに恵里は見つめていた。

 

「あぁ。遂にだ」

 

「えぇ。私も頑張りました」

 

「大迷宮攻略の時からぴーぴー泣き続けてた貴様はほとんど役に立ってなかっただろうが」

 

「いやうんホントアンファンはさぁ……でも、遂に出来たんだね。皆、ありがとう」

 

 自室に集まったハジメ達の方へ視線を向ければ、ニヤついていたり軽くいばってたりキラキラとした顔を浮かべているのがわかった。全員の視線は部屋の中央のそれへと注がれており、また恵里も皆と同様に口元を緩ませながら例の物体へと目を向ける。

 

「当たり前ではあるんだけど、適性が高いのが光輝君だけじゃなくて香織もだったのは大きかったね」

 

 恵里達が再生魔法を入手して二日後、香織達も大迷宮に挑んで無事突破したのである。研究と並行してハジメが潜水艇に積む新たな武装を作成し、またハジメと恵里、光輝が対武装船要員として参加していたのが大きな要因であった。

 

「鈴だってそうでしょ。まぁ皆で一斉に何日も実験したんだし、幸利君が真髄を言い当ててくれたからね」

 

 恵里達よりも早く、また余裕を持って大迷宮を突破したことからすぐさま香織達も研究に参加。その翌日の昼頃には再生魔法の研究も終え、恵里が作りたいと頼み込んでいたアーティファクトの作成とテストにもすぐ取りかかった。

 

「そうだね。ありがとう幸利君」

 

「やめろ恵里……その、照れる」

 

 そうして今しがた『触った人間の記憶を読み取って静止画として再生する』アーティファクトをアップデートさせ、映像再生が出来るように改造し終えたのである。

 

「男のツンデレなんて得する人間あんまいないわよ、ユキ」

 

「そういうとこかわいいよ。幸っち」

 

「うるっせぇ。黙ってろ二人とも」

 

 立役者をねぎらおうと恵里は振り向いて幸利に言葉をかける。すると彼も頬を赤くしながらそっぽを向いてしまった。その直後、左隣にいた優花が軽くニヤつきながら彼の横っ腹をちょんとひじ打ちし、また右隣の奈々も腕を組みながら幸利をからかう。幸利はムスッとした顔つきで頭のてっぺんまで赤くなっていた。

 

「……これがあればきっと」

 

 恵里は再度視線をアーティファクトへと向ける。これさえあればかつてエヒトにやられた時のように自分の記憶を映像化できる。そして使える情報を拾い集めることが出来るかもしれないのである。

 

 期待と緊張で心臓が痛いくらい脈打っているのを感じながら恵里はじっとアーティファクトを見続けていた。

 

「前世の僕やアレーティアさんがどんなものを使っていたか……それがわかる時が遂に来たんだね」

 

「ちょっと昔のを見るだけでも映像が結構粗くなってたけどね。どこまでハッキリしてるかはわかんないよハジメくん」

 

「そこはまぁ恵里の記憶に期待するしかないさ……まぁ恵里がオーケー、って言ってくれることが大前提だ。二人とも無理強いはしないでくれよ」

 

 そんな折、ふとハジメと鈴、光輝がひそひそと何か話をしているのに恵里は気づいた。オーケーうんぬんの辺りからして自分の記憶を見てもいいかどうかについてのものだろうと恵里は当たりをつける。

 

「ハジメくんも鈴も光輝君もひそひそ話しないの。ボクの記憶のことに関してはどこまでOKにするかとっくに話し合ったでしょ。気を遣いすぎ」

 

「「「いやだって……ねぇ?」」」

 

 軽くため息を吐きながら恵里が三人をたしなめれば、ハジメ達は互いに顔を合わせて不安そうにこちらを見つめてくる。この期に及んで自分に気を遣いすぎだと恵里は思わず苦笑してしまう。

 

「だよなぁ。中村がいい、って言ってんだからいいだろ。これだからマジメちゃんな先生達はよぉ……やっぱよ、エヒトの弱点とかも探ろうぜ。な」

 

「お、さえてんじゃねぇかロリ介。マジあの野郎ここらで一泡吹かせてぇよな」

 

「ホントホント。エヒ……っとと、中村の記憶の中にそれっぽいところの一つや二つ出てくるだろ」

 

「馬鹿! 信治お前っ……あー、その、中村。お前が見せてくれる範囲だけでなんとか見つけるからよ、頼むわ」

 

 ハジメ達に恵里が軽く注意すると、今度は大介達が別の話題で盛り上がり始めた。これには恵里も心の中でうなずく。

 

(悔しいけど檜山達の言う通りだなぁ。考え事で頭がいっぱいだったし)

 

 エヒトと向き合った時はどう利用するか、どう切り抜けるかで頭の中はいっぱいだった。だが自分の記憶そのものなら見て後悔はしても危険になるということはない。自分が見て、体験した何かから情報を得ることも可能だと思ったからである。

 

「大介達の言い分もわかるけどよ、やっぱ恵里の前世で活躍してたハジメやアレーティアさん達を見た方がいいだろ。恵里が言い忘れてた兵器とか魔法とかあるかもしれねぇだろ」

 

「でも恵里が前世でハジメ達と戦ったり戦うのを目撃したのはほんの数回そこらだって言ってたけどな。あんまりアテにするのもどうかと思うぞ幸利」

 

 大介達の話に触発されたか、今度は幸利が前世? のハジメ達の戦闘の記憶を見た方がいいと提案してきた。それもそれで有用なのもわかるし、龍太郎が言ったようにあの化け物の戦いを間近で見たのは片手で足りる数でしかないと恵里は記憶している。

 

「龍太郎、確かにそうだけどな。でも使えるかどうかは見てみないとわかんねぇだろ」

 

「いやそうだけどな。あんまりアテにしすぎると恵里がちょっとかわいそうじゃねぇか?」

 

「龍太郎くんも幸利君も落ち着いてよ。二人の言いたいこともわかるけど、恵里ちゃん困ってるよ。ほら」

 

「あーはいはい。皆落ち着いて」

 

 だが皆が例のアーティファクトの欠点を忘れてるんじゃないかと恵里は考えてしまう。香織を除いて自分を余所に盛り上がる面々苦笑しつつ、恵里はハジメ達に声をかけた。

 

「皆が色々期待するのはわかるけど、このアーティファクトの限界もわかるでしょ。昔の記憶ほど映像や音声が不鮮明なところがさ」

 

 恵里がそう言うと、一瞬で場が静まり返ってしまう。事実、皆でテストを行った際は古い記憶ほど再生される映像も音声もぼやけたりノイズが入ったりしてたのだ。

 

「記憶が確かならエヒトがボクの記憶を勝手に抜いて再生した時よりも色々悪かったはず。アテにしてくれるのは嬉しいけど、あんま期待されても……ね?」

 

 それもかつてエヒトがやった時よりもである。エヒトが神代魔法の扱いに相当慣れているからか他にからくりがあるかは不明だが、映像の質が劣るのは本当であった。

 

「えっと……ごめん」

 

「おう……悪かった」

 

「あー、うん。そうだったね。ごめんね恵里」

 

「うん。余計いたたまれなくなるからやめて皆」

 

 なおそれを指摘した結果、誰もが気まずそうに顔をうつむかせたり赤面したり、目を背けたりしてぽつりとつぶやくばかり。逆に罪悪感が増した恵里は少し渋い表情で謝るのはやめてほしいと頼み込む。

 

「あー、こほん……皆、ちょっとちゅうもーく」

 

 この場に流れた気まずい空気を払うのも含め、恵里はせき払いをしてからハジメと鈴にチラッと視線を向ける。すぐに二人がうなずいたのを確認してから恵里もうなずき返し、皆を見渡しながら声をかけた。

 

「えーと、恵里。何か他に言いたいことがあるのか?」

 

「うん――皆、前にも言ったはずだけどさ、皆に見せるのはボクの記憶なワケだからさ、その、まずハジメくんと鈴とだけで見たいんだ。いい?」

 

 光輝が先んじて反応してきたため、恵里は声をかけた理由を語る。すると光輝以外のこの場にいた皆がきょとんとした顔つきになった後、すぐに全員顔を見合わせてからこちらを向いてきた。

 

「あぁ、もちろんだ。そのことはテストの時にしてたし皆と約束してたじゃないか」

 

「私も自分の記憶を龍太郎くんや家族以外の他の人に見せるのはちょっと勇気がいるもん。わかるよ恵里ちゃん」

 

「わ、私が何か言える立場じゃないですけど、その……それに関しては中村さんにお任せします」

 

 光輝が既にその話をして皆が承諾していたことを話す。また香織ももし自分がその立場だったらどうするかについてを語る形で理解を示した。アレーティアも大介の後ろで萎縮した様子でコクコクとうなずき、大介らも同様に何度もうなずいている。

 

「……ありがとう、みんな」

 

「ごめんね。こればかりはまず僕達で見ないといけないと思うから」

 

「ありがとう。鈴達が先に見させてもらうから」

 

 恵里はほんのりと口元を緩めながらありがとうと彼らに感謝を伝える。横にいたハジメと鈴も頭を下げ、口々に光輝達に思いを述べていた。

 

「恵里が何もかも許すのなんてハジメと鈴以外いないだろ? 俺達のことは気にしないでくれ」

 

「そうね……恵里、それにハジメ君も鈴も。親友だからって私達に気兼ねしなくていいから。ね?」

 

「ま、散々世話になった中村の頼みだしな。俺達だって文句言えねぇって」

 

 光輝達も笑みを浮かべながら自分達の頼みを聞いてくれている。皆の優しさを受け、恵里も胸が暖かくなるような心地であった。

 

「よし。なら俺達は邪魔になるな――お前達、夕飯の時間まで別室で研究を続けるぞ。いいな?」

 

 そして先程まで腕を組んで微笑みながらこちらを見つめていたメルドが光輝達に指示を出した。

 

「……ありがと、メルドさん」

 

「気にするな。お前達だって情報の収集をしなきゃならんだろ。ただの役割分担だ。じゃ頼むぞ」

 

 出していた道具を皆と一緒に宝物庫にしまいこみ、部屋を後にするメルドに恵里は声をかける。だがメルドは一度振り返ってそう述べ、すぐに恵里の自室を後にしていく。

 

「じゃ、ボクらも情報収集といこっか。まず何見たい?」

 

「そうだね。じゃあ今の僕達でもやれそうなところから再生してくれる? となると……」

 

「確か魔人族に襲われてたことがあったよね? そこからまず再生してよ恵里」

 

「オッケー。じゃあ前世でイメチェンしたハジメくんが出てくるところから~」

 

 光輝達を見送った後、すぐに恵里はハジメと鈴に何を見たいかリクエストを募る。すぐに二人も何が見たいかを口にしてくれたため、恵里もすぐにプロジェクター型のアーティファクトに触れたのであった……。

 

 

 

 

 

 ――邪魔だっ

 

「ここ。ホント前世のハジメくん強いよね。アレーティアを取り戻すために必死なのに動きに全然無駄が無いんだもん」

 

 光輝達が部屋を後にしてからしばし。恵里達は幾つもの記憶を再生してはながめていた。なおかつての光輝に執着していた頃の自分の言葉は心底忌まわしいものであり、映像の方で自分の声がわずかでも聞こえたら恵里は即座に早回しして二人の耳に届かないようにしていたりする。

 

「恵里、また自分のセリフのとこ飛ばしたよね。別に気にしてないってば」

 

「光輝君にお熱だったしね。多分どれだけ頑張ったかとかそういうのを前世の香織に言ってるんじゃない」

 

「あーあー聞こえなーいハジメくんがボクに気遣ってくれてるの以外何言ってるかさっぱりわかんなーい」

 

 なおその努力が実を結んでいないことを恵里は決して認めていない。

 

 ――い■、無茶■■んでいつす■■じゃ! さ■■と行かんかっ

 

 ――■■ォ……。

 

「あ、またノイズ走った」

 

「まぁ何年も前の記憶だしね。仕方ないよ」

 

 ちなみに今は魔王城へと向かった前世? のハジメ達が何をしていたかを映している。ちょくちょく映像がボヤけて音声も乱れてはいるし、そのことをたまに鈴もハジメも言及してはいる。だがあくまで少し残念がる程度のものだというのは声のトーンで容易にわかった。

 

「まぁボクがちゃんと覚えてればねぇ。こればっかりは本当にやらかした、って思うよ」

 

 とはいえ自分が残念に思っていることには違いないため、恵里は軽くため息を吐いてしまう。

 

 せめてエヒトが見てた時と同レベルの質ならもっと情報収集が楽だった。もっと早く逆行したことに気づいてればマシな対処が出来たかもしれない。押し寄せてくる後悔と残念、やきもきている感情をほんの少しだけ恵里は漏らす。

 

「そこまで求めないし求められないよ。恵里のことを考えるとさ」

 

「鈴だっておんなじ状況になった時に恵里と同じ行動をとらないか、って言われたら無理だもん。仕方ないよ」

 

「……ありがと、二人とも」

 

 だが両脇にいたハジメと鈴からいたわりの言葉をもらったことで、恵里は胸の中に巣食った思いが少しだけ消えたような心地がした。自分って幸せ者だなぁと思いつつ、小声で感謝を述べながら恵里は映像の再生を続ける。

 

「ひとまずこれで全部かな。魔人族の女との戦闘も王国のも見せたでしょ」

 

「うん。それにフリードさんの国の城の中だって見たし」

 

「恵里の前世の鈴との戦闘もチェックしたね。会議の時に挙がったのは全部見たはずだよ」

 

 そうして前世? におけるハジメや鈴が関わった戦闘を全て見終えた恵里達は、それらの映像の中から使える情報がないか一つ一つ精査していくことにした。書記を鈴に任せ、恵里はハジメと一緒に戦いの様子などを振り返っていく。

 

「“蒼龍”はもうボク達は使ってるからいいとして、他の魔法もああいう風に使えるっぽいね」

 

「エヒトに乗っ取られたアレーティアさんが実演してたしね。後聞いたことの無い魔法とかも」

 

“ミレディさんが神言って言ってたのもあったね。エヒトの名で命ずる、ってちょくちょく言ってたの”

 

 そうして三人でどれが今の自分達に活かせそうか、またエヒト相手にどうメタを張ればいいかなどを“念話”を交えながら話し合っていく。エヒトにバレてもいい情報だけ鈴が書き留めたのを確認すると、恵里は何度か視線をさまよわせた。

 

「もう、映像流すの切り上げよっか。じゃ止め――」

 

 そうして恵里がアーティファクトを操作して止めようとした時、手首を掴まれてしまう。一瞬驚いて腕の先を追えば、自分の腕をやんわりと掴んでいるのがハジメであることに気づいて恵里は軽く呆然としてしまう。

 

「なん、で。ハジメくん」

 

「……一番辛かった時の記憶を見せるかどうか迷ったから。違う?」

 

 少し悲しげな表情を浮かべていたハジメへと恵里は問いかけるが、その直後に鈴が自分の迷いを言い当ててきたことで目を泳がせてしまう。

 

「虐待されてた時の辛さを知ってほしかった。でもそれで僕らも傷つくだけだからやめようとした。そうでしょ、恵里?」

 

 おまけにハジメは自分が迷った理由すら言い当ててきた。目ざとい二人のことを軽く恨み、恵里はくちびるをきゅっと結んで二人から顔を背ける。

 

「そう、だよ……これがボクのわがままだってことぐらいわかる。でも、ハジメくんと鈴も知ってほしかったんだ」

 

 声を震わせながら恵里は語る。これがエゴまみれのろくでもないことは恵里だってわかっている。けれども今を逃すともう二人が知ることが無い気がして。『話として知っている』だけになってしまう気がしてしまい、それだけじゃ嫌だと恵里は本音を口にしていく。

 

「二人だからボクが辛かった時のことも知ってほしかった。母親だったはずのあの女に何をされたか理解してほしかった……でも、怖くて」

 

 全てを理解してほしい。苦しみも何もかも分かち合ってほしい。それがわがままだということはわかっている。だから二人に拒絶されるのが怖い。そう口にした後、恵里は自分がアーティファクトに当てた手がハジメと鈴の手で包まれたことに気づく。

 

「うん。そんなわがままだったら僕も背負うよ」

 

「鈴達が恵里の中でものすごく大切な存在だって思ったからそうしたかったんでしょ?……嫌じゃ無いなら一緒に見てあげる」

 

「……うっ、うぅ、うぅぅ~」

 

 微笑むハジメ、軽い苦笑いを浮かべる鈴を見て恵里ははらはらと涙を流し、嗚咽を漏らす。二人に出会えて良かった。こんなに自分のことを大事に思ってもらえる人がそばにいてくれて良かった。そう思いながら恵里は二人の顔を交互に見る。

 

「でも無理はしないでね。無理に傷を開こうとして恵里が苦しむ姿は見たくないから」

 

「ハジメくんの言うとおりだよ。一番辛いのは恵里なんだから」

 

「……ううん。やらせて。お願い」

 

 涙声になりながらも気遣う二人に恵里はお願いする。そして二人がうなずいたのを見てから恵里はアーティファクトを操作し、過去の記憶をさらす。そして――。

 

「うっ、うぁ、ぁぁ……」

 

「もう大丈夫、大丈夫だから。もういいんだよ恵里っ」

 

「うん。これ以上はもう傷つくだけだよ! 止めるから!」

 

 恵里はハジメと鈴と一緒に見た。

 

 前世? で正則が死んだ時や幸からの虐待を受けている時の一部、母が新たな男を連れ込んだ時のものを。その男に襲われないために髪を切って一人称を変え、けれども男が下卑た視線を向けて襲いかかってきた時の記憶も。

 

「こわかったよぉ、つらかったよぉ。もう、もういやだったよぉ……!」

 

 警察に通報した後で幸がそれまで以上の憎悪を向けてきた時も、自殺しようとして光輝に止められた時のやりとりも、彼と引き離されないよう『母親が大好きな女の子』を演じた記憶も、光輝に『その話限りのゲスト』として助けられたと知った時の絶望も。多くを、心から信頼する二人に見せたのである。

 

「うん……うんっ! もう、いいんだ。僕も鈴も恵里を放さない。絶対に、絶対放さないから!」

 

「そうだよ! 頼まれたって一人になんてしてあげないから!」

 

 空間に投影されてた映像はいつの間にかかき消え、恵里はハジメと鈴に力強くはさまれてむせび泣いていた。

 

「ふたりとも、ありがとう……ごめんね、ごめんね……っ」

 

 結局自分のわがままのせいで二人もいたずらに傷ついただけでしかない。そのことは恵里はわかっていたが、それでもハジメも鈴も自分を見捨てることはしなかった。

 

 自分のために涙を流してくれたことが嬉しくて、苦しくて、ハジメと鈴への感謝とずっと一緒にいたいという思いが胸の中でより膨れ上がっていくのを恵里は痛感していた。

 

「……恵里、ちょっといい?」

 

「ぐすっ……なに、ハジメくん?」

 

「もう辛い記憶に触れるのはやめにしてさ、楽しかった時のことを振り返ろうよ」

 

 三人でしばし泣きじゃくり、ハジメが声をかけてきた時にはもう部屋が薄暗くなってしまっていることに恵里は気づく。そのことに軽く驚くと同時に、ハジメの唐突な提案を聞いて恵里は口を開いたまま彼をじっと見つめてしまう。

 

「……ハジメくんも悪い子だよね。鈴も賛成だけどさ、フリードさんが見たらちょっと顔しかめると思うよ?」

 

「あはは。お小言も言ってくるのが見えちゃうなぁ……でも、恵里のケアってことで僕は通すよ」

 

 すぐに鈴もそれに同調し、二人してフリードがどう動くか話し合うのを聞いて思わず恵里も吹き出してしまった。そして自分のケアだなんだと言った辺りでハジメがほほに手を添えてきたため、恵里は思わずドキリとして彼を見つめてしまう。

 

「辛い記憶をいっぱい見たしね。三人の思い出を見てさ、もう昔と今は違うんだって整理しよう」

 

「そうだね。正則さんは生きてるし、幸さんも優しいお母さんのままだもん。鈴だってあの、ちょっとこう……背中がむずがゆくなるようなのじゃないし。光輝君だって頼れる皆のリーダーでしょ。ね?」

 

 微笑みながら優しく言葉をかけてくるハジメと鈴を見て、恵里の視界はまたにじんでしまった。二人の優しさがどこまでも心にしみる。どこまでも自分を思ってくれていることを恵里は噛みしめ、目元をこすってから笑みを向けた。

 

「……うん。ボクも、三人で地球にいた時のを見たい。いい?」

 

 たどたどしくも問いかければ二人はゆっくりとうなずいて返してくれた。二人に出会えて本当に良かった、と思いつつ恵里は再度アーティファクトを操作していく。

 

「懐かしいね。この頃は鈴もツンケンしてたっけ」

 

「恵里、早くそこ飛ばして。光輝君にお熱だった時のこと見逃してあげたでしょ」

 

「はぁ~? そんなの知らないけどぉ~? ボクの目の前であーだこーだ言ってたくせにさぁ~」

 

「恵里、鈴、どうどう」

 

 そうして三人は出会った頃の記憶を再生し、思い思いに話をして楽しんでいた。

 

 ハジメのことで昔から鈴とけん制しまくってたのを見て彼が苦笑してしまう。前世? で殺風景だった恵里の部屋が色々と雑然としていく様を見てハジメと鈴がニコニコし、そのことに恵里が思いっきり顔を赤くして涙目になったりしていた。

 

「あ、またなんかぼやけたね」

 

「あ、今度は左上の辺りが二重になってる」

 

 だが恵里達は純粋に過去の振り返りを楽しめていた訳ではなかった。時折映像の一部が妙にぼやけたり、二重に映ったりなど妙な現象が出ていたからである。

 

「他の皆の時はこんなことなかったのにねー。ったく、変なところでポンコツだなぁコイツ」

 

 テストで他の皆の記憶を再生した時や前世? でハジメ達が戦闘していた時にはなかった異常がちょこちょこ出るようになり、そのことが引っかかってしまって三人でボヤいたりしていた。

 

「んー……ハジメくん、さっきもここがダブってなかったっけ?」

 

「そうだね。もう一度やってみて……やっぱり。そうだね」

 

 そしてアーティファクトで映像を巻き戻しては再生したのを繰り返せば、単なる映像の乱れではないこともわかった。同じ箇所で同じ症状が現れるのだ。単なる記憶のぼやけではないということも理解し、歯に何か詰まったような心地がして恵里は思わず顔をしかめてしまう。

 

「変なことになってるのは大体建物とかだね」

 

「人でも起きたりするけど、そこまで多くはないけどね……どうなってるんだろうね」

 

 ハジメと鈴の指摘の通り異常の多くは背景となってる建物に対してだ。人間相手でも服装がボヤけたり姿が二重に映ってることもあったが、そちらは二割程度でしかない。法則性も何もわからず、恵里は苦虫をかみつぶしたような顔でただじっと映像を見つめる。そんな時であった。

 

「あ、懐かしい。駄菓子屋さんだ。でも……」

 

「あれ? どうして駐車場()映ってるんだろ」

 

 あるシーンを見て、不意にハジメと鈴がつぶやいたのである。二人だけでなく光輝に雫、龍太郎と浩介と一緒に帰宅している時の映像でだ。

 

 普段使う通学路が工事で通れなくなり、違う路地を通って帰る羽目に遭ったと恵里は記憶している。その頃の自分達が映っていたのだが例の異変が起きていたのだ。

 

「あ、あったよね。ここ。最初に通った時は皆で驚いて、その後光輝君達も誘ってお菓子買ってたよね。でも」

 

「うん。ハジメくんと鈴と一緒に食べるとパチパチするお菓子買ってたはず、だけど……」

 

 ハジメの声に反応して恵里が映像を止める。記憶が確かならそこには駄菓子屋があったはずである。たまにここを通って利用していたはずであった……なのにどうしてかそこに『コインパーキング』の幻がダブって見えていたのである。

 

「なんで? 確かに通い始めてから二、三年そこらで潰れたはずだけど……あ、そういえば」

 

 程なくしてここが貸し駐車場になったことは恵里も覚えている。けれども何故この時点でこんな異変が起きているのかまったくわからない。ただ、それを見てふと思い出したことがあった。

 

「恵里、心当たりがあったの?」

 

「あーうん。多分関係ないと思うけど、前世も似たような理由でここを通った気がして……その時も駐車場か何かだった気がしてさ」

 

 ハジメに声をかけられ、恵里は頭をかきながらその内容を語る。とはいっても前世? で自分も似たような経験があったといった程度の話だ。こんなどうでもいいことをよく思い出したなと自分に軽くあきれつつも、この異常は一体何なのやらと改めて考える。

 

(他の皆も映像がブレたりぼやけることはあったけど、ここまでひどくなかったしなぁ……なんていうか他の映像と()()()()みたい――あっ)

 

 ――それに未来から過去に来た人の魂はそうなるのが普通なのかって思ってしまって……。

 

 そうして他の皆の記憶を見た時の不調などを思いだし、自分の場合と比較していく。そんな時、ふと恵里の脳裏にアレーティアの言葉がよぎった。自分の魂を見た際に二つの魂が重なるように輝いていたというものだった。

 

「そっか。前世の方でもそんなことが。そうなると」

 

「変な話だよね。まさか前世の記憶と今の記憶が混じっちゃったらこうなるのかな」

 

「たかだか過去に戻っただけなのに。どうしてこんな、ことに……」

 

 顔を向ければハジメも鈴も怪訝な顔をしながら見つめ返している。いくら自分が普通では無いとはいえこんな現象がどうして起きるのやらと恵里はまたしてもため息を吐いてしまう。他の記憶にも何か異変があったりしないかと思いつつ、恵里はまた別の記憶を再生していく……その瞬間、彼女の目は釘づけになった。

 

 ――良かったわね恵里。お父さん、恵里とお出かけ出来るって。

 ――残念ね、恵里。お父さん、お仕事忙しいみたい。

 

「なん、で……」

 

「え……えっ? どうして、なんで声が」

 

「は……? え、なんで……えっ」

 

 再生したのは()()の頃の記憶だ。適当にピックアップしたものであるが、母の幸から出た言葉が『二重』になってこの場にいた全員の耳に届いていた。ハジメも鈴も驚いていることにも気づかず、恵里は意味のわからない事態に息を荒げてしまう。

 

「まさ、か……違う。違う。そんなはず、そんな訳なんてないっ!」

 

 ……そして恵里は程なくして()()にたどり着いてしまう。ただ未来からやって来た訳では無いということに。故に恵里はそれを否定するべく他の記憶の再生にかかった。

 

 ――雨で残念だったね。お父さん、恵里ががんばって一等賞とるの見たかったな。

 ――恵里、お疲れ様。三着で悔しいのはわかるけど、恵里ががんばってたのはお父さんもわかるから。

 

「えっ……どう、して」

 

「違う。違う違う違う!!」

 

 次に映したのは()()の頃のある記憶であった。正則の口から『正反対の内容』の言葉が飛び出し、リビングから夕日が差し込んで土砂降りの雨が窓から見える。恵里の顔色は一気に土気色となり、声を荒げてまた別の記憶を投射していく。

 

 ――はい。今日は恵里の好きなオムライスよ。

 ――はい。今日は恵里の好きなハンバーグよ。

 

 ――恵里、はしゃぎすぎて傘を壊しちゃ駄目だよ。気に入ったのはわかるけどね。

 ――恵里、気に入ったからって部屋の中で傘を振り回しちゃだめだからね。お父さんと約束だよ。

 

「そんな訳ない! そんなはずない! だって、だってだってだって!!」

 

 違う言葉が重なる。違う服が重なる。違う物が重なる。再生する度に()()()()()()()()ことが起きる。その度に恵里の心がぐちゃぐちゃになっていく。自分が()()()()()()()()()を突きつけられて心がズタズタになっていく。

 

「恵里、落ち着いて! もう見るのやめよう!!」

 

「“鎮魂” “鎮魂” “鎮魂”っ!!――恵里、恵里ってば!」

 

「やだ。やだやだやだやだっ!! ボクは、ボクはやってない!」

 

 ハジメと鈴が大声を上げ、抱きつくなり魂魄魔法を使うなりして恵里を止めようとする。ハジメに抱きつかれ、アーティファクトから引き剥がされてもなお恵里は必死に手を伸ばす。

 

「わかってる! 恵里が悪い訳じゃ無い! そんなことないんだ!」

 

「こんなこと想像なんてつかないよ! 恵里が()()だったなんて――」

 

「ちがう! ちがうもん! ボクは中村恵里で、ほんもので、かこにもどって!」

 

 二人の言葉も今の恵里には届かない。正面と背後から抱きつくハジメと鈴から逃れ、たどり着いてしまった真実を否定しようとただ必死に手足をバタつかせる。

 

「ボクは……ボクはおとうさんとおかあさんのかぞくだもん。かぞくを()()()()なんかないもん。すずだってほんものだもん」

 

 しばし抵抗を続けていた恵里であったが、魔力不足でアーティファクトが止まった辺りで伸ばしていた手がだらりと垂れる。力尽きてしまった恵里はハジメの胸の中ではらはらと涙を流し、嗚咽を漏らしながらもただ真実を否定し続けていた。

 

「僕にとっても鈴にとっても恵里は本物だよ……だから、だから」

 

「そうだよ。恵里は偽物なんかじゃない。だから……」

 

「どうして……なんで、こうなっちゃったの」

 

 ハジメと鈴の湿った声が部屋の中で響く。けれども恵里の耳に二人の言葉は入らない。頭の中でぐるぐると再生され続ける二重の声にただ心を削り続けるだけであった……。

 

 

 

 

 

「ぅ……ぅぇ」

 

 アーティファクトが映像を再生しなくなってしばらくの時間が経った。恵里は正面にいるハジメの背に弱々しく手を回し、彼の胸に顔をうずめながらすすり泣いている。ハジメも鈴も何も言わず、ただ彼女を抱きしめ続けていた。

 

「恵里、今日はもう休もう」

 

「うん。ご飯は鈴が持ってくるから。ハジメくんと一緒にいていいから。だから」

 

「どう、して」

 

 そんな時、ふとハジメと鈴が自分を気遣ってくれたが恵里はそれに答えない。顔を上げてうつろな目でハジメに問いかけるだけであった。

 

「ボク、にせものなんだよ? ほんものじゃないんだよ?」

 

「違う。僕らにとって恵里は本物だ」

 

「うん。何度も言ってるでしょ。鈴達にとって恵里は本物なんだって」

 

 二人から優しく否定されても恵里は首を横に振り続ける。二人の優しさに甘えられない。甘えてはいけない。罪悪感で胸が張り裂けそうになりながらも彼女は声を震わせ、二人にまた問いかける。

 

「ねぇ、ハジメくん。すず……ボクは、わたしは、だれ?」

 

 自分が何者か、誰かであっていいのかを。『平行世界の中村恵里』は、ある夫婦の娘に成り代わっていた少女はにごった瞳で少年達を見つめていた。




没タイトル「今暴かれるカルマ」

……どうでしたでしょうか? ちなみに作者は某深淵の物語のテーマ曲と某医療×ゲームがテーマの仮面ライダーのOP(というか「宝条永夢ゥ!」)が脳内でちょくちょくかかってました。じゃあここでちょっとネタバラシも。

・当初からあった『憑依』、後から追加した『平行世界』のタグ
・地の文で『前世』という単語に必ずくっついていた『?』
・一話で恵里が感じた違和感
・三話で中村夫妻が悪魔祓いを呼ぶかどうか悩んだこと
・幕間十四での幸が恵里を「化け物」扱いしたこと
・幕間三十八でアレーティアが見た恵里の魂の状況、それに言及した百三話
・幕間五十九でのエヒトの「あんなの自分じゃねーわ」&「お前の世界も手に入れる」という発言

本編外でも
・『主要キャラ簡易まとめ』において、恵里だけ平行世界の自分と会った場合のケースが書かれてない
・『四月馬鹿なお話その1』で平行世界のハジメと香織が別々の時間軸で現れたこと
・同話の最後で恵里が「二人は世界の迷子になった」と発言したこと

とまぁ色々伏線は設置してたり。続きは三日後辺りを予定しております。では。
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